機動戦士ガンダムSEED moon light trace 作:kia
戦火に包まれる大地。
そこを駆けるエスクレド隊の面々の前で一つの道が崩れ落ちようとしていた。
「これで!」
「落ちなさい!」
リアンとジェシカのジンハイマニューバが突撃銃で敵砲台を破壊すると、残ったニーナが重斬刀で敵を横薙ぎに斬り裂いた。
「リアン、ジェシカ、左に残存敵部隊がいる」
「了解!」
「すぐに蹴りをつけてやるわ」
現在、ザフトは地球軍に残された最後のマスドライバーが存在するパナマ基地に対して攻撃を仕掛けていた。
本来ならば『オペレーション・スピットブレイク』によってこの戦争はとっくに決着がついている筈だった。
しかし、待ち受けていたのは誰も予想しなかった失敗という結末。
地球軍が地下に仕掛けていたマイクロ波発生装置『サイクロプス』によってザフトの戦力四割を失ってしまうという大失態となってしまった。
これに慌てた現プラント最高評議会議長パトリック・ザラは何としてもパナマを落とせと命令を下したのである。
戦力の立て直しも満足にしていないままパナマを落とせとは無茶な命令であると思われた。
だがアラスカの一件を見た兵士達の士気は高く、投入された地球軍の量産型モビルスーツ『ストライクダガー』部隊とも拮抗している。
「はああ!!」
ストライクダガーのコックピットに重斬刀を叩き込み、パイロットごと押し潰したジェシカはあまりのあっけなさに相手を鼻で笑った。
「弱すぎでしょ。所詮はナチュラルね」
元々プラント生まれであるジェシカにとっては、ナチュラルは気にも止まらない、どうでも良い存在である。
だからこの戦争が始まった時も、自分達の勝利を疑ってすらいなかった。
それは今でも変わらない。
自分の技量と力に絶対の自信を持つ彼女にとって、たとえ地球軍がモビルスーツを投入してこようとも薙ぎ払えると思っている。
「さっさと失せなさい、ナチュラル共!!」
「絶好調ね、ジェシカ」
「アンタもでしょ、リアン」
小気味良く敵を蜂の巣にしていくリアンもジェシカと同様だった。
彼女もまた自分達の敗北など考えてさえいない。
ジェシカ程ではないにしろ、リアンにもコーディネイターとしての矜持があった。
赤服を任された自分達がこんな所でやられる訳にはいかないのだ。
熱くなる二人であったが、それに水を差すようにニーナが声を掛けてくる。
「……二人共、そろそろ時間よ」
その指摘通り、宇宙から何かが降下されてくるのが見えた。
投下されたのはこの戦いにおける重要な兵器、対電子機器用特殊兵器『グングニール』である。
空から着地した『グングニール』にジンが取りつき、順序良く起動させる。
そこから発せられた強力なEMPによってマスドライバーが脆くも崩れ去っていった。
「これでパナマを終わりね」
ジェシカの言う通り、パナマ基地は陥落した。
この攻撃によりマスドライバーを破壊された地球軍は次なる行動に移っていった。
第三者であるオーブの所有するマスドライバー『カグヤ』を巡る戦いへ突入していく事になるのである。
◇
地球軍最高司令部『JOCH-A』とパナマ基地の陥落は世界に大きな衝撃を与えた。
しかしこの時期、もう一つ起こった事象が各地に波紋を投げかける事となる。
それがオーブ、スカンジナビア、赤道連合の三か国による軍事同盟『中立同盟』の締結である。
この軍事同盟は地球連合のみならず、ザフトにも影響を与えていく事になる。
もちろんそれを予期していた同盟三か国は事前の準備を行っていた。
『ヴァルハラ』から地球に降下したセリス達の件もその一環である。
彼らを含めた戦力がこの先起こるであろう事態に対処すべく、着々とオーブへと集められていたのだ。
その煽りを受け、予期せぬ初陣を飾る事になったセリスは休む事もせず、日々訓練に明け暮れていた。
シミュレーターに座り、モニターに表示された敵機から目を離さないようにして操縦桿を素早く操っていく。
「この!」
ビームライフルで敵機の胴体を撃ち抜き、ビームサーベルを袈裟懸けにジンを斬り裂き撃破する。
「まだまだ!!」
表示され続ける敵を気力の続く限り、迎撃していくセリス。
彼女の脳裏に浮かんでいたのは大気圏で交戦したジンハイマニューバとシグーディバイドの姿であった。
仮にあのまま戦闘が継続していたなら自分は間違いなく死んでいた。
今思い返そうとも、あの場で敵を撃退できたとは思えない。
あの時、もし傍に味方がいたら自分はそれを守りきる事ができなかっただろう。
それが怖かった。
すべての敵を撃破したところで、シミュレーターが終了し、スコアが表示される。
実戦を経験したからか、ヴァルハラで訓練を行っていた頃に比べると良く動けた。
それを反映するように格段に進歩した数字だったのだが、それも素直に喜べない。
「ハァ、こんなんじゃ、駄目だよね」
今後、あのような強敵と相対する事もあるだろう。
でも今のままでは自分を守る事すらままならない。
「……もっと強くならないと」
セリスは意を決して再びシミュレーターを起動させると、訓練をこなしていった。
数回の訓練をこなし、時間を見るとシミュレーター使用の交代時間が近づいている事に気がついた。
「ハァ、少し根を詰め過ぎたかな」
できればもう少し続けたかったが、自分だけが占領している訳にもいかない。
シミュレーターから降り、次の人へ交代すると凝った筋肉をほぐす為に腕をぐるりと回す。
「んっ~!!」
背筋を解す為、腕を上に向けて伸ばしていると、胸が強調されるように突き出された。
それを見たセリスはやや不満げに視線を落とす。
「もう少し大きくても良いんだけどな」
同年代と比べても平均的であるとは思う。
だが人間という奴は欲深いもの。
アイラやレティシアといった恵まれた者が傍にいるとやっぱり自分もと思ってしまう訳だ。
「……もっとミルクでも飲んだらいいのかな?」
そんな事を考えていると胸元に入れていた端末から機械音が聞こえてきた。
取り出して見ると予定を知らせるアラームが鳴っているらしい。
「もうすぐアイラ様に呼ばれていた時間か……」
彼女はオーブ本島の官邸に居る。
今までずっと訓練漬けで、オノゴロ島から出ていなかった事に気がついて苦笑した。
「訓練ばっかりだったし、気分転換にもなるよね」
気晴らしにも丁度良いと着替えに戻る為に歩き出した。
その途中でドックに停泊している一隻の戦艦の姿が目に入る。
「あれがアークエンジェル」
セリスの視線の先にあったのは地球軍に所属していたアークエンジェルであった。
彼らは崩壊したアラスカから調査の為に戦線に介入したレティシア達の援護を受けてオーブへと亡命してきていた。
話を聞く限り今後は彼らも同盟所属になると聞いている。
大分修復が進んでいるようだが、散乱した交換部品などを見ると相当な激戦を潜り抜けてきた事が分かる。
「搭載機のパイロットも凄腕らしいし、どんな人なのかな?」
歴戦の勇士達が乗る艦に頼もしさと興味を覚えながらその場を後にした。
◇
部屋に戻り準備を整えたセリスはオノゴロ島からオーブ本島にある首都オロファトに降り立っていた。
目的地はアイラが待っている官邸である。
いつもの癖で周囲を警戒するように街を歩いていると、人の多さが目についた。
流石首都というだけあり、活気に満ちている。
中立同盟締結の発表がなされた時には、それなりの混乱があったらしい。
しかし今はそれも落ち着き、いつも通りの光景に戻っているようだ。
その喧噪の中、セリスはショーケースに映った自分の姿を確認する。
「うん、怪しくはないよね」
できる限り顔を覚えられたくない為、サングラスを掛け、目立たないような服を選び着込んでいる。
これは護衛役をこなしていた頃の癖のようなものだ。
アイラは公の場に出る事も多く、国民からの人気も高い。
必然的に護衛役として傍に控えていたセリスもメディア等に映る機会も多かった。
あまり目立つと任務や護衛役としての仕事にも差し支えてしまう。
そこで目立たないようにするのが習慣になってしまった。
女の子なのだから、オシャレにも気を使いたいところなのだが―――
「ま、しょうがないよね。それにしても今まで歩いた事無かったけど、賑やかだなぁ」
見渡すと様々な店が並び、道には人が多い。
服の店など見て回りたい気になる店もあるのだが、生憎時間がなかった。
「ハァ、久ぶりに買い物とかしたいけど仕方ない」
名残惜しいが何時までも道草を食っている訳にはいかない。
諦めて歩き出すが、そこで誰かとぶつかってしまう。
「きゃあ!」
「うわ!」
周囲を見ながら歩いていたのが悪かったらしい。
セリスは仰向けに倒れ、相手が覆いかぶさるように圧し掛かっている。
「痛っ、すいませ―――あれ?」
「ご、ごめんなさ―――えっ?」
覆いかぶさっている相手は年下と思われる少年で、黒髪の赤い瞳が特徴的だった。
だがそんな事は今どうでもいい。
考えなくてはならないのは別の事だ。
考えるべきは彼の右手がセリスの胸を掴んでいる事であった。
あまりに予想外の状況にお互いに固まってしまう。
この状況で叫び声を上げなかった自分を褒めてやりたい気分である。
さて、どうしようかとそんな現実逃避的な膠着状態に陥っていたセリス達を正気に戻したのは少年の連れと思われる少女の声だった。
「お兄ちゃん、何やってるの?」
その咎めるような声で正気に戻ると顔を真っ赤したセリスが声を上げる前に少年は飛び退くように立ち上がった。
「あ、いや、違うんだ、マユ! これは事故で―――あ、すいません!!」
倒れたセリスを起き上がらせると、必死に謝ってきた。
「本当にすいませんでした!」
必死に謝ってくる少年の姿を見て完全に毒気を抜かれてしまった。
それによそ見をしていたセリスも悪いのだ。
「えっと、うん、今のは私も悪いしね。だから気にしないで」
「はい」
「ただし、今の出来事はすぐに忘れる事! いいね?」
「うっ、わ、分かってます!」
羞恥で顔を赤くしながら人差し指を突き付けると、少年はコクコクと頷く。
「じゃあ、私はもう行くから」
「はい」
その場から離れ、しばらく歩いて後ろを見る。
すると黒髪の少年が妹と思われる少女から何か言われている様子が見えた。
どうやら先程の件で怒られているらしい。
「仲良いんだ」
仲の良さそうなその姿にクスリと笑みを浮かべる。
こちらを見て頭を下げている少女に手を振って、アイラが待っている場所へ急いで向った。
彼らと此処で出会ったのは偶然。
邂逅し、深く関わる事になるのはまだ先の話。
お互いにそんな事を知る筈もなく、一瞬の出会いは終わりを告げた。
◇
指定された場所である官邸に足を踏み入れ、目的の部屋まで辿り着くと扉をノックする。
「失礼します、セリスです」
「どうぞ」
返事がある事を確認して中に入ると資料を眺めながらソファーに座っているアイラと端末に向かっている男性の姿が見えた。
オーブの獅子と呼ばれた前オーブ代表首長ウズミ・ナラ・アスハであった。
普段は和やかな雰囲気で話もする二人なのだが、今の表情はどこか硬い。
「久ぶりだな、セリス」
「ウズミ様も、お変わりないようで安心しました」
「貴方も座りなさい」
アイラに促される形でソファーに腰かけるとさっそく本題を切り出した。
「それで一体何のお話でしょうか?」
ウズミとアイラはお互いに顔を見合わせると互いに頷き、口を開く。
「……後で通達はあると思うけれど地球軍パナマ基地が陥落したそうよ」
「ッ!? パナマが落ちた!?」
「うむ、マスドライバーはザフトによって破壊されたそうだ」
二人が表情を硬くしている理由が分かった。
これで地球軍は最後のマスドライバーを失い、宇宙への道を閉ざされた事になる。
今後、彼らが取るべき選択肢は一つ。
早急にマスドライバーを確保する事だ。
そうしなければ宇宙にいる地球軍は早々に干上がってしまうからだ。
「では地球軍はオーブを―――」
「そうなる可能性もあるという事よ。こちらも外交は継続しているし、地球軍はビクトリア基地の奪還作戦も進めてはいるようだけど」
「今もその件に関して話し合っていた所だ。万一に備えての準備も出来得る限りは完了している」
「セリスも事前に言い含めていた通り、準備は怠らないようにね。あなたの機体の改修作業ももうじき終わる筈だから」
「はい」
大気圏での戦いで損傷を受けたセリスのスルーズが現在改修を受けていた。
といっても関節部やスラスター強化する程度でそう大幅な変更点は無い。
しかしその分性能は上がるだろう。
もうすぐここが戦場になる。
避けられない戦いの気配を感じ取ったセリスの脳裏に先程まで見ていた街並みやあの仲の良かった兄妹や人々の姿が思い浮かんだ。
「……死なせない」
セリスは自分の出来る限り全力を尽くす事を胸に刻み、膝の上に置いた手を強く握り締めた。
そして懸念通り、これから数日後に中立同盟に対し地球軍は最後通告を通達。
後に『オーブ戦役』と呼ばれる戦いが開始される事になる。
◇
オーブで開始されんとする戦い。
情報は情勢を注視していたザフトも掴んでいた。
そしてとある目的の元で彼らもまた動き出そうとしていた。
パナマでの戦闘を終え、潜水母艦で待機していたエスクレド隊はシオン達によってブリーフィングルームに集合させられた。
「一体、何かな?」
「さあ、変なことじゃなければいいけど。というか何時まであの連中の支援に当たればいいのかしら」
「『足つき』と『白い戦神』、『消滅の魔神』を討ち取るまでじゃない?」
結局、特務隊はアラスカで標的を仕留める事ができなかった。
見た事も無いモビルスーツの介入によって邪魔をされてしまったからだ。
その所為か、最近シオンを含めたメンバー全員の機嫌がすこぶる悪い。
「全く、早く任務完了したいものね」
「ホント」
もうリアン達も特務隊メンバーの事を大方理解している。
基本的に彼らは他人を見下し、支援としてついている自分達すら当てにしていない。
こんなもので良く特務隊に選ばれたものだと感心してしまう程だ。
これは選んだ評議会の目が節穴なのか、彼らの演技が上手いのか―――
どちらにせよアシエルが深くかかわらない方が良いと言った勘は当たっていた。
下手に深く関われば、邪魔と判断された瞬間に彼らの都合で簡単に切り捨てられてしまうだろう。
「でも、結構な人数が集めれているわね」
「他の隊まで集められてるって事は―――」
「例の地球軍がオーブに侵攻する件かもしれないわ」
ニーナの言う通りかもしれない。
エスクレド隊だけでなく、別の隊のメンバーも集められたという事はオーブに関する事で何かの作戦行動を取るつもりなのだろうか。
丁度そこに部屋に入ってきたシオン達が全員が集まった事を確認すると説明を始めた。
「さて、もう全員知っているとは思うが、地球軍がオーブに対して艦隊を差し向けた。目的はマスドライバー、確実に戦闘になるだろう。そこで我々もその戦闘に介入する」
「私達もですか?」
「そうだ。目的は地球軍と同じくマスドライバーだ。地球軍と同盟軍が戦闘を行っている隙を突き、奇襲を仕掛け、マスドライバーを破壊する」
それを聞いた全員が息を飲んだ。
オーブ、いや、中立同盟とプラントはヘリオポリスの一件以降、やや険悪な関係になってはいる。
しかし敵対している訳ではない。
それに攻撃を仕掛けると言う事は―――
「同盟とは敵対関係にはありませんが、良いのですか?」
「構わない。これは議長からの勅命でもある。せっかくパナマを落としても、オーブからマスドライバーを奪われたのでは意味がないからな。遠慮する必要はない、邪魔なものはすべて排除せよ」
「しかし、オーブには大勢の民間人や同胞がいますが?」
そこで立ち上がりシオン達に発言したのは意外にもニーナであった。
いつもは関わり合いになりたくは無いと必要以上に発言しようともしないというのに。
一体どうしたのだろうか?
「何を言うかと思えば、くだらんな。地上にいるナチュラルなどどうでもいいだろう。コーディネイターも同様だ。この期に及んで地上に残って連中など、ナチュラルと変わらんだろう。無視して殲滅しろ」
「ッ!?」
思わず前に出ようとするニーナをアシエルが手で制止する。
「ニーナ、座れ」
相変わらず冷めた声でこちらを制止するアシエルをニーナが睨みつける。
しかしすぐに怒りを堪え「……分かりました」と腰を下ろした。
「さてアシエル隊長、貴方達エスクレド隊にはマスドライバー以外の目標を叩いて貰いたい」
「マスドライバー以外の目標?」
シオンはニヤリと笑う。
「ああ、軍司令部及び軍関連施設だ。ここを落としてもらう」
◇
作戦説明を終え、シオン達がブリーフィングルームから出ていくとリアンは苛立ちを抑えながらため息をついた。
あの程度の戦力で軍司令部を落とせなど、あまりに無謀である。
ジェシカは乗り気ではあったが、向うも落とせるなどとは思っていない。
要するに特務隊が本命を潰すまで敵を引きつける陽動をしろという事である。
「支援が任務だから仕方ないけど……」
憂鬱になりながらも、席を立ちニーナの傍に近づいた。
気になる事があったからだ。
「ニーナ、どうしたの? その、あんな事を聞くなんて」
「そうよ。癪だけど、あいつらの言う通りでしょ。ナチュラルなんてどうでもいいしね」
ジェシカの言葉にニーナは一度だけこちらを一瞥すると何も言わずに立ち去ろうとする。
正直、ニーナは今誰とも話したくなかった。
戦争である以上は犠牲が出る事は理解しているし、覚悟もある。
だが、戦えない者。
民間人にまで銃を向けるなど断じて認められなかった。
部屋から出ようとするとアシエルが近づいてくる。
「リアン、ジェシカ、ニーナ」
「隊長」
「作戦については端末の方に詳しいデータを落としておくので、確認しておけ。それから、私は別方向から襲撃する部隊に指示を出さねばならない為、少し遅れる事になる。それまではリアン、指揮を頼むぞ」
「「「了解!」」」
様々な思いが絡み合いながらも、エスクレド隊のオーブでの戦いが始まろうとしていた。
そして来るべき時は来た。
オーブ近海に現れた地球軍の艦隊。
それに向けて四機の新型モビルスーツが奇襲を仕掛ける。
『アイテル』、『イノセント』、『ジャスティス』、そして『フリーダム』。
四機のガンダムが持ち前の機動性で一気に懐に飛び込み、撃ち込んだ砲撃が浮足立つ艦隊に突き刺ささった。
巻き起こる炎と爆発によって次々と戦艦は沈み、応戦し始める艦隊の砲撃を軽々と避けて順調に攻撃を加えていく。
「凄い」
セリスはスルーズのコックピットからその戦いぶりを見ながら感嘆の声を上げる。
凄いのは機体だけではなく、それを操るパイロットもだ。
明らかに他と隔絶した技量を持っている。
しかしこのまま押し返せる程、甘くはなかった。
地球軍の新型機と思われる機体が戦艦から出撃。
四機と戦闘を開始した事で艦隊から『ストライクダガー』が甲板にせり出され、一斉に飛び上がった。
あらかじめ展開されていたアストレイ隊と接敵すると、セリス達にも出撃命令が下った。
《地球軍の進撃を確認した。全機、出撃! 地球軍を近づけるな!》
「了解!」
モビルスーツハンガーから切り離され、隔壁が開くとそのままフットペダルを踏み込む。
「セリス・ブラッスール、出ます!」
スラスターが点火し、機体と共に戦場へと飛び出した。
その速度は改修されたおかげか、以前よりもかなり速く同時に扱いやすかった。
「機体状態オールグリーン、戦況は―――」
どうやら戦況はこちらが有利。
開発されたOSの差。
モビルスーツ戦の錬度の差。
そして機体の機動性と訓練で培った連携を駆使しストライクダガーを翻弄しながら撃退していた。
『ストライクダガー』はその名の通り、ストライクガンダムのデータを基に開発された地球軍初の主力量産モビルスーツである。
ライフルとシールド、背中にビームサーベルと言った装備を持ち、シンプルな印象だった。
見た限り宇宙で対峙したあの白い一つ目に比べると、動きはあまりに遅く感じる。
これならばいくらでも捌ける。
「良し、私も!」
周囲の状況を確認し、敵機に囲まれたスルーズを発見するとそこ目掛けて飛び込んだ。
「やらせない!!」
ビームライフルでストライクダガーの腕を破壊。
逆手に抜いたビームサーベルで敵機の胴を斬り飛ばした。
さらに振り向き様にサーベルを横薙ぎに振るう。
「はああ!!」
その一振りが容赦なく敵の頭部を吹き飛ばす。
「前よりも、動ける!!」
訓練の成果というのもあるだろうが、やはり初陣を経験したのが大きかったのだろう。
あの時程の戸惑いや緊張を感じる事は無い。
機体を手足のように動かし、次々と敵機を撃破していった。
とはいえ敵の数は未だに多い。
こちらを囲もうとする敵部隊をビームライフルで狙いをつける。
「数は多いけど―――えっ?」
その時、側面から強力なビーム砲の一撃が正面にいた敵部隊を薙ぎ払った。
「あれは……」
そこに駆けつけてきたのは追加装甲アドヴァンスアーマーを纏った機体。
アドヴァンスストライクとアドヴァンスデュエルの二機であった。
「アレもアークエンジェルに搭載されていた機体?」
アドヴァンスストライクがアグニで再び敵を消し飛ばし、背中の対艦刀シュベルトゲーベルを抜き斬り込む。
その後ろからアドヴァンスデュエルが両肩のシヴァを連射しながら援護していく。
二機の息はピッタリで、見事な連携で敵部隊を屠っていった。
「凄い。私も負けてられない!」
セリスも改めて操縦桿を握り締めると、次の敵に向う。
戦況はほぼ互角の状態―――いや、同盟軍の方がやや有利な状況であった。
地球軍の新型はフリーダムを含めた四機が抑え、後から参戦してきたエース級も改修した機体が相手をしている。
侵攻してきた艦隊も投入された水中モビルスーツによって足止めされていた。
誰しもこのままでいけば、地球軍を押し返す事もできる。
そう考えていた。
しかしここからオーブ戦役はさらに混乱し、予想できなかった結末へと向かっていく。
ザフトの介入である。
ビームサーベルを振りかざし斬り込んで来たストライクダガーの一撃をクルリと半回転して回避する。
そして側面からライフルを放ったセリスは通信機から聞こえてきた報告に顔を訝しげに聞き返した。
「えっ、ザフトが?」
現在、ザフトは地球軍に接近し、攻撃を仕掛けているとの事。
今のところこちらに被害は無いらしいのだが、一体何を狙ってきたのだろうか。
《はい。戦場に介入してきました。ただし真意がはっきりするまではこちらから手を出すなという命令です》
「……了解!」
ライフルを巧みに回避すると、こちらも負けじと撃ち返し、反撃に転じる。
この状況でザフトまで介入してくるとは。
今は有利な状況であるが、三つ巴といなればどう転ぶかは分からない。
「何かを狙っているみたいだけど、今は地球軍を一機でも多く押し返すしかない!」
撃ちかけられるビームをシールドで防ぎながら敵陣の中に突っ込むとストライクダガー目掛け光刃を振るう。
しかし状況は再び切迫したものへと変化してしていく。
地球軍艦隊に仕掛けていたザフトの部隊とは別の部隊からの奇襲を受けたのである。
それらが向っている個所は二つ。
マスドライバーと軍関連施設だった。
そちらには軍司令部も存在している。
あそこを落とされたら同盟は頭を潰されるも同然であった。
「別方向からの奇襲!?」
《はい! マスドライバーの方はイノセントが急行しています。貴方達は軍施設の防衛をお願いします》
「了解!」
命令を下された機体が次々と施設防衛へと向かっていく。
「ザフトがここまで強硬姿勢で来るなんて。でも、これ以上は!!」
セリスもそれに続くように飛び上った。
その先で彼女は再びエスクレド隊と対峙する事になる。