機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第16話 狂気を砕く一撃

 

 

 

 

 

 

 戦場を突っ切るピンク色の閃光。

 

 凄まじい加速を持って戦場に乱入してきたエターナルの姿に全員が一瞬とはいえ虚を突かれる形となった。

 

 「何をやっている!! 全機迎撃せよ!!」

 

 「「り、了解!」」

 

 一足早く正気を取り戻した指揮官機からの怒声によって他の機体もエターナル迎撃に動き出した。

 

 しかし些か遅すぎる。

 

 エターナルは前大戦時に開発された戦艦の中でも上位に位置する高速艦だ。

 

 一度、タイミングを逃したザラ派のモビルスーツに為す術は無い。

 

 「簡単に抜かれやがって! これ以上進ませるな!!」

 

 前に出ていた連中の不甲斐無さに歯噛みしながらジンに乗ったパイロットがミサイルを発射する。

 

 続くように撃ち込まれる砲弾。

 

 進路を塞ぐように繰り返される攻撃をCIWSで迎撃しながら、バルトフェルドは思わず舌打ちする。

 

 「チッ、このまま通してくれるほど甘くはないか。迎撃部隊の奮戦のおかげで、想定していた数よりずっと少ないのは助かるけどね。ダコスタ、目標ポイントまで持たせろ!!」

 

 「はい!」

 

 絶え間なく降り注ぐミサイルを突破しながら、エターナルは追撃してくる敵を置き去りにして突き進む。

 

 そこでスウェアを引き離し、回り込んだコンビクトが立ちふさがった。

 

 「行かせない!」

 

 砲撃の発射口が解放され、ビーム砲の砲口が光を帯びる。

 

 「……ミーティア装備の機体まであるとはね」

 

 バルトフェルドは顔を顰めながら、拳を握った。

 

 ミーティアは火力もそうだが、スピードも速い。

 

 仮に上手くやり過ごして突破できたとしても、追撃される可能性が高い。

 

 「これも想定済みではあるがな。アレックス!!」

 

 バルトフェルドの声に合わせエターナルのハッチが解放されると真紅の機体が飛び出す。

 

 「邪魔はさせない!」

 

 アレックスは一息の内に距離を詰めるとミーティア装備のコンビクトに蹴りを入れた。

 

 「ぐああ! くっ、テタルトスの新型か!?」

 

 呻くリアンの眼前にいたのはアレックスの機体『ガーネット』である。

 

 専用装備『エクィテスコンバット』を背負い、ビームライフルをコンビクトへ向け睨みをきかせる。

 

 「ミーティアは落とさせてもらう!」

 

 「おのれ!」

 

 立ち塞がるガーネットを退けようとビーム砲を発射するが、ガーネットは予想以上の機動性で回避して見せた。

 

 そしてミーティアの推進器を狙ってビームライフルを撃ち込む。

 

 「ッ!?」

 

 どうにか回避運動を取るリアンだが、連射されるビームによってミーティアの装甲は削られ、推進器も傷つけられてしまう。

 

 「調子に乗るな!」

 

 機体を沈めるようにライフルの射線から逃れると、勢いよくウェポンアームのビームソードを横薙ぎに振り払う。

 

 「甘い!」

 

 アレックスは慌てる事なく剣を引き抜くとビームソードに向けて叩きつけた。

 

 実剣と光刃が激突し、凄まじい火花が散る。

 

 「受け止めた!? くっ、マント付きが使用していた実体剣と同様の装備か!」

 

 リアンは敵がミーティアの強力なビームソードを受け止めた事に驚愕すると同時に相手の武装の特性を理解する。

 

 ガーネットが握る実体剣『オートクレール』

 

 アスト・サガミが搭乗していたイノセントガンダムが使用していた武装『ナーゲルリング』と同じくビームコーティングを施した実剣である。

 

 「試作型とはいえ、十分な性能だな」

 

 鍔競り合う剣撃の光。

 

 アレックスは実体剣の性能に満足しながら力任せにコンビクトを弾き飛ばし前方に加速する。

 

 そして同時に放出したビームウイングで左のウェポンアームを斬り飛ばした。

 

 「ぐっ、調子に乗るなァァ!!」

 

 「そんなものが通用するものか!」

 

 一斉発射されたミサイルをイーゲルシュテルンで叩き落とし、逆にビームブーメランでミーティアの装甲を削り取る。

 

 だが、それでもリアンは全く怯む事は無く、道を塞いだままだ。

 

 「行かせはしない! 私は『あの人』の為に貴様ら全員を殲滅する!!」

 

 ウェポンアームを失った左手で連装ビーム砲を握り、咆哮しながら発射する。

 

 「どけと言っても聞きはしないか。なら俺も全力でやらせてもらうぞ!」

 

 「落ちろ!!」

 

 アレックスは敵を睨みつけ、ビームの光線を避けながら速度を上げて激突する。

 

 「くっ、接近戦では不利か!」

 

 激昂しながらもミーティアの特性を正しく把握しているリアンは状況の不利を悟ると、戦法を切り替えた。

 

 機体のスラスターで逆噴射させ、ガーネットを引き離しながら砲撃を叩き込んだ。

 

 「流石の火力だな! だが、その特性は良く知っている!!」

 

 前大戦時ミーティアを使っていたアレックスはその驚異を正確に把握していた。

 

 だからこそ接近戦以外に取るべき選択はなかった。

 

 視界を覆い尽くすほどの砲閃を複雑な軌道で潜り抜け三連ビーム砲でミサイルを吹き飛ばしながら、距離を詰める。

 

 「はあああ!!」

 

 ビームサーベルを裂帛の気合と共に相手の懐に飛び込み、袈裟懸けに剣撃を打ち込んだ。

 

 鋭い斬撃を前にリアンは連装ビーム砲を捨て、シールドでサーベルを防ぎ閃光が飛び散った。

 

 「ぐぅぅ、貴様!」

 

 「……エターナルは」

 

 光を迸らせながら、アレックスは横目でピンクの戦艦を確認する。

 

 ミサイルと主砲を持って、邪魔するモビルスーツを迎撃している。

 

 いくら敵の数が少ないとはいえ、ジェネシスに近づけば近づくほど守りが厚くなっていた。

 

 その為に火力に劣るエターナルは防衛網を突破できないでいるらしい。

 

 「簡単にはいかないか」

 

 力任せにサーベルを振り抜き、敵を弾き飛ばす。

 

 コンビクトをエターナルから引き離すために再び攻勢に出ようとした時、敵の動きを阻害する一条のビームが駆け抜けた。

 

 「何!?」

 

 振り向くと戦闘機のシルエットを持つ機体が急速に近づいてくる。

 

 「アレは同盟の―――ターニングガンダムか!」

 

 飛行形態に変形したターニングガンダムがブースターユニットを装着し、戦域に侵入してきたのだ。

 

 突っ込んできたのはターニングだけはない。

 

 同じくブースターを装備したムラサメも後方から追随している。

 

 戦場に駆けつけてきたのは調査隊の増援に向ったイザナギ所属のモビルスーツ部隊である。

 

 離脱する『ジェネシスα』をイザナギは全速で追撃に入った。

 

 だが普通に追撃していては間に合わないと判断したセーファスはモビルスーツ部隊だけでもとブースターユニットを装備させ、先行させたのだ。

 

 「間に合った!」

 

 フレイは急加速によるGに耐えながら、タイミングを見計らってブースターを切り離す。

 

 そしてビームライフルで分離させたブースターを破壊して正面にいるモビルスーツを吹き飛ばすとコンビクトに対艦ミサイルを撃ち込んだ。

 

 「また増援!? だが、そんなものでやられると思うな!」

 

 リアンは降り注ぐミサイルをビーム砲で薙ぎ払う。

 

 しかし、それはフレイの狙い通りだった。

 

 破壊されたミサイルから発生したスモークがリアンの視界を遮る。

 

 「スモークだと!?」

 

 「ここ!」

 

 相手がターニングを見失った隙にグレネードランチャーを発射するとミーティアの側面部を吹き飛ばした。

 

 「ぐっ、お前も邪魔するかァァ!」

 

 連射されるビーム砲を飛行形態に変形して回避するとフレイは通信機に向けて叫んだ。

 

 「こちらはイザナギ所属ターニングです! ここは私達に任せて行ってください!」

 

 「君達は―――いや、分かった、ここを頼む!!」

 

 一瞬躊躇うが最優先すべきはエターナルを目標ポイントまで辿り着かせることだ。

 

 アレックスはせめてもの援護として盾と背中の三連ビーム砲を同時に発射し、ターニング目掛けて降り注ぐミサイルを破壊する。

 

 そして反転するとエターナルの方へ急行した。

 

 「ムラサメ隊、エターナルを援護しなさい!」

 

 「「了解!!」」

 

 ターニングと共に戦場へ駆けつけたムラサメもガーネットに続く形でエターナルの援護に向かう。

 

 「逃がすと思うか!」

 

 「リアン、貴方を行かせる訳にはいかない!」

 

 「何!?」

 

 ガーネットを追おうとしたコンビクトに銃弾の雨が降り注ぐ。

 

 そこにはヅダを振り切ったスウェアがガトリング砲を構えていた。

 

 「裏切り者め!! サトーは何をやっている!!」

 

 攻撃を仕掛けてくるスウェアの背後から幾つか武装や装甲を剥がされたヅダが追いついてきた。

 

 「情けない。それでも歴戦の勇士か!」

 

 全く何と言う体たらくだろう。

 

 普段から偉そうに語っている癖に肝心な時に役に立たない。

 

 普段のナチュラルに対する憎しみはどこにいったのだ。

 

 そんな呆れたリアンの言葉が聞こえたのか、サトーの怒鳴り声が響いてくる。

 

 「黙れ、小娘が! 貴様こそさっさと奴らを仕留めてみせろ! その為のミーティアだろう!!」

 

 ヅダはミーティアの本領が発揮できるように二機のガンダムを引き離そうと多連装ビーム砲を発射する。

 

 数多のビームを回避する為、二方向へ別れたスウェアとターニング。

 

 だがそこはミーティアの最も得意とする距離。

 

 ミサイルで二機を釘付けにしながら、お膳立ては整ったとばかりにサトーは鼻を鳴らした。

 

 「ふん、さっさとやれ!」

 

 「言われるまでもない!」

 

 自分の相手はマント付きであって、ニーナなどは所詮ついでである。

 

 何時までも時間を掛けるつもりはなかった。

 

 ターゲットをロックし、トリガーを引くと残った武装から火を噴き、スウェアとターニング目掛けて襲いかかる。

 

 「フレイさん!」

 

 「了解!」

 

 前に出たニーナが両腕のガトリング砲でミサイルを迎撃すると爆煙に紛れ、ターニングがビームライフルで狙撃する。

 

 「チッ!」

 

 敵が左右に分かれた瞬間、ニーナとフレイが動く。

 

 「ニーナ!!」

 

 「はい!」

 

 二人が狙うのはサトーのヅダだ。

 

 武装を幾つか破壊されているとはいえ、未だ高い機動性を保持しているヅダの方を先に潰した方が邪魔が入らなくて良いと判断したのだ。

 

 「まずは貴方から潰させてもらう!!」

 

 「舐めるなァァァ!!」

 

 スウェアのビームサーベルとヅダのビームクロウがぶつかり合う。

 

 「先ほどの借りを返させてもらうぞ!」

 

 「悪いけれど、貴方と長々戦う気は毛頭ないのよ!!」

 

 ニーナはタイミングを見計らって即座に刃を引くと背中の斬艦刀リジルをヅダの装甲に突き刺した。

 

 「ぐっ!」

 

 「押し込む!」

 

 深く突き刺さった斬艦刀から手を離し、蹴りを入れてビーム砲とガトリング砲を同時に叩き込む。

 

 砲撃を肩部のシールドで防御しながら、サトーは思わず歯噛みした。

 

 「こうも簡単に追い込まれるとは!」

 

 「畳みかける!」

 

 絶え間なく撃ち込まれる銃弾をシールドで防ぐヅダに対し、回り込んだターニングのグレネードランチャーが炸裂した。

 

 「ぐああああ!!」

 

 ガトリング砲を防御していたサトーにグレネードランチャーを避ける術は無く、至近距離からの爆発によって撃墜されてしまった。

 

 胴体が無事だったのは直前で機体を後ろへ退かせた彼の技量とシールドの堅牢さ故だ。

 

 「サトー!? 役立たずめ!!」

 

 爆煙から飛び出したリアンは落とされたサトーを見て歯噛みすると、二機に攻撃を仕掛けるべく突撃する。

 

 しかし、そこにもすでに罠が張られていた。

 

 ターニングにウェポンアームを構えた瞬間、機体側面部が突如として爆発する。

 

 「ぐっ、これは、機雷群!? 誘われた!?」

 

 「今さら遅い!」

 

 フレイの構えたアグニ改からビームが発射され機雷を巻き込んで誘爆、ミーティア諸共巻き込んでいった。

 

 二機のモニターを焼けつくかのような眩い閃光が占める。

 

 「これで倒せていれば」そんな考えが二人の脳裏に過る。

 

 しかし―――

 

 「そう上手くはいかないか」

 

 閃光が消え、おびただしい残骸が散乱する中でコンビクトが不気味なほど静かに佇んでいる。

 

 リアンは爆発の衝撃によって体中から感じる痛みを歯を食いしばってやり過ごしながら、怒りで震えていた。

 

 「……貴様らァァァァ!」

 

 尽く邪魔した上に、ミーティアまで破壊するとは。

 

 渦巻く怒りが膨れ上がり、制御できない奔流のように溢れだす。

 

 「よくも、よくもやってくれたなァァァ!!」

 

 凄惨な目で敵を睨みつけ、怒号と共に再び悪魔の力が顕現する。

 

 

 『I.S.system starting』

 

 

 全身を駆け廻り、漲る力。

 

 それを味わい歓喜しながらリアンは敵に向かって加速する。

 

 だが、それは後戻りできない破滅の道であるという事など―――彼女は想像すらしていなかった。

 

 「はあああああ!!」

 

 「な!?」

 

 ニーナはどんな状況であろうとも冷静である事を心掛けている。

 

 特に戦闘中に冷静さを失う事は死に直結しかねない。

 

 生き延びる為の重要な要素の一つであるとニーナは考えている。

 

 しかし目の前の光景には絶句せざる得なかった。

 

 ターニングとスウェア。

 

 二機が繰り出した攻撃をコンビクトは今までに無かった反応で避けて見せさらに反撃してきたのである。

 

 ビームランチャーがスウェアの足を消し飛ばし、ライフルの一射がターニングの肩部を貫通する。

 

 「なっ!?」

 

 「この反応は!?」

 

 鮮やかさすら感じ取れる動きに、ニーナはある可能性に思い至った。

 

 「まさか……セリスと同じ?」

 

 それは限りなく正解に近い答え。

 

 リアンがセリスと同じ様に目覚めたのか、何か仕掛けがあるのかは分からない。

 

 一つだけ分かっているのは目の前にいる敵は先程までとは脅威度が違う。

 

 死を振りまく悪魔そのものだという事だ。

 

 「だとしても……いや、だからこそ貴方はここで倒す! セリスの元へは行かせない!」

 

 「死ねェェェェ!!」

 

 バーニアを噴射しながら、殺意の籠ったビームサーベルを袈裟懸けに振り抜く。

 

 「くっ」

 

 鋭い一撃にスウェアの装甲に傷がつくが構わず至近距離からビームライフルを発射する。

 

 しかし閃光は掠める事すらできず、逆に蹴りを入れられてしまう。

 

 「ぐぅぅぅ、速い!」

 

 事前にシールドを掲げていたからこそ、致命的な隙にはならなかったが予想以上に反応が速い。

 

 詰めを誤ればそこで決着がついてしまう。

 

 「ニーナ!」

 

 すかさずフレイの援護が入り、コンビクトを狙い撃ちにする。

 

 同時にニーナも右腕のガトリング砲を構えて撃ち出した。

 

 左右から挟み込む形での挟撃。

 

 「無駄ァァ!」

 

 それすらも通用する事無くコンビクトは容易く捌き、無傷で切り抜けて見せた。

 

 同時に投げつけられた刃がターニングのライフルを捉え、蹴り上げた脚閃が煌く。

 

 スウェアのガトリング砲の砲口が右手首ごと斬り裂かれ宙を舞っていた。

 

 「この力の前にはお前得意の小細工も無意味!! 私の目の前から消えろ、ニーナ・カリエール!!」

 

 リアンは追い込まれたスウェアに止めを刺すべく、光刃を振り上げる。

 

 だが、それもニーナの予測の範疇内だった。

 

 「悪いけど、そう簡単にやられる訳にはいかないわ」

 

 刃が届く前にトリガーを引くと、イーゲルシュテルンが発射される。

 

 狙いは自分の切り裂かれた手。

 

 ただの残骸となった掌部に弾丸が撃ち込まれ、小規模ながらも爆発を引き起こす。

 

 その爆発がコンビクトの振るう刃の軌跡を僅かに逸らした。

 

 「な!?」

 

 それは次の手を打つには十分すぎる間だった。

 

 ニーナはシールドにわざと刃を突き刺させて押し込み、突き飛ばす。

 

 その隙に残った左手でアーマーシュナイダーを引き抜くと、コンビクトに叩きつけた。

 

 「ニーナ、貴様ァァァ!!」

 

 コンビクトの右肩に突き刺さるナイフから激しい火花が散り、モニター越しに二人の顔を照らす。

 

 「リアン、貴方の反応は確かに速い。でも、それだけなのよ!」

 

 I.S.システムを起動させた事でリアンの反応速度は通常時とは比べものにならない程に向上した。

 

 しかし、それでも戦っている相手が変わった訳ではない。

 

 これが初見の相手―――

 

 いや、戦い方や性格など全く知らない人物が相手の戦いであれば、こうも容易くはいかなかった。

 

 だが戦い方や癖、動き、すべてがニーナの知るリアンと同じ。

 

 だから―――

 

 「フレイ!」

 

 「はあああ!!」

 

 決着をつけるべく背後から迫ったターニングは損傷によって動きに鈍い腕にサーベルを握り、躊躇う事無く上段からコンビクトへと振り抜いた。

 

 

 

 

 敵味方が入り乱れ鎬を削る中、並の者では知覚できない速度で三機のモビルスーツが戦場を駆け抜けていた。

 

 アイテルガンダムヴァルキューレとシグリード、ベテルギウスの三機である。

 

 「ちょろちょろ逃げんなよ!」

 

 セリスはフットペダルを踏む込みビームランチャーの一撃を正面に加速する事で回避する。

 

 あの武装は非常に強力だ。

 

 幾らビームを遮断できる防御マントだろうと直撃すれば致命傷になってしまう。

 

 肩のフィールド発生装置を多用出来ない以上、回避は必須。

 

 だが―――

 

 「悪いがそちらは通行止めだ」

 

 「くっ!」

 

 セリスの動きを先読みしていたシグリードの高出力ビームライフルによって阻まれてしまう。

 

 「また私の動きを読まれた!?」

 

 セリスは機体を必死に動かしながら、湧きあがる疑問と共にシグリードの方へ視線を向ける。

 

 まるでセリスの動きや挙動の癖を知っているかのように的確に狙ってくるのだ。

 

 「貴方は一体?」

 

 「何処見てるんだよ!!」

 

 「ッ!?」

 

 上方から迫るベテルギウス。

 

 ビームカッターによる連撃をシールドで捌き、セリスは防御マントを投げ捨てるとベテルギウスの視界を塞いだ。

 

 「目くらましのつもりか!」

 

 背中から伸びるマニュピレーターから伸びるビームサーベルで邪魔なマントを斬り捨てる。

 

 相手を斬り裂かんとサーベルを振り抜こうとしたアルドであったが、視界を塞がれた一瞬の隙に懐に飛び込まれてしまった。

 

 「何!?」

 

 「そのマニュピレータ―は邪魔!」

 

 セリスはベテルギウスを体当たりで突き飛ばしビームライフルを発射する。

 

 その一射が二本のマニュピレーターを破壊、背中の片翼を吹き飛ばした。

 

 「チッ、調子に乗るな!」

 

 レール砲を至近距離で炸裂させ、アイテルを引き離し中型多連装ビーム砲を発射する。

 

 「不味い!?」

 

 無数に群がるビームの閃光。

 

 体勢を崩された今の状態ではかわしきれない。

 

 セリスは即座に肩のビームフィールドを展開を決断する。

 

 展開された防御フィールドが立て続けに放たれたビームの脅威を弾き飛ばす。

 

 「厄介だな、その装備は。今の内に破壊させてもらう」

 

 いつの間にか回り込んだシグリードからチャクラムが放たれる。

 

 「後ろ!? そう何度も!」

 

 振り向き様に機関砲で迎撃するが、複雑な軌道故に捉えられない。

 

 シールドを掲げ防御態勢を作り、上方へと受け流した。

 

 「そう来ると思っていた!」

 

 完全に注意を逸らしたアイテルの向けカースは残っていたもう一方のチャクラムを投げつける。

 

 「もう一つ!?」

 

 避け切れない!?

 

 高速で迫りくる円刃を前にセリスのSEEDが弾けた。

 

 神懸かり的な反応で機体を寝かせ、再びシールドで弾き飛ばす。

 

 だが、刃を完全に避け切る事が出来ず肩部を抉り、左のフィールド発生装置を傷つけられてしまった。

 

 「これでその厄介な防御フィールドは張れまい!」

 

 確かにその通りだった。

 

 アイテルの肩に装備されたフィールド発生装置は強力な防御力を持った装備だ。

 

 しかし装置はその大きさ故に狙われやすく、試作型だからこそ僅かな傷であろうともシステムダウンする危険性を併せ持つ脆さ持っていた。

 

 セリスはコックピットに響くアラートに舌打ちしながら、ビームライフルの銃口をチャクラムに向けた。

 

 「そこ!!」

 

 研ぎ澄まされた感覚は正確にチャクラムの位置を捉え、放たれたビームが円刃を撃墜する。

 

 「流石にやる! ん?」

 

 カースはコンソールに設置してあった端末が反応し、次々に映し出されるデータを見るとニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「そうか。リアン、最後のカードを切ったか」

 

 彼女が追い込まれたのか、自分の意思で発動させたのかは知らない。

 

 だが、これだけは確定している。

 

 彼女はもう二度と這いあがれない場所へと足を踏み入れたのだ。

 

 「ならば存分に踊ると良い。君のラストステージだ。思い残すことのないようにな」

 

 その言葉には悲しみもまければ、憐れみも、憤りも、何もない。

 

 カースは淡々とそのデータを指定の場所へ送信すると、再び戦闘に集中し始める。

 

 自ら死に向かう選択をした哀れな少女の事など忘却したと言わんばかりに。

 

 

 

 

 『ジェネシスα』を挟む左右の戦場での激闘を尻目に戦いは最終局面を迎える。

 

 ピンク色の閃光『エターナル』がついに戦線を突破し、『ジェネシスα』の横っ面に躍り出たのである。

 

 「何をしているか! 撃ち落とせ!」

 

 パトリックの怒声も虚しくつき従うムラサメ隊やガーネットによって防衛隊は撃破されてゆく。

 

 「良し! 準備は良いな、セレネ!」

 

 「はい!」

 

 射程距離へと接近したエターナルのハッチが解放されるとセレネのフローレスダガーが顔を出す。

 

 「接続部分問題なし、『バーストコンバット』正常稼働、全システムオールグリーン!」

 

 フローレスダガーの背中に設置された新型装備『バーストコンバット』の主武装であるビームランチャーが前にせり出された。

 

 この『バーストコンバット』はランチャーストライカーを改良した砲撃戦用の兵装である。

 

 ビームランチャーの他にもグレネード・ランチャーやミサイルポットも搭載している火力の高い装備だ。

 

 しかし現在セレネの装備しているバーストコンバットにはもう一つ砲身がついていた。

 

 これこそが今回の作戦の要とも言えるものだった。

 

 「さてと、僕らも散々やられたからね。ここらで今までの事を清算させてもらう!」

 

 「了解!!」

 

 セレネは他の敵はすべて無視し、ターゲットだけを注視する。

 

 思った以上に緊張する事無くできている自分に驚きながら深呼吸。

 

 そしてスコープの中のターゲットをロックするとトリガーを引いた。

 

 ビームランチャーから発射された閃光とミサイルが邪魔な障害物を破壊しジェネシスαに突き刺さる。

 

 だが、それは大したダメージを与える事無く装甲表面にて無効化されてしまう。

 

 それでも懲りずに攻撃を加えるフローレスダガーの姿を見ていたパトリックは侮蔑の言葉を吐き捨てた。

 

 「ふん、愚か者どもが! 何かと思えばくだらん! そんなものが通用する筈がないだろうが!!」

 

 『ジェネシスα』が如何に急造で組み立てたものだとはいえ、モビルスーツの砲撃如きで落とされるほど柔ではない。

 

 では奴らは何故あんな攻撃を繰り返すのか?

 

 湧き上がってきた疑問に眉を顰める中、突如オペレーターから悲鳴の様な声が上がる。

 

 「閣下、『ジェネシスα』が展開していた相転移装甲がダウンしました!」

 

 「何だと!?」

 

 「それだけではありません! こちらからのアクセスを一切受け付けません!!」

 

 そこでパトリックはようやくエターナルの目的に気がついた。

 

 「まさか、ヅダのウイルスか!? 最初の攻撃は囮、奴らの本当の目的は『ジェネシスα』にウイルスを撃ち込む事か!」

 

 フローレスダガーが行った最初の砲撃はウイルスを仕込ませた本命を打ち込む為の布石だった。

 

 迎撃されないように、敵の油断を煽る為にわざと最初の砲撃を装甲によって無効化させたのである。

 

 「おのれェェ!!」

 

 「閣下、正面に熱源多数! 戦艦クラスと思われます!」

 

 正面にて待機するのは多数の戦艦。

 

 中央に陣取るプレイアデス級は陽電子砲を構え獲物が来るのを今か今かと待ち構えていた。

 

 射線上に位置するそこは、敵も味方も発射される事を考え誰も近寄らない個所になっていた。

 

 だが発射される事がないと確約されたならば致命的な急所となる。

 

 「くっ!」

 

 パトリックが声を上げる間も無くプレイアデス級の砲口に光が集まり、一斉に宇宙を駆ける閃光となって発射された。




多分、後2話か、3話くらいで終わると思います。多分ですけどね。


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