機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第15話 幻影に手を伸ばす

 

 

 

 

 

 月に侵攻する『ジェネシスα』

 

それを阻止すべく、徹底抗戦の構えを取るテタルトス。

 

 激突する両軍の姿をジェネシスαに追随する形で並走していた『ダランベール』のブリッジでパトリック・ザラは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 「ふん、裏切り者共が足掻くか」

 

 どこまでも忌々しい限りだと血がにじむほど強く拳を握る。

 

 これまでの経緯や裏切った者達の事を思い起こすだけで激しい怒りが湧きあがってくる。

 

 その怒りは世界を滅ぼしても飽き足らない程に激しいものだ。

 

 特に許せないのはエドガー・ブランデルである。

 

 コーディネイターが辿るべき未来を歪めた元凶とも言える男。

 

 奴さえいなければと、何度思った事か。

 

 「だが、それも今日までだ、ブランデル! ここで貴様の野望のすべてが潰えるのだからな!!」

 

 その為にこれまで慎重に準備を重ねてきた。

 

 カースなどという胡散臭い男を傍に置いたのもそのためだ。

 

 パトリックの目的。

 

 月で紛争を起こし、再び戦争を誘発するきっかけとする事。

 

 その中でナチュラル共の本意が露呈し、その上で奴らを殲滅すればプラントにいる馬鹿共も気がつくだろう。

 

 自分が示した道こそが、正しかったのだと。

 

 故に狙いはただ一つ―――巨大戦艦『アポカリプス』である。

 

 アレが主砲でジェネシスαを狙えない位置にある事は調べてある。

 

 そしてどういう行動に出るかさえも、予測済みだ。

 

 後は狙い通りに予定ポイントまでたどり着けば、パトリックの勝ちだ。

 

 武の象徴でありシンボルでもあるあの巨大戦艦が沈めばテタルトスの士気はガタ落ち。

 

 防備は丸裸同然となる。

 

 そこを見逃す連合でも、ザフトでもあるまい。

 

 引き寄せる為の餌は各勢力に仕掛けた散発的な奇襲によってすでに撒いてある。

 

 つまりテタルトスは戦火を引き起こす為にくべる生贄だ。

 

 裏切り者共にはふさわしい末路だろう。

 

 「ジェネシスαのチャージ状況は?」

 

 「現在50%です」

 

 もう僅かで撃つ事が可能になる。

 

 残るは射程までの時間―――

 

 「目標ポイントまでは?」

 

 「順調にいけば残り3時間程ですが、敵の妨害が激しく、さらに時間が掛かってしまう可能性も」

 

 その報告に苛立ちを募らせながら、頭の中で考えを纏める。

 

 最も簡単なのはチャージ完了次第、ジェネシスαを発射し邪魔な連中を排除してしまう事だ。

 

 しかしそうなると次のチャージまで時間を稼がなくてはならない。

 

 それは下策だ。

 

 時間が過ぎればその分こちらが不利となる。

 

 「ジュラメントとコンビクトを『ミーティア』装備で出せ! ジェネシスαの進路を開かせろ!」

 

 「了解!」

 

 「閣下、シグリード、ベテルギウス帰還いたしました」

 

 此処に来てパトリックは初めて笑みを浮かべた。

 

 「補給が完了次第、すぐに出撃させろ! 奴らをジェネシスαに近づけさせるな!!」

 

 「了解!」

 

 指示を飛ばしモニターを見上げる。

 

 そこにはミーティアを装着したコンビクトとジュラメントが出撃しようとしていた。

 

 

 

 

 戦場は『ジェネシスα』を挟み込む形で左右に分かれ、敵味方入り乱れる乱戦状態に陥っていた。

 

 バラバラになったヅダの残骸を避け、テタルトスの機体が徐々に目標である『ジェネシスα』に迫っていた。

 

 「良し、このまま突破するぞ!」

 

 「了解!」

 

 確かに敵の数は想像以上であり、実力者も多くいる。

 

 しかし敵とテタルトスの間には決定的な差があった。

 

 要はモビルスーツの性能の差である。

 

 ザラ派はFシリーズの機体を使用してはいるものの、それはごく一部。

 

 他はジンやシグーといった前大戦で使用されていた機体ばかり。

 

 良くてゲイツである。

 

 戦場において物を言うのは鍛え上げた己の技量。

 

 それは誰しもが納得する一つの答えであるだろう。

 

 しかし機体の性能が戦闘において重要な要素である事実は変わらない。

 

 少なくともこの場において、勝敗を分けているのはソレだ。

 

 ジンやシグーは前大戦から使用されてきた確かな実績があり、強化や改修を施し未だに使用している兵士も多い。

 

 それでも現在実戦に投入されている最新機に比べれば、やはり旧式と言わざる得ないのが現実である。

 

 隊長機のジンⅡがその機動性を持って敵を圧倒しながら、率いる部隊と共に突き進んでいく。

 

 「ジンは良い機体だが、このジンⅡに比べればすでに旧型の機体! 時代は変わっているのだ!!」

 

 ジンを圧倒する速度で回り込むとビームクロウで一刀の下に斬り伏せ、その勢いに乗ったまま目標に突撃する。

 

 「このままジェネシスに取りつい―――」

 

 順調に進んでいたはずのジンⅡは次の瞬間、突如として放たれた砲撃により、あっさりと撃破されてしまった。

 

 「な、なんだ!?」

 

 「あれは……」

 

 距離を取り、被弾を免れた他の機体の前には白い特殊な形状の兵装を装着した機体が立ち塞がっていた。

 

 「ミーティアだと!?」

 

 ボアズやヤキン・ドゥーエでの戦いを経験した者であれば、ミーティアの威力は誰もが知っている。

 

 群がる地球軍の部隊を瞬時に薙ぎ払ったその光景は頼もしいものだったが、敵に回ればこれほど恐ろしいものはない。

 

 アレの火力はそこらの戦艦よりも上、砲撃に巻き込まれれば確実に撃破される。

 

 「あんなものまで……全機、急速離脱!!」

 

 残った機体はスラスターを全開にしてその場からの離脱を図るが遅い。

 

 解放された砲口から一斉に火を噴き、フローレスダガーやジンⅡに容赦なく突き刺さる。

 

 「ふん、雑魚共が。邪魔なのよ!」

 

 ミーティアを装着したジュラメントのコックピットでジェシカは苛立たしげに吐き捨てる。

 

 ローレンツクレーターでの戦闘から無事生還したジェシカだったが、喜ぶ気には全くならなかった。

 

 途中で横槍が入ったとはいえ、無様な形で敗北を喫したのである。

 

 これほどの屈辱があるだろうか。

 

 すでに仲間に対する僅かに残っていた感傷も完全に消え去り、彼女の胸中はニーナに対する憎悪で満ちていた。

 

 「私の目的はニーナ・カリエール、ただ一人だけ! 邪魔する奴は誰であろうと殲滅する!!」

 

 その後でマント付きと乱入してきた戦闘機モドキを落とす。

 

 ジュラメントは装着したミーティアの推進力で一気に加速し、獲物を求めて動き出した。

 

 「どこだ!! ニーナァァァァァァァ!!!!」

 

 ジェシカの怨嗟の声に応ええるように吐きだされる砲撃。

 

 圧倒的な火力を前にシールドも意味を為さず、テタルトスのモビルスーツは蹂躙されていく。

 

 「邪魔!!」

 

 立ち塞がる敵をミサイルで撃ち落とすと今度は母艦のブリッジをビームソードで叩き潰す。

 

 払っても、払っても寄ってくる蠅のように鬱陶しい。

 

 「お前らなどに用は無い!! どこだ、どこにいる!!」

 

 自分の倒すべき相手はこんな雑魚ではなくニーナである。

 

 今度こそ屈辱を晴らしあの澄まし顔を切り刻んでやるのだ。

 

 ジェシカはジュラメントの火器も含めた持ちうる火力をすべてを解放。

 

 邪魔する者達を消し去る為に砲撃を迸らせる。

 

 しかしそれを遮るように一条の閃光が割り込んで来た。

 

 「何!?」

 

 再び彼女の行く手を阻む新手が現れる。

 

 だが今度は今までのような蠅共ではない。

 

 正確な射撃でジュラメントの進路を阻み、確実に急所を狙ってくる。

 

 これほどの腕前、敵のエースパイロットに違いない。

 

 ジェシカは機体を錐揉みさせ、ビームを避け続ける。

 

 そして敵の姿を確認しようとその姿を見つけた瞬間、ジェシカは自然と笑みを浮かべている事に気がついた。

 

 「ま、まさか―――アハ、アハハハハハハ!! そうか先に貴様が現れたか、マント付き!!!」

 

 彼女が憎むもう一つの存在。

 

 アイテルガンダムヴァルキューレがビームを掻い潜り、ビームライフルを連射しながら近づいてくるのが見えた。

 

 憎悪と一緒に別の感情が湧きあがってくるのが分かる。

 

 これは歓喜だ。

 

 求めた獲物とは違うが、望んでいた相手ではある。

 

 「御丁寧にマントを羽織って来てくれるとはね。丁度良い、ニーナの前に貴様を殺す!」

 

 恨みを持っているという意味ではニーナと同じ。

 

 アイテルもまた葬り去るべき存在なのだ。

 

 速度を上げ撃ち込まれたビームをすべて振り切り、ミサイルを近づいてくるアイテルに叩き込んだ。

 

 

 

 

 「あれは確か……」

 

 アイテルに向けて放たれたミサイルをビームガンで迎撃しながら、向き直るジュラメントを注視する。

 

 セリスはテタルトス軍に続く形で進んでいたのだが途中で部隊の足が止まった事に気がついた。

 

 何かしらの障害が発生したのだろうと思い、急いで現場に駆け付けた訳なのだが―――

 

 「よりによってミーティアなんて……」

 

 あの兵装の性能は知っている。

 

 火力も速度もモビルスーツのソレとは比較にならない。

 

 降り注ぐミサイルにそれに続くようにジュラメントが握るウェポンアームから放たれる大口径ビーム砲。

 

 掠めただけでも致命傷になりかねない一撃を上手く捌きながら紙一重でかわしてゆく。

 

 「相変わらず、この手の兵装は厄介だけど!」

 

 セリスもまた『ミーティア・コア』と呼ばれる武装を使った相手と戦った経験がある。

 

 あの時も敵の持つ馬鹿みたいな火力には手こずらされたものだ。

 

 しかしその経験があるからこそ、敵に対して過剰に警戒する事も無い。

 

 ミーティアのデータを頭の中で整理し、正面から撃ち合うのは不利と判断したセリスはスラスターを吹かして回り込む。

 

 「確かに速いし、火力も凄いけど、付け入る隙はある!!」

 

 敵の射撃から逃れるために複雑な軌道を取りながら、下側からビームライフルで誘導するとサーベルを抜き放つ。

 

 「はああああ!!」

 

 「ッ!?」

 

 ジェシカは機体を捻り避けようとするが、間に合わない。

 

 アイテルの斬撃はミーティアに食い込み、振り抜くと側面部を斬り落とした。

 

 宙を舞う部位に内蔵されていたミサイルが爆発し、凄まじい衝撃と共にジュラメントを大きく揺らす。

 

 「ぐぅぅぅ!! 貴様ァァ!!」

 

 「火力や速度は凄いけど、小回りが利かないのがその兵装の欠点だよ!!」

 

 「この程度の損傷でいい気になるなァァァ!!」

 

 ウェポンアームから放出されるビームソードがアイテル目掛けて振り下ろされる。

 

 「当たらない!」

 

 セリスは咄嗟にブルートガングをせり出し、斬撃の軌道を変えるべく横薙ぎに叩きつけた。

 

 交錯した剣撃が火花を散らし、ビームソードを弾く。

 

 そして至近距離からビームライフルを連射する。

 

 「砲撃戦はこちらが不利。だから距離を取らせはしない! このまま仕留める!!!」

 

 「くっ、離れないつもりか! だが、思惑通りにいくと思うな!!」

 

 ジェシカはミーティアを掠めるビームライフルに構わず左のウェポンアームを投げ捨て、ビーム砲で撃ち抜く。

 

 破壊されたアームユニットの爆発に紛れてアイテルから距離を取った。

 

 「ぐぅぅぅ!?」

 

 「落ちろ!!」

 

 爆発の衝撃で体勢を崩したアイテル目掛けて残った大口径ビーム砲が火を噴いた。

 

 「勝った!」

 

 勝利を確信するかのようにジェシカは口元を歪める。

 

 あのマントにも多少ビームを弾く作用があるようだが、この出力のビーム砲が防げない事は明らかだ。

 

 シールドによる防御も間に合わない。

 

 しかし次の瞬間、ジェシカは驚愕に目を見開いた。

 

 アイテルを確実に仕留めたはずの一射は直撃する寸前に突如発生した光の膜によって弾かれてしまったからだ。

 

 「何!?」

 

 一体何が起こった!?

 

 混乱しできた一瞬の間。

 

 セリスはその間を逃さず、ビームライフルの一射で側面のビーム砲を吹き飛ばした。

 

 「ぐああああ!」

 

 「何とか間に合った」

 

 先ほどアイテルが展開した光の膜。

 

 肩部に装備されている試作型ビームフィールド発生装置による防御フィールドである。

 

 これは側面部だけとはいえビーム砲の一撃すら防ぐ事が可能な防御装置だ。

 

 しかしその特性からバッテリー消費も尋常ではなく、長時間使用は出来ない。

 

 その上装置が設置されている肩部がやや巨大化しているという欠点が存在する。

 

 だからここぞという場面以外では使用したくなかったのだが。

 

 「相手もそれだけ油断できないって事か。それにしても大した防御力」

 

 多用は出来ずとも、この防御力は破格のもの。

 

 これがあれば多少の無茶もできる。

 

 セリスは再び接近する為にスラスターを吹かす。

 

 「まずはミーティアを破壊する!!」

 

 アレさえ破壊できれば、圧倒的な火力による他の部隊の迎撃もできなくなる筈だ。

 

 ライフルを腰にマウントし、大剣『ヴァルファズル』を抜くと速度を上げてミーティア目掛けて突きを放った。

 

 刀身から発生した無数のビーム刃が機体へ深々と突き刺さり火花を散らす。

 

 「マント付き、貴様!!!」

 

 「はあああああああ!!!」

 

 ミーティアのほぼ中央に突き刺さった大剣を力任せに振り抜くと、抵抗も無く斬り裂かれていく。

 

 「くそ!!」

 

 ジェシカは屈辱に顔を歪め、大剣の刃がジュラメントに到達する前に離脱を図る。

 

 ジュラメントがパージした数瞬後。

 

 ミーティアは『ヴァルファズル』によって真っ二つに両断され、爆散した。

 

 「貴様はいつも、いつも、いつもォォォォォォォ!!!!」

 

 脳裏に蘇る前大戦からの屈辱の記憶。

 

 チラつくニーナの影も手伝って胸中に渦巻く激しい憎悪をさらに燃え上がらせる。

 

 「オオオオオオ!!」

 

 獣のような叫びを上げる。

 

 ジェシカの叫びに応えるように凄まじい閃光が構えたビームランチャーから発射された。

 

 同時に連装ビーム砲、プラズマ収束ビーム砲も撃ち出され、アイテルに牙をむく。

 

 それはフリーダムのフルバーストにも勝るとも劣らないビームの嵐だ。

 

 自身の命を奪い去る死の閃光。

 

 それを前にしながらセリスは防御の姿勢も作らず、あえて光の中に飛び込んだ。

 

 「そんなものに!」

 

 『ヴァルキューレ』の機動性を存分に発揮した動きでビームの奔流を回避すると距離を詰め、ロケットアンカーを射出する。

 

 『ヴァルキューレ』から飛び出した二つの牙が寸分違わずジュラメントに直撃し、右腕と左肩をもぎ取った。

 

 「それで勝ったつもりかァァァ!!!」

 

 右腕を失い、左肩を抉られながらジェシカは全く戦意を衰えさせない。

 

 腕が使えないなら足を使うまで。

 

 両足の爪先からビームソードを放出すると、右足でアイテルに蹴りを叩き込む。

 

 「そんなの読み切ってる!」

 

 ジュラメントの動きを予測していたセリスはすでに次の行動に移っていた。

 

 迫るビームソードを宙返りで避け、腰のビームガンで頭部を狙撃して視界を奪う。

 

 「なっ、メインカメラが!?」

 

 「そこ!!」

 

 メインカメラが損傷し、一時的に視界を奪われ動きを止めた敵にサーベルを横薙ぎに一閃する。

 

 ジュラメントの脚部が斬り裂かれた。

 

 「ば、馬鹿な」

 

 怒りで我を忘れようとも、この状況が意味するところは理解できた。

 

 ―――致命的な損傷。

 

 もはや勝敗は決したのだと。

 

 だが、理解出来た筈の事実と彼女の心情は全く逆の答えを導き出す。

 

 「ふざけるな、私は―――」

 

 認めるものか!

 

 負けるものか!

 

 まだ戦えるのだとジェシカは軋む体に鞭打ち、どうにか機体だけでも動かそう試みる。

 

 しかし此処は戦場。

 

 どのような要因であれ、負けた者から容赦なく呑み込み食らっていく無慈悲な場所だ。

 

 すでに逃れられない死神に捕らえられているのだとジェシカは気がついていなかった。

 

 「貴様を倒してェェェ!!!」

 

 「こいつ、まだ!?」

 

 あの状態でまだ戦う意思を萎えさせないとは。

 

 セリスはプラズマ収束ビーム砲を放つジュラメントを見据えると、操縦桿を握り締めフットペダルを踏み込んだ。

 

 「いつまでも構っていられない。決着をつける!」

 

 メインカメラ損傷の影響があるのか、収束ビーム砲の狙いは全く定まっていない。

 

 「落ちろ!」

 

 「そんなもの!」

 

 ビーム砲を紙一重で回避したセリスはシールドで突き飛ばし、背中の砲身を跳ね上げた。

 

 「アサルト!!」

 

 アイテルの『アサルトブラスターキャノン』から発射された閃光がジュラメントを呑みこんでいく。

 

 「わ、私は、私は―――」

 

 閃光に包まれたジェシカの視界が白く染まる。

 

 そこで見えたのは、長い黒髪を靡かせるあの女の後ろ姿。

 

 届きそうで届かない、その背中に必死になって手を伸ばす。

 

 妬ましい、忌々しい。

 

 しかしどんなに手を伸ばそうと、それがお前の限界だと言わんばかりに背は遠ざかるのみで捉える事ができない。

 

 「どう、して、届かない、どうし―――」

 

 結局、その背中に手が届く事はない。

 

 ジェシカの体はジュラメント諸共光の中に呑みこまれ、跡形も残さず消滅した。

 

 「ハァ、これで一機」

 

 セリスは敵の撃破を見届けると、息を吐き出す。

 

 今、倒した機体はザラ派の主力の内の一機で間違いない。

 

 これで少しは『ジェネシスα』攻略もスムーズに進行できる筈だ。

 

 「テタルトス軍の動きも予定通りみたいだし、後はアレックス少佐の作戦まで時間を稼げば―――ッ!?」

 

 周囲の状況を見てジェネシスα方面へ動こうとしたセリスだったが、突如別方向から何かが飛んでくるのが見える。

 

 機体を引き、飛び退くと回転する刃がアイテルのいた空間を高速で薙いでいった。

 

 「ブーメラン!?」

 

 咄嗟に口についたのは投擲武器であるビームブーメラン。

 

 しかしブーメランにしてはあまりに精密な動きでアイテルを狙ったようにも見えた。

 

 湧きあがる疑問の答えを出す暇も無く、コックピットに警戒音が鳴り響く。

 

 「おらァァァ!!」

 

 「今度は後!?」

 

 中型多連装ビーム砲から放出されたビームカッターがアイテルに襲いかかる。

 

 咄嗟にブルートガングをせり出し振り向き様に叩きつけビームカッターを受け止めると、攻撃してきた敵の姿に目を見開いた。

 

 「ベテルギウス!? でもこの姿は―――」

 

 ベテルギウスの姿は以前に提示されたデータとは明らかに違っていた。

 

 特に背中―――そこには特徴的な翼がある。

 

 その姿は同盟に所属しているセリスにとって既視感すら覚えるものだった。

 

 『白い戦神』と謳われたエースパイロット、キラ・ヤマト。

 

 彼が搭乗し多大な戦果を叩きだした最強の機体の一機『フリーダム』の姿に非常に良く似ていた。

 

 「よう、ガンダム!! お前にも会いたかったぜ!!」

 

 「貴方は!?」

 

 この声には覚えがある。

 

 確かヤキン・ドゥーエで最後に戦ったパイロットの声だ。

 

 「今度こそ、俺が落としてやるよ!」

 

 「貴方なんかに!」

 

 セリスは怒りを込めてベテルギウスを突き飛ばし、サーベルで斬りかかろうとする。

 

 だが割り込むように黒い一つ目の機体が斬りかかってきた。

 

 「なっ!?」

 

 「悪いが彼女を渡す訳にはいかないな、アルド」

 

 上段から振り抜かれたビームソードをどうにかシールドで受け止めるが光刃は徐々に盾を浸食していく。

 

 「受け切れない!?」

 

 盾が使い物にならなくなると判断したセリスは斬撃を横へと流し、シールドが破壊されるのを防いだ。

 

 「カース、てめぇ、また邪魔する気か?」

 

 「先程も言ったが、彼女については別だよ」

 

 カースにとってこの時こそが、待ち望んでいた瞬間なのだ。

 

 誰であろうとも渡すつもりは毛頭ない。

 

 「チッ、じゃあ早いもの勝ちって事でやらせてもらうぜ!」

 

 アイテルに向かって突撃するアルド。

 

 同時にカースもまた動きだす。

 

 セリスは強敵二人を鋭い視線で見据えると、負けじとビームサーベルを抜き応戦の構えを取った。

 

 

 

 

 

 激闘を繰り広げるセリス達とは反対側に位置する戦場。

 

 ここもまた激戦区となっていた。

 

 戦場に降り注ぐは強力無比の砲撃。

 

 撃ち放っているのはミーティアを装着したリアン・ロフトの駆るコンビクト。

 

 「落ちろ!!」

 

 ビームとミサイルの暴風が容赦なくテタルトス部隊に襲いかかる。

 

 そんな危険な嵐の中を駆け抜けている機体があった。

 

 新装備『アルスヴィズ』を背負ったスウェアである。

 

 「リアン、貴方は!」

 

 「黙れ、裏切り者がァァァァ!!」

 

 逃げ回るスウェアに対し、大口径ビーム砲が襲いかかる。

 

 射撃は実に正確で避けようとするニーナの動きを先読みしてくる。

 

 強力な砲撃が機体を掠め、装甲を溶かしてゆく。

 

 「くっ!」

 

 それでもニーナが避け続けられたのは戦闘経験とリアンの技量や戦いの癖を知っていたからに他ならない。

 

 「何時までもちょろちょろと逃げ回れると思うな! サトー、さっさと押えろ!!」

 

 何度目かの砲撃を回避したスウェアの背後から完全武装のヅダが襲いかかる。

 

 「小娘が! 誰に命令している!!」

 

 背負うポッドから発射されるミサイル、同時に雨の様に降り注ぐ多連砲撃。

 

 ミーティアからの攻撃と合わせて逃げ場がない。

 

 それでもニーナは冷静な表情を崩さない。

 

 「撃ち落とす!」

 

 スウェアはあえてミサイルの中へと突撃すると腕部のビームガトリング砲で進路を確保するように連射した。

 

 逃げ場がないなら作ればよい。

 

 ビーム砲は直撃すればそれで終わりだが、ミサイルは実体弾である。

 

 受けても多少の衝撃はあるが、ダメージはPS装甲で防ぐ事が可能。

 

 ならばビーム砲だけに注意しておけば、退路を作るのはさほど難しい事ではない。

 

 「そろそろ時間ね」

 

 すでにジェネシスαは月から視認できる位置に達している。

 

 時間的に予定ではそろそろの筈―――

 

 「来た!」

 

 二機を牽制しながら、ニーナが視線を向けた先―――そこには急速で戦域まで接近してくる物体が見える。

 

 ピンク色の船体を持つ高速艦『エターナル』

 

 ブリッジで急加速に耐えながら、艦長席に座るバルトフェルド中佐が声を張り上げた。

 

 「良し、作戦開始! 連中に前の借りを返すぞ!」

 

 「「了解!」」

 

 速度を緩める事無く、エターナルは『ジェネシスα』に向けて加速していった。




機体紹介、更新しました。

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