機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第12話 悪夢の兵器

 

 

 

 

 

 

 岩場を潜り、徐々に進んでいくモビルスーツ部隊。

 

 その機体群は非常に特徴的。

 

 全機がモノアイの頭部を持った機体ばかりだ。

 

 それはいわずと知れたザフトに所属する部隊であり秘密裏に任務を受けた特務隊であった。

 

 慎重に進んでいく、彼らの視線の先には大型の小惑星が見える。

 

 「デュルク隊長、目標発見いたしました」

 

 僚機からの報告に特務隊の隊長であるデュルク・レアードはモニター越しに頷く。

 

 デュルクはあのユリウス・ヴァリスとまともに戦える優秀なパイロットとして名を馳せている。

 

 元々特務隊入りも確実視されていたのだが、前大戦時はクライン派の隊長が率いる部隊に配属されて居た為にパトリック・ザラからは冷遇されていた。

 

 それがデュランダル議長就任と共に特務隊に任命され、その優秀さを示すよう実績を残してきた。

 

 デュルクにとってそんな事はどうでも良い事。

 

 軍人であると強く規定している彼はどんな立場であろうとも、職務をこなすだけなのだから。

 

 「あれが議長の言っていた『ゲーティア』か」

 

 前大戦時パトリック・ザラが建設した極秘拠点。

 

 一見すると単なる小惑星にしか見えないが、良く観察すれば人工的に手が加えられているのが見てとれる。

 

 アレを制圧せよというのが、今回デュルクに下された任務であった。

 

 「……施設は極力破壊せず、制圧しろか。何に使うつもりなのか? いや、関係ないな」

 

 自分は命じられた任務をこなすのが仕事だ。

 

 余計な思考は捨て、任務に集中する事にしたデュルクは通信機に向けて命令を下した。

 

 「全機、これから目標の制圧に移る。敵のいる可能性は高い、十分に注意せよ」

 

 「「「了解!」」」

 

 案の定、防衛の為に数機のモビルスーツが飛び出してくる。

 

 それはこの場にいる誰しも知っているジンやシグー、ゲイツといった馴染み深い機体群だった。

 

 議長から聞かされた情報通り、ここにはザラ派の残党が潜伏していたらしい。

 

 「姿形に惑わされるな。識別コードを常に確認しろ。味方に当てるなよ」

 

 「「了解」」

 

 この場で一番注意が必要なのは同士討ち。

 

 同じ機体が多数存在している以上、的確な味方と敵の判別が明暗を分ける事になる。

 

 デュルクの的確に指示に従いながら、ザフトの部隊は『ゲーティア』制圧に向けて攻撃を開始した。

 

 

 

 

 月から離れ、テタルトスの防衛圏外ギリギリの宙域。

 

 そこもまた見通しの悪い多くのデブリ散乱する場所。

 

 其処こそヴァールト・ロズベルクが送ってきたデータに記されていた個所であり、その場所に向けてテタルトス軍が慎重に進軍していた。

 

 ここに派遣されたのは情報の真偽を確かめる為の調査隊という事ではあったが、その数は明らかに多い。

 

 これはもしもの場合に備えての事。

 

 すなわち先の戦闘で得た教訓と、鹵獲した敵機の予想以上の性能の高さから敵の手強さを認識したからこその采配であった。

 

 先陣を切るように進むプレイアデス級のブリッジでは部隊を指揮しているヴァルター・ランゲルトが宙域図を眺めている。

 

 「ランゲルト少佐、もうすぐ目標ポイントへ到着します」

 

 「そうか。敵からの攻撃に注意しろ。特に奇襲は連中の十八番だ。周囲への警戒は厳に」

 

 「了解!」

 

 何度も奇襲を成功させるほど迂闊なつもりはない。

 

 訓練通りにフォーメーションを組む味方機にヴァルターは穏やかな笑みを浮かべる。

 

 重要なのはここに本命がいるか否かだ。

 

 「それにしても、我々に出撃命令が下るとは思っていませんでしたね」

 

 隣に立つ副官が意外だったように呟いた。

 

 そう思う気持ちも分からなくは無い。

 

 調査隊の中核を成しているのは、ヴァルター率いる部隊。

 

 彼らは先日もザフトと一戦交え、警邏任務もこなしたばかり。

 

 本来ならば彼らではなく、別の部隊が担当するのが自然なのだが―――

 

 「それだけエドガー司令が私達を信頼してくれている証拠でしょう。今回の任務は非常に重要なものですからね。胸を張っていれば良い」

 

 「はい」

 

 とはいえこの任務が厳しいという事は変わらない。

 

 もしも仮にここに敵の本拠地があるとすれば、それ相応の戦力が防衛についているはず。

 

 さらにいえばここ月の防衛圏外。

 

 他勢力―――連合やザフトが何らかの形で介入してくる事も予想される。

 

 「油断はできない」

 

 しかしどんな状況に陥ろうとも対処できるだけの自信があった。

 

 実際、彼、いや彼女だろうか。

 

 とにかくヴァルターにはそれだけの実力があるのも事実。

 

 だからこそエドガーはこの部隊を重要な調査に向かわせたのだから。

 

 「良し、探索開始。ミラージュ・コロイドで姿を隠している可能性は高い。怪しい所を発見次第逐一報告せよ。それからセイリオスの発進準備を」

 

 「少佐、自ら出撃されるのですか?」

 

 副官としては、艦で指揮に集中してもらいたいのだろう。

 

 だが―――

 

 「どうも嫌な予感がするんですよ」

 

 それは別に何か特殊な力という訳ではない。

 

 数多の戦場で培ってきた直感である。

 

 これが意外と馬鹿に出来ないものだ。

 

 「外れてくれるに越した事はないですけどね」

 

 魅力的な笑顔に副官は思わず、顔を背け、内心の動揺を悟られまいと咳払いする。

 

 どう見ても美人の女性が微笑んでいるようにしか見えない。

 

 これで男かもしれないなんて、どうしても信じられないのだが。

 

 「ゴホン、と、とにかく、こちらの方は私にお任せを」

 

 「ええ、よろしく」

 

 ヴァルターはこの場を任せると愛機であるセイリオスの待つ格納庫へ向かう為、ブリッジを後にした。

 

 

 

 

 当然ではあるが警戒しながら近づいてくるテタルトス軍の姿をザラ派、すなわちパトリック・ザラは既に随分前から捕捉していた。

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、パトリックは司令室のモニターを睨みつけている。

 

 「ふん、裏切り者どもが嗅ぎつけてきたか。カース、貴様の失態ではないのか?」

 

 「申し訳ありません」

 

 モニターから背後に立つ仮面の男へ視線を移す。

 

 パトリックの怒気など全く意を返さないとばかりに口元に笑みを浮かべていた。

 

 テタルトスに潜伏先が発見されてしまったのも、先の撤退時にローラシア級の動きを読まれてしまったからに違いない。

 

 「まあいい。それよりもザフトは上手くやったのであろうな?」

 

 「ええ、そろそろこちらの方へ来る筈です」

 

 カースの言う通り、司令室のレーダーでは別方向からテタルトスとは違う部隊が近づいてくるのが確認できた。

 

 間違いなくザフトの部隊であろう。

 

 これでこの場所は二軍によって挟まれた事になる。

 

 しかし誰も焦った様子はない。

 

 「どうやら役者が揃ったようです」

 

 「そうのようだな。だが、アレを動かすにはもう少し時間がかかる」

 

 「では、私が時間稼ぎに出ましょう。それに奪取してきたあの機体のテストにもなるでしょうから。閣下は準備が整い次第『ダランベール』の方へ」

 

 「いいだろう」

 

 パトリックの返事にカースは何も言わず一瞥するのみで指令室から出ていく。

 

 そこには頭に包帯を巻いた目つきの鋭い男が腕を組み、壁に寄り寄り掛かっていた。

 

 「気分はどうかな、アルド」

 

 「最悪の気分だ」

 

 イージスリバイバルと相討ちとなった筈のアルド・レランダーである。

 

 何故、彼が無事でいられたのか?

 

 それはアルドが搭乗していたヅダの特性にある。

 

 あの時、イージスのサーベルが貫通していたヅダのシールドはあくまでも後付けの装備だった。

 

 その為、アルドはイージスリバイバルが自爆する寸前に肩部に装着されていたシールドを切り離すと同時に殴りつけ、一気に離脱を図ったのである。

 

 結果、無傷とまではいかなかったが五体満足のままで脱出できたのはI.S.システムの恩恵とアルドの実力の高さ故だろう。

 

 普通の者であればあの時点で死んでいたか、良くて動けない程の重傷を負っていたに違いない。

 

 「ベテルギウスの方も終わっている。君にはそれで出撃してもらいたい」

 

 「時間稼ぎって訳か。慣らし運転には丁度良いか、それよりもベテルギウスにもあの妙な仕掛けが施してあるのか?」

 

 月面での戦闘で起こった不可思議な現象。

 

 非常に不快になった反面、力も得たあの感覚。

 

 その仕込みをしたのが目の前にいる男の仕業であるとアルドはすでに察していた。

 

 カースは何も答えず、口元を歪めるのみ。

 

 だが、それこそが答えだった。

 

 「チッ、まあいいさ。力は力だ。有効に使わせてもらう、借りを返す為にな」

 

 吐き捨てたアルドは格納庫へと歩いていった。

 

 「……安心するといい。君はシステムとの相性が悪いみたいだから、そう簡単に潰される事もないだろう」

 

 「彼女とは違ってね」と誰にも聞こえないように呟くと、とある場所へと足を向ける。

 

 普段は誰も近づかない奥にある部屋。

 

 ノックもせず扉を開けて部屋に入ると、そこには一人の女性が頭を抱えて蹲っていた。

 

 「気分はどうかな、リアン」

 

 「ああ、あああ、頭がァァァ、くああああ!!」

 

 息も荒く、蹲り、痛みを訴えるリアンはカースが入ってきたことすら気がつかない。

 

 I.S.システムの弊害。

 

 アルドとは違いリアンはシステムと相性が良すぎた。

 

 だから彼以上に力は引き出す事はできても、反動はアルドの比ではない。

 

 「ああああ、わた、しは、マン、ト付きを、アシ、エル隊長のォォ!!」

 

 この様子ではまともに戦えるかも怪しいもの。

 

 いや、問いかけに対する返答すら期待するだけ無駄であろう。

 

 この状態では彼女がシステムを使用して戦えるのはあと一回が限度。

 

 つまり次にI.S.システムを使えばその時点で廃人が確定するという事である。

 

 それでも全く戦意が衰えない所を見ると、よほどセリス・ブラッスールを憎んでいるらしい。

 

 「……ここまでとは。女の情念というのも恐ろしいものがあるな」

 

 カースは狂気すら感じさせるリアンに全く怯む事無く、近づくと腕を掴んで無理やりこちらへ振り向かせた。

 

 「ぐぅ、私に、さわるなァァ!」

 

 「悪いがこのまま潰れてもらっては困るのでね。私の言う事を聞いてもらう」

 

 「ふざけるなァ!!」

 

 掴まれた腕を力任せに振りほどこうとするが、ビクともしない。

 

 殺意を込めて睨みつけたリアンだったが、その瞬間、驚きですべてを忘却してしまった。

 

 カースが仮面を外し、素顔を曝け出していたのである。

 

 「あ、あああ」

 

 それは朦朧とする意識が見せた夢か、消えない痛みの中の幻か。

 

 「もう一度言う。私に従ってもらうぞ、リアン」

 

 リアンは反発しようとした事実すら忘れ、ただカースの言う通りに頷くしか無かった。

 

 

 

 

 ザフトとテタルトス。

 

 彼らは自他ともに認める犬猿の仲である。

 

 祖国に残った者と見限った者。

 

 理由はあれど互いに敵意を向けるのは当然であり、戦場であるならなおさら砲火を交える事になるのは必定。

 

 「全く、嫌な勘ほど良く当たる」

 

 ヴァルターは襲いかかる無数の閃光を潜り抜けながら、思わずため息をつく。

 

 愛機であるセイリオスの眼前にいるのは当初の目的であるザラ派ではなく、鉢合わせになってしまったザフトの部隊であった。

 

 この前痛い目に遭わせたばかりで、再びこうして相対するとはご苦労な事である。

 

 それとも―――

 

 「これも奴の思惑通りという事か……」

 

 脳裏に笑みを浮かべる黒髪の男の姿が思い起こされる。

 

 いや、奴が何を考えていようとも自分がすべき事は変わらない。

 

 スコープを前にせり出し、ロングビームライフルを構えると即座に発射する。

 

 無造作に放った筈の一撃は無数に群がってくる敵機を容易く穿ち、死を示す光へと変えていく。

 

 「何!?」

 

 「か、回避を―――うわああああ!!」

 

 回避しようとしたゲイツの動きを先読みするかのよう胴体に突き刺さり、ビームが貫通する。

 

 それは後方で編隊を組んでいたジンやシグーも例外ではない。

 

 避けようとする獲物を逃さないとばかりに、鋭い射撃が飛ぶ。

 

 その一撃はまさに必中。並の者に逃れる術は無い。

 

 ヴァルターの攻勢に乗り、他の機体もフォーメーションを組みザフト機へ攻撃を仕掛けていく。

 

 「悪いけど、私の射程圏内に入った以上逃がすつもりはない。目的はあくまでザラ派の拠点を見つける事。邪魔する者は排除する―――ッ!?」

 

 その時、ヴァルターの表情が一瞬だけ驚きを露わにした。

 

 確実に仕留めたと確信するこちらが繰り出した一射を盾を持って防いだ敵がいたのである。

 

 モノアイが光を発し、頭部から突き出す角が特徴的で両肩には盾を装備していた。

 

 「ザフトの新型機。しかし目立つ色をしている」

 

 機体全体を覆う塗装は戦場で目を引くオレンジ色。

 

 よほど自分の腕に自信が無ければ、あんな色で塗装できないだろう。

 

 先程の一射を受け止めた事といい、アレはザフトのエースに相違ない。

 

 別に強い相手と戦いたいなどという戦闘狂染みた趣味はない。

 

 だが格下の者と戦って悦に浸るような趣向も持ち合わせていない。

 

 少しは手応えのある相手が現れたと口元を吊上げるヴァルター。

 

 それに相対していたオレンジ色の機体に搭乗しているハイネ・ヴェステンフルスは背中に冷や汗を掻いていた。

 

 先の一射。

 

 最新鋭機ZGMF-1001『ザクファントム』でなければ避け切れなかった。

 

 先行試作機で未だ調整不足な点もあるとはいえ機体の性能は十分に高いのだ。

 

 「そもそもこんな所にテタルトスの部隊がいるなんて聞いてないぞ」

 

 今回はこの宙域で目撃されたらしい正体不明の物体。

 

 その調査というのが上からの命令であり、月が動いているという情報は全く入っていなかったのである。

 

 それともその物体に月の連中が関わっているという事なのだろうか?

 

 「どちらにせよ放ってはおけないよな。それにしても、なんて射撃精度だよ!」

 

 針に糸を通すような一撃を寸分の狂いなく繰り出してくる敵の技量に舌を巻く。

 

 まさに獲物を狙う猛禽類。

 

 ザフトにもこれほどの腕を持ったスナイパーは何人もいまい。

 

 「実力のほど見せて貰う!!」

 

 「チッ!」

 

 再びターゲットをロックするとトリガーを引き、オレンジ色の機体を狙ってビームの一射を叩き込んだ。

 

 動きを止めたらその時点で終わってしまう。

 

 ハイネはシールドでビームを弾くと速度を落とさず突撃する。

 

 相手の土俵。

 

 すなわち距離を取っての戦闘では全く勝ち目がない。

 

 ハイネに勝機の目があるとするならば、スナイパーと戦う際のセオリー通り、接近戦に持ち込む以外に道は無い。

 

 「そう簡単にやれると思うなよ!」

 

 ハイネは腰に装着されているハンドグレネードを掴むとザクの正面で炸裂させ、機体全体を煙幕に覆われ姿を隠す。

 

 その瞬間にスラスターを吹かすと、初めてビームの射撃を回避した。

 

 「ッ!?」

 

 「これでどうだ!!」

 

 次の射撃までのインターバル。

 

 その隙に肉薄するとシールド内に搭載されたビームトマホークを抜き、上段から振り下ろした。

 

 普通であればこの時点でハイネの勝利。

 

 懐に飛び込まれたスナイパーの末路は決まっている。

 

 だが誤算があったとすれば、それは認識の違いだ。

 

 肉薄すればどうにかなると判断したハイネと懐に飛び込まれたとて余裕で対処可能なヴァルター。

 

 この違いこそ、この攻防の明暗を分けた。

 

 「な!?」

 

 必殺の一撃はセイリオスによって容易く弾かれ、下段に構えていたビームサーベルによる逆襲がハイネを襲う。

 

 「ぐっ!」

 

 咄嗟の機転で右肩のシールドを切り離し、敵機の腕に当てると剣の軌跡を逸らした。

 

 だが、完全な回避とまではいかず、胸部に傷が刻まれる。

 

 受ければ撃墜は必至だった今の一撃。

 

 致命傷を避けただけでも、十分に僥倖と言える。

 

 それでもハイネは悔しそうに吐き捨てる。

 

 「くそ、新型に傷つけちまった!」

 

 「新型を任されるだけはあるらしい」

 

 悔しがるハイネの反面ヴァルターは素直に相手の技量を称賛した。

 

 この技量、ザフトのエースパイロットに相違ない。

 

 手強い相手であると胸に刻みこみ、自身に慢心を抱かぬよう改めて戒める。

 

 「油断はしない。お前はこの先も厄介な敵になるだろう。ここで仕留めさせてもらう!」

 

 「簡単にはやられないさ!」

 

 二機はつかず、離れず、サーベルとトマホークが鎬を削る。

 

 その戦いに呼応するように周りの戦いもまた激しさを増してゆく。

 

 

 

 だがここで両勢力の激突をあざ笑うように、横腹を突く形で乱入者が現れる。

 

 

 

 フローレスダガーとゲイツ。

 

 光爪と光刃がぶつかり合い火花を散らす中、パイロット二人は突如接近してきたモビルスーツに目を見開いた。

 

 「な、何!?」

 

 「なんだ、あの機体は?」

 

 一機は漆黒の装甲を持ち、不気味さを垣間見せる機体『シグリード』

 

 そしてもう一機は―――

 

 「……フリーダム?」

 

 背中に見える一対の翼と砲身、さらに白く色付く四肢。

 

 その姿は中立同盟最強の一機と謳われたZGMF-X10A『フリーダムガンダム』を彷彿させる。

 

 だが、フローレスダガーのパイロットはすぐにその機体の正体に気がついた。

 

 「まさか……ベテルギウスか!?」

 

 それは『イクシオン』から強奪されたテタルトスの新型機LFSA-X000 『ベテルギウス』であった。

 

 基本的な武装のみを装備していた機体は当初のシンプルな印象を打ち消すかのように、背中や腕に見覚えのない武器を装着していた。

 

 思わず見入る2機。

 

 それを甘いとばかりに二機のパイロット達が予測していた以上に加速したベテルギウスが抜いたビームサーベルでバラバラにされてしまった。

 

 叫び声を上げる間もなく撃破された機体を尻目にベテルギウスが猛威を振るう。

 

 背中のビームランチャーとレール砲を跳ね上げ、同時に発射する。

 

 砲弾の直撃を受けたジンは腕を破壊され、為す術無くビームによって胴体を消し飛ばされた。

 

 その後ろから現れたシグリードがビームソードで邪魔する敵機を斬り刻みながらベテルギウスを援護してゆく。

 

 「機体の方は問題ないようだな、アルド」

 

 「ああ」

 

 ベテルギウスのコックピットに座るアルドは努めて冷静に返事する。

 

 しかしその口元は大きく歪み、思わず零れそうになる笑い声を必死に堪えていた。

 

 奪った時から分かっていたが、この機体の性能は高い。

 

 追加装着した武装やスラスターによってそれはさらに向上している。

 

 「月での借り、この機体で返すぞ、アスラン!」

 

 あの時の勝負はまだ終わっていない。

 

 今度こそ勝つのは自分であると改めて誓いを胸に刻む。

 

 敵の砲撃を舞うようにかわし、次々と敵モビルスーツを容赦なく屠っていった。

 

 「邪魔だァァ!!」

 

 下方から発射されたナスカ級のビーム砲を回避。

 

 ベテルギウスが構えたビームランチャーで右側面部を吹き飛ばすと回り込んで来たシグリードの背中からビームチャクラムが射出された。

 

 「今回は相手が悪かったな」

 

 コントロール可能な円刃は誤差なくナスカ級のブリッジを押しつぶし、さらにエンジン部分まで到達、深々と斬り裂いた。

 

 「おのれ!」

 

 「落とせ!」

 

 ナスカ級の僚機と思われる機体が向ってくるがそれは無謀という他ない。

 

 アルドは接近してきたゲイツが振り下ろしたビームクロウの腕を掴むと同時に残酷なまでの歪んだ笑みを浮かべる。

 

 「甘いんだよ!! 俺に近づくって事がどういう事か教えてやる!!」

 

 瞬間、背中の翼が開かれ同時に伸びるのはこれからパイロットに死をもたらす刃。

 

 「ビームサーベル!? 翼にマニュピレータ―が!?」

 

 その数合計六本。

 

 両腕を合わせると計八本のビームサーベルがゲイツに襲いかかる。

 

 「うわあああああ!!」

 

 その姿は悪魔。

 

 全身を支配する恐怖に叫び声を上げ、後退しようとするが逃げられる筈も無く―――

 

 「今更遅いんだよ!!」

 

 無慈悲な刃の前にゲイツは為す術無くバラバラとなり宇宙のゴミへと姿を変えた。

 

 『狂獣』の名に恥じない獣のごとき猛攻。

 

 そこにカースも加わり、戦場は捕食者による一方的な蹂躙劇の様相を呈していく。

 

 「あれは!?」

 

 「ベテルギウス!?」

 

 ハイネと攻防を繰り広げていたヴァルターは戦場で暴れまわるモビルスーツの姿に目を見開いた。

 

 「やはりここにいたのか」

 

 あれがいるという事はヴァールト・ロズベルクからもたらされた情報に誤りはなかったという事。

 

 増設されたと思われるベテルギウスの武装からも、この近辺に奴らの本拠地があるとみていい。

 

 ヴァルターは素早く状況を把握すると母艦に向けて指示を飛ばす。

 

 「本拠地は近くにある筈、ベテルギウス出現のポイントを割り出せ!」

 

 「了解!」

 

 「本命が出た以上、構ってられないのでね!」

 

 「ぐっ!」

 

 ザクを蹴り飛ばし、二機のモビルスーツが暴れている方へと機体を向けた。

 

 ここでベテルギウスが出てきた事は渡りに船だ。

 

 しかし同時に疑問も残る。

 

 「何故、今姿を見せる必要がある?」

 

 ザフトとテタルトスによって包囲された状態。

 

 脱出するならば、タイミングを見計らい両軍が消耗したところを狙えば良い。

 

 「他に目的が……いや、何を企んでいようとも!!」

 

 セイリオスはベテルギウスとシグリードへとロングビームライフルで攻撃を仕掛けてゆく。

 

 左右に飛び退き、ビームの狙撃を回避したカースはセイリオスの姿に特に感情を込める事無く淡々と告げた。

 

 「いい判断だ―――と言いたいところだが、些か遅すぎたな。準備は整った」

 

 カースがそう告げると空間が揺らぎ、それは姿を見せた。

 

 ボアズのような巨大な小惑星。

 

 パトリック・ザラ擁するザラ派の拠点『レメゲトン』

 

 前大戦期に建造された極秘拠点の一つである。

 

 だが、この場にいる全員が『レメゲトン』以外のものに目を奪われていた。

 

 

 

 問題だったのは、少し離れた位置に存在する物体。

 

 

 

 そこにあったのは知る者ぞ知る『悪夢の兵器』だったのだから。

 

 

 

 誰もが目を奪われ動きを止めたその瞬間―――暗い宇宙を照らすように眩い光が発生した。

 

 

 

 

 

 調査隊が出撃してからも『イクシオン』を含めたテタルトスの防衛拠点はもしもの場合に備えた準備に追われていた。

 

 それはローレンツ・クレーターでの戦いを終えたアレックスも同様だった。

 

 「もう大丈夫なのか、セレネ?」

 

 呼び出された格納庫に向かいながら隣を歩くセレネの事を気遣うように声を掛ける。

 

 「ええ」

 

 初陣を終えたセレネはやはり精神的に参ってしまったのか、しばらく調子が悪かった。

 

 セレネの過去を考えれば無理もない事だろう。

 

 戦争で家族を失った彼女が、戦場に立ったのだ。

 

 覚悟を決めていたからといって簡単に割り切れる筈もない。

 

 ましてや彼女は元々争いごとに向いている気質ではないのだ。

 

 「私はもう大丈夫。自分で決めた事だから」

 

 個人的には今すぐにでも戦場から離れてほしいというのが本音である。

 

 だが言って聞く筈もない事はもう承知していた。

 

 ならば言うべき事は一つだけだ。

 

 「セレネ、君は俺が守る。君と俺が目指した未来を守る為に俺は戦う。相手が誰であろうと」

 

 「……ありがとう。でも無理はしないで、私も頑張るから」

 

 「君こそな」

 

 お互いを気遣うように笑みを交わすと、格納庫で待っていた整備士の青年が声を掛けてきた。

 

 「お待ちしてました、少佐」

 

 「解析は?」

 

 「ええ、八割は終わっていますよ」

 

 後ろを見るとそこには鹵獲されたヅダが無造作に横たわっている。

 

 コックピット周り以外は激しい損傷を受けているようで、あの有様では修復も難しいだろう。

 

 何人もの人間が取りつき、端末を持って今も解析作業を行っているようだ。

 

 「しかしやっぱり『Fシリーズ』は良い出来ですよね。スペック見て驚きました。後付けの外部装甲も今研究中の『タキオンアーマー』や開発中の『コンバット』の参考になると報告が上がってきてます」

 

 やや興奮気味に話す整備士に苦笑しながらこれ以上脱線する前に本題に入る。

 

 「そうか。敵拠点の情報については?」

 

 そこが一番重要な事なのだが、整備士は頭を掻きながら首を横に振る。

 

 「事前にデータ消去が行われていたみたいで。今、復元作業を行っています」

 

 「そうか」

 

 連中もそこまで迂闊ではなかったという事だ。

 

 この辺は調査隊の方に期待していた方がいいだろう。

 

 「俺の機体は?」

 

 これが呼び出されたもう一つの要件だった。

 

 今まで搭乗していたイージスリバイバルはヅダと相討ちになってしまった為、アレックスには現在乗機が存在しない。

 

 それがヴァルターが調査隊に抜擢された要因の一つにもなっていた。

 

 それで前から開発されていた機体の調整を急ピッチで進めていた。

 

 それがようやく終わったという事で呼び出されたという訳だ。

 

 「こちらです」

 

 格納庫の奥まで案内されるとメタリックグレーの機体が自らを操る主を待つように佇んでいた。

 

 LFSA-X001 『ガーネット』

 

 テタルトス試作モビルスーツでエースパイロット用であるジンⅡでさえ対応できない技量を持つパイロット用に開発された機体。

 

 ベースとなったのは今までアレックスが搭乗していたイージスリバイバルである。

 

 「ん、あの装備は?」

 

 ガーネットの背中には見慣れない装備が装着されていた。

 

 「ああ、アレは試作コンバット『エクィテスコンバット』です」

 

 『エクィテスコンバット』はアレックス専用として開発された試作コンバット。

 

 高出力のスラスターを装備し破格の機動性を持つ事ができる装備である。

 

 「ただこの装備は時間がなかった所為で一基のみしか開発されていない為、予備パーツなども僅かしか存在していません。使用には十分注意してください」

 

 「ああ、分かった」

 

 早速、機体に乗り込もうとしたアレックスの元へ一人の兵士が慌てた様子で飛び込んできた。

 

 「少佐、緊急連絡です!」

 

 「どうした?」

 

 「調査隊が向った宙域で戦闘が発生し、敵の存在が確認されました」

 

 という事は提供された情報に誤りは無かったということだろう。

 

 ならば連中を掃討する為、近く自分達にも出撃命令が下る筈だ。

 

 決意を固めるアレックスだったが、兵士の言葉には続きがった。

 

 「ただそれだけでは無く、そのある物体も確認されたらしく……」

 

 「ある物体?」

 

 誰も想像すらしていなかったもの。

 

 その場にいた全員が思わず絶句し、アレックスもまた驚きを隠せなかった。

 

 「はい。それが―――『ジェネシス』であると」




機体紹介更新しました。

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