機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第10話 戦いの裏

 

 

 

 

 

 

 

 月に広がる灰色の大地。

 

 無数に存在している内の一つ、ローレンツ・クレーターで今まさにすべてを呑み込むのではと思われるほどの眩い閃光が放たれ様としていた。

 

 それは終わりの閃光。

 

 巻き込まれれば、確実な死が待っている。

 

 そこから何としても逃れようとテタルトスの機体が次々と宇宙へと駆け上がっていく。

 

 オーディンと合流したイザナギも傷ついた味方機の回収を行いながら、アレックスから全軍に伝えられた報告―――

 

 ローレンツ・クレーターに建造されているエネルギープラントが暴走、爆発するという報告をセーファスは拳を握り締めて、聞いていた。

 

 「……アラスカの再現か」

 

 話を聞いて思い浮かんだのは、それだ。

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役時、地球軍の本部であったアラスカ『JOCH-A』で起こったザフト侵攻作戦『オペレーション・スピットブレイク』

 

 地球軍本部を落とし、戦争を早期に決着させるという目的で行われたこの作戦は終始ザフト優勢で進められた。

 

 しかしその結末はザフトを道連れとするサイクロプスによる自爆という想像もしていなかったものとなった。

 

 今でこそいえる事だがパトリック・ザラの失墜はここから始まっていたと言ってもいいだろう。

 

 もしもという仮定に意味は無いが仮にパトリックの思惑通り、『オペレーション・スピットブレイク』が成功していたなら前大戦の状況も結末も変わっていたかもしれない。

 

 そんな益体の無い想像をため息と共に振り切ると、セーファスは基地へと降下を果たしているだろう味方の状況に思考を巡らせた。

 

 「味方の現状は?」

 

 「はい。テタルトス機、同盟機共に大半はエネルギープラント爆発の影響範囲外へと退避完了しています。それからアルスター機、カリエール機、帰還。カリエール機は少破している模様」

 

 「ブラッスール機は?」

 

 「帰還の報告は上がっていません」

 

 オペレーターからの報告に思わず眉を顰めた。

 

 未だに敵機と交戦中なのかもしれない。

 

 だが、不味い事にもう殆ど時間は残されていない。

 

 しかし今から味方機を支援の為に降下させるなど自殺行為だ。

 

 そうなると自力で戻ってきてもらう以外はないのだが。

 

 セーファスがどうすべきか顎に手を当て、思案していた。

 

 その時エネルギープラントの爆発によって起こった眩い閃光と共に衝撃波がイザナギを襲った。

 

 「姿勢制御、艦首上げ!! 周辺警戒!!」

 

 「了解!」

 

 振動が収まり、艦の状態を確認する為に指示を飛ばす。

 

 「船体チェック!」

 

 「異常ありません」

 

 結構な衝撃ではあったが、設置されていたエネルギープラントは大きな規模では無かった。

 

 その為、月軌道に展開していた戦艦に大きな影響を及ぼすほどでは無かったようだ。

 

 とはいえ爆発の威力は相応なもので、モビルスーツが巻き込まれればただでは済むまい。

 

 各所から上がってくる報告に耳を傾けながら、モニターを見る。

 

 クレーターから爆発による煙が立ち上がり、基地全体を覆っている姿が飛び込んでくる。

 

 もしもアレにアイテルが巻き込まれているとすれば―――

 

 最悪の想像がセーファス脳裏をよぎるが、それを覆すようにオペレーターが勢いよく振りかえる。

 

 それは想像していたものとは真逆の報告だった。

 

 「ブラッスール機、ミエルス大尉のジンⅡと共にローレンツ・クレーターから離脱したのを確認しました! しかし、アイテルはかなりの損傷を受けているようです」

 

 ジンⅡに抱えられるようにしてアイテルが帰還してくる姿が映し出されると、ブリッジクルーの誰かが息をのむ音が聞こえた。

 

 無理はない。

 

 見えたアイテルの姿は大破寸前と思えるほどにボロボロの状態だったからだ。

 

 片足、片腕の欠損に、肩部を含めた装甲の破損。

 

 さらに背中の装備であるセイレーンは殆ど原形を留めていない。

 

 よほどの相手と戦ったのだろう。

 

 ジンⅡがいなければ帰還する事もままならなかったかもしれない。

 

 「パイロットは?」

 

 「一応無事の様ですが、詳しい状態までは……」

 

 「念の為、医療班を待機させておけ」

 

 「了解」

 

 ブリッジに安堵したような空気が流れるが戒めるようにセーファスの声が飛ぶ。

 

 「気を緩めるな。敵母艦の探索はどうなっているか?」

 

 「は、はい、第二部隊がテタルトス機と共に現在も探索していますが、報告は上がってきません」

 

 すでにこの近辺の探索は終了し、残りはデブリが浮いている場所のみ。

 

 姿を隠すには絶好の所ではあるが、同時にあからさますぎる。

 

 つまり罠を張るには絶好の位置でもあるという事だ。

 

 セーファスの懸念とは裏腹にフローレスダガーとアドヴァンスアストレイの部隊が着実にデブリの元へと近づき、ビームライフルを構えた。

 

 アドヴァンスアストレイは軍でAA(ダブルエー)の愛称で呼ばれる機体である。

 

 元々性能自体は高かったアストレイに大戦のデータを基に改良したアドヴァンスアーマーを装着、機動性を強化した事で次世代機とも互角に戦える性能を得ている。

 

 誰もミラージュ・コロイドを展開している敵に対して、目視やレーダーで発見できるなどとは思っていない。

 

 少々乱暴ではあるが戦艦が待機しているだろう場所に向けて攻撃を加えるのが現状最も効果的な手だった。

 

 「ッ!? デブリの陰からローラシア級出現!!」

 

 拡大された映像には側面に見覚えのない装置を取りつけた二隻のローラシア級がデブリから飛び出していくのが映し出された。

 

 「ミラージュ・コロイドを解除したのか?」

 

 確かにあのまま隠れていてもモビルスーツからの攻撃をまともに受ける事になる。

 

 だが、セーファスから言わせればその対応事態が遅すぎると言わざる得ない。

 

 発見される前に何らかの対応を取る事は出来た筈。

 

 ミラージュ・コロイドの性能を過信していたのか、それとも―――

 

 エンジンを吹かしミサイルやビーム砲を発射しながら逃げようとするローラシア級。

 

 逃れる敵艦に各機が攻撃を開始しようとしたその時、何の前触れも無く突如二隻の艦は爆散した。

 

 「なっ、自爆だと!?」

 

 凄まじい閃光と衝撃。

 

 それと共に格納されていたウイルスアンカーが周囲に飛び散る形で拡散していく。

 

 不味い。

 

 アレに当たれば、モビルスーツはおろか戦艦も制御を失う事になる。

 

 下手をすれば月面に叩きつけられて終わりだ。

 

 そんな事はさせてたまるかと、セーファスは咄嗟に声を上げた。

 

 「くっ、モビルスーツ隊はウイルスアンカーを近づけるな! 各砲座は近づく残骸すべてを撃ち落とせ!!」

 

 イザナギ、オーディン、クレオストラトスが飛び散る残骸を迎撃していく中、固く拳を握り締める。

 

 「……やってくれるな」

 

 あの二隻のローラシア級。

 

 おそらく搭乗していたクルーは最低限の人数のみで初めから自爆するつもりであそこに待機していたに違いない。

 

 彼らの主力はエネルギープラントの爆発に紛れて撤退し、わざとデブリに隠れていたローラシア級が注意を引きつけて自爆。

 

 そうして撹乱及び足止めを行い本隊を逃がすという方法をとったのであろう。

 

 「となればテタルトスの新型もすでに本隊と共に離脱しているか」

 

 セーファスは現状これ以上の追撃は不可能と判断する。

 

 敵を完全に見失ってしまった上にこちらの損害も軽くは無い。

 

 「結局、後手に回るしかないという事か」

 

 憂鬱な気分をため息と共に吐き出しながら、残骸の対処に取りかかった。

 

 

 

 

 セリスは夢を見ていた。

 

 目の前に浮かぶのは月での戦い、コンビクトとの死闘だった。

 

 あらゆる手を尽くし、自分の持ちうるすべてをぶつけた。

 

 『SEED』を使っていた訳ではない。

 

 しかし未だに使い方も分からず、理解も及ばないものを自分の力とするほどセリスは迂闊なつもりはない。

 

 紛れも無くあれこそがあの時のセリスの全力であった。

 

 だがそれもあの敵には通用せず、一蹴されてしまった。

 

 敵を侮った訳でもなければ、訓練を怠ったつもりもない。

 

 それだけ敵が強かったという事。

 

 セリスの完全な敗北だった。

 

 

 最後の攻防もそうだ。

 

 

 「死ねェェェェェ!!!!」

 

 

 両手で握られたコンビクトのビームサーベルがアイテルに振り切られる。

 

 あれほどの速度で接近してくる敵機、放たれる左右から挟み込む刃。

 

 これから逃れる術はない。

 

 無理に回避しようとすれば、あっさりと真っ二つにされてしまう。

 

 ましてやあれほどの精度で攻撃を加えてくるのだから、アイテルを捉えてくるのは当然と言える。

 

 だからセリスが選択したのは攻勢に出る事だった。

 

 「私はまだァァァァァ!!」

 

 アイテルは後退から一転し、前へと出る。

 

 それを見たリアンは自身の勝利を確信した。

 

 機体状態や自身に作用しているI.S.システムの恩恵。

 

 負ける要素は無いとするリアンの判断は間違っていない。

 

 だが、彼女は一つ失念していた事があった。

 

 こうして追い詰められてなお予想を裏切ってくるのが彼女の宿敵であるのだと。

 

 「私の勝ちだァァァァァ!!!」

 

 離れていた距離が零となり、振るわれた光刃が交錯する。

 

 相手を捉えたと確信したリアンだが、そこで一直線に走るものを眼の端で捉えた。

 

 それはアイテルの腰部に搭載されていたビームガンの光だ。

 

 「なっ!?」

 

 リアンはこちらを狙う一撃を神懸かり的な反応で回避しようと試みる。

 

 だがそれはこの場に限って、悪手と言わざる得ない選択となった。

 

 機体を逸らした事で致命傷こそ避けられたが脇腹部分が抉られてしまった。

 

 それは僅かではあるものの剣閃をズラされた事を意味する。

 

 ビームガンはビームライフルなどに比べても低出力であり敵機に対する牽制用として使用される事が主である。

 

 しかしその真価は至近距離でこそ発揮する。

 

 距離を詰めた状態から直撃させればコックピットを貫通させる事も隠し武器としても使う事が可能。

 

 現にここまでセリスはビームガンを極力使用してこなかった事で、結果的にではあるがリアンの意表を突く事に成功したのだ。

 

 「ここだ!!」

 

 ブルートガングでサーベルを叩き落とし、突き出した一撃がコンビクトの頭部を吹き飛ばした。

 

 リアンは自分の迂闊さに歯噛みしながら、メインカメラが破壊された事で乱れたモニターの映像を睨みつけた。

 

 「貴様ァァァァァァァ!!!」

 

 ここまで追い詰めていながら。

 

 ここまでの力を得ていながら。

 

 負けるなどあり得ない。

 

 「そうだ、負けて堪るものか!!!」

 

 自らを苛む激しい痛みも、自分から勝利を奪おうとする脅威も、すべてを捩じ伏せる。

 

 リアンは未だに動く右足を振り上げ、渾身の蹴りを叩きこむとアイテルの左腕を斬り飛ばした。

 

 「ぐっ、こいつまだ!?」

 

 リアンは手を緩めず、畳みかける。

 

 回し蹴りでアイテルの下腹部を抉り、さらに地面へと蹴り落とす。

 

 「きゃああああ!!」

 

 「ハァ、ハァ、ハァ、このまま、ぐぅうう、あ、頭がァァァァ!!」

 

 激しくなる頭の痛みを堪えながら、落ちるアイテルに止めを刺そうとするが、そこで機体の警告音が大きくなる。

 

 流石に酷使し過ぎたようで受けたダメージの蓄積に加え機体状態は最悪に近い。

 

 「それでも……止めを―――ッ!?」

 

 アイテルに迫ろうとしたコンビクトだったが進路を塞ぐように、ビームが撃ちかけられ、別方向からジンⅡが迫ってきた。

 

 「ぐっ、おのれェェ!!」

 

 この期に及んで邪魔が入るとは。

 

 「悪いが中尉をやらせる訳にはいかない」

 

 リベルトは素早くビームライフルを叩き込み、コンビクトを引き離すとアイテルを掴み上げ、離脱を図る。

 

 「逃がす……ぐっ、くそ!」

 

 メインカメラの破損に加え、I.S.システムの負荷が限界に達した事もあり、視界が霞む。

 

 その為にビームライフルを射線も取れず、回避運動を取るのが精一杯だ。

 

 それも無理はない。

 

 機体もパイロットも限界だったのだから。

 

 結局、離脱していく敵を追う事も出来ず、リアンもまた失いかける意識の中、撤退せざる得なかった。

 

 

 

 

 激しい戦いの光景から一転。

 

 セリスが目を開いた先に見えたのは、白い天井と心配そうにこちらを見つめるニーナの顔だった。

 

 「う、ニーナ?」

 

 「目が覚めた?」

 

 差しだされた水の入ったコップに口をつけると、乾いていた喉が潤っていく。

 

 自分でも気がつかないほど喉が渇いていたのか、一気に飲み干してしまった。

 

 「ありがと、ここは?」

 

 「イザナギの医務室よ」

 

 イザナギ?

 

 確か、アメノミハシラで建造された宇宙戦艦だった筈。それが何故ここにいる?

 

 いや、そもそも自分達は戦闘中だった―――

 

 意識をはっきりさせようと頭を軽く振ると徐々に記憶が蘇ってくる。

 

 コンビクトとの激闘の末に敗れ、落とされ掛かった所をリベルト大尉に救われたのだ。

 

 「思い出した?」

 

 「うん。あれからどのくらい経ったの? 作戦は?」

 

 「貴方が回収されてからまだ一時間くらいしか経っていないわ。作戦についてはまだ詳しい情報が入ってきた訳じゃないのだけど……」

 

 ニーナの話によるとローレンツ・クレーターでの戦いはほぼ終息、

 

 潜んでいた敵艦も自爆という形で撃沈した事で敵も完全に退いたと判断された。

 

 今は敵艦自爆の衝撃を受けた艦の補修や傷ついたモビルスーツの修復を行いながら、万が一に備え周辺の探索を行っているらしい。

 

 エネルギープラント自爆によって基地は大部分が見る影も無く破壊され、データの回収は不可能となった。

 

 元々重要データの類は残されていなかったらしいが。

 

 ただ、敵機の何機かを鹵獲した事で何かしらの情報が得られる可能性もあるとの事。

 

 それが収穫と言えば収穫なのだろう。

 

 状況を把握し、頷いたセリスはもう一つ気になる事を口にする。

 

 「アイテルは?」

 

 「……大破に近い状態よ」

 

 それを聞いたセリスはショックを受けると共にやはりという思いを抱く。

 

 自らが操っていた愛機の状態は正直言ってかなり酷いものだった。

 

 それこそ生き延びる事ができたのが不思議なほどにだ。

 

 自分を指導し導いてくれたレティシアが搭乗していた機体だけにアイテルには強い思い入れがあった。

 

 託された機体。

 

 そんな思いを抱いていただけに自分の力不足故に大破寸前にまで追いやられたのは本当に悔やまれる。

 

 「今、整備班が修復できるか調べているらしいわ」

 

 突き付けられた現実に気落ちするセリスをニーナは少し躊躇うように言葉を紡ぐ。

 

 「セリス、大丈夫よ。貴方の強さはよく知っている。貴方は……彼らなんかには決して負けない」

 

 「ニーナ?」

 

 ニーナの表情がどこか暗い気がする。

 

 前にもこんな表情をしていた事はあったが―――

 

 気になって声を掛けようとしたセリスだったが、普段通りの優しい表情に戻っていたニーナは想像もしていなかった事を告げた。

 

 「それに安心しなさい。『持ってきた新装備を無駄にして堪るかって』アイテルは必ず直すって整備班長も言ってたからね」

 

 「そっか……って、え? 新装備!?」

 

 「ええ、ヴァルハラから運ばれてきて、今はアイテル修復と同時に調整も行っているらしいわ。もう大丈夫なら格納庫に見に行ってみる?」

 

 驚きも冷めやらぬまま、セリスは頷いた。

 

 ニーナと共にイザナギの格納庫に降りたセリスが見たのはあまりにも無残に破壊された愛機の姿だった。

 

 全身が傷だらけのその姿は、自身の無力の証明。

 

 何とも言えぬ感覚に身を震わせるセリスだったが、それを吹き飛ばすように怒号が響き渡った。

 

 「馬鹿野郎!! そこのパーツは交換しろって言っただろうが!! そっちの装甲はすべて破棄しろ、使い物にならないからな!! アドヴァンスアーマーを装着させるんだから、慎重にな!!」

 

 声を荒げ、指示を出し続けているのはセリスも良く知っている整備班長だった。

 

 絶えず指示を飛ばし続けている光景は懐かしさすら覚える。

 

 「班長、相変わらずみたい」

 

 「また怒られるかもしれないなぁ」なんて内心考え苦笑しながら、班長の方へ近づいていく。

 

 そこで修復されているスウェアの隣に見覚えのある機体が佇んでいるのに気がついた。

 

 「あの機体は……」

 

 「ああ、『ターニング』ね。ローレンツクレーターで私はあの機体に助けられたの」

 

 SOA-X02r 『ターニングガンダム・オービット』

 

 前大戦で投入されたターニングガンダムの改修機である。

 

 量産化や後継機を考慮し、より性能を高めながらも可変機構を簡略化。

 

 扱い易くする為にOSなど様々な点に改良が加えられている。

 

 セリスもその後ろで『ターニング』の戦いぶりを見ていたからよく知っている。

 

 細部に改修を受け武装も変更されているようだが、基本的な姿は変わっていない。

 

 という事はパイロットも同じなのだろうか?

 

 その事をニーナに訪ねようとしたセリスの下に目を引く美しさを持った一人の少女が近づいてきた。

 

 「少尉、彼女の目が覚めたのね」

 

 「アルスター二尉」

 

 「フレイでいいわよ」

 

 敬礼を取るニーナに続きセリスも敬礼を返す。

 

 何というか一言でいうなら、綺麗な人だった。

 

 軍人など似つかわしくないほどに。

 

 それに彼女にも見覚えがある。

 

 確かアークエンジェルの―――

 

 「ターニングガンダムのパイロット、フレイ・アルスター二尉です。よろしく、ブラッスール中尉」

 

 「よろしくお願いします、アルスター二尉」

 

 「貴方もフレイでいいわ。年も近いし」

 

 「はい、私もセリスでお願いします」

 

 穏やかな笑みを交わし合い、フレイと雑談を交わしながらで班長の所へ歩き出した。

 

 「じゃあ、フレイさんは増援とデータ収集の為に月へと来たんですか?」

 

 「ええ。AAのアドヴァンスアーマーと試作されたムラサメの宇宙での運用テストも兼ねてね」

 

 AA―――すなわちアドヴァンスアストレイの横にはオーブ軍で配備が進められている新型機であるムラサメが立っていた。

 

 ムラサメはターニングガンダムのデータを参考に開発された可変機構を備えた機体である。

 

 その機動性は折り紙つきで飛行形態へ変形すれば特殊な装備を装着せずとも空戦も可能。

 

 四方を海に囲まれたオーブを防衛するには最適な機体と言える。

 

 「ただ最近はさらに新型を開発するべきだって言う声も上がっているの」

 

 「え!? ムラサメが配備され始めたばかりなのにですか?」

 

 「ええ」

 

 ムラサメは紛れも無く同盟にとって最新型のモビルスーツである。

 

 配備されている数は未だ少ないものの、性能は他勢力の次世代機と互角に戦える性能を持っている。

 

 にも関わらずすぐに別の新型を求める理由―――

 

 それは単純に同盟の上層部が他勢力の新型に脅威を覚えたから。

 

 つまりテタルトスの新型ジンⅡの性能にである。

 

 テタルトスと同盟は敵対関係にはなく、むしろ友好的な関係だ。

 

 しかしそれはあくまでも現状での話。

 

 この先にどうなるのかは誰にも分からない。

 

 さらには休戦したプラントや現状未だに戦争状態である地球連合がさらに強力な新型を開発してくる可能性も否めない。

 

 ジンⅡというムラサメを上回る機体が存在している以上、同盟上層部が危機感を強めるのも当然と言えた。

 

 「まあ、その辺の話は後でね。班長、セリス中尉が来ましたよ」

 

 「ん、おう! 久しぶりに会ったと思ったら、随分派手にやられたみたいじゃねぇか」

 

 相変わらずの職人気質というか、歯に着せない物言いにセリスは思わず苦笑してしまった。

 

 「すいません、班長。アイテルをこんな風にしてしまって……」

 

 気落ちしたように謝るセリスに班長は呆れたようにため息をつくとこちらの心情を見透かしたようにぶっきらぼうに告げる。

 

 「ハァ、何言ってんだ。無事に戻ってきただろうが、それで充分だろ」

 

 「えっ」

 

 「モビルスーツは直せばいい。だがパイロットはそうはいかねぇ。死んじまったらそれで終わりだからな。お前は何であれ生き延びた、それで良いんだよ」

 

 驚いたように見つめてくるセリスに班長は舌打ちすると鼻を鳴らして背を向ける。

 

 「ふん、分かったら、さっさと格納庫から出ろ! 仕事の邪魔だ!!」

 

 何と言うか彼は本当に変わっていないようだ。

 

 「もう、本当に不器用なんだから」

 

 「ええ。でも班長の言う通りですよね」

 

 苦笑するフレイやニーナと共にセリスは班長の気遣いに感謝しながら、修復中のアイテルを見上げる。

 

 今度は負けない。

 

 必ず貴方を乗りこなして、仲間を守って見せる。

 

 そう決意しながらセリスは拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 未だ月へと留まる同盟とテタルトス。

 

 両軍を尻目にザラ派所属のローラシア級が数隻、この宙域から距離を取って行く。

 

 戦線から離脱したザラ派の面々はすでに母艦が回収し、殆ど人員の乗っていないローラシア級を囮にして予定通りの進路を進んでいた。

 

 ここまで離れればもはや彼らに自分達を捕捉する事は叶うまい。

 

 敵を警戒しながらこちらを探す彼らの姿をブリッジでほくそ笑みながら眺めていたカースは手元の端末へと目を向ける。

 

 そこには先の戦闘データ―――ヅダとコンビクトものが映し出されていた。

 

 「……所詮は未完成品か」

 

 彼らの機体に搭載された仕掛け―――I.S.システム。

 

 『Imitation Seed system』は特殊な催眠処置と投薬を用いてSEED発現状態を擬似的に再現する事が出来るシステムである。

 

 このシステムは適正を持つものしか発現できないSEEDの力を誰でも使用可能という絶大な効果を持つが、反面パイロット負荷が大きすぎるという欠点があった。

 

 さらに未だシステムそのものが未完成であり、SEEDの力も安定しない。

 

 しかも今回分かったのが、システムの効力に個人差が存在するという事だった。

 

 今回の被験者であるアルド・レランダーとリアン・ロフト。

 

 この二人のシステムの効果はまさに正反対と言える。

 

 アルドの方はシステム発動には成功したが通常状態と発現状態が安定せず、非常に不安定で酩酊状態にも似た症状を引き起こした。

 

 リアンについてはその反対。

 

 彼女の適正の高さ故か、システム発動は問題なく行え、効果も問題なかった。

 

 だが、彼女の場合は度を過ぎた効果を発揮した為にパイロットへと負荷が大きくなりすぎた。

 

 そのダメージは戦闘中にも関わらず安定した力を発揮できなくした。

 

 結果、最後の最後までガンダムを追い詰めながら、取り逃がした。

 

 しかもパイロットであるリアンの精神に深刻な傷を与えてしまった。

 

 これではどれだけ力を引き出そうとしても無意味。

 

 誰が用いても安定した効果が見込めなければ、兵器としては役に立たない。

 

 「……要望通りデータは取得した。それにこのシステムが完成すれば色々と使い様があるだろう」

 

 カースが端末のスイッチを切り、思案するように目を閉じる。

 

 ローラシア級はそのまま帰還の道を辿っていく。

 

 順調に進んでいくものだと誰もが思っていたその時―――大きな振動と爆発が艦を襲った。

 

 「な、なんだ!?」

 

 「きゃあああ!!」

 

 浮足立つブリッジ。

 

 そこにカースの声が響き渡った。

 

 「艦停止! 浮足立つな! 状況を知らせろ!」

 

 普段から仮面をつけ不気味な雰囲気を漂わせている男からの一喝に皆が一瞬動きを止めるが、すぐに正気に返ると次々に報告を挙げていく。

 

 「機雷源です! 小型ではありますが、艦前方に散布してあります!」

 

 「二番エンジンの出力、低下! 一部外壁破損、隔壁閉鎖します!」

 

 「ミラージュ・コロイド発生装置の一部が機能停止!」

 

 どうやらこちらの動きを読んでいた奴がいたらしい。

 

 そこにあらかじめ罠を張っていたようだ。

 

 さらにブリッジに警戒音が鳴り響く。

 

 「熱源、急速接近!!」

 

 「数は?」

 

 「一機ですが、これは―――モビルアーマーです!!」




すいません、仕事と息抜きでやってるFate/Grand Orderの為に遅くなってしまいました。

機体紹介更新しました。

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