機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第5話  奪われた力

 

 

 

 

 

 ある意味予測していた不測の事態。

 

 外で起こった爆発による振動がイクシオンを大きく揺らす中、状況を把握したアレックスは即座に動き出した。

 

 「俺が外へ迎撃に出る! 君達はカガリを連れてオーディンに戻れ! 此処からならシェルターに行くよりはその方が近い! セレネは中佐と司令室へ!」

 

 「はい!」

 

 「了解です!」

 

 セリス達はアレックスの言葉に従う形でカガリを庇いつつ素早くオーディンのいる港の方へと走り出した。

 

 「……どこの誰かは知らないがここまで直接的な行動に出るとは」

 

 大気圏付近で遭遇した正体不明機による再びの奇襲攻撃。

 

 だが近々行動を起こす事自体は予想の範囲内である。

 

 しかし、気になる事があった。

 

 収集したデータを解析しても、確かに彼らの扱う機体性能は高い。

 

 だが、ここはテタルトスの軍事ステーション。

 

 襲撃者とは基本的な物量が違いすぎる。

 

 優勢なのは最初だけで、それ以降は囲まれて殲滅されてしまうだけだ。

 

 大気圏での鮮やかな退き際から見てもそんな事が分からないとも思えないのだが。

 

 「それとも他に目的があるのか?」

 

 「カガリ様、考えるのは後で。今はオーディンへ行く方が優先です。セリス、ニーナ、オーディンに戻り次第、君達も出撃して欲しい。港が潰されたら、オーディンでも持たないだろう」

 

 「「了解!」」

 

 ショウの言う通り、港に停泊したままの戦艦など潰されるのを待つだけの棺桶だ。

 

 進路を確保する為にも、モビルスーツによる退路の確保は必須事項である。

 

 入口が潰される前にオーディンへ急がなければ―――

 

 しかし一歩遅かった。

 

 通路を走っていたセリス達に凄まじいまでの衝撃と震動が襲いかかる。

 

 「くっ」

 

 セリスは咄嗟にカガリに飛び付き、覆い被さると頭を抱える。

 

 運が良かったのか。

 

 震動ほど損傷が大した事は無かったのか。

 

 幸い天井が崩れ落ちてくる様子はない。

 

 「大丈夫ですか、カガリ様?」

 

 「ああ、この手の事は二度目でな。慣れてるよ」

 

 皮肉げに笑みを浮かべるカガリ。

 

 こんな事に慣れているというのも、可笑しな話だが今はそれでころではない。

 

 「ニーナ、ショウさん、大丈夫ですか?」

 

 「ああ、こちらは問題ない」

 

 「私も大丈夫よ」

 

 近くで伏せていた二人も怪我は見当たらない。

 

 安堵しながら、立ち上がると四人はそのままオーディンの停泊していた港へ駆け込む。

 

 だが、そこは先の攻撃で入口が破壊されたらしく無残な惨状が広がっていた。

 

 「くっ、遅かったか」

 

 港の残骸が散乱している中、オーディンには損傷は見られない。

 

 おそらく出撃しようとしていたテタルトス所属のナスカ級が盾代りになったのだろう。

 

 急いで艦の中へ飛び込みセリスとニーナは格納庫へ、カガリとショウはブリッジへ走る。

 

 「アルミラ大佐、状況は!?」

 

 「カガリ様、ご無事で!」

 

 「ああ、幸い皆、怪我もない。それよりも―――」

 

 「ええ、オーディンは若干、損傷を受けてはいますが、航行や戦闘には大きな支障はありません。ただ出口を塞がれてしまう動けない状態です。外ではテタルトス軍と例の機体が交戦中です。中には敵の新型機も混じっているとか」

 

 先程の大きな衝撃はどうやらその新型機の一撃によるもの。

 

 状況は刻一刻と変化しているようだが、とにかく動けなければ意味がない。

 

 そこに良いタイミングでセリス達から通信が入ってくる。

 

 「アイテル、スウェア、発進準備完了です」

 

 「分かった。イクシオンの司令室へ繋げ!」

 

 「了解!」

 

 司令室はどうやらかなり慌てているらしく、モニターからでもその様子が見て取れた。

 

 「司令室、港口が損傷し、艦が動かせない。港の残骸を処理する許可を!」

 

 《申し訳ないが、しばらくそのまま待機していてもらいたい。外も戦闘で混乱し、さらに現在内部にも数名の侵入者がいるという報告も上がっている》

 

 「ッ!? ならばせめてモビルスーツだけでも出撃させて欲しい。防衛の戦力は多い方が良い筈だ」

 

 《しかし―――ッ、少し待て》

 

 上の指示を聞いているらしく、耳に当てた通信機で会話をしているとすぐにこちらに視線を向けた。

 

 《モビルスーツの出撃許可が出た。ただし、戦艦はこちらの状況が落ち着くまでは動くなとの事だ》

 

 「……了解だ」

 

 VIPの乗る艦を戦闘に出したくないという事なのだろうが―――いざという時は向うの指示を受けずに動く準備はしておくべきか。

 

 テレサがショウの方を見るとこくりと頷いた。

 

 「アイテル、スウェア、出撃! テタルトス軍と協力して敵勢力を排除せよ!」

 

 「「了解!!」」

 

 オーディンのハッチが開き、二機のガンダムがカタパルトデッキを歩いて格納庫の外へと出る。

 

 出口は残骸によって塞がれてはいる。

 

 しかしモビルスーツが通れる程度の隙間を発見した。

 

 「ニーナ、あそこから外へ出れる」

 

 「ええ」

 

 本当は吹き飛ばすのが一番効率が良いのだろうが、他国の軍事ステーション内で勝手な真似はできない。

 

 邪魔な残骸をシールドで取り除き、戦場となった宇宙へと飛び出す。

 

 そこでは大気圏近くで戦った正体不明機がテタルトスのモビルスーツと交戦しているのが見えた。

 

 「やっぱりあの時の機体!」

 

 戦ったばかりで、見間違う筈はない。

 

 あの黒い機体だ。

 

 特徴的な外部装甲を纏い、背中にはいくつかの武装が装着されている。

 

 「行くわよ、セリス、港から引き離すわ!」

 

 「了解!!」

 

 スラスターを噴射させ、動き回る機体へ追いつくとスウェアのビームライフルが火を噴いた。

 

 発射されたビームが正確に敵の武装を弾き飛ばすと、アイテルがセイレーン改に搭載されたロケットアンカーを射出する。

 

 この武装はザフトのゲイツに搭載されていたエクステンショナル・アレスターと同様の武装だ。

 

 最大の違いは先端部分に小型のスラスターが搭載されている為、ある程度ならコントロールが可能な点であろう。

 

 そういう意味ではドレッドノートのプリスティスビームリーマーに近いかもしれない。

 

 ただこれは無線式ではない為、有線が断ち切られるとコントロールは不可能になってしまう。

 

 セリスは素早くコンソールを操作し、動くヅダに向けてロケットアンカーをコントロール。

 

 ジグザグな起動を描きながら逃げる機体に追随し外装部分に直撃させる。

 

 「ここ!」

 

 有線を横に振り抜きアンカーを突き刺したヅダを他の敵機にぶつけて吹き飛ばすと、ビーム砲を発射する。

 

 体勢を崩し避ける事もままならない敵にビームが直撃。

 

 半壊状態へと追い込むとその隙を見逃す事無くビームサーベルで斬り捨てた。

 

 「これで一つ!」

 

 「流石ね、セリス。私も負けてられない!」

 

 ニーナの放ったアータルがアイテルによって吹き飛ばされたもう一機のヅダの腕を消す。

 

 さらに撃ち出したタスラムの砲弾がパイロットごとコックピットを押しつぶした。

 

 「やはりあの機体にはPS装甲は搭載されていない」

 

 元々前回の戦闘からも予測はされていた事だった。

 

 外部装甲や肩部に接続されたビームクロウ内蔵のシールドはかなりの堅牢さを持っていた。

 

 だが機体本体はタスラムの散弾の直撃で損傷を受けていた。

 

 つまりあの厄介な外部装甲を破壊し、丸裸にしてやれば防御力はさほど高くは無いという事だ。

 

 「ならいくらでもやりようはある。セリス、まずは外着けの装甲とスラスターを狙うわ」

 

 「了解!」

 

 最初こそあの速度に面食らったが、もう慣れてしまった。

 

 こうなればもう二人には通用しない。

 

 ニーナが上手く砲撃でヅダを誘導し、待ち構えていたセリスが装甲を破壊。

 

 露出した機体にライフルを突き付けて撃ち落とした。

 

 二機のガンダムが連携を取り、テタルトス軍を援護した事で徐々に状況は変わり、敵の攻勢を押し返していく。

 

 しかし、そんな二人目掛けて怨嗟の閃光が上方から迫る。

 

 「上から!?」

 

 「新手!?」

 

 アイテルを狙った一撃をシールドを上に向けて防ぐと砲撃が来た方向へ視線を向ける。

 

 背中に特徴的な大型バーニアと肩に装着された長い砲身。

 

 「マント付きィィィィィィ!!!!」

 

 リアンのコンビクト・エリミナルがビームサーベルを構え、凄まじい速度で突撃してきた。

 

 「速い!?」

 

 敵からの斬撃を避け切れないと判断したセリスは腕部に装着されているブルートガング改で受け止める。

 

 「はああああああああああ!!!!」

 

 「ぐぅぅぅぅ!!」

 

 思わず吐きそうになるくらいの衝撃。

 

 そしてブルートガングとビームサーベルが鍔迫り合い、目も眩むほどの閃光が弾け飛ぶ。

 

 速度が乗っていた分、刃が叩き折られてしまうのでは懸念する程の一撃にセリスは思わず歯噛みした。

 

 「落ちろォォォォ!!!」

 

 「こ、こいつ!!」

 

 バーニアを吹かし、力任せに押し込んでくるコンビクト。

 

 力勝負は不利になると判断すると一度体勢を立て直す為、腰部に装備されたビームガンを至近距離から撃ち込んだ。

 

 「チィ!」

 

 ビームガンの一射が腕部を掠め、怯んだところで突き離し二機が弾け合う。

 

 そこにニーナの放った砲撃がコンビクトを狙い撃った。

 

 「邪魔するな、雑魚がァァァ!!」

 

 怒りに任せタスラムの砲弾を機関砲で叩き落とし、腰にマウントしていた連装ビーム砲でスウェアに撃ちこんだ。

 

 「セリス!」

 

 「了解!」

 

 ビーム砲を下に回り込む事で避けたニーナは、腕を突き出すと装甲が解放されガトリング砲がせり出された。

 

 両腕から連射された銃弾をコンビクトに浴びせ、アイテルが回り込んでサーベルを横薙ぎに振るう。

 

 「この程度で!!! 舐めるなァァァ!!」

 

 無数の銃弾をシールドで防ぎ、さらにサーベルをやり過ごすとアイテルに対し執拗なまでに攻撃を加えていく。

 

 「この敵は!?」

 

 身震いするほどの殺気を放ち、襲いかかる敵機にセリスは冷や汗を流す。

 

 「強い、それに―――いや、怯んでる暇なんてない!」

 

 自分を叱咤しながら、反撃の機を窺う。

 

 だがどれだけ攻撃を捌こうとコンビクトは攻撃の手をを緩めない。

 

 「お前は絶対に私の手でェェ!!」

 

 互いに振るった光刃が煌き、弾け合う。

 

 何度も繰り出される一撃が暗い宇宙に鮮やかな軌跡を作り出した。

 

 

 

 

 突如襲った敵モビルスーツからの奇襲。

 

 その混乱からようやく立ち直り、迎撃に集中し始めたイクシオンだったが現在さらに面倒な事態になりつつあった。

 

 ヅダの攻撃に紛れ、数人がイクシオン内部に潜入してきたのである。

 

 バルトフェルド達と別れ、無重力で揺れる通路を飛ぶように移動していたアレックスは端末から現在の状況を聞きながら、格納庫に向かっていた。

 

 「侵入者ですか?」

 

 《ああ、正確な数は分からないが、格納庫付近でこちらの警備隊と交戦中だ。お前さんなら大丈夫だと思うが一応気をつけてな》

 

 「了解!」

 

 端末を切り、移動を再開するとこの先で行われている銃撃戦の音が聞こえてくる。

 

 「敵か」

 

 警戒しながら懐に忍ばせていた拳銃を取り出し、銃弾飛び交う戦場へと飛び込んだ。

 

 アレックスは一瞬だけ、格納庫の様子を見る為に視線を左右に流しす。

 

 物資やモビルスーツの陰に隠れ、侵入者と警備隊がお互いに銃を撃ち合っている。

 

 即座に状況を把握したアレックスは躊躇う事無く、銃撃戦が行われている箇所へ身を躍らせる。

 

 「少佐!?」

 

 「構うな! 銃撃を続けろ!!」

 

 壁を蹴り、上方からパイロットスーツを着込んだ男を狙撃した。

 

 「ぐぅ!」

 

 アレックスの銃弾がヘルメットのバイザーを貫き、敵は血を撒き散らして絶命する。

 

 動かなくなった体を残った敵の方へ蹴りつけ、動揺したところにさらに銃撃を叩きこんだ。

 

 「があ!」

 

 一人は胸部を撃たれ、もう一人は脇腹を抜かれて蹲った所にナイフで喉を裂かれ死亡する。

 

 アレックスは味方の援護を受けながら、次々と侵入者を仕留めていった。

 

 「このまま殲滅―――ッ!?」

 

 こちらの動きを阻害するように放たれた銃撃を物陰に隠れてやり過ごした。

 

 「やるじゃねーかよ。大したもんだぜ!」

 

 「まだ残っていたのか」

 

 物陰から相手の姿を窺う。

 

 他と同じくパイロットスーツを着込んでいるが、佇まいには隙がない。

 

 どうやらかなり場慣れしているようだ。

 

 バイザー越しからでも分かる不敵な笑みがこちらの神経を逆なでする。

 

 「何時まで隠れてんだ! さっさと来いよ!!」

 

 「チッ」

 

 銃撃が鳴りやんだ隙を見て飛び出すとナイフを振り抜く。

 

 しかし手に持った銃身で止められ、同時に蹴りを放ってくる。

 

 アレックスは咄嗟にしゃがみ込み、お返しとばかりに左足で相手の足元を払う。

 

 「おっと」

 

 倒れかかった敵は手を床に手をつき、体勢を立て直そうとする。

 

 それを待ってやるほどアレックスはお人好しではない。

 

 すかさずナイフを叩き込む。

 

 だが敵は床についた手に力を込め、倒立。

 

 ナイフを避けつつ逆さの状態から銃撃を撃ち込んできた。

 

 飛び退いて銃弾を避けたアレックスは敵に関してとある確信を抱いた。

 

 「この動きは……」

 

 今まで倒した敵もそうだ。

 

 この動きはナチュラルに出来るものではない。

 

 さらに言えば相当訓練も受けている。

 

 「ヒュー! 危ない、危ない。マジでやるなぁ。ん? お前、まさか……アスラン・ザラか?」

 

 「ッ!?」

 

 こちらの素性を知っている?

 

 アレックスはバイザーの奥にある顔を確認しようと目を凝らすとその顔にはどこかで見覚えがあった。

 

 「……確か―――『狂獣』アルド・レランダーだったか」

 

 直接の面識はないがザフトで異名で呼ばれたパイロットの名前と顔くらいは知っている。

 

 この男はその一人。

 

 『狂獣』と呼ばれたエースパイロットだったはずだ。

 

 「へぇ、俺の事もご存知とはね」

 

 「色々有名だったからな。お前のような奴がここにいるという事はやはり敵は―――」

 

 「おっとおしゃべりはここまでだ。もっとお前との戦いを楽しみたかったんだがな。どうやら準備が整ったみたいだ」

 

 「何?」

 

 アルドがニヤリと笑った瞬間、突如大きな爆音が格納庫に響き渡った。

 

 「爆弾か!?」

 

 アレックスは滑り込むようにモビルスーツの脚部に隠れ、爆風をやり過ごすと敵がいた方向へと銃を向ける。

 

 しかしそこには誰も居らず、アルドはすでに別の方向へ走り出していた。

 

 彼の目指す先には―――トレーラーの上に横たわる機体がある。

 

 「不味い!?」

 

 敵の目的に気がつき、隔壁を閉じる様に命令を出そうとするが、時すでに遅し。

 

 アルドは機体のハッチを開けると、コックピットへ乗り込んだ。

 

 「さて、どれほどのもんか、見せてもらうか」

 

 慣れた手つきでコンソールを操作し、OSを起動させると機体スペックを確認する。

 

 「ほう、流石というべきか。結構な機体じゃないか。名前は『ベテルギウス』か」

 

 LFSA-X000 『ベテルギウス』

 

 テタルトスで開発が進められているエース用モビルスーツ群『LFSAーX』シリーズのプロトタイプに当たる機体。

 

 コンバットシステムのデータ収集も兼ねていた為、特殊な武装は一切装備されていないが、機体性能は非常に高い。

 

 「武装は基本装備だけだが、それは後でどうとでもなる」

 

 操縦桿を握り、傍に置いてあったビームライフルとアンチビームシールドを手に持って機体を立ち上がらせる。

 

 そしてPS装甲が展開すると機体が青紫に染まった。

 

 「へぇ、大したもんじゃないか」

 

 アルドは感心しながら格納庫のハッチに向けてビームライフルを構えた。

 

 「ッ!? 全員退避しろ!!」

 

 自身の機体に乗り込もうとしていたアレックスの声に反応し、警備隊が格納庫から避難しようと駆けだした。

 

 しかしそれを待つ必要などアルドには欠片も無い。

 

 トリガーを引くとビームが発射されハッチを貫通して破壊する。

 

 そして機体に乗り込んだアレックスに向けて言い放った。

 

 「お前が紅いガンダムの―――こりゃいい! 追ってこれるもんなら追ってこいよ、アスラン! できればだけどな!!」

 

 「逃がすと思うか!」

 

 起動したイージスリバイバルが宇宙へ出たベテルギウスを追って外へ向かう。

 

 そこではリベルトのジンⅡとサトーのヅダが鎬を削っていた。

 

 「我らの邪魔をするな、裏切り者共め!!」

 

 「そうはいかん!!」

 

 高速で激突を繰り返しながら、お互いにビームクロウをぶつけ合う。

 

 応戦するリベルトにその場を任せ、ベテルギウスの進路を阻むためビームライフルを連射するがすべて紙一重でかわされてしまう。

 

 嫌煙されていたとはいえ、エースパイロットだ。

 

 この程度の牽制は通用しないらしい。

 

 「仕方ない。奪われるよりは、このまま撃墜する!!」

 

 ターゲットを落そうと、今度は本気で狙いにいく。

 

 しかしトリガーを引こうとした瞬間、そこに乱入してくる機体があった。

 

 青い戦闘機のようなシルエットで背中には複数の砲身とミサイルポッドと思われるものを装着している。

 

 その姿にアレックスは見覚えがあった。

 

 いや、見覚えがあるどころではない。

 

 あの機体はまさに前大戦時、自身が搭乗していた機体であったからだ。

 

 「まさか……ジュラメントか!?」

 

 ZGMF-FX002b 『ジュラメント・ラディーレン』

 

 前大戦で投入されたジュラメントの二号機である。

 

 高機動スラスターの装着と各部調整より、パイロットの負担が軽減され、武装もビームウイングは排除されたものの、その分遠距離武装が強化されている。

 

 コックピットに座るジェシカは背中に装着されたプラズマ収束ビーム砲を発射。

 

 イージスリバイバルを引き離し、不敵な笑みを浮かべた。

 

 「上手く行ったみたいね。こいつは私がやるから、アンタはさっさと行きなさいよ」

 

 「ふん、本当はけりをつけたいところだが、今のこの機体じゃな。ここは任せたぜ」

 

 ベテルギウスは反転し、宙域からの離脱を図る。

 

 「行かせるか!」

 

 「アンタの相手は私だっての!!」

 

 持ち前の機動性でイージスリバイバル正面へ回り込み、ビームキャノンを叩き込んでくる。

 

 アレックスは紙一重で回避しながら、ライフルを放った。

 

 「邪魔だ!」

 

 正確な射撃がジュラメントの行先を読んでいるかの様に撃ち込まれる。

 

 「やるじゃない!」

 

 アレックスにとっては昔、手足のように扱った機体だ。

 

 性能は良く知っている。

 

 多少武装が変わっているようだが、特性まで大きく変化する事は無い。

 

 敵機を機動性を考慮しながらライフルで誘い込むとサーベルで斬りつける。

 

 戦闘機から人型へ変形したジュラメントもまたそれを見越していたかのように、ビームソードを振り上げた。

 

 「お前達は何をしようとしている!!」

 

 「答えると思うのかしら」

 

 「そうか、ならばこのまま全員落すだけだ!」

 

 アルドに接触した事やジュラメントの改修機を目にした事でアレックスにはすでに彼らの正体についてある程度予測を立てていた。

 

 その目的も聞くに堪えない碌でもないものに違いない。

 

 「何を企んでいようと俺がそれを阻止する!!」

 

 それこそが自分の責任であり、けじめである。

 

 盾に阻まれ光を散らすサーベルを引き、もう一方の腕から放出したサーベルを斬り上げる。

 

 「チッ!」

 

 振り上げられた斬撃がジュラメントの装甲を掠める様に流れ、繰り出されたヒュドラの一撃が盾によって弾かれる。

 

 イージスリバイバルの息も吐かせない激しい猛攻。

 

 それを捌きながら、ジェシカは余裕の笑みを崩さない。

 

 「威勢が良いわね。けど、私に構っていていいのかしら?」

 

 「何?」

 

 「アレ、放っておいていいの?」

 

 ジェシカが示した先では、奇妙な光景が広がっていた。

 

 そこでは棒立ちになったり、あらぬ方向へ攻撃しているフローレスダガーがヅダによって撃墜されている。

 

 明らかに様子がおかしい。

 

 「一体何が―――ッ!?」

 

 一瞬気を逸らした瞬間にジュラメントはイージスリバイバルを突き離して距離を取る。

 

 そこに妙なボックスを背負った一機のヅダが割り込んできた。

 

 ボックスが左右横方向にスライドすると中身が解放され、無数の何かが飛び出してきた。

 

 最初はミサイルポッドかと思ったが、よく見れば違う。

 

 ミサイルではなくアンカーのようなものだった。

 

 先端から短いビーム刃を展開しながら、こちらに向かってきた。

 

 「くっ!」

 

 どんな効果があるのか分からない以上、まともに受けるのは危険だ。

 

 機関砲を駆使し、アンカーを破壊する。

 

 残りは上昇して回避すると少数のアンカーは近くにいたフローレスダガーに突き刺さった。

 

 しかしあの程度の刃では撃墜する事などできはしない。

 

 無防備にコックピットに当たらない限りは、致命傷も望めないだろう。

 

 だがあの攻撃の真骨頂が何なのかアレックスはすぐに知る事になる。

 

 「な、何だ!? 敵が消えた? いや、後ろに!?」

 

 「どうした!?」

 

 フローレスダガーのパイロットは恐慌を起こしたように周囲にビームライフルを連射し始めた。

 

 「い、いつの間に! うわああ!!」

 

 「やめろ!!」

 

 アレックスの声など聞こえていないようにライフルを連射するフローレスダガー。

 

 その背後から悠々と接近したジュラメントのビームソードによって両断されてしまった。

 

 幾らなんでも背後から接近されて何の反応も示さずに撃墜されてしまったのは明らかにおかしい。

 

 原因があるとすれば―――

 

 「やはりあのアンカーには何か仕掛けが」

 

 「フフフ」

 

 ジェシカは密かにほくそ笑む。

 

 「くそ! イクシオン、聞こえるか? 妙なボックスを背負った敵の攻撃は絶対に受けないようにしろと全軍に通達を―――」

 

 だがいくら叫んでも通信機から返答はない。

 

 ただ耳障りな機械音が聞こえてくるだけだ。

 

 「イクシオンでも何かあったのか?」

 

 ジュラメントが繰り出す砲撃を避けつつ、アレックスを視線を滑らせ、ボックスを背負っている敵機の姿を探す。

 

 「箱持ちはそう多くない。奴らの思惑に乗るのは癪だが、あいつらから片付けるしかない!!」

 

 これ以上被害を拡大させる訳にはいかないのだから。

 

 

 

 

 リアン・ロフトにとってあの敵と出会った事自体が運命としか言いようがない。

 

 最初に現れた時、姿を隠すように布状のものを纏っていた故に『マント付き』の愛称で呼び、幾度となく刃を交えた。

 

 最初はそれこそ訓練は積んでいても実戦経験の乏しく、大した奴ではないと思っていた。

 

 しかし、戦いを重ねるごとに実力を上げ、前大戦の最終決戦においては自分の達を一蹴。

 

 敬愛していた隊長アシエル・エスクレドすら打倒した。

 

 許せない。

 

 その時に胸に刻まれた憎悪を糧にリアンはここまで歩んできた。

 

 そしてついにそれを晴らす機会が訪れたのだ。

 

 もう逃がすものか!

 

 「ここでお前だけは!!」

 

 コンビクト最大の特徴と言えるバーニアユニットを最大に吹かし、その速度を持ってアイテルを翻弄しながら光刃を振りかぶる。

 

 両手、両足から放出されたサーベルがガンダムの装甲に傷を刻んでいく。

 

 「くっ!」

 

 「セリス、後退しなさい!」

 

 タスラムの散弾砲でコンビクトをアイテルから引き離す。

 

 「お前はァァァ!!」

 

 肩の大口径ビームランチャーをせり出し、スウェアの方へ撃ち込むと同時に連装ビーム砲を放った。

 

 機体を掠めながらも縫うようにして回避したニーナは相手の動きや射撃を見てソレに気が付く。

 

 「これは……まさか」

 

 そしてそれはリアンも同様である。

 

 様々な戦場を一緒に駆け抜けてきたのだ。

 

 お互いに戦い方も、動きの癖も知り尽くしている。

 

 「まさか……ニーナ」

 

 「……リアン」

 

 接近したコンビクトがビームサーベルを抜くと同時にスウェアも光刃を振り抜いた。

 

 「やっぱり、ニーナ!」

 

 「生きていたのね」

 

 聞こえてきたニーナの声にリアンは知らず知らずの内に操縦桿を強く握りしめていた。

 

 かつての仲間が生きていた事による喜びをかき消すほどの激しい怒り。

 

 「ニーナ、何でガンダムに乗って『マント付き』と一緒に戦ってるの?」

 

 「貴方達の方こそ一体何を……何故こんな事を!」」

 

 「私達はナチュラル共を排斥し、コーディネイターが手にする筈だった未来の為に戦ってるだけよ!」

 

 「まだ、まだそんな事を言ってるの、貴方は!? そんな事をしても待っているのは破滅だけだ!」

 

 お互いの主張が食い違い、それで悟る。

 

 ニーナは元々リアン達とは考え方に違いがあった。

 

 ナチュラルを嫌悪する事無く、無用な戦いは避けようとしていた。

 

 最終的に彼女と隊のメンバーはほぼ瓦解状態にまで悪化はしたのだが、それでも仲間であると思っていた。

 

 でも仇敵と共に戦う今の彼女は絶対に容認できない。

 

 ニーナはもう仲間でもなんでもない。

 

 ただの敵になったのだ。

 

 「……もういい。私の仲間だったニーナ・カリエールはヤキン・ドゥーエで死んだんだね」

 

 「リアン!」

 

 「黙れ、この裏切り者が!! よりにもよって奴と―――『マント付き』と、隊長の仇と慣れ合っているなんて!!」

 

 バーニアを噴射しサーベルを受け止める盾ごと押し込み敵機を弾き飛ばす。

 

 「絶対に許せない!!」

 

 持ちえるすべての火器をスウェアに向け、ビームランチャー、連装ビーム砲、ビームライフルから何条もの閃光が一斉に発射された。

 

 フリーダムのフルバーストにも劣らない、凄まじいまでの火力が襲いかかる。

 

 「この!」

 

 ニーナは機体を巧みに動かし、最小限の損傷で事なきを得る。

 

 この程度で済んだのは彼女の技量の高さもあるがリアンの癖を知っていたからこそでもある。

 

 しかしリアンもただ迂闊に攻撃を加えた訳ではない。

 

 「かわされる事は想定済みなのよ!!」

 

 接近していたコンビクトの蹴りにより、シールドの下半分が斬り落とされてしまった。

 

 「仲間だったよしみで、私の手で殺してあげる!!」

 

 「くっ!」

 

 「ニーナ!!」

 

 セリスがコンビクトの猛攻に晒されるスウェアの援護に向おうとする。

 

 だがそれを阻むようにヅダが前に立ちはだかった。

 

 「このままじゃ」

 

 発射されたミサイルを撃ち落としながら、目の前の敵を睨みつけた。

 

 早く突破しなければ、ニーナが危ない。

 

 彼女の技量がいくら卓越していてもあの敵は別だ。

 

 実力や機体性能も含めて危険すぎる。

 

 何よりも、仲間を、友達を、絶対に死なせたくない。

 

 だから―――

 

 「そこを退けェェ!!」

 

 その時、セリスの中で何かが弾けた。

 

 視界が開け、感覚が研ぎ澄まされる。

 

 ヅダから放たれる無数の砲撃。

 

 その軌道を容易く見切り、ビームを回避。

 

 一息で距離を詰めると同時にビームサーベルを振るう。

 

 袈裟懸けに振るわれた一撃が外部装甲を斬り裂き、出来た隙間にセイレーンのビーム砲を叩きこんで撃ち落とす。

 

 「邪魔!!」

 

 もう一機から放たれたグレネード・ランチャーをビームガンで破壊。

 

 振りかぶられたビームクロウを機体を逸らすのみで避けてサーベルを逆袈裟から振り上げる。

 

 敵機は抵抗もできないまま斬り捨てられ、宇宙のゴミへと変えられた。

 

 さらに道を阻む敵をビームライフルで撃ち落とすとコンビクトに向かって一気に加速を掛けた。

 

 「撃たせない!!」

 

 「マント付き!? すべてはお前がァァァァ!!!」

 

 リアンは目標をスウェアからアイテルに変え、剣を振り上げる。

 

 「はああああああ!!!」

 

 「おおおおおおお!!!」

 

 スラスターの光が尾を引き、二つの光刃が軌跡を描く。

 

 そして次の瞬間、コンビクトの右腕が飛んでいた。

 

 「なっ!?」

 

 リアンは驚きで目を見開いた。

 

 何だ、今のは?

 

 全く感知できなかった。

 

 敵に対する憎悪が胸中を駆け廻り、歯を食いしばる。

 

 「貴様ァァァァ!!!」

 

 振り向き様に連装ビーム砲を叩き込むが、アイテルに掠める事すらできない。

 

 射線をすべて見切っているように避け続け、回り込んだセリスのビームライフルがコンビクトの背中に直撃する。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 気を失うのではと思われるほどの衝撃がリアンを襲う。

 

 見れば背中のバーニアユニットの一つが見事に破壊されてしまっていた。

 

 これではこれ以上ガンダムと戦う事はできない。

 

 「くそ、くそ、くそ、くそ!!」

 

 ようやく討つべき敵を見つけ出したというのに!

 

 ここでやられては意味がない。

 

 だが目的は達成し、時間も稼いだ。

 

 敵もこの混乱では追ってこれまい。

 

 感情を無理やりに押し殺し、通信機のスイッチを入れた。

 

 「ジェシカ、目的は達成された。撤退する」

 

 「了解!」

 

 イージスリバイバルを砲撃で引き離し、モビルアーマーに変形したジュラメントが損傷したコンビクトを回収しに向かった。

 

 「リアン!!」

 

 ニーナの叫びに答える事無くリアンは殺意の籠った視線で二機のガンダムを睨みつける。

 

 「……次は必ずこの手で―――殺す!」

 

 「離脱するわ」

 

 「逃がさない!」

 

 ジュラメントはミサイルポッドを発射し追撃を撹乱、仲間の機体と合流するとテタルトスの防衛圏外へと離脱していった。

 

 アレックスとセリスは行く手を阻むミサイルを機関砲で撃ち抜く。

 

 だが次の瞬間、視界を塞ぐほどの煙が周囲を覆った。

 

 「スモーク!?」

 

 煙幕から逃れる為に、急上昇したイージスが視界を確保した時にはすでに敵の姿は影も形も存在していなかった。

 

 「防衛網をどうやって抜けた?」

 

 イクシオンにも未だ連絡が取れない状況だ。

 

 「くそ!」

 

 アレックスは憤りに任せ、思わず吐き捨てる。

 

 防衛網の隙を突かれたとはいえ、こうも手玉に取られるとは。

 

 今回は敵の方が一枚上手だったという事だ。

 

 「追撃したいのは山々だが、一度戻らざる得ないだろうな」

 

 事態の収拾を図る為にも、今は状況把握が最優先。

 

 アレックスは複雑な想いを抱えながら敵が退いた方を一瞥する。

 

 彼らが生み出す火種は必ず消さねばならない。

 

 それこそが自分の役目である。

 

 改めて決意すると、アレックスはイクシオンへの進路を取った。




機体紹介更新しました。

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