機動戦士ガンダムSEED moon light trace 作:kia
『テタルトス』
ギリシャ語で第四を意味するその言葉を新たな国家の名前として付けたのには当然理由がある。
地球連合、プラント、中立同盟。
この三陣営に次ぐ勢力という意味もあるのだが、本来の意味は違う。
ナチュラルでもコーディネイターでもなく、二つの種の融和を願うのでもない。
第四の道。
ナチュラルやコーディネイターといった生まれではなく精神の改革。
人類の可能性の先を―――未来に至る道を求めていくという意味が込められている。
そういう意味では思想家マルキオ導師の掲げる『SEED思想』は彼らの方針とっては都合のよいものだった。
元々テタルトスと連合やザフトなどのやり方についていく事が出来ず、様々な事情から離反した者がエドガー達の考えに賛同して作り上げた国である。
しかしその中には各陣営に属していた頃に積み上げられた敵対する者への憤りや蟠りを捨てきれない者達も少なからず存在していた。
だから、皆の意思統一が早急に必要だったエドガー達にとって精神の改革を謳う『SEED思想』は渡りに船だったのだ。
しかも都合のよい事に眉唾ものと考えられていた『SEED』の存在に、現実味を持たせるデータも流出してくれた。
その結果、テタルトスにおいて『SEED思想』は急速に受け入れられ、それは地球にも拡大している。
しかし地球連合とプラントがそんな考えを認める訳はない。
連合上層部は荒唐無稽であると鼻で笑い、優れた能力を持つコーディネイター達の住むプラントでは『SEED思想』自体をタブーとして、テタルトスを嫌悪する理由の一つとなっていた。
だからこそセリス達は連合の使者と名乗った男がこの場にいる事に驚かざる得なかった。
目の前の男ヴァールト・ロズベルクは張り詰める空気にも意を返さず、ただ穏やかな笑みを浮かべている。
―――この男は絶対に信用してはならない。
これまで護衛役として様々な人間を見てきた経験則からセリスの出した結論だった。
付け入る隙を作ればこちらがやられる。
ニーナに目配せしながら、何時でも動ける様に構えを取った。
「そう緊張しないでもらいたいですね。別にこの場で貴方達に何かしようという気はありませんよ。どうもここでは話し相手がいないのでね。ヴァルンシュタイン議員もお忙しそうですし、他に話せそうな方がいないのですよ」
それは当たり前だ。
使者とはいえ、敵対している陣営の人間と好んで話したがる物好きなどそうはいまい。
かと言って目の前の男から情報を引き出せるとも思えなかった。
逆のこちらの情報を吐かされそうだ。
セリスは余計な事はしゃべらないように慎重に問いを投げた。
「一体何の話があるんですか?」
「ただの雑談ですよ」
警戒心を緩めない二人にヴァールトは肩を竦めながら苦笑した。
「やれやれ。仕方無いとはいえ、ここまで警戒されるとは。ではそうですね、貴方達にとって興味深い話―――例の正体不明機についてというのはどうです?」
「なッ!?」
思わぬ発言に思わず動揺してしまった。
まさか連合はあの機体の正体を掴んでいるとでもいうのだろうか?
訝しむように視線を向けるセリスだったが、ヴァールトはにこやかな笑みを浮かべながらワイングラスを弄っている。
「……連合ではあの機体の事を?」
「いえ、知っていたらちゃんとテタルトスの方へ報告していますよ」
それは絶対に嘘だ。
知っていても教える筈がない。
「フフ、私の話というのは、あくまで噂です。そうですね、貴方達もパトリック・ザラの事はご存じでしょう?」
「ええ」
パトリック・ザラは元プラント最高評議会議長を務めた人物である。
その思想はナチュラル排斥で染まっており、戦争終盤では核動力モビルスーツを開発。
さらに大量破壊兵器であるガンマ線レーザー砲『ジェネシス』などを用い、大きな被害をもたらした。
停戦後に拘束され軍事裁判にかけられた。
しかし獄中で自殺したと報じられて結構な騒ぎになっていた。
「実は宇宙には彼が前大戦中、秘密裏に作った兵器工廠が幾つか存在しているという噂がありましてね。その兵器工廠の中には研究施設や公表されていないモビルスーツがあるという話なのです」
「公表されていない機体……」
「つまり『それが正体不明機ではないか』という噂があるのですよ。パトリック・ザラは『Fシリーズ』と呼ばれるモビルスーツ群の開発も主導で行っていたという話もありますからね」
Fシリーズ(フューチャーシリーズ)とは大戦後期にザフトで開発されたモビルスーツ群の事だ。
これは当初開発が予定されていたが諸事情により破棄された『ZGMF-Xシリーズ』に変わり企画されたもの。
開発された機体は非常に高い性能を示し、同時に多大な戦果を叩きだした。
しかし、終戦後はパトリック・ザラが主導で開発を行っていた事。
過激派の象徴としても扱われかねないなどが考慮され、『Fシリーズ』はすべて破棄されたと聞いている。
もしもあの不明機がFシリーズに連なる機体なら今回動いている相手は―――
「……どうしてそんな話を私達に?」
「言ったでしょう、私はただ噂話をしただけですよ。それを信じるか、信じないかは貴方達の自由ですから」
重ねて質問しようとしたその時ゲオルクと話をしていた者達が捌け、人が幾分少なくなった。
「おっと、では私はこれで。お話に付き合っていただきありがとうごさいました」
優雅に一礼するとヴァールトはゲオルクの方へと歩いて行く。
しかしその途中で振り返りセリスの方を見ながら呟いた。
「そうそう、話に付き合ってくれたお礼に一つ助言しておきますね。……敵は正面にいるだけとは限りません。万全の備えをしておく事です」
ヴァールトは今度こそ歩き去ってしまった。
「……あの男、一体何だったのかしら」
「分からない。月にいる理由も結局分からなかったし」
それは聞いたところで喋るとも思えなかった。
だが一つだけ言える。
「何であれ、油断はできないと言ったところかしら」
「うん」
表向き平和な懇親会が続いていく。
その中で這いよってくる荒事の気配にセリスとニーナは嫌な予感を覚えながら、職務に集中し始めた。
◇
開始された懇親会は半ばを過ぎ、もうじき終わりを迎えようとしていた。
途切れぬ談笑の音を聞きながらゲオルク・ヴェルンシュタインは部屋から去っていく男の背中をジッと見つめる。
「どうかなさいましたか、ヴェルンシュタイン様」
「……ヴァルターか」
傍に立つヴァルターがゲオルクの視線を追うように出口の方へ目を向けるとヴァールトが去っていく姿が見える。
「今回もいつも通りの件でしたか」
「ああ」
ヴァールト・ロズベルクが月を訪れるのは別に珍しい事ではない。
彼は連合上層部や各国家ともパイプを持っている。
故に秘密裏に月と繋がりを持ちたい国から連絡役や、他の交渉役としてもここを訪れているのである。
今回も極秘でコンタクトを取りたい国からの使者としてここに来ていた。
無論、彼の言い分を鵜呑みにするつもりはない。
おそらくここ最近頻発する正体不明機からの襲撃におけるテタルトスの対応と同盟代表者の訪問による影響を確認しに来たのだろう。
それ以外の目的ももちろんあるのだろうが―――
「今は放っておけば良い。それよりもヴァルター、明日からの視察、同盟のお客人の事は任せたぞ」
「了解」
相手に対する信頼を感じさせる様にヴァルターは何の迷いも無く頷いた。
ゲオルクとヴァルターは元々旧知の間柄である。
政治家の道を歩む前は軍人として戦場を渡り歩き、ヴァルターとはその頃からの付き合いだ。
だからお互いの事は良く理解し、信頼していた。
「そう言えば、アレックスと何を話していた?」
「いえ、義妹の件を教えて差し上げただけです。どうやら知らなかったようですので」
全く悪びれる事無く言ってのけるヴァルターに思わず苦笑する。
ゲオルクもアレックスの義妹であり、婚約者であるセレネ・ディノがパイロットとして訓練を積んでいる事は小耳に挟んでいた。
そしてそれをアレックスに黙っている事もだ。
別にセレネも悪意を持って黙っていた訳ではない事は容易に想像がつく。
「全く、そこまでアレックスが嫌いなのか?」
冗談混じりに軽口を叩くゲオルクにヴァルターも口元に笑みを浮かべる。
「まさか。むしろ私は彼に対して好感すら抱いていますよ。よく言うではありませんか、好きな子には意地悪をしたくなるものだとね」
「アレックスも災難だな」
笑みを浮かべワインを口に含みながら、ゲオルクは愉快げに会場の様子を眺めていた。
◇
懇親会の行われているホテルのロビーを抜け、ヴァールト・ロズベルクは端末片手に外に出る。
淀みない動きでボタンを操作し、相手を呼び出すと端末を耳に当てた。
「そちらの様子は?」
《問題はない。すべて滞りなく進んでいる》
通話の相手から聞こえてくる声は小声で非常に聞き取りにくいものだった。
だがヴァールトは大して気にする様子もなく、淡々と話を続けていく。
「なら良い。データも送っておいた、後で確認しておいて欲しい。ああ、それから『例のモノ』の運用データも取ってくれると助かる」
《了解》
要件をすべて伝え終え端末のスイッチを切ると懐に仕舞う。
そしてもう一度ホテルの方を振り返ると一転して冷たい視線で懇親会会場の方を見据えた。
「さて、君達、いや、君の奮戦に期待させてもらおうかな―――セリス・ブラッスール君」
◇
その部屋は非常に重苦しい沈黙に包まれていた。
空気の読める人間であればすぐにでも退室したくなるほどに空気が重い。
ここはイクシオンに設置された士官用の個室である。
士官用だけにそれなりの広さとシンプルなようで一通りの機能を持ったこの部屋は結構快適に過ごす事ができる。
しかし今、この瞬間だけは別だ。
中央にて向い合う二人の男女。
アレックス・ディノとセレネ・ディノが発する重い雰囲気に包まれ、部屋は快適とは程遠い。
それに巻き込まれた哀れな人物であるアンドリュー・バルトフェルドは何度目かのため息をついた。
「……アレックス、気持ちは分かるが、セレネも色々考えた上でだな―――」
「俺は中佐にも怒っているんですが」
こんな事になっている原因は予期せぬ形でセレネがパイロットとして訓練を受けていたのが露見してしまった事である。
どうやらヴァルター・ランゲルトが余計な事を言ったらしく聞きつけたアレックスにこうして部屋へと引っ張り込まれてしまったのだ。
とはいえこちらにも非がある事だ。
ここは素直に謝るべきだろう。
「悪かった、口止めされていたんだよ」
アレックスはため息をつき視線をバルトフェルドからセレネに向ける。
できるだけ感情的にならないように慎重に口を開く。
「セレネ、どうして俺に何も言わずにパイロットになった?」
「言えば貴方は反対したでしょう?」
「当たり前だ!」
アレックスは元々セレネが軍関係の仕事に就いている事すら、反対だった。
彼女には血生臭い事からは距離を置いて、穏やかに過ごして欲しいというのがアレックスの願いであった。
にも関わらずパイロットなど。
何時命を落とす事になるか分からない危険な役目をセレネには断固としてさせる訳にはいかない。
「今すぐモビルスーツから降りるんだ」
「嫌です」
「セレネ!!」
プイと首を横に振り、目を合わせようとしない。
普段であれば可愛い仕草なのかもしれないが、今日は別だ。
「何でそこまでパイロットにこだわる?」
「それは……」
「俺には言えない事なのか?」
しばらく逡巡していたセレネだったが、観念したように息を吐くとアレックスの方を見た。
「……貴方を守りたいからです」
「ッ!?」
「貴方が私を心配してくれるのは本当に嬉しい。でも私達を守る為に貴方が命を懸けている時は私だって心配だし、だからこそ力になりたいと思うのはおかしいですか?」
真っ直ぐに見詰めてくる瞳にアレックスの方がいたたまれない気分になり視線を逸らしてしまう。
アレックスがセレネを心配しているように戦場に出る以上は逆に彼女が自分の身を案じるのは当たり前である。
それは分かっていた事だ。
だがこうして面と向って言われると罪悪感が湧きあがってくる。
それでも。
自分勝手なエゴだと分かっていても―――
「セレネ、俺は―――」
「あ~待て待て、アレックス。言いたい事は分かってるが、セレネの気持ちも汲んでやれ。立場が逆なら、お前だって同じ様に動いただろ?」
確かにそうかもしれない。
大切な人が戦場に居て自分は後ろで指をくわえているなんて絶対に出来ないだろう。
「それにだ、彼女が危なくなったらお前が助けてやればいいじゃないか」
いつものように軽い口調で告げるバルトフェルドにため息をつきながらアレックスは目を伏せる。
「納得はできないし、今でも反対だが、どうせ言っても利かないんだろ?」
「大佐のお墨付きだしな」
「ハァ、ただし絶対無茶な事はしないと約束してくれ」
「はい!」
笑顔を浮かべたセレネが勢いよく抱きついてきた。
「ちょ、セレネ!?」
「おやおや、こりゃ僕はお邪魔みたいだねぇ」
「中佐!!」
バルトフェルルドは立ち上がり部屋から出ていこうとするが、途中でニヤニヤ笑いながら振り返ると余計な爆弾を落としていった。
「あ、そうだ。ちゃんと避妊はしないと駄目だぞ」
「何を言ってるんですか!!」
「ハハハ、じゃあ明日も頼むぞ!」
部屋から出ていくバルトフェルドを見送ると自分の胸元に抱きついているセレネを見つめる。
「……さっきも言ったが無茶だけは絶対にしないでくれ」
パイロットである以上、危険な事は避けられない。
だが自分から命を捨てるような事だけはして欲しくない。
「君は俺が守ってみせる。たとえ誰が相手でも」
「ありがとう、私も貴方を守ります」
アレックスはセレネに顔を寄せ、唇を重ねた。
◇
『イクシオン』にカガリを伴ったオーディンがフローレスダガーの警護を受けながら近づいていく。
今回カガリが月を訪れた理由の一つが視察だ。
そこでテタルトスの軍事施設の一つであるイクシオンをアレックスに案内してもらう事になっていた。
「月に来た時も思ったが、『アレ』は本当に大きいな」
艦長席に横に座ったカガリがモニターに映る巨大な物体を見て思わず、呟いた。
巨大戦艦『アポカリプス』
テタルトスを守護する盾であると同時に外敵を薙ぎ払う、強力な矛でもある。
その大きさは普通の戦艦とは比較にもならない程だ。
艦全体に装備されたビーム砲や対艦ミサイル、レール砲などに加え、中央部分に搭載されている主砲など、どれも強力な武装である事は間違いない。
特に主砲の一撃は非常に強力で、そこらの戦艦など障害にすらならない。
テタルトスにおける武の象徴であり、敵からすれば畏怖の対象という評価も頷ける。
カガリ達が様々な感情を込めて巨大戦艦を見つめている内にオーディンがイクシオン内部に入った。
「では行こうか。アルミラ大佐はもしもの場合に備えて艦を頼む」
「了解です」
わざわざオーディンを使って移動しているのは、もしもの場合に備えての事だ。
セリス達が聞いた噂話や今までに得た情報から考えても何が起こっても不思議ではない。
艦から降りるカガリ、ショウの後を追うようにセリス達も続く。
「ニーナ、一応銃のセーフティーは外しておいて」
「ええ」
「それからこれ予備の端末ね」
セリスは懐から取り出した小型端末をニーナに手渡す。
「もしも持っている端末が壊れたり、紛失したりした時はこっちを使って」
「ありがとう」
これまでの護衛経験から不測の事態というものは起きる時には、起きてしまうものだ。
だからこそどんな場合だろうと対処できるように備えておかなくてはならない。
入念に装備の確認を行い、オーディンから降りていくとアレックスと他に二人の男女が立っていた。
「ようこそ、イクシオンへ。ここで指揮を執っています、アンドリュー・バルトフェルド中佐です」
どこか軽さを感じさせる言葉にショウはピクリと眉を動かす。
しかしカガリは気にした様子もなくバルトフェルドの手を取った。
そして後ろに控えた少女が敬礼しながら名を名乗る。
「セレネ・ディノ少尉です! 本日よりカガリ様の護衛とお世話役を任じられました、よろしくお願いします!!」
「よろしく頼む。久しぶりだな、セレネ。元気そうでなによりだ」
「はい! お久しぶりです、カガリ様!」
嬉しそうに二人は握手をかわす。
元々セレネは地球に合ったマルキオの伝道所にいた孤児の一人であり、カガリとも以前から面識があった。
「ではこちらへ、案内いたします。ただし軍事機密により、視察できない場所もありますので」
「それは承知いたしております。では参りましょう、カガリ様」
「ああ」
セレネに案内され、カガリ達も後ろから付いていく。
通路に設置されている移動用のベルトに手を当て、流れるように移動するとまずは格納庫らしき場所に辿り着いた。
「こちらがイクシオンの格納庫になります」
ジンⅡやフローレスダガーがメンテナンスベッドに設置され、すぐ傍には高機動用の換装装備と思われる武装が鎮座して整備が行われている。
その光景を興味深く眺めているとさらに奥にも砲撃用の装備と思われる武装とメタリックグレーの数機のモビルスーツが確認できた。
一番手前に寝かされている機体など何時でも運び出せるようにトレーラーに乗せられている。
この位置からでは全体像は分からないが、見た事もない機体である事は間違いない。
「奥のアレは?」
「ああ、詳細は申し上げられませんが、あそこではもうすぐロールアウトする予定の武装や新型機の調整が行われています」
「なるほど」
やはりテタルトスでも戦力増強は急務と考えているらしい。
各場所の視察を行いながら、セレネやアレックスから説明を受けていく。
視察は特に問題も起こらず順調に進んでいた。
「この調子なら問題もなく終わりそうね」
「油断は禁物だけど、確かに」
何のトラブルもなく終わるかとセリス達もそう思い掛けた時だった。
突如、爆発による衝撃と思われる震動がイクシオン全体を大きく揺らしたのである。
「ぐっ、カガリ様!」
ショウと共にカガリを庇うようにセリス達が周囲を囲む。
そして状況を確認しようとバルトフェルドが端末を取り出し、司令室に連絡を取った。
「何があった!?」
《敵襲です!! 所属不明のモビルスーツが数機、イクシオンに攻撃を仕掛けています!!》
オペレーターの報告通り、イクシオンの外側ではオーディンを襲撃した機体ヅダ・レムレースが奇襲を仕掛けていた。
奇襲により浮足立つテタルトス軍。
それを尻目にヅダは追加武装である連装ビーム砲を叩き込んで機体を破壊。
そのまま懐に飛び込みフローレスダガーをビームクロウで斬り捨てる。
「くそ!」
「迎撃しろ!!」
撃ちかけられる攻撃を前に数機のヅダはその推力に物を言わせ圧倒的な加速で敵を翻弄、引き離していく。
テタルトスとて油断していた訳ではない。
むしろ襲撃に備え、警戒を怠る事もなかった。
だがそれはあくまでも防衛圏の外側からの攻撃に備えてである。
今までの襲撃はすべて防衛圏内に入ってはいても、すぐに離脱できるギリギリの位置からの襲撃が主であった。
それがどうやってか、こちらの懐であるイクシオンに直接攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったのである。
「良し、このまま時間一杯までナチュラル共のおもちゃを血祭りにあげろ!」
ヅダを駆るパイロットであるサトーの叫びに僚機のパイロット達も呼応する。
「了解!!」
彼らは『ヤキン・ドゥーエ戦役』で最前線に立ち戦ってきた凄腕のパイロット達である。
今まで戦場で磨き上げてきたすべての技術を持ってヅダの性能を引き出し、テタルトスの応戦を許さない。
サトーはフローレスダガーのビームライフルをかわし、ビームサーベルを抜くと胴体に向けて叩き込んだ。
「雑魚は失せろ!!」
パイロットを蒸発させ、ただのスクラップになった機体を他の機体に叩きつけると諸共に消し飛ばす。
無論、テタルトス軍も黙ってはいない。
準備の整った機体から次々と出撃してくる。
「チッ、やはり数が多い」
絶対的に数の少ないこちらにとっては長期戦は不利だ。
となると―――
「先ずは港を潰す!」
港に攻撃を仕掛けようとしたサトーだったが、出撃してきたジンⅡによって阻まれてしまう。
「好きにはやらせない!」
リベルト・ミエルスのジンⅡがヅダを行かせまいとビームライフルを撃ち込んでくる。
自分の前に立ちふさがる機体の姿にサトーは激しい怒りを覚えた。
ジンはザフトで初めて実用量産化モビルスーツだ。
世界で一番有名な機体と言っても過言ではない。
いわばザフトを象徴する機体と言ってよいだろう。
それをナチュラルに与した裏切り者共が後継機を生み出し、ジンの名を冠するなど侮辱以外の何者でもない。
「その姿を我らの前に晒すなァァァ!!」
怒りと共にジンⅡを消し去らんとすべての砲撃を叩き込む。
「やらせんと言ったはずだ!」
リベルトは機体のスラスターを巧みにコンロルールし、ビームを回避しながら斬りかかる。
その間にもイクシオンや巡回していた戦艦からモビルスーツが出撃し、襲撃してきた機体を包囲していく。
このまま殲滅出来ると誰もが考えたその時、上方から撃ち込まれた強力な閃光が戦艦を貫き、撃ち込まれた一撃が港の入口を吹き飛ばす。
「何だ!?」
敵機を警戒し、上方にビームライフルを構えるフローレスダガー。
しかし凄まじい速度で突撃してきた機体を捉える事が出来ず、逆にビーム砲の一撃で撃破されてしまった。
その機体は背中に特徴的な二基の大型バーニアを備え、肩にはビームランチャーを装備している。
ZGMF-FX001b 『コンビクト・エリミナル』
前大戦で投入されたコンビクトの二号機である。
各部調整とスラスター増設、OSの改良により、扱い易くなっており武装も脚部にビームサーベルや連装ビーム砲など火力も強化されている。
コックピットに座るリアンはモニターに映る敵機を容赦なく撃ち抜きながら攻撃を仕掛ける。
「この程度の攻勢で!!」
バーニア出力を上げ、ビームライフルの追撃を振り切る。
そしてすれ違い様に敵機を斬り裂いた。
その速度にウイングコンバットを装備したフローレスダガーも追いつけない。
「はああああ!!」
背後から追撃してくる敵機を吹き飛ばし、脚部に装備されたサーベルで突き刺した。
「大した事ない連中ね」
獅子奮迅の猛攻で敵機を蹂躙していくリアン。
その時、目立つ機体がイクシオンから飛び出してきた。
「アレはガンダムか」
出撃したアイテルとスウェアの二機が攻撃を仕掛けるヅダを迎撃していく。
その姿に思わずギリッと歯を噛みしめる。
アレとは違う機体だがガンダムによって屈辱と喪失を味わったリアンにとってその姿だけで忌々しいもの。
だがパイロットの腕は流石としか言いようがないようだ。
その動きを見るだけで、パイロットの技量が分かる。
アルドが仕留められなかったのも頷けた。
「ん、何だ?」
敵の動きを確認していたリアンはそこで違和感を感じた。
あの白い機体からだ。
機体自体には見覚えはないのだが、どうも違和感が拭えない。
だが、徐々に気が付く。
白い機体の動きは―――
「あ、ああ、ま、まさか、まさか!」
忘れたくても、忘れられない、憎むべき敵。
記憶にこびり付いた姿がアイテルの動きと歯車が噛み合うようにガチリと嵌った。
「……見つけた。見つけた、見つけた、見つけたァァァァァ!!!
湧き上がる感情に任せ、バーニアを全開にして突撃する。
「マント付きィィィィィ!!!!」
怨嗟の叫びが響き渡り、構えた砲口から憎悪の光が吐き出された。
機体紹介更新しました。