アクセル・ワールド 漆黒の星屑   作:ドロイデン

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星屑と月

「「はぁ……」」

 対戦……というよりは個人指導だが……を終えたあと、僕と直哉はため息を揃ってつく。

「おう……どうしたんだ羽森……」

「そういう尚哉さんこそ……」

 互いにそう言っているが、言葉自体に覇気が全く存在しない。

「いやさ~まさかいきなり黒の王が目の前に現れたらさ……いくら昔のメンバーといえど緊張感半端なくてさ」

「そういえばそんなこと言ってましたね。ていうか黒の王って?」

「ん?あぁ。ブレイン・バーストにはレベルが最大で10まで上がるんだが、その中でもトップクラスの実力者で、かつ『レギオン』と呼ばれる組織の長、level9の七人の事を『純色の七王』って言うんだよ」

「純色の七王?」

「そのlevel9の七人のカラーネームはそれぞれのカラーチャートの純色なんだよ。その中でブラック・ロータスは名前通り黒の王と呼ばれているんだ。まぁあの人にはもう一つあるんだが、それはまた今度で良い」

 と、そう尚哉が言った途端、時間的にはついさっき……体感的には30分前に僕が聞いた特徴的な効果音が耳へと鳴り響いた。

 

 

《ライム・ベル level1

   VS

 ノワール・スターダスト level1》

 

 僕が再び加速世界に立つと、先程の夕焼けに染まるステージではなく、いわゆる廃墟の街といったイメージの世界観だった。

「へぇ……《黄昏》ステージの次が《世紀末》ステージとは……運が良いのか悪いのか……」

 やはりすぐそばには親であるカーマインが腕組みをしながら欠伸をしている。

「えっと……それってどういう?」

「対戦ステージにはそれぞれ特徴が有ってだな、世紀末ステージは建物が他のステージと比べてカタいし、何よりステージ自体が廃墟の摩天楼みたいな所だから、赤系統の狙撃キャラには有利だが、青のガチムチ近接キャラには不利になることが多い」

「へぇ……」

「そのくせ、外観がレトロだからリンカー達からの人気はそれなりに高いから、相性的には不運、外観的には幸運って言ってるやつも多い」

 まぁ戦えば分かる、と僕の親は軽快に笑って僕を街へと走らせた。

「えっと……カーソル的には左か……」

 僕は廃校舎に身を隠しつつゆっくりと進んでいく。2分ぐらい校舎内を歩くと、カーソルは突然消えて、すぐ横からライム・ベルが突如として現れた。

「やば!!」

 相手も気付いたようで、左手の大鐘を勢いよく振り回してきた。間一髪で避けるが、少し掠っただけでかなりの痛みがやって来る。

「マジか……痛覚遮断(ペインアブソーバー)が無効化されてるのかよ……」

 そんなことを思ってると、ライム・ベルは僕の方へと向いて臨戦態勢に入っている。

「ダストくんって意外と早い動きするんだね。不意打ちであんなに早く避けるなんてね」

「そりゃフルダイブの格ゲーは大抵やりこんだからな。それなりに動けるさ」

 軽口を叩くが、内心では厄介になったと毒づく。

 必殺技ゲージがさほど貯まっていない現在、頼りになるのは強化外装なのだが……それを使おうにもこの狭い廊下ではその能力を旨く生かせない。だったら……。

「ここは!!」

 僕は近くの窓を蹴破って外へ逃げる。軽く落下するが、強化外装を呼び出し、スラスターを使ってゆっくりと着地する。

「ずっるーい!!窓から逃げるなんて無しだよ!!」

「このタイプの格ゲーでこうするのは当然だろ!!高威力の打撃武器に狭い廊下じゃ不利すぎるつうの!!」

 ライム・ベルは文句を垂れながらも軽快に僕が降りた窓から飛び降りた。

「これで条件はイーブン……」

 僕は冷静に判断するなか、ライム・ベルは手持ちの大鐘を肩を回すピッチャーよろしく大回転させている。

「こうなったらチユリ様特性の『クワイヤー・チャイム』でこれでもかってくらい叩いてやるからね!!」

「そんなこと、許すわけないでしょうが!!展開、『ダスト・サテライター』!!」

 僕は強化外装の翼を展開して一気にスラスターを吹かせてベルに突進する。そして勢いそのままで空中回転蹴りを決めるが、難なくベルは自身の強化外装を盾にしてガードし、

「いっ!!てぇぇぇぇ!!」

 逆に僕がダメージを受けていた。どうやらあの大鐘……『クワイヤー・チャイム』はかなり固いようで、逆に僕のアバターはまるで高速で叩きつけられた岩のようにボロボロになっていた。

(まさかスターダストが星屑だってのは知ってたけど、ここまで脆いか普通!!)

 星屑……つまり宇宙の小惑星や隕石……とにかく小さな岩石を現すこの言葉は特殊な性質を持っているらしく、宇宙の岩石は地球に落下すると大抵が摩擦熱で砕けるもしくは消滅し、それが流星となるわけだが、どうやらこのアバターは自身が高速で移動、及び攻撃した際に砕ける可能性があるようだ。

(名前負けどころか、間違いなく特攻型のアバターじゃねぇか!!そんなアバターありかよ!!)

 僕が心の中で自分自身に毒づくが、そんなことをしてアバターが変わるわけではなかった。

「って……意外と必殺技ゲージが貯まってる!?」

 体勢を建て直しつつ現在の体力を確認すると、HPが四分の一より少し多いくらい減っているが、それと同時に必殺技ゲージが三分の二ほど貯まっている。

(もしかして必殺技ゲージって体力が減っても増えるのか?だとしたら)

 試しにライム・ベルへもう一度ブーストして近寄り、今度は先程より若干弱めにパンチを入れてみる。当然だがそれもガードされ、足よりはマシだがやはり皹が入る。そして同時に体力ゲージが半分近くに、必殺技ゲージにいたってはフルチャージされていた。

(やっぱりか、僕のアバターは攻撃するときに自分の体力を削る分、必殺技ゲージがそれ以上に増えるんだ!!)

 そうと確認すると、僕は再び体勢を立て直し、そして……

「うおぉぉぉぉ!!」

 スラスター全開で空中へと飛翔する。残りのエネルギーを大半使い、そして残りを一割ぐらい残して自然落下を始める。そして両腕を胸の前でクロスし、

『ルナーク・デストラクション!!』

 必殺技を声高らかに叫んだ。その瞬間今まで高速で自然落下をしていたのが徐々にスピードを落とし、やがて地上数十㎝辺りで動きを止めた。

 さらにステージが先程の荒廃した世紀末のそれから、画像や絵でしか見たことのない、灰色の大地と暗闇に覆われたフィールド……名付けるとするならば、

 

 

 

「……『月面ステージ』……」

 

 

 

 ノワール・スターダスト……その本質は唯一無二の『月面ステージ変更』であり、やがて『漆黒流星』と呼ばれる事になるのだった。


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