「さて……まずここがどこかを説明しておいておこう。といってもタクムくん達からそれなりのことは聞いてるのだろうがね」
ブラック・ロータスさんはそんな言葉から
「ええ。確かここが現実世界のソーシャルカメラの中だかの映像から再現された世界で、さらには思考を一千倍まで加速させる……で、合ってますか?」
「そうだ。さらに言えばこの世界に同じアバターは2体と存在することはなく、またその能力も然りだ」
と、全身真っ黒な女性アバターが解説する。
「さて……ここまでで何か質問はあるかな?」
「いや、質問のタイミング早すぎでしょ……まぁ強いて挙げるとしたら……なんでこれが格ゲーなんだってことですかね」
そう、さっきも言ったが今僕の頭の中は一千倍にも加速している。そんなことを市販されているニューロリンカーでやるというオーバーテクノロジーをゲームとして使うのに、僕は半分呆れてしまっていた。
「まぁ……それについては開発者に聞く他が無いんだがな。何せそれはレベル10になった者だけが知る領域だ」
「あと、これって一応ゲームですよね?GMとか居ないんですか?」
「一応ではなく完全にゲームだが、はっきり言えばそういう輩は少なからず居るのだろうが、ほとんどはこちらのことを傍観するだけだ。やるとしても新ステージのアップデートやら違法行為にパッチを張るぐらいしかしないさ」
さも当然に言っているが、それなりにゲーマーな僕にとっては少しあり得ないように感じた。
「まぁそんな事はどうでもいい。次に君のアバターについてだ。これは本来、親であるアイツがやるべきなんだが……」
そこで僕とブラック・ロータスは同じ方向に首を傾ける。そこには手持ちの銃器で夕焼けに染まる空の下、壁に向かって弾丸を射的のごとく乱射している親アバター……カーマイン・ブレストがそこにいた。
「あの調子だからな。仕方ない、私が代わりにやらせてもらう」
そう言ってブラック・ロータスは対戦ゲージを見直す。
「まず君のアバターだが、基本的にアバターは属性を表す《色》と、自身の能力を示す《単語》で組み合わされている」
「てことは、僕の場合は最初の《ノワール》が色で、後の《スターダスト》が単語って事ですか?」
「簡単に言えばそう言うことだ。ちなみに直訳すると《漆黒の星屑》という意味合いを持つが……少々面倒だが、まぁそれは今どうでもいい」
そう言うとブラック・ロータスはどうやったのかホロディスプレイを出現させる。
「次に君の能力を確認するぞ。もう時間が無いから、そこのバカとは対戦しないが「誰がバカだ!!誰が!!」そう思うならまともに教えてやれ。とにかく、自分の名前を指で押せば自分の必殺技やアビリティ、武器などを知ることができる」
やってみろ、と僕は言われ戸惑いながらも名前を押すと、目の前にブラック・ロータスが出したものと似たようなそれが出現した。
「えっと……強化外装が1つと……必殺技が1つです」
「ほう……ではまず強化外装の方から説明するべきかな」
黒いアバターはそう言って目を少し光らせる。
「まず強化外装とは、その名の通り自分自身を強化……つまりはパワーアップさせる代物だ。それは形は様々で、タクム君の右手の《杭打ち機》や、チユリ君の《鐘》もそれに該当する」
ふーん、と僕は何となく覚えるとそれを装着しようと押してみるが、なぜか何も起こらない。
「言っておくが、強化外装は音声入力で召喚される事か事前に装備してから戦う事のほうが多いから、そこは慣れておいたいいな」
「えっと……コール、《ダスト・サテライター》!!」 その言葉を発した途端、今まで黒いシルバー・クロウのような姿だった体の背中から2枚の機械翼が現れる。それは翼というよりは人工衛星の翼と似ていて、背中にはスラスターのような物も存在した。
「ふむ……何というか……凄い特徴的な姿となったな……。クロウとタッグを組ませたらどっちがどっちか分からないかもしれないな」
「え?ハルユ……クロウも似たような姿になるんですか?」
「あぁ。なんたって彼はこの加速世界唯一無二の『完全飛行型アバター』だ。君の強化外装とは違って、自由自在に飛ぶことができる」
そのクロウはというと、タクム君……もといシアン・パイルと赤色のスナイパーと愉快に何やら話をしている。
「そう言えば属性って何です?アバターによって得手不得手があるんですか?」
「そうだ。例えば君の親である『カーマイン・ブレスト』は赤系統の色だが、基本的にその手の色のアバターは拳銃や狙撃銃、はたまたレールガンやキャノン砲を持った、言わば遠距離特化型のアバターというのがだいたい大雑把な属性になる。さらに細かい属性に別れていったり、また例外的なのもあるのだが……まぁそれは今は割愛する」
そう言ってブラック・ロータスは言葉を一度止め、そして何かを考えるように悩み始めた。
「えっと……俺のアバターはいったい」
「うん?、あぁすまない。そうだな……君のカラー属性は名が『漆黒』を表すとおり黒なんだが……はっきり言ってこれに属性を分類するのはほぼ不可能だ」
「え!?」
その言葉で僕は一瞬固まってしまった。
「いや、言い方が悪かったな。そもそも黒系統の色については分かっていない部分の方が多いんだ。実際、私のブラックというカラーもどういう属性に秀でているというのが、はっきり分からないのが現状なのだ」
「じゃあ……つまり、意味不明のカラー属性って事ですか?」
「いや、そうではない。原則黒系統のアバターは近接、間接、射撃の全てをマルチに満遍なく得ていることが多い。私の場合は見た目が近接系だが、技のなかには遠、中距離の技も少なからず存在しているからな」
「てことは僕のアバターは……」
「『漆黒』は黒系統の中でも純粋な黒……つまり黒特有の光を反射させる光沢すら存在しない。つまり私の『ブラック』よりも純粋な黒であるため、極めればlevel7か8ぐらいでも私と互角ぐらいには戦えるほどのカラーポテンシャルが存在しているといっても過言ではないな。あくまで色だけならだが」
「なるほど……僕の場合は武器みたいな物は無いから、徒手空拳での戦闘になるけど、それでもかなりの能力が期待できるのか……」
その事に納得すると既に時間は120秒を切っていた。
「うむ……もう時間が無いからな。実践訓練はチユリ君の《ライム・ベル》とやってもらおう。そこで自分の戦い方を見つけるといい」
「なら最後に必殺技を見せた方がいいかもな」
とついさっきまで僕の事をシカトしていたカーマインが銃を両肩に乗せて歩いてくる。
「ちょうど必殺技ゲージも満タンだしな。ド派手な大技を見せてやる」
そう言って彼は狙撃銃を片手でもってトリガーに指をかけると、
『ボルケーノ・アルバレイド!!』
その言葉と共に銃口から一瞬光が起こった。すると遠くにあった校舎脇の体育館が爆発と共に業火の火柱を空高く舞い上がった。
「…………うっそぉ……」
「ふむ……3年近く会わないだけでここまでの大技を会得するとはな……」
僕とブラック・ロータスは唖然といった表情でそう呟いたが、幼馴染みトリオはそれこそ開いた口が塞がらないというように言葉すら発することができなかった。
そこで僕の始めての加速が終了した。
強化外装 『ダスト・サテライター』の翼イメージは遊戯王ZEXALのオービタル7のグライダーをイメージしていますので、そこはあしからずお願いします。
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