「う~ん」
僕は少しうなされながら朝を迎えた。元来、自分自身が夜型人間だということを自覚してる為か、朝早く起きるのがとてつもなく苦手だ。それこそリンカーに目覚ましタイマーが無かったら最悪12時近くまで寝てしまうほど、非常に寝起きが悪い。
さらにはもう内容もほとんど覚えていないが、悪夢などを見た日にはそれこそ朝から気だるい気持ちになる。
「……トースト焼くか」
そう呟いてリビングに出ると、案の定母親は帰ってきてなかったようで、テーブルに上げておいた昨日のナポリタンはラップすら剥がされていない。
仕方なく僕はトーストを焼きつつレンジでナポリタンを温め直す。数日前に母親から預かっている生活費の電子通帳を確認すると、残りが五万円と下三桁が幾らか。無駄遣いをしなければ余裕で暮らせるぐらいの額は残っている。
「さて……そろそろ焼けたかな」
トーストを確認すると、丁度よく狐色に焼き上がり、ナポリタンも丁度温め終わった。
「いただきます」
律儀にそう言って僕は食べ始めた。時計はまだ7時を少し過ぎた頃だった。
「う~ん……グローバル接続禁止なんてどういうことなんだよ」
僕は朝食を食べ終えるとすぐに家を飛び出した。昨日言われた通りグローバル接続が出来ないため、バスにも乗れないため、歩く他がないのだ。ただ学校まではそれほど距離はないため、バスを使わなくても登校はできるので、節約だと自分に言い聞かせる。
「あれ?アキくん?」
不意に声が聞こえて後ろを振り向くと、そこには特徴的なネコの髪止めを付けた少女、倉嶋千百合がそこにいた。
「おはよう、チユリさん」
「おはよう。運動部じゃないのに早いね」
「いや……友達からの罰ゲームで……登校するまでグローバル禁止なんだよ。だからバスにも乗れなくて……」
「……!!ふ~ん?」
僕の言葉にチユリは疑わしく顔を向ける。そして小声で耳打ちした。
「……君、『ブレイン・バースト』って知ってる?」
僕は心臓が飛び出そうなぐらいの驚きを味わった。
(なんでチユリさんが『ブレイン・バースト』を……いや、その前になんで気づかれた!?)
僕は脳内で一瞬、緊急議論を行うがその答えは全く出てこなかった。
「やっぱり当たりね。仕方ないちょっと待ってて」
そう言うとチユリさんはホロキーボートらしきものを打ち込むと、それをどこかへ転送した。そして数秒後、
「とりあえず学校に行こ?ここじゃ話せない内容もあるだろうし」
こうして僕はチユリさんに捕縛され、学校に向かうのだった。
「おはようチーちゃん、それにアキも」
「おはようチユ」
僕ら二人は開放されている屋上でチユリさんの友人が来るのを確認すると、
「おっそーい!!女の子を待たせるなんてダメだよ」
「これでもチユからの連絡受けて全速力で来たんだけど……」
「ハル、何か言った」
「べ、別に!!」
「まぁまぁ二人とも……それよりも」
タクムは二人を宥めると、突然こちらの方を振り向く。
「アキくん、君は昨日の放課後まで『ブレイン・バースト』を所持してなかった?そこまでは良いかい?」
「ああ。僕がこれをもらったのは昨日俺が話題にした『転校生』からだ。どこに住んでるのかは知らないけど、そいつは秋葉原のゲームセンターに居た」
「分かった。じゃあとりあえず詳しく話をするけど、因みにその人の名前は?」
「確か……」
「本日付でこの学校に転入しました、
昨日の青年……尚哉はそう言って自己紹介をすると、先生に席を聞いた。どうやら僕の隣だったようで、僕らは自然に目を向けた。
「じゃあこれから
そう言って担任が出席を確認すると、彼は僕にメモを渡してきた。そこには今では懐かしいボールペンで文字が書かれていた。
『これが終わったら廊下に出て昨日の続きを話すよ』
僕はそれを確認すると、あらかじめ春雪に送るメッセージを飛ばした。すると春雪からもメッセージが届く。どうやらそこで行うようだった。
僕はそれに供え、先生の話を聞くのだった。
「悪いな、昨日説明できなくて」
尚哉は開口そうそうに謝罪をしてくる。説明不足は自覚していたらしい。
「いえ……それでこれはいったい?」
「んじゃ、まずこれの起動方法を教えてやる。キーワードは……『バーストリンク』だ」
「バースト……リンク」
「そうだ。じゃあ「『バーストリンク』!!」っな!!」
僕のその言葉に驚いたのか、彼は少し驚いていた。が、次の瞬間僕はコンソールを開いて春雪から教えてもらったリンカー以外の名前……『
すると世界は突如として変貌し、僕の姿は漆黒のカラーを纏った人形のアバターへと変貌し、加速世界へと降り立った。
《ノワール・スターダスト LEVEL1
VS
カーマイン・ブレスト LEVEL4》
(上手くいった)
僕はそれに安堵すると、対戦相手である
「……まさかいきなり対戦を吹っ掛けてくるとは思わなかったよ」
「いや、用事があるのは僕じゃ無いんだけどね」
「は?」
そう言って僕が手を挙げると、ぞろぞろと大量に人形のアバターが寄ってくる。
一人は銀色をしたそれなりに細身のアバター、一人は深い蒼で右手にでかいものを付けている大型のアバター、そして黄緑っぽい小柄の少女アバターと、全身が黒い剣といったアバターが現れ出た。
「げ!!黒の王かよ!!」
「久しいな『マイン』。まさかお前が転入してくるとは思わなかったぞ」
「あんたがこの学校に居るって知ってたら入ってねぇよ」
「よく言う、転入試験で私の事を確認してたはずだろ?」
《マイン》は口悪くいうが、黒の王と呼ばれた少女は軽くそれを返した。
「えっと……誰が誰だか分からないんだけど……」
僕のその言葉に気づいたのか、黒いアバターの女性がこちらに振り向く。
「ん?マイン、こいつがお前の『子』か?」
「あぁ。まさかこんな色になるとは想定外だったがな」
マインは呆れるように呟くが、その言葉には期待の意味が込められていた。
「ん、では私から名乗るべきかな。私は『ブラック・ロータス』、LEVEL9で『ネガ・ネビュラス』のレギオンマスターだ。リアルネームは黒雪姫で通っている。一応三年生だが、よろしく頼む」
「僕は『シアン・パイル』。LEVELは4で『ネガ・ネビュラス』に所属してます。リアルネームは黛拓武」
「僕は『シルバー・クロウ』、LEVELはタクと同じ4で『ネガ・ネビュラス』所属です。リアルネームは有田春雪」
「私は『ライム・ベル』。LEVEL1でレギオンにはまだ所属してないんだ~。あ、リアルネームは倉嶋千百合ね」
それを聞いた瞬間、僕の頭のなかに木魚が数回鳴ったような気がした。
「えっと……青くてでかいのがタクムくんで、銀色のが春雪くん、そしてなんか鐘を持ってるのがチユリさん?」
「うん」
「……何て言うか……みんな個性的だね」
僕の言葉に嘘は無かった。事実それぞれが特徴らしい特徴が目に見えていたからだ。唯一クロウを除いて。
「まぁその話はさておくとして、そちらも自己紹介ぐらいしてはどうかね?」
「わぁってるよ。俺は『カーマイン・ブレスト』。一応狙撃の腕には自信ありだ。見ての通りLEVEL4だが、一応旧『ネガ・ネビュラス』のメンバーの一人だ」
「え!!初期のメンバーなんですか!!」
クロウは驚いたように見つめる。どうやら訳ありのようだ。
「そう言うわけだ、よろしく頼む。リアルネームは黒磯尚哉で、そっちの三人とこいつと同じクラスな」
僕はそれに曖昧に頷くと黒雪姫先輩はうむといって前に出る。
「それでは……『ノワール・スターダスト』くんで良いかな?とりあえず残り時間は少ないが、これから君にこの世界の事を可能な限り説明してあげよう」
先輩がそう言ったとき、残り時間は1200を切ろうとしていた。
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