アクセル・ワールド 漆黒の星屑   作:ドロイデン

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 ソフトのダウンロードはかなり時間が掛かった。だいぶ容量が重たいらしく、たっぷり一分近くそれは掛かり、そして英語で『ウェルカム・トゥ・ジ・アクセラレーテッド・ワールド』……『加速世界へようこそ』という意味の言葉が浮かんでいた。

『加速世界……?』

『どうやらダウンロードが終わったようだな~』

 青年はいつ頼んだのか、グラスにストローの刺さったオレンジジュースをズズーっと飲んでいた。さらに僕の前にも同じくオレンジジュースが置かれている。

『ええ……それでこれは?』

『うん。まぁいま説明してもいいんだけどさ、今日はもう遅いし、明日の朝にでもいいか?』

『構いませんけど……一体どこで?』

『君、見たところ杉並の梅郷中学の子だろ?俺も明日から転入するんだよ~。あ、因みに俺も二年生だからタメだぜ』

 意外な事実に目を丸くした。年上っぽいと思っていたのがまさか同年代だったとは……。

『じゃあなんで今日は来なかったんですか?』

『引っ越しの荷物と同時に来てさ~、着いたのが今日の昼間だったって訳さ。あ、担任には連絡してあるから大丈夫だぜ?』

『なんで疑問系なんですか』

 僕は軽く突っ込んだが、青年は笑うだけだった。僕は呆れつつ時間を確認すると、既に六時を過ぎようとしていた。

『じゃあ僕はこれで失礼します』

『ん?あぁこんな時間だもんな。すまないな、時間を取らせちゃって』

 いえ、と僕はそう言ってケーブルを外そうとする。

『あ、最後に言っとく。今日は何があっても登校するまでグローバル接続はするなよ。ただし、ニューロリンカーは外さないこと。いいな?』

 僕にはその意味は分からなかったが、とりあえず頷いた。

 

 

 

 マンションに着くと、近くに同じ制服を着た少年二人と少女一人が近くに居た。

「あれ?君は確か……」

 どうやら少し丸っこいほうの少年がこちらの方に気づく。

「確か……有田春雪くん……だっけ」

「うん。秋月くんも家ここなんだ」

「うん。僕はB棟の23階だけど」

「うっそ!!じゃあハルと同じ階じゃん!!あ、私倉嶋 千百合(くらしま ちゆり)っていうの。ハルと同じC組なんだ~」

「僕は黛 拓武(まゆずみ たくむ)、チーちゃんやハルと同じC組だよ」

「へー……てことは三人は幼馴染みなんだ?」

 僕のその言葉にチユリはそうだよー、と答える。

「といってもハルは最近ゲームばっかで、外でなんかぜんぜん遊ばないけどねー」

「きょ、去年よりは外に出てるよ!!」

「いや、それでもゲームしてる割合の方が高いじゃないか」

「タクまで!!」

 春雪は憤慨したように文句を言っているが、その顔は笑っている。

「ねぇ羽森くん?」

「アキでいいよ。前の学校ではそう呼ばれてたし」

「じゃあアキくん、アキくんってどこの学校から来たの?」

「静岡県だけど……こっちに比べたら田舎だね」

「へぇ……部活とかは?」

「一年の頃はバスケやってたけど……色々あって辞めたんだ」

「ふーん……」

 タクムは不思議がっていたがあえてなにも聞いてこなかった。

「そういえばうちの学校にもう一人転入生がいるって聞いたんだけど?」

「あ、知ってる!!でもなんか家の用事で明日から来るって先生がいってたよ」

「へぇ……それってうちのクラスなんだ……」

「うん。なんでもかなりの長身でイケメンだって噂だったよ」

 ふーん、と僕は今さっきあった青年を思い出してみる。確かに身長はかなり高く、目測だが180近くはあったと思う。さらにウルフカット系のライトブラウンの髪……確かに喋らなければイケメンといって過言ではない。喋らなければだが。

「とりあえず立ち話もなんだし、中に入らないか?」

「あ、ごめん。私これからやることあるから」

「僕もそろそろ戻らないと両親に怒られそうだし、ここで失礼するよ」

 そう言ってタクムとチユリは僕と春雪を置いて行ってしまった。仕方なく僕たちも別のエレベーターの前に立った。

「……なぁ春雪くん」

「うん」

「君って両親は?」

「父さんはいないけど、母さんは帰ってくるのが遅いから……」

「じゃあ一緒に食事しないか?うちも親が帰ってきてないみたいだし」

 僕のその提案に春雪くんは少し悩むも首を縦に振り、Bの23棟に着くと僕の家に入った。その際、春雪の家がまさかの隣で驚いたのは言うまでもない。

 春雪は家にはいるなり僕の部屋を珍しげに見回す。

「どうしたの?」

「いや……なんか暗いなーって」

「あぁ、俺も母さんも黒系統の色が好きでさ、いつのまにか部屋が黒で統一されてたんだよ」

 僕のその言葉になぜか春雪くんは少し退いていた。しばらくして彼は近くにあった椅子に座る。

「あ、普通に寛いでていいよ。料理は僕がするし」

「い、いや……なにか手伝うよ」

「う~ん、じゃあテーブルを拭いてくれないかな?」

「わ、分かった」

 そう言って僕は近くにあった台拭きを春雪くんに渡す。そして僕は冷蔵庫の中身を確認すると、手早くパスタを茹でてナポリタンを作り上げた。

「お待たせ」

「は、早いね……中々」

「母さんが早く帰ってくること事態余り無かったから、自然と身に付いたんだ」

 そう言って戸棚からフォークとスプーンを取り出す。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

 そう言って僕らは一気にパスタを頬張る。今回は中々の上出来だったようで、共に黙って食している。そして10分後には皿にはソースの跡だけのこり、そろって麦茶を飲んでいた。

「美味しかった……冷凍食品なんか目じゃないくらい美味しかった」

「へぇ~やっぱり春雪くんは料理が苦手な質だな?」

「う、そう言われると何も言い返せない……」

 春雪くんは項垂れるが、僕は自然と笑みを浮かべる。そこからは何となくゲームなどの他愛もない世間話に花を咲かせる事となり、

「凄いね……羽森くんって料理もできるうえに勉強も得意なんでしょ。僕みたいに何の取り柄もないのと大違いだよ……」

「でも春雪くんの場合はなんだかんだ言って話の輪の中にいつもいる。そうじゃなかった?」

「……言われてみれば……」

「それもある意味才能だよ。だけど辛いなら誰かに頼ったりした方がいいかもしれないよ。信頼できる友人かいるなら尚更さ」

「そう……かな?」

「うん、居なくなったら、頼ることもできない。縋ることもできなくなる」

 僕はその言葉になぜか力が入っていた。転入してきたから分かることなのかもしれないが、それだけじゃない。きっと……

「……そろそろ7時か」

「じゃ、じゃあ僕はここで……」

「うん、また明日……な」

 僕はなぜか突発的に始まっていたお悩み相談室(?)を切り上げ、春雪くんを部屋の外に出るのを見送った。その時、不意に夜空を見上げると、一つの流星が宇宙を駆け抜けた。

 

 

 

 その日、僕は柄にもなく早く寝てしまった。その時、悪夢というならこれほど質の悪いものはないと思えるほど、それは強烈だった。

 普通に見えていたはずの視界に暗闇が広がり、それはいつしか自分自身がどこにいるのかさえも分からなかった。不安になり少しずつ歩くと、床だった部分は消えて身体が自由落下を始め、やがてその中で自分自身さえ消え始めていた。

(嫌だ……こんな闇のなかで……消えるなんて……)

 そう思って上を向くと、一粒の流星が駆け抜ける。それはやがて大漁に起こり始め、巨大な流星群へと変わっていく。

(俺は……あの流星みたいに……あの宇宙を駆け抜けたい!!どこまでも!!)

 そして意識はやがて闇へと消えていく。その時、確かに聞こえた。

 

    ――ソレガ、オ前ノ望ミカ?――

 




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