「はぁ……疲れた」
あの対戦が終わった直後、怒濤のように連続で対戦が続いてしまったため、僕は新宿へ向かうどころか、ネットワーク遮断して帰路へ着くことになった。数十回の対戦のうち何回か負けはしたものの、レベル4の相手にも一、二回勝てたおかげでポイントは既に200前半に達していた。
「あの世紀末真っ盛りみたいなライダーアバターは手強かったな……」
特にドクロマスクを被った旧バイク乗りのミサイル攻撃には少し驚かされた。宇宙空間ですら飛んでくるそれを避けるために浮かんでいた岩石をどれだけ壊されたかは数えきれない。
(なんか僕の必殺技って強いかと思ったら弱点結構あるよな……)
必殺技のコストもあるが、特に大型アバターと遠隔系との対戦が特にそうだ。大型アバターは無重力空間では通常空間より早く移動されるため、ただでさえ紙である装甲には不得手だった。実際何人か大型アバターと戦ったが、有利に勝てたのは一つも無かった。
そして遠隔系のアバターは拳銃などの現実に存在するような武器に対しては、宇宙などの空気の無い空間で使えないために有利に戦えたが、ミサイルやレーザー、ビームなどの兵器に対する武器に対してはむしろ射程が通常時より伸びてしまう事があるようだった。ライダーアバターのそれがいい例だ。勝てない事はないが、やはりこちらも装甲が薄い点で無理に守ることが出来ないため、どうしても強化外装による高速回避を使わなければ被弾して負けてしまう。
(遠距離型の対策はマインさんに頼むとして……タクム君が応じてくれるかな……)
今日見た限り、タクム君のアバターは完全に大型のアバターであり、パワーによる肉弾戦との戦いにおいてはこれほどない訓練相手だ。
「でも結局はレベルと経験の差だよな。やっぱりソロで頑張って地道にポイントを稼ぐ他無いのか……」
僕は少しげんなりとしてため息を吐いた。と、その時
「羽森!!助けてくれぇ!!!!」
突如の大声に振り返ってみると、そこには全力疾走で近づいてくる直哉と、これまた全力疾走して彼を追いかける見慣れない一人の少女がそこにはいた。
「え?え?ちょ!?」
当然僕は逃げた。巻き込まれたくないということより、本能的直感が危険だと告げている。
「ちょ!!逃げないでくれよ羽森!!」
「無茶言わないでください!!逃げなきゃ絶対巻き込まれてジ・エンドじゃないですか!!」
「そう言うな!!死なばもろともだ!!」
「絶対に嫌だ!!」
僕はより一層歩幅を大きくして駆け抜ける。しかし、それは一瞬にして終わった。突然前から見慣れない少年が現れたかと思うと、彼はいきなりこちらへと駆け抜けてきて、そして、
「ていや!!」
僕を抜き去って直哉の顔面にジャンピングキック……いわゆるライダーキックというものを決めたのだった。何事かと振り返り状況を確認して周りを確認すると、どうやら偶々ソーシャルカメラが映像圏内に無いらしく、辺りから警察のパトランプの音は聞こえなかった。
「このバカ兄ぃ!!昨日また黙ってゲーセンに行っただろ!!ゲーム禁止令出されてるの破ったな!!」
「や、やめろ
「昨日は兄さん、荷物運びで学校行ってないでしょ!?バレバレの嘘をつかないで、みっともない」
「シ、
「「結局は遊んでるんだから違いないでしょ!!」」
「そ、揃って言うなよ二人とも……」
「あ、あのー……」
僕はたまらず少年達に声をかける。さすがに友人が年下の少年少女に言いくるめられてる姿は、何というか……どこからツッコんで良いのか分からなかった。
「あ、すいません、いきなり。どうかしましたか」
「い、いやさ……僕、一応直哉くんの友達だからさ……何がどうしてこうなってるのか聞きたいんだけど?」
「あ、バカ兄ぃの友人の方でしたか。いきなりすみません」
少年はそういうと僕の方へ顔を向ける。そこには幼いが、直哉そっくりの顔立ちをしているのが目にとれた。
「自己紹介がまだでしたね。僕は
「おなじく
「え?黒磯って……まさか直哉君の?」
「そ、俺の二つ下の弟妹だ。しかも双子だからなお質悪い」
直哉は呆れるように呟くが、それにムッとしたのか、弟くん達は身長差があるのにも関わらず、いとも簡単にそれぞれ直哉の方耳を引っ張り始めた。
「兄ぃが真面目にやってたら僕らだってこんなことはしないよ!!」
「そうそう。それに今日はお母さん達、仕事で帰ってこない。冷蔵庫の中身ほとんど無いし、今日の買い物当番は兄さんだよ」
「イタイイタイ!!分かったから耳を引っ張るな!!」
なんともはや、大の中学生の兄と呼ばれる人間が弟や妹にこんな扱いをされるとは……僕は遠い目でそう感じ取ってしまった。それと同じく一人っ子で良かったという、悲しくないのに虚しい気分になってしまった。
「そういえば何で直哉はこっちに来たの?確か家って渋谷の方って聞きましたけど?」
「いやー、直で家に帰ったらこいつらに殺されるじゃん?それに……」
「それに?」
「ただ単にお前の家に行きたかったからさ」
その瞬間、直哉はまた脳天にドロップキックを喰らった。
「兄ぃは何を言ってやがんだコノヤロウ!!」
「友達の目の前だからって嘗めたらいけないよ。今日という今日は首根っこ捕まえて、引きずってでも連れて帰るからね!!」
「ノ、NOooooooooN!!」
どこぞの動く消しゴムのような悲鳴をあげながら、直哉は弟くんに引っ張られていく。
「あ、裕司兄は先に行ってて。私この人に少し話があるから」
「ん?別にいいけど、歩道時間前までには帰れよ?」
「分かってる」
直哉は依然ジタバタしていたが、小学生とは思えない力で引かれていったのだった。
「なんか……デジャブったな」
僕は昼間のことを思いだすと、すぐにその記憶をどこかへと追いやった。
「で、果音ちゃんだっけ?一体何のようなの?」
「いえ、ただ簡単で単純な話です」
そこで少女は笑みを浮かべた。その瞬間僕は悟った。これは今までの純粋な笑みではなく、挑戦的で、なおかつ知っている目だった。
気付かなければいけなかった。少女が残ると言ったその瞬間に彼女が、
「私と対戦してください。あの世界で」
彼女が『