アクセル・ワールド 漆黒の星屑   作:ドロイデン

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遭遇戦

「さて、放課後はどうしようかな……」

 授業もHRも終え、軽く伸びをしながら僕はひとまず何をするか考えた。せっかくリンカーになったのだから対戦をしに行くのはある程度普通なのだが、問題はどこに行くかだった。

(確か湾岸地区は黒のレギオンと仲が最悪とかタクムくんが言ってたからな~。アバターが真っ黒な僕が行ったらレギオン総出で襲いかかってきたりしかねない……)

(やっぱり無難なのは秋葉なんだけど、確か数週間前に黄色のレギオンと面倒を起こしたってハルユキくんが言ってたから無理だし……)

(新宿は……とりあえず皆何も言ってなかったからそこへ行くか)

 僕は目的地を決めると、さっさと鞄を担いで教室を早足で出た。その姿を、一人の男子生徒が影で見つめているとも知らずに……。

 

 

 

「さて、確か新宿行きのバスは……」

 僕はひとまず校門を出ると、ちょうど丸の内方面に向かうバスが近くに停車しており、僕は駆け足でその中へ乗り込んだ。急いで座席に座ると、バスはゆっくりと重い車体を動かし始めた。

 その瞬間、ついさっきまでに何回か聞いた特徴的な破裂音が耳元へ鳴り響く。目の前には『挑戦者が現れました』と英語で書かれており、僕はいきなりのことで少し身構える。

 アバター状態になりステージを見回してみると、そこはまさしく暴風雨を体現したとも言えるステージだった。風が音と木々を切るように走り、所々雷鳴のような音まで聞こえる。

 対戦相手は『ダンデラ・イオン』というレベル1のアバターだった。相手を示すアイコンは左斜め前に伸びており、僕はスラスターを使って高速でそちらの方向へ回る。前回の失敗を踏まえて限界値の半分くらい使っては物陰に隠れ、相手を視界にいれる。

 どうやら黄色系統の少女型アバターらしく、背中と両腕にはなぜかフィンのようなものがついてある。

(たしか黄色は間接系の技を中心に使うんだよな……もし名前通りのアバターなら今回は圧倒的に不利だ)

 ギリギリで観察していると、どうやら相手もこちらに気付いたようで右腕のフィンを取り外して投げてきた。

「チッ!!」

 僕はすれすれで避けると、体勢を立て直すために少しスラスターで木の枝へと登る。避けられたフィンは大きく弧を描くと、まるでブーメランのように持ち主の腕へ戻っていく。

(相手はブーメランを飛ばして戦う遠距離型か……でもそれなら名前との関係性は一体?)

 そう考えていると、黄色い少女はこちらに向き直って睨み付けてくる。

「同じレベル1なのに初見で避けるなんて……アンタ本当に『初心者(ニュービー)』なの?」

「そんな見え見えの武器で避けらんねぇ奴が居るのかっての。それと、僕は確かに君たちの言うところの『初心者』だけどさ、それがなんか関係あるの?アンタもレベル1なんだから『初心者』と言われればそうだろ?」

「まぁそうなんだけど、今までここ杉並どころか東京の中で『ノワール・スターダスト』なんてアバターは聞いたこともなかったからね。今回の対戦は興味本意以外何もないわ」

「だったらその考えは命取りになるかもね」

 僕はそう言って必殺技ゲージを確認するが、攻撃をしてないため鐚一文増えていない。逆にイオンも同じかと思いきや、少しだがゲージが増えている。

「しっかしアンタのアバターって特殊みたいね。名前からしても」

「……?どういう意味だ?」

 僕は反射的に首を傾げて聞いてみる。

「だってバーストリンカーのアバターのカラーネームは基本的には英語よ。アンタのはフランス語だから異常も異常よ」

「そう言うそっちの方はどうなんだよ?『ダンデラ』なんてカラーは聞いたことねぇよ」

「私の場合は英語を省略してる形ね。正確なカラーネームは『ダンデライアン』っていう黄色系統の色よ」

「『ダンデライアン』って……もしかしてカラーネームとスキルネームが一つになってるパターンかよ」

 面倒なアバターも居たもんだと、僕は内心呆れた。と、再び必殺技ゲージを確認すると、いつの間にか目の前の黄色い少女のゲージが二割近くまで装填されている。

「な、なんで!!」

「気付かれたみたいだけど、そんな事言うわけないでしょ。丁度よく時間稼ぎもできた事だし一気に決めさせて貰うわよ!!」

 そう言うと両腕のフィンを彼女は僕の方へ向かって構える。何か来ると思って身構えるが、それは完全に失敗だった。なぜなら

『パラジオフ・ハイドロ!!』

 彼女の言葉に呼応して突如フィンから高速で竜巻のようなものが飛んでくる。どうやら水と空気が混じった突風のようで、少しずつダメージを喰らっていく。

「く!!」

「どうよ!!この『ダンデラ・イオン』様の必殺技は!!背中のフィンでイオン分解した水を、両腕のフィンの高速回転で水滴になったそれを空気と一緒に打ち出す必殺技の威力は!!」

 僕は動けない体を守りながら心の中で軽く舌打ちをする。彼女のアバターのスキルネームである『イオン』……つまり空気や水などをイオンにまで原子分解させ、それを利用して攻撃してくる。面倒なことこの上ないアバターだ。しかも背中のフィンによってどうやらイオン分解する過程で必殺技ゲージのエネルギーを生み出すという、チートといってといいほどの能力だ。

 が、どうやら必殺技発動中は体を動かせないという制約があるのか、相手は同じ体勢のまま固まっている。

(長期戦じゃ、絶対にじり貧で負ける。かといって脱け出そうにも風が強すぎて動けない……)

 さてどうしたものかと考えていると、近くでいきなり落雷が発生した。と、その瞬間必殺技の出力が低くなったようで、スラスターのエネルギーを全部使って拘束から脱出する。体力は既に半分以上削られ、ゲージもフルで溜まっている。

「うぉぉぉぉぉ!!『ルナーク・ディストラクション』!!」

 必殺技発声と共に、今まで暴風雨だったステージが変更される。初見である『ダンデラ・イオン』や、観戦していたアバター達が一気に動揺をし始め、やがてその深い闇の美しさに口が塞がらなくなってしまった。

「これであいつのポテンシャルをほとんど奪えた……かな?」

 ダンデラ・イオンは名が表す通り物質の原子構造……水などに含まれるイオンを操るアバターだ。だが月面ステージに水なんてものは存在するわけがない。存在してもそれは恐らく『水』という液体ではなく『氷』という固体になる。彼女のアバターがいくら自身でイオンを分解させる事ができたとしても、そもそもの液体が無ければ意味がない。

「こんのぉ、ナメた真似をぉ!!」

 彼女はどこぞの赤いロボットに乗った少女のような言葉を吐きながら、フィンを勢いよく投擲してくる。が、ここでその選択は

「……はっきり言って死亡フラグなんだよ!!」

 僕は再充填されたスラスターを一気に加速して正面突破を図る。フィンという特性上、投げるとまっすぐは飛ばない武器で、高機動スラスターを持つ僕のアバターの正面突破に当てようというのならかなりの練度が必要になる。ましてや擬似的とはいえ無重力空間でやるとなれば尚更の事だ。

「うぉぉぉぉぉ!!」

 間合いに入ると、両手を素早く動かしてラッシュを決める。さらにスラスターを小刻みにブーストさせて三次元的に攻撃を続ける。彼女の体力ゲージは一気に消えていき、既に風前の灯火だった。

「負けるかぁぁぁぁ!!」

 ようやく空間に慣れたのか、再装填されたフィンを両手に持って振りかぶってくる。だが、

「『ルナーク・ディストラクション』!!」

 僕は再び溜まった必殺技ゲージ満タンを全て使い必殺技を使うと、今まで宇宙空間だったフィールドがまた『暴風雨ステージ』へと変化した。だいぶ地上から離れていた僕たちは一気に落下を始めるが、僕はスラスターを使って立っていた木々にぶら下がる。

「そ、そんな必殺技アリィィィィィ!!」

 彼女はそんな絶叫を残して体力を散らした。辺りからは歓声が鳴り響き、僕は少しばかりの高揚感を胸に加速を終了させた。




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