やはり俺がIS学園に入学するのはまちがっている。   作:AIthe

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次話は大事な回なので頑張ります。


わけも分からず、比企谷八幡は逡巡する

「ええっと、ここは───」

 

日が変わってクラス代表候補戦当日になった訳だが、特にやる事もない。やる気もない。授業中だけど眠い。早く部屋に帰って惰眠を貪りたい。それか本屋にでも行きたい。

 

山田先生が黒斑の前でアワアワしている。実際には普通に授業をしているだけなのだが、その体格とオドオドとした性格からそう見えてしまう。

 

「じゃあここを‥‥比企谷くん!」

「は、はい。え、えっと、IS学園はIS国際委員会に所属する全ての国と地域から集めたお金で動かしています。その為───」

「はい、よくできました!」

 

山田先生に指されて少しドキッとした。大丈夫だよな?挙動不振じゃないよな?

周囲からの視線が痛い。いちいち動く度にこっち見んな。

周りの視線から逃げるようにコンピュータを開き、「今勉強しています」感を出す。すると、少し前に設立したばかりのあのサイトにメールが来ていた。スパムかと思っちゃったぜ。ってか特に公表してないのになんでもうメールが来たんだ?

 

『好きな人がいたんですけど、今は別の人が好きになっちゃいました!どうすればいいですか?byA.K』

 

ふむふむ、要約すると『(前の学校で)好きな人がいたんですけど、今は別の人(織斑弟)が好きになっちゃいました!』という事ですね。分かります。

それにしてもA.Kって銃の名称っぽい。名字がKの奴か‥‥詮索は良くないな、うん。落ち着こうぜ。

前方でウトウトしている織斑弟に目線を注ぐ。授業中に寝るなんて良くないぞ!(瞼を擦りながら)

さて、メールの文章を読み直すと、まあ恋多き乙女(笑)のようだ。前好きだった男には合掌。織斑弟は滅びよ。もしくは十字架を抱いて生きろ(テニプリ並感)。

コミュ力の低い俺に、特にアドバイスする事はない。まあ、強いて言うならば───

 

『今あなたが恋をしている相手は相当な朴念仁、朴念神と言い切っても過言ではないので、どんどんアタックしましょう。』

 

これでいいや。百点満点の回答とは言えないが、及第点くらいには届くだろう。ってかこの学校で恋愛相談とか相手が特定余裕だから気をつけようぜ。

 

「では、授業を終わります。復習をしっかりしておいて下さいね〜」

「気をつけー、礼」

 

あざっーしたーと適当に返事して、学生の安息の一時、昼休みに突入する。今日は昼休みが終わったら掃除で、五時間目からはクラス代表候補戦に突入する。見学は原則自由だが、殆どの人が自分のクラス代表を応援するだろう。また、全アリーナを使って行なわれるので、今日はISの練習ができない。つまり今日一日は暇なのだ。やったぜ。

 

迷わず食堂に直行する。今だったらアクアジェットでふっとばして、もやもや気分霧払いできる。もしくはガンガン行って風切ったりできる。ポケモンの話はやめろ。通信交換する相手がいなかったからカイリキーとハッサムが作れなかった話はやめろ下さい。

 

「すみませーん」

「はいよ、ラーメンね」

「あ、う、うっす」

 

思考が読まれててキョドっちゃったぜ。男ってだけで名前覚えられんのな。やりますね。

それにしても食堂のおばさん達は女尊男卑を知らないのか。クラスの大半はそんな感じだが、あの感嘆符多い系女子とか織斑先生とか思想が遅れてるだろ。いや、こっちとしてはありがたいんだけどさ。ほら、「男の癖に生意気」とか「ヒキガエルくん癖に生意気」とか‥‥‥最後の雪ノ下じゃね?

 

「‥‥‥‥っ‥‥」

 

雪ノ下という名前を思い出した瞬間、少し気分が悪くなる。何故だ。

 

「比企谷くん早いよー!」

「‥‥‥どうした?」

「一緒にご飯食べるって約束したじゃん!」

「してねえよ」

「あれ?そっか、じゃあ一緒に食べよっか。すいませーん!」

 

じゃあの使い方前衛的すぎるだろ。そもそも約束してないから。絶対にしてない。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

相なんとかさんを放っておいて、ベストプレイスに着任する。最近のゲームってよく喋るよな。プレイしてなくても勝手に喋り出すもん。艦これとか。

 

「いただきます‥‥‥」

「待ってよ〜」

 

トコトコとお盆を運ぶ。あまりに危なっかしくて食事に集中できない。

 

「おまたせー」

「はいはい」

 

今日は塩ラーメンの気分だ。いつもより大きなチャーシューと淡麗なスープの組み合わせが美しい。

スープを口にする。鶏と魚介の風味がふんわりと効いており、柚子の香りが爽やかさを演出する。三葉が乗っているのも八幡的にポイントが高い。

麺を啜る。若干ウェーブがかかった縮れ麺で、スープがよく絡む。喉越し抜群だ。

 

「凄く美味しそうに食べるね‥‥‥」

「なにそれこわい」

 

ふたりドゥビドゥバしてるの?それとも幸せなブタちゃんなの?全員カレーライスを食っていいという可能性も捨てきれんぞ‥‥確実に死亡フラグ立ってるじゃねえか。

 

「うーん、おいしいね」

「‥‥‥まあな」

 

相なんとかさんが食べているのはハンバーグだ。オニオンソースっぽいのがかかっているが、米‥‥‥この場合にはライスというべきなのだろうか。何故かライスにはカレーがかかっていた。オニオンソースとカレーってどうなんだよ‥‥‥

 

「そういえば、今日比企谷くんはどこで何をするの?」

「え?報告しなきゃいけない義務でもあんの?」

「いいじゃん教えて教えてー!」

 

アリーナ空いてないなら特にする事なんてねえよな‥‥‥どうしようか‥‥‥

 

「部屋にいるわ」

「ええー、クラス代表戦見ないの?」

「お前だって誰かと見る約束してるんだろ。俺が行ったらどうなるか予想してみろ」

「うーん‥‥‥でも比企谷くんいた方が面白いし‥‥‥」

 

面白いって言われてもネタにされる未来しか見えねえよ。

 

「じゃあ、今度一緒に遊びに行こっか!」

「さっきから話跳躍し過ぎだろ」

 

じゃあの使い方が前衛的過ぎる。大事な事なので二回言いました。

 

「いいじゃんいいじゃん行こうよー!」

「断る、理由がない」

「ぶー、ケチ!」

 

ラーメンをすすりながら、こいつ語彙少ないなと思う。IS学園に入れるんだから俺より頭がいいはずなんだけどな。

外人に向かって普通に「相川清香です!よろしくね!」とか言いそう。キヨカ・アイカワって言えるかな?

 

「いいじゃんいいじゃん!」

 

そろそろうるさいのも限界が来そうだ。何故俺はここまで機嫌が悪いのか。自分でもわからん。

 

「良くない。あと静かにしろ。そして食事中に喋るな。汚いぞ」

「ごめん‥‥‥‥」

 

あんなに元気だったのに簡単に萎れてしまう。感情の起伏が激しいのか。あんまり怒ったりしなさそうに見えたんだけどな。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

気まずい。なんて爆弾を投下してくれたんだ奴は。小町!どうすればいいか教えて!

(脳内小町)「女の子を悲しませるとか小町的にポイント低いよ!」

(脳内俺)「じゃあどうすりゃいいんだ!」

(脳内小町)「謝って」

(脳内俺)「え?」

(脳内小町)「謝って」

(脳内俺)「いや、だか「謝って」

(脳内俺)「ふえぇ‥‥‥」

 

脳内小町怖い。小町ってこんなに怖かったっけ?そういえば最近小町の声聞いてないな。サイリウムとコマチニウムが足りない。前者って確実にライブで使う光る棒だよな。もしくは食物繊維。

 

「まあ、その、気にすんな。言い過ぎた」

「う、うん。ごめん‥‥‥」

「食べながら喋る事だけで嫌われたりするからな、ソースは俺」

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

再び沈黙。何て言えば正解だったのだろうか。

 

「‥‥‥‥先戻ってるわ」

「うん‥‥‥」

 

少し残ったラーメンをお盆ごと持ち上げ、ベストプレイスから立ち去った。

 

───2───

 

場所が変わってIS学園郊外。俺は風通しのいい場所で本を読んでいた。今日は夏らしい暑さをあまり感じず、逆にこの風が心地よい。

 

『これより、一組クラス代表対───』

 

学校中にアナウンスが響き渡る。もう始まったらしい。そういえば織斑弟はあのちっこいのとやる予定だったはずだが、勝てるのだろうか。優勝すればデザート食べ放題がどうのこうのと騒いでいたし、あいつも張り切ってる事だろう。

 

「‥‥‥‥はぁ」

 

さっきの返答。俺はなんと答えれば良かったのだろうか。俺は正しい事を言ったはずだ。正しさは時に人を傷つけるというが、正しさとは主観でしかない。俺が【浮舟】に対して「わからない」と答えたように、正義など俺には「わからない」。

もし、もしもの話だ。人生がゲームのようにリセットできるとするならば。

俺の人生は変わっていただろうか。

答えは否だ。俺がぼっちなのも、奉仕部に入れられたのも、ISを動かせていたのも、全部変わることはないだろう。

俺の行動は俺自身に責任が生じる。何故相川の機嫌を損ねてしまったのかはわからないが、あれは俺の責任だ。

なんて珍しくまともな考え事をしていると、ケータイがピロリンと鳴る。スパムだと思っているのに、何故かメールを確認してしまう。

 

「‥‥‥またか」

 

再びサイトにメールが来ていた。それも二件。直接メールフォルダに入る仕組みになってるのか。

つまり俺のメールアドレスが世界に公表されてる状態なのか?

まあ、ネット上の会員登録は捨て垢でやってるし、このメールアドレスも小町相手にしか使うこともないから別に問題ないのだが。

 

『友達と気まずくなってしまいました。どうすればいいですか?byA.K』

 

またこいつか。だからなんでこのサイトを知ってるんだ。

だが、内容が内容だ。今の俺にぴったりのお悩みである。

 

「‥‥‥‥‥わかんねえ」

 

そもそも友達がいない俺に仲直りの方法を聞かれても困る。ここはテンプレで行こう。

 

『きっと相手も仲直りしたいと思っていると思います。仲違いの理由を考えて、素直に謝りましょう。』

 

完璧だ。友達が五倍に増えるレベル。あっ、0に何かけても0ですね。もうやだこの世界‥‥‥

 

「二件目は‥‥‥‥」

『このサイトのURLを学園の掲示板に貼っておいby織斑』

「あっ‥‥‥」

 

察しましたそういう事ですね。織斑先生マジ無能。事後報告とか良くないっす。あと最後まで書こうか。

 

「さて‥‥‥‥」

 

寝るか。相なんとかさんにはしっかり謝ろう。ルームメイトと気まずい状態が続くなんてたまったもんじゃない。

帰ろうと立ち上がると、学園に建てられたメガホンからゴソゴソという雑音が聞こえた。ぼんやりと上を向く。

 

『侵入者!?レーダーには‥‥』

 

ブチッという音と共にメガホンは音を失う。

侵入者。その単語に、俺の身体は強張る。だが、俺が何かをする必要もないし、する実力もない。そう思っていたし、そうだと確信していた。

が、ある言葉が頭をよぎる。

 

「色んな人が来賓で来るんだってー!」

 

相川が言っていたあの言葉。“来賓”という言葉の意味。そして、侵入者が来たのは今日。わざわざクラス代表戦が行われ、来賓が来るこの日。

なら、狙いは明確だ。

そして、IS学園という場所。織斑千冬が教員をやっているという事実。それを考慮して勝算があるとするならば、この状況は全て予想されているはずだ。

 

「‥‥‥【浮舟】」

 

なら、この場合のイレギュラー因子は俺自身だ。こんな学園の端に生徒がいる事を侵入者は予想しているだろうか?十中八九それはないだろう。

時間稼ぎくらいなら俺にもできるはずだ。数の勝負ならIS学園は確実に負けないのだから、時間さえ稼げれば教師がどうにかしてくれるだろう。

 

【若紫】を起動すると同時に、上空に黒い物体を発見する。ハイパーセンサーを拡大し、その姿を視認する。

それは真っ黒な、見た事のないISだった。両腕が異常な程に大きく、不恰好な姿をしている。

侵入者と思われるISは突然急降下し、その姿を校舎の奥に隠す。俺は慌てて急発進し、大きくジャンプして桜の木に飛び乗り、更にそれを蹴り飛ばして校舎の屋上に飛び乗る。

屋上から隣の屋上に飛び乗り、更に隣の屋上に飛び移る。黒いISはこちらに気づいてないのか、地上をウロチョロとしている。

 

「Code:sniper rifle」

 

【藤壺】に四本のレールが接続され、エネルギーチャージが開始される。この距離ならそこまで遠くない。当てられるだろう。

膝をつき、念の為にシールドを展開する。

 

「システムを精密射撃モードに変更。標準、表示します。」

 

視界に現れた十字を黒いISに合わせる。光が収束し、砲身から漏れ出す。

チャージが完了したのだ。

 

トリガーを引こうとした瞬間、ハイパーセンサー内に別の影を捉える。

 

三つの反応。

この学園の生徒が二人。そして、スーツを着た黒髪の少女が一人。黒いISの姿は柱の死角になっており、丁度見えない位置だ。

三人はその柱から出てしまう。慌ててトリガーを引こうとしたが、それは叶わない。

 

そよ風に髪を棚引かせ、その顔を露わにする。

 

「なっ‥‥‥‥あれは!?」

 

流れる黒髪。氷のような冷たい無表情。その少女は、紛れもなく雪ノ下雪乃であった。





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