新・うっかり女エミヤさんの聖杯戦争(完) 作:EKAWARI
今回の話は、元々DL販売版を出す時におまけとして、「藤ねえがエミヤさんに懐くまで」8ページ漫画という形で本来収録する予定だった話の小説変換バージョンになります。
まあ、元々は8ページ漫画が元ネタなので、話も短くこれまで以上に番外編臭がしますがご了承下さい。というか、元は漫画媒体で考えた話だったもんだから、予想以上に小説という媒体に転換するの大変だったです。4コマ漫画を小説転換してもなんか微妙なのと同じ同じ。漫画と小説じゃ長所や魅せ方が違うから仕方ないね。
因みに次回の話は、にじファン連載時代に1,2を争う反響(?)だった、水着回です。
side.藤村大河
どうも、初めましてもそうでないかたもこんにちは。冬木の虎でお馴染みの美少女女子高生藤村大河です。
って、虎っていうなー。
え? がおーって咆吼する姿は虎以外の何者でもないって? むむむ、そういうこという不届き者はあたしの竹刀でこてんぱんなんだからね!
そんなあたしですが、ある日お隣の坂の上のお屋敷を購入した笑顔が素敵で危険な臭いのする優男、衛宮切嗣さんに一目惚れ致しました。いやもう、一目見た瞬間ドッキュンラブといっちゃいました。ッショイ!
あわよくばおつきあい出来たらなーなんて思ってたら、「僕の家族を紹介するよ」だって? なんと切嗣さんは子持ちのこぶつきパパさんなのでした!
く、憎いぜ。それでも眩しいあなたの笑顔が憎いぜ、ダーリン。
でも、くじけない。あきらめない。逆境でこそ輝いてなんぼですよね!
それに子供はいても、切嗣さんに奥さんはいないみたいだし、後妻ポジならまだ望みはないとは言い切れない筈よね。そうだ、くじけるな、あたし。頑張れ、あたし。こぶつきがなんぼのもんじゃい、受けて立つわ、ゴラァッ!
そんなあたしですが、最近とても気になることがあります。
「それじゃあ行ってくるよ、シロ」
「ああ、気をつけてな。いってらっしゃい」
そう、あそこで切嗣さんに挨拶している、切嗣さんと同じぐらい背が高い女の人。シロさんっていって、切嗣さんの子供さんの1人って話なんだけど……シロさんって、どう考えても、『娘』って年齢じゃないですよね?
ぶっちゃけあたしより年上だし、ていうか、切嗣さんと聞くところによると11歳しか離れていないって話だし! 11歳差で親子とか普通有り得ないでしょ!? いくら養子でもないない、普通有り得ない。
しかも、その上……。
「……」
ニコッって。あまり普段は表情変えないくせに、あたしに気付くとニコッって笑って、手を振ってきたりとか……! 何、あの態度。切嗣さんがあたしに靡かないという余裕の現れ?
本当、なんなの? なんでそんなにフレンドリーなの? あたしを懐柔する気なの?
しかも、遊びに行くたびに、美味しいお菓子とお茶用意してくれるし! 御夕飯は美味しいし、ていうか至れり尽くせりだし!! だが、女・藤村大河、敵の情けなど受けーん!
「あー、もう面白くない。面白くない。面白くない」
いくらご飯が美味しくても、そんなんであたしを懐柔しようだなんて、そうは思い通りにいかないんだから。
(ていうか、本当は娘じゃなくて『愛人』なんじゃないの?)
だって、本当にシロさんはあたしと違って大人の女の人で、しかも家事全般万能で、スタイルだって良くってさ、悔しいけどあたしよりもよっぽど切嗣さんとは『お似合い』なんじゃないかと思うもの。
だけど、そんなことを理由に
ふと、自分の手を見る。
そして1週間ほど前の事をあたしは思い出していた。
* * *
それは日曜日の午後。切嗣さんの家の道場での事。
「驚いたよ、大河ちゃんは強いんだね」
そういって、切嗣さんは優しく笑って手を差し伸べた。
優しい黒い眼差し。その顔が凄く、『好きだな』ってそう思って、あたしは顔を赤らめながらも切嗣さんの手を取りながら立ち上がる。
「そんなことはないです、切嗣さんに比べたら、あたしなんてまだまだ」
それは謙遜でもなんでもない事実だった。
実際、学校では剣道にかけては負け無しのあたしだったけど、先ほどの切嗣さんとの勝負の結果は0勝2敗。
あたしの剣は切嗣さんに擦らせもしなかった。
でも、胴衣姿で竹刀を構える切嗣さんは様になってて凄く格好良くて、だから負けたのは悔しいけど、自分の好きになった人が自分よりも格上であるということが、とても嬉しかった。
「いやいや、十分強いよ。でもね、君は女の子なんだから、どうしようもなくなった時は自分でなんとかしようとせず、僕でも誰でも呼ぶんだよ」
そういって切嗣さんは優しくあたしの頭をぽんと撫でて微笑んだ。
ああ、本当好きだなあって、あたしはそれを見て思ったのです。
ヒーローを信じるような年じゃないかもしれないけど、それでも本当にあたしがピンチに陥った時、切嗣さんなら来てくれるんじゃないかってそんなことも思った。
きっとあたしにとっての白馬の王子様は切嗣さんだ。
だから、切嗣さんのそんな仕草や言動の一つ一つがあたしには大きな宝物。
奥さんがいるならともかく、そうでないのなら、諦めるなんて選択肢を選べるわけがなかった。
* * *
(切嗣さん……)
暖かい記憶を前に頬が思わず弛みだす。
切嗣さんのことを考えると、胸の奥底からポワリと暖かいものが浮かんできて、あたしの心を満たす。
それが凄くたまらなく嬉しくて。
けど、思えば、そうやって想い出に浸っていたのが悪かったんだろうと思う。
何故なら……。
「藤村組の娘だな」
その言葉に気付き構えるのが、一瞬遅れたから。
「誰!?」
そこにいたのは、見知らぬ黒服の男が2人。明らかに
そんなあたしを前に、小娘の抵抗だと嘲笑ったのか、男達は「大人しく来てもらおう」そんな言葉をかけ、あたしを捕まえようとするけれど、むざむざとやられるのを待つほどあたしはお人好しじゃない!
「ハァッ!」
気合いと共に一閃、振るった一撃は確実に1人目の黒服の顎を捕らえ、2人目の銅へと綺麗にヒットを記録。
「ぐぁっ!」
(大丈夫、行ける)
そう確信しながら、更に竹刀を構えて2撃目を繰り出そうとした時だった。
後ろから気配もなく近寄る手が視界の端に移った。そう、それは3人目の黒服の男のもので。
(しまった……!)
前の2人だけで、もう他に仲間が居ないと油断した。でも今からじゃ防御態勢も間に合わない。
きっと、あたしはこいつに捕まる。
(おじいちゃん、切嗣さん!)
そう思い、目を瞑った次の瞬間だった。
「がああ!?」
そんな男の声と共に、目の前で誰かが蹴り飛ばされる音がしたのは。続いて、派手な音と共に、残りの黒服も吹っ飛ぶ音が耳に届いた。
そろりと目を見開く。
そこにいたのは……。
「ち、失敗だ。今日は退け」
そんな言葉と共に逃げていく男達。
そして。
「大丈夫か」
そういって、くるりと振り向いたその人の横顔は、『切嗣さん』に酷似して見えた。
「なんで」
それは有り得ない話だった。
3人の大男をたった数秒で蹴散らせたその女性の姿。
乾いた砂のような白い髪、鋼の瞳、褐色の肌。武道の心得でもあるのか、引き締まっていながらも女性らしい体付きに、凛と伸びた背筋と表情。黒髪黒目のモンゴロイドと、如何にも日本人の身体的特徴を持つ切嗣さんとは決して似ていない筈だった。
「なんでとは、おかしな質問だな。君が危険だと判断したから助けたまでだったが、いけなかったか?」
性格も違う。性別も違う。外見的特徴だって1つも一致しない。
これで切嗣さんと父娘を名乗るなんて、ふざけているって。
シロさんと切嗣さんじゃ何1つ似ていない……そのはずだった。
「いけなくは…ないけど、でもその」
だけど、その日。
「そうか、良かった」
そう言ってあたしに笑いかけた彼女の顔は、いつか見た切嗣さんによく似ていた。
だから……。
「か、懐柔なんて、されてないんだからね」
「なんの話だ」
2人はあくまでも親子だって話も、信じ始めてた。
―――――そして現在。
「うー、シロさんの料理さいこー!」
「藤ねえ、行儀悪い」
前言撤回、見事あたしはシロさんのご飯なしじゃいられない体になったのでした。キラッ。
了
おまけ