インフィニット・ストラトス  ゼロの破壊者   作:kue

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第9話

 翌日の朝、いつもの早朝基礎トレが終わり、一人食堂で日替わり定食を食べているとまた鈴が俺が食べているテーブルに勝手に座った。

 マジで何なの、このリア充共の性質。1人で食べさせてくれよ。

 

「おっはー。あんたまた1人で食ってるし」

「俺の勝手だろ。1人で食おうが」

「ま、それもそう……あれ? あんたそんなブレスレットつけてたっけ?」

 

 鈴の言う通り、俺の右腕の手首には赤色のブレスレットが装着されている。

 一夏のガントレット型の待機形態とは違って俺は完璧なアクセサリーの待機形態に変化している。あの変人名草さん曰く、たとえ双子だろうがクローン以外は待機形態は変わるんだと。

 

「まあ、その……秘密なんだが専用機の待機形態なんだよ」

「…………えー!」

 鈴の驚きの声が食堂中に響き渡り、さっきまであんなに騒がしかった食堂が一気にシーンと静かになった。

「あ、あんたいつの間に」

「昨日、届いた」

「なんでもっと早く言わないのよ」

「なんでお前に言わなきゃならんのだ」

 

 ぶつくさ文句を言いながら日替わり定食の主食であるサバを一口。

 

「へぇ~あんたも専用機持ちか。どっかの企業と専属契約でもすんの?」

「さあ、まだ分からん。でも代表候補生とかはなる気ない」

「でしょうね。あんたみんなと一緒に行動するの嫌いだし。ねえ、あんたのIS放課後見せてよ」

「別にいいけどかなり遅いぞ」

 

 会長との特訓という名のボコボコ劇場はいつも夜遅くまで続くからな……マジで勉強のほうどうしようか。あの巨乳好き変態には絶対に教わりたくない……ていうかあいつもまあまあな頭だし。

 

「何時?」

「12時位」

「夜中じゃない。あんたそんな時間まで特訓してんの?」

「特訓つうか……ボコボコにされてる」

 

 柔道では俺が投げられる音が柔道部屋に響き渡り、空手では俺の顔面に蹴りが入る音が、剣道では全身に竹刀があてられる音が響き渡るからな。ていうか向こうは防具なしなのに一撃も与えられない。

 

「ふぅ~ん……ところで一夏のことなんだけど」

「知らん」

「まだ何も言ってないじゃない」

「どうせお前のことだ。一夏の情報が更新された!? とか聞くんだろ」

 

 そう言ってやると鈴は気まずそうな笑みを浮かべる。

 はっ。こいつはいつもそうだ……まあ、こいつの場合は色々と事情が複雑だから俺もこいつの頼みを無碍にできないところがあるのがいけないんだけどな。

 

「残念ながら一夏の情報に更新はない。諦めろ」

「ちっ……ならば胃袋を掴むだけよ。あたしの料理なしには生きれないようにしてやるんだから!」

「変な薬だけは使うなよ」

「使わないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、何やら生徒会長に急用が出来たらしく、今日の特訓は中止との通達が来たので鈴と一緒に第三アリーナにいた。

 ちなみに鈴のISは甲龍とかいう第三世代機らしく、燃費と安全性が重視された機体で機体カラーは赤み掛った黒色。

 

「で、あんたのISは? 早く展開しなさいよ」

「……マジで展開しなきゃいけないか?」

「あったりまえじゃない! あたしが展開したんだから!」

 

 いったいどんな理屈……はぁ。

 ブレスレットに手を置き、集中するとブレスレットが光り輝き始め、俺の全身に薄い膜が張られていくような感覚の後、光がはじけ飛び、IS展開が終了した。その時間は0.7秒なんだが会長からすれば子供が投げる球速とプロ選手が全力で投げる球速くらいの差があるらしい。というよりもブレスレットに手を置くなとまで言われてしまった。

 

「へぇ。ワインレッド……綺麗じゃない。で、武装は?」

「まだ」

「は?」

「担当者いわく世界でも初めてのタイプだからまだ時間がかかるんだと」

「何それ。拡張領域に無いの?」

「なんかよく分からんが燃費を向上させるためにその都度、必要な武装を外部からダウンロードして再構築するっていうシステムらしい」

 

 しかも武装がまだ届かないっていう連絡を受けたのは初めてISを纏った日だからな。

 

「ふ~ん……ねえ、ちょっとやろうよ」

「やだよ。お前代表候補生、俺一般生徒……その差は歴然だろ」

「ま~た自分を卑下してる……あんた一夏に負けず劣らずの癖に」

「負けてるっつうの」

 

 負けていなかったら今頃とっくに一夏に勝負申し込んでるわ……一夏に負け続けたからもう勝つことも何もかも諦めたんだよ、あいつ関連は。

「…………確かに一夏はあんたよりも強いわよ……でも自分をそこまで卑下することないじゃない」

「まあ、癖だ。気にすんな」

「……あんたがそう言うなら……ってなわけでやるわよ!」

「意味わからん」

 結局、俺は一時間ほど軽く鈴と模擬戦をやってボコボコにされた。

 

 

 

 

 

 

 

 クラス対抗戦が行われる当日、噂の転校生と男性操縦者が一回戦目からぶつかり合うと言う事でアリーナは立ち見が出るほどの超満員、入れなかった生徒や関係者はモニターで中継を見るらしいが日々、命を狙われている俺はそんな貴重な試合を見ることなどできるはずもなく、今日は何故か生徒会の雑用をやらされている。

 アリーナまでの列の整備から始まり、問題が起こればそこへ直行して解決する。面倒くさい。

 

「お、終わった」

 与えられた仕事が終わったころにはもうへとへとで試合など見る気すら起きない。

「オリム~1お疲れ~」

「ん……」

「試合見ないの~?」

「見れるほど気力残ってない」

 

 どうせ一夏と鈴の対戦なんて昔から腐るほど見てきたし、それがISという武器を使っての戦いに発展したとしても特に目新しいことが起きる訳でもない。

 試合が始まってから10分か……。

 

「貴重な休憩時間だ。休む」

「まあ、最近凄いもんね~」

 

 会長の独断と偏見で全ての曜日がIS基礎訓練に置き換わってしまい、もうそれは毎日毎日人間じゃないような技術を学んでいる。まあそのほとんどを会長に否定されているが。

 会長との特訓を始めて早一カ月か……体力と筋肉は目に見えるけど強くなったかは見えないからな……まあ、対人戦闘は当分先かっ!?

 

「な、なんだ」

 突然、非常事態を知らせるアラームがアリーナ全体に鳴り響く。

「な、なんだろ~」

「とりあえず会長のところぅぁ!」

 

 会長の元へ向かおうとした瞬間、突然俺たちのすぐ目の前の外壁が爆発したように砕け散り、大量の窓ガラスの破片や瓦礫が宙を舞う。

 な、何なんだ一体!

 慌てて外を見てみると深い灰色のカラーリングに地面に着くほどの長さの両腕、そして胴体と体がくっついている首がない姿、まさに異常だ。

 

「なんだあれ」

「ISだね~」

「んなもんわかってるわ……問題は何でここにいるかって話だよ」

 

 なんでISが専用機や実力者たちがうじゃうじゃいるIS学園にたった一機で乗り込んできたのかが問題だ。どんなに強くても戦う数が多ければ確実に負ける。

 

『弱斑君』

 オープン・チャネルが開き、会長の声が聞こえてくる。

『未確認のISが学園内に2機侵入したわ。1機は貴方のお兄さんと鳳さんがやっているのだけれど1機がまだ見つかっていないわ。外に出ない方が身のためよ』

「あの……目の前にいます」

 そう言うと同時に相手のISがその長い腕をこちらに向け、そして一気に突き出してくる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――――――』

 侵入してきたISはそのまま背を向け、ゆっくりと歩き出す。

「勝手に殺してんじゃねえよ」

 

 どうやら機械にもというかあいつには人の声に反応するようにできて言うらしく、俺のその一言に反応しゆっくりと俺達の方を振り向く。

 俺に伸し掛かってくる瓦礫を蹴り飛ばし、衝撃で気を失っている布仏さんを壁にもたれ欠かせ、ワインレッドのISを身に纏った状態で空いている穴から外へ出る。

 ほんと最悪…………こんなにも…………怒りを覚えるくらいならさっさと使えばよかった。

 

「行くぞ……」

 静かにそう呟き、相手が異様に長い腕をこちらへ向けようとした瞬間、地面を抉るほど強く蹴りつけ、自分でもわかるくらいの凄まじい速度で相手との距離を一気に詰め、そして。

 

「うらぁ!」

 相手の腕が振るわれる前に相手の顔面に拳を叩きこみ、殴り飛ばすと二回ほどバウンドした後、脚部と背部にあるスラスターを吹かせ、空中で姿勢を整えた。

 武装一覧を開いてみるがもちろん武装など入っておらず、相手の情報だけが流れ込んでくる。

 未確認…………ISって全部、どっかの企業なり国なりに所属してるって聞いたんだが……。

 画面の端にアラートが表示された瞬間、相手がスラスターを吹かせて殴り掛かってきた。

 

「っっ!」

 突然のことに驚き、無意識で体を捩って相手の腕を掴み、そのまま背負い投げの要領で体を相手の懐に潜りこませ、相手の地面に叩き付けた。

 っっっ……お、俺なんで背負い投げなんか……。

 掴んでいた相手の腕を離し、少し距離を取る。

 

「……あの程度で壊れるほど脆くないか」

 ……にしてもなんか相手の動きが機械的に感じるのは気のせいか……砂を払うのも手で払うんじゃなくて体を揺らすことで落としているし、歩き方も上下に体が揺れてるし……。

 その時、相手が姿勢を低くした。

 

「っぐぁ!」

 

 直後、相手の姿が一瞬消えたかと思えば腹部に凄まじい衝撃が走るとともに顔を鷲掴みにされ、そのまま地面に叩き付けられた。

 な、なんだ今のっ! あいつの姿を捉えられなかった!

 必死に相手に蹴りを入れるがダメージが通っていないのか一向に離す気配を見せないどころかドンドン力を強めてくる。

 画面には大量のアラートを知らせる画面が表示され続けている。

 

 

 ―――――警戒。敵ISの腕部砲門のセーフティー解除を確認。

 

 そんな警告文が表示されると同時に相手の拳の装甲が展開され、そこから砲門が突き出てきてエネルギーチャージを開始しているのか光が奥の方に見えてくる。

 っっ! ここでレーザーとか撃たれたら俺はともかく近くにいる布仏さんが危ない! あんまり良い手とは思えないけどやるしかない!

 

「だぁぁ!」

 相手の腕部砲門に腕を突っ込んだ瞬間、至近距離で大爆発が起きるとともにシールドエネルギーがごっそりと持っていかれると同時に針で突いているような痛みが腕全体に走った。

「退けっ!」

 

 腹部を蹴り飛ばすと同時に脚部のスラスターだけを全開に吹かせ、相手を上空へ蹴り上げる。

「イッツッ!」

 絶対防御が発動したらしいんだがそれでも防ぎきれなかったらしく、右腕の皮膚がちょっと残念な状態になっていた。

 できればあんまり見たくない状態だな……うわぁ。皮とかベロンベロンに捲れてるし。

 

 

 ――――警告。敵ISの接近を確認。

「っっ!」

 

 警告を見た瞬間、その場から慌てて飛びのいた瞬間、相手が地面に猛スピードで直撃し、爆風と大量のがれきが俺の視界に大量に入ってくる。

 あ、あんなもん食らったらエネルギー尽きて終わりだ。ただ右手がやられてしまった以上、ただでさえ弱い俺がさらに弱くなった。どうすればいいんだよ!

 ―――――ダウンロード開始

 

「は? いったい何がっっと!」

 突然の文面に驚きながら後ろへと飛びのき、振り下ろされてくる巨大な拳を避け、改めて文面に目を通すが何をダウンロードしているのか表示されていない。

 ――――ダウンロード完了。以後、チップ挿入により各種ボディアビリティー発動可能。

 ダウンロードが完了し、左腕の装甲からカシュッという空気が抜ける音がするとともに装甲が小さく開き、そこから4枚のカードが射出され、慌ててそれを手に取ると表面は赤・青・黄・灰色の4色に塗られている。

 

 

『ハロー秋無ボーイ!』

 秘匿通信から名草さんのハイテンションな声が聞こえてくる。

「なんすか、今ちょっと立て込んでるんですけど!」

『今、私の研究の最新版を凝縮したデータを送ったんだけど届いた?』

「変な4枚のカードですか?」

『Yes! ダウンロードは完了したようだね。いい? その1枚1枚が1つの能力を発動させるためのキーよ。左腕の装甲に挿入口があるわ。そこへ挿入することで発動するの。1枚につき10分間、使えるわ。ていう事でちゃちゃっと使って! 見てるから!』

 

 そこで秘匿通信が切れた。

 できればもっと早くして欲しかった…………ただ使わないわけにはいかない。

 痛むのを我慢しながら右手で真っ赤に塗られているカードを挿入口へ差し込んだ。


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