インフィニット・ストラトス  ゼロの破壊者   作:kue

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第7話

 4月も下旬、桜はほぼすべてが散り、徐々に暑い日が増えてきた今日この頃。俺たちIS学園生徒はISスーツと呼ばれるものを着て実技授業に参加していた。

 実技授業は全て千冬姉が面倒を見るらしくいつもと変わらない黒いスーツに出席簿をもって前に立ち、実技授業における諸注意を最後に再び話している。

 そんな時にも拘らず、やはりあの男は俺の背中をついてくる。

 

「んだよ」

「これなんだと思う?」

 そんな小さな声で言いながら一夏の手にはグラウンドからむしり取った人工芝が握られている。

「ミキプ〇ーンの苗木」

「っっっっ!」

 

 思わぬ一撃に一夏の声が聞こえている俺を含めた数人の女子は顔を伏せて必死に笑うのを我慢している。

 こ、こいつは何でこんな時に限ってこんな一撃をかましてくるんだ! 死ね! マジで死ね!

 

「W織斑。あとで私のところに来い」

「「すみません」」

 結局俺まで怒られる。

「織斑、オルコット。基本的な飛行操縦を見せて見ろ」

「うっす」

「はい」

 

 専用機持ちである一夏とセシリアが立ち上がり、全員の前に立つと一瞬にしてISの装甲を展開し、その身に纏っていた。

 ISはフィッティングが終了すれば操縦者の体にブレスレットとして常に装着されるらしい。

 セシリアは青色のイヤーカフス、一夏は右腕のガントレットだが本来はアクセサリー状の待機形態に移行するらしいのだが一夏の場合は完全に防具だ。

 

「よし、飛べ」

 千冬姉のその一言から2人が同時に上空へと飛び上がり、地上の遥か上のところで同時に止まった。

 ISはもともと宇宙空間での活動にために生み出されたらしいが今となっては各国の核に変わる抑止力となっており、どの国も新武装・新機体作るのに躍起になっていると聞く。

 

「次は急降下と急停止を行え」

 千冬姉がインカムにそう言ったと同時に2人が急降下してきて地表すれすれのところで急停止する。

「ほぅ。初心者にしてはまあまあだな」

「そりゃもちろん放課後演習してますし」

「ふふん。私の教え方が一夏さんにピッタリなのですわ」

 

 …………こいつらいつの間に放課後演習するくらいに仲良くなったんだ? ていうかなんでクラスでセシリア孤立してないわけ? あんなことやったらふつう孤立するだろ。

 よく見たらセシリアも巨乳に近い豊乳だ……まさか、セシリアまで一夏に惚れたか。

「まぁ良い。そろそろ時間だな。今日の授業はここまでとする」

 

 

 

 

 

 

 

 その日のお昼休み、俺は生徒会長にあの感情が一切籠っていない声で呼び出され、渋々生徒会室へ向かうと珍しく生徒会長が俺の方を向いて座っていた。

 珍しい。いつも俺のことなんか見向きもせずに書類作業をしているくせに。

 

「で、なんすか? 用って」

「…………誠に遺憾ながら貴方に専用機を与えたいという企業が現れてしまったわ」

「……マ、マジすか?」

「本当です。先程学園側から我々生徒会にそのような連絡が降りてきました」

 専用機……つまり一夏やセシリアと同じ力が俺も手に入れられると……。

「それはいつ届くんですか」

「悪いけれどまだ今のあなたに専用機を与えることはできないわ」

「……まだ俺が弱いからですか」

「そうよ。今の状態で貴方に専用機を渡せば確実に調子に乗る」

 

 …………ま、まあ確かにそうかもしれない。いきなりポンと絶大なまでの力を手に入れてしまったら俺みたいな勝つことを諦めた奴は誰にでも勝てる、一夏にだって勝てると錯覚して調子に乗って……っていう最悪なルートに入りかねない。ここは素直に会長の言う事に従っておくのが良いかもしれない……そりゃ俺だって欲しいことは欲しいけどどうせ今手に入れようが後で手に入れようが一夏に勝てないことは変わらないんだし。

 

「分かりました」

「へぇ」

「なにか?」

「てっきり反発すると思ったのだけれど」

 そうは見えない表情と声なんですがねぇ。

「これでも一応、あいつの双子の弟なんで。用はそれだけですか?」

「いいえ。あと1つ……そろそろ実技授業でISを使い始めたわよね」

「ええ、まあ」

「……今日の放課後、グラウンドに集合。良いわね」

「はぁ」

 

 生徒会室を出てそのまま自分の教室である1組へと向かう。

 いまだに他の奴らからの視線が絶え間なく注がれてくるが入学当初に比べては慣れたので今はさほど気にはならない……それに俺を一夏だと勘違いしているんだろう。

 専用機か……いつになったら使える許可が出るんだろうか。

 

「あれ!? 一夏じゃん!」

 この甲高い声、そして俺の嫌いなテンションの高さ……。

「あ?」

 後ろを振り返れば胸ぺったんこなツインテール少女が立っていた。

「あんたさっき食堂……その腐った眼は秋無ね!」

「そうだけど……用無いならもう良いか?」

「相変わらずつれないわね~。久しぶりに会ったんだしちょっと話しましょうよ!」

 

 こいつの名前は鳳・鈴音。中国出身の女の子で箒が小学校3年で転校したのと入れ替わりでうちの小学校に転校してきたやつで最初はカタゴトな日本語で男子からからかわれていたが一夏に助けられたことで陥落。

 一夏に惚れる女は皆巨乳という法則を唯一、破った少女なので案外珍しいのだ。

 にしても…………相変わらず育ってねえな。

 

「あんた相変わらず屋上でお昼食ってるんでしょ!」

「うっせえな。俺の勝手だろ」

「寂しくないの~? そんなんだから一夏ばかりに女の子が集中するのよ。あんただって一夏と同じ顔してんだからオシャレすれば集まってくるわよ」

「一夏だと勘違いした奴はつれるわな」

 

 俺に近寄ってくる女子は大体、一夏と勘違いした奴か双子の弟で顔も同じだからそれで妥協してやるかっていうやつらばかりだった。

 それが俺のボッチ化を加速させた原因の1つでもあるが。

 

「……ていうかなんでお前、ここにいるの」

「ふふ~ん。あたし、実は中国の代表候補生なのよ!」

 無い胸で張られてもぺたーんとしかしないぞ。

「まぁ、セシリアとか言うやつも代表候補生みたいだけどそんなのあたしからすれば雑草よ。ミキプ〇ーンの苗木並ってわけよ」

 一夏と同じネタを言うなよ。

「あっそ……で、遠路はるばる一夏を追いかけに日本にやってきたと」

「まあね……ねえ、一夏に彼女とかできてないわよね」

「相変わらずの巨乳好きだけどな」

 一夏が巨乳好きの変態だと知っている奴は俺、箒、鈴、千冬姉、それと男友達数人くらい。

「うぅ……い、一説には巨乳は嘘乳って書くらしいわね」

「いや、違うだろ……ま、どうでも良いけど。じゃあな」

「あ、ちょっと待った!」

「んだよ」

「あんたさ、専用機は?」

 

 鈴の問いに俺は何も言わずに首を左右に振る。

 多分、俺に専用機を与えたいっていう企業のことは秘密にしなきゃいけないだろうし、まだ俺が専用機を手に入れられるって決まったわけじゃないしな。

 

「そっか……んじゃ、あたしがISの動かし方教えたげる。どうせあんたのことだから新しい知り合いとかもいないだろうしISに関しても少し遅れてるでしょ?」

「いや、いい」

「な、なんでよ! あんた2人だけの男性操縦者なんだから使えるようにならないと」

「俺、もう師匠みたいな人居るし」

「誰よ。そいつはあたしよりも強いの?」

「だろうな。生徒会長だし」

「…………な、なんであんた学園最強の人に教えてもらってるわけ」

 どうやら生徒会長=最強の操縦者っていうのは学園外でも常識らしい。

「さあ……ところでお前も専用機あるのか」

「もちろん。中国代表候補生なんだから」

 

 えっへんと胸を張って言うがペッターンなのでどこか温かい目で見てしまうというか……鈴、お前も努力しているんだな。少しでも大きく見せようと。

「あんたなんか今、失礼なこと言ったでしょ」

「まさか……じゃあな」

「うん。また後で!」

 また後でってまた俺に会いに来るつもりかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、IS学園のグラウンドに集合していたんだが何故か、着替えろと言われたので影になっているところで体操服に着替え、もう一度グラウンドに集まるとさっさと準備しろと目で訴えかけられる。

「あ、あの今から何やるかくらい教えてくださいよ」

「体力面では貴方は十分なレベルと判断したのよ。よってテストを行うわ。このテストに受かれば晴れて貴方は体

力面でのトレーニングから解放、ISの基礎トレに入るわ」

 

 結局基礎トレは変わらないんすか……でもそれは有難い。IS学園にいるのにまだISを使用したことすらないからな……ちゃちゃっとこんなテストクリアしてやる。

「グラウンド3周を5分以内に終わらせることが出来たら合格よ。これがストップウォッチ」

 

 投げられたストップウォッチを手首に巻きつけながら課されたテストを少し考える。

 ……IS学園のグラウンドは一周5キロだったはず……い、1周を100秒、つまり1分40秒以内に走らないとクリアできねえじゃん!

 

「しっかり準備運動をしておくことね」

 そう言い、あらかじめ用意していたらしい座椅子に座る。

 忠告通り、1周をゆっくりと歩き、その後にストレッチをして全身を伸ばす。

「じゃ、もういいかしら」

「うっす」

「……はじめ」

 

 そんな静かなスタート合図とともに1周目から全力で走り出す。どの道、持久走じゃないんだし今回求められているのは全速力をどれほど長く持続できるかが鍵っ!?

 走っている最中に地面に見知らぬ影が映りこんだのが見え、慌ててコースを右へずらすと何故か竹刀を持った状態で両足の装甲を展開している生徒会長がいた。

 

「な、何してるんすか!?」

「何って襲撃よ。誰がただ単に走れと言ったのかしら」

 

 次々に振り下ろされてくる竹刀の突きを避けながらようやく1周目が終わり、ストップウォッチを見てみると一周終了時点のタイムは1分20秒。

 猶予が20秒長くなっても意味がねえんだよなぁ! ていうかこれ何のテストだよ!

 1周半に差し掛かった時、突き出されてきた竹刀を避けるが手首のストップウォッチに直撃してしまい、何かが砕ける嫌な音が響く。

 やっべ! 時間分かんねえ!

 

「さあ、どうする? 時間も分からず、襲撃を受けている状態で貴方はいかにしてこのテストを切り抜ける?」

 俺はどっかの軍隊の訓練でも受けてるのか?

 後ろを見ながらも全力でグラウンドを周回し、ようやく2周目に突入したがそろそろというかもう結構ヤバいくらいに体力が減ってきている。

 どうにかして会長の動きを止めないと5周はしり切る前に体力尽きるぞ。

 

「うぉ!」

 脚めがけて竹刀が振るわれ、走りながら軽く飛んで竹刀を避ける。

 会長の動きを止めないとな…………待てよ。特に走る方向は決められてねえよな……よし。

 とりあえず俺は会長の攻撃を避けながらグラウンドを全力で走っていき、3周目に入ろうとした瞬間。

 

「せぃぃ!」

「っっ」

 

 ゴール地点に到達すると同時に方向を急転換させ、軽く跳躍しながら会長の顔めがけて飛び蹴りを行うが相手が姿勢を低くしたことで蹴りは当たらなかったが会長を飛び越えることができ、そのまま逆走し始める。

 ゴール地点とスタート地点は同じなんだからそこで逆走はじめても同じだよな!

 チラッと走りながら後ろを見るがISを戻しており、もう会長が追撃してくることは無かった。


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