インフィニット・ストラトス  ゼロの破壊者   作:kue

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第5話

 火曜日の今日の放課後のトレーニングはひたすら走り込みと言う事で一周5キロもある学園自慢の校庭をストップウォッチで時間を測られながらひたすら走っている。

 剣道続けててよかったわ……続けてなかったら一週はしることすら無理だったろうし。

 

「体力はあるようね」

「ま、まぁそりゃ……ふぅ」

「貴方のお兄さんにだけISを与えられるのはどんな気分かしら」

 

 ……ほんとこの人は傷を抉るよな。

 正直に言えば何も思っていないというのは嘘になるけど別に表に出して言う事のほどでもないし今まで生きてきた中でそれが当たり前だったし。

「別に何とも思いませんよ。それが当たり前ですし」

「…………2セット目。行くわよ」

「うっす」

 

 

 

 

 

 

 

 火曜日の放課後トレーニングが終了し、俺は誠に遺憾ながら……誠に遺憾ながら一夏と箒と一緒に食堂で晩飯を摂っていた。

 1人で食うのがデフォルトの俺が今日に限ってはおにぎりを作り忘れたのだ。

 

「ここの鯖定食美味いな」

「そ、そうだな……い、一夏。今度私の鯖定食を食べさせてやろう」

「箒味付け忘れるからな~」

「こ、これでも練習はした!」

 チャーハンの味付けを忘れた時は驚愕したわ。ただの卵の味しかしなかったしな。

「一夏、本当に模擬戦は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。剣道だって昔のことも思い出したしな。見てろって」

 

 それしか言ってないけどまあ多分、一夏が勝つだろう。千冬姉に手ほどきを受けている時点であのセシリアとか言うやつとの差は大きいからな。まあ、才能の差もあるが。

 

「ところで秋無。お前最近、放課後消えてるけどどこ行ってんだ?」

「……俺の勝手だろ」

「秋無。昔と変わらず口が少し悪いぞ」

「うるせえよ。こういう性格なんだ」

 いまだに月曜日の筋肉痛が痛む中、どうにかしてコップを持ち上げて水を飲み干す。

 ……果たしてこんな俺が強くなれるんだろうか……。

 

「ところで一夏。その眼球に塩をかけられたくなかったら他の女子の胸から目線を外すことだ」

「じゃあ箒の見とくわ」

「そ、そういう問題ではない!」

 今日も今日とて良い音が響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週明けの月曜日の放課後、遂に一夏とセシリアオルコットの模擬戦が行われる日が来たんだがそんな日でも俺が会場に行けるはずもなく、いつもの様に青髪少女と柔道部屋で殺し合いという名の特訓が行われている。

 剣道・柔道・空手、それら3つの武術を学び始めた俺だが実践で使えるほど学んでおらず、未だに少女にボコボコにされている。

 

「ぐぇ!」

 鳩尾に蹴りを食らい、背中から床に叩き付けられる。

「どうしたの? 先週学んだことをここで実践しなさい」

「む、無茶言わないでくださいよ! 1日で学んだこと実践で生かせるか!」

「それをしないと貴方、死ぬわよ」

 

 相手の蹴りが迫ってくるのが見え、慌てて首を曲げた瞬間、そこに相手の足が入ってきて耳元で壁と足がぶつかり合った音じゃないだろうと思うくらいの爆音が響き渡る。

 ……あ、明らかに亀裂はいるだろ。

 た、確か昨日やったことは相手の胸倉を掴んだ状態で相手の足を崩してそのまま押し倒す……んな技やろうと思ったらボコボコにされること間違いなしだ。

 

「ふぅ……」

「会長、織斑一夏さんの模擬戦が始まります」

「そう……模擬戦が終わるまでの間、休憩にするわ。今日だけね」

 

 そう言って青髪少女は虚さんと一緒に柔道部屋から出て行った。

 …………とりあえず俺も見に行こうか。IS同士の戦闘ってなかなか見れないし、一夏の専用機も気になる……まあ俺には一生縁のないことだろうけど。

 柔道部屋を出て第3アリーナ……ではなく模擬戦の様子が中継されるという食堂に向かう。

 なんでも注目の一戦で観客が集まり過ぎたらしく、急遽食堂のモニターで中継されることが決定したらしい。

 まあ、あの男性操縦者だからな……見ものといえば見ものか。

 食堂に向かって歩いていると黒いスーツにロングヘアーという居出立ちの女性が入校許可証と書かれた腕章を腕にはめてオロオロしていた。

 

「あ、あの!」

「……なんすか」

 できればそのまま通り過ぎたかったんだけど。

「職員室はどこでしょうか?」

 

 職員室に入れる部外者ってことは学園の関係者か職員の親族か? まあ後者はあり得ないだろうから前者の方なんだろうけど。

 

「あっちです」

「で、出来れば案内してもらいたいのですが」

 …………はぁ。面倒くさい。

「分かりましたよ。じゃあこちらへっっ!?」

 

 その時、後ろから嫌な気配を感じ、反射的に姿勢を低くした瞬間、金属音が鳴り響いた。

 慌てて顔を上げると警棒を少し長くして金属でコーティングされたような光沢がある棒が壁に直撃しており、壁には小さくひびが入っている。

 

「ちっ。外したか」

「あんた、誰だ」

「自分から正体ばらすバカがどこにいるんだよ!」

 振り下ろされてくる棒を後ろへ飛び退いて避けるが背中に衝撃が走った。

 っっ! やば! 壁に気づかなかった!

「よっと!」

「ぐぇ!」

 

 慌ててその場から逃げようとするが首を鷲掴みにされ、そのまま壁に押し付けられる。

 その腕を離させようと必死にもがいていると爪が相手の顔をひっかいてしまったがそれでこいつがなんでIS学園に侵入できたかが分かった。

 こ、こいつ顔に顔を被せてんのか!

 

「イッテーな。この被り物結構高いんだぞ」

「げぉ!」

 

 さらに首を掴む力が強くなり、呼吸ができない。

 こ、このままじゃ殺されるか連れ去られるだけだ!

「お前にはうちに来てもらうからな……にしても噂通り弱いな~。IS使うまでもねえわ」

 

 ま、また……結局俺は弱いままなのか……このまま意識無くなって連れ去られて……ふ、ふざけんな! このまま連れ去られるなんて絶対に嫌だ! な、何が何でも……こいつを倒す!

 足を相手の左の膝の付け根に後ろから踵を密着させる。

 

「あ?」

「っっっぅぁ!」

「うわぁ!」

 

 踵を膝の裏にぶつけると同時に相手の長い髪を掴んで後ろへ全力で引っ張ると膝が曲がったことで相手は耐えることすらできずに後ろへ倒れ、首を掴んでいた腕も離れた。

「げほっ! げぉ!」

 こ、このまま逃げる!

 

「逃がすかこのクソガキがぁぁ!」

「う、うわぁ!」

 相手の怒鳴り声が響くと同時に足首に何かが巻かれたような感じがした瞬間、体が持ち上げられた。

「あ、IS!?」

「そうだよ! なんの武装もなしに来ると思うか!?」

 

 背中に8つの装甲脚を備え、蜘蛛を模した異様な容姿をしているISを纏った女が先程とは全く違う怒りに満ちた表情で俺のことを睨み付けてくる。

 

「別にあんたを無傷でもってこいとは言われてねえんだよ……ちょっとくらい半殺しにしてもいいってことなんだよ! あたしを怒らせたこと後悔させてやる!」

 

 背中の装甲足の一本がウネウネと意思を持っているかのように俺の肩の付け根まで動くとそこから装甲が展開されて砲門が露わになる。

 っっっ! こ、こいつまさかIS用の兵器で俺の腕を吹き飛ばす気かよ!

 必死に空いている足で足に絡みついている装甲脚を蹴るが生身の一撃がISに敵うはずもなく、全くもって無駄な努力としか言えない。

 

「ほんと平和ボケした学園だよなここは! 代表決めとかいう模擬戦に教師も夢中になってみてるなんてな! しかも顔を全く同じにしただけで入れるレベルの警戒の薄さ……ほんとに日本っていう国は最高だよなぁ!」

 

 くそ! くそ! せっかくこいつから逃げれたと思ったのに! 結局俺は弱いまんまでまた他の奴らの迷惑かけるのかよ!

「離せよ! この!」

「離すかバーカ……じゃあ、死ね!」

 もうだめだと思い、目を閉じた瞬間!

「貴方がね」

「っ!」

 

 そんな感情の1つも籠っていないような冷たい声が聞こえた瞬間、金属同士がぶつかり合う鈍い音が引くとともに俺の体が地面に落とされ、壁が粉砕されたような音が響く。

「な、なん……何が」

 壁が粉砕されたことで大量の砂埃が俺の視界を閉ざすがその中でもハッキリと俺の目の前にISを展開した誰かが立っていると言う事は分かった。

 左右一対で浮いているパーツしかISの後ろ姿は見えなかったけどそれだけでもどこか果てしなく強い実力者だってことがわかる。

 

「貴方の言う通り、警備が少し……いやかなり甘かったみたいね……ありがとう。貴重なあなたの意見と犠牲によってIS学園はさらに強固になるわ」

 この声……あの青髪少女か。

「犠牲……舐めんな! んなとこでこのあたしが終わってたま…………わ、分かったよ。今日のところはここらへんで終わっておいてやる!」

 そんな捨て台詞は聞こえたと同時に窓から一瞬だけあいつが逃げていくのが分かった。

「お、追いかけないのか」

「市街戦は嫌よ……いつでも潰せる相手なのだし」

 砂埃が風に持っていかれ、ようやく青髪少女の姿が目に入った。

 ていうかこいつ、片腕だけしかIS展開していなくてあの強さかよ……本当になんなんだこいつは。

「さて……模擬戦、見に行きましょうか」

「は? もう終わってるだろ」

「いいえ。侵入者を見つけたから生徒を出さない様にってことでまだ行われてないわ」

「……なんで分かったんすか?」

「なんででしょうね……言うならば第六感、かしら。さ、行きましょう」

 

 ISを戻し、スタスタと歩いていくその後姿はどこか美しく見えた。

 ……な、何俺は見惚れてんだ。

 慌てて立ち上がり、俺も青髪少女を追いかけた。


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