インフィニット・ストラトス  ゼロの破壊者   作:kue

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第4話

 目を覚ました時、最初に目に入ったのは白い天井と薬品の匂いだった。

「…………えっと、俺」

「目が覚めるのに30分……ダメダメね。5分で目を覚ましなさい。死ぬわよ」

「げぇ」

 

 横を見ると冷たい喋り方のあの青髪少女が椅子に座っており、扇子に大量虐殺とか言う不穏極まりない四字熟語が書いている面を俺に見せながらそう言う。

 こ、こいつはマジで何なんだよ!

 

「な、なんすか」

「どう? 貴方を狙いに来た刺客に襲われた気分は」

「っっ!」

 

 頬が薄く切れていたことを思いだし、慌てて頬に触れるが絆創膏でも貼られているのかいつもの頬の感触はしなかったがナイフが目前にまで迫ってくるあの恐怖を思い出し、嫌な汗が全身の毛孔からぶわっと出てきた。

 ……へ、下手したら俺殺されてたよな……違う違う! あ、あれは俺を脅かすための子芝居だきっと!

 

「はっ。どうせ俺を本気にさせるための子芝居でしょ? 分かってるんすよ」

「あら。そんなことないわ。これ」

 そう言い、タブレットを俺に見せてくる。

『織斑秋無が目的か』

『あぁ、そうだよ! 結構簡単にIS学園には入れるんだな!』

 

 取調室のような狭い部屋にスーツ姿の千冬姉といかにも犯罪者といったような顔をしている男が喋っている動画が再生されている。

 

「良かったわね。私が貴方の後を追いかけてきて。追いかけていなかったら今頃あなたは袋に押し込まれて学園の外に連れ出されてどっかの研究所に連れて行かれてぐちゃぐちゃになるまで解剖させられていたでしょうね」

 …………じゃ、じゃあマジで俺は殺されかけたってのかよ……。

「どう? 剣道やってても意味ないでしょ? 貴方は弱いの。貴方が連れ去られて悲しむ人だっているでしょ」

 …………。

「そうっすかね」

「というと?」

「むしろ俺がいなくなった方が良いんじゃないんすかね。どうせ俺、家族以外誰にも覚えられてないし」

「でも家族はちゃんと覚えててくれてる。それだけで十分じゃないかしら」

 …………はぁ。

「とりあえず明日……というか今からお願いします」

 流石に死ぬのは勘弁だ。

「よろしい。弱斑君」

「酷いっすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保健室から退室し、さっきの柔道場に再び戻った。

「これから貴方を徹底的に殺しにかかるから」

「こ、殺しってうわぁ!」

 

 いきなり俺の両目に向かって青髪少女の二本指が突き出され、慌てて姿勢を低くするが今度は顔面めがけて膝が凄い速度で向かってくる。

 手で顔を隠し、膝蹴りを受けるが痛みが腕に広がる。

 な、なんていう威力だ!

 

「理論で伝えても貴方は分かりっこないのだから実戦で覚えるしかないの」

 それでも確実に青髪少女は全力とは程遠いだろう。

 なんせ俺みたいなやつが避けれてる時点でもう全力じゃねえよ……。

 

「がっ!」

 膝蹴りを腹部に貰ってしまい、痛みのあまりその場に蹲るが青髪少女は休憩時間などくれるはずもなく、頭めがけてまっすぐ踵落としを降ろしてくる。

「っっ!」

 右目にあたる直前で止められたが運動した際に出てくる汗ではなく、恐怖体験をしたときに出てくる嫌な汗が全身からあふれ出てくる。

 

「弱すぎる。加減するのも辛いのだけれど」

「す、すみません」

 

 それからも何度も重い一撃を貰い続けながらも青髪少女が殺しにかかるのを辞めるまでただひたすら殺されない様に相手の攻撃を避け続けて行く。

 も、もう何回貰ったんだ……これ絶対青たんできてるわ。

 

「はっ!」

「ぐぇ!」

 顎に掌底をもろに食らい、頭全体が揺れるのを感じるとともに吐き気がして思わず背中からマットに倒れ込む。

「はぁ……はぁ……」

「今日は終わり。明日、朝の6時に第3アリーナの入り口前に集合。良いわね」

「ろ、6時!? い、今何時すか!?」

「夜の12時」

 

 お、俺いったい何時間この人と殺し合いっていうか戦い続けたんだよ……ていうかなんでこの人、何時間も体動かしたのに息1つ乱れてないんだよ。

 

「と、とりあえず起きれたら」

「絶対によ。1分でも寝坊すればどうなるか分かってるわよね? 弱斑君」

 そう言い、遅刻厳禁と書かれた扇子を開き、青髪少女は去っていった。

「はぁ…………俺、とんでもない人に師事してもらったのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん…………59分!?」

 朝、目を覚まして枕元に置いてあった時計を見るや否や汗が全身からびっしょり流れ出てきて慌ててベッドから飛び起き、寝間着である黒いジャージのままダッシュで部屋を出て第3アリーナを目指してダッシュする。

 5時30分にセットしてあったのに何でアラームが鳴ってないんだよ!

 全力で走り続けていると前方に第3アリーナの入り口が見え、そこにあの青髪少女が立っているのが遠目に見え、全力でダッシュし、少女の前で立ち止まる。

 

「30秒遅刻」

「そ、それくらい勘弁してくださいよ!」

「問答無用。これから貴方を強くしていくのだけれど月曜日は実践、火曜日はひたすら走り込み、水曜日は剣道、木曜日は空手、金曜日は柔道、土曜日は筋力トレーニング、日曜日は総合。このローテションで行くわ」

「や、休みは!?」

「貴方にあると思うの?」

「勉強は!? 俺ただでさえまあまあの学力なんですけど!」

「鍛錬の前にやりなさい。あと毎朝6時にここに集合して基礎トレね」

「ど、土曜日じゃ」

「土曜日は器具を使ってのトレーニング。毎朝は腕立て・腹筋・背筋をするの」

 

 そう言い、地面を指さして目で俺にさっさと準備をしろと訴えかけてきたので仕方なく腕立て伏せの準備をした瞬間、背中に靴の固い感触を感じた。

 

「あ、あの何を」

「この状態でまずは5回。1分休憩の後、今度は2倍。休憩時間も倍ずつ増えていくけど最高8分。回数の上限は1時間の間。さ、始めて」

 

 こ、この人ドSどころか魔王だろ!

 青髪少女を背中に乗せて腕立て伏せを難なく5回クリアし、1分の休憩の後、今度は2倍の10回を行う。

 剣道を長年続けていたこともあり、最初の20回までは難なくクリアできたが問題は次の40回以降からで初めは苦でも何ともなかった背中の重みが今は重すぎる。

 

「どうしたの? 80回のうちまだ23回よ」

「さ、流石に無理っす!」

「そう……仕方ないわね」

 背中から降りたのかさっきまであった重みがなくなった。

「それで残り56回。5分で済ませなさい。済ませられなければその分、アリーナを周回」

「い、いきなり飛ばし過ぎでしょ!」

「貴方は男の子でしょ。それくらいやってなんぼよ」

 文句を言いつつもどうにかして腕立て伏せをこなしていく。

「残り18秒」

 うぇ!? まだ10回残ってるんですけど!?

「はい終わり」

「ぜぇ……ぜぇ……」

「6回残ったから6走はしりなさい」

「ヤ、休ませて」

「No」

 

 えらい発音がいいNoを貰ってしまい、渋々立ち上がって無駄に広いアリーナの外周を6周はしった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イダダダダ」

 お昼休み、いつもの俺のベストプレイスである屋上におにぎりを持ち込んで昼食を摂っているんだが筋肉痛が酷く、おにぎりを食べることさえ異様につらい。

 こ、こんなのを毎日続けるのかよ……月曜日は実践、火曜日はひたすら走り込み、水曜日は剣道、木曜日は空手、金曜日は柔道、土曜日は筋力トレーニング、日曜日は総合……こんなことで俺、普段の授業に追いつけるか? 結局、昨日やった範囲の復習すらできずにベッドに沈んだし。

 

「…………な、なんだ?」

 突然、屋上の柵にガシッとISの装甲に包まれた片手が見え、思わずその部分を凝視する。

 青い色のIS……。

「とぅ」

「で、出た!」

 腕の筋力だけで柵を飛び越え、俺の目の前に着地した。

「こんなところでお昼を取っていたのね。あなた一人でご飯食べて寂しくないの? ボッチね」

「そんなに貫かないでくださいよ」

「弱斑君がいけないのよ。ボッチだから」

「うぅ……た、他人とあまり喋りたくないんすよ」

「また比べられるから?」

 ……いったいどこまでこの人は俺の本心を見抜くんだ。

「……まあ、そうっすね」

「……お兄さんとは仲は良いのにね」

「そう見えますか? 関係最悪っすよ」

 

 エロいしエロいしエロいし巨乳好きだし……ただまあ一夏に酷いことをされたことは無いし、むしろ酷いことから俺を護ってくれたりしている。

 教師からストレスの捌け口にされたときだってあいつが護ってくれたし、授業中に喋りかけるのだって悪気があって……いや、あれは絶対に悪気があって話しかけてる!

 

「関係最悪と口に出している兄弟ほど仲が良いのよ」

「そうすかね」

「……羨ましい」

「へ?」

「そろそろ時間だから帰るわ。また放課後」

 そう言って青髪少女は以前と同じように柵から身を投げ出し、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5限目の休み時間、俺はぐでーとボッチフィールドを形成して休んでいた。

 む、難しすぎる……なんなんだあの専門用語の羅列は……法律ならともかくISの操作の名前だったり、現象の名前は一切わからん。

 

「秋無~」

「…………」

「秋無~。箒が胸触らしてくれるって」

 とりあえず俺は起きると同時に一夏の頭を叩く。箒も叩く。

「悪い悪い……なあ、よかったら放課後、剣道やらないか? 最近箒とやってるんだけどお前も良かったら来いよ。箒めちゃくちゃ強くなってたんだぜ」

「それはお前が弱くなったんだろ。帰宅部皆勤賞」

「……ふっ。その帰宅部皆勤賞に2回目で負けた私はそれ以下……ふふふふふ」

 

 どうやら地雷を踏んでしまったらしく、箒の表情が暗くなり、いわゆるレイプ目みたいなことになりながら全身から負のオーラを醸し出し始めた。

 まあ、こいつは昔からこんなんだ……何やって上を行く。1回負けても2回目には必ず勝つ。

 

「にしてもISの訓練機の予約ってなかなか取れないんだな。びっくりしたわ」

 IS学園には世界で最も多くISが配備されているがそれでも生徒の数からすればかなり少なく、訓練機の予約はかなり前からとっていないと使えないらしい。特に行事ごとの前などはそれが顕著だ。

 そう言えば入学式の時に言われたな。

 

「まさか一夏、訓練機で模擬線を行うつもりか?」

「あたぼうよ。専用機って代表候補生くらいしか持ってないんだし。まあみてろって……あの歪んだ女尊男卑の考え方を真っ向からぶっ潰してやる」

 

 一夏は今の社会の考え方が大嫌いだ。ただそれと同時にこいつはそれも仕方がないと半分受け入れているようなところもある。

 こいつ曰く、歴史を鑑みるに男性が女性に対して行ってきたことはそれ相応の罰を受けなければならないものであって真に男女平等が出来るのは女性が差別されてきた年数の2倍は必要とするらしい。

 まあ、行き過ぎた女尊男卑は嫌いって話だ。だからこいつはそんなものから逃げずに真正面からぶつかり、それを突破してきた。

 それに比べて俺にはそんな力はない。

 

「い、一夏」

 ……マジで箒は一夏にゾッコンだな……ただ一夏の本心は双子の弟の俺でさえわからないところがある。特に恋愛面ではな。

 そんなことを考えているとチャイムが鳴り、全員が座席に戻る。

 次の担当教員は千冬姉か。

 

「織斑一夏」

「はい?」

「お前のISだが準備には少し時間がかかる」

「……専用機ってことですか?」

 

 周囲から驚愕の声と共にうらやましがるような声が広がっていく。

 一年生でこの時期から専用機を与えられえることはかなり珍しい……まあ男だからってことと研究目的ってこともあるんだろうけど。

「秋無はどうなんですか」

 一夏のその一言に千冬姉は少々、嫌そうな顔をする。

「通達があったのはお前だけだ」

「……そうですか」

 ……そんな悲しそうな顔してんじゃねえよ、姉弟揃って。これが俺の普通なんだよ。

「では授業を開始する」


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