生徒会室から少しイライラしながら出た俺はまっすぐ自分の部屋へと向かい、鍵を開けると一夏とその幼馴染である黒髪ポニテの箒がイチャイチャニヤニヤしながら楽しそうに喋っていた。
……この巨乳好きが!
「お、秋無。お前今までどこ行ってたんだよ」
「呼び出し食らってたんだよ……ていうか部屋に箒入れるなよ。俺たちの部屋に女子入れちゃまずいだろ」
IS学園は俺たち2人を除く全員が女子。その例外中の例外である俺たち2人の部屋に女子である箒を入れればあのルールの化け物とも呼べる世界最強のお姉さまが出てくるかもしれない。
「まあ、箒なら千冬姉も許してくれるだろ。箒だし」
「そ、そうだな……私なら千冬さんも許してくれるだろう!」
一夏に特別扱いされてるって勘違いしている顔だな……なんでこんな巨乳好きの変態男に惚れる女子が後を絶たないのかねぇ。しかもそのほとんどが胸の大きな女子ばかり……神様ぁ! 胸が小さい女の子は俺に回してくれなかったんですかぁ!?
「その自信はどこから来るんだか」
「なんせ私は一夏の幼馴染でともに剣道を学んだ同志だ。同じ釜の飯も何度も食べたのだからな」
「それと不順異性交遊は関係ないと思いま~す」
「ふ、ふ、不順異性交遊などしていない! わ、私はただ単に一夏とお喋りをしていただけだ!」
「そうだぞ、秋無。箒みたいな美人な子が俺を好いてくれるわけないじゃないか」
「び、美人……そうか。美人か……」
おいおい、後半の文丸丸削除しちゃったよ……これが恋する乙女変換器の力か……恐ろしいぜ。
「だが2人とも久しぶりだな」
篠ノ之 箒。ISを生み出したあの天才科学者・篠ノ之 束の実の妹であり、俺達織斑兄弟の唯一と言ってもいい共通の女友達である。
男勝りな性格ながら一夏にだけは恋する乙女な部分を見せるいわば表男裏女な女の子。
その剣道の腕は一夏とも負けずとも勝らないほどの腕の持ち主で確か前の全国大会は箒が優勝していたはずだ。つまりめちゃくちゃ強いというわけだ。
「いや~でもここは楽園だな! 胸が大きな女の子がいっぱいいて最高イダダダダダ!」
「貴様という男はまたそんな不埒な言葉を! あの時から治ってないようだな! この私が幼馴染として徹底的に治してやる!」
箒よ。ヘッドロックをかけるのはこの男にはあまり通用しないぞ。なんせスイカのようにでかい箒の胸の弾力を頬で感じてニヤニヤしてるからな。
ほんとこいつキモイ。今日からキモ夏って呼んでやる。
「ほ、箒の柔らかい」
「き、貴様というやつはぁぁぁぁぁぁ!」
箒が傍に置いてあった竹刀を握りしめたところで俺は部屋に備え付けられているシャワールームに入った。
翌日の一時限目の授業は昨日に引き続きIS基礎論理の授業だが正直、俺以外の人間からすれば楽勝にもほどがあるような科目なんだろうが俺からすれば何を言っているのかさっぱり分からない。
「―――――このような理由からISを起動させるには国家の認証が必要であり、またIS委員会に事前に登録してあるものでなければ罰則が科せられたり、最悪の場合、ISを没収されてしまいます。もちろんこの学園にある全てのISは認証を受けてありますので自由に使ってくださいね。それと専用機というものについてですがこれは国家代表候補生や国家代表だけに与えられる専用ISのことです。専用機を貰うには難関な試験をクリアし、なおかつ結果を出したうえで国家から―――――――」
何を言っているのかさっぱり分からん。代表候補生はなんとかんく字で分かるがIS委員会って何だ? ISを取り決める委員会で良いのか? 専用機は専用の機体ってことだろうし……結論を言おう。
ついていけるか!
「織斑秋無。呆然としているようだが」
「え、えっと何かわからないところとかある?」
「…………別にないです」
どうせわからないって言っても誰も教えてくれねえんだ……自分でやるしかない。
必死にノートに書き写している時にまたもやちょんちょんと後ろから突かれ、最初は無視していたがずっとしてくるので軽く舌打ちをしながら後ろを振り返る。
「んだよ」
「山田先生の下着、何色だと思う?」
「…………とりあえずシャーペンぶっさすぞ」
「あ、見えた」
「っっ!」
「うっそ~」
こ、このクソ兄貴はぁぁぁぁぁ!
「ダブル織斑。そんなに暇ならば私とやるか」
「「すみません」」
この日以上に兄貴をウザいと思った日はない。
一時間目がようやく終了し、頭がパンク寸前になりながらもなんとかノートに全て映し終えた。
あ~あのクソ兄貴のせいで説明聞きそびれたし……あとで聞きにいこ。
「いい加減、授業中に喋りかけてくんな」
「いやさ。なんかお前、思い詰めた様子だったから」
お前で思いつめてんだよ!
「……で、なんでお前ノート書いてないんだよ」
「ふっ……頭のノートに書いたさ」
なんでこいつは頭のノートとか言うふざけた所に書いているのにいつも俺は負けるんだ……どっかの名前を着たら死ぬノートを手に入れたら真っ先に書くかもしれない候補No.1はこいつだ。一泡ふかしたいところだが所詮俺に勝てはしない。
「ほぅ、そうか……なら今すぐその頭のノート掻き消してやる!」
「上等!」
机の上に置いてあるめちゃくちゃ厚い教科書のような参考書を振り上げ、全力で一夏に叩き付けようとするが相手も同じもので俺の教科書兼参考書の重い一撃を防ぐ。
「甘い! 砂糖に砂糖を混ぜ合わせたように甘いぞ!」
「それは砂糖のまんまだろうが!」
「ちょっとよろしくて?」
「ちょっと後にしてくれ。今俺は弟と戦っているんだ」
「まぁ! この私を」
「いい加減にせんか貴様ら双子は!」
一瞬、他の女子が参加したがその直後に竹刀を持った箒が乱入し、俺達の手の甲の辺りを竹刀で叩き、教科書を落とすと腕を組んで俺達を睨み付けてくる。
その眼光の鋭さに思わず俺達は床に正座する。
「第一貴様らはこんな公衆の面前で喧嘩をするな!」
「こいつが喋りかけてきたのが悪い」
「いやいや。俺はこいつが思い詰めた様子だったから解してやろうと」
「どっちもどっちだ!」
「篠ノ之さんってオカン系だね」
そんな声が箒の耳にも入ったのか周囲を見渡し、全視線が自分に集中していることに気づき、恥ずかしそうに頬を赤くしながら俺達双子をさらに睨み付けてくる。
なんで俺まで怒られなきゃならんのだ……はぁ。
「ちょっとよろしくて!?」
「あ、ごめんごめん。で、何用?」
ようやく自分に反応してくれたのが少し嬉しかったのかふふん! と鼻息を荒くし、腕を組んで俺達を見下ろしてくる。
いや、お前に正座してるわけじゃないからな。
「まあ、なんですのそのお返事! 私に話しかけられるのも光栄なのですからそれ相応の反応があるでしょうに」
「そうだな。だからこんな対応してんだけど」
「……今なんと?」
「聞こえなかったのか? 俺はお前みたいなやつが大嫌いだからこういう態度してんだけど? ちょうどいいだろ。お前みたいな自分がこのクラスで一番強いって勘違いしているような奴にはちょうどいい対応だろ」
「な、なんですって!? こ、このイギリス代表候補生のセシリア・オルコットに対してそ、そのような対応がちょうどいいなんて! 侮辱ですわ!」
とりあえず俺は正座を解いて椅子に座り、次の授業の予習を始める。
ほんと一夏はバカだろ……真正面からぶつかっていくからそんな迷惑な奴と言い合いしなきゃならないんだよ……まあ一夏に至っては裏付けされた実力の自信があるから真正面からぶつかっていくんだろうが。
「侮辱されたのはこっちなんだが。低く見てる証拠だろ」
「その何がいけませんの? いくら男性でISを動かせると言っても所詮は代表候補生には敵いませんわ」
「知ってるか? 裏付けされた自信と貼り付けただけの自身じゃ月とすっぽんくらいあんだぜ?」
「つ、月とすっぽん?」
月とスッポン……要するにすっぽんは地上、月は遥か高くにあることから圧倒的な実力差がある時なんかを言い表すときに使われるよな。
まあ、あの金髪縦ロールは外人っぽいから知らなくても仕方がないか。
「よく分かりませんが貼り付けた自信ではありませんわ。私、入学試験の際に入試教官を倒していますの。まあ、ペーパーテストで少しミスがあったようで入学主席ではありませんでしたが」
……ちなみに俺は教官に遊ばれた挙句、時間切れという残念な結果になってしまった……恐らくそんな俺がなぜ合格できたのかというと野放しにすればいろいろと問題があるからだろう。
「そうか……それは凄いな」
「な、なんですの。その言い合うのを諦めたような言い方は」
「別に……もう授業始まるから座った方が良いぜ」
「っっっ! ま、また来ますわ!」
そう言うとプリプリと怒りながら金髪縦ロールは自分の座席に戻り、2人の行く末を見守っていた箒含む他の奴らも席に座った。
「秋無」
「んだよ」
「なんで言いかえさなかったんだよ」
「…………良いだろ別に」
真正面からぶつかれるほど強くねえんだよ、俺は。