――――――ボディ・アビリティー発動。ボディ・フレイム。
そんな文面が表示されると同時に全身の装甲が展開され、左腕の中身が露わになっている部分から炎が噴き出し、左腕が炎に包みこまれる。
…………これが俺のISの力。
―――――敵IS接近
「ふっ!」
その警告に従い、相手が突き出してくる手に炎に包まれている左腕をぶつけると肘の部分から炎が凄まじい勢いで放出され、その勢いのまま相手をいとも簡単に殴り飛ばした。
凄まじい力に驚きながらも相手を視界に入れ、空中で姿勢を整い終えた所へ背部のスラスターを吹かせるとそこからも炎が放出され、背中から炎を噴き出しながら相手に向かっていく。
「逃がすか!」
相手が上空へ跳躍するがそれを追いかけるように脚部のスラスターから炎を吹かせて方向を一瞬で上へと転換させ、空いていた距離を一気に詰め、一瞬で相手を追い越し、方向を相手へと再び転換した直後にスラスターから炎を噴き出して一気に相手との距離を詰める。
「よっ! はぁ!」
突き出されてくる相手の異様に長い腕を身を捩らせて避けるとともに体を元に戻す勢いのまま相手の顔面に右ひじを全力で突き刺し、相手の動きを止めた直後にアッパーをかまし、さらに上空へと突き上げる。
――――アビリティー持続時間、残り5分。
もう半分切ったのか!
―――――警告。エネルギー収束を確認。
「っっ!」
慌てて上を見上げると相手の胸の部分から砲門が展開されており、そこにエネルギーが凝縮されていくのが肉眼でもISのセンサーからでもわかった。
このまま撃たせたら学園に直撃して甚大な被害が出る! 今俺の手にある力はこれだけ……やってやる……左腕に全エネルギーを集中させれば!
――――左部ユニットに全エネルギー集中完了まで5秒
左腕にエネルギーが全て凝縮されていくのを表すかのように全身から放出されていた炎が全て左腕に集まっていき、巨大な拳へと変化する。
「これで最後だ!」
残っているエネルギーで脚部スラスターを全開で吹かせて奴めがけて駆け出した瞬間に奴の胸の砲門から極太のレーザーが放たれてきた。
俺は勝つことを諦めた……でも他人にすら勝つことを諦めたわけじゃねえ!
「でぃやぁぁぁぁぁぁ!」
炎で形成された巨大な拳と極太のレーザーがぶつかり合い、全身に凄まじい衝撃が加わり、思わず痛みに顔をゆがめるが歯を食いしばってそれを抑え込む。
「だぁぁあぁぁ!」
腕をまっすぐ上へと伸ばした瞬間、炎で形成された巨大な拳が俺の腕から放たれて語句物のれーざおを掻き消しながら奴めがけてまっすぐ飛んでいき、遥か上空まで相手を吹き飛ばし、姿が見えなくなった瞬間、派手な爆音とともに大爆発が起きた。
「ハァ…………ハァ」
息が切れ切れになりながらもゆっくりと地上に向かって降りていき、両足を地面につけた瞬間、エネルギーが底をつき、ISが解除されて生身に戻ると同時にそのまま倒れ込む。
ま、毎度毎度こんな状態じゃ命幾つあっても足りねえぞ。
「オ、オリム~1~!」
目を覚ましたのか布仏さんが慌てて俺に駆け寄ってくる。
「おぅ」
「や、火傷してる! え、えっと~み、水!」
「持ってきてる暇ないだろ……ていうか先生呼んでくれ」
「う、うん!」
そう言い、布仏さんはだぼだぼの制服を揺らしながら走っていった。
にしても……結構学園の敷地に穴開けちゃったな…………下手したら賠償とかになるかもな。
その時、スカートの裾が見え、目線を頭の上へ持っていくと俺のことをジーッと眺めているような見つめているような見方の生徒会長がいた。
「お、遅くないっすか? 危うく死にかけたんですけど」
「アリーナ全ての出口にロックがかけられてたの……貴方が倒したのね」
「まあ、お察しの状態になりながらですけど」
右腕は相手の砲門に突っ込んだ所為で火傷を負ったし、ISは初実践でありながらエネルギー切れの状態にまでやってしまうし……。
そんなことを考えていると生徒会長がしゃがみこみ、俺の頭をナデナデし始めた。
「あ、あの会長」
「よく頑張ったわね、いい子良い子」
「っっっ…………な、何言ってんすか」
「泣くほど嬉しいの?」
「う、うるさいっす」
久しぶりに家族以外から褒められ、嬉しさのあまり勝手に目から涙があふれ出てきてしまい、腕で押さえて止めようとするがそれを押しのけるくらいに涙が溢れて止まらない。
他人に褒められたのって正直、初めてだ……いつもいつもあの2人と比べられてやることなすこと当たり前だ当たり前だって言われて…………頑張ってきた甲斐あったかな。
結局、クラス対抗戦は襲撃により中止になってしまい、生徒からブーブーと文句が出まくったらしいが代わりの行事として教員による教員同士のエキシビジョンマッチが開催され、多くの教員が元代表候補生並の実力を誇っているため、案外盛り上がりを見せた。
俺の火傷の傷は全治2週間と診断され、今利き腕である右腕は包帯グルグル状態になっており、日常動作を行うことが案外難しい。
そんな状態の中、とある晩、俺は千冬姉に呼ばれ、寮長室の前にいた。
「…………帰ろ」
「帰るなバカ」
いつの間にかドアが開き、俺の頭がガシッと掴まれ、そのまま冥府の闇という名の寮長室へ引き込まれてしまい、唯一の出口である扉が閉められた。
俺、ここから無事に出たら結婚するんだ……相手いないけど。
「で、何用でしょうか」
「そんな堅くなるな。少し話をしたいだけだ……随分と無茶をしたもんだな」
包帯に撒かれている腕を見ながらそう言う千冬姉の表情は教師・織斑千冬ではなく俺の家族である姉・織斑千冬の物だった。
「……ごめん。教員が来るまで逃げときゃよかったって今は思ってる」
「別に責めているわけじゃない。お前の選択は正しかった。あのまま侵入者に暴れられていればあの程度の被害では済まなかっただろうしな」
結局、あの侵入してきたISは俺が木っ端みじんに吹き飛ばしたから一切わからないけど第三アリーナにも同じような奴が侵入してきたらしい。
「どうだ。自分の手で勝ちを手に入れた気分は」
「…………嫌じゃ……ない」
「ふっ。お前はいつまで経っても正直にならん奴だ。これからも更識のもとで一層、鍛錬に励め。いつまでもあんな戦い方が通用する相手ばかりじゃないからな」
千冬姉の言う通りだ。俺はもっと強くならなくちゃいけない……自分の身を守る意味でも。
「ま、何の目標もなしに鍛錬していては鍛錬のための鍛錬になるだけだ。何か目標を作るといい」
「目標…………生徒会長をぶっ潰すとかか?」
「それも良いがあまり現実的じゃないな」
うおっふ。弟の夢を見事にブロークンしたぜ、このビッグシスターは!
「よし。ならば私が授けてやろう……一夏に勝て」
「っっっ!」
「何をそんな顔をしている。何も不可能なことじゃないだろ」
「……不可能だよ。あいつに勝つことは」
「ふぅ。その性格は何とかならんか…………まあ、目標はお前が決めるのが一番だ。お前がどんな目標を立て、それを達成していくか楽しみにしているぞ」
千冬姉との話も終わり、部屋に向かって歩いていた。
目標ねえ…………とりあえず誰でも良いから代表候補生に勝つ……てのもいいんじゃねえのか? まあ、卒業までに達成できる目標となればもう少しハードルを下げた方が。
「オリム~1~!」
そんな間延びした声が聞こえ、振り返ると私服でもだぼだぼなものを着ている布仏さんがこっちに向かって走ってきていた。
「なに?」
「今、1組の皆でオリム~2代表就任おめでとうパーティーしてるんだ~。オリム~1も行こうよ~」
「えらく遅いパーティーだな……俺は良い。騒がしいの嫌いだし」
「まあまあそう言わずに~。者どもであえであえ~」
「お、おい!」
布仏さんの掛け声のもとどこからともなく1組の奴らが忍者のように現れて俺の制服を掴むや否やヒョイっと持ち上げてえっちらほっちらと俺を食堂まで神輿の様に運んでいく。
マジでIS学園の女子は化け物か!
「とうちゃ~く」
「おっ! 秋無も来たか! これで1組全員揃ったな」
「やっほー! 出席番号1番! ハンドボール部所属の相川清香! よろしく!」
「は、はぁ」
突然の自己紹介に戸惑いながら差し出されてきた手を軽く握ると何故か周りから黄色い歓声というか羨ましそうな声が次々に出てくる。
「一夏君みたいなアクティブなイケメンもいいけどクールなイケメンも良い!」
「あ、写真撮ろうよ写真!」
「オリム~1も入ろうよ~」
「い、いや俺は」
そんなことお構いなしに布仏さんは俺を一夏の隣にまで押し出し、その周囲を1組のクラスメイトが囲うように集まって、一夏の後ろには箒とセシリアが既にスタンバっている。
「は~い! じゃあとるよー!」
その声の直後、カメラのフラッシュがたかれた。
翌日の放課後、いつものように俺は第三アリーナにいたが右腕を負傷しているのでそんなに激しい動きを必要としない技術の習得に励んでいた。
「-100点。おめでとう、満点よ」
「逆の次元のっすよね」
いつもの会長の辛辣な評価を聞き、休憩がてらショックを露わそうと大げさに息を吐いて座り込むがこちらを見ることさえしてくれない。
ただ今までの鍛錬は無駄じゃなかったと俺は思う。あのISとの戦闘中にだって無意識とはいえ会長から学んだ技術を使えたんだし…………まあ、努力はしてみるものだな。今思えば。
「変な顔をして何かしら」
「…………これからもご指導の方、よろしくお願いします」
「…………頭でも打ったのかしら」
「ひでぇ……ま、まあ努力の大切さを知れたと言いますか」
「あの程度で?」
「うっ」
そう言われちゃお終いだわな。
「まあ、いいわ…………これからも教えてあげる」
「うっす」
こうして今日も今日とて俺は辛らつで冷たい生徒会長の元鍛錬を続ける。
――――――俺は兄貴は姉貴の様に天才じゃない。だから努力するんだ。
――――――あの2人に追いつけるように。