俺には兄と姉がいる。兄とは双子で姉とは8歳離れている。
姉である織斑千冬は文武両道という言葉をその身で体現しているような人で勉強、武術においては知らぬ者はいないと言えるほど有名人であり、ISの最強の座に君臨し続けている。
一方、兄貴である織斑一夏は勉強はまあまあだが武術においては千冬姉の手ほどきを昔から受けていると言う事もあって世界最強クラスと期待されている。
剣道、柔道、空手によらずスポーツは見た技術を全て自分にインプットさせることができるという超人的な才能を持っている。
そしてこの2人の陰に完全に隠れているのが俺こと織斑秋無。勉強はまあまあの兄貴以下、運動に関しては必ずと言っていいほどリレーでは俺が先頭に持ってこられるとだけ言っておこう。
そんな俺でも兄貴に勝とうと必死に努力している時期があったがもう諦めた。
悟ったんだ。兄貴には何をしても勝てないと。
客寄せパンダとはこのことを言うのだろう。
周囲には女子しかおらず、教室にいる男子の数は俺と一夏しかおらず、非情に肩身が狭い思いをしているのだがそれはどうやら俺だけらしい。
「そっか~。なんか俺もいろいろあってさ~。取材陣とか毎日、俺の家の玄関にいたくらいだからな」
「大変だったんだね~」
兄貴よ。何故お前はそうやって見ず知らずの人間と入学式初日から楽しそうに会話ができるのだろうか。やはりこれも才能……ではなく生まれ持った性格なのだろう。
一方俺はどうだろうか。ほとんどの注目が一夏に向かっているため、俺に注目が集まることは無く、見事にボッチが完成してしまっている。
ここはIS学園。全校生徒全てが女子生徒で有名な特殊学園と言っていい。この学園では優秀なIS搭乗者を育成するための育成機関であり、日本という国にありながら治外法権が認められている超特殊学園。
まあそれぞれの国の野望なんかも入り混じっているらしいけど。
話しは変わるがよく俺達双子は腐ったミカンと新鮮なみかんに比べられる。
一夏は超新鮮、さらには甘味も半端なくあるという食べごろなみかんだが俺は腐りまくってグジュグジュしており、オレンジ色だったいろは茶色になっている、そんな例えられ方だ。
要するに俺の目は腐っているというわけだ。
その時、教室のドアが開かれ、谷間が普通に見えている巨乳で眼鏡をかけた先生が入ってきた。
それを見て一夏の周りに集まっていた女子たちは自分の座席へ戻る。
「みなさん、ご入学おめでとうございます。私はこのクラスの副担任の山田麻耶と言います。一年間よろしくお願いしますね」
山田麻耶……上から読んでも下から読んでも山田麻耶……どうでも良い。
机に突っ伏し、寝ようとした時に後ろからツンツンと突かれ、仕方なしにチラッと振り向くと微笑を浮かべている一夏がいた。
「なあなあ」
「あ?」
「あの人何カップだと思う?」
「……知るか」
そう言うと何故か俺の兄貴は小さくため息をつく。
「俺はFだと思うね。ちなみに千冬姉はG行きかけのFだ」
「……なんでお前千冬姉のバストサイズ知ってんだよ」
「お、織斑君。そ、そんなに先生のお話し面白くないかな? ご、ごめんね」
「いや~すみません。なんか入学初日でテンションがあがっちゃって」
一夏の爽やかスマイルに周りはおろか先生さえ、顔を赤くして視線を逸らす。
ふん…………何で双子を一緒のクラスに置くかねぇ。
「自己紹介なんだけどア行は織斑君からなんだけど……自己紹介してくれるかな?」
「はい。俺の名前は織斑一夏。知ってると思うけど千冬姉の弟だ。勉強はまあまあだから教えてもらう事も多いだろうけど一年間よろしく!」
一夏の自己紹介に教室中から拍手が沸き起こる。
……おい。一夏は”い”で俺は秋無で”あ”だから俺じゃね?
「じゃあ次の人お願いします」
うぇ~い。俺抜かされた! まあ別にいいけど。
一夏の次の奴が自己紹介をしようとした時、教室のドアが開き、そこからスーツに身を包んだ知らないものは世界にはいないと言われているほど有名な織斑千冬が入ってきた。
「山田君。すまないが織斑は2人いる」
「へ? あ! ご、ごめんなさい! あ、あれぇ~? 顔そっくりだったから……」
「自己紹介しろ」
目でやらなければ制裁を下すと訴えかけられ、渋々立ち上がる。
「織斑秋無(あきな)……よろしく」
一夏の時とは対照的に拍手はチラホラ……これでいい。俺はこうやってしょんぼりと生きていくのさ。
「まったくお前というやつは……ふぅ。私は織斑千冬だ。君達素人を立派なIS操縦者にすることが仕事だ。その為、自分から学習しようとしない奴は放置する。少しでも強くなりたければ自ら学習しに来い」。ではこれより、一時間目の授業を始める。自己紹介は適当にやっておくように」
入学初日から授業フルスロットルには驚いたがどうにかして午前中の授業を切り抜け、一人屋上で弁当を食っていた。
全く分からなかった……あとで復習してどうにかして今日の範囲は理解しておかねば……ていうかなんで俺までIS学園にぶち込まれますかねぇ……普通にバイトしてる時に急に一夏に呼び出されたかと思えばそこで適性検査とかやらされたし……はぁ。いつも俺は巻き込まれ体質だ。
「…………ねえ」
「はい?」
後ろから呼ばれ、振り返ると冷たい表情をし、その眼は射抜くものを全て射殺すのではないかと思うくらいに鋭いが冷たさを感じる。
青い髪にIS学園の制服を着た女子が後ろにいた。
「織斑秋無君でよろしいかしら」
「はぁ……何か」
ていうかこの人いつの間に俺の後ろに。
「放課後、生徒会室に来るように。以上よ」
感情の起伏が全く感じられない冷たい喋り方でそう言うとその女子生徒は柵に近づいていくと身を投げ出した。
「お、おい!」
慌てて柵に近づき、下を見下ろすがその女子生徒の姿は見えなかった。
「…………な、何だったんだよ今の」
放課後、一夏に晩飯に誘われたがとりあえず一通りの罵倒を繰り出して一夏という敵を撃退し、千冬姉に生徒会室の場所を聞いてそこへ向かっていた。
「……ここか」
生徒会室と書かれているプレートが吊るされている教室に辿り着き、ドアの前に立つと自動で開き、机に向かって書類らしきものにペンを走らせている昼休みの女子がいた。
ちょうど窓から差し込む夕焼けと彼女が被さり、どこか目の前の光景が神々しいものに見えて目が離せないでいた。
…………いかんいかん。
「あら、来たのね」
「あんたが言ったんでしょう」
「それもそうね……座って」
近くの椅子を見ながらそう言ったのでそれに従い、青い髪の女子と直角になるような位置に置かれている椅子に座る。
にもかかわらず女子は書類から目を離さず、ただひたすらペンを走らせる。
…………ここまで放置されるのも珍しい。
「会長、お客様を放置してはいけませんよ」
「構わないわ。彼は客ではないもの」
じゃあ何なんでしょうねぇ。小一時間ほど問い詰めたいです。
「申し訳ありません。会長、悪い人ではないのですが」
眼鏡に三つ編みといういかにもお堅い感じの女子が俺の近くにお茶が入った湯呑みを置いてくれた。
あぁ、よかった。常識人のような人がいて。
「先に私から用事を説明させていただくと織斑秋無さん。貴方を我々が警護させていただきます」
「……は? 警護?」
「はい。そのですね……織斑一夏様と違ってですね……その……」
「虚ちゃん。ハッキリ言いなさい」
「で、ですが」
「なら私が言うわ……織斑一夏と違って貴方は弱い。だから私たちが警護するのよ」
…………まあ、分かってはいたけどここまで真正面から言われたら流石にちょっと傷つく。
でも言っていることは正しい。昔から俺は一夏には何事も勝てていない。スポーツだって圧倒的な差をつけられているし、勉強だって負けてる。
俺は何事においても一夏に勝つことをもう諦めた。
「男でありながらISを起動させた貴方達双子は世界各国が狙っていると言ってもおかしくはないわ。その中で全ての国が平和的な方法で貴方たちに近付くと思う? 答えは否よ。ある国は武力を使って、ある国は女を使ってでも貴方たちを狙いに来る。その中で一番狙われるのは貴方よ。ひたすら誰かを護るための力を手に入れるために鍛錬を重ねている兄と何もできず、全てにおいて勝つことを諦め、ただのうのうと暮らしているだけの弟……どっちが狙いやすいでしょうね」
「……じゃあどうしろっていうんですか」
「強くなればいい。ただそれだけよ」
「強くなれ……はっ。10年間ひたすら負け続けた俺が? 強くなる? 無理っすね」
「たった10年で自分が強くなれないと思っているあなたの考え自体が無理があるわ……何もあなた一人で強くなれとはいっていないわ。私が強くしてあげる。明日、ちょうど午前中までだから柔道部室まで来てちょうだい。話はこれで終わりよ」
そう言って青い髪の女子は再び書類に視線を戻し、ペンを走らせていく。
「……意味わかんね」