オリ主がISキャラを煽るだけのお話   作:夏からの扉

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何故か好評だったので、続きです


汚い感情があるのが人間という生き物だが、汚い感情が表にバレると人でなしと言われる不思議

 

 

 

 

 

 

「寮の部屋が決まったんですが……」

「はあ」

「その部屋割りが決まっていなかったので無理矢理変更になってと言いますか、政府は寮に入れることを最優先にしたいようでして……」

「はあ」

「一ヶ月もすれば個室が届くと思いますので……それまでは相部屋でお願いできませんか?」

「はあ」

 

 嫌です、と言いたくなるような雰囲気を迸らせる山田先生に、生粋の被虐体質なのかなあと適当に納得しながら頷いた。煽って泣かせるのは好きだけど、この人、何もしなくても泣きそうだから何故かやる気が吸い取られる。強制徴収やる気玉でもやるつもりなのだろうか、この先生は。

 尻尾でも生えてスーパー山田人にならないかなあと彼女の下半身を見るのに熱中していたら、「不安なのはわかりますけど、大丈夫ですよ」と慰められた。目線を伏せていたからだと推測。

 

「それにほら、同室の子は椚くんの知り合いらしいですから!きっと大丈夫ですよ」

 

 知り合い、相川だろうか。

 

「あれ、同室って織斑じゃないんですか?思春期の男女が同じ部屋にいるっていうのは、中々まずい話だと思うんですけど……」

 

 そう言うと、山田先生の顔が赤く染まった。人間一皮剥けば赤い筋肉と血液で完熟トマトと同等の赤さを誇るのだろうけれど、山田先生は中身を皮の中に抑えたままトマトになっていたので、おそらくは一皮剥けた女なのだろう。

 いや、でももしかしたら完熟トマトばりに熟れた女なのかもしれない。どう見ても若いけど、化粧魔術を使っている可能性だってある。

 

 完熟トマトな年齢っていくつぐらいだろう、と妄想を暴走させながらそろそろ山田先生から脳内で話を膨らますのに限界を感じてきて、いやんいやんと顔に手を当てて黙っている山田先生に話しかけた。

 

「えっと、山田先生……?」

「いえ、その……大変言いにくいんですけど……その、何て言うか、政府は、織斑くんと椚くんがそれぞれ、日本人の女の子と……性、いえ、お付き合いをしたらいいと考えているようでして……」

 

 なるほどなー。情で繋ぎ止めてみたり人質にしてみたり、色々方法はあるということなのだろう。あと、その歳ででそんなに初心なのはどうなんだろうね山田先生。歳知らんけど。

 

「その!確かに政府はそう言ってますけど私としては学生らしい、健全なお付き合いをして欲しいんですが……」

「えっと山田先生、他に注意事項とかありますか?」

 

 このままだと、山田先生の健全なお付き合い論耐久レースが始まってしまいそうだったので、無理矢理話題転換を図る。

 

「夕食は六時から七時までで、寮の一年生食堂で取ってください。それに、大浴場は……椚くんは使えないので、各部屋のシャワーを使用してください」

「了解しました」

 

 山田先生と別れて、自室へ向かう。寮だし相部屋だから自室と言うのは多少の語弊があるかもれないけれど、どうせなら大言壮語も甚だしくIS学園が俺の庭くらいのことは言いたいものだ。

 

「あったあった」ドアノブを確認、開いてる。空き巣が入ってなければ、相原は既に中にいるのだろう。でも、実際俺のレアリティが高すぎて空き巣の可能性も否定できないことろが悲しい。

 ガチャリとドアを開けると、俺が普段使っているものの数倍のお値段はしそうなベッドが二つ並んでいて、その上に────

 

「……久しぶり。あんまり会わないから、殺されたかと思った」

「久しぶり。知らぬ間に随分と人の目を見ない子になっちゃってねえええぇぇえええ本当に誰の教育の所為ざましょ」

「社くんの所為だから」

 

 俺の元カノ────いや、正式に別れ話はしてないから彼女でもいいのかもしれないが、その相川清香が黒いタンクトップ一枚と下着のみで、ベッドに寝転がっていた。

 目はとろりとチーズよりもとろけていて、睡魔との戦闘に負けそうになっていることが伺える。動きの少ない上半身とは反比例するように、脚はぱたぱたと動かされて次第に速くなっていった。おそらくバタ足の練習だ。

 

「水泳部だっけ?」疑問を氷解させるべく、尋ねる。

「脈絡のない……」愚痴りながらも、ちゃんと返答をするあたり、律儀だ。「ハンドボール部。……まだ入部はしてないけど、もう決めてるの」

 

 彼女の言葉に「ほう」と一言興味のなさそうな返答を返して、二つ並んだ奥の方のベッドに倒れ込んで、ポケットからスマートフォンを出して弄る。

 

 俺のブログは、もう一人の男性IS操縦者である織斑がIS学園から外界へ情報を伝えることをしなかった為に、今や全世界が注目してると言ってもいいほどにはアクセス数が増加していた。どう見ても女性人権団体の書き込み的なものもコメントにはあったが、それをあえて放置することによって一般聴衆にも晒す。

 

 今の行き過ぎた女性優遇策によって甘い蜜を吸っているのは、全女性から見るとほんの一部だ。いずれ崩壊するとわかっている者もいるし、そもそもIS開発以前からほとんど生活に変化のないという意識の者もいるだろう。そして、そんな者が『動かせたことを間違いだと認めろ』や『所詮女の奴隷に過ぎないくせに調子に乗るな』などの書き込みを見て、『同じ女として恥ずかしい』などと良い子ちゃんぶって報道機関のインタビューなどに答えるのだ。

 女性人権団体が騒げば騒ぐほど、世の中は男女平等の風潮が蔓延していくという面白い現象が起きることになる。直接出て行って煽ってやりたいが、そうなれば殺されるので我慢。

 

 それに、このブログが何らかの形で閉鎖されることになったとしても、既に世間の注目が集まりきったこの状態では圧力が疑われるし、諸外国にしてみれば唯一と言ってもいい男性IS操縦者との直接の交渉チャンネル────とは言わずとも、男性IS操縦者が何を思って何を望んでいるかがわかるこのブログをみすみすと閉鎖させるわけにもいかないだろうし、もしそうなったら日本に俺の扱いに関して文句を言い立てることだってできる。

 

「……セシリアさんのことだけど」

 

 意識の外側から声を掛けられて、「うーん?」と生返事をする。頭に内容が入ってこない構えは三年間修行しないと手に入らないと聞いたけど、俺は既に三年もの月日を研鑽に当てていたらしく、右から左へとムーディーな気分だ。

 

「本当にブログに乗せる気じゃないよね?」

「うーん」と空返事。

「聞いてる?」

「うーん」お、贔屓にしてる店がキャンペーン中……あ、外出できないんだっけ。

 

 何度か「うーん」を繰り返していると、背中に温かくてやわらかい感触がのし掛かってきた。背骨に置かれた重量は重力に逆らわずに胴体を圧迫する。あまりに唐突だったので、「ぐえ」と潰れた蛙よりはまだ上品かもしれない程度の呻き声が漏れた。

 

「聞いてるの?」

「七割くらいは」聞いてなかった。

 

 相川は「聞いてなかったでしょ」と体重を預けてくる。胃の中から食道へと空気が移動する。女性に重いと言うのは世間的に失礼とされているけれど、人間の身体なんてどんなに軽くても三十キロは必要なのだ。イメージとしては、米俵を寝転がっている時に乗せられた感じだ。重くないはずがない。

 

「ねぇ……」

 

 熱っぽさを帯びて、丁度ぬるま湯くらいの温度に暖められた言葉が俺の耳に侵入して、今度はムーディすることもなくちゃんと脳に届く。

 

「好き」

 

 直接的で、何の隔たりもなく好意を伝える言葉。

 

「清香って呼んでよ」

「……………………」

 

 タンクトップを半分ほど脱いで、多感な中学生が見たら比喩でなく鼻血を吹き出しそうな扇情的な下着を露わにしながら、俺の耳に唇を近づけて言う。

 

 ……さて。どうしようか。

 オルコットの件もあって、今俺は非常に気分が良い。楽しみを今経験して精神の上がり幅を更に大きくするか、それとも気分の落ちた時に取っておくかは多少迷ったが、どうせ今やっても後やっても同じだと気付いた。

 朝三暮四かもしれない。

 

「きは」

 

 相川がぴくりと反応する。

 以前与えた言葉はまだ彼女の奥底に深く根付いていたようで、心が躍って心臓近くの筋肉が浮いているような感覚を覚えた。

 

「好きと言う、愛してると伝える。素晴らしいことだ、ああ本当に最高に良いことなのかもしれないし良いものは決して滅びないと言うのだから愛は永遠なのかもしれない」

「や、う……」思い出し、相川の眼球が親父となって遊び出す。

「だがちょっと待ってほしい少しだけ考えてみてほしい相川、いや本人の希望だから清香と呼ぼう清香は本当に俺を愛しているのか本当にこんな屑が概念化して実体化したような生物を本当に好いているのだろうかもう一度よくよくよぉぉぉく考えてみよう」

 

 ペラを回す、口を動かす。笑顔が隠しきれずに表面化して目の形が左右非対称になっているのが自分でもわかる。耐えきれない愉悦は表情筋を全体的に上向きに釣り上げて、思わず釣れますかと声を掛けたくなってしまうほどだ。

 

「そうだなまずは相ぃ川清香という人間についてのことだ、上の下から中の上にかけての才能何をやらせても一定以上の成果は出るけど何をやらせても一流には程遠い。才能は不平等だ必死に足掻いて手を伸ばす、それでも結局は届かない届かないとおぉどかなああぁぁああい。同い年のセシリア・オルコットは代表候補生と呼ばれるまでISを熟練しているし篠ノ之箒は彼の篠ノ之束の実妹だしあれには届かないそれにも届かない何もかも中途半端に終わって駄目だ駄目だといじける。どうしてと考えて理不尽だと嘆いてこんなにも悲しいのなら苦しいのなら届かないのが辛いのなら手を伸ばさなければ良い何せ手を伸ばすことが怖いんだ怖いことからは逃げるのが一番だからなあ。でもそんな時に自分では決して届かない場所に手を伸ばしては地に引き摺り下ろして死体蹴りを愉しんでいる奴を見つけた。しーかーもそいつは自分でも手が届きそうな所にいるじゃああああぁぁあああぁあないかあああああああああぁぁああああ!!これは誘惑をするしかない好きになってもらうしかないそれを手に入れることが出来れば私は届かない場所に手を掛けたも同然だからなあああぁあああああああぁぁあああああああぁぁああぁぁ!!!!!」

 

 相川の顔が歪み、紅潮した頬には冷や汗なのか普通の汗なのかわからない液体が一筋などと貧乏くさいことは言わずに三滴四滴と流れ落ちる。

 

 ああ、楽しい、愉しい。

 彼女の顔を見るのが限りなく愉快だし、時折彼女の口から漏れる「あ、や……」などという言葉を聞くのが最高に心地良い。

 舌は上昇する気分に引っ張られるように益々回る。

 

「でもそんな事実は見たくないそんな現実なんて認めたくない綺麗なままでいたい自分の行動の根本が醜いものだなんて知りたくもなかったし汚らしい自分なんて自分じゃなあああぁああああい!!だぁからあ!理由を付ける自分が椚社を恋人にしたい理由を求めるそーうーだあああああああああ!好きだからという理由はどぉおおおぉおおぉぉぉおおおおおおおおだろおおおおおぉおおおぉぉおおおおおうかあああああぁぁああああああああああ!!!」

「ちっ……!違っ……!」「何が違うんだお前が自己愛の塊だということかそれともこの期に及んで良い子ちゃんぶりたい自分の本性かもしくは以前同じことを言った時に図星を付かれて焦ったお前が俺の右目を抉ったことかあああ!?その事実が何よりもお前自身の言葉を否定してるよなあああああああ!!!」

 

 俺は常日頃から運命という言葉は負け犬の戯れ言に相違ないと公言しているのだが、人を煽ることを至上の喜びとする俺の性質と、他人の弱みを負い目を本性を見抜けるこの目を両方持っていたということは、運命的と言っても過言ではないだろう。

 言葉のその奥を見透かせる、心理のその中心を見抜けること目は、残り一つしかないとはいえ俺には天からの授かり物にも等しいものだった。

 だから、いくら否定したところで覆らない。

 相川がいくら違うと言ったところで、相川自身もこの事実を認めてしまっているのだから。

 

「きっともし俺がお前と出会ってなかったらお前は織斑に惚れていた────いや、織斑に惚れていることにしただろうよ。何故なら奴はお前にとっては高くて尊くてお前の届かないものの代表みたいな奴だからなああああああああ!!だが奴にはライバルも多そうだしそのライバルは増殖するし織村千冬の実弟だし篠ノ之束とのコネクションも持ってたりと失敗するのが届かないのがなぁああによりも怖いお前は手を伸ばしきれなくてどぉんなアプローチを仕掛けようともアプローチをした事すら気付かれない織斑視点ではただの背景でモブキャラで誰でもない誰かにしかなれないだろぉおおおぉぉぉおおおぉおおおおおぉおおおがなぁああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 いつの間にか俺の下に入り込んでいた相川は黙り込んで、涙を溜めた目でじっくりとこちらを見ていた。相川は俺の手を掴んで、年齢にそぐわない大きな胸に当ててくる。俺の腕は彼女に抱きかかえられて、相川の胸を圧迫して潰す。柔らかい感触が手の甲に当たる。

 

「わかった……わかったよ……?」微かな嗚咽に包まれた彼女の声はどこか懺悔するように頼りなく、倒れ込むようだ。「わかったから、汚くても、醜くてもいいから……」

 

 別に認めて欲しいわけでも何でもないが、不自然に口角が釣り上がる。こういうのも、ただ喚いたり泣くだけの奴らとは違って味があるとでも思っているのかもしれない。

 愛ではないが、好意は湧く。

 薄暗い愉悦は胸中で渦を巻いて気分を高揚させる。

 

「────今は、私を、満たして……!」

「それで清香が後悔をするのなら、何度だって」

 

 つまりは、こういう関係。

 繋ぎ止めるのは愛でも恋でも、そんなに美しいものでは断じて無く、もっと醜悪で卑しくて薄汚い何かだった。それだけの話だ。

 

「あっ……!」

 

 それでも、俺は愉しめればいいんだけどね。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 朝、部屋の隅で膝を抱えて後悔している相川が、IS学園での生活らしい生活としては始めに見たものかもしれなかった。ノリと勢いと雰囲気に流されてヤってしまった結果がこれだよと、全国の若者に教材として見せたくなるような悲壮感を抱えている。

 そんな相川を見てほっこり、一日を頑張る気が起きた。

 どうせなら少し煽ってから行きたかったのだが、胃の内部が空腹を訴えてきたので、食事の摂取を優先する。時刻は七時五十分、着替えて食堂へ向かったら丁度食事が出来る時間帯になるだろう。

 

 顔を洗って、鏡を見る。ぱっとしないようで、表情の変化で印象がどうとでも変わるようないまいち特徴に薄い顔が目に入る。右目がぴくりとも動かないのは特徴と言えば特徴かもしれないが、だから何だという話になる。

 織斑くらい優男な顔をしていたら色々とやりやすかったのだが、わざわざ整形をするほど困ってもいない。いや、煽るのに必要だと見ればこんな顔捨てるのに躊躇はしないが。

 

「おっ、社じゃん。一緒に食べようぜ」

 

 食堂に行くと、思慮の薄そうなイメージを湧かせる声が聞こえた。昨日クラスで盛大に煽りまくった俺にそんなことを軽く言う人物など限られていて、その中の一人が彼、織斑一夏だった。噂くらいは広まっていそうなものだが、きっと難聴なのだろう。そんな顔をしている。

 

「……………………」

 

 そして、これ以上ないほどわかりやすく睨み付けてくる篠ノ之箒。織斑との時間を潰されて悲しいのはわかるけど、ガキの癇癪以下の感情をこちらに向けられても、俺としては煽ることくらいしかできそうにない。

 神がここで煽る運命ではないとか言ってきたので、スルーして織斑の横に座った。

 

「しかし、これうまいな」

「……………………」しかし篠ノ之、以外にもこれをスルー。

「そりゃあもう、どこの誰とも知らない奴の税金から支払われてるからな。他人の金で食う飯は当然美味いさ」

 

 朝食のメニューは選択制だが、偶然にも織斑、篠ノ之、俺はご飯、納豆、鮭と味噌汁という典型的な内容の和食セットで一致した。女尊男卑派の頭の軽い女共の財布から出た金から作られていると思うと、片腹台激痛だ。是非とも大変美味しかったと伝えたい。

 

「……性格、悪いな」

「無害を装って何考えてるかわかんねえ奴より毒を全面に押し出した奴の方がまだ信用できるだろ?」前面に押し出した毒がTTX(フグ毒)レベルの奴もいるけど。

 

 篠ノ之は時折織斑の方をちらちらと見ている。何を期待しているのかはすっげえわかりやすいけれど、あえて知らないと言っておこう。それに、その期待が叶うとはとても思えない。煽りたい。

 

「ねえねえ、あれが噂の男子だってー」

「なんでも千冬お姉様の弟と……もう片方は誰だろ」

「ふーん、そっちの方はともかく、やっぱり織斑くんって強いのかな?」

「私、見てたんだけど織斑くんじゃない方って……」

「織斑くんの方がイケメン」

 

 俺たちを囲んだ席から少し空けて、空白地帯を避けながら女子たちが固まって無責任な噂話を繰り広げている。当然のことながら、織斑に関しては好意的に、俺に関しては興味がなかったり昨日の話とマイナス方面な話だった。

 

「くぬぎ~……隣座ってもいい~?」

 

 気の抜けるような声。異様に余った袖……ええと、誰だっけ。知ってる、思い出せないだけ。の、の、の……まあ、どうでもいいか。

 入り口部分で呆然としている谷本だか谷口だかの女子生徒が、硬直して顔を引きつらせながら、のなんとかの行動に驚愕している。一緒に行動しているところを見たことがあるし、多分仲も良いのだろう。

 

「うん、まあ、いいよ」

「えへへ、ありがと~」

 

 作っているのか天然なのか見分けが付けにくい態度でお礼を言うのなんとか。しかし、のなんとかって言いづらいなのなんとか。

 

 一人近くに座ったのだから、誘蛾灯に誘われる虫けらのごとく雪だるま式に織斑の近くに寄って来ると思っていたのだが、ちらほらと寄って来ようと試みているだけ、といったようなのが複数人いるだけで、まだ誰も実行に移していない。

 取り敢えず、ここで動こうとした浅ましい奴の顔を憶えておくことにした。

 

「ねえねえ、おりむーとくぬぎーってどうしてIS使えるの~?」邪気のない風を装った疑問からは、微量の警戒心を感知した。女尊男卑云々というものではなく、純粋な俺個人に対する警戒。

 ……まあ、昨日の今日だし、しない方が人としてどうかしてる気がしないでもない。

 

「……織斑、お前昔女だったとかいう過去ないのか?」

「なんだそりゃ……」

「性転換手術したかって聞いてるんだよ、言わせんな恥ずかしい」

「何でその発想に至ったんだよ!」

「えっ、おりむー女の子だったの?」

「違えよ!?」

 

 多少のコントは警戒心を解くのに丁度良い。誰か特定の個人の印象を和らげるのではなく、遠巻きから見ている誰かが『もしかしたら噂は噂なのかもしれない』とか思ってくれて、『椚社は安全だ』という空気を作ってくれたら自ら物事を考えない愚民はそれに従うより他にない。そして、和らげられた印象は気の緩みや油断を生み、失言を招き、煽りやすくなるわけだ。

 

 それに、のなんとかさんも何を意図してかはわからないけど、織斑と俺を交えたコントをすることで俺の印象をマシにしようと努めてくれているみたいだ。

 ほとんど直感だけど、天然ではなさそう。

 

「まあ、実際わかんないぜ?ISなんてよくわかんないものの塊みたいなもんだからな、更によくわかんないことが一つ二つ増えたところで今更どうこうないだろ」

「それもそうだな」

「そうなのかなー」

 

 そもそも、篠ノ之束博士は『ISは女にしか扱えない』と公言したことはあっただろうかと記憶の中を探る。というか、そもそも篠ノ之束レベルの変態的な天才なら特殊な訓練を受けた女にしか扱えないような欠陥機でなく、完全版と言ってもいいISを作れるのではとか勘ぐってみたくなる。

 

「……織斑、私は先に行くぞ」篠ノ之が席を立つ。まだ駄目だ何も言うな堪えるんだ。

「ん?ああ。また後でな」

「いやあ国際指名手配されている人物の縁者に織斑をさせまいと嫌われる作業お疲れ様です」と脊髄反射で言いかける口を口内を噛んでねじ伏せる。堪えろっつってんだろ。

 

 ううむ、駄目だ。

 次にあの思春期メンタルを目の前にして煽らずにスルーできる自信がない。あらゆる方面から『さっさと煽れよ』という幻聴が騒がしく頭蓋骨の中で反響して脳の表面を細かく傷つけている錯覚が俺たちよりも走り出す。

 昨日煽ったばかりだというのに、これだ。やはり環境が良すぎるのも問題だなあと話しかけてくる織斑に適当に頭に残らない返事を返しながら思った。

 

「いつまで食べている!食事は迅速に効率良く取れ!遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

 大声を上げる織斑先生の声を聞きながら、わざと遅刻して一周が五キロもあるグラウンドを十周して体調を意図的に崩し、そのことをブログに書いてみたりしたらIS学園は各国から非難囂々だろうなあと、妄想を回転させてみた。

 

 一週間後やりたいことあるから、今はやらないけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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