瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第十五話 新たな騒動の一幕へ

 あの外出の後に作ったチョコレートケーキは大変好評だったらしく、鷹月はなんかフォークを咥えつつほわほわと口元を緩ませながらそれをリスのように食べていた。久々に作ったが、腕は落ちてなかったようで何よりだ。

 

 それはともかくとして。

 鷹月との外出から数週間が経ち――クラス代表対抗戦、その前日。

 俺は今日の放課後もまた当然のように、整備室に引き籠もって武装の調整を続けていた。実は既に組み立ては昨日のうちに済んでおり、今は作業の間違いがないか、出力に問題がないかなどの最終確認を行っている。

 数々のグラフが並ぶホロウィンドウを眺めながら、俺はパチパチとキーボードを叩く。……一応ISの方からも調整出来るように、プログラムを書き換えておくか。いざという時に調整できるようにしておかないとな。

 ちなみに現在鷹月は隣におらず、対抗戦を楽しむためと言って、早めに部屋へと戻って対戦に関する予備知識を蓄えていた。さすがに俺が彼女個人の時間を奪うわけにもいかないため、今は一人でコーヒー片手に作業をしている。

 

「(あー、しかし、良く騒ぐな女子共は……)」

 

 今日の教室は明日のイベントのせいか、ヤケに騒々しかったのを覚えている。

 聞くところに寄ると今回の試合における客席の権利を売買してた、なんて馬鹿も居るらしい。最もそいつは織斑先生にしばかれたようだが。……全く、一体何をしているのやら。そこまでして見たいというのかね、自分たちには関係無いだろうに。なんかのフリーパスがどうのと言っていたが、そんなことしてる暇があるのだろうか。

 

「まあ、他が何しようと関係のないことか。これで武装(コイツ)ももう完成と言った所だしなぁ……。そうだな、ここ数日コイツ一振りに掛かりっきりだったんだ。気分転換に他の武装でも設計図引いておくか」

 

 完成まで後一歩という所まで近づいてきた、目の前の太刀を見て俺は小さく頷く。

 

 IS用に調整されたその刀身は非常に長く、パワーアシストでもなければまず持てない大きさとなっている。恐らく一般的なISの高さとほぼ同じだろう。その分折れにくいように最新の技術も流用しており、刀と言ってもほとんど形だけで中身は違う。

 部品の削り出しはとっくに終わっており、組み立ても順調に進んで、九十五パーセント程度は形も出来上がっている。このまま流れよく作業が終わったら、後は実戦で扱う感覚を日々の訓練の中で鍛えていくだけだ。

 

 ここしばらくぶっ続けでこれの作業を行っていたので、息抜きに他に考えていた武装の設計をしようと、専用のプログラムを起こし、そこに以前と同じように線を引いていく。

 生憎先生が居なければ削り出しなどの加工機器は扱えないからな。それなりに勉強はしたし、試しに何か自作してみたいものだが……残念なことにまだ一人で行えるようには許可は下りていないのだ。

 数分そちらに時間を割いたところで、俺は再び元の組み立て作業へと戻る。

 

「さて、ある程度描いたところで、続きをやるか」

 

 せめて今日中に完成させたい。そう思いながら、ハイパーセンサーを活用しながらバランスを崩さないようにサイドアームを使い、近くに置いてあった部品を丁寧にはめ込んでいく。一ミリも誤差が生まれないように、正確に見ながら作業を進める。

 そのまましばらくやっていき……一時間後。

 

「よし、完成か……」

 

 組み立ての終わった目の前の刀を改めてセンサを使って複数の視点から確認し、全体を見直す――大丈夫、みたいだな。念のためにISのスキャンにも掛けて、機械の目から見て不自然なところはないか検査を重ねる。

 ……直ぐに検査は終わり、設定してあるプログラムにも異常がないようなので、繋いであるコードを幾つか外して早速ラファールの装備の一つと換装する。

 

「せっかくだし、先生に見せる前にアリーナで試しに使ってみることにしようかね」

「ほう、終わったか。実戦に投入する前に試してみるのは良いが、その前に私に見せて貰おう」

 

 丁度その時、織斑先生が入室してきた。

 彼女は俺の所へと歩いてくると、ラファールの前に浮かぶ武装――“揺光(ようこう)”を見る。彼女に今俺が座っている座席を替わり、彼女の目から見て本当に設計図と際が無いか最終チェックをしてもらう。

 三十秒ほど眺めたところで、彼女は俺の方を向き、口を開いた。

 

「……よし、私からしても問題は無いようだな。結城、一応これで完成と認めてやる」

「ふぅ、安心しましたよ。これで何か間違いがあったらまたバラさなきゃならないですからね。とりあえずオーケーなら、ラファールの武装に入れときます」

「少し待て。新たに作るISとラファールは随分と違っている。今使って、変なエネルギーパイパスが作成されたらどうする。入れておくのは良いが、本来の仕様を使うのは出来るだけ控えておいた方が良いな」

「はい、分かりました」

 

 まあ、下手に使ってもう一度作り直すなんて事になるのも面倒だ。実際には何が起こるか分からないが、ラファールを使う限りは普通に戦うとしよう。

 

「それよりも先生、武器の方も完成させましたし。これで本体の方も……」

「ああ。これから本格的に始めていくとするか」

 

 そう薄く笑みを浮かべた先生に、俺も同じ表情を返した。

 

「それじゃあ早速やりませんか?俺はもう始めていきたいんですけど」

「ああ、悪いがそれは明後日からだな。今日と明日は中々忙しいモノでな、悪いが面倒を見切れそうにない。お前と仲の良い整備科の先輩でも居れば、そいつに任せることも出来るのだが……」

「無理ですね」

「ハッキリと言い切るな、褒められたことではないぞ」

 

 なお自虐を込めて笑う俺に彼女は頭を抱えるが、無理なモノは無理だ。

 今の状態で俺と仲良くできる女子なんか、それこそ同じように孤立しているような女子しか居ないだろうさ。……そんな都合の良い存在なんて、早々いる訳もないだろうけど。それに先輩なんて条件まで加われば、それはもはや天文学的数値に違いない。

 軽く笑いながらそう言いきった俺に、彼女は更に顔を顰める。

 

「とりあえず今日はそうだな……予定外だろうが、アリーナで訓練でもしたらどうだ?先ほどの話だが、その機能を使わなければさほど問題がないだろう。重さや握るバランス感覚の下地を、今の内に作っておくというのはどうだ」

「確かにそれくらいしかやることなさそうですしね。分かりました、今日は機体を動かすことにしておきますよ」

 

 完成した目の前の武装を収納し、代わりにいくつかの装備を外す。

 そしてその新たな装備の機動に必要ないくつかのプログラムを起動し、ラファールにインストールしておく。そんな作業を続ける俺に、背後から先生がついでとばかりに声を掛けた。

 

「ああ、後、お前が一昨日辺りに通しておいた例の装備の使用許可も下りている。そちらの試し打ちも、行ってみて構わないぞ?……全く、予算がどうとか散々言っていたが、白式に掛かる分に比べたら安いモノだろうに」

「いや、実際どれくらい金が掛かるのかは知りませんが、大丈夫なんですか?上に睨まれるのでは?」

「今更だ。生徒に気にされるほどではないさ」

 

 全ての処理が完了したところで、目の前の整備状態から見慣れたネックレスへと機体を戻し、それを外れないように腕にしっかりと巻き付ける。

 

「そうですか。それじゃ、アリーナに行ってきます」

 

 と言って、俺は早速近くのアリーナへと向かうのだった。

 

 

 ■

 

 

 そして、本日解放されていた第二アリーナで。

 俺は現在ある一機のISと、運悪くご対面していた。

 

「……分かってて薦めたんじゃないでしょうね、織斑先生?」

 

 もちろんそんなわけはないと分かっていても、この運の悪さにはそう言わずにはいられなかった。

 俺は思ったことを小さく呟きながら、こちらの目の前に立ち塞がる一機のISを眺める。

 中国代表候補生鳳鈴音と、その専用機“甲龍”。この間軽く喧嘩らしきものをした挙げ句、今の今まで碌に話もしなかった彼女のISである。確か型は第三世代で、特徴は空間に作用する特殊兵器だと聞いている。恐らく、肩部に浮かぶ一対のカタツムリのような装備がそれに当たるのだろう。

 ちなみにそんな彼女は今、俺の目の前で、盛大にブチ切れていた。

 

「……アンタ、今のアタシの前に現れるなんて、随分と良いご身分じゃない?」

「知った事じゃないっての。で、なんでそんなにキレてるんでしょうかね?」

「もう忘れちゃったのかしら?乙女の純情を適当に切り捨てたってのに?謝りにも来なかったじゃない!」

「そんなの俺の知ったことか。退け、練習の邪魔だろうが」

「嫌よ。それにアンタどうせ訓練に来たんでしょう?だったらアタシが少しくらい相手してあげる」

「結構だ、面倒臭い」

 

 俺が面倒事を避けようと他の場所へ移動しようとすると、彼女はそちらへ回り込んでどうしても俺を逃がすまいとする。

 どうしてもあちらさんは俺を相手にしたいらしい。ついでにボコボコにすることも視野に入れているのだろう。両手に握った一対の青竜刀の切っ先が、俺の方へと向けられる。

 

「邪魔しないでくれ。そしてさっさとあっちへ行け」

「あら、アタシは邪魔なんかした覚えがないわよ?親切心で一杯で感謝して欲しいくらいだわ」

「そうか。どうしても退かないというのなら、俺は帰るぞ」

 

 わざわざ退かせるのも面倒だ。ビットに戻り、部屋に帰って読書の続きでもするか。そう言えば、まだ読みかけのモノも少し残っていたからな。そう考え、先ほど来たところへと戻ろうと歩いて行く。

 その背後から鳳の驚いた様な声が掛けられる。

 

「ちょっ、なんで逃げるのよ?」

「さっきも言ったろ、面倒なんだ。……それにお前だって困るだろ?」

「は?なにがよ?」

「明日はクラス代表対抗戦だろ?その前日に機体を損傷させたら、大事じゃないのか?俺はお前のためを思っていってるんだよ。明日負けても言い訳にならないようにな」

 

 軽く振り向き様にそう語りかけ、ついでに口元を上げて笑っているように見せる。

 ハイパーセンサーを通して見ると彼女はそんな俺の言葉に対し、額に十字の血管を浮かばせ、口の端をヒクヒクと引きつらせていた。

 

「中々言ってくれるじゃないの……ふざけんじゃないわよ!」

 

 ジャキッ、と一対の青竜刀を構え、彼女はこちらに対する交戦体勢を整える。

 しかし俺はそんなの知った事かとそのまま帰ろうとして――その背に迫った衝撃に、咄嗟に回避行動を余儀なくされた。

 ドゴンッ!――何らかの強力な砲撃が、先ほどまで俺の立っていた地面を吹き飛ばす。 背後からの砲撃を躱し倒れに、彼女が少しばかり驚いた様子を見せる。

 

「へぇ、よく避けたわね。見えなかったはずなのに」

「生憎ここに女子は沸点が低いからな。背後から襲われることもないようにと、ハイパーセンサを起動してたんだよ。全く、中国の代表候補生ですらこんな感じか。簡単にキレる上に、背後からの攻撃にこの距離で失敗するなんてな。……分かった、やってやるよ」

 

 仕方無い、といった感じで俺は振り返り、もう慣れた手つきで両手に“葵”を召喚する。

 

「これくらいの実力なら、トーナメントに出ても直ぐに負けるだろうからな。今俺がその期待を少し壊した程度でも、問題にはならないだろ」

「ふ……ふふっ……本当に減らない口ねぇ――」

「ほら、無駄口叩いてる暇があるんならさっさと来い。時間の無駄だ」

「言われなくてもッ!やってやるわよ!」

 

 早速ブーストを掛けて俺に迫ってくる鳳を相手に、俺は。

 もう一度振り返って即座に刀を腰の鞘へとしまい――そして、逃走を開始した。

 ……当然その背後からは鳳が猛スピードで追随してくる。

 

「コラ、待ちなさいよっ!」

「嫌だよ。何でわざわざ攻撃を喰らいに行かなきゃならないんだ」

「アンタがけしかけてきたんじゃないの!」

「最初に仕掛けてきたのはそっちだろ?何を言っているのやら全く訳が分からないなぁ?」

 

 見えない砲撃を背後から発射するのと、ちょっとした挑発の言葉を発するのとじゃ大違いだろ。いつの間にお前の砲撃の事実は記憶からなくなったんだよ。俺の記憶通りなら、それが発端だったはずなんだが。

 とにかく俺は適当にアリーナの周囲を旋回しながら、距離を保って接近戦を仕掛けられないようにする。先ほど砲撃を行ってきたとは言っても、あの激情型の性格を見るにどう考えても近接タイプの戦闘しかしないだろう。

 ……鬼のように嬉々として双刀を振り回す、そんな状態で正確無比な遠距離射撃をするポーカーフェイスが出来るならとっくに代表になっているだろう。しかし、どこからどう見てもそんな芸の細かい奴とは思えないしな。

 

「あぁ、もう!いい加減こっちに来なさいよ!」

「だから、行くわけないだろ。応戦も面倒だし、このまま適当に距離をとり続けて、ブースターのエネルギー切れでも待つことにするかね」

「……ッ!」

 

 ブチッ、そんな血管の切れたような音がISを通して俺の耳に届いた。

 

「これ以上ふざけるってんなら、アタシももう容赦なんてしないわよ!」

 

 肩の浮遊部位が軽く、音と光を放ち始める。……どうやらさっさとこちらを痛めつけたいのか、先ほどの見えない砲撃を始めてくるらしい。

 

 が、別に見えないからと言って避けられないという理屈にはならない。

 

「うらぁ!」

 

 決して乙女とは言い難い、そんな叫び声を上げつつ彼女は砲撃を開始した。

 しかし俺はそれを、避ける。

 バンッ――外れた砲弾がアリーナ客席の防壁に衝突し、爆音を鳴らす。

 更に続いて、バンッ、ドンッ、バスンッ!遠慮無く両肩の装備から砲撃が迫ってくる。

 しかしそれを俺はひたすら避け、避け、回避を続けて行く。ついでに周囲を軽く巻き込みつつ、俺は鳳から逃げていく。

 

「なんで当たらないのよ!」

 

 なんで、と言われても……。

 ISでもそれ以外の砲撃武器においても、その操縦者は常に対象を視認して砲撃を行わなくてはならないのは常識だ。だから、ハイパーセンサで鳳の目を見ながら、常にその視線から身体を外しているというだけなのだが。

 それに、砲身の形勢と砲弾の発射の間には一、二秒の隙間がある。砲身作成中には向きは変えられないだろうし、ISの速度ならその間に視線から身体を外すくらい簡単だ。

 もちろん普段の鳳ならそれでも直ぐに俺の逃走方向を予測しての砲撃に移るだろう。

 しかしここまでのやり取りで散々鳳の感情は昂ぶっており、常に俺の姿を捉え、その機体をギタギタに潰してやりたい……そんな思いを抱くように仕向けられているのだ。他の誰でもない、俺の言葉によって。

 故に彼女はそこまで思い至らない。思い垂れるほど、余裕はない。無駄玉を放つほど、苛立ちは募っていく。――そしてそれはいつか、致命的な隙になる。

 

「ふぁぁ……なんか眠いな。今日はもう帰ったら寝るかな」

「――ふざけてんじゃ、無いわよ!」

 

 ブチブチブチッ――更に数本の血管が切れる音が聞こえる。

 そりゃまあ、こんな状態で対象に眠いですなんて言われたら更にキレるよな。しかしこれだけで理性を飛ばすとは。予想外に上手くいって楽しくなってきたな。が、そろそろ本当に面倒臭くなってきたところだ。もう終わらせるか。

 

「あー、面倒だなお前。悪いけど本当にこれ以上付き合ってる暇は無いし、もう帰るわ。じゃあな」

 

 そう投げやりな口調で言い放ち、俺はアリーナにセットしてある出入り口の内の片方へと向かう。

 それを聞いた鳳は当然の如くギャアギャアと騒いでくる。

 

「何ですって、アンタ本当にそれでも男なの!?」

「それは先月篠ノ之にも言われたような気がするが……ま、お前に対して返事を返す義理はないよな」

 

 篠ノ之と違って、コイツのは単にこの場に引き留めるためだけの言葉に過ぎないのだろう。そんなのに返事する必要は無い。

 

「じゃ、そういうわけで。じゃあな、おチビさん(・・・・・)

「……潰すッ!」

 

 余計な一言を残しつつ、俺はビットへと戻った。

 しかし何を考えているのか、鳳はその中まで俺を追ってきた。どうやら先ほどの言葉で完全に枷が外れたのか……何も考えずに野性的な反応で着いてきたのだろう。――ほら、致命的な隙が出来た。

 俺はニヤリと笑いながら、そこでようやく振り返った。

 

「じゃ、お望みの通り応戦してやるとしようか」

 

 そして俺はここに来てようやく、本来のアリーナの使用目的である、ラファール用換装の名を高らかに叫ぶ――そう。

 

「“クアッド・ファランクス”!」

 

 俺の周囲に、この細い通路を綺麗に塞ぐ形で光の粒子が集束する。それは流れるように色や質感を成していき、数秒で巨大な装甲がその場に召喚される。

 その異様な姿の装備に鳳が目を見開くが、もう遅い。

 今にも火を吹こうとする全銃口、それらを司る一つの引き金をその手に握る。鳳が慌てて反転するが、もう遅い。俺は即座に照準を合わせ、トリガーにかけた人差し指を引いた。

 

 

 ――そして、何もかもを食い散らかす暴虐の嵐が幕を開けた。

 恐るべき連射で放たれた弾丸が、容赦なく一匹の雌龍の全身を捉え、その身に纏う装甲を吹き飛ばしていく。

 

 

 数秒発射したところで弾は切れる。元々試し打ちと言うことで、そんなに多くの弾を補充していたわけでもなかったからな。ま、今はそれでも事足りたわけだが。……甲龍は多くの装甲を破壊されているが、まだある程度は残っていた。大体の装備も予備はあるだろうし、明日くらいは何とかなるだろ。

 

「ま、これで文句はないだろ?さっきまで好き勝手やってくれたんだ、たった数秒くらい反撃したって……な?」

 

 俺はそう小さく呟きながら、今度こそビットの奥へと戻ったのだった。

 

 

 ■

 

 

「で、それで代表対抗戦を翌日に控えた今日この日に、中国の機体を派手に破壊したと」

 

 もちろん俺が鳳と交戦した事実は直ぐに教師達の耳へと届き、俺は一時間もしないうちに再び織斑先生と顔を合わせていた。

 

「散々撃たれたので、少しくらいは反撃しても良いかと」

「ふん、お前は無傷、対して鳳は機体がほぼ大破だが?……幸いにも本来ほど弾薬を積んでいなかったせいか無事な部分もあり、予備の武装もあると言うことで明日はどうにかなるだろう。しかし、それはそれ、これはこれだ。お前は戦う度にISを破壊するのを止めろ」

「死んでないだけマシでしょう。これが実戦だったら鳳も死んでますよ」

「そうだな。それは分かる。しかし、私にどれだけ書類を回せば気が済むんだ?」

「あ……其処の所は本当に申し訳なく思っております」

 

 俺はその場で腰を九十度に折って、目一杯彼女の前に頭を下げた。

 

「分かっているのなら、それでいい……とでも言うと思ったか?」

 

 手元で出席簿をパシパシと叩きながら、彼女はこちらにその鋭い眼光を向けた。

 

「……何をすればいいんですか」

「理解が早いな。まあ要するに、少しは私の苦労を労え、と言うことだ。お前が山田先生も信用できないと言うから、ほとんど私一人で処理しているんだ。少しくらいお返しがあっても良いだろう。なぁ?それとも、教師がそんなのを求めるのは間違っている、なんて言うのか?」

「いえ、滅相もないです」

 

 学園のISの破壊、ISの開発、“クアッド・ファランクス”の使用申請、そして甲龍を破壊したことによる中国への対応……それをたった二月の間にやったんだ。

 どれだけ迷惑を掛けたかは言うまでもなく分かる。

 

「じゃ、前に鷹月に作ったケーキがありましたよね。それを先生に作ってきますよ。それでいいでしょうか?今から作るから渡すのは恐らく明日になりますけど」

「ほう、甘味か。腕はどれほどなんだ?」

「少なくとも年頃の女子には美味しいと言われるくらいです」

「ならば期待していて構わないのだな?……なら、楽しみに待っているとしよう」

 

 ……先生もやっぱ女性って事で、甘いものは好きなんだな――バシンッ!

 

「余計な事を考えるな。殺すぞ」

 

 一々余計な事を考えるのは俺の悪いクセだな。

 何はともあれ、明日はクラス対抗戦。一日がかりで行われるため、俺は構わず整備室に引き籠もるだろう。先生は先生で忙しいだろうし、何をしようかね。

 

 何にしろ、オルコットの時のようにいつの間にか巻き込まれるなんてのは勘弁だぞ。

 今度は鳳だが、ま、それも今日済ませたわけだし。明日は静かな一日になりそうだ。

 

 


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