瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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 感想やお気に入り登録有り難うございます。
 後、第一話が原作の焼き直しだのと評価で頂きましたので少し前に書き換えてみました。
 まだ読んでいない方は是非そちらもどうぞ。


第十三話 男女二人のお約束へ

 

 IS学園からモノレールに乗って駅を経由し、現在俺達は本土の方の駅前ショッピングモール『レゾナンス』に来ていた――鷹月の案内で。まあ、今まで外へと出る事の出来なかった俺に対して鷹月は何度も来ていたようだし、そんな彼女に先導して貰った方が何かと好都合だから仕方無いと言えば仕方無い。

 そもそも俺としてはネットで調べたここから二駅先の専門店へと行く予定だったのだが、鷹月曰くレゾナンスには“ここに無ければ市内にはない”ほどの店揃えがあるらしい。

 わざわざ遠出する必要も無いし、それならばそこで買おうと思った次第なのである。

 

「で、ここが『レゾナンス』って所か。……意外と広いな」

 

 今俺達が居るのは一階の大広間で、恐らく玄関にも似たような所だろう。

 近くにあった地図を見ると、何階もある上に一つ一つのフロアが恐ろしく広い。……予め大まかな店を知っている鷹月がいてくれて、良かったのかもしれないな。俺一人だったら好みの店一つ探すだけで結構掛かりそうだ。

 

「うん。言ったでしょ、多くの店があるって。どうせ結城くんはそんな場所にいたこともないだろうし、大体そう思うと思ったよ」

「それは貶してるのか褒めてるのかどっちなんだ?」

「褒めてると思うの?」

「時間を無駄にしなかったという点では褒められてもいいんじゃないか」

「友人を作らなかったという点では貶されるべきじゃないのかな」

 

 それはつまり貶されていると言うことか。

 

「お前最近ホント遠慮無くなってきてないか?」

 

 最近鷹月の妙に恐ろしい一面をよく見る気がする。何というか、遠慮が無くなってきているような。……良いこと、なのか?

 とにもかくにも、今もまたさりげなく毒を吐いた鷹月に、俺はピクピクと眉を動かすしかなかった。悪意がないのは分かっているから俺もキレようがない。

 

「まあ、どっちにしろ変わらないでしょ。それより、結城くんはお菓子の材料を揃えに来たんだよね?」

「前に作るって言ったからな。流石に俺は約束を違えるような馬鹿じゃないぜ?それで、一体どこにその店があるんだ?」

 

 早速そちらへ向かおうかと提案すると、べしっ、と突然頭を叩かれる。

 その相手は言わずもがな目の前の鷹月で、何故か不機嫌ですよー、と言わんばかりに頬を膨らませていた。……子リスに見えるだけで可愛いだけなんだが。

 

「そんな急かさなくても良いじゃない!全く、結城くんは私と一緒にいるって事を忘れてるんじゃないの?」

「いや、忘れてないけど」

「いいえ、忘れてるわよ。せっかく女子と二人っきりなんだから、少しくらい長くいたいって思わないの?」

 

 そんなことを言われても、なぁ……。

 俺は頬をかきながら、彼女にとりあえず理由を説明した。

 

「んな長くいてみろ、同級生に見られたら噂の種になるだろうが。そうしたら鷹月に迷惑が掛かるだろ?だからさっさと済ませようと思ってるんだが」

 

 後はさっさと帰って作業の続きをしたいんだが。それに本屋で最近の新刊を買いそろえて一気に読みたいし。と、そんな説明を語ると、彼女は少しばかり顔を背け「……私としてはそれでも構わないんだけど」と小さく呟いていた。

 が、俺としてはかなり困るんだよな。これ以上変な噂を立てれば、本当に物理的な攻撃を加えられかねない。カッターの刃入り手紙とかならまだともかく、直接的な攻撃は欲しくはないんだよ。

 IS学園に集まってるのは良くも悪くも各国の選りすぐり、格闘術に長けている生徒だって多い。そんな奴らに襲撃されれば俺だって本気を出さざるを得ない。

 ちなみに今の俺の本気とは襲撃者(生身)に対してショットガン(対IS用)を使用すること。碌でもない奴らに殺されるくらいなら、いっそのことこっちから……。

 

「それにしても、せめて少しくらいは今日一日を堪能してからにしようよ」

「……堪能、ねぇ」

「うん。ただお菓子の材料を買いに来ただけじゃ味気ないでしょ?せっかくここに来たんだから、楽しまないと損だって」

「買いたい物を揃えるなら本屋に雑貨屋、後少しの店で……結局時間は掛かるわけだ。多分午後までかかるかも知れないし、少しくらい遊んでも、構わないか」

「だったら……」

「分かったよ。でも俺はここのことはほとんど知らないし、鷹月に案内を任せっきりになるぞ?それでもいいか?」

「それこそ丁度良いじゃないの!レゾナンスを一通り案内してあげるわ」

 

 なにやら楽しそうな雰囲気になった彼女に、俺は苦笑いしながらお手柔らかに、と頼むしかなかった。まあ、鷹月なら任せても安心できるからな。変なところには行かないだろうし、ちゃんとした計画を立てて動いてくれるだろう。

 

「大丈夫、任せてよ!それじゃあ早速レッツ・ゴー!」

 

 そう言って手を引っ張る彼女の様子は、やけに楽しそうだった。

 何だかんだ言っても、俺も彼女に釣られて楽しそうな気分になっている。

 ……元々周囲を引っ張っていく才能に恵まれていたから委員長をやっていた彼女だ。前はその恩恵を受ける事なんて無かったが、今は多分俺も、彼女の持ち前の明るさに引っ張られているようになってきているのかもな。

 

 それが喜ばしいことか改めるべき事かは、分からないが。

 

 

 ■

 

 

「で、レゾナンスを回るって言ってもまずは何処へ行くんだ?」

「うーん、そうだね……。どうしようか?」

 

 ……普段友人と行くときとは違って相方が男子なのだ、さすがの鷹月も最初に何処へ行くか迷うらしい。

 ここで時間をロスするのも本末転倒だ。とりあえず、彼女が思いつかないのなら俺の方から提案してみるとしよう。

 

「特に行くところがないなら、まずは日用品とかを揃えたいんだが。そんな店に案内してくれるか?ほら、俺の手元には今、親から送ってきてもらったモノしかないし。購買で補充できる分じゃ足りないものとかあるからな」

「あ、そ、そうだね!だったら、こっちに着いて来て!」

 

 そう言って彼女は俺の手を引っ張っていく。

 数分先導されて案内されたのは、レゾナンスの三階の雑貨屋だった。幾つか雰囲気の違う店があったのだが、彼女は真っ先に俺を一つの店へと誘い込んだ。

 

「はい。ここが一番大きくて品物が豊富だし、センスも良いよ。それに加えて、多分結城くんの好みに合いそうな所だと思うわ。良さそうなモノが見つかるんじゃないかな?」

「へぇ、そうか。んじゃ早速見てみるとするかね」

 

 俺は早速近くに積んであったカゴを取り、店の中を回り始める。その後ろに鷹月も付いてくる。まず目に入ったのは、幾つか並んでおかれているティーカップだった。……たまに鷹月も来ることだし、いつまでも備え付けのコップってのは味気ないか。

 とりあえずいくつか気に入ったモノを手に取り、振り返ってそれらを鷹月へと見せる。

 

「なあ鷹月、お前はコレとコレどっちが良いと思う?」

 

 俺が手に持ったのは金と薄紅の細線の入った柄のものと、深い緑に灰白色の複雑な模様が描かれたものだ。……多分そうそう外れたセンスではないだろう。さすがにその隣の置かれた、金銀の光り輝くようなゴテゴテのモノを選ぶのにくらべればマシなハズだ。

 

「え、えっと……そうだね、こっちかな」

 

 いきなり問われたことに戸惑いながらも、彼女が意見を呈してくれる。

 指をさしたのは深緑と灰色のラインの描かれた方だった。

 

「そうか、だったら後は、っと」

 

 それをカゴへと入れ、その雰囲気に合うような色の――恐らくセットとして仕入られているモノなのであろう、近くにあったティースプーンやらをカゴへと次々に入れていく。

 どうせそんなに来るわけでもないし、ある程度で良いか。

 三、四個くらいのセットを纏めて入れる。

 と、次の所へ行く際に肩をトントンと叩かれる。そっちの後ろを振り向くと、不思議そうな顔を浮かべた鷹月の顔があった。

 

「ねぇ、なんで私に聞いたのかな。自分で選んだ方が良かったんじゃないの?」

「自慢じゃないが、俺は他人へ向けての配慮はあんまりないからな」

「あ、あはは……」

「そんな、女子と関わった覚えも鷹月を除いて無いことだし、流行に沿っているかどうか自信がなかったんだ。だから、鷹月に聞いた方が確かだろ?それに男子と女子とセンスは違う。女子のセンスなら大半は受け入れる」

「なんというか、結局自分のセンスに自信がないって事で良いのかな」

「そんな方向に纏めないでくれ、虚しくなる。……苦笑いするな」

 

 とにかく今言ったとおり自信がないのも確かなので、否定できない。

 その都度彼女に訊ねながらある程度の買い物を済ませていく。本棚とかペン立てとか、部屋に入った際に特に見られるようなものをカゴに入れる。

 その辺りが一通り終わったところで、俺は一旦彼女への確認を打ち切った。

 

「悪いけど少し店の外で待っててくれないか」

「ん、何で?」

「気にしないでくれ。少しだけ、色々とまだ買いたい物があるんだよ」

 

 彼女が渋々ながらも出て行ったのを見て、先ほど確認しておいたコーナーへと向かう。そして、いくつかの下着類をカゴの隙間に詰め込んだ。さすがにこれまで一緒に買うような勇気はない。

 そのまま一人で会計を済ませて袋を持って店の外へと出る。

 と、なんというか、ある意味こんな状況に置けるお約束の一言が聞こえてきた。

 

「ねぇー、俺らと一緒に遊ぼうぜー?」

 

 ――何時の時代の誘い文句だよ。そんな事を考えてしまうような、今時聞かないようなセリフ。

 そちらの方へと顔を向けると、まぁ本当にその通りに、一人の女性が男性に絡まれていた。三人揃って金髪に日焼け肌のアロハシャツ……まだ一応春なのに、お前らのような奴が居るとは思わなかったな。

 というか、よくよく見ると、囲まれているのは鷹月だった。

 

「いえ、私はある人と来ているので……」

 

 そう断ろうとしているが、三人組は諦めようとしない。

 

「あ?男か?そんな奴どこにもいねーじゃん?」

「つーかそこらでびびってるんじゃねぇの?そんな奴より、俺達と一緒に遊ぼうぜ?」

「ほら、色々楽しいことやれると思うぜ。俺達にとっても、アンタにとってもな」

 

 彼らは鷹月の手や肩を握って強引に連れて行こうとする。

 その周囲の人間は、成り行きを見守っているだけらしい。……どうやら女尊男卑も、こういうときには意味を為していないみたいだ。そんな主義の人間はいても、面白半分で見ているだけのようだ。……役立たずというか、自分本位の連中め。

 

 さて、あれだけ鷹月を強引に誘おうとした挙げ句、俺の事も散々に言ってくれていることだ。

 ――まずは半殺しか。

 

 俺は気配を出来るだけ消して、男達の背後に近寄り、彼女の手を掴んだ奴の肩をたたく。

 

「……あ、誰――ぷべらっ!?」

 

 振り返ったその顔の中心を、全力で殴り飛ばした。

 これでも武術の心得があるので、それなりのダメージはあるはずだ。多分鼻くらいは砕けているだろう。鼻か前歯かどっちかが砕けた感触があった。あ、砕けてなかったらもう一回殴って、今度こそ確実に砕くが。

 

「な、なっ!?」

「誰だテメェ!」

「お前らが散々噂してたそいつのツレだよ」

 

 残り二人も突然吹き飛ばされた一人を見て騒ぐが、何かをする前に、先手必勝とばかりに驚いている隙を狙って殴り飛ばす。

 それから鷹月の方を見て無事を確認する。

 

「念のために聞いておくが、大丈夫か鷹月?」

「あ、結城くん?」

「それ以外の誰に見えるのか是非教えて貰いたいところだな」

「あはは……。うん、大丈夫。触られたくらいで、乱暴とかはされてないよ」

「そう、か」

 

 とりあえず本当に外傷がないかどうか俺の方でも見てみる。ざっと全体を見た限り、本当に何かをされてはいないらしい。

 

「くそ、ふざけてんじゃねぇよ!」

 

 意外にもまだやる気があったのか、背後で立ち上がった男達が叫び始めた。

 俺が顔面を殴った男子は血の流れている鼻を抑えながら、こちらに人差し指を向けてくる。

 

「てめぇ、いきなり殴るとかどういう頭してやがんだコラ!」

「ふん、俺の顔が見えないのかお前?どういうって、こんなのだよ。馬鹿か?人の顔も識別できないとは……よくここまで生きてこられたな」

「ハァ!?」

 

 苛立ちを隠せないのか、男達は一言二言身内で話し合う。そして突然、ポケットからナイフを取りだした。……殴られたくらいで刃物出すとか、どんな神経をしてるのやら。

 見物人も居ることだし、もう逃げられないぞ。

 ――いや、だからこそ、か。逃げられないのならせめて一矢報いてやろうという意地。それが奴らに思い切りを持たせたのか。

 とにかく、相手も刃物を出したことだ。ここは俺が相手取った方が良い。

 

「……鷹月、ちょっとこれ持っててくれるか?アイツラどうやら殺る気たっぷりらしいし、少し相手してくるわ」

「ちょっと待って。言っても聞かないだろうし別に止めはしないけど、相手は刃物を持ってるのよ?」

「最初の言葉はともかくとして、安物のナイフ使うチンピラくらいの対処なら習ってるさ。それより俺の荷物、壊さないでくれよ?また買い直すのは面倒だからな……じゃ、相手してやるよ昭和の不良三人組。アンタラが時代遅れの異物って事を散々その身体にたたき込んでやる」

 

 俺は握った拳を構えながら、挑発気味にそう言い放った。

 相手としても今更逃げる気にはならないようで、改めてナイフを構えると、三人同時にこちらへ突っ込んできた。

 

「じゃ、まず一人っと」

 

 先頭に来た最初の一人のナイフを左手ではじき飛ばし(・・・・・・)、片足の甲を踏みつけて、遠慮無く顔面に数発拳をたたき込んだ。さすがに素手で弾かれるのは予想していなかったようで、呆けたその顔をひたすら殴る。普通に血しぶきとかが飛んでくるが、そこら辺は上手く当たらないように調整しながら顔面を平坦に均していく。

 

 当然その間は他の二人にとって隙になるので、奴らはこぞって俺の身体を斬り裂こうとする――しかし。

 

「おい、なんでだよ!?こいつの身体、刃が通らねぇ!」

「それに服もだ!なんで布が切れないんだよ!?指くらいなら落とせる切れ味だぜ!?」

 

 俺の表面近くになると、妙な壁に阻まれてナイフが通らないでいた。

 ……当然、何の対策もなく刃物を相手にするわけがないだろ。

 

 “絶対防御”。

 

 ――俺がこうも遠慮無くコイツラを相手できているのは、現在展開中のそれにある。世界最高の兵器であるISの攻撃すら防ぎきる膜を展開しているからこそ、ここまでの無茶が出来るのだ。もちろんエネルギーも結構な割合で削れていくが、さほど問題ではない。

 そもそも外に出たときの女尊男卑団体の襲撃に備えて予め、IS学園を出たときから張っておいたのだが……まさかこんなことに役立つとは思っていなかった。

 ちなみに既に必要な書類は提出済みで、織斑先生にも許可は取ってある。彼女曰く狙撃等の暗殺すらの可能性の内に入れておけ、とのことだ。

 

「……さて、こんなもんか」

 

 一人目の足をようやく離すと、そいつは顔面を血だらけにしてその場に崩れ落ちた。過剰防衛?この世の中で、女性を傷付けようとした奴に、そんな権利が認められるとでも?今の俺は単なる鷹月の連れで、彼女を守っただけの男だ。俺が罪に問われることはまず、ないだろう。正体がバレない限りはヒーロー扱いだ。

 ちなみに俺は大概の場合において顔面を殴る。そこを殴られてまで反撃してくる奴なんて早々居ないからだ。目の前に迫る恐怖に身体を硬直させないのは、むしろ人としては欠点だからな。

 

「さて、あと二人か……おっと、逃げるなよ」

 

 一人目を手放して、その様子に怯えたのか残り二人が慌てて逃走を試みようとする。が、逃がすとでも?あれだけ言われたんだ。俺だって、みすみす帰すつもりはないんだよ。

 俺はニヤリと笑みを浮かべながら、ハッキリと言ってやった。

 

「俺はお前の罪を数えろ、などとは言わん」

 

 続いて一言。

 

「なに、数える暇なく殴られてくれればそれでいいんだ」

 

 そいつらの手を逃がさないよう纏めて左手で掴み、今度は蹴りも含めてボコボコにした。

 ……これで先生の立てたバトルのフラグが回収されてくれればいいのだが。

 少なくともこの場から動けないほどダメージを与えたところで、俺は男達を放して振り返り、鷹月の手と荷物を取って駆けだした。

 

「――んじゃ逃げるぞ静寐」

 

 彼女を左手で返り血の付かないように抱き寄せ、今度は俺が先導して走り出す。

 周囲の人の騒ぎが大きくなる前にその場を離れなければ。彼女も俺も、警察が来れば面倒な騒ぎになることは間違いない。IS学園の生徒に、世界に二人だけの男子操縦者。

 加えて俺の場合、警察→上層部→女尊男卑団体と連絡が伝わり、危険度が跳ね上がることはまず間違いないからな。自意識過剰のようにも思えるが、それくらいが丁度良いだろう。気を付けすぎたところで問題は無い。

 とにかく先ほどまでの道の記憶を辿り、ある程度まで来たところで彼女を離す。

 

「もう大丈夫か。……野次馬も誰も来てないし、問題はなさそうだな」

 

 一応周囲を見渡し、誰もいないか確認する。

 ……うん、どこにも付いてきてはいないらしい。

 

「えっと、ありがとうね」

「どう致しまして。……と言いたい所だが、あれは俺の不注意が原因だったからな。悪かったな鷹月、迷惑かけて」

「うん。でも、あれは断れきれなかった私も悪かったし」

「そんなに断れるやつもいないだろうに。ま、多分ここまで逃げたらもう安心して良いぞ。こういうのは俺の方が慣れてるし、変な虫も付いてきていないと思うぜ。とりあえず次へと行こう、これ以上気にするな。お前がそれだけ綺麗に映っていたと言うことだろ。可愛いしな」

「え?……え?」

 

 とりあえずズボンからハンカチを引っ張り出して、手についていた血を拭き取る。他の所には付かないように注意を払ったから、問題はないはずだ。

 とりあえず時計を確認するともう十二時少し前だ。案外雑貨屋で過ごしていた時間は長かったらしく、そろそろ早めの昼になっていた。……さっきの喧嘩が原因?知った事か。アイツラが悪いのであって、俺が悪いわけではない。

 

「なぁ鷹月。ここで一旦案内は打ち切って、そろそろ飯でも食べないか?」

「……あ、う、うん?そ、そうだね。ちょっと早いけど、さっき運動したし、丁度良いかもね」

「それじゃ、何処へ行く?」

 

 丁度ここはフードストリートらしいので、近くを適当に散策する。と、なんとなくピンときたイタリア料理の店があった。

 こぢんまりとしているが、店の雰囲気は静かな雰囲気だ。先ほどまで騒々しい空気に包まれていた身としては、丁度良いだろう。

 

「あそこにしないか?落ち着いていそうだし、気を鎮めるには良いと思うんだが」

「う、うん……そうだね。じゃ、あそこで休みましょうか」

 

 というわけで、俺達はそこで少し早めの昼食を食べる事にしたのだった。

 

 




 

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