瞬刻の大空 ―Wing of the moment―   作:七海香波

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第十一話 砂糖代わりの恋騒動へ

「……ちょっと待って下さい、織斑先生」

 

 俺と鷹月の頭に、その”とある馬鹿”に当てはまる名前が一瞬頭を過ぎる。

 

「そんな言葉を堂々と言える人って、一人しかいませんよね?もしかして……」

 

 恐る恐るそう問いかけた鷹月に、嘆息したように織斑先生は頷いた。

 

「ああ、恐らくお前達の想像通りの相手だ。ISは未解明の部分が多い、少なくとも簡単に“全世界のインフィニット・ストラトスを止める”なんて無茶苦茶を言い切ることが出来る相手は――束しかいない」

「篠ノ之束博士……ISの生みの親、でしたよね。確かにそんな人からの圧力だったら部屋割りだって無茶できそうですけど……。それより、下の名前で呼ぶって事はもしかして知り合いなんですか?」

「あれで一応アイツは私の幼なじみだ」

 

 思いがけないカミングアウトに、鷹月は驚いた様に口に手を当てる。

 その反面、俺はあながち予想外でもなかったので……なるほど、と軽く頷いた。

 

「へー、道理で。やっぱそうだったんですね」

「む、それはどういう事だ、結城?まるで前から予想していたような口ぶりだな」

「あー、まあ、そうですね。だって一番最初のIS『白騎士』の正体は織斑先生なんでしょう?だったら、篠ノ之束博士と親密な関係にあるのも頷けるかなーと。そりゃ博士だって、秘密にしてくれる相手っていったら、幼なじみとかみたいな親密な相手の方が良いですよね」

 

 さりげなく言ったその言葉に、織斑先生の雰囲気が変わった。

 

「ほう。どうしてそう思う?」

 

 試すようなその口ぶりに、俺は一旦作業を中断して近くに置いてあったIS用のパソコンを取り、立ち上げる。その中から一つの動画を出し、画面に映し出した。

 立ち上がったその動画の中では、ある白いISが、無数の兵器を相手にたった一機で立ち回っている映像が映し出される。

 

「先生は分かってるかと思うんですけど、俺の考えてるISのアイデアの大半ってこの機体、『白騎士』の分析結果から取った物なんですよ」

 

 ――そう。

 俺の機体案の原案は一番最初のIS『白騎士』。その他のISのように『イメージ・インターフェイス』やら『高速切り替え(ラピッド・スイッチ)』やら『追加武装の豊富さ』等が売りの物とは一線を画し、世界で何よりも実績のずば抜けて高いISである。

 ぶっちゃけ特殊兵装なんか面倒そうだ、ならいっそシンプルに何も付いてないISにしよう。それで調べたら白騎士が出てきただけなのだが……それは言わなくても良いか。

 

「んで、調べるついでに資料に添付されていた白騎士の動画を見たんですよ」

 

 幸いにも動画は普通に残っていたので、早速実際の動きはどんな感じだったかを確認し、どんな設計になっているのかを確認した。どんな防具だったら動きの阻害になるとか、そんなところを見ていた……だが。

 そんなところよりも際に、真っ先に目を惹くところがあったんだ。

 

「以前見た織斑や篠ノ之の動きと何処か似ているような気がしたんですよ。基本の形って奴はほとんどアイツラと同じみたいでしたし、それをさらに統一・洗練された剣、って言えばいいんでしょうかね?それに、よく考えれば白騎士の中身は開発者の知り合いでしょう?――後は単純な推理ですかね」

 

 俺は織斑先生達の方を向いて、一つずつ要点を上げていく。

 

「一、白騎士に搭乗してる人物は恐らく篠ノ之博士に関係のある人間。

 

 二、加えて、バイザーの隙間から覗く顔の様子から、大体今の俺達と同年代の女子。

 

 三、しかし同じく隙間から出てきている髪色は教科書の博士の写真と違う。

 

 四、妹である篠ノ之は親密だと言える人間が織斑のみ。

 

 五、そして同じように『妹をその恋の相手と一緒の部屋に仕向けろ』などと世界に喧嘩を売るような捻くれた性格の博士もまず友人は少ないと言える。そして織斑先生は先ほど仰ったとおり博士の親友。

 

 ……以上の考察より押して計る、ってわけです。それに入学時にISのランクを計る奴が有りましたよね。あの時の織斑先生の動きも、どことなく白騎士と重なったんで」

「……なるほどな。しかし、それが正解かどうかは私からはなんとも言えん。まあ、良い観察眼を持っているなとだけは言っておこう」

 

 否定はしない、のか。ということはやはり、『白騎士』の正体は織斑先生なんだろう。

 最も俺もそんなにこの話題について話す気も無かったので、それはそれとして、そのまま元の片付け作業へと戻る。俺が求めるのはあくまで『白騎士』の装備なのであって、別に中が誰であろうと関係無いし。

 そもそもいくらISだと言っても普通は戦闘機とか真っ二つに出来ないから。……『斬鉄』とか身につけてる人外が乗り手だろうと関係無いし。

 そんなことを思いながら手を動かし、やがて全ての荷物を詰め終わると、先生から声を掛けられる。

 

「よし、それでは着いてこい……結城、鷹月はそのまま案内しても構わないのだな?今度は一人部屋なのだから、他人に部屋を知られると面倒な事になるかもしれないが」

「別に大丈夫です。どうせいつかは来ることになると思いますから構いません。それに鷹月は他の女子みたいに俺の部屋を知ったところで、襲撃してきたりはしませんし」

 

 廊下を歩きながらそんな事を話すと、小さく肩をすぼめると先生は苦笑した……いや、割とマジであり得るんですけどね?

 そろそろ実力行使だって厭わない生徒も出てきたっておかしくはない時期だろうし。そりゃまあ、散々IS学園の空気をかき回した挙げ句、悪びれもしないからなぁ。典型的な女尊男卑の女子からしてみれば苛立ちを募らせる材料なんてこの一ヶ月半で腐るほどあるだろう。

 試合をサボったり、IS一機破壊したり、食堂で現状の否定演説やったり。ほぼ全校生徒に喧嘩売ってるようなものだ。

 今のところは精々机に画鋲仕込まれたくらいの、小学生の悪戯レベルだが……。そのうち徐々に正体を現してくるに違いない。最終的には椅子に爆弾を仕掛けられたりするかも。だって爆弾解体の授業とか有るんだぜ?逆もまたしかり、ってな。IS作るのに比べたら、爆弾なんて楽なモンだろう。

 

 ちなみに全部その場の勢いでやった事であるが、コメントを求められれば『反省も後悔もしていないんで』と答える気しかない。……下手に出たら出たで、どうせ『ほら、いっそのこと土下座でもしたら?』とか更に調子に乗るからな。

 ちなみに中学時代には『ふん、最初からそうやって居ればいいのよゴミ』と言われた。

 

 

 もちろんその場で顔面を殴り飛ばした。

 

 

「っていうか、結構歩いてますけどそろそろ教えてくれたって良いでしょう?……一体、今度の俺の部屋は何処にあるんですか?全然予想できないんですけど」

「それは着いてからのお楽しみだ……ほら、早く着いてこい」

 

 織斑先生の後に付いていき、スーツケースをごろごろと引きながら、俺達は一年生の寮の通路を移動していく。一体何処になるのだろう――そう考えながら静かに彼女の後を着いて歩くと、やがて一〇分ほど歩いたところでなんと、教室棟の方へと戻ってしまった。

 

「……これからは空き教室で寝泊まりなんですかね、俺?」

「そんなわけがないだろう、馬鹿がお前は。――最も、それがお望みならそうしてやらん事もないがな」

「いえ結構です。だから早く俺の、『ちゃんとした』新しい部屋に案内して下さい」

 

 そのまま幾つか階段を上り下りし、俺達は何故か二年生の教室前に出る。予想通り、敵意百パーの目が俺に突き刺さる。そんな二年生の視線をスルーしながら歩いて行く。

 もはや織斑先生も言っても無駄だと思っているのか、何も注意しない。ま、手を出して来なければ殺意なんて証明できないからな。

 

「ちなみに道は一度で覚えておけよ?二度も案内するほど暇でも無いからな」

 

 そんな言葉を聞きながらまた歩いて行く。

 やがて辿り着いたのは……何故か、二年生の寮だった。

 

「……なんでデスか」

 

 訳が分からない余り発音がおかしくなったのは気のせいだと思いたい。

 

「丁度ここが空いたからだ」

 

 先生はそう言うと懐からカードキーを取り出し、寮の一通路の最奥にある部屋の扉を開けた。

 その後に続いて中に入ると、基本的には元いた部屋と余り作りの変わらない部屋が目に入った。むしろこれからここに一人で住むと思うと、気持ちの上では前より若干広く感じられる。

 

「ここはお前が先月戦った上級生の部屋でな。アイツはあれ以来精神不安定になったから、自主退学という形を取って療養中となっている。偶然にもその相方も数ヶ月前に退学しており、完全に空室になったため、お前に当てられることになったんだ。一応上級生を倒したんだ、褒美を与えても問題有るまいと提案したら案外すんなりと通ってな」

「(そりゃ、ブリュンヒルデに言われたら否定できる人間なんていないでしょうに……)」

 

 多分数人に反発されそうになったが、無理矢理眼力で押さえつけただろう。その時のことを思い出したのかニヤリと笑う先生に、顔を引きつらせる他の教職員(主に女尊男卑)の様子がありありと思い浮かんだ。

 

「あはは……。って、それよりも。あの噂は本当だったのね」

 

 ……なんだよ、噂って。そう思って彼女の方を向く。

 

「ああ、結城くんは知らないわよね。他の人と関わりないし」

「さりげなく俺を貶すんじゃない。で、なんなんだ?」

「今の、結城くんが上級生を倒したって話よ。随分前から噂になってたんだけど、結城くんはそんなにISに乗らないし、上級生と出会うわけ無いからてっきり眉唾だと思ってたんだ。先輩方も誰も肯定してなかったからね」

「そりゃ下級生に負けたなんて軽々しく口に出来ないだろうな。ここの生徒は変にプライドが高いし」

「……それに、結城くんも言ってくれなかったし」

 

 なんで話さなかったのよ、と鷹月の目が語る。

 俺としたらちょっとした小競り合い程度にしか思って無いし、些細なこととしか捉えてなかったからな。それに上級生に勝ったなんてわざわざ言いふらすものでもないだろう。

 

「言わなかったことは悪かったよ……ま、過ぎたことはどうでも良いだろ。俺だって今言われるまでどうでも良いこととしか思ってなかったんだ。でも、結果として部屋が手に入ったのは良かったかな」

 

 とりあえずケースから荷物を出し、部屋の随所に配置していく。組み立て式の本棚に本を立てかけ、教科書やらを並べ、衣類をタンスにしまい、PCを机の上に置く。

 その間俺の様子を出て行かずに見守っていた織斑先生に、鷹月が尋ねる。

 

「ところで、それはそれで分かったんですけど、なんで最初の部屋が私と結城くんの組み合わせだったんですか?」

「最初は先ほどの結城の案のように教室に寝泊まりさせる、教職員寮に泊まらせる等々あったのだが――安全面に問題が有るだろう?教室は言わずもがな、教職員は下手すれば生徒よりも危険だ。なにしろその道の専門家だからな。アリバイあわせなんて簡単にやるだろう。そんな所に一人で放っておく訳にも行かないだろうと思ったので、他の女子生徒との相部屋にすることになったんだ。――織斑は既にあの馬鹿()のお陰で篠ノ之と同室になることが決まっていたからな」

 

 ……本当に自分勝手なんですね、と相づちを打つと、「もう慣れた物だからな……」との悲しい返事がかえってくる。どうやら幼なじみと言うことで、昔から散々苦労させられているらしい。

 加えて今の立場上の仕事もあることを考えれば……彼女の気苦労が絶える事は無いのだろう。

 

「後、本当に寮には他に部屋の空きがなかったから、というのが一つ。もう一つだが、IS学園に入った以上寮生活を送らせるのは私の役目であり、偶然にも鷹月がお前と同じ出身だったからだな。知り合いなら摩擦も少ないだろうと思ったんだよ。もしなにか文句が出たならば、仕方無く私の部屋にでも入れようと思っていたさ」

「……無茶苦茶ですね。だからって、年頃の男女を同じ部屋にする必要は無いでしょうに」

「そもそも空き部屋があったとして、お前一人をそこに押し込むとしたら、まず襲撃されるだろう?鷹月には悪いが、女尊男卑の馬鹿共も、女子が居れば簡単には手を出すことはないと踏んでいたんだ」

 

 ……つまり、鷹月の存在は結局、最終防衛線だった、ってことか。

 いくら何でも同じ女子が居るのなら、例えば『部屋ごと爆破する』、みたいな手は取れない――そう考えていたのか。

 知らず知らずのうちに鷹月を危険に巻き込んでいた。

 その事実が俺に突き刺さる。

 

「もちろん鷹月にも危険が及ぶ可能性が有る。が、これが学生生活も考えた上でのお前に危害が及ばないであろう上策だったんだ。お前達がなんと思っていようと、世間の評価では鷹月よりおまえの方が価値が高い。人の命に格差は在る。これ以上文句はあるか?」

「――いいえ」

「まあ、この部屋はセキュリティなんかも特別にしたからな。一人になったとは言っても、早々襲撃されることはあるまい。それじゃあ私は他の仕事が有るから帰るぞ」

「ええと、結城くん。私が手伝う事ってなにかあるかな?」

「いや、無いよ」

 

 迷惑をかけていたことに気付かなかった自身への苛立ち――それを隠せない声音でそう呟くと、鷹月は「そう……じゃあ、帰るね。また明日」と言うだけで去っていった。

 ここで「なによその口調?」と言わずに素直に帰ってくれる辺りが普段はありがたいのだが、今は逆に、より深く俺に事実を実感させた。

 

 何とも言えないやるせなさを抱えながら、俺はパソコンを立ち上げたのだった。

 

 

 ■

 

 

 午後も十一時となり、ほとんどの生徒が自室に帰っている頃。

 あれからぶっ続けで八つ当たりのように集中して企画書を仕上げていたのだが、流石に喉が渇いたので、何か飲み物を買おうと食堂にある自販機へと歩いていた。が、運悪く二年生寮の食堂には未だ多くの先輩がいたので、仕方無く一年生寮の方へと脚を向けた。

 なんでここにいるのかと問い詰められればまた面倒そうなことになるのは間違いない。

 ――が、それは何にしろ変わらなかったようで。

 微妙な涼しさの教室棟を歩きながら覚えたての道をなぞって来たところで、突然曲がり角の先から一つの小さな陰が飛び出してきた。

 咄嗟に突き飛ばすとその陰は意外と簡単に尻餅をついた。

 その姿をよく見てみると……鳳鈴音か。

 

「鳳、こんな所で何してる」

「あ、結城……」

 

 窓から差し込む月明かりが、顔を上げた彼女の目に泣き腫らした赤い跡を映し出す。

 ……大体の予想はつくな。大方織斑がらみの案件だろう。

 

「何があったんだ?」

「いや、ちょっとね。アンタには関係な……ううん。少しだけ、話に付き合ってくれない?」

「聞くだけなら別に構わないが。とりあえず、食堂行くか」

 

 こくんと小さく頷いた彼女の手をとって、食堂へと向かう。普段はこんな事は絶対しないんだが、なんとなく彼女の雰囲気からはそうしなければいけないような感じがした。

 空っぽの食堂で、俺と鳳は対面に向かって座る。加えて入り口でついでに買ったコーヒーを一つ、彼女の前にも置いてやった。

 

「で、どうしたんだ?」

「あのね結城……私、さっき一夏と一緒の部屋の篠ノ之って子に、部屋を替わってって言ったの」

「まずそこの説明が欲しいんだが――まあいい。何があったかは分からんが、その行動力だけは凄いといっておこう」

「……ありがと。それで、その時ついでに昔してた約束を覚えてる?って聞いたんだけど……それが、アイツ、百八十度間違って覚えてたのよ」

「ほう、それで?なんて約束をしたんだ?」

「――それが……」

「それが?」

 

 鳳は一旦言葉を澱ませたが、思い切ったように再度口を開く。

 

「『料理の腕が上がったら、毎日アタシの酢豚を食べてくれる?』って」

 

 ……それはまた、随分と個性的な約束だな。

 呆れを顔に出さないようにしながら、蓋を開けたホットコーヒーをすする。うん、苦い。

 

「それをアイツはっ……『ああ、毎日酢豚を奢ってくれるって奴か?』ですって!?いい加減にしなさいよホントもう!アタシがこの数年間どれだけ想ってたか分かってないのよあの馬鹿は!」

「確かにそれはまた何か違う気もするな……」

「でしょ!?」

 

 俺が頷くと、いきなりうつむいていた顔を上げて、彼女は手元のコーヒーを思いっきり飲んだ。そして咽せた。「ちょ、なにこれ!?ホットコーヒー!?」どうやら碌にラベルも見ずに飲んだらしい。

 全く、どれだけ織斑のことを考えていたのやら。それだけで砂糖代わりには十分だ。

 

「で、結局それにはどういう意味があるんだ?」

「は!?アンタも分からないの!?」

「いや分かるわけないだろ。毎日酢豚を食べてくれる?――なんて言葉からどんな意味を読みとれっていうんだ。無茶ぶりだっての。それで?お前はそれで何を織斑に伝えたかったんだ?」

 

 そこで鳳はうつむき、僅かに見える頬を真っ赤に染めてなにやらごにょごにょと呟いた。

 

「……って」

「ん?」

「だ・か・ら!『料理の腕が上がったら結婚して』よ!」

 

 それって――もしかして、『毎日俺の味噌汁作ってくれ』のアレンジか?

 そう問いかけると、鳳は小さくも確かにこくんと頷いた。

 ……とりあえず、一言だけ言いたい。

 

「んなモン分かるか馬鹿。織斑の受け取り方も散々だが、いくらなんでも捻りすぎだろうが」

 

 そういうと鳳は顔を上げ、「なんでよ!」と噛みついてきた。

 

「普通は立場が逆なんだから、男子からしたら『毎日私の味噌汁を飲んでくれる?』なんて告白、即座に理解出来るわけ無いだろ。しかもアレンジまで加えられていたら尚更だぜ。試しに聞くが鳳、お前『俺、お前となら一緒に並んで“散歩できる”と思う』って言われて、それが告白だって理解出来るのか?」

「……あ」

 

 どうやら自分のやったミスを理解したらしい。

 

「あのな。肝心の中心部分を外したら誰だって真意なんて理解出来ないんだよ。……そもそも一体どこから酢豚なんて出てきたのかが分からないぜ」

「それは、一夏が前に美味しいって言ってくれたから……」

「それでお前は結婚したとして、毎日の朝食で織斑に酢豚を食わせるつもりか。いくら中国でもそんなことはやらんだろうに」

「うぐっ……」

「普通に告白できないのは分からないでもない。が、捻り過ぎると肝心の意味を失って何が何だか分からなくなる。覚えとけ」

「うぅ……」

 

 すると鳳はまた腕に顔を沈めて泣き出してしまった。……失敗した乙女には直接過ぎたか?

 正直ここからはどうしたらいいか分からなかったので、とりあえず頭をポリポリと掻きながら、俺の思ったことを呟いた。

 

「……ま、そんなこと一々気にしてたらキリがないだろ。別にこれから三年間同じ学校なんだ、気を惹くチャンスなんて幾らでもある。失敗は忘れて、次に頑張ればいいんじゃないか?」

「――っ!」

 

 ――ガバッ!

 起き上がった鳳が突然机越しに俺の胸ぐらを掴み、鳴き声半分で叫んだ。

 

「アンタもやっぱり馬鹿なんじゃないの!?女の子がせっかく決心して告白したのを忘れろなんて――忘れられる訳が無いじゃない!モテる男子からしたら数ある告白の一つかも知れないけど、私はその為に人生を変えるほど努力してここまで来たのよ!?それをただの“失敗”なんて、切り捨てられるわけないわよ!!この馬鹿!」

 

 言いたいことを一気にまくし立て、鳳はそれっきり走り去っていってしまった。

 彼女の小さな嗚咽の音が静かな廊下に妙にハッキリと響いていた。

 

「……面倒だな」

 

 さすがにそんなことを言われても、俺としてはどうしようも無いのだが。

 

 

 

 ――そして翌日。

 運命の女神は何を考えているのやら、発表されたクラス代表戦の名簿には、ある一組の男女の名前が対戦相手として書かれていた。

 第一回戦――鳳鈴音VS織斑一夏。

 

 どうせ俺は興味無いから、見ないけど。

 

 

 





 ちなみに原型は『俺、お前となら一緒に歩いていけると思う』です。

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