キセキ   作:白井イヴ

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・「キセキ」繋がりのシリーズのおまけで、ヒカルと倉田。
・設定は繋がってますが、単体でも読めるようにしてます。
・原作終了から約一年半後設定(「奇蹟」より前)


キミにした責任(&おまけ)

「ねえ、倉田さんお願いがあるんだけど」

 

――ヒカルがそう倉田に声を掛けてきたのは、本因坊挑戦者決定リーグでの対局前だった。

 

「前に倉田さん言ってたじゃん、公式対局で勝てたらサインくれるって話。アレ、いらないからさ、代わりにひとつ約束してくれない?」

 

碁会所などで何度かヒカルと打ったことはあった倉田だが、公式戦で対局するのは、今回が初めてだった。普段とは異なる、公式戦という場でのはじめてのヒカルとの対局。

倉田の胸に満ちていた、そのワクワクとした感情は、ヒカルの『サインいらない』という一言で打ち消されてしまう。

出鼻をくじかれた倉田は内心ムッとするが、同時に、ヒカルがそこまでして自分に頼みたいという内容も気になってしまう。

 

「え~、オレのサインがいらないなんて勿体ない。……で、そこまでして、オレに頼みたい事ってなに?」

 

「オレが倉田さんに勝てたらさ、次の北斗杯の大将オレにしてよ」

 

そうあっさりとヒカルは言い放った。

“北斗杯”そして“大将”というフレーズを聞いて、倉田はふと一つのことに思い当たる。

 

「……高永夏か?でもあの“秀策絡みの一件”は、通訳からきた誤解だったって、前に進藤言ってなかったっけ?」

 

「それは関係なくて、オレが個人的にリベンジしたいの。アイツ、次の北斗杯が最後だからさ」

 

確かに十八歳以下の年齢制限がある北斗杯で、高永夏が出場できるのは、来年の第三回が最後だ。

――ただ、何も対局したいのであれば、別に北斗杯にこだわる必要はない。両者ともプロ棋士である以上、これから先、国際棋戦などで、幾らでも戦う機会はあるのだから。

 

「どうしても、北斗杯じゃなきゃダメなのか?理由は?第一回で負けたことを未だに根に持っているのか?」

 

そう問いかけた倉田に対し、ヒカルはその瞳に静かに闘志を燃やしながら言う。

 

「北斗杯の開催日が特別だからさ。どうしてもその日に高永夏に勝って、報告したいヤツがいるんだよ」

 

そういえば、第二回北斗杯の時も、散々自分を大将にしろとごねていたっけ、と倉田は思い返す。

第一回の北斗杯の時のヒカルの後半の怒涛の追い上げも、確かに脳裏にはあったが、結局倉田は塔矢アキラを大将に据えた。

理由は当時のアキラの方が、実力も勢いも勝っていると判断したからである。

北斗杯では高永夏に惜しくも敗れたが、彼はその数か月後、秋の名人戦に勝ち、父親と同じ名人位を最年少で獲得した。

 

そして、対するヒカルも、副将であることに文句を言いつつも、一勝もできなかった前年と違い、北斗杯で二勝をあげるという結果を残した。そして、七大タイトルではないが、夏の竜星戦でも優勝している。

高永夏に挑発された時といい、悔しさをバネに成長するタイプなのかもしれない、と倉田は思った。

 

「オレ、自分で言うのもなんだけど、最近凄く調子がいいんだ。この本因坊リーグも今年順調に勝ち上がってるし。オレを大将にしたら、北斗杯も優勝しちゃうかもしれないよ?」

 

碁盤を前に胡坐をかきながら、ヒカルは倉田に言う。

 

「ね、だからさ、倉田さん。オレが倉田さんに勝ったら、オレを北斗杯の大将にしてよ」

 

そう調子よくのたまったヒカルを、倉田は手を振りながら軽くあしらう。

 

「ダメダメ、オレに勝つくらいじゃ。ついこの間、名人取った塔矢アキラの方が、実力も注目も上なのは世間的にも明らかじゃないか。……それこそ、進藤がこのリーグを全勝して、タイトル挑戦者になれるくらいじゃないと――」

 

「分かった。じゃ、それでいいよ」

 

「……え?」

 

ヒカルの思わぬ言葉に、倉田は目を瞬く。

 

「リーグ無敗で本因坊挑戦者になれたら、大将にしてくれる?」

 

実にあっけらかんとして言うヒカルに、倉田は呆気に取られた。

――いくら調子がよくて、自信があるからと言っても、これは自らを買い被り過ぎではないだろうか。

自分が負けるなどとは露とも考えていないらしい様子のヒカルに、半ば呆れながら倉田は返事をする。

 

「よーし、そこまで言うなら、進藤が約束果たせたら考えてやる。……でも、そういうことはまず――オレに勝ってから言えよ!」

 

ヒカルにビシッと人差し指を突き付けて、倉田は言い放った。

 

 

 

――それから数か月後。

 

「こ、このオーダーは!?倉田さん、何かの間違いでは!?」

 

北斗杯の掲示板に貼り出された試合のオーダー表を見て、慌てている様子の関係者に、倉田はのんびりと言う。

 

「三回も確認した上で出したから、間違えっこないよ」

 

「しかし……大将欄に『進藤ヒカル』とあるのですが」

 

「そう、今年の日本の大将は進藤だよ」

 

「確かに一昨年の追い上げや去年の実績は評価できるものですが……昨年に名人を獲得した塔矢アキラの方が、実力も注目度も上では?」

 

「うん、オレもそう思うんだけどね~」

 

「で、では何故!?」

 

「進藤と約束したんだ。本因坊の挑戦権を獲得したら大将にしてやるって」

 

「そ、そんな約束一つで……」

 

明らかに落胆している様子の関係者を横目に見ながら、倉田は半ば独り言のように、ぼそりと呟く。

 

「まぁ単に約束したから“だけ”ってワケでもないんだけど……」

 

倉田はヒカルと約束した時に、『考える』とは言ったが『必ずしてやる』とは言っていない。

――いくら調子がいいとは言っても、まさか本当に、ヒカルが約束を果たすとは思ってもみなかったのだ。

 

「……答えを出す最後の決め手は勝負勘だ。今の進藤ならイケる」

 

倉田は確信めいた口調で、そう断言する。

ヒカルはリーグを一位で通過したが、約束通りの全勝ではなかった。

しかし、倉田はヒカルを大将にすることに決めた――それは半ば、自らの勘による部分が多きい。

 

対局した時のヒカルから感じたのは、一昨年の北斗杯の熱意すら上回る、『本因坊』というタイトルへの強いこだわり。

彼の秀策好きは“署名鑑定士”と命名した一件もあり、倉田もよく知っているが、それを抜きにして考えても、あの意気込みは半端なものではない。

――その心意気に、倉田は賭けてみようと思ったのだ。

 

その時、会場の扉が開き、スーツ姿のヒカルが入ってくるのが見えた。

彼の手には、いつの間にかトレードマークとなった扇子の姿もある。

倉田の存在に気がついたらしいヒカルは、ニカッと笑って駆け寄ってきた。

 

「倉田さん、大将にしてくれて、ありがとう!」

 

倉田はヒカルへの返事代わりに、一つ激励を飛ばす。

 

「勝てよ、進藤!勝って今年こそ優勝をもぎとってこい!オレにだって、キミを大将にした責任があるんだから」

 

「分かってるよ、任せといて」

 

そう言って、ヒカルは扇子を持った右手を軽く振って応えると、試合会場の方へと消えていった。

 

 

 

ヒカルを大将に据えた第三回北斗杯にて、ヒカルは宣言通り高永夏を下し、日本を初優勝へと導く。

 

 

 

――そして、勢いに乗ったヒカルは、その夏の本因坊戦にて最年少で本因坊位を奪取した。

 

 

 

○●○●○

「キセキ」の設定を掘り下げる為に、北斗杯設定を練っていたら生まれた倉田さん話。まさにおまけのおまけ。

 

一応「“キ”ミにした“責”任」で「キセキ」シリーズにしてあります(笑)

 

 

 

 




○●おまけ●○
~第1回から第4回までの北斗杯勝敗設定
&「キセキ」シリーズ時系列解説~

※オリジナル設定&「キセキ」シリーズのネタバレ内容含みます。



【キャラ年齢メモ】(第一回北斗杯時点)
(13?)[中]楽平
(14)[日]越智、[中]趙石、[韓]洪秀英
(15)[日]ヒカル、アキラ、社
(16)[日]和谷、[中]王世振、[韓]高永夏
(17)[韓]林日煥
(18)[中]陸力
(10代?)[韓]金相烈(キムサンヨル)張成豪(チャンソンホ)



【第一回】(原作より抜粋)
1回戦:日本VS中国(1-2)
アキラ○-×陸力
ヒカル×-○王世振
社  ×-○趙石

2回戦:中国VS韓国(0-3)
陸力 ×-○高永夏
王世振×-○林日煥
趙石 ×-○洪秀英

3回戦:日本VS韓国(1-2)
ヒカル×-○高永夏
アキラ○-×林日煥
社  ×-○洪秀英

結果:
韓国2勝0敗(白星5)
中国1勝1敗(白星2)
日本0勝2敗(白星2)

順位:韓国>中国>日本



※以下、オリジナル設定※

・ヒカル帰宅後、自宅の桂の碁盤に佐為との十五手を並べる。
・翌日、秀英と碁会所で対局(この時に永夏の通訳誤解は解ける)
・ヒカル対局後、ふらりと因島へ。一泊した翌日、東京に戻り本妙寺へ。最後に平八の蔵へ寄り、碁盤へ報告。これが毎年恒例行事となる【君を想う寂寥】
(去年の手合いサボりの例があるので、数年間は周りに心配される)

【第二回】
~北斗杯のオリジナル追加規定~
・1回戦はくじ引き、2回戦は1回戦の敗者と1回戦で余ったチームで(3回戦の結果が出るまで優勝が決まらない仕組み)
・勝敗が1勝1敗で並んだ場合は、白星の数を比較。
・白星も同数の場合は、各チームごとの目数を足して多い順に。
・(流石にないと思うが)目数も同じだったら引き分け。

※A、B、Cは年齢制限により出場できなくなった原作キャラ代わりのモブ。
※大将・副将・三将の決め方は、ほぼ年功序列(永夏のような一部例外あり。毎回オーダーを変えた場合の計算をするのが面倒だった部分もある(笑)

1回戦:日本VS韓国(1-2)
アキラ×-○高永夏
ヒカル○-×林日煥
越智 ×-○洪秀英

2回戦:日本VS中国(2-1)
アキラ○-×王世振
ヒカル○-×趙石
越智 ×-○楽平

3回戦:中国VS韓国(2-1)
王世振×-○高永夏
趙石 ○-×林日煥
楽平 ○-×洪秀英

結果:全チーム1勝1敗(白星3)で並ぶ。
追加ルールの目数差により順位決定。

順位:韓国>中国>日本

・韓国2連覇(規定により順位は前回と同じだが、実質引き分けの意義は大きい)
・ヒカル好調期はじまり。
・越智が社にリベンジを果たし、初代表入り(社スランプ期?)
・楽平が初代表入り。

・ヒカルが竜星戦で優勝【君も刻む夕照】
・アキラが最年少で名人位を獲得。

・本因坊決勝リーグでヒカルが挑戦者に決まる【キミにした責任】



【第三回】
1回戦:中国VS韓国(1-2)
王世振×-○高永夏
趙石 ○-×【A】
楽平 ×-○洪秀英

2回戦:日本VS中国(3-0)
ヒカル○-×王世振
アキラ○-×趙石
和谷 ○-×楽平

3回戦:日本VS韓国(2-1)
ヒカル○-×高永夏
アキラ○-×【A】
和谷 ×-○洪秀英

結果:
日本2勝0敗(白星5)
韓国1勝1敗(白星3)
中国0勝2敗(白星1)

順位:日本>韓国>中国

・日本初優勝。
・大将として出場したヒカルが永夏に勝利。
・和谷ラストにして初代表(日本VS中国の三将戦はぶっちゃけネタ(笑)

・ヒカルが最年少で本因坊位を獲得【君へ誓う昔日】
・ヒカルが祝賀パーティで緒方と話す【君といた奇蹟】

・ヒカルが行洋を幽玄の間へ呼び出す【君のいた軌跡】
・アキラが名人位初防衛に成功。



【第四回】
1回戦:日本VS中国(3-0)
アキラ○-×【B】
ヒカル○-×趙石
社  ○-×楽平

2回戦:中国VS韓国(2-1)
【B】×-○【A】
趙石 ○-×洪秀英
楽平 ○-×【C】

3回戦:日本VS韓国(2-1)
アキラ○-×【A】
ヒカル○-×洪秀英
社  ×-○【C】

結果:
日本2勝0敗(白星5)
中国1勝1敗(白星2)
韓国0勝2敗(白星2)

順位:日本>中国>韓国

・日本2連覇達成。
・社ラストにして2度目の代表入り。そして北斗杯で初白星。
・さりげなく、ヒカルと秀英の北斗杯での対局は初めて。

・アキラがヒカルに連れられ因島へ【君がいた輝石】



○●○●○
物は試しと遊び半分で設定を練ってみた結果……あまりにもピタっとピースがはまってしまい、自分でも鳥肌が立ってます(驚)
原作のほった先生がここまで見据えて設定していたとしたら、凄くないですか!?
特に、北斗杯の開催日が“5月5日”なことに気がついた時の驚愕はなんと言い表せばいいのやら。

……最年少本因坊とか、かなり夢見てる部分があるので、きっと実現しないでしょうけれど。
でもこんな未来があってもいいですよね?
とにかく、個人的「佐為の存在告白話」が書けて、満足です。


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