キセキ   作:白井イヴ

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・「キセキ」繋がりのシリーズ、第三弾はヒカルとアキラ。
・設定は繋がってますが、単体でも読めるようにしてます。
・原作終了から三年後設定。


君がいた輝石(前編)

「塔矢、明日ってヒマ?」

 

アキラがヒカルにそう問われたのは、北斗杯が終わった後。

日本が去年に引き続いて勝利し、二連覇を果たした表彰式も終わり、和やかな祝賀会も終わりに近づいた頃のことだった。

 

今年で四回目の開催となった北斗杯。

十八歳以下という年齢制限が課せられている為、ヒカルたちにとっては最後の北斗杯となった。

昨年も昨年で、史上最年少名人となったアキラが出場したことで一躍話題となったが、今年はそれを上回る注目を集めていた。

――なにしろ去年、その塔矢アキラと、十八歳を迎え最後の北斗杯出場となった韓国の高永夏の対決を楽しみにしていたのであろう周囲の期待を裏切り、大将の座に収まったのは、第一回と同じくまたもや進藤ヒカルだったのだから。

 

しかし、ヒカルと永夏の繰り広げた一局は、その周囲の期待を越え――むしろ唸らせるほどの、第一回の対決にも負けず劣らずの素晴らしい一局で。今度はヒカルが半目差で勝利を収めた。

そして、日本を北斗杯初優勝へと導いたヒカルは、その勢いに乗ったまま、挑戦権を獲得していたその夏の本因坊戦で、桑原から本因坊を奪取し――最年少で本因坊となった。

 

そんなヒカルと、昨年に名人初防衛に成功したアキラ。

日本からタイトルホルダー二人が出場し、しかも今年がその見納めとなれば、話題が沸騰するのも当然といえた。

――大会関係者の一部は、来年からの話題性と日本の大幅な戦力ダウンに頭を抱えていたようだが。

 

 

 

ヒカルの唐突な問いに、一瞬戸惑いながらもアキラは答える。

 

「特に予定はないけれど……」

 

「じゃあ、オレの予定に付き合ってよ」

 

「『碁会所で一局打とう』とでも言うつもりか?」

 

普段の相手の言動から、アキラは続きの言葉を推測したのだが、ヒカルは笑って否定する。

 

「それも悪くないけどさ~、ハズレ。そろそろ“約束“果たすときかなぁ~と思って」

 

「約束?なんの話だ?」

 

身に覚えのない話に首を捻ったアキラに対し、近寄ってきたヒカルはすれ違いざま、耳元でコッソリと囁く。

 

――『saiの秘密』

 

その不意打ちに固まってしまったアキラが、はっと弾かれたように振り返った時には、ヒカルはもう会場の入り口近くまで行ってしまった後だった。

 

「じゃ、明日九時に東京駅で待ち合わせな。遅れるなよ!」

 

ヒカルは最後にそう言い残し、手を振ると、さっさと会場を後にしてしまう。

 

「待てっ!進藤――」

 

後を追いかけて聞きたいことが山ほどあったアキラだが、運悪く、取材陣に捕まってしまう。

最後の北斗杯で大将を務めた感想を求められ、アキラは仕方なくインタビューへと応じる。

 

――まぁいい。明日、行けば分かるさ。

 

そう内心で、自分自身を納得させる言葉をかけながら。

 

 

 

○●君がいた輝石●○

 

 

 

翌日、アキラが待ち合わせ場所である東京駅に向かうと、既にヒカルは彼を待ち受けていた。背中にはいつも通りのリュックサックを背負っている。

近づいてくるアキラの姿に気付いたらしいヒカルは、時計に目をやって時刻を確認する。

 

「十五分前とか早っ!」

 

「……ボクとしては、キミが早く来ていることの方が意外だけどね」

 

「さすがに呼び出しといて、遅刻はマズイかと思ったんだよ」

 

そう言いながら、ヒカルはポケットから何かを取り出す。

 

「ほら、これ塔矢の分。途中で落とすなよ?」

 

その“普通の切符とは異なる大きさのチケット”を見て、事情を察したアキラの表情が曇る。

 

「……新幹線に乗るなんて、ボクは一言も聞いてないぞ」

 

「ったり前じゃん。言ったらオマエ、来ないって分かってたから言わなかったの」

 

「だからって、せめて最低限伝えるべきことは伝えるべきだろう!」

 

朝早くから詳しい用件も伝えられずに呼び出されては、アキラでなくとも、語気を荒げてしまうのは、仕方のないことだろう。

そんな相手の様子を意にも介さず、

 

「あーもう!オマエと言い争ってたら、キリねーよ。新幹線にも間に合わなくなるしさ。ほら、さっさと行くぞ」

 

そう言って、アキラの質問には何一つ答えず、ヒカルはさっさと歩き出してしまう。

 

「ちょっと待て!ボクの質問に答えたらどうなんだ、進藤!!」

 

その背中に向かって怒鳴ったアキラに対し、ヒカルは数歩ほど先まで歩いてから振り返り、

 

「おーい、塔矢~。ついてこないと置いてくぞ~」

 

そう言って、また勝手に歩き出してしまう。

アキラは溜め息を吐きつつも、諦めてヒカルの後を追った。

――彼、進藤ヒカルの気まぐれは、今にはじまったことではない。こういう時の彼は、何を言っても聞く耳を持たない。

気が済むまで従ってやるのが一番だと、アキラは長年の経験から学んでいた。

 

早足で追いつき、ヒカルの隣に並んだアキラは、ふと疑問に思ったことを口にする。

 

「……そういえば、先ほどのチケットは前もって購入していたようだが。ボクが来なかったら、どうするつもりだったんだ?」

 

「オマエだったら来るって、信じてたさ」

 

そう自信満々に言い切ったヒカルに、アキラは本日二度目の溜め息を吐いた。

 

 

 

「……進藤、一体どこへ行くつもりだ?」

 

新幹線に乗ってから、それなりに時間が経過し――都会の街並みが遠ざかり、窓からの景色に山や田畑などの風景が混じりはじめた頃。

痺れを切らしたアキラがヒカルに問いかける。それに対し、ヒカルは訝し気な目でアキラの方を見やる。

 

「オマエ、チケットの行き先、読まなかったワケ?」

 

「行き先が広島なのは分かってる!広島のどこへ行くつもりだと聞いているんだ。まさか単なる観光旅行って訳じゃないだろう!?」

 

アキラの大声に、周囲の乗客が迷惑そうな視線を向ける中、新幹線に乗り込むなり、窓際の席を占拠したヒカルは、窓枠に頬杖をつき、外の景色を眺めながらポツリと答える。

 

「……因島」

 

「因島?」

 

「そ、因島。本因坊秀策が生まれたところ」

 

「キミが秀策好きなのは知っているが、何故ボクも一緒なんだ?」

 

「詳しくはあっちで話すよ」

 

そう言って、ヒカルは再び黙り込んでしまう。

何一つ聞きたいことを聞き出せないまま、はぐらかされてしまったアキラだが、今はこれ以上何を聞いても無駄らしいと察すると、腕を組み、座席に深く身を沈めて短い仮眠を取ることにする。

――隣にいる迷惑な人物の呼び出しの所為で、昨日の北斗杯の休みがまだ完全には取れていないのだ。

 

 

 

新幹線から電車に乗り換え数駅、『尾道』という駅で降車したかと思うと、今度はバスに揺られて海峡を渡る。

バスを降りたヒカルの足は、長時間の旅の疲れも感じさせない足取りで、迷わずに目的地を目指して進んでいく。その背中を見失わない程度に、アキラも少し後ろをついて歩く。

 

やがて二人が辿り着いた場所は、山の斜面に存在する墓地だった。

その墓地の入り口で、箒を手に掃除していたこの寺の住職らしき人が、ヒカルを見て親しげに会釈する。

 

「あぁ進藤さん、今年もいらしたんですね」

 

「今年“も”?」

 

やっと足を止めたヒカルの隣に並んだアキラが、顔を横に向けて問うと、ヒカルはこくりと頷いて答える。

 

「オレ、毎年この時期に秀策の墓参りに来んの」

 

そう言って墓地の方へ向かおうとし――ふと、ヒカルは足を止めて振り返る。

 

「どうする?塔矢も墓参りする?別にオマエはいてもいなくても、どっちでもいいんだけどさ」

 

――いなくてもいいなら、何故自分を連れてきた!

 

とツッコミを入れたくなったアキラだが、墓地ということもあり、寸での所で思い留まる。墓地というものは、思った以上に音や声が反響するものだ。

何も言わずにいるアキラの様子を、待っている、という意味だと解釈したのか、

 

「じゃ、ここでのんびり待っててよ。しばらくかかると思うからさ」

 

そう言い残し、ヒカルはさっさと一人で行ってしまう。

今更、後を追いかけるのも気が引け、アキラは仕方なしに寺の縁側に腰を下ろして待っていることにした。

初夏の風に吹かれ、ぼんやりと景色を眺めていると、傍にコトリと何かが置かれる音がした。

隣に目を向けると、先ほどヒカルを見送った住職が、お茶の入った湯呑をアキラの傍に置いていた。

 

「ただ待つのもなんでしょうから。どうぞ」

 

「お気遣い感謝いたします」

 

いただきます、と一言述べてからアキラは湯呑を仰ぐ。

一息吐いてから、ふとアキラは先ほどから渦巻いていた疑問を問いかけることにした。

 

「……そういえば、先ほど『今年も』と仰っていましたが。進藤は毎年、ここに来るんですか?」

 

「ええ。数年前から毎年、決まってこの時期にいらっしゃるんですよ。……あぁ、でも昨年だけは、『本因坊』を取った直後にもいらしてましたね。毎年一人でやって来られては、秀策の墓前でしばらく手を合わせていかれるんですよ。よっぽど秀策がお好きなんでしょうね」

 

にこにこ、と人の良さそうな笑顔で住職は語った。

 

「……そうですか」

 

この時期と聞いて、アキラの脳裏を過ぎったのは、四年前のことだ。

その頃、ヒカルは急に手合いを休むようになり、二か月近く棋院に姿を見せなかった。

碁を辞めるのではないかとも噂され、アキラは彼の学校まで直接赴き、問いただしたこともあった。

けれど、ヒカルは『もう碁は打たない』と言い、アキラの前から走り去ってしまった。

 

――それから数か月後、やっとヒカルは手合いに復帰した。

そのヒカルと、アキラのはじめての公式対局の場にて、アキラは彼の碁の中にsaiの影を見たのだ。

 

――『お前にはいつか話すかもしれない』

 

アキラがsaiの影を指摘した時に、ヒカルはそう答えた。

――ヒカルがそう言ってから、もう三年半近い月日が流れている。

 

秀策とsaiには並々ならぬ因縁がある。

それは、アキラも薄々と感じ取ってはいた。

ヒカルが秀策に対して抱いているだろう感情は、単なる尊敬や固執では言い表せない、複雑なものだ。

 

――saiとは、秀策とは、キミにとっての何なんだ?

 

ヒカルの声が、表情が、時折哀愁を帯びた色になる度に、アキラはそう問いかけてみたくなる。

ただし、彼がいつか話すと言った以上、アキラから無理に問いただすことはできない。

――saiにまつわる出来事は、そう簡単に口にできることでは、きっとないのだろうから。

 

用事を済ませ、ようやく戻ってきたらしい彼の特徴的な頭を視界に捉え、アキラは思考を一旦断ち切ると、縁側から腰を浮かせた。

 

 

 

ヒカルに連れられ、アキラは続いて、その近くの石切神社内にある、秀策にまつわる品物を集めたという、記念館の中を見学する。

その後は再びバスに揺られて駅前まで戻り、今度は慈観寺という寺へと向かうことになった。

途中で、ヒカルのお勧めだというお好み焼き屋で食事をし、すっかり顔馴染みだという碁会所にも寄った。

昨日まで北斗杯に出ていた日本代表二人組の来訪に、碁会所の客は盛り上がり、嫌と言うほど、サインやら握手やら対局を求められ、やっと解放された二人が、慈観寺を訪問し、外へ出た頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「あ~あ、来週の『若獅子戦』も出る気マンマンだったのになぁ。出られないこと、すっかり忘れてたぜ」

 

慈観寺を出ながら、ヒカルは至極つまらなそうに呟いた。

若獅子戦のプロ棋士側の出場規定は、“二十歳以下かつ五段以下”。

本因坊のタイトル取得により、実質“九段”になってしまったヒカルには出場資格がなかったのだ。

その事実を、ヒカルは碁会所の客に言われるまで、すっかり失念していたらしい。

全く気付いていなかった様子のヒカルに、アキラは呆れ口調で応じる。

 

「ボクだって去年から出ていなかっただろ?覚えていなかったのか?」

 

「そう言えば、そうだった。でもさ~、北斗杯は別に、段位関係なかったじゃん?」

 

「それとこれとは別の話だ。そんなに出たいなら、『本因坊』を返還したらどうだ?」

 

一日中連れ回された疲労から、半ば八つ当たりのように嫌味を混ぜたアキラの言葉に、ヒカルは噛み付くように言葉を返す。

 

「それはヤダ!絶対に!」

 

膨れ面になったヒカルは、そのまま腕時計に視線を送ると、ポツリと呟く。

 

「さてと、そろそろホテルに向かうか」

 

「……まさか、泊まる気なのか?」

 

ある程度予想していたとはいえ、アキラの顔が引きつる。

 

「そうだよ。まさか、広島から日帰りで東京に戻るなんて、思ってたんじゃねーだろーな?」

 

「流石にそれはない。が、何も聞かされてなかったボクは、キミと違って何も用意してないんだが?」

 

「大丈夫だって、ちゃんと塔矢の分も部屋予約してあるからさ。……あっ!相部屋じゃないから安心しろよ」

 

「……ボクが言いたいのは、そういうことじゃなくてだな」

 

アキラは軽く頭痛のしてきた額を抑える。

――ヒカルに一日中振り回されたアキラには、もはやツッコミを入れる元気すら残っていなかった。

 

 

 

「じゃあな、塔矢。また明日もヨロシクな~」

 

そう言いながら、隣の部屋に消えていくヒカルの背中に、『明日も続くのか』と思いつつも、疲れたアキラの口から出たのは、

 

「あぁ……」

 

という、気の抜けた返事だけだった。

ヒカルが予約を取ったのは、ビジネスホテルということだけあって、タオルや歯ブラシなどの最低限の身だしなみグッズは置いてある。何も考えていないようでいて、その辺りはヒカルも一応考えて行動しているらしい。

シャワーくらい浴びようか、とも一瞬考えたアキラだが、ベッドが視界に入った途端に一日の疲れがどっと押し寄せてくる。

 

――とにかく、今日は休もう。

 

あの馬鹿も、流石に早朝から連れ回すなんてことはしないだろう。

朝にシャワーを浴びる時間ぐらいはあるはずだ、と判断したアキラは、ベッドに入り込む。

そして、一日の出来事を振り返る暇もなく、すぐ深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

あまりの疲れに、アラームを掛けるのも忘れて寝てしまったアキラだったが、身体は普段の起床リズムを覚えていたらしい。

五時半きっかりに目を覚ましたアキラは、一瞬見慣れない風景に戸惑うものの、すぐに昨日の一連の出来事を思い出し、自分は広島のホテルにいたのだと理解する。

幸い、昨日ぐっすりと眠ったお陰で、頭も体も疲れは吹き飛んでいる。

 

手早くシャワーを済ませ(できれば着替えも欲しかったが仕方ないと諦め)、気分も爽快となったアキラは、カーテンを開け、外の天気を確認する。

窓の外には、今日も昨日と同じく、五月晴れ(さつきばれ)の青い空が瀬戸内海の穏やかな海と共に広がっていた。

 

アキラは部屋にあったテレビを付け、適当にニュース番組を眺めて時間を潰す。そして、テレビの左上の表示時刻が七時半になったと同時にテレビの電源を切ると、部屋を出て、隣の部屋の扉を叩いた。

アキラがノックをして暫く、やっと寝ぼけ眼のヒカルが部屋から現れた。

 

「おう、とーや。おはよ~」

 

そう言いながらも、ヒカルの口から噛み殺しきれなかった大きな欠伸がもれる。

 

「今、起きましたと言わんばかりの様子だな」

 

「そのとーりだよ。ふぁ~、やっぱオマエって朝も早いんだな」

 

そう言いながらも、欠伸を繰り返しているヒカルに対し、アキラはさっさと目を覚ませとばかりに、発破をかける。

 

「今日もまだ用事があるんだろう?できるなら、さっさと済ませて帰りたい」

 

不機嫌な口調を隠す気もないアキラにも、ヒカルは動じることなくマイペースに言葉を返す。

 

「そう焦るなって、今日の午後には東京に行く予定だからさ」

 

今、着替えるから待ってろ、と寝ぼけ眼をこすりつつ、ヒカルは扉の向こうに姿を消した。

 

 

 

荷物をまとめたらしいヒカルと共に、ホテルをチェックアウトしたアキラは、まず手近な飲食店で軽く朝食を済ませる。

その後は、電車に揺られ、昨日に引き続き、本因坊秀策に関わりのあるという場所――糸崎八幡宮と宝泉寺を訪ねる。

ヒカルの秀策に関する薀蓄(うんちく)話から、アキラがやっと解放されたのは、昼前のことだった。

 

「さて、ここでの用事は済んだから東京に行くぞ」

 

空に向かって両手を伸ばし、満足そうな表情を浮かべながらヒカルが発した言葉。その微妙なニュアンスの違いに気付いたアキラは、言葉が流れる寸前で聞き咎める。

 

「……“帰る”ではないんだな?」

 

「お、察しが良いな、オマエ。そうなんだよ、東京でも寄りたい場所があってさ」

 

よく分かったな、と感心している様子のヒカルに対し、昨日から累計して、もう何度目ともつかない溜め息をアキラは吐く。

 

「ボクがキミに付き合わされて、何年経つと思ってるんだ?」

 

その発言を耳にしたヒカルは、真面目な顔をして指を折って数えはじめた。

 

「え~っと……最初に会ったのが小六の冬だから、かれこれ六年くらい?」

 

 

 

新幹線に長時間乗り、やっと見慣れた東京の地へと舞い戻った二人。

そのまま休む間もなく、電車に乗り換え、今度は巣鴨の本妙寺という場所へとやってきた。

 

ここでもヒカルの足は迷うことなく、慣れた様子で本因坊秀策の墓の前へと辿り着く。

墓石に水をかけ、持ってきた花と線香を供え、静かに手を合わせて拝む様子を、アキラは少し離れた所から、じっと眺めていた。

墓前報告が終わったらしく、やっと顔を上げたヒカルに対し、アキラは静けさを保ちつつも苛立った口調で問う。

 

「ここでも『秀策』か。いい加減、ボクを連れ回す理由を話してはくれないのか?」

 

「あーうん。……じゃあ、ここで話すよ」

 

そう言うと、その場で腕を組み、目を閉じて、考え込み出した様子のヒカル。

――しかし、暫く考えたものの、結局は諦めたらしく、だらんと脱力した。

 

「うーん、やっぱここじゃダメだ。悪い、塔矢。もう一か所付き合ってくれるか?」

 

「……まさか、『また因島まで戻る』なんて言い出す気じゃないだろうな?」

 

進藤ヒカルなら言い出しかねない、最悪のシナリオを想像したらしい様子のアキラに、ヒカルは手を振りながら笑って否定する。

 

「さすがにそれはねーよ。大丈夫、今度の場所は近いから」

 

「……乗りかかった船だ、最後まで付き合うさ」

 

アキラは、半ば自棄になりつつも腹をくくった。

 

 


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