仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

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八之巻『漂う魔女』

○とある山間部・林の中

 吹雪鬼、中腰の体勢のまま、手首から手裏剣のようなものを出してフルカガミに投げつける。

 カンカーンと音をたてて、それを跳ね返すフルカガミ。

 と、またも鏡面から髪の束を吹雪鬼に向かって発射!

 ジャンプしてこれを避けた吹雪鬼、そのまま走り出す。

 宙に浮いたフルカガミが走る吹雪鬼を追う。

 吹雪鬼、走りながらフルート型音撃管・烈雪を目の前に出して念を込める。

 すると、その両端に短めの白い切っ先が現れた!

 吹雪鬼、両サイドに背後から伸びてきた黒い髪の束を、その烈雪剣で巧みに切り裂きながら走る!

 

○同・山道

 上り坂を走る銀色のバン。

 運転席には眼鏡の男、そして助手席にはナビゲーションシステムをチェックする女。

女「ここを登り切ったところです」

男「了解!」

 唸りを上げて走る銀色のバン。

 

○同・林の中

 走る吹雪鬼。

 と、前方に小さく走る車の輪郭が見えてきた。

吹雪鬼「……よし!」

 と、いつの間にか頭上にまで追いついていたフルカガミ!

 吹雪鬼の真上から、髪の束を銃弾のように撃ち降ろす!

 間一髪で転がり避ける吹雪鬼。

 髪の束は地面に命中し、その箇所はまるでハンマーで打ち砕いたかのように深く地表が窪む。

 続いてフルカガミは、斜め前に髪の束を発射!

 それは周りの木々をなぎ倒しながら、吹雪鬼を中心に囲うように伸びていく。

吹雪鬼「……はっ!?」

 髪の束は徐々に円周を縮めていき、ついには吹雪鬼の体を締め付けるように巻きついていく!

吹雪鬼「ウウッ!」

 苦しむ吹雪鬼。

 と、前方から走ってきた銀色のバンが砂塵を上げて停車し、中から男と女が降りる。

男「吹雪鬼さん!」

吹雪鬼「ミ……、ミカヅキ……さん」

 ミカヅキと呼ばれた男、腰から音笛を抜き、口元に当てながら吹雪鬼のもとへと走る!

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 八之巻『漂う魔女』

 

○とある山間部・林の中

 走りながら音笛を吹くミカヅキ。

 と、全身が光の輪のようなものに包まれていく!

甕月鬼(みかづき)「ジョアッ!」

 両手でその光の輪を断ち切り、甕月鬼・参上!

 その体は、全身赤ベースに胸元は小さな甲冑のような管戦士特有のパイプ型装飾が、そして頭部の角は、中央から後頭部の方まで鋭い刃先を伸ばしている。

 甕月鬼、その頭部の刃角を左手ではずし、全身を縛られている吹雪鬼に向かって投げる!

 光り輝きながら飛ぶ甕月鬼の刃角は、まずはフルカガミの鏡面から飛び出している黒髪の束を切断!

 そして、腕をサッと振り下ろす甕月鬼。

 すると、光る刃角は空中でクルリと回転して、吹雪鬼を縛る黒髪の束を上から下へ巧みに切り裂いた!

 解放され、ガクッと膝をつく吹雪鬼。

 そして、甕月鬼の頭部に戻る刃角。

 吹雪鬼に駆け寄る甕月鬼。

甕月鬼「大丈夫ですか!? 吹雪鬼さん!」

吹雪鬼「……ええ。ありがとうございます」

女「甕月鬼さん! 後ろ!!」

 バンの助手席から降りた女が叫ぶ。

 いつの間にか背後に廻っていたフルカガミが、またしても黒髪の束を鏡面から吐き出す!

 吹雪鬼、烈雪剣を構え、迫り来る髪の束を次々と切り裂く!

 甕月鬼、一歩下がって背中から鍵盤ハモニカ型音撃管・明星(みょうじょう)を外しながら、同行してきた女性に向かって叫ぶ。

甕月鬼「ホウキ!」

ホウキと呼ばれた女「はい!!」

 ホウキ、左手首に付けた音錠を鳴らすと左腕を頭上でクルリと回す。

 と、その左手付近から無数の花びらが生まれ出て、風とともにホウキの全身を包み込む!

縫鬼(ほうき)「ヤッ!」

 左手を斜め下に振り下ろして花吹雪を断ち切り、縫鬼が鬼に変身!

 その姿は、上半身はベージュベースの着物のような造形のスーツに弦戦士特有の肩ベルトが巻かれ、下半身は袴風の出立ち。

 その縫鬼、腰の後ろ側から一尺ほどの竹ざしのようなものを取り出して、両手で前に構える。

縫鬼「……イヨッ!」

 縫鬼の掛け声とともに、竹ざしは三尺ほどのピンク色に輝くビームソードに変化した!

 剣を顔の前で構えながら走る縫鬼。

縫鬼「ヤッ! ハァ!!」

 吹雪鬼とともに、迫り来る無数の髪の束を光る剣で次々と切り落としていく。

 一方、後ろに下がっていた甕月鬼は、背中から取り出した明星を両手でマシンガンのように構え、チューブの先をフルカガミに向けたかと思うと、そのまま照準を上空高くへと移動。

甕月鬼「……フン!」

 気合いとともに、チューブの先から金色の光球が発射!

 フルカガミの頭上高くに撃ち出された光球は、そこでパンと花火のように弾け、光のシャワーがフルカガミに向かって降り注ぐ!

 金色の光に包まれるフルカガミ。

 甕月鬼、ベルトの音撃盤・諸星(もろぼし)をはずして地面に埋め込む。

 すると、諸星はググッと上下そして左右に広がってピアノ台に変化!

 その上部に明星を取り付ける甕月鬼。

 と、鍵盤がひと回り大きく膨らみ、それはあたかもグランドピアノの如き音撃武器に変化した!

甕月鬼「音撃弾・熱岩即興!」

 華麗にピアノ音撃を奏でる甕月鬼。

 その美しい音色が、周囲の木々と反響して、そこに熱く清らかな音の世界を作り出していく!

 そして、フルカガミを包み込んだ金色の光が音撃の威力に反応して、バチバチッと火花を散らす!

 徐々に、中のフルカガミに伝導していく熱岩即興の波紋!

 と、ピシピシとひび割れていくフルカガミ。

 そしてついに……、爆発!!

甕月鬼「フゥ……」

 明星を取り外し、小さく縮んだ諸星を地面から拾ってベルトに戻す甕月鬼。

 吹雪鬼、縫鬼が顔の変身を解く。

ホウキ「フブキ様、お久しぶりでごいざいます!」

 髪を腰まで長く伸ばしたホウキ、シャキシャキッとフブキに頭を下げる。

フブキ「久しぶり。元気?」

ホウキ「はい!」

 甕月鬼の方へ歩み出すフブキとホウキ。

 と、甕月鬼も顔の変身を解除。

フブキ「ミカヅキさん、ありがとうございました」

ミカヅキ「いえいえ。このタイプの魔化魍に限っては、通常の音撃やったら通じませんからね~」

フブキ「過去に一度だけ出没したことがあると聞きましたが」

ミカヅキ「ホンマはね、この二、三年チラホラ出てきてるんですよ。だからボクのような音撃の方法も実用化されたわけでね。まあ、詳しいことはホウキから話してもらいましょか」

 一転、曇った表情になって頷くホウキ。

 

○たちばな・地下作戦室

 うつむいていたホウキが、ゆっくり顔を上げて話し始める。

ホウキ「……はっきりした原因が分かれへんかったもんですから、ここ三年ほどは本部が独自に調査してきました」

 事情を話すホウキを机を囲んで見つめる勢地郎、フブキ、ミカヅキ、みどり、香須実、そして日菜佳。

ホウキ「結論から言いますと、魔化魍の力を悪用して異形の物体を造り出してる人物が今でもいてるっちゅーことです」

みどり「それは、昔の記録に残っている犯人と関係が……?」

ホウキ「(人差し指を立てて)ズバリ、その子孫ですね」

日菜佳「なんと!」

 厳しい表情になる他の者たち。

香須実「……その、昔の犯人ってのは、その後どうなったんですか?」

 香須実の言葉に、チラッとミカヅキの方を見遣るホウキ。

 コクッと頷くミカヅキ。

ホウキ「……消されました」

香須実「え!? 消されたって……、それってつまり……」

 腕組みして黙っていた勢地郎が、重々しく口を開く。

勢地郎「やっぱりそうか……。極秘事項にしているのは、殺し、が関係しているからってことだね? つまり、君のご先祖との関係が……」

 そう言いながら、ジッとホウキを見据える勢地郎。

日菜佳「え? ホウキさんのご先祖って」

ホウキ「……殺し屋でした」

日菜佳「こ……、殺し屋って……!!」

 張り詰める空気。

勢地郎「ホウキ君のご先祖は、私達とは違った意図で裏の世界を暗躍していた組織の一人だったんだ。名前は確か……、おりくさん、だったねぇ?」

ホウキ「はい」

香須実「裏の世界の殺し屋って、一体……」

ホウキ「まあ、簡単に言いますと、悪い奴に恨みはらすために、お金を貰って暗殺やってたってことです。……正直、ワタシは認められへんのですけどね」

 ホウキの言葉に、ちょっぴり苦笑いのミカヅキ

みどり「え? じゃあその、蛍ちゃんのご先祖が、その犯人を?」

ホウキ「ん……」

 言いにくそうなホウキを、勢地郎がフォローするように補足説明する。

勢地郎「公にはされていないが、当時、その組織と猛士は何らかのつながりがあったと言われてるんだ。もしかしたら、猛士からの依頼……だったのかもしれないねぇ」

ミカヅキ「……でも、人殺しには変わりませんからね」

勢地郎「そう。だから『人間を守る』ことが大命題の猛士の立場上、つながりがあったとは言えないわけだ」

 と、ここまで黙って聞いていたフブキが口を開く。

フブキ「……で? その子孫とやらが、今回の事件にどう関係してるわけ?」

勢地郎「うむ。そもそも、子孫という確証はあるのかい?」

ミカヅキ「おりくさんが始末した江戸時代の悪党には、一人息子がおったんです。で、猛士としては、後々同種の事故が起こったらあかんといういことで、代々密かにその一族を監視しとったわけですね。その監視役が、おりくさん以降、このホウキまで続いてるっちゅうことです」

ホウキ「それで、ワタシの代になって監視していた一人の女性が、三年くらい前から妙な動きをし始めたんですよ」

フブキ「妙な動き?」

ホウキ「全国各地、色んな施設の廃墟を巡っては、数日間行方が分かれへんようになるんですわ。で、その度に無機物魔化魍が現れて、それをミカヅキさんが退治するって感じで……」

ミカヅキ「おかげさんでここんとこ出張の多いこと多いこと!」

 呆れ顔で手を横に広げるミカヅキ。

みどり「てことは、その女性が魔化魍を造り出している、と」

ミカヅキ「ま、十中八九、間違いありませんな」

勢地郎「ふ~む。では、まずはあの鏡の出処をあたってみないとねぇ……」

香須実「でも、まさか私達が聞き込みするわけにも……」

 香須実の言葉を受け、ニヤリとしながら立ち上がる勢地郎。

勢地郎「こういう時のために、警察ってもんがあるんだよお?」

 勢地郎、そう言いながらPCのキーボードをポンポンと叩いて何やら送信する。

日菜佳「ちょ、ちょっと待ってくださいよ父上! 警察に言ったりなんかしたら……」

香須実「うん。私達の素性がバレたりしたら大変よ!?」

 焦る香須実と日菜佳。

みどり「フフフ。大丈夫よお? 二人とも」

 と、ツーツーと電話が鳴る。

勢地郎「お、来た来た」

 電話を取る勢地郎。

勢地郎「おお、ご苦労さん。どうだい? 調子は。……ああそう。実はね、ちょっと頼みたいことがあってねぇ。例のサーバーに詳しい事を入れておくから、なんとか動いてもらえないかな。……うん、……分かった。じゃ、よろしく頼むよ」

 勢地郎、電話を切ってPCの前に座り込む。

香須実「え? どういうこと?」

勢地郎「(キーボードを叩きながら)猛士にはね、合法的に民間調査するために、実は警察機構内にも何人かメンバーがいるんだよ。彼らは、みんな学生の頃から猛士として鍛えた後に、各地方の警察機構へと入ってるんだ。……今回、事件の起きた民家は群馬県警の管轄だから、そこにいる秋月君にちょっと頼んでみるよ」

 続けてキーボードを打つ勢地郎。

 日菜佳、呆けた表情で、

日菜佳「ほへ~、知らんかった……」

ミカヅキ「……よし! そしたら、ボクらも当たりつけに行きましょか」

 立ち上がるミカヅキ。

フブキ「そうですね」

 同じく立ち上がるフブキ。

 フブキ、ミカヅキ、ホウキの三人が階段の方へ、そして、みどり、香須実、日菜佳が勢地郎のいるPCの辺りへと歩を進める……。

 

《CM》

 

○右京の自宅

 畳の上に寝っ転がり、一人物思いに耽る右京。

 ふと上体を起こし、机の上のオーボエに目を遣る。

 少し見つめた後、視線を天井へ移して溜め息一つ。

 ゆっくりと起き上がり、机に近付いていき、オーボエを手に取る。

 真剣な眼差しで、オーボエを見つめる右京……。

 

○ファミリーレストラン

 食事中の右京とすずめ。

 パクパクとハンバーグを頬張るすずめ とは対照的に、食事に手を付けず、考え込んだ様子の右京。

すずめ「……どしたの? 食べないの?」

右京「あ、いや……」

 右京、フォークを持って、目の前のスパゲティをつつく。

すずめ「どっか具合でも悪いの?」

 少し心配そうに身を乗り出すすずめ。

右京「いや、大丈夫。ゴメン……。(怖々とすずめの顔を見て)……あのさ、俺……、音楽辞めようと思うんだ」

すずめ「ングッ!! ……ええっ!? どういうこと!?」

右京「その……、他にやりたい事が出来たっつーかさ……」

すずめ「何何? 就職する気になったの?」

右京「いや……、そうじゃないんだけど」

すずめ「じゃあ何よ?」

右京「(俯いて)……ちょっと、まだ言えないんだよ」

すずめ「(手に持ったナイフをブンブンと振り回しながら)え?ちょっと何よソレ!? 私には言えないってわけ!?」

右京「そういうわけじゃないんだけど……」

 すずめ、煮え切らない右京に呆れて、座席の背もたれにドサッと身を預ける。

すずめ「ふう……。学校出てからさあ、プロになるためにずっと頑張ってきたわけでしょう? それを簡単に諦めるわけ? ……まあ、他にやりたい事が見つかったってんなら、それはそれでいいんだろうけど、何なの? またフリーターのまま別のコトやろうとしてんの? いいの? それで。もう二十五よ、二十五!」

 畳み掛けるように右京を責めるすずめ。

右京「いや、前からやりたかったことでもあるんだ。音楽とゆくゆくは両方で一人前になろうと思ってた。ただ、一つに絞らないとこれ以上進めないような気がしてて……」

すずめ「だから、何がやりたいのよ!?」

右京「……時期が来たら言うよ」

すずめ「(カッとなり)何ソレ!? 私はね、フラフラしてるアンタでも、夢を捨てないで頑張ってるから、ずっと応援してきたのよ!? いいトシしてフリーターだなんて、ホントは恥ずかしいんだから! ……もういい!! 訳言ってくれるまで、私、会わないからね!!」

 バン!とテーブルを叩いて席を立つすずめ。

 バッグを持ち、そのまま席を離れようとして、ふと気付いたようにピタッと止まる。

すずめ「(バッグから千円札を一枚取り出してテーブルの上に置き)これお勘定!」

 プイッと振り返って、スタスタと店を出ていくすずめ。

 残された右京、すずめを引き止めることもなく、天を仰いで溜め息一つ……。

 

○事件のあった山間部

 ベースキャンプを張っているフブキ、ミカヅキ、ホウキの三人。

 フブキ、ディスクアニマルのケースを開けて、音笛を吹く。

 次々と空中へ飛び出し、浅葱鷲となって羽搏いていくディスクアニマル達。

 一方、ミカヅキも青いディスクを数枚簡易テーブルの上に並べて、音笛をひと吹き。

 すると、ディスクはズングリムックリした牛のような形態と化し、ピョコピョコと跳ねるように探索に出発していく。

 三体所持しているミカヅキの専用ディスクアニマルの一つ・藍墨牛(あいすみうし)だ。

 浅葱鷲を見送ったフブキ、振り返ってディスクアニマルのケースを片付ける。

 と、ミカヅキが声をかける。

ミカヅキ「そういや、フブキさん」

フブキ「え?」

ミカヅキ「最近、休みなしで頑張ってるらしいですね。あきませんよ、無理したら」

フブキ「(わずかに笑みを浮かべながら)別に、無理はしていませんわ」

 そう言いながら、専用バン・結晶のバックラックで荷物を整理するフブキ。

ミカヅキ「そうですか? おやっさん、心配してはりましたけど。……もしかして、償いのつもりですか?」

 ピクッと動きを止めるフブキ。

フブキ「償いというのは大げさなんですが、やはり私は……」

ミカヅキ「別に気にすることないでしょ。音楽やってた時でも、ちゃんと猛士の仕事もこなしてはったんですから」

フブキ「(苦笑いしながら)いじめないでください……。自分でそう思っていても、結局、色んなところに負担がかかってたんじゃないかって……。思い上がっていたんです、私。ミカヅキさんが、猛士に入ると同時に何の未練もなくピアノを辞めた訳が、やっと分かったような気がします」

 優しい笑顔のミカヅキ。

 その横で、少々イジワル顔のホウキ。

ホウキ「なんか、フブキさんらしくないですね~。(フブキの口調を真似て)私だからできることなのよ。あなたには、到底無理ね! ……な~んて言うてたのに」

フブキ「コラ! 師匠をからかうな!」

ホウキ「ヘヘ。……でも、そしたらワタシの立場って、ちょっと複雑やなあ」

ミカヅキ「君の場合は、まあちょっと特殊やからなあ」

 と、ここでミカヅキの携帯電話が鳴る。

 電話に出るミカヅキ。

ミカヅキ「はい。ああ、お疲れ様です。……はい、そうですか。……はい。え~っと、こっから近いですか?」

 話しながら、ホウキに手で何やら合図するミカヅキ。

 ホウキ、それを見て、簡易テーブルの上にあった地図を素早く取ってミカヅキに渡す。

ミカヅキ「……ああ、この辺ですね。分かりました、早速向かいます。……はい」

 電話を切るミカヅキ。

フブキ「何か分かったんですか?」

ミカヅキ「うん。秋月さんの聞き込みで、あの鏡は近所の古道具屋で買ったもんやということが分かったって。で、その古道具屋は、その鏡を山奥の廃屋からこっそり拝借してきたっちゅうことですわ」

ホウキ「セコッ!」

ミカヅキ「こっからそんな遠ないみたいですから、とりあえず、そっちへ向かってみましょか」

フブキ「分かりました」

 支度を始める三人。

 

○たちばな

 店内では、みどり、香須実、日菜佳が談笑している。

 入口の扉が開く。

香須実「(反射的に扉の方を見ながら)あ、いらっしゃいませ!」

 入ってきたのは右京。

香須実「……あ、あなたは確か……」

 右京の方へ振り返り、ふと真顔になるみどり。

右京「薄葉右京です。こないだはどうも」

香須実「ありがとうございます、また早速来ていただいて……。さ、どうぞどうぞ!」

 右京に席を勧める香須実。

右京「あ、いえ……。その……、フブキ……さん、いますか?」

 怪訝な表情になる香須実と日菜佳。

香須実「あ……と、今日は、来てませんけど……」

右京「そうですか……」

 そう言って、キョロキョロと店内を見回す右京。

香須実「……あの、まあせっかくですから、お団子でも食べていってくださいよ!」

 再度、右京に席を勧める香須実。

右京「あ……、じゃあ」

 ゆっくりと席につく右京。

 顔を見合わせるみどり、香須実、日菜佳の三人。

日菜佳「(バタバタとお茶を持ってきて)えと、ご注文は何にしましょうか?」

右京「(日菜佳の言葉を無視するように)フブキさんは、よくここに来るんですか?」

日菜佳「え!?」

 思わず体を引く日菜佳。

右京「フブキさんの仕事、このお店と関係あるんですよね?」

 香須実の方を振り返る日菜佳。

 焦った表情の香須実。

 と、みどりが笑みを浮かべながら右京の正面の席に座る。

みどり「(にこやかに)右京君……だったわよね? フブキさんに、用事?」

 

○山奥・旧家の廃屋

 古めかしい旧家の廃屋。

 もう人が住まなくなって十数年は経っていると見え、外観は鬱蒼と茂った木々のつるや葉っぱに覆われている。

 その廃屋の前に立つフブキ、ミカヅキ、ホウキの三人。

ホウキ「なんか、ゾクゾクしますね!」

ミカヅキ「お前、顔笑ってるで」

フブキ「(ホウキを見据えて)こんな場所が好きだなんて、やっぱりあなたは変わり者ね」

 そう言って、建物の周りを伺うフブキ。

ホウキ「フブキさんに言われたかないです」

 ニヤけた顔のまま、先んじて中へ入っていくホウキ。

 続いてミカヅキも中に入る。

 フブキは、外側からグルッと裏庭の方へと回り込んでいく。

 

○同・廃屋の中

 中を物色するミカヅキとホウキ。

ホウキ「調度品とかって、案外残ってるもんですねぇ」

 そう言いながら、椅子や置物に触っては埃をはらうホウキ。

ミカヅキ「時々値打ちもんもあるみたいやなあ。せやから古道具屋なんかも目ェつけてくんねやろ」

 

○同・建物の裏庭

 建物の周囲を入念に見回すフブキ。

 と、庭先の木の傍から葉こすれする物音が。

 視線を移すフブキ。

 そこにいたのは、三十代くらいの背の低いおかっぱ頭の女。

 女は、フブキと目を合わすやいなや、振り返って逃げ出す。

フブキ「ムッ!」

 追うフブキ。

 女の立っていた木の傍に来て辺りを見回すが、既に女の姿はない。

フブキ「もしや……」

 と、廃屋の中からホウキの声が!

ホウキ「ヒャッ!!」

 フブキ、振り返って廃屋の方へと走る!

 

○同・廃屋の中

 ホウキの手には埃だらけの琵琶、そしてその琵琶の弦がつるのように伸びてホウキの腕から体へと絡みついている!

ミカヅキ「ニャロッ!」

 ミカヅキ、腰から音笛を抜いてひと吹きして鬼に変化!

 甕月鬼、ホウキの方へ走りながら頭部の刃角を取り外し、居合い斬りの要領でホウキに絡みついた琵琶の弦を切る!

 ホウキの体からポーンと飛び離れて宙に浮かぶ琵琶。

 するとその背後に、うっすらと人型の影が浮かび上がってきた。

 と、外からフブキが駆け込んでくる。

 琵琶を抱えた黒い影(上半身は人型だが下半身はまるで雲のような形態)は、飛び込んできたフブキの横を素早く通り過ぎて、猛スピードで彼方へと消えていった……。

 甕月鬼、顔の変身を解いてホウキの体を労わる。

ミカヅキ「大丈夫か?」

ホウキ「……はい。アンニャロー、よくも乙女の柔肌を!」

 そう言いながら弦に絞め付けられた二の腕をさするホウキ。

フブキ「今度は何です?」

ミカヅキ「ありゃあビワノセイですね。まさかと思ってたけど、迂闊でしたわ」

フブキ「……女が、いたわ」

ホウキ「それって、おかっぱで小っちゃい奴ですか!?」

フブキ「ご名答」

ホウキ「やっぱりアイツか……」

ミカヅキ「……とりあえず、この辺り一帯をもっぺんあたってみるしかないですねぇ」

 

○たちばな

 妙な緊張感が漂う右京のテーブル。

右京「……俺、フブキさんの弟子になりたいんです」

 驚く香須実と日菜佳。

みどり「(冷静に)弟子って……、あなたもフルートを?」

右京「いえ。そっちじゃなく、今専属でやってらっしゃる仕事の方です」

 思わず顔を見合わせる香須実と日菜佳。

みどり「(焦った笑みを浮かべながら)えっと……」

 

○八之巻 完

 

○エンディング曲

 

○次回予告

 たちばなで話すみどりと右京。

みどり「右京君、君、鬼がどういうものだか分かってる?」

 ベースキャンプ中のミカヅキとホウキ。

ホウキ「じゃあ、ワタシは例の女の行方をあたります」

 森の中で対峙する謎の女とホウキ。

女「あなたなんかに……、あなたなんかに私の気持ちが分かってたまるもんですか!!」

 九之巻『荒ぶる血筋』


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