○謎の洋館があった空地
音撃棒・那智黒を両手に、身構える弾鬼。
と、突如地面に亀裂が入り始める!
弾鬼「何ィ!?」
バックリ地面が割れたかと思うと、そこから太い触手のようなものがシュルッと飛び出し、物凄いスピードで弾鬼の体に巻きついた!
弾鬼「うわっ!!」
ザンキ「弾鬼!!」
触手に完全に捕獲されてしまった弾鬼は、そのまま地面の中へと引っ張り込まれていく!
そして、割れた地表は、徐々に再び元に戻っていく。
ザンキ「弾鬼ィ~~~!!」
ザンキ、亀裂が消えゆく地表に走り寄るが、強力な邪気に体の自由を奪われ、その場に動けなくなってしまう。
ザンキ「う……、うう……!!」
必死の形相で体を動かそうとするザンキだったが、ついには逆に後ろへ体ごと放り出されてしまう。
ザンキ「グワッ!!」
倒れこむザンキ、全身汗びっしょりになりながら、弾鬼が捕らわれた中央の地表を睨みつける。
ザンキ「……弾鬼ィィィーーーーッ!!」
と、ザンキの足元にディスク型に戻った黄赤獅子が転がってくる。
ザンキ「……クッ!」
ザンキ、ディスクを拾って、悔しげな表情のまま、ふらつきながら空地を後にする。
○森の中
既に変身体となっている轟鬼と勝鬼が、二匹のミズチと対峙している。
蛇型で身の丈一メートル弱ほどのミズチが二匹、轟鬼と勝鬼の周りを跳ね回る。
音撃弦・烈雷で斬りかかる轟鬼。
しかし、全く手応えがない。
轟鬼「なるほど……」
勝鬼「轟鬼さん! これを!!」
勝鬼、ヘッドセットマイク型の音撃転換装置を轟鬼に投げ渡す。
轟鬼「はい!!」
轟鬼、装置を受け取って頭部にセット。
同時に、勝鬼も装置を取り付ける。
ミズチの存在に神経を集中させ、胸の前で両手を合わせて念じる轟鬼と勝鬼。
と、二人の頭の上に、次第に光球が浮かび上がってくる。
轟鬼・勝鬼「音撃念・猛鬼声魂!! ハァァァ、ハァーーー!!」
二人の魂声とともに、二つの光球がそれぞれ二匹のミズチに向かって飛ぶ!
命中した光球はそのままミズチの体を包み込み、激しい光とともに、四散!!
轟鬼「……よっしゃ!!」
小さくガッツポーズをする轟鬼。
○同・弾鬼のベースキャンプ
ふらつきながらベースキャンプに戻ってきたザンキ。
簡易テーブルの近くで、ガクッと膝を崩して倒れ込む。
と、反対側からは顔の変身を解いたトドロキとショウキが帰ってくる。
トドロキ「……あ! ザ、サンキさん!!」
トドロキ、倒れ込むザンキに驚いて、すぐさま駆け寄る。
トドロキ「ザンキさん!! どうしたんです!? 大丈夫ですか!?」
ザンキ「……ああ、スマン。大丈夫だ。それより……」
ショウキ「(周りを見渡しながら)ダンキさんは……?」
ザンキ「妙なヤツに、捕らえられてしまった……」
ショウキ「何ですって!?」
ショウキ、思わず走り出そうとするが、ザンキが遮る。
ザンキ「待て! ……一人では無理だ。一旦たちばなに戻って、対策を練るんだ」
ショウキ「そんな悠長なことをしてたら、ダンキさんが……!!」
ザンキ「大丈夫だ!! ダンキは生きてる。俺は、そう信じてる」
ザンキの重い言葉に、しぶしぶながら納得して足を止めるショウキ……。
○オープニング曲
○サブタイトル
十二之巻『刹なる志気』
○たちばな・地下作戦室
神妙な面持ちでモニターを見つめる勢地郎、ザンキ、トドロキ、ショウキ、そしてフブキ。
画面には、太い触手により弾鬼が地中に引っ張り込まれる様子が、ノイズ混じりに映し出されている。
勢地郎「……やっぱり、か」
勢地郎、そう呟きながら、中央の机の上に広げていた大きな古書をパラパラとめくり、あるページをバンと見開く。
トドロキ「(古書を覗き込み)ラセツニョ、ですか?」
勢地郎「そうだ。こいつは非常に珍しい魔化魍で、いくつもの条件が重なり合わなければ生息しないと言われている。……恐らくは、この地で何十年も成長が止まっていたものが、例のキュウビとタマモの妖力の影響を受けて突然変異したんだろう」
ザンキ「そいつも、怨念型の魔化魍なんですか?」
勢地郎「いや、ラセツニョに関してはそういう記録はないな。キュウビやタマモが実体を持つ闇の鬼たちを造り出していたのとは逆に、こいつは自分の幽体からタキヤシャやミズチのような怨念魔化魍を生み出していたと考えられるねぇ……」
ショウキ「じゃあ、直接音撃で退治できるということですね!?」
勢地郎「ああ。ただ……」
と、ここでザンキの尻ポケットからピーピーと電子音が。
ザンキ「ん?」
ザンキ、ポケットから小型受像機を取り出して、モニターを開く。
すると、そこには微かに映る、弾鬼の姿が!
ショウキ「(ザンキの持つ受像機のモニターを覗いて)……弾鬼さん!! 弾鬼さんなんですか!?」
モニターに問いかけるショウキ。
と、スピーカーから小さな声が。
弾鬼「(受像機から)……俺だ! 俺は生きてるぞ~」
思わず安堵の表情となる全員。
ザンキ「そうか……。あの瑠璃狼のチップ、他のディスクとも連動してたんだな」
弾鬼「(受像機から)コイツ、俺をエサにする気があんのかどうかは分からんが、なんかず~っとイビキかいて寝てやがる」
ザンキ「そうか。しかし、油断するなよ!」
弾鬼「(受像機から)分かってるって! 何ならここでブチのめしてやりたいところだが、この有様じゃあな」
ノイズ混じりの画面には、太い触手で体をグルグル巻きにされている弾鬼の姿が映っている。
ショウキ「弾鬼さん! 必ず助けに行きますから、待っててください!!」
弾鬼「(受像機から)おう! 早いとこ頼むぜ!」
と、ここで受像機の電波がブチッと切れる。
勢地郎「……とりあえず、無事で何よりだ。しかし、今は軽い冬眠状態のようなものだろうから、どちらにしても急がなければならない。……で、その音撃の方法なんだがね、こういう特殊な条件で生まれた魔化魍ゆえ、こちらもバランスを整えた合同音撃が必要なんだ」
トドロキ「バランス?」
勢地郎「そう。特殊編成チーム、とでも呼ぶかな」
そう言って、フブキの方をチラリと見遣る勢地郎。
フブキ、勢地郎と目を合わせ、コクリと頷く。
○右京の自宅 & すずめの自宅
ベッドの上で携帯電話を眺める右京。
かけるかかけまいか幾度も迷った挙句、意を決してすずめに電話を入れる。
× × ×
画面、ここから交互にすずめ、右京。
ベッドに寝転んで、本を読んでいるすずめ。
枕元に置いていた携帯電話が鳴り、サッと起き上がって電話を手に取る。
携帯電話の画面に、『薄葉右京』の着信通知。
すずめ、一瞬ニコッとしたものの、すぐにムッとした表情に変わり電話に出る。
すずめ「もしもし!」
× × ×
右京「…あ、良かった、出てくれて。……その、ちょっと、会いたいんだけどな」
× × ×
すずめ「しばらく会わないって、言ったわよね~。……それとも、ワケを話してくれるのかしら?」
× × ×
右京「……うん」
× × ×
すずめ「へぇ~。……じゃあ会ってあげてもいいかなあ。……うん、分かった。じゃあ後でね!」
すずめ、電話を切ると、ニッコリ笑みを浮かべて立ち上がり、クローゼットを開けて洋服を選び始める。
× × ×
右京、切れた電話をしばらく眺めて眼を瞑り、両手を合わせ、祈るように電話を前頭葉の辺りに持っていく……。
○ファミリーレストラン
いつものテーブルに、向かい合って陣取り食事を摂っている右京とすずめ。
俯き加減の右京に対し、すずめは身を乗り出して目を丸くしている。
すずめ「……何だって? あの……、何の話してんの?」
右京「いや……。だからさ、俺、鬼を目指そうと思ってるわけ」
すずめ「何なのよ鬼って? そんな職業、あるわけないじゃん!……あ、まさか変な新興宗教じゃないでしょうね!?」
右京「そんなんじゃねーよ! ……その、人助けする仕事だよ」
すずめ「意味分かんない! ……結局、何すんのよ? 鬼のように何かに全力注ぐってことなんでしょ?」
右京「いや、そうじゃなくって……。(と、フブキの『猛士はね、裏の組織なんで一応秘密にしておいてもらいたいのよ』という言葉を思い出し)……そ、そう! そうなんだよ!!」
すずめ「だから何よ?」
右京「えと……、そう! オリエンテーリングだよ! オリエンテーリングの鬼になってやろうかと思って」
すずめ「(訝しげな表情で)オリエンテーリングゥ? アンタ、そんなのに興味あったっけ?」
右京「あったさ! 言ってなかったっけ?」
すずめ、右京の曖昧な態度に呆れて、大きく溜め息をつく。
すずめ「……やっぱり訳分かんない。それが音楽辞める理由?これまで何年も続けてきたオーボエに未練はないの? ……なんか私、悲しくなってきたよ……」
すずめの言葉に、黙り込んでしまう右京……。
○たちばな
店内準備中の香須実、日菜佳、そしてひとみの三人。
ひとみ「フルート協奏音撃?」
香須実「そう。今度の魔化魍を退治するためには、ある特定の音撃バランスを保って攻撃しないといけないんだって」
日菜佳「過去の例では、弦を中心にメンバー構成してるんスけど、分析の結果、今度のヤツはフルート中心が一番効果ありそうってわけです!」
ひとみ「へぇ~」
机を拭くのも忘れ、二人の話に聞き入るひとみ。
香須実「フルートは、もちろんフブキさん。で、周りで合わせるのは、打楽器系にヒビキさん。管楽器系にイブキ君とショウキさん、それとトウキさん。弦楽器系にサバキさんとトドロキさん。あと、ミカヅキさんがピアノ担当で来てくれるんだって」
ひとみ「うわあ、凄い! なんかオーケストラみたいですね!!」
日菜佳「九人の特別編成チームなんだって。……あれ? 九人?(指折り数えて)あと一人は……」
疑問形の表情になる三人。
と、そこへ奥から勢地郎が顔を出す。
勢地郎「……美しいハーモニーを奏でるためには、しっかりと全員をまとめる役目も必要なんだよぉ?」
眉間にしわを寄せながら、キョロキョロと顔を見合わせる香須実、日菜佳、ひとみの三人。
勢地郎、三人の様子を見て、ニヤリと微笑む。
○空港
サングラスをかけ、スラッとした中性的な人物が空港の通路を歩く。
手には長細いケースを携え、濃い紫色のスーツに身を包み、颯爽と歩いていく。
○同・中央の出入口
自動扉が開き、紫スーツの人物が出てくる。
と、目の前に黒いハイヤーが停車。
運転手が降りてきて、後部座席のドアを素早く開ける。
運転手「どうぞ」
紫スーツの人物は、ニコッと運転手に微笑みかけて、ハイヤーに乗り込む。
運転手、運転席に戻って、静かに車を発進させる。
《CM》
○とある高速道路
ミカヅキの専用バン・超鷹(ちょうよう)が走る。
○超鷹の中
運転席にはミカヅキ。
左手でカーコンポシステムを操作、車内に『ボルテスVの歌』が流れる。
ミカヅキ「……くぅ~! やっぱり、ボルテスの歌は泣けるなあ……。よっしゃ! 行くで!!」
ミカヅキ、気合を入れ直して超鷹をかっ飛ばす。
○とある一般道
専用バイク・竜巻を走らせるイブキ。
後部座席にはあきら。
そしてその後方には、同じく専用バイクを走らせるショウキの姿。
さらに後方には、トウキの専用バンが追走している。
○トウキの専用バンの中
運転席にいるのはトウキ。
そして、助手席では小学四年生になるトウキの息子が地図を眺めている。
トウキの息子「父ちゃん、今日のはどんな魔化魍なの?」
トウキ「おう。今日はな、かなり手強いヤツだ。清めの方法もいつもと違う。……状況が予測しづらいから、今日は車の中から見てるんだぞ?」
トウキの息子「分かった。しくじんなよ~、父ちゃん!」
トウキ「おうともよ!!」
さらにアクセルを噴かすトウキ。
○別の公道
トドロキの専用バン・雷神、そしてサバキの専用バンが道路を走る。
○雷神の中
運転席で、一人運転するトドロキ。
トドロキの脳裏に、出発前のザンキとの会話がよぎる。
× × ×
《回想・トドロキの自宅ガレージ》
出発の準備をするトドロキ、雷神に武器や荷物を積み込む。
その様子を、ガレージの壁にもたれて見ているザンキ。
ザンキ「……トドロキ。今日は、スマンが一人で行ってきてくれんか」
トドロキ「(驚いて)ええ!? ちょ……、何でですか!? ザンキさんいなかったら、もしまた怨念魔化魍が誰かに乗り移ったりなんかしたら……」
ザンキ「ラセツニョは実体型だから、大丈夫だ。それに、今回は山陰支部からまとめ役が来るって話だからな」
トドロキ「山陰……ですか」
ザンキ「ああ。……俺は、ちょっと外せん用事があって、たちばなに残る」
トドロキ「用事って、何スか?」
ザンキ「ちょっとな……。お前は、自分の場所でしっかり頑張れ! 今度のヤツは、全員の音撃がうまく調和しないと退治できないんだから、くれぐれも気を抜くなよ!」
トドロキ「……は、はい!!」
《回想・ここまで》
× × ×
トドロキ、不安そうな面持ちでハンドルを握りしめる。
トドロキ「ザンキさん、一体……。(と、頭を左右にブンブンと振って)ああ、ダメだダメだ!! 俺は、今俺の出来ることをする!! そうッスよね、ザンキさん!!」
さらにスピードを上げる雷神。
○サバキ専用バンの中
運転席に石割、そして助手席にサバキ。
石割「今度のようなパターンは、かなり珍しいんですよね?」
サバキ「そうだな。俺がまだ駆け出しだった頃に、一回だけ同じようなタイプのヤツが出たな。……あん時ゃ弦中心の布陣だったから、かなりプレッシャーだったぜぃ」
石割「今回はフルートってことは、フブキさんがメインになるわけですねぇ?」
ニヤニヤした顔で、サバキを横目で見る石割。
サバキ「(そんな石割の表情に気付いて)オイコラ、何だその顔は! 俺は仕事に私情は挟まねーんだよ!」
石割「ハイハイ、さすがは我が師匠」
サバキ「あ! てめぇ信用してねーな!? 俺はな……」
石割「はーい、大きくカーブしまーす」
石割、必要以上に車を傾けながら、大きなカーブを曲がっていく。
サバキ「うわっと!!」
助手席でズッこけるサバキ。
○公園の沿道
専用バイク・凱火を停車させ、そこに肘を置いて立っているヒビキ。
と、明日夢が道沿いに走ってくる。
明日夢「……すいません、ヒビキさん! 遅れまして……」
ヒビキ「大丈夫なのか? お母さん、熱で寝込んでるんだろ?」
明日夢「もうだいぶ良くなりましたんで。それに、母さんが『仕事なんだから、しっかり頑張ってきなさい!』って」
ヒビキ「そうか。……よし!(明日夢にヘルメットを渡しながら)今回のような音撃は、一生に一度経験できるかどうかってヤツだからな。しっかり見とけよ」
明日夢「(ヘルメットを被りながら)はい!!」
ヒビキ「よし!! じゃ、しゅっぱ~つ!!」
大きくエンジンを噴かせ、凱火を発進させるヒビキ。
○森の中
既に例の空地近くまで来ているフブキ。
停車させた専用バン・結晶のサイドドア部分に腰掛けて、フルート型音撃管・烈雪の手入れをしている。
フブキ、烈雪を口に当てて少し吹く。
美しいフルートの音色が森の中いっぱいに広がり、木々のざわめきが伴奏のように同調する。
烈雪を口から離し、立ち上がって空を見上げるフブキ。
フブキ「……あとは、頼みます」
○たちばな
暇な時間帯の店内、香須実と日菜佳がくつろいでいる。
と、入口の扉が開いて、ザンキが入ってくる。
香須実「あれ? ザンキさん! 皆さんと一緒に行かなかったんですか?」
ザンキ「ああ。ちょっとやる事があってね。……下にいるから、彼が来たら、連れてきてくれないか」
ザンキ、そう言うと奥へと入っていく。
日菜佳「彼?」
香須実と日菜佳、不思議そうに顔を見合わせる。
○謎の洋館があった空地・地中
相変わらず、ラセツニョの触手に巻きつかれたまま身動きできない弾鬼。
負担を軽くするために、顔の変身を解除する。
ダンキ「……ふぅ~~」
と、突如ラセツニョの身体がブルブルと震え出し、巻きついた触手がキツくなったり緩くなったりと、動きを見せる。
ダンキ「いかん、起きやがったな。……ちくしょう! まだかよみんなは!!」
○柴又商店街
商店街を歩く右京。
その脳裏に、先程別れたすずめの言葉がよぎる。
すずめ「……よく分かんないよ。やっぱり、今はちょっと、距離を置きたい感じかな。……ゴメンね」
大きく溜め息をつきながら歩く右京。
しかし、たちばなが目の前に近付くにつれて、キッと表情を引き締めていく。
○たちばな
店内には、馴染み客が一組。
その客たちと談笑する香須実と日菜佳。
と、入口の扉が開いて、右京が入ってくる。
日菜佳「……いらっしゃいませ! ……あ、どうもどうも! もう大丈夫ですかあ?」
右京「はい。どうも、この間はご迷惑をお掛けしました」
ペコリと頭を下げる右京。
香須実「(椅子からゆっくり立ち上がって)あの……、フブキさんなら、今日も来てないんですけど……」
右京「あ、いえ。今日は……、ザンキさん、という方から連絡をいただきまして……」
香須実と日菜佳、ギョッとして顔を見合わせる。
右京「あの……、ここへ来ればいるから、と……。まだいらしてないですかね?」
日菜佳「あ! いえいえ!! ザンキさんならさっきから奥でお待ちかねです! ご、ご案内します!!」
日菜佳、恐る恐る右京を地下作戦室へ案内すべく、奥へと連れていく。
腕組みし、複雑な表情を浮かべる香須実……。
○同・地下作戦室
中央で向かい合って座っている勢地郎とザンキ。
と、日菜佳が右京を伴って階段から降りてくる。
日菜佳「あのう……、薄葉さんが来られましたので……、お連れしたんですがぁ……」
右京、階段を降り切ったところで姿勢を正し、深々と礼をする。
右京「薄葉右京です!」
勢地郎「やあ、いらっしゃい。こないだは大変だったねぇ」
ザンキ「まあ、そう硬くならずに、ここに座んなさい」
ザンキ、自分の隣の席を右京に促す。
右京「はい! 失礼します!!」
右京、緊張いっぱいのままザンキの隣に座る。
日菜佳、怪訝な表情でソ~ッと階段を上がっていく。
勢地郎「(お茶を湯呑みに注いで右京に差し出しながら)いやね、今日君に来てもらったのは、他でもないんだ」
お茶を差し出され、軽く会釈する右京。
勢地郎「君は、ここ何年かずっと、フブキ君に弟子入りを懇願してるんだってね?」
右京「……あ、はい。でも、フブキさんは、今のままの俺では弟子には出来ないって言うばかりで……」
勢地郎「そうらしいね。でも、君の気持ちは本気ってことなんだね?」
右京「もちろんです! ……初めは、フブキさんのように音楽とこの仕事の両方を極めたいって思ってたんですが、やっぱりどっちつかずになっちゃう気がしてきて……。それで、思い切ってオーボエ辞めて、この世界になんとか入りたいって、でも……」
俯いて唇を噛み締める右京。
勢地郎「……君の気持ちが、本当に本気ならば、ここにいるザンキ君が、実は後継者を探してるところなんだ」
右京、ハッとしてザンキの方を見る。
ザンキ「……と言っても、俺が探してるのは鬼の跡継ぎじゃないんだ。こないだ、君が乗り移られた化け物、ああいうヤツを封印する呪術師も、この組織では必要不可欠なんだよ」
まだ今一つ理解できない様子の右京。
勢地郎「こういう術を使える人材は、全国でも少なくてね。ザンキ君は、師匠だった先代のザンキさんから受け継いでこれまで頑張ってくれてたんだけど……」
ザンキ「そろそろ力が弱くなってきた気がするんでね、早めに跡継ぎを探さなきゃならないって思ってたんだ。……君、いや薄葉君は、この間魔化魍に乗り移られたよね」
右京「……はい」
ザンキ「魔化魍が人間に乗り移るってのは、実は非常に珍しい例なんだ。細胞がうまく同調しないと、お互いに弾け合うのが普通だね。この同調しやすい体質ってのは、実は同時に、術を体得しやすい資質でもあるんだよ」
右京、ザンキの思いもよらぬ説明に思わず生唾を飲み込む。
ザンキ「さらに薄葉君。君はあの時、タキヤシャに身体を支配されまいと、無意識の内に戦っていたんだ」
右京「……え!? そうだったんですか!?」
ザンキ「ああ。これはね、君が魔化魍の支配力に負けない強い意識を持っている証なんだと、俺は思うんだ」
右京「そんな……」
右京、怖いような嬉しいような、妙な気持ちになって下を向く。
ザンキ「どうだろう? 俺の元で、呪術習得の修行をしてみる気はないかな? ……もちろん、俺がそうだったように、後々別の修行を積めば、鬼として活動するということにもなるかもしれない」
ザンキの言葉に、より真剣な表情になる右京。
勢地郎「……まあ、すぐに答えは出ないだろうから、一度じっくり考えてみてくれないかなあ」
右京「……はい。その……、正直、今はどうお答えしていいか分かりません。俺、鬼になって人助けしたいってことしか考えてませんでしたから……」
右京の言葉に、少し苦笑いの勢地郎。
ザンキ「……薄葉君。人助けするってことがどういうことか、自分が信じる道を進むってことがどういうことか、君なりに、もう一度考えてみてほしい」
右京、フブキと同じようなことを今またザンキにも言われ、頭をガツンと殴られたような気持ちになる。
右京「……心を……、鍛える……」
右京の呟きに、勢地郎とザンキが一瞬眉をひそめる。
右京「いえ! ……その、一日待ってくれませんか? 明日、また伺います!!」
思いのほか快活な右京の返事に、口元を緩ませる勢地郎とザンキ。
○森の中
例の空地に向かって歩を進めるフブキ。
と、前方の木の陰から、スッとミカヅキが現れる。
ミカヅキ「(軽く手を振りながら)フ~ブッキさん!」
フブキ、ミカヅキの姿を見て、ニコッと笑いかける。
フブキ「ミカヅキさん。わざわざどうも」
フブキ、ミカヅキに軽く頭を下げる。
そして、並んで歩く二人。
ミカヅキ「今回はフルート中心ですね。音撃楽譜、ちゃんと頭に入ってます?」
フブキ「大丈夫です。メインは初めてなんですが……。ミカヅキさんは、結界担当ですね?」
ミカヅキ「そう! 音撃空間を一定空間に閉じ込めるっちゅうのが、今回のボクの役目ですね。案外体力いるんですよ、コレ」
森を抜け、例の空地が目の前にに見えてくる。
と、森の切れ目にトウキのバンが停車していた。
助手席の傍では、あきらがトウキの息子に話しかけている。
そして、その近くでイブキ、ショウキ、トウキが音撃管のチェックをしている。
フブキ「お疲れ様です」
トウキ「おお! 来たかリーダー!! 頼むぜリーダー!!」
と、そこへサバキと石割、そしてトドロキもやってきた。
サバキ「ウィ~~ッス」
イブキ「サバキさん、ご苦労様です」
サバキ「おう! みんなよろしくな!!」
トドロキ「(緊張した様子で)……よ、よろしくお願いします!!」
大声で挨拶し、頭を深々と下げるトドロキ。
と、今度はヒビキと明日夢が到着。
ヒビキ「……スマンスマン! 待たせちゃって!! ……えと、俺が最後?」
イブキ「いえ。あとは……」
ショウキ「あの人が来れば……」
と、皆の後方から澄んだ声が。
声「皆さん、揃いましたね」
振り返る八人の鬼たち。
そこには、サングラスをかけ、濃い紫のスーツに身を包んだ中性的な人物が。
ヒビキ「ヒュ~」
イブキ「この方が……」
フブキ「……シキさん」
シキと呼ばれた人物、サングラスを外して、キリッとした表情で空地の中心部を見据える。
シキ「さあ、始めましょう。……音撃の時間です」
○十二之巻 完
○エンディング曲
○次回予告
音笛を吹くミカヅキ、イブキ、トウキ、ショウキ。
音錠を鳴らすサバキ、トドロキ。
音角を鳴らすヒビキ。
音笛を吹くフブキ。
そして、長細いケースをカチッと開けるシキ。
紫鬼(しき)「……行きます」
最終之巻『夢のはじまり』