仮面ライダー吹雪鬼   作:三澤未命

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十一之巻『顧みる地表』

○山奥の火葬場

 響鬼、タキヤシャの緑泡攻撃を転がり避ける。

 と、そこにフブキが駆けつけ、走りながら音笛を吹いて鬼に変化!

 扉の外では、つけてきた右京が中の様子を窺う。

響鬼「(跪いたまま)吹雪鬼さん! やっぱりコイツ、例のタイプですよ」

吹雪鬼「……持ってきた?」

響鬼「もっちろん」

 響鬼、腰の後ろからヘッドセットマイク型の音撃転換装置を二つ取り出す。

 と、タキヤシャがスゥーッと入口の扉のところへと飛び、パキッ!!と大きなラップ音が!

 驚いて振り返る吹雪鬼と響鬼。

 そこには、タキヤシャが乗り移り、肌が緑色に変化して異様なオーラを放つ右京の姿があった……!!

吹雪鬼「……右京君!!」

響鬼「ニャロゥ!」

 タキヤシャに乗り移られた右京、髪の毛を逆立たせ、白目をむいてゆっくりと倉庫内へと歩を進める。

 響鬼、吹雪鬼にヘッドセットマイク型の音撃転換装置を投げ渡す。

 キャッチする吹雪鬼。

 吹雪鬼と響鬼、音撃転換装置をそれぞれ頭部にセットし、両手を胸の前で合わせて念じ始める。

 

○同・敷地内の砂地

 走るザンキ。

 周りをキョロキョロと見渡し、気配を察知して奥の倉庫へと駆けていく。

 

○オープニング曲

 

○サブタイトル

 十一之巻『顧みる地表』

 

○山奥の火葬場・奥の倉庫

 両手を胸の前で合わせて念じる吹雪鬼と響鬼。

 次第に、二人の頭上に光る球体が浮かび上がってきた。

 その間、タキヤシャに乗り移られた右京は、倉庫の中央でガクッと膝を落とし、強烈なオーラを発しながらブルブルと身を震わせていた。

 と、そこにザンキが駆けつける!

ザンキ「(中の様子を一瞬で判断し)……ダメだ! 猛鬼声魂を放てば、彼の体が壊れるぞ!!」

 ザンキの言葉に、スッと手を離す吹雪鬼と響鬼。

 二人の頭上の光球がフッと消える。

 ザンキ、右京の方へとにじり寄る。

ザンキ「……乗り移られたのか?」

吹雪鬼「すみません、私としたことが……。後をつけられていたようです」

 相変わらず、跪いてワナワナと体を震わせている右京。

ザンキ「あの震え方……、もしかするとあの青年、魔化魍の意志に支配されないように戦っているのかもしれん」

吹雪鬼「え!?」

 思わず右京をジッと見つめる吹雪鬼。

ザンキ「まあ、もしそうだとしても無意識だろうけどな。とにかく、俺がヤツを外へ追い出す! 出た瞬間に、頼むぞ」

響鬼「りょ~かい! シュッ」

 ザンキ、両手の指を顔の前で何度も組み替えながら、右京に向かって呪文を唱え始める。

 吹雪鬼と響鬼は、再び念の力で頭上に光球を作りこむ。

 と、ふいに立ち上がる右京!

 振り返り、般若のような形相でザンキを威嚇する。

 そして、右京の体から激しいオーラが飛び散り、倉庫内にある椅子や箱などがフワリと浮かぶと、次々とザンキに襲いかかっていく!

 木や鉄の箱などがその体をかすめるが、怯むことなく呪文を唱え続けるザンキ。

 しかし、鉄製のボードが頭部に命中し、ザンキの頭から血が滴り落ちる!

 その光景を見て、一瞬ピクッと反応する吹雪鬼と響鬼だったが、ザンキを信じてそのまま念を送り続ける。

右京「……ヴ、ヴァァァァァ……!!」

 声にならない叫び声を上げる右京。

ザンキ「……静まれ!!」

 ザンキ、左手で大きく十字を切って、右京を一喝する!

右京「グワァァァァァーーー!!」

 苦しむ右京。

 そして、タキヤシャの輪郭が徐々に右京の体から浮かび上がり、ついには空中に分離した!!

吹雪鬼・響鬼「音撃念・猛鬼声魂! ハァァァァァァァァ……、ハァーーーーー!!」

 吹雪鬼と響鬼の頭上に浮かんでいた金色の光球が、二人の清めの声とともにタキヤシャに向かって飛んでいく!

 光球が二つ、タキヤシャに命中し、倉庫内が激しい光に包まれる!

 そして……、爆発!!

   ×   ×   ×

 光が止み、静まり返った倉庫内、その中央に右京が倒れ込んでいる。

吹雪鬼「右京君!!」

 吹雪鬼、右京に駆け寄ってその体を抱き起こす。

 右京は、衰弱し切った様子で完全に気を失っている。

ザンキ「……急いで、たちばなへ戻ろう。多分……、体には異常ないとは思うが……」

 片膝を地面につき、右手で頭を押さえるザンキ。

 響鬼、顔の変身を解いてザンキに近付いていく。

ヒビキ「ザンキさんこそ、大丈夫ですか?」

ザンキ「ああ……。俺は大丈夫だ。た、大したことない……」

 吹雪鬼、右京を抱きかかえながら顔の変身を解く。

フブキ「ヒビキ君」

ヒビキ「え?」

フブキ「このコ、おぶってってやって」

ヒビキ「え? 俺ですか?(ザンキ、そしてフブキへと顔をキョロキョロさせて)……ま、そうでしょうね、ハイハイ」

 ヒビキ、「ホラホラ、しっかりしろよ」などと声をかけながら右京を背負う。

 安堵の笑みを浮かべるフブキ。

 そして、その様子を何か神妙な面持ちで見つめるザンキ。

 

○たちばな・居間

 布団の上で眠っている右京。

 みどり、右京の体にサーチライトを当てながら、手元のモバイル画面を覗く。

みどり「……うん、大丈夫! 魔化魍細胞の反応もないし、これといった外傷もないみたい。今は精神的なショックと疲労から気を失っているだけだと思うから、じきに気がつくんじゃないかな」

 入口から覗き込んでいた香須実と日菜佳が、ホッと胸を撫で下ろす。

日菜佳「ふぅ~。……しかしまあ、みどりさん、お医者様みたいですねェ」

みどり「あらそう? ……開業しちゃおうかしら。女医・みどり!な~んて」

 軽く笑い合うみどり、香須実、日菜佳の三人。

 同じように居間を覗き込んでいた勢地郎とヒビキも、笑みを浮かべながら店先の方へと歩いていく。

 

○同・店頭

 壁にもたれ、腕組みしながら立っているフブキ。

 その前では、ザンキが幾分険しい表情で座っている。

 勢地郎とヒビキが店頭に出てくる。

ヒビキ「いやいや良かったですねぇ、フブキさん。あの青年、大したことなさそうで」

フブキ「そうね。ありがとう、ヒビキ君」

 滅多に見せないフブキの笑顔に、ちょっぴり戸惑うヒビキ。

 と、ザンキが立ち上がって勢地郎の傍へと移動。

ザンキ「……おやっさん、ちょっと」

勢地郎「ん? 何だい?」

ザンキ「ちょっと……、いいですか?」

 ザンキ、そう言って勢地郎を促しながら奥へと入っていく。

 後に続く勢地郎。

 キョトンとした顔つきのヒビキ、一方フブキは複雑な表情を浮かべる……。

 

○同・居間

 眠る右京を見つめるみどり、香須実、日菜佳の三人。

みどり「……でも、大変な目に遭わせちゃったわねぇ」

香須実「そうですねぇ……」

 右京に哀れみの眼差しを向けるみどりと香須実。

日菜佳「あの……、思うんスけど、彼女さんには、知らせなくていいんですかね?」

みどり・香須実「ああ!」

 

○とある百貨店・呉服売場

 にこやかに接客するすずめ。

 反物を手でクルクルッと巻きながら、お客に商品説明をしている。

 

○たちばな・居間

 考え込むみどり、香須実、日菜佳。

香須実「やっぱり……」

みどり「連絡できないよねぇ……」

 再び右京の方を見遣る三人。

 

○夜空

 それから数時間。

 日もとっぷりと暮れて……。

 

○たちばな・居間

右京「う……、うう……」

 顔をしかめて苦しむ右京、ゆっくりと、その目が開く。

 そしてボンヤリと、次第にはっきりと見えてくる天井。

 右京、辺りを見渡しながら、上半身を起こす。

右京「アイタタタ……」

 全身に痛みが走り、思わず腰に手をやる右京。

 と、通りかかった日菜佳が、目を覚ました右京に気付いて立ち止まる。

日菜佳「……あ! 気が付かれました!?」

右京「え?」

 右京、扉の外にいる日菜佳の方を振り返る。

日菜佳「みどりさんみどりさん! 気が付かれましたよ!」

 日菜佳、そう言いながら、手に持っていたお盆を脇に抱えて居間に入る。

日菜佳「大丈夫ですかあ? どっか、痛いとこないですかあ?」

 クリッとした目で、右京を覗き込む日菜佳。

右京「へ……平気です! ……ここは……」

 そう言って、再び部屋を見渡す右京。

 と、みどりが部屋に入ってくる。

みどり「大丈夫ぅ~? 大変だったわね~」

 そう言いながら右京の傍に座るみどり、ポケットから小型の血圧計を出す。

みどり「ちょっと、腕出してくれる?」

右京「あ……、はい!」

 左袖をまくって、腕を出す右京。

 みどり、小型血圧計を右京の左腕肘関節のところに取り付け、数秒経ってからそれを外して数値を確認する。

 次は胸ポケットからペンライトを出し、右京の顔に手を添える。

みどり「ちょっとゴメンね」

 みどり、ペンライトで右京の眼を照らして、瞳孔状態を確認する。

 右京、思わず少し頬を赤らめる。

みどり「うん、大丈夫みたいね。しばらくは体中ダルいかもしれないけど、怪我もないみたいだから」

 改めてホッとする日菜佳。

右京「ありがとうございます……。その、俺一体、どうなったんですか?」

みどり「ん~、一時的に、化け物に乗り移られてしまったようね。幸い、フブキさんたちが助けられたから良かったけど」

右京「そうですか……」

 うつむく右京。

 何と言っていいか分からない様子の、みどりと日菜佳。

 と、部屋の戸に腕組みしながらもたれて立っているフブキの姿が。

フブキ「右京君」

右京「……フブキさん!」

 フブキの方を振り返る三人。

フブキ「歩ける? ……ちょっと、散歩しましょうか」

右京「はい!」

 右京、体の痛みをこらえながら、布団から出て立ち上がる。

 

○夜道

 並んで歩くフブキと右京。

フブキ「……体、大丈夫かしら?」

右京「はい! ……あ、助けていただいて、本当にありがとうございました」

 黙って歩くフブキ。

右京「……その、いや……、すいませんでした。ご迷惑かけてしまって……」

フブキ「そうね」

右京「でも俺、怖いだなんて思いませんでした! 俺、絶対鬼になってみせますので、フブキさんの弟子にしてください!!」

 フブキ、まっすぐ前を向いたまま、それに答える。

フブキ「怖い怖くないの問題じゃないのよ。あなた、今回取った行動の意味が分かってる? たまたまうまく助けられたからいいようなものの、一歩間違えば命を落としていたわよ」

右京「……命を懸ける覚悟は、出来てるつもりです!」

フブキ「(呆れ顔で溜め息をついて)……違うの。そうじゃなくて、今回のあなたの行動が、私達の業務遂行の大きな妨げになったということが問題なのよ。自分勝手で軽率な行動が、どれだけ周りに悪影響を及ぼすのか、そういうことをちゃんと考えなさい」

右京「それは……」

 唇を噛みしめながら、うつむき加減になる右京。

 そして、二人はとある神社の境内にさしかかる。

 

○とある神社

 境内の石垣に腰を下ろすフブキ。

 右京は、その前に立ちつくしている。

フブキ「……あなたが悪い人間じゃないことは分かってるわ。本気で鬼を目指そうとしていることも分かる。でもね、こうやって話しててもどこか噛み合わないのは何故かしら? そういう意識が改善されない内は、悪いけどあなたを弟子にするつもりはないわ」

 冷たく言い放つフブキ。

右京「そんな……、俺……」

 食い下がろうとするが、言葉が見つからない右京。

フブキ「右京君。私が前に、もっと鍛えなさいって言ったこと、覚えてる?」

右京「……はい」

フブキ「ひと口に鍛えると言ってもね、体を鍛えることばかりじゃないのよ。人はね、心がしっかり鍛えられて初めて人間として一人前になるものなの。あなたはすごく素直ないい心を持っている。でも、心の視野が今一つ狭いんじゃなくて?」

右京「……考えが甘いってことですか?」

フブキ「甘いと言うより、キャパが小さいと言うべきかしら。自分を信じることと、信念だと思い込んで他者を受け入れない状態は別物だってこと。こういうことはね、概して経験で培われるものなんだけど、自分自身の意識の持ちようで変われるものでもあると思うのよね。心のキャパが小さいと、社会的な常識を逸脱していることに自分で気付かないまま、頭でっかちになっていく危険があるの。まずは、地に足をつけることが大事。……分かりにくいかしら?」

右京「いえ……。……俺は……」

 右京、両手の拳を握り締めてワナワナと震え始める。

 と、ふいに踵を返して、

右京「すいません! 失礼します!!」

 そう言って、その場を走り去る右京。

 フブキ、右京の後姿を見送りながら、少し遠い目になる。

 

《CM》

 

○たちばな・地下作戦室

 中央の机の前で、腕組みして座っている勢地郎とザンキ。

 PCの前では、日菜佳が難しい顔をしてキーボードと格闘している。

 そして、書棚の前で何やら古い資料を広げているみどり。

勢地郎「……分からんなあ」

日菜佳「発生条件も地域も特定できない、おまけに過去の記録が全くないってんですからねぇ……」

みどり「類似する出来事はないわけじゃないのよね~。でも、その辺は例の闇の鬼の時に片付いてるし……」

 ピクッと反応するザンキ。

ザンキ「……それがもし、片付いてないとしたら?」

 その言葉に、他の者がザンキの方を見遣る。

勢地郎「ザンキ君、それって……」

 と、階段から勢い良くトドロキが降りてくる。

トドロキ「お疲れッス!」

勢地郎「あ、ああ……。お疲れさん」

 どんよりとした空気に戸惑うトドロキ。

トドロキ「え? ……ええ?」

 冷や汗を感じながらキョロキョロと顔を動かすトドロキ。

 日菜佳が目で合図して、座るよう促す。

 トドロキ、そ~っと傍の椅子に座る。

ザンキ「あの時、キュウビとタマモを清めたことで闇の鬼自体は鎮められたが、怨念魔化魍の謎は残ったままだ。今回出たタキヤシャもそうだが、テッソの早すぎる発生も解せんな」

勢地郎「ザンキ君の勘では、全てあの事件に関わりがある、と?」

ザンキ「はっきりとは分かりません。でも、どうも引っかかりますね」

みどり「それって、怨念を封じ込められるザンキさんだからこそ分かるって部分もあるのかなあ」

ザンキ「俺もそろそろガタが来てるからな。アンテナも昔ほど敏感じゃないだろうが」

日菜佳「やっぱり、後継ぎが必要なんですかね~」

 何の気なしに言った日菜佳の言葉に、勢地郎が思わず咳払いする。

 と、一瞬真顔になったトドロキが身を乗り出して口を開く。

トドロキ「……ザンキさん! 俺に継がせてください!!」

 椅子を後ろにひっくり返らせながら立ち上がり、ザンキに懇願するトドロキ。

 驚いて、トドロキ、そしてザンキを見遣るみどりと日菜佳。

ザンキ「……お前はダメだ」

 一刀両断のザンキ。

トドロキ「どうしてですか!? 俺、ザンキさんの弟子だったんですよ!? ホントだったら、俺が受け継ぐのが筋なんじゃないんですか!?」

ザンキ「お前には無理だ。……ああ、言っておくがな、お前の鬼としての能力が劣っているというわけじゃない。術を会得するには、また別の資質が必要なんだ」

トドロキ「俺、頑張ります! 頑張って会得してみせます!!」

ザンキ「……トドロキよ、頑張って出来ることと出来ないことがあるんだ。お前にはお前の良さがある。術を受け継げないからと言って、恥ずかしくなんかないんだぞ?」

 ザンキに戒められ、少し落ち込むトドロキ。

 悲しげな表情の日菜佳。

 と、ふいに電話が鳴る。

日菜佳「(ビクッと体を震わせて受話器を取り)はい! たちばなです! ……あ、ダンキさん? 父上! ダンキさんです」

 勢地郎、日菜佳の傍へ行って受話器を受け取る。

勢地郎「もしもし、立花です。……ええ!? 蛇型だって!? ……ふんふん、じゃあそいつも怨念型ってことだね? 分かった。ザンキ君とトドロキ君に、そっちへ行ってもらうよ。……ああ、もちろん。……はい、よろしく」

 電話を切る勢地郎。

ザンキ「また出たんですか?」

勢地郎「ああ。今度は蛇型の怨念魔化魍だそうだ。調べてまた連絡するので、とりあえず二人で向かってくれないか」

ザンキ「分かりました。……トドロキ! 行くぞ!!」

トドロキ「……あ、はい!!」

 トドロキ、気を取り直して大きく返事。

 そして、ヘッドセットマイク型の音撃転換装置がいくつか入ったトランクを持って、ザンキとともに勇んで階段を駆け上がっていく。

 

○右京の自宅

 自室のベッドで寝転がっている右京。

 その脳裏に、フブキの言葉が過ぎる。

フブキ「自分を信じることと、信念だと思い込んで他者を受け入れない状態は別物だってこと」

 右京、大きく溜め息をつき、寝返りを打つ。

右京「意味分かんねーよ。……信じる道を進んで何が悪いってんだ? 信念って、そういうことじゃないのか?」

 ムッスリとした表情で考え込む右京。

右京「……そういや、ちょっと前にすずめが言ってたっけなあ」

   ×   ×   ×

《回想・とある喫茶店》

 店内で語らう右京とすずめ。

すずめ「私さ、こうしてちゃんと勤め始めてから思ったんだけど、やっぱり世の中は厳しいって言うか、思い通りにはなんないって言うか……、なんて言うのかな、すごく不条理なこともたくさんあって、どう考えてもおかしいんだけど受け入れなきゃいけない事情とかもあって……、でも、その中で出来る限り自分の信念を貫こうと頑張るのが大事なんだなあって。……ちょっと、聞いてる!?」

右京「え? ……ああ」

すずめ「……ったく、上の空なんだからあ。……結局ね、バイトの身では分かんなかったこともたくさんあって、自分では百パーセント正しいと思ってても、別の立場じゃ全然違う意見が百パーセント正しかったりもするのよね。……なんかさ、それを調整していくのが、大人って感じなのよね~。……ウチの主任がね、まさにそんな感じなのよ。すっごく信念持ってやってるんだけど、ちゃんと周りも見て気ィ使ってるって言うか……。ああ! やっぱり聞いてないじゃん!」

 怒って、持っていたスプーンで右京を指差すすずめ。

右京「き、聞いてるよ! ……ハイハイ、どうせ俺は不完全なフリーターだよ」

すずめ「そんなこと言ってないじゃん! ……でも、どこであれキチンと就職すんのも、それはそれで悪くないんじゃないかな~って話!」

 言うだけ言って、徐にチョコパフェを貪り始めるすずめ。

《回想・ここまで》

   ×   ×   ×

 右京、ベッドに寝転がったまま、手を頭の後ろで組む。

右京「あ~あ……。やっぱり、どっかに就職してりゃ良かったかなあ……。でも、今更なあ……」

 右京、溜め息をつきながら目を瞑る。

 そして、それがいつの間にか寝息へと変わっていく……。

 

○上野の山地

 ダンキのベースキャンプ。

 簡易テーブルに地図を広げ、何やら話をしているダンキとショウキ。

 と、そこにトドロキの専用バン・雷神がやってきて停車。

 雷神から降車するザンキとトドロキ。

ダンキ「……あ、ザンキさん! お疲れでっす!」

ザンキ「おお、お疲れ。で、どうなんだ?」

ショウキ「(地図を見ながら)それが……、一度逃がしちゃってから動きがないんですよねぇ……」

 トドロキも地図に見入る。

 軽く会釈し合うショウキとトドロキ。

ザンキ「蛇……って言ってたな」

ダンキ「そうそう! ガタイは小っちゃいんだけど、俺の那智黒もショウキの台風も全く手応えなくてさ」

ザンキ「うむ……。おやっさんの調べでは、ミズチってヤツが怪しいってことだ」

ダンキ「ミズチ?」

ザンキ「ああ。ただ、ミズチは本来、怨念魔化魍というわけではなく、巨大な別の蛇型魔化魍の周りで、ある気候条件が揃えば発生するってヤツらしい。それが今回、何故実体を持たないのか……」

ショウキ「その、別の巨大な魔化魍ってのは何ですか?」

ザンキ「……ん、まだそれは調査中だ」

 トドロキ、ハッと気付いたように、

トドロキ「あ! 俺のディスクも飛ばしてみます!」

 そう言って雷神の方へ走り、バックラックを開けてディスクアニマルのケースを引っ張り出すトドロキ。

ダンキ「……一つ、気になることがありましてね」

ザンキ「何だ?」

ダンキ「東の方に飛ばしたディスクだけ、全然戻ってこないんですよね……」

ザンキ「う~む……。よし! 俺とダンキでディスクが帰ってこないっていう東方面を調べに行ってくる。トドロキ、お前はショウキと一緒に、引続きここを拠点にしてミズチの行方を追ってくれ」

トドロキ「はい!」

ショウキ「分かりました」

ザンキ「行くぞ!」

ダンキ「おっしゃ!」

 ザンキとダンキ、二人で東の森林地帯へと向かう。

 

○同・森林地帯

 周りの様子を窺いながら歩く、ザンキとダンキ。

 ダンキは、音角を目の前でかざしながら歩いている。

ダンキ「……あ」

ザンキ「どうした?」

ダンキ「(音角を額に当てながら)……かすかに信号がありますねェ。……こっち!」

 ダンキ、音角の読み取った信号をもとに方向を定めて走り出す。

 後に続くザンキ。

   ×   ×   ×

 しばらく進むと、ダンキが前方の地面に何かを見つける。

 ダンキが落ちていた物体を拾うと、それは破壊された瑠璃狼だった。

ダンキ「こいつは……」

ザンキ「(ダンキの横からジッと覗き見て)……ん? ちょっと貸してみろ」

 ザンキ、ダンキの手から壊れた瑠璃狼を取ると、手際良く内部から小さなチップを取り出した。

ザンキ「……マイクロチップは、まだ生きてるな」

 そう言って、ポケットから小型受像機を取り出して、そのチップを埋め込むザンキ。

 スイッチを入れ、雑音とともに乱れた画像が映る。

 ザンキが微調整を施すと、やがてある場所が映し出された。

ザンキ「(画面を見て顔色を変え)……おいダンキ、見てみろ!」

ダンキ「(受像機を覗き込んで)こ……、ここは……!!」

 

○たちばな・地下作戦室

勢地郎「ええ!? 何だって~!?」

 受話器を片手に、驚きの表情の勢地郎。

 その様子に、傍にいたみどり、香須実、日菜佳が思わず顔を見合わせる。

 

○森林地帯

 携帯電話で話しながら走るザンキ。

ザンキ「間違いありませんね。あの場所にまだ何かが……」

 

○たちばな・地下作戦室

勢地郎「……分かった。応援が必要ならまた連絡してくれ。一応、ヒビキを待機させておくから」

 

○同・居間

 畳の上に寝転んで高いびきのヒビキ。

 

○同・地下作戦室

 電話を切る勢地郎。

香須実「父さん、あの場所って……」

勢地郎「うん。……渋川の、例の空地だよ」

日菜佳「ゲッ!! あの洋館があった、あそこデスカ!?」

勢地郎「キュウビとタマモを退治して、あの場所の地縛怨念は祓えたと思っていたんだが……。こいつはまた、ひと波乱ありそうだなあ」

 

○謎の洋館があった空地

 ザンキとダンキが、森林地帯を抜けて、キュウビとタマモの妖力によって存在していた謎の洋館があった空地へと足を踏み入れる。

ダンキ「見た感じ、異常はなさそうッスけどねぇ?」

ザンキ「油断するな」

ダンキ「オーライ」

 ダンキ、腰から音角を抜いて左腕で鳴らし、額へと持っていく。

 額に鬼の紋章が浮かび、全身が青白い炎に包まれる!

弾鬼「シャーーッ!!」

 両腕で炎を断ち切り、弾鬼・参上!

 弾鬼、ベルトの後ろから音撃棒・那智黒を外して低く構えながら、ジワリジワリと空地の中央へと歩を進める。

 その後方では、ザンキが音錠を鳴らして黄赤獅子を起動させる。

 と、中央の地面に、突如亀裂が入り始める!

弾鬼「何ィ!?」

 バックリ地面が割れたかと思うと、そこから太い触手のようなものがシュルッと飛び出し、物凄いスピードで弾鬼の体に巻きついた!

弾鬼「うわっ!!」

ザンキ「弾鬼!!」

 触手に完全に捕獲されてしまった弾鬼は、そのまま地面の中へと引っ張り込まれていく!

 そして、割れた地表は、徐々に再び元に戻っていく。

ザンキ「弾鬼ィ~~~!!」

 ザンキ、亀裂が消えゆく地表に走り寄るが、強力な邪気に体の自由を奪われ、その場に動けなくなってしまう。

ザンキ「う……、うう……!!」

 必死の形相で体を動かそうとするザンキだったが、ついには逆に後ろへ体ごと放り出されてしまう。

ザンキ「グワッ!!」

 倒れこむザンキ、全身汗びっしょりになりながら、弾鬼が捕らわれた中央の地表を睨みつける。

ザンキ「……弾鬼ィィィーーーーッ!!」

 

○十一之巻 完

 

○エンディング曲

 

○次回予告

 ベースキャンプで落ち合うザンキ、トドロキ、ショウキ。

ザンキ「大丈夫だ!! ダンキは生きてる。俺は、そう信じてる」

 ファミレスで話す右京とすずめ。

すずめ「何なのよ鬼って? そんな職業、あるわけないじゃん!」

 たちばなで作戦を練る猛士メンバー。

勢地郎「特別編成チーム、とでも呼ぶかな」

 十二之巻『刹なる志気』


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