遊戯王 就活生の現実逃避録(物理)   作:〇坊主

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出場するクラスを間違えておりましたので修正しました。


7ターン目『貴重な日常を』

 人生とは驚きを感じるものだ。

 このARC-Vの世界にやってきたことも然り、カードの精霊然りだ。

 

 本日晴天につき、近所のスーパーではセールが行われている。

 カード1パックが半額になったり、卵が安くなっていたりしているため大変ありがたい。

 昼ご飯の材料を買うために出てきたが、如何せんいつもより人がこちらを見ているように感じるのは俺のせいではないはずだ。

 そんな些細な事を考えつつも目的のものを買い終えた。

 

「これでやることは終わったかな。」

「お疲れ様です。聡さん。」

「お疲れでしたら、荷物は私達が持ちましょうか?」

「いや、大丈夫だ。これぐらい持てなきゃデュエリスト足り得ない。」

 

 自分に憑いている精霊《桜姫タレイア》《紅姫チルビメ》

 彼女らは今実体化して俺と共に歩いている。

 

 実体化するためには俺の体力や精神力、魔力(マナ)とかいう不思議なエネルギーなどなどを微量に消費するため疲れが出やすいらしいとのことだ。そのため二人は基本実体化をしない。

 ならばなぜ今二人が実体化しているのか?

 答えは簡単。単純に自分が二人に頼んだからだ。

 彼女らが霊体のときは基本自分にしか見えず、会話も聞こえない。

 そのためその辺で会話をしている所を一般から見ると、誰もいない空間に親しげに話しかけている不審者という構図になっていまうのだ。

 それならば実体化させて三人で歩いたほうがよからぬ噂を建てられる心配もないのではないかと思い頼んだ。

 二人共うれしそうにしているため、なにも問題はない。周りの視線を感じる?知らんな。

 

「ところで聡さん。今から・・・買いませんか?」

「買うって・・・カードをか?まぁ手持ちはあるから買おうと思えば買えるけど・・・アキ、寄っても大丈夫か?」

「構いませんよ聡様。荷物はお任せください。」

 

 少し前から二人の呼び方を変えた。

 

  タレイアはサクラ

  チルビメはアキ

 

 まぁ苗字?をそのまま使ってるだけなんだが、彼女たちにとっては喜ばしいことなのか言い始めの頃はニヤついていたものだ。

 自分としてもこちらのほうが呼びやすいため、この形で収まっている。

 

 今回のように精霊である彼女らにはピンと来るものがあるようで、パックを買うように勧めてくる。

 カードを売りにいったときも催促され、買ってみたらレッドアイズが出たことがあった。当然お店の中でも騒然となったものだ。それをすぐに売りさばいたものだからな。

 

 そんな経験もあるため買い物袋を引っさげたままカードショップに入っていく。

 元の世界とは比べ物にならないぐらい遊戯王が広まっているこの世界にとって、一ショップでも規模が違う。

 デュエルスペースもしっかりと完備され、中規模の大会を開いても人が入れそうなぐらいの大きさだ。

 

 相変わらず馬鹿げた値段のシングルカードを見ている間にサクラことタレイアが買うパックを決めていた。

 それを購入し、近くにあった椅子に座って開封する。その中身は―――

 

 

励輝士ヴェルズビュート

神風のバリア-エア・フォース

武神-ヤマト

旧神ノーデン

サイバー・ドラゴン・インフィニティ

 

 

 ファァァァァァァア!?

 そんな声を上げてひっくり返りそうになってしまった。

 なんだこれ、一体どういう封入確率を当ててしまったんだ?

 ヤマトとエア・フォースはまだわかる。いや、ヤマトもおかしいのかもしれない。

 ただ他のはどういうことだってばよ?

 1パックの封入率はかなりまばらだとは聞いていたがまさかここまでとは・・・恐ろしいわ!

 

「え、・・・いや、何ですか・・・これは・・・」

「あ、あはは。こ、こんなこともあるんですネー」

 

 案の定二人とも引きつった顔になってしまってるぞ。ただでさえOCG界で害悪だの言われていたカードが2枚も入っている時点でおかしいわ!まぁうれしいんだけどね。

 今日の運を使い切ったような気もするが気のせいだ。

 そのまま店を後にしようとすると・・・

 

「あ、あの!すいません!」

 

 見知らぬ少女に声をかけられた。

 綺麗な黒髪に可憐な声。

 服の上からでもわかるスタイルの良さ。

 和服がとても似合うと感じさせる美少女。

 身長は低いというほどでもないが、気弱そうな印象を受ける。

 

 見知らぬとは言ったがどこかで見たことがあるような・・・

 

「九条 聡さん、ですよね。先日の件はありがとうございました!」

 

 この世界に来たときに助けた少女 藤原 幽香(ふじわら ゆうか)がうれしそうな表情を見せた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「あの後お礼をしようと探しましたが、お名前以外全く情報がなかったんです。今日お会い出来たのも偶然なのですが・・・あのときは本当にありがとうございました。とても感謝しております。」

「いえいえ、お気になさらず。偶々ですから。」

「いえ、いいんです。私の意志でお礼がしたい。その気持ちは変わりませんから。」

 

 聡の返答に女神のような笑顔で答える。

 話していてとても素直な子であり、こちらも悪い気持ちにならない。

 先程の困惑していたのが嘘のように自然と気持ちが和らいでいく。

 まるで久しぶりに出会えた恋人の様とは言い過ぎであるが、良い空間が生まれていた。

 そんないい雰囲気の二人を見る存在。

 

 

「・・・ねぇ、あいつ(あの女)頭高(ずたか)くない?」

「どうする、姉さん。処す?処す?」

 

 

 カードショップの隅で精霊二人がなんか言ってる。

 

 抱く感情は嫉妬か怒りか困惑か。

 

 複雑な思いを抱きつつ、眺める二人の女性の背後に映る鬼のようなオーラが一般人にも見えるほどに、そして近づいてはいけないと本能で感じるまでになっていた。

 必然的に彼女らの周りから人が身を引いていく。

 しかし、そんなオーラも親しげに話す二人の前には儚く散っていき、虚しく消える。

 

 こちらに気づいてほしい。

 

 だが、マスターの行いを邪魔してはいけない。

 

 一線を越えることを躊躇ってしまう精霊の二人にはこの状況をどうすることも出来なかった。

 

「・・・ところで」

 

 そんな現状を打開したのは己のマスターに親しげに話しかける彼女(泥棒猫)だったことは彼女らにとってなんとも言えない気持ちになってしまったに違いない。

 

「彼処にいるお二方は聡さんのお知り合いです...か?」

 

 幽香が見つめる先には当然だが彼女達がいた。

 あんな遠くからこちらを見て何をしているのだろうか?

 

「あぁ。色々あって知り合っているんだ。」

「そうなのですか?ならば・・・」

 

 そう言うと立ち上がり彼女達のほうへ歩いていく。

 前に立つと深々とお辞儀をした。

 

「初めまして。私は藤原 幽香と申します。今後ともよろしくお願いします。」

 

「・・・サクラです。」

「アキと呼んでください、藤原さん。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 挨拶を行い、彼女達が発していたオーラも収まってきた。

 それを感じたか否か、周りの買い物客も安心するように胸を撫で下ろす。

 

「サクラさんとアキさんですね。かしこまりました。ところでここじゃなく聡さんの所でお話をしませんか?立ち続けるのは大変でしょう?」

「えっ、いいんですか?」

「?聡さんのお知り合いなのですから何も問題はないと思うのですけど・・・?何か不都合でも?」

 

 幽香にとってはただ気を配っただけなのだが、二人にとっては予想外であったようだ。

 

「えっ、いやいやただ驚いただけです。お気遣いありがとうございます。」

「当然のことをしたまでです。...ところでお訊きしたいことがあるのですが宜しいですか?」

「?はい、なんでしょうか?」

 

 二人の頭に疑問符が浮かぶ。

 初対面の自分達に何か聞くことがあるのだろうか?

 

「貴女方は聡さんのことをどのように考えていらっしゃるのてすか?」

「ふぇ!?」

「それは・・・どういうことでしょうか?」

「言葉通りの意味です。」

 

 初めて出会った人から己のマスターがどうなのかを訊かれるのは流石にアキも想定していなかったのか困惑している。

 そんな彼女らに対して幽香は更に追い打ちをかける。

 

「聡さんを、好いていると考えて宜しいですか?」

「・・・無論です。聡様は私達にとって大切なお方です。」

「そうですか・・・」

 

 幽香が少し考える仕種をし、何かを決意したかのように爆弾を投下した。

 

「それならば貴女方は恋敵です。私は聡さん・・・いえ、聡様を譲る気はありません。」

「「・・・・・・・・・ほう?」」

 

 そのお陰で再び店舗内が騒然とし、店長に怒られる事態になったのは仕方のないことなのだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では聡さん、サクラさん、アキさん。本日はありがとうございました。またお会いしましょう。」

 

 そういうと幽香は向かえの車に乗って帰っていった。

 彼女がいなくなったことで精霊の二人・・・否一人だけが安堵した表情になる。

 

「マスター、彼女は危険です。絶対内心黒々してますよ。イカ墨のように真っ黒です。ですのでお気をつけてください。」

「いや、それはサクラの私怨が絶対入っているだろ。てかなんでイカ墨をチョイスした。」

「姉さんのセンスは独特ですからねぇ~」

 

 しばらく話していたせいか昼過ぎになろうとしていた。

 今日の予定は無いとはいえ、居候している身としてはあまり遊んでいるわけにもいかない。

 歩調を早めて帰ることに決めた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「え~!?聡兄ちゃんはもうユースの大会に出場が決まってるの!?」

「あぁ、ほんとはあまり考えてなかったんだけど赤馬社長自ら言いに来てな。」

 

 遊矢達が出場権の為に頑張っているなかで衝撃の事実を伝えるとジュニアズに驚かれる。

 こんな方法はズルいとは認識している。だがはっきり言って赤の他人にデュエルを嬉々として吹っ掛けられるほどメンタルは強くないために、さらには大会の企画者自ら頼みに来るとあっては断る訳にもいかなかった。まぁ、断る理由はないんだけど。

 遊勝塾年長組が頑張っている間、自分は優雅に日常生活を送らせてもらおう。

 

「ならさ!僕にエクシーズを教えてよ!わからないことが沢山あるんだ!」

「あっ!タツヤズルい!私だって知りたいんだから!」

「オレだって痺れるくらい知りたいぜ!」

 

「わかったわかった。だが先に言わせてもらうと俺は教えるのは得意じゃない。そして教えたとしても君達が使えるかは保証しない。それでもいいか?」

「「「勿論!」」」

 

 ジュニアズの言い合いになる前に提案し、注意もしておく。時間もあるし、暇をもて余すよりは全然良い。

 それに教えると言ってもエクシーズを使ったループコンボとかを教える必要がないなら簡単だろう。教えるとしても出しかたや対処法ぐらいだ。

 同意を得たからにはちゃんと教えないとな。年長者の力を見せてやろう。

 

 

 

青年説明中-------

 

 

 

「っというわけだ。これで大体説明出来たと思うぞ。」

「フィールドに同レベルのモンスターを並べることで行える召喚方法・・・」

「オーバーレイ・ユニットを使うことで効果を使える。」

「そうそう、エクシーズモンスターは基本的に場持ちをするモンスターじゃない。今言ったようにエクシーズモンスターは効果を一回使えたらいいんだ。融合やシンクロのような自由さはないけど、瞬間火力ならトップだと思うぞ。まぁ例外は勿論あるけど、今は教える必要はないな。」

 

 軽く教えただけなのだが彼らは物覚えが良い。俺とは大違いだ。

 だけど彼らのデッキは同レベルモンスターを並べるギミックは殆どなかったはずだから出すことは出来ないだろう。

 ま、対処法を知っていれば充分なんだけどね。

 

「ま、いきなり急いで覚える必要は無いさね。続きは今度にするからしっかりと復習しておくんだぞー。」

「「「はーい!」」」

 

 ジュニアズを部屋から出て行くのを見送り、ホワイトボードに書いていた文字を消していく。

 物覚えが良い彼らだからすぐに終わったが、普通だともっとかかっていただろう。

 

「マスター、お疲れ様です。」

「サクラか。ありがとう。」

 

 サクラが持ってきたお茶を飲みつつ、時計を見ると3時を指していた。

 そろそろ塾のみんなが集まりだしてくる頃だろうか?

 そんなことを考えつつみんなに出す飲み物の用意をし始めた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ねぇねぇ!僕とデュエルしてよ!」

 

 塾生全員が揃い、デュエル結果を聞いていると紫雲院 素良(しうんいん そら)がデュエルを申し出てきた。

 どうやら赤馬 零児とのデュエルで自分は強いデュエリストだという認識になってしまったらしい。正直なところ今日はデッキ調整だけして明日の準備をしようと思っていたんだが・・・

 

「そんなこと言ってもまだ出場決定していないんだろ?そんなことやって<舞網チャンピオンシップ>に出場出来なくなっても知らないぞ。」

「大丈夫大丈夫、6連勝すれば出られるらしいから聡に負けても大丈夫!ねぇねぇ、いいでしょ~?デュエルしようよ~」

「うーん・・・」

 

 すこし考える。

 彼、紫雲院 素良とデュエルをしたことはない。ただ、彼の背景に何かがあることは確かだ。

 素良とのデュエルで全力を出さないほうがいい気がする。勘だが。

 ならば今構築しているあのデッキでいくか。

 

「わかった。なら先に行っててくれ。俺はデッキを取ってくるよ。」

「やったぁ!ありがとう、早く来てよ!待ってるからね!」

 

 承諾すると素良とてもうれしそうにデュエルスペースに駆けていった。

 その背中を見送るとコップに入ったお茶を一気に飲み干した。

 

「良かったの?デュエルを受けても・・・」

「別に自分は勝敗関係なく出れるようになってるからね。向こうもわかっているなら問題はないさ。こっちも試作中のデッキを使うからね。」

「それだと素良の奴、納得しないんじゃないか?」

「なぁに、試作デッキでもいい勝負をすれば問題ないんだ。常日頃使っているデッキが全てではないんだからな。」

 

 柚子の問いかけに答えていると遊矢が悩んだように聞いてくる。

 試作中ということはまだ動かし方も完璧ではないということだ。だが、それだけじゃデュエルはわからない。

 いくら環境デッキでも負けるときは負けるし、紙束デッキでも勝てるときは勝てるのだから。

 それに保険として彼女に出てもらう。

 

(アキ、頼んだよ。)

『了解しました、マスター。お任せください。』

 

 チルビメに頼みつつ、自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっそ~い!待ちくたびれたよ!」

「悪い悪い。調整してたもんでな。折角のデュエルなのにすぐ終わったら納得できないだろ?」

「当然だよ!早くやろう!待ちきれないよ!」

「OK。んじゃ、お願いしまーす!」

 

 

『了解!聡、素良!行くぞアクションフィールドオン!

 

 フィールド魔法 花園の楽園!』

 

 

 遊矢が宣言すると同時に辺りから人工物が無くなっていく。

 壁などの無機質なものはなくなり、一帯が綺麗な花畑になった。

 

 こんなすばらしい光景を現実に生み出せればいいのだが、そんなことは出来ないのが悔しく感じる。映像・・・というかソリッドビジョンで満足するしかないのだろうか。まぁデュエルを始めたら周りの光景に目がいかなくなってしまうのがかなしいところだ。

 

 どちらも相手を認識し、互いにデュエルディスクを構える。

 それを確認し、外野がおなじみの口上を読み始める。

 

『戦いの殿堂に集いし、デュエリスト達が』

 

『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い』

 

『フィールド内を駆け巡る!』

 

『見よ!これぞ、デュエルの最強進化系!』

 

 

『『『『『アクショーン!』』』』』

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 さぁ始めようか、紫雲院 素良。

 生命(植物)の力を魅せてあげよう。

 

 




 閲覧していただきありがとうございます。
 出しているオリジナルキャラほとんどの性格が当初と異なっていることに困惑する筆者の〇坊主です。

 始めに助けた少女が再登場しました。
 この子が今後関ってくるオリジナルキャラになると思います。

 この子の見た目イメージとしては【空の境界】の浅上 藤野さんをイメージしていただくとよろしいと思います。いいですよね、黒髪ロングの清純派大和撫子で着物が似合う子って。えぇ、自分の趣味です。仕方ないね。日本が好きなんですもの。
 筆者のどうでもいい趣味はこのくらいにしましょう。話すと長くなりますからね。

 さてさて、やっとが素良君の活躍?がはじまります。
 自分でも納得できる内容になるようにしたいですね。
 楽しみに待ってくだされば光栄です。

 それでは次回にまたお会いしましょう。

 お楽しみは、これからだ!


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