遊戯王 就活生の現実逃避録(物理)   作:〇坊主

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5ターン目『節目』

「私のターン!」

 

零児 手札4→5

 

 零児が勢いよくドローする。

 どのように返してくるだろうか。

 

「私は再び《地獄門の契約書》を発動。効果は先程伝えた通りだ。よって私は《DD魔導賢者ケプラー》を手札に加える。」

「来るか・・・」

 

 零児があのカード(・・・・・)を手札に加えたということは・・・

 

「そして、私はスケール1の《DD魔導賢者ガリレイ》とスケール10の《DD魔導賢者ケプラー》で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 

「「「「「「なんだって!?」」」」」」

 

 

 遊矢が産み出したペンデュラム。

 世間に出てから数週間も経っていないというのに、赤馬 零児はそれをこの短期間で作り上げて見事に発動してみせたのだ。

 この制作にどれほどの労力を懸けたのかはわからないが、凄まじいことは理解できる。

 

「これでレベル2から9までのモンスターが同時に召喚可能!

 

 我が魂を揺らす大いなる力よ、

 

 この身に宿りて闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!

 

 出現せよ!私のモンスター達よ!

 

 全ての王をも統べる3体の超越神、《DDD 死偉王ヘル・アーマゲドン!》」

 

《DDD 死偉王ヘル・アーマゲドン》

星8 ペンデュラム・効果モンスター

ATK:3000

 

「あれは・・・ペンデュラムモンスター!?」

「そんな!」

「なんで・・・どうしてあいつがペンデュラムを・・・?」

 

 赤馬 零児の元には有無を言わせない厳格な威厳を保つモンスターが現れた。

 遊矢が持つペンデュラムのようなフォルムを持ち、内部に紫色の結晶を保有している。

 赤馬 零児が今後のために生み出し、自ら扱う最終兵器(アルマゲドン)。それがあのモンスターだ。

 

「このままバトルだ。」

「《紅姫チルビメ》がフィールド上に存在する限り、相手はこのカード以外の植物族モンスターを攻撃対象にすることが出来ない。」

「ならばヘル・アーマゲドン、《紅姫チルビメ》に攻撃!」

 

 死偉王の砲撃をチルビメが受け止める。

 アクションデュエルとはいえ、完全に殲滅兵器のような砲撃の嵐の前にチルビメは打ち抜かれた。

 

「このカードが墓地に送られた瞬間、《紅姫チルビメ》、《姫葵マリーナ》の順に効果発動!逆順処理でさらに《DD魔導賢者ガリレイ》を対象に《姫葵マリーナ》の効果発動。対象のカードを破壊。そして《紅姫チルビメ》の効果、デッキから植物族モンスターを1体特殊召喚できる。俺は《桜姫タレイア》を特殊召喚!」

 

 戦闘誘導の永続効果と墓地に送られたときのリクルーター効果、これが彼女の効果だ。

 チルビメが破壊時、彼女が残した種がそのまま成長し、タレイアを形成する。

 

「なるほど、後続を残す優秀な効果だ。だが、まだあと2体の攻撃が残っている。しかし、今の状況だと《姫葵マリーナ》の効果でアーマゲドンを破壊することができたはずだ。なぜそうしなかった?」

「・・・そうしないほうがいいと思っただけさ。」

「・・・なるほどな。このままバトル続行だ。先に誘発破壊をつぶさせてもらう。《姫葵マリーナ》を攻撃だ!」

「ぐぉぉお!」

 

聡 LP:3400→3200

 

「続いてギガプラントに攻撃!」

「ぐっ・・・」

 

聡 LP:3200→2600

 

 当然そのままマリーナとギガプラントが破壊されてしまった。

 しかし相手の手札はゼロ。追撃も出来ない。

 ならばまだこちらも勝機はある。

 

「私はこれでターンエンド。しかし・・・妙だな。」

「・・・なにが、を聞いてもいいですかね?」

「確かに君のデュエルタクティクスは良い。だが、デュエルを通して、君には決定的に足りないものがあるな。」

 

 零児はそう告げた。

 足りないもの―――――――

 

 それは誇りか、意志か、欲望か。

 

 今の自分にはわからないものだろう。

 

『マスターに足りないものがあるですって!?そんなもの大量にありますよ!私に対する優しさとか優しさとか優しさとか』

 

 うん。タレイア、少し黙ろうか。

 

「勝利への執念なら確かに他の人と比べたらないかもしれない。だけど、それを今更言う必要はあるのかな?」

「いや、執念ではない。少なからずそれは保障しよう。ただ――ー

 

 

 

 

  デュエルを通じて、君は一体何をしたいのかな? 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

「・・・フッ。まぁいい。確かに今言うことでもない。さて、君のターン――」

 

 

『社長、緊急事態です。』

「どうした?中島――・・・・・・わかった。」

 

「えっ、ちょ、どうしたんだよ!」

 

 突然踵を返した零児に遊矢が困惑する。

 

「この勝負預ける。」

 

 そういうとそのままデュエルを止め、帰っていく。

 それに自分は何も言うことが出来なかった。

 

 

 

  ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 あのあと自分を見つめなおすことにした。 

 零児に言われたあの言葉が残っているためだ。

 

 自分が思っても見ない形でこの世界にやってきた。

 この世界で何かしたいということもない。

 だけど元の世界に帰りたいか、と聞かれるとそれもわからないのだ。

 

 元の世界でもよく2次元に行きたいとか異世界に行きたいとか思ったことは多々ある。

 だけど実際行って何がしたいとは思ったことがないのだ。

 行く行為自体に価値を見出しているのであって、行った後の行動を重視しているわけではない。

 

「・・・確かに、俺はここで何がしたいのかな・・・。」

 

 部屋の窓から景色を一人で眺める。

 こちらに来て外の景色をじっくり見るのは初めてかもしれない。

 元の世界では自分がいなくなったことでどうなっているのだろうか?

 こちらの自分が向こうに行ってしまっているのか。

 それとも存在が無くなっており、忘れられているかもしれない。

 そう考えるとこちらの世界で何かをして、形あるものを残すというのもありかもしれない。

 

『マスター。』

 

 タレイアが言葉をかけてくる。

 何故か俺に憑いてる精霊タレイア。

 泣きそうな表情でこちらを見ている。

 黄昏ている自分を見て思うことがあるのだろうか?

 

『今度こそは私を活躍させてください。私はあんな活躍を認めません!』

 

 ・・・・・・そんなことなかった。

 

 せっかくシリアスっぽくなってたのに台無しだ。

 

「もうちっと空気を読んでくださいな。」

『嫌です。辛気臭い空間は私は好みません。せっかくマスターと二人きりですのに、悲しい顔をされるのは堪ったものではありません。』

「・・・そんな顔してたか?」

『してましたよ。マスターはいつも一人で溜め込むんです。』

 

 実体化して、後ろから抱きしめてくる。

 首元に柔らかい感触が当たり、反応してしまうかと思われたが、今はそんなに活発ではないようだ。

 

「今回もそうです。精霊の私をもっと頼ってください。私だって、お役に立てます。」

 

 表情は見えないのに、彼女がどんな想いを持って、自分に接しているのかがわかった気がした。

 普通ならこのまま押し倒したりするのかもしれないが、このまましばらく身を預けるのもいいかもしれない。

 

「・・・ありがとな。」

「いいんです。私の好きでやっているのですから。」

 

 このまましばらく夜空を見るのもたまにはいいかもしれない。

 そう思いつつ、身を任せる。

 

『あらあら。そういうのは私の役目だと思うのよ~。ね、タレイア姉さん?』

 

 横から声が聞こえ、そちらに目を移すと紅葉が描かれた着物を着た女性がいた。

 

 

 

―――なぜか彼女の後ろに般若が見えた気がした。

 

 

 

 

   ◇◆◇◆

 

 

 

「社長、分析結果が出ました。」

「わかった。資料を通してくれ。」

 

 赤馬 零児は帰宅後、九条 聡とのデュエルを見返していた。

 召喚エネルギーの量・質・安定度が自分とは明らかに異なっていることが判ったためだ。

 自分と彼の違いが何なのかを改めて考えなければならない。

 

 召喚エネルギーが安定せず、ペンデュラム召喚が不安定な自分。

 一方で、常に召喚エネルギーが安定し、存分に力を奮える相手。

 今度再び相見えることがあるならば、この安定性能の差は致命的だ。

 

 あのデュエルの途中、LDSの関係者が再び襲撃を受けたために中断してしまったが布石は打った。

 あとは釣れるのを待つだけだ。

 今は目の前の課題を早急に片付けるのが先決だろう。

 

 ペンデュラムだけでなく、全体のエネルギーの安定化。

 今後の大きな課題が出来たことに対して不愉快な気持ちではなく、むしろ喜びを感じた。

 

「感謝しているぞ、九条 聡。君のお陰で私はまた一歩前に進むことができる。」

 

 零児の顔には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

   ◇◆◇◆

 

 

  

「ちょ、ちょっと離れなさいチルビメ!マスターは私に身を預けてくれてるんです!」

「あらあら。自分から抱きしめておいてその言い方は駄目よ~?それに身に受けるのは私の専売特許よ、姉さん?」

「指を絡ませるのは駄目ですー!NO-!私でもまだやったことないんですー!」

 

 新たに具現化した精霊、タレイアの言い方からすれば彼女は紅姫チルビメのようだ。

 俺の腕から離れようとしない彼女にタレイアは憤慨している。

 というより耳もとで叫ばれているせいでとてもうるさい。

 先程までのいい雰囲気が台無しである。

 

「静かに。周りに迷惑がかかるだろう。今、夜ですよ。はい、まず自己紹介。」

 

 とりあえず騒いでいる二人を静かにさせ、落ち着かせる。

 

「申し送れました。マスターなら察しがついておりますでしょう。(わたくし)は《紅姫チルビメ》と申します。」

 

 とても丁寧にお辞儀をして俺に自己紹介する。

 なんだろう。さっきの流れからチルビメのほうが年下のようだが、彼女のほうが落ち着きがあってお姉さんらしい。

 

「マスター。今失礼なことを考えませんでした?」

「気のせいだ。気にするな。」

「うふふ。仲が良さそうで良かったです。姉さんは寂しがりやですから。」

 

 俺らのやり取りを見てチルビメは笑う。

 その姿を見て自然と笑みが浮かぶ。

 さっきまでの辛気臭い空気が嘘のようだ。

 もしかすれば彼女はこのために出てきたのかもしれない。

 

「しかしチルビメも実体化となるとあと二人もする可能性はあるってこと?」

「その通りです、マスター。あと二人である《姫葵マリーナ》《椿姫ティタニアル》共に実体化できます。ですが、まだ二人共起きていないようですね・・・というよりはただ出てこないだけかもしれませんが。」

「そっか。なら呼び方とか考えながら現れるのを待つか。今後どうしようかも決めなきゃなぁ。」

 

 机に置いてある自分のデッキを手に取る。

 彼女等のデッキである【植物姫】を筆頭に【アロマ】や【ランク4】、【シンクロ】。そして遊矢には悪いがあのカード群のデッキもある。

 まだこちらに来て姫デッキしか使ってないが、他のデッキも機会があれば使っていこう。

 いつかは使わなければいけない場面も出てくるかもしれない。

 

「・・・ま、悩み続けるのは趣味じゃないし、今日は寝るか。明日もいろいろ動いてみなきゃいけないしな。」

 

 そう、今日で答えを出せというわけではない。

 すぐに何をしたいか答えが出るのならば悩んでいる必要はないのだ。

 それならば悩むよりも寝て明日に備えるほうが賢明だろう。

 

「二人共お休み。」

 

 精霊達にそう伝えると聡は布団の中に入り込んだ。

 

 

 

   ◇◆◇◆

 

 

 

「どうしてあいつが・・・ペンデュラムを・・・」

 

 遊勝塾は結果的に助かったものの、彼らが起こした出来事は未だ嵐のように榊 遊矢の心中で巻き起こっていた。

 赤馬 零児がペンデュラム召喚を行い、成功させたためだ。

 自分が産み出した唯一無二の召喚法であったペンデュラム召喚。それが一週間足らずで奪われたに等しいこの出来事は流石に堪えたのだろう。

 

「ペンデュラムは俺のものじゃ・・・ない・・・」

 

 口に出してもその事実が覆ることは絶対にない。

 

「俺は・・・どうすれば・・・」

 

 彼の中で何かが切れた気がした・・・・・・。

 

 




 閲覧していただきありがとうございます。
 自分の言語力が足りないことを痛感している筆者の〇坊主です。

 デュエルの構成や会話の量などこれは多い、これおかしくね?などなどご意見や感想がありましたらどんどん書き込んでください。それらを励みにがんばります!
 
 さてさて、後書きなのに長くなるといけないのでこの辺で。
 次回も楽しみに待っていてくださるととてもうれしいです。
 それではまたお会いしましょう。

 
 お楽しみは、これからだ!

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