「ほんとに出てきたよ・・・。掘り出し物・・・。」
床に座って自分の荷物を再確認しているといろいろなものが出てきた。
カード、衣服、非常食、医療品、工具、etc・・・。
こんなに物が入っていたことにも驚きだが何よりもカードの中身だ。
「レッドアイズとか持ってなかったはずなんだがなぁ・・・。」
元々必要最低限のカードしか持たなかったのだが、こちらでは希少価値が高いレッドアイズやブラックマジシャンなどのカードが自分の手元にある。
こんな希少なものは使用してこそ価値が出るとは思うが、自分のデッキに組み込めないのが悔やまれると言ったところか。
レッドアイズとかならば売ってもそこまで支障はでないであろうし、生きる糧にしてしまったほうが良いのかもしれない。
だが、手元にあるのはそれだけではない。
「No.とかシグナー竜は自分が持ってたものだけか。」
自分がよく用いていたカード達はしっかりと残っている。
過去作である5D'sやZEXALで主要キャラたちが用いていたエース達だ。
どちらも世界に何枚も存在するものでないため、この世界でのレアリティはすさまじいものがある。下手に使用して窃盗犯などから目をつけられても面倒だ。
どちらとも本来ならばこの世界には存在しないものであると考えていていいだろうから、このカード達の使用は極力さけたほうが良いだろう。もちろんランク4のお供であるダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンなども同じだ。フィールの決闘竜は・・・どうしようか。
ちなみに三幻神や邪神、地縛神などのカードはなかった。
今は周りには誰もいないとは言え、これらのカードをこのまま放置しておくわけにもいかない。
盗まれたりしたらたまったものじゃないのでバックに入れて常に持ち運ぶことにしよう。
『それらのカード達を使われないのですか?』
――――――チェーンでもつけて離れないようにしておこうか?
そんなことを考えていたら声がかけられる。
うーん。おかしいな。この部屋には俺しかいないはずだ。
幻聴が聞こえてくるとはついに俺の精神がおかしくなってきたのだろう。
『あの・・・聞いておりますか?』
そうだろう。そもそも突然環境がここまで変わってしまったら気が滅入る確率のほうが高いのだ。
これはいけないな。さっさと片付けて休もう。そうしよう。
『馬鹿なことを言わないで現実を直視してくださいませ。』
そんなこと言われてもな。見えない人とお話する趣味はないですしおすし。
『しっかりといますよ。目の前に。』
んな馬鹿な――――いたわ。
目の前にある机の上に着物を着た女性が座っている。
黒髪ロングのストレートに、花――桜が描かれた着物は女性を魅せるのには十分なものだ。
まさに大和撫子を体現したような容姿だ。
(ふつくしい・・・。)
そう思いつつ、引きっぱなしだった布団にもぐりこみ。
「お休み。」
そのまま目を閉じて、夢の世界に入り込む―――
『起きてください。』
―――ことが出来なかった。
着物の女性は俺から布団を剥ぐと瞬時に折りたたみ、押入れにしまう。
しまうと同時に俺は敷布団からひっぺがされ、床に転がされた。はぁ~床つめてぇ。
俺をどかして彼女は敷布団をすばやく押入れにしまっていく。
この間わずか10秒。
俺を寝させないという鉄の意志と鋼の強さを感じた。
床ペロ状態をいつまでもしているわけにもいかず、仕方なく起きることにする。
『折角感動の対面だというのに何なのですかマスター。いくら私でも泣きますよ。』
「いや、一応初対面じゃね?」
すこしムッっとした表情で言ってくる女性。
俺の記憶が正しければこの人と会うのは初めてのはずである。
突然感動の対面といわれてもこちらとすればいろいろありすぎて頭がついていかないのだ。
それにカーテンは開けたが窓までは開けてないぞ。どうやって入ってきたんだ?
『どうやって入ってきたのか?――――そう思われていますよね?』
こちらの考えを読むかのように喋りかけてくる。
すごくドヤ顔でだ。
なんだろう。この人の頬をすごくつねりたい。
『答えは簡単です!マスターが部屋に入ると同時に私もこの部屋に入っていたのです!』
「あ、はい。」
なにを言っているんだこの人。
痛い子なのか?そうなのか?
質問に答えられていないじゃないか。
『しっかりと答えているじゃないですか!痛い子でもありません!』
怒られた。
てかなんでナチュラルに思考を読んでくるの?
超能力者なの?やだ、素敵。
『で す か ら !私はマスターと共にこの部屋に入ったのです!』
「てか、マスターって俺のことなの?」
『他に誰がいるのですか!』
「俺には見えない人がいるかもしれないでしょ?ってかそもそもどちら様ですかね?」
『・・・ほんとにわからないのですかマスター!?私の容姿を見ても!』
「いや、容姿を見てもと言われても・・・。」
黒髪ロングで着物を着た女性なんてZEXALの花添 愛華ぐらいしか知らないぞ?
でもあの人はこんな性格ではなかったはずだし、そもそも世界が違うでしょ。なので×。
「着物で黒髪・・・女性・・・うーむ、わからん。黒髪に・・・桜を彩った着物を着たモンスターであるタレイアなら俺のデッキでエースしてるけど。」
『わかっているではないですか!』
「わかっているとか言われてもなぁ・・・って、え?そうなの?」
驚きというよりも唖然としてしまう。
カードが実体化してしゃべりかけてくる。
普通ならば信じる内容ではないが、その事象を知っている。
カードの精霊だ。
遊戯王おいてカードの精霊が持ち主に宿って操ったり、助け合ったりしているのだ。
前例があるため、嘘だとは断定できない。
「つまりYOUはカードの精霊ってことでOK?」
『そのとおりです!マスター!』
「寝言は寝て言え。」
『痛い!』
なんとなくチョップをかましておく。
胡散臭い。騙されないぞ!バリアンの手先め!
『いきなり酷いですよマスター!それに私はバリアンの手先でもありません!』
「なんで心を覗き見してるんですかねぇ。なんかあれだし、アイアンクローでもかましておくか。」
『酷い!』
そんなこんなで10分が経過した。
結論で言えば彼女は桜姫タレイアだそうだ。
精霊として俺に憑いているため、多少の思考などは口に出さずともわかるようである。
精霊説は目の前で消えたり霊体になったり、はたまたカードに描かれている《桜姫タレイア》にそっくりになられては信じざるを得なかった。
なぜ自分に憑いたしたのかを聞いてみたら「いずれわかるさ・・・いずれな。」とはぐらかされたので頭をワシャワシャしてやった。スッキリした。
「ってかいい加減着替えて準備しないといかんな。着替え着替えっと。」
『着替えならば机の上に置いておりますよ。マスター。』
「・・・・・・ありがとう。」
いつの間にか着替えが丁寧に畳まれて置いてある。
他の医療品や工具なども綺麗に片付けられていた。
いつの間に片付けたのかにはもうつっこまないと決め、お礼を言って着替え始めた。
『マスターのたくましいお姿、素晴らしいです・・・。』
「次に言ったらセクハラ罪でセクハラするぞ。」
『マスターにセクハラされるのであるならば・・・私は本望ですわ。』
ポッっと顔を赤らめて答えてくる。
・・・桜姫タレイアってこんなキャラだったのか?
着替えや朝食をを済ました後、近くにあった時計を確認する。
今の時間は8時。そろそろ遊勝塾の面々が集まってくるだろう。
俺はARC-Vの重要人物――榊 遊矢達にどう挨拶しようかを考えていた。
◇◆◇◆
「つまりストロング石島と明日デュエルすることになった。ということね。」
主人公――榊 遊矢出合って早々に自分がどの時間軸にいるのかを理解した。
アニメとしても本当に初期。つまりペンデュラム召喚を習得する前の時間軸だ。
そしてこのままいけば自分はペンデュラム誕生の瞬間を見ることができるのだ。
だが、今の彼はとても萎れている。そうまるで水分がなくなったトマトのようにだ。
最初ということはまだ彼自身が未熟であり、精神的にも不安定。エンタメデュエルで人を楽しませることは勿論、自分すらも楽しませることが出来ない臆病者状態だ。
自分の殻に閉じこもっている今の彼が今後立派に成長していくと考えると人はすごいと思う。
ちなみに自分はネオ・ニュー沢渡さんの妖仙ロスト・トルネードを決めきった所までしか知らないため、それ以降に出てくる人は全く知らない。
それに自分が前以って知っている情報もどれだけ精密なのかはわからない。自分という、一種のイレギュラーがいるのだからどう変わってもおかしくはないのだ。
誰がどんな感情を持って動くのかを自分なりに判断して行動していかなければいけないと思うとすごくめんどくさくなってくる。
「そういうことだ。」
自分の言葉に大男が同調する。
彼の名前は権現坂 昇。
デッキは全て【超重武者】というカテゴリーで構築されている。
魔法・罠を使わないその姿に憧れて一度組んでみたりもしたのだが、なかなかに難しい。やはりデュエルマッスルを鍛えなければあのカテゴリーは扱えないようだ。
「やっぱり無茶よ!遊矢の相手はあのストロング石島なのよ!?」
デュエルに反対している少女が叫ぶ。
彼女は柊 柚子。
自分に泊めるところを提供してくれた柊 修造さんの娘さんだ。
扱うテーマは【幻奏】。えげつない布陣を展開してビートを行うテーマだ。後々融合を使うようになるが今はあまり関係がない。
「それはやってみなければわからん!それにこのまま逃げていてはなにも始まらんぞ!」
「それはそうだけど!」
二人が言い争っている間、彼――トマトこと榊 遊矢はゴーグルをつけたままペンデュラムを眺めている。
ゴーグルをつけているということはまだ心が決まっていないのだろう。
榊 遊矢は中学生という幼い年齢であるにも関らず世間からは卑怯者呼ばわりされている。
親である榊 遊勝がこれから戦うストロング石島とのデュエルに姿を現さなかったからだ。
本人にならともかく、それで息子にまで影響が出るというのは本当にどうしたものか。
「榊 遊矢。君はどうしたいんだい?」
「俺は・・・・・・」
遊矢に聞いてみる。
今の心境を。そしてこれからどうしたいのかを。
「俺は、卑怯者じゃ・・・ない。でも、このデュエルで負けたら・・・それこそ終わりじゃないか。相手はプロデュエリストだ。俺なんかじゃ歯が立たないんじゃないかって・・・そう思うと、不安で仕方ないんだ・・・。」
「で、結局デュエルには出るのか?周りの意見ではなく、自分の意思でさ。」
「自分の・・・意思で・・・?」
遊矢がゴーグル越しでもわかるほど泣きそうになっていた。
経験の差が圧倒的に上の相手をする。それも負ければ一生卑怯者のレッテルを貼られたまま生きていかなければならない、となればこの不安も当然のことだろう。
まだ14歳辺りであるというのにこんなにも彼を悩ませないといけないのだろうか。
「『辛いときは笑え。笑っているうちに本当に楽しくなり、それが次のエネルギーになってくる。怖がって縮こまっていては何も出来ない。勝ちたいなら、勇気を持って前に出ろ。』ってね。受け売りだけど、この言葉はほんとに大切なことだと思うよ。」
「その言葉は・・・父さんが言っていた・・・。」
「君の父親、榊 遊勝さんが何が理由でいなくなったのか俺は知らない。だけど遊勝さんの失踪が原因で世間に悪いレッテルを貼られていることは知ってるよ。だけど、君の周りを変えていくためには自分が変わっていかないと駄目なんだ。変化を待っているだけじゃ、何も変わらないよ。」
自分の可能性を信じろ。
そういって遊矢の頭を撫でてやると俺は部屋から抜け出した。
『キザですねぇ。マスター』
「言うな。かなりの恥ずかしがりやなんだよ、俺は。」
霊体となって見ていたタレイアがからかってくる。
彼等にいきなり関わりを持っても意味を無さないだろう。さっきまで赤の他人だったし。
なので今は応援の言葉だけをかけておくだけでいいだろう。
彼が変われるかは明日次第だね。
自分は少々カードを売ってきますか。今後のためにね。
◇◆◇◆
「前にでろ!揺れろペンデュラム!大きく、もっと大きく!!」
そして少年は恐怖を乗り越え、前に踏み出すことが出来た。
目の前でペンデュラム召喚を行おうとしている。
「揺れろ!魂のペンデュラム!
天空に描け!光のアーク!
ペンデュラム召喚!出でよ!我が僕のモンスター達よ!」
少年が生み出す、他にない新しい召喚方法。
それが今、ついに生み出されたのだ。
「エラーが出ていない・・・召喚は、有効!?」
ストロング石島が困惑するなか、遊矢がバトルに入る。
「オッドアイズよ!その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!“螺旋のストライクバースト”!!」
そして展開通り、榊 遊矢がストロング石島に勝利した。
ペンデュラム召喚という新しい召喚方法が誕生したことで、世間を賑わしたのは言うまでもない。
これから榊 遊矢を筆頭に周りの人たちも成長し、世代が変わっていく本編に突入したのだ。
そしてこれは自分も他人事ではなくなる。
彼等と触れ合っていくということは今後の物事にも巻き込まれていくということだ。
・・・・・・望むところだ。
素直にそう思う。
自分はこちらにまだ来て二日目で、この世界のことをまったく知らない。
だが、それは新しい刺激が多く存在しているということだ。
異端者は異端者らしく、関わらせてもらう。
―――――――――――俺のお楽しみもこれからだ!
閲覧していただきありがとうございます。
作品タイトルが適当すぎたのではないか?と思い始めた筆者の○坊主です。
主要キャラがやっと登場(活躍するとは言っていない)しました。
デュエルなどアニメと展開が同じなところは基本省略して書いていこうと思ってはいます。重要なシーンとかは別ですが・・・。
描写するにあたってイメージが湧くように意識して書いているのですが、うまくはいかないものですね。書いていたら自分もアニメキャラのように成長できるのでしょうか?
さて、この主人公:九条 聡は遊矢たちと普通に接していくつもりなので多少原作と異なった展開が出てきてくると思います。
なのでこんな展開どうなのよ!?とかまるで意味がわからんぞ!?とかあるかもしれませんがご了承を頂きたいです。
そして精霊をやっと出せました。
ARC-Vではカードの精霊の概念があるのかはわかりませんが主人公に持たせてみました。一度は考えたことはあると思います。
タレイアさんはこんな性格の予定ではなく、もっと固い感じにするつもりだったのにどうしてこうなった。
次回も楽しみに待ってくだされば光栄です。
お楽しみは、これからだ!