遊戯王 就活生の現実逃避録(物理)   作:〇坊主

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シンクロ次元はやはりベクトルが違う。


17ターン目『援軍』

《援軍》

 通常罠

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力はターン終了時まで500ポイントアップする。

 

 

 遊戯王の歴史においても古参のカードで、今ではお目にかかること自体が珍しいトラップカード。表側のモンスターの攻撃力を500ポイント上げるシンプルなカードであるが、今回はそんな効果を望んでいない。

 というのもアカデミアに対抗するためであるならば、スタンダードに存在する決闘者(デュエリスト)達の攻撃力を500上げた程度では到底太刀打ちできない。

 

 それ程の差がスタンダードの決闘者と融合次元のアカデミアにあると零児は確信している。

 

 そのため、他次元の侵略から世界を守るために零児が取った行動。それがプロデュエリストにも迎撃を頼むというものだ。そのプロの中でもトップクラスの優秀な存在を彼は求めた。

 

 圧倒的に粒が少ないこちらがいくら雑兵を投入したところで、被害が増えるだけになるのが目に見えていたからだ。

 故に零児は頼んだ。プロデュエリストの中でもトップの実力を持つ存在に。ある程度の関りを持つ彼女に。

 

 

「お忙しい中、ご足労感謝します。そしてこちらの身勝手な都合に巻き込んでしまい申し訳ありません」

 

 

 入り口で待機していた零児は車から降りた人物に感謝と謝罪を述べた。

 大企業の社長とは言えども彼女を軽率に扱うことは許されない。

 

 

「あらあら・・・まだボウヤなのにしっかりしているわね。ふふっ。まだ成長途中だけど、いい男になりそう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 年齢を一切感じさせない美貌と突出した色気を漂わせた女性――藤原 雪乃が零児に語る。

 学生の頃からデュエルの出来る本格派女優として活動して10年以上経過している。が、彼女を知っている人物が居たならばこう言うだろう。

 

「どうして姿が殆ど変わっていないのか」・・・と。

 

 学生時代で老け顔の人は大人になると若く見られるという話がある。

 これはつまり彼女が若くなっているのではなく、学生の頃から老けて・・・あ、やめて無言でバールを振り下ろすの止めてくださいお願いします。本当にすいませんでした。

 

 気を抜けば彼女のペースに巻き込まれてしまうことを理解している零児はそんなことは考えず、決して気を緩めない。

 ただ淡々と為すべきことを実行するためにこの場にいるのだ。

 そして零児は彼女の後ろにさらに二人いることに気づく。

 

 

「ボクは予定が空いてたから良かったけど。よく二人は来れたよね。特にゆきのんは」

 

「友人のためなら・・・スケジュール変更なんて・・・造作もない。そして・・・ツァンに同意」

 

 

 今回呼んだ女性にも負けないほどの豊満な山とスタイルを持つ女性と山は無いながらもミステリアスな雰囲気を醸し出す女性がそれぞれ口を開く。

 話の流れで行くとどうやら要人物の友人と言える立場なのだろうが、零児は初対面のためにそこまでの考察しか出来ない。

 今回彼女を援軍として呼んでいる理由は伝えているが、事情を知らない彼女等を巻き込んでよいのかと思考する。

 

「始めまして。私はLDS(レオ・デュエル・スクール)社長を勤めている赤馬 零児という者です。申し訳ないがお二方はどういった方でしょう?」

 

「へっ?あ、あのLDSの社長さんですか!?ボ・・・私はツァン・ディレといいます。本日は藤原 雪乃の護衛という名目で同行しています」

 

「・・・レイン 恵です。事実を言えば・・・ゆきのんに誘われた」

 

「ふふふ。これから熱い攻めたてあいが起こるのでしょう?それなら人数は多いほうが良いに決まっているわ。彼女達の実力は私が保証するわよ」

 

 誤解を生じるような言い方をする彼女の言葉を信じ、零児は雪乃達を部屋に通して話を始める。

 時間も惜しい今の状況で、心強い仲間は多くいるに越したことはないのだ。

 計画の実行も近い。

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「最近私の出番が少ない!」

 

 遊勝塾の居間を借りてのんびりしているとご丁寧にポーズまで決めて、実体化したサクラが何か言い出した。

 アキやツバキは彼女の突発的な発言に慣れているのかやんわりと相手するだけだ。聡自身もまたかという表情で対応する。それでも無視は流石に可哀想なので言葉をかける。

 

「出番が少ないって言われても俺にはどうしようもない気がするんだけど?」

 

「何を言いやがりますか!マスターがデュエルで喜々として《トレード・イン》のコストに私を使うからでしょう!?それだけならいざ知らず!そのまま墓地でお休みを決めかねればならないせいで活躍する場面がないのです!イジメです!DVです!直訴します!」

 

「いや、ほぼ毎回《トレード・イン》とペアで手札に来るんだから仕方ないでしょ。無理に動かそうとして動けなくなったら元も子もないし」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

「何がぐぬぬだ」

 

 最近のデュエルでしっかりとした活躍が出来ていないことが彼女にとって不満であるようだ。

 思い返せばまともに活躍したのは遊戯王の世界に来たときに行った暗黒寺とのデュエルだけなような気がする。

 

 基本的に始めのターンで場に出すのは妨害性能のある《椿姫(つばき)ティタニアル》か防御性能が高い《紅姫(あき)チルビメ》であるが、対戦相手が相手なだけにサクラこと《桜姫(おうひ)タレイア》の出番が基本的にないのも原因だろう。

 こちらの世界ではリセット能力を持つ《励輝士(れいきし) ヴェルズビュート》や信頼と実績の全破壊先輩《ブラック・ホール》が使われないこともあり、タレイアの出番消失に拍車をかけていた。むしろまだ目覚めていない《姫葵(ひまり)マリーナ》のほうが活躍している可能性がある。

 

「つまりサクラはデュエルで活躍できれば文句はないってことだよな?」

 

「勿の論です!」

 

「わかった。んじゃサクラ以外の姫を抜いた状態で幽香さんとデュエルな」

 

「待ってください!どうか御慈悲を!ハバキリやオネストだけは勘弁してください!」

 

 幽香の名前を出した瞬間に態度を一変させるサクラを眺めつつ、トラウマになるのも当然かなと聡は思い返す。

 彼女が受け継いだデッキ――つまり【武神】デッキを見させてもらって、少しガチガチの方向に弄った後、試運転でデュエルをしたのだが・・・

 

 

『《虚無空間》を発動しますので《ローンファイア・ブロッサム》の効果は無意味になります』

 

 

 植物の主ギミックを封じられたり、

 

 

『チェーンヴェーラーデ』

 

 

 反撃の一手を平然と止められたり、

 

 

武神器(ぶじんき)-ヘツカの効果。墓地のこのカードを除外して《武神‐ヤマト》を破壊から守ります』

 

 

 破壊から守られたり、

 

 

『ダ メ ー ジ ス テ ッ プ い い で す か ?』

 

 

 悪魔の呪文を唱えられたり、

 

 

 といった目も当てられない結果になってしまったのである。

 本格的なガチガチに近くなったせいで聡自身も少し心が折れそうになった。

 

 この結果に幽香自身はある程度満足したのかそのままデッキを直していたのを見て、ロマン寄りの調整は良いのかと思ったりもしたが何も言わなかった。否、言える気力がなくなっていた。

 聡自身はすぐに立ち直ったのだが、しばらく精霊達は放心状態になっており、どれだけ衝撃を受けたかがわかるものだった。

 

「いやぁ、あの時は本当に酷かった」

 

「出来れば二度とやりあいたくないですよぅ・・・」

 

 うな垂れたサクラの頭を撫でていると

 

「聡!ユースクラスの大会を棄権するって・・・」

 

 大会を放棄することを知った柊 柚子が部屋に入ってきて

 

「・・・幽香さん以外の女性といい感じになってる!?」

 

 

「な ん で す っ て ?」

 

 

 柊 柚子が叫ぶや否や藤原 幽香が部屋に侵入。素晴らしい邪悪な笑みを作りながらこちらに接近してきて

 

「ぎゃぁぁぁああ!?」

 

 サクラが大声を上げるという騒がしいワンシーンが出来上がった。

 

 

 

 

 

「なんですか、それならそうと始めから言ってくだされば良いですのに」

 

「言う前に威圧してたでしょうに」

 

 いつもの笑顔に戻った幽香や柚子に事情を説明しつつ、聡はなんとかサクラへの言い訳を説いた。

 

 しかし、サクラだけで助かった。もしこれでアキやツバキまで実体化していたら言い逃れしようがなかったであろう。

 てかアキさん。あなた幽香さんが来ること知ってたでしょ。明らかに反応が薄かったし。

 

『ふふっ』

 

 どちらでしょうか?とでもいいたげな表情を見て、聡は追及を諦める。

 彼女はなかなかに曲者だと思う。

 

「なぜサクラさんがいるのかはわかったけど、どうして大会を棄権なんて・・・」

 

「あ、それは私もですよ?」

 

「えっ!?幽香さんまで?!どうしてですか!?」

 

「あー、まぁ、大人の事情ってやつさ。元々俺は大会に出してもらったこと自体がズルみたいなものだからな」

 

「私も大人の事情、ということにしておいてほしいのですけど・・・」

 

 二人からこれ以上は教えないという意思を感じ取ったのか柚子はそれ以上の追求はしなかった。当然納得していなかったが。

 少し沈黙の間が出来るが、その空間を破ったのは一本の電話。お相手は信頼と実績の社長さん。幽香に目配せしつつ、二・三ほどの返答を行って電話を切って立ち上がる。

 

「その大人の事情で柚子たちの応援にも行けなさそうなんだ。身勝手なのはわかってるけど、勝ち進むのを応援してるよ」

 

 物言いたげな柚子にそう伝えると二人はLDS本社へと足を運ぶ。

 どうやら一波乱ありそうだ。

 

 

 

 そうやって本社に到着すると社長の側近 中島さんに案内され、とある一室に通される。

 部屋に入ると赤馬社長だけでなく、他に3人の存在を確認した。その場面から、自分達が来るのが遅く、迷惑をかけているのではないかと判断した聡は大丈夫かと声をかける。

 

「あー、待たせましたか?」

 

「心配は要らない。むしろ予想よりも早かったほうだ」

 

 聡の言葉に何も問題はないと返す社長はそのまま座るように誘導する。

 

 だが幽香は社長と共にいる3人――そのなかの一人に目を向けて驚き、立ち尽くしていた。幽香の視線の先にいる女性も幽香を見つめ、懐かしむ表情を浮かべている。

 何も言葉を発することなく幽香はその女性の元へと近づき、抱きついた。

 

「お会いできて嬉しいです!お母様!!」

 

「私もよ。ふふっ、見ない間に随分と成長したわね」

 

 抱きつかれた女性も幽香に出会えたことが心底嬉そうに抱きしめる。

 当然ながら全く知らない聡にとっては家族の再会を前にして呆然とするしかなかったのだが、他の2人は微笑ましく見守っている。

 

「ごめんなさいね。いくら仕事とはいえ、寂しい思いをさせてしまって・・・」

 

「いいえ、お母様には非はありません。お母様の立場上、仕方のないことなのですから」

 

「ありがとう。あなたが私の娘で、本当に幸せよ」

 

「私もです、お母様。会えなかったとはいえ、お母様方がどれだけ私を愛してくださったのか、知っていますから」

 

 親愛の言葉を投げかけて二人は家族であることを確認し合う。

 長年の間、培うことが出来なかったものをこの場で築きあげるように互いに抱き合っていた。

 

「社長さん、これは?」

 

「藤原 幽香は幼い頃から実の両親ではなく、伯父叔母に育てられてきた。理由としては藤原 幽香の母親――藤原 雪乃が世界に名を馳せる女優であると同時にプロデュエリストだったために、海外での活動を主としていたためだ。藤原 幽香の身の安全のためにもこの舞網市においていた。藤原 雪乃もスケジュールが空けば娘に会いに行っていただろうが、それでも共に過ごした時間は少なかっただろう」

 

「なるほど、つまり感動の再開というわけですか」

 

 聡の疑問に零児はわかりやすく教えてくれた。そのおかげでなぜこのような状況になったのか理解できたため、聡も微笑ましく見守ることにしたのだが・・・。

 

「確かに始めは寂しくも感じました。ですがもう心配は要りません。伯父様方だけでなく、私には聡さんもいますから」

 

「・・・・・・」

 

 ん?

 幽香が聡の名前を出した瞬間、少し雰囲気が変わったのを感じとってしまった・・・

 

「幽香?」

 

「はい、どうしましたお母様?」

 

「聡って子は・・・一体誰かしら?」

 

「!申し訳ありません、お母様はご存知ではありませんでしたね。ご紹介します」

 

 どうやら気のせいではないらしい。

 幽香がこちらに来ると同時に女性の視線が鋭くなっていく。彼女にはもう自分が話の人物だと察しているのだろう。

 

 ご丁寧に零児は自分から距離をとってまで安全を確保していた。

 どうやら彼女は怒らせてはいけない人物のようだ。それなのになぜだろうか、今後の展開が自分でも読めてしまう。

 

 幽香さん。あまり刺激を与えるような発言は控えてください。

 そんな想いを余所に幽香は堂々と宣言する。

 

「この方が九条 聡さん、私の大切な人です!」

 

 その宣言と同時に、場の雰囲気が一変した。

 




修羅場はあります(描写するとは言っていない)

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