遊戯王 就活生の現実逃避録(物理)   作:〇坊主

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 アニメのエンジョイ長次郎がかっこよすぎてつらい。


16ターン目『最強の武闘派決戦!(半ギレ)』

 一体どういうことなのか。

 

 自分から意見を求めたとはいえ、その言葉に含まれる意味を刀堂 刃は理解出来なかった。

 

(アクション)カードは諦めなさい」

 

 彼女の言葉を聞いた者達全員が突然何を言っているのか、といった表情だった。

 

 アクションデュエルを基本とするこの大会でAカードを用いないということは戦略において自らハンデを負うことと同じ意味を持つ。

 確かにハズレが存在しているとはいえ、Aカード《奇跡》や《回避》など、メリットしかないカードが多いためだ。

 それなのに遇えて使わないのは魔法・罠が存在しない場合にこそ真価を発揮するフルモンスターカテゴリーの【超重武者】を使う権現坂ぐらいなものだ。

 

「相手がAカードを取ろうとしても、決して逆に奪おうなどとは思わないことです。勿論足元にあって、すぐに取れるのならば問題はないでしょう。ですがそれ以外のAカードを取ることを私は勧めません。・・・私から言えることはこれぐらいですね。貴方の全力、楽しみにさせていただきます」

 

 そういうと年下である自分に対して、優雅に礼をするとそのまま彼女――藤原 幽香は九条 聡と共に退場してしまった。

 

 

「Aカードは諦めろって・・・何をあの人は言っているんだ?」

「刃に負けろとでも言っているのかしら?」

 

 当然ながらアドバイスと捉えることができない北斗と真澄は困惑と怒りの感情が混ざった声音で話す。

 だが言葉を投げられた当事者である刀堂 刃にはその言葉を実行したほうが良いのだと、理解は出来ずとも、そう思ったのだ。

 

 

 

 

 

『皆様、いよいよジュニアユース選手権の1回戦も最後の試合でございます。

 

 この戦いの勝者が2回戦に進む32人目の勇者となるのであります!

 

 果たしてそれはLDS(レオ・デュエル・スクール)所属の刀堂 刃選手か?

 

 はたまた前年度準優勝者である梁山泊(りょうざんぱく)塾所属の勝鬨 勇雄(かちどき いさお)選手なのか!?

 

 両者共に実力は折り紙つき!手に汗握る熱戦になることは間違いありません!

 

 それでは始めましょう!アクションフィールド オン!

 

 フィールド魔法《剣の墓場》発動!!』

 

 

 アクションフィールドが発動され、両者が向かい合う。

 

「俺がもっとも得意とするフィールドか」

「・・・・・・(クイッ」

「・・・いいぜやってやろうじゃねぇか」

 

「「デュエル!!」」

 

 

刃 LP4000

   VS

勝鬨LP4000

 

 

 刃の言葉に対して手を使って無言の挑発をする勝鬨。

 それを見て刃は挑発に乗るようにカードを発動させた。

 

「俺は手札から《XX(ダブルエックス)‐セイバー ボガーナイト》を召喚!」

 

刃 手札:5→4

 

《XX-セイバー ボガーナイト》

 星4 地 効果

 ATK:1900

 

「このモンスターを召喚したとき、手札からレベル4以下の〔X-セイバー〕と名のついたモンスターを特殊召喚できる。俺は手札からレベル3のチューナーモンスター《XX-セイバー フラムナイト》を特殊召喚!」

 

刃 手札:4→3

 

《XX-セイバー フラムナイト》

 星3 地 効果/チューナー

 ATK:1300

 

「ガンガンいくぜぇ!自分フィールド上に〔X-セイバー〕が2体以上いるとき、《XX-セイバー フォルトロール》を特殊召喚できる!」

 

刃 手札:3→2

 

《XX-セイバー フォルトロール》

 星6 地 効果

 ATK:2400

 

「俺はレベル4のボガーナイトに、レベル3のフラムナイトをチューニング!

 

 交差する刃持ち、屍の山を踏み越えろ!

 

 シンクロ召喚!いでよ、レベル7!《X-セイバー ソウザ》!!」

 

《X-セイバー ソウザ》

 星7 地 シンクロ/効果

 ATK:2500

 

「《XX-セイバー フォルトロール》は1ターンに一度、墓地からレベル4以下の〔X-セイバー〕を特殊召喚できる。俺が呼び出すのは《XX-セイバー フラムナイト》!そしてそのままレベル6のフィルトロールに、レベル3のフラムナイトをチューニング!

 

 白銀(しろがね)の鎧 輝かせ、刃向う者の希望を砕け!

 

 シンクロ召喚!いでよ、レベル9!《XX-セイバー ガトムズ》!!」

 

《XX-セイバー ガトムズ》

 星9 地 シンクロ/効果

 ATK:3100

 

 

「刃殿・・・全力だ」

「いつ見ても1ターンに2回もシンクロ召喚を行なうのは凄い・・・」

 

「まだまだこんなもんじゃないぜ!」

 

 かつて見た動きを思い出す遊矢たちを他所に、刃は再び動き始める。

 

「アンタになら迷う必要なんかねぇ。俺はマジックカード《ガトムズの非常召集》を発動!こいつは1ターンに1枚しか発動できず、バトルフェイズにも行なえねぇが先行1ターン目なら関係ねぇ!俺の場に〔X-セイバー〕(シンクロ)モンスターが存在する場合、墓地の〔X-セイバー〕モンスター2体を召喚条件を無視して特殊召喚する!蘇れ!フォルトロール!フラムナイト!」

「・・・・・・」

 

刃 手札:2→1

 

「フォルトロールの効果で墓地の《XX-セイバー ボガーナイト》を特殊召喚!」

 

「刃の奴・・・全力じゃないか」

「まぁ相手は前年度準優勝の実力者・・・刃も本気じゃなきゃ勝てないと考えたんでしょ」

 

 始めから全開で回し始めた学友に少し引きつつ、北斗と真澄は冷静に分析し始めた。

 黒咲 隼とのデュエルでも禁じてと称してハンデスを決めていたのだが、今回のほうがよりえげつない。

 

「ガトムズのモンスター効果発動!フィールドの〔X-セイバー〕1体をリリースするごとに相手の手札を1枚捨てる!俺はボガーナイト、フラムナイト、フォルトロールをリリースして、お前の手札3枚を捨てさせるぜ!」

「!!」

 

勝鬨 手札:5→2

 

「俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ!」

 

刃 手札:0

  モンスター:XX-セイバー ガトムズ

        X-セイバー ソウザ

  魔法・罠 :セット1枚

 

 

『な、なんとぉ~!刀堂選手、先行であるにも関らず相手の手札を2枚にしてしまいました!これは勝鬨選手厳しいか!?』

 

 

「・・・自分のターン!!」

 

勝鬨 手札:2→3

 

「自分は手札の《天昇星(てんしょうせい)テンマ》と《地翔星(ちしょうせい)ハヤテ》を素材にマジックカード《融合》を発動する。

 

 天駆ける星 地を飛び

 

 今一つとなって、悠久の覇者たる星と輝け!

 

 融合召喚!来い、《覇勝星(はしょうせい)イダテン》!!」

 

勝鬨 手札:3→0

 

《覇勝星イダテン》

 星10 光 融合/効果

 ATK:3000

 

『なんと勝鬨選手、ここで融合召喚だ!昨年果たせなかった優勝を勝ち取るべく、更なる進化を遂げて帰ってきた!』

 

 シンクロ、エクシーズと共に最近になって認知されてきた融合を用いたことで湧き上がる。

 先行手札3デスされたというのに融合を行える辺り、やはり遊戯王世界の住人はなにか持っているようである。

 

「バトルだ!自分はイダテンで《XX-セイバー ガトムズ》を攻撃!」

「攻撃力は俺のガトムズの方が上回っているのに攻撃だと!?」

「この瞬間、イダテンの効果を発動。イダテンが自身のレベル以下のモンスターと戦闘するとき、相手のモンスターの攻撃力はゼロになる」

「んだとぉ!?」

 

 イダテンの効果を聞くや否や、刃はAカードを瞬時に探し当てる。

 勝鬨に背を向けることも躊躇わずに駆け出した。

 目指すは勿論Aカードだ。

 

(こいつで《回避》を引けば・・・!!)

 

 日頃からアクションデュエルを行っていることが幸いしたのか、直感で《回避》のカードに手を伸ばす。

 Aカードに手が触れようとしたその瞬間、刃は殴り飛ばされた。

 

「がッ!?」

「遅いんだよ」

 

 勝鬨と刃の距離はそこそこ離れていたというのに瞬時に近づかれ、妨害された。

 諦めまいと起き上がろうとする瞬間

 

「ぐぁぁぁあ!」

 

 イダテンとガトムズのバトルが終了し、そのダメージを受けて刃は再び地に伏してしまった。

 

刃 LP:4000→1000

 

 対する勝鬨は冷酷に刃を見下ろし、いつでも迎撃できるように体を固めて――

 

「自分はこれでターンエンドだ。貴様のターンだ、早くしろ」

「ぐっ・・・(あの時の忠告はこういうことか)」

 

 軋む体を叩き起こしながら、試合前の進言の意味を刃は理解した。

 

 

 Aカードは諦めなさい。すぐに取れるのならば問題はないでしょう。

 ですがそれ以外のAカードを取ることを私は勧めません。

 

 

 嘗めていた。

 刃は今の現状を落ち着いて捉えていた。

 

 幽香の進言は勝つためにどんな手でも使ってくるという意味だったのだ。

 梁山泊塾にとって勝つことが全てであり、勝てばよかろうなのだ!とでも言うのかと思うほどに強引で、手荒なデュエルを仕掛けてくるとは軽くではあるが耳にしていた。それでも、暗黙の了解で最低限のマナーは守るだろうと高を括っていた。

 刃は勿論、会場の人員誰もがリアルダイレクトアタックを仕掛けてくるとは関係者以外誰も夢にも思っていなかった。

 

 幽香の「全力を楽しみにしている」という言葉がなければ刃も始めからハンデス戦略も取っていない。

 相手の手札を3枚削ってもこのザマである。何もしていなければもっと酷い結末が待っていただろうことは自ずと理解できる。

 刃は言葉には出さずとも、幽香に感謝の念を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝者、勝鬨 勇雄選手!これにてジュニアユース選手権の1回戦は全て終了しました。引き続き2回戦の組み合わせを発表いたします』

 

 あの後のAカードを事実上封じられながらも奮闘した刃だったが、シンクロ主体のスタイルでは勝鬨の《覇勝星イダテン》を破る方法が見出せずに敗北してしまった。

 リアルファイトの影響で担架送りにされなかっただけマシなのかもしれない。

 正直、ほぼ完璧な耐性を持つ《アポクリフォート・キラー》を殴り倒せる融合モンスター相手に【X-セイバー】で素晴らしい奮闘をしたと言ってもいいだろう。

 

「うーん。見た目通りのデュエルを行うのが梁山泊のやり方ってことか。俺が初戦で当たった阿木選手はかなり有情だったんだな」

「そうです。と言いたいのですがそれは聡さんがAカードを一切無視したデュエルをするからだと思います」

 

 試合を観戦していた聡と幽香が話し合う。

 刃に進言した幽香の言葉がどれだけ被害を抑えたのかは実際にアニメと見比べると理解しやすい。

 

「梁山泊の塾長がそもそも手荒なデュエルスタイルを取っていますから、必然的に塾生も似たようなスタイルになっていくのでしょう。聡さんと戦った阿木選手もAカードを取りに行っていたら、躊躇なく妨害していたでしょうね」

「知り合いってわけでもないのに良く知ってるな」

「対戦相手を分析して、対策を練るのは当然と思っていますので」

「ちなみに選手のことだとどこまで把握してるのです?」

「参加選手の基本的な諸事情、使用デッキ、好みやデュエル時の戦略パターンは当然ですが、こちらで目についた者の周辺事情諸々です。今だから言えますが聡さんの事情を調べようとしてあまりにも情報がないために伯父様に無理を言って色々と動いてもらったりしていましたね。接触出来てからは聡さんの趣味や基本的な思考、食事の好みやどんなシチュエーションが好きなのか、あとは性癖云々などは大方把握しており、満足していただけるように日頃から意識していますね」

「うん、ごめん。途中から何を言っているのかわからない」

 

 変哲もない日常生活を送っていたら、自室で全く関りの無い過去作遊戯王の主人公とラスボス達が仲良くマリオカートをして楽しんでいるのを見てしまったぐらいの衝撃である。

 後半の自身の部分だけ切り取ると完全にヤンデレの型に嵌ってきている。

 

 趣味や食事の好みとかならまだわかるけど思考や性癖を知ってるってどういうことさ。

 まだ出会ってそんな面を見せたつもりはないというのに。当然見せる気もないのだが。

 

「まぁ、わかりやすく言えば聡さんのことなら殆ど知っているということです」

「なんだろう。俺に向けてくれる笑顔が恐ろしいと思ったのは初めてだ」

「ふふっ。想い人を捕まえるなら、相手のことを誰よりも理解せよ。そして一気に既成事実まで。というのがお母様の教えですから」

 

 ・・・幽香さんのお母様。普段どんな教育をしているのか私、とても気になります。

 

「安心してください。いくら私でもお母様のように対象を逃げられない状況に追い込んで、そのまま既成事実を築き上げるようなことはしませんから」

「うん。まったく安心できないお言葉ありがとう」

 

 本気で彼女の母親がどんな人なのか気になった聡であった。

 

 

 

 

 

  ◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「社長。ジュニアユース選手権1回戦が本日を持って終了いたしました」

「ご苦労だった、中島。伝えたとおりの手配は出来たか?」

「ハッ。今の所手筈通りに進んでおります。しかし社長、出場選手である九条 聡及び藤原 幽香をユース選手権から途中で外してしまってもよかったのですか?」

「問題ない。これに関しては本人達から同意を得ている。彼等以外のユースの実力では到底太刀打ちできないだろう。彼等に動いてもらうしかない。それと風魔デュエル塾の日影と月影はいるか?」

 

 零児が呼びかけると瞬時に二人が姿を現す。

 ジュニアユース選手権に出場している忍者である。

 

「お呼びで?」

「あぁ。もう少し後の話になるが二人にはジュニアユースで行われるバトルロイヤル出場者に降りかかる火の粉を払って欲しい」

「と、いいますと?」

「確定ではないが数日以内にアカデミアが痺れを切らしてこちらに攻めてくると私は見ている。その被害をなるべく抑えていきたいのだ。その役目を迅速に動くことができる君達にやってもらいたい。頼めるか?」

「「御意」」

 

 用件を受け入れ、忍者がその場から消える。

 彼等、風魔一族は依頼を忠実に遂行する数少ない一族だ。多少の被害は出ようとも、彼等ならやりきるはずだ。

 

 手元の端末を動かし、今後のスケジュールに不備がないか綿密に確認して電源を落とす。

 ふと窓の外を見るとこちらへ向かってくる車が一台。

 本来ならアカデミア襲撃に間に合うか五分五分というところだったはずだが、どうやら予定を放り投げてこちらに来てくれたようだ。

 

「?社長、どちらへ?」

「こちらの予定よりも早く援軍が来てくれたようだ。私は今からその者と会談する。中島は手筈通りに行動に移せ」

「了解しました」

 

 本来ならば社長ではなく他の人員を使って誘導するのだろうが、今回ばかりはそれは通じない。

 

「子は親に似るというが、本当にあの家系は癖が強い」

 

 向かうは入り口。零児は気を引き締め、歩を進める。

 これから出会う人物は気を抜けばこちらが飲み込まれる危険を孕んだ存在。

 用心に越したことはない。

 というよりも用心していなければ余計なことまで喋らされそうな予感もあった。

 

 

 LDS本社入り口に止まった車から重要人物が出てきたのを確認して、零児は近づく。

 出てきた女性は世界で活躍する現役の女優であり、プロデュエリストの最上位に位置する存在だ。

 かつての特徴であったツインテールもストレートに下され、女優活動時よりも当然ながら大人になっている。

 そんな彼女から溢れ出る色気は家庭を築き、子も授かっているというにも関らず健在だった。

 

「お忙しい中、ご足労感謝します。そしてこちらの身勝手な都合に巻き込んでしまい申し訳ありません」

「気にすることはないわ、ボウヤ。私もこちらに帰るつもりであったからであって、ボウヤに付き合うのはそのついでよ」

 

 本気で手伝う気はないと遠まわしに伝える彼女だが、零児は反発する気はない。

 手伝ってもらえる可能性すら少なかったのだ。こちらが文句を言える立場ではない。

 

「それでも構いません。私はこの世界を守りたい。それにあなたが手を貸してくれる。それだけでも十分です」

「ふふ、素直な子ね。まだまだ魅力が足りないけど、とても期待しちゃうわ。でも私の家族に手を出す輩がいるのなら、私は当然動くわ。手荒な真似も辞さないけどね」

 

 意識しているわけではない色気(ソレ)を振り撒きながら(なま)めかしく話す女性――藤原 雪乃を見つつ

 

(九条 聡・・・頑張れ)

 

 そう思った零児であった。

 




 遊戯王TFを殆どやったことが無いニワカが通りますよ。
 閲覧ありがとうございます。筆者の○坊主です。


 LDSトリオがもしガチガチな構築でガチガチなOCGプレイングをすれば大体のデュエリストに勝てると思う今日この頃。

 それに出してしまった人物。
 うおぉおお喋り方がこれで合っているのかがわからない!
 どうにかしてデュエル描写を入れ込んでみたい気持ちもありながら、収拾がつかなくなりそうな予感。もうなってる?知ら管。


 そんなわけで次回も待ってくださるとうれしいです。
 
 
 お楽しみはこれからだ!!

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