以前、送り届けた時に家の場所は把握している。
俺の家からそう遠くない。
だから、帰ろうと思えばすぐ帰れる距離だ。看病はしやすいだろう。
とはいえは、折本の家に入るのは初めてだ。それどころが、他の人の家に入るのが初めてだ。他にいるだろうか、俺以外にこの歳まで他の人に入ったことのない奴は……。いないだろうな。
折本の家の前までは既に来ている。
あとはインターホンを押すだけだ。
そろそろ押さないと不審者と間違われても嫌だからな。
『ピンポーン』
『はい……って比企谷なんだよね……』
「悪いな、俺で」
『とりあえず入って来て……ごほ、ごほ』
言われたとおり、折本の家に入る。
鍵はかかっていなかった。事前に開けておいてくれたのだろう。
家に入った所で折本が待っていた。見た感じかなりしんどそうだ。
「かなりやばそうだな」
「うん、熱もけっこうあってね……」
「薬はあるのか?」
「うん」
薬があるなら、ひとまずはいいだろう。
折本は熱のせいか顔が赤い。というか、全体的に熱を帯びている。いつもより少し、色っぽく見える。
少し、汗もかいていて……嫌でも、意識してしまう……。
少しいつもと違って、素直と言うか……なんというか………。
「とりあえず、寝とけよ」
「うん……」
「飯食えそうか?」
「少しなら……」
「りんごとかとお粥どっちがいいんだ?」
「お粥……」
「分かった。ちゃんと寝とけよ」
「うん……」
折本はふらふらしながらも自分の部屋に戻っていく。
大丈夫か、あいつ。電話越しに聞こえてた声より今のほうがしんどそうに聞こえる。
俺は台所を借り、お粥を作り始める。
専業主婦になると言ってるんだから、料理ぐらいはできる。
小町が風邪を引いた時にはよくお粥を作ってあげていた。
最近はあまり風邪を引くことはないが、俺が引いた時には小町が作ってくれた。
初めて作ってくれた時なんて、焦げてたけど、小町が頑張って作ってくれたと言うことだけで美味しかった。
お兄ちゃん、大丈夫? って本気で心配してくるんだから、天使と見間違えたかと思った。
そんな間にお粥は出来上がった。出来はまあ、上々だ。
俺は折本の部屋にお粥を運んで行く。
折本の部屋は意外と女の子って感じだった。
こいつが熊のぬいぐるみ? まじかよ……。
女の子っぽい所あるなとは思っていたけどここまでだったのか……。
折本はベッドの上で寝ていた。
こうゆうときは起こしていいもなのだろうか。小町の時は起こしているしいいよな? 怒られたりしないよな?
っていうか、寝顔見ちゃっていいものなんだろうか?
こうやって見ると、折本はかなり可愛い。クラスの中でも1、2を争うぐらい、いや、学年でもトップ5には入るだろう。
昔とはいえ好きになっているのだ、可愛くないはずがない。
見ていると、不意に折本と目が合った。
「わっ!?」
「うおっ!?」
折本が急に声をあげるので、俺も驚いた。
やばいな、見ていたことバレたな……。
「何見てたの……?」
「えっと……」
「……」
「寝顔です……」
「変態」
睨まれたら正直に言うしかないよね。
普通に寝顔見てるとか変態か。これがギャルゲーなら選択肢間違えてるな。
「そ、それより、お粥食べないと冷めるぜ」
「食べさせて」
「はあ?」
「食べさせてって言ってるの!」
今日の折本はおかしい。熱のせいで頭がやられているのだろう。
俺からしてみれば役得でしかないのだが、正常な状態の折本からしてみたら、嫌だろう。
でも、食べてもらわないと困るな。うん、仕方ない。
「ほらよ」
「あーん……」
さすがにやばい。
これは折本じゃない。折本の形をした何かだ。折本がこんなに可愛いわけがない。