真・転生無双 至高の武人伝   作:時語り

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今回は紫苑が登場です。
真・恋姫では劉璋配下ということでしたので、その設定のまま登場します。



想う

 

 

新たに魏延が仲間に入って約二年が経過した。

元からの素質もあり、この二年で魏延はメキメキと腕を上げていた。

兄弟子の一刀や師の桔梗には及ばないものの、自慢の怪力で振り回す鈍砕骨での戦いは迫力満点。

 

「だあぁぁぁっ!」

 

今も、討伐対象の盗賊をぶっ飛ばしている。

ぶっ飛んだ賊の腕は見事に骨が砕けており、武器の名前に恥じない威力を発揮していた。

そこらの賊では彼女の相手にならない。

しかし、それ以上に賊程度では相手にならないのが。

 

「だりゃあぁぁぁっ!」

 

自身の戦い方を身に着けた一刀だった。

まるで嵐が通過するかのような戦いを見せ、周囲にいる複数人が同時に宙に舞う。

逆手に持った二刀と体術を自在に操り、敵を全く寄せ付けない戦闘を展開している。

その様子を指揮官として見守っている桔梗は、指示を出しながら満足そうに戦況を見ていた。

 

「ふっふっふっ。焔耶はまだまだじゃが、一刀はかなりの猛者に育ったのぉ」

 

これだけ育ってくると、武人としての血が騒がずにはいられない。

太守である前に一人の武人である桔梗は、一刀が育つのを二つの意味で楽しみにしている。

一つは純粋に師と弟子として。

もう一つは、自分が戦ってみたいから。

一刀の武の才覚を認めている桔梗は、いずれ自分が追い越されるのは自覚していた。

ただ、追い越した後はどこまで行くのか。

その強さを身を持って知ってみたい、そういう気持ちを常に持っている。

最近では鍛錬の手合わせでも、桔梗本来の戦闘スタイルを相手に互角に戦えている。

ちなみに焔耶とは、一刀と桔梗に預けた魏延の真名のこと。

 

(おそらく、二年後くらいには圧倒的に追い越されるじゃろうな)

 

強くなるとは確信していたが、あの年でここまで育つとは思ってもみなかった。

 

(……追い抜かれた後、わしはどう一刀と付き合うか)

 

弟子はいずれ師を追い抜くもの。

それは分かっていても、抜かれた後の一刀との関係を考えていなかった。

抜かれた以上は師弟として付き合うつもりはない。

お互いに一人の武人として向き合うか、それとも新しい関係に発展するか。

無事に盗賊を退治した一刀達が戻り、城への帰りの道中はずっとその事を考えていた。

一応、自分が新しい関係を求めているのには気付いたが、それは少々迷ってしまう関係だった。

 

「という訳での、どうすれば良いと思う紫苑」

「珍しく真剣な表情をしていると思ったら、そういう事だったのね」

「珍しくは余計じゃ!」

 

討伐から戻った桔梗は、古い友人の一人である黄忠に相談をしていた。

彼女は益州を治める太守の劉璋配下の武人で、今日は仕事の関係で巴郡に来ている。

立場上は黄忠の方が少し上なのだが、特に気にせず友人として対等に付き合っている。

 

「それで? ずっと考えても分からないから、私に相談しているのね?」

「そうじゃ。文句があるか?」

 

椅子の背もたれに体重をかけ、開き直ってふんぞり返る。

 

「えぇ、あるわね。桔梗らしくない、馬鹿みたい。いえ、今のあなたは桔梗という名の馬鹿ね」

 

微笑んで毒舌をかます友人に、桔梗は前のめりになって反論する。

 

「そこまで言うか!?」

「言うわよ。いつも自分の気持ちに素直なあなたは、どこに行ったの? どうしたいかなんて、あなたの気持ち一つじゃない。これまで通りにそれに従えばいいのよ。あなたの考えた新しい関係に、なっちゃえばいいじゃない」

 

言いたい事を言い切り、侍女が用意してくれたお茶を啜る。

茶碗を置いて桔梗に視線を戻すと、桔梗は俯いて微かに震えていた。

顔を微妙に赤くしながら。

 

「どうかしたの?」

「……うむ。むっ? ちょうどいい、ちょっと見てみろ」

 

迷っている様子の桔梗が外に何かを見つけ、黄忠に見るよう促す。

促されるままに外を見ると、報告書を書き終え提出した一刀と焔耶が、武器を手に素振りをしている姿があった。

 

「今の話に出た弟子というのは……あやつ、一刀のことじゃ。会った事はあろう?」

「えぇ、こっちに来るたびに会っているわ。なかなか将来が楽しみな男の子じゃない」

 

初めて会ったのは焔耶が仲間になって間もなく。

今回と同じく仕事の用事で来て、一番弟子だと桔梗に紹介された。

以来、何度か顔を合わせ、時には手合わせをしたりもしていた。

 

「今は十三なのじゃが、わしを圧倒的に追い抜くであろう二年後には元服じゃ」

「そうね。それで?」

「……想像してみよ、師である自分を完膚なきまでに倒した二年後の奴を」

 

言われるがままに想像する黄忠。

元服を迎えてより良い男に育った想像上一刀が、武でも一人前になって師を越える。

圧倒的な武の前に座り込み、見上げた先には想像上の成長した一刀の笑み。

そんなシチュエーションを前に黄忠は。

 

「……なんてものを想像させるのよ! 惚れ込んでしまうじゃない!」

 

顔を朱色に染めた黄忠の感想に、桔梗がその通りと卓を叩く。

 

「じゃろう! 何で三年前に来たあの儒子が、あそこまで良い男に育つんじゃ!」

 

正直予想外なほど、桔梗にとって一刀の存在は大きくなっていた。

最初は師弟愛かと思っていたが、月日の経過と共に気付いた。

外観もそうだが、彼自身の中身にも女として惹かれている事に。

しかも自分のとりえの武術も、いずれは追い抜かれるほどの素質を秘めている。

結果、武人としてよりも、師としてでもなく、女として彼に惚れ込んでしまった。

武人として戦ってみたいという気持ちと同じほど、一刀を愛おしく想うほどに。

それが今回の事で恋心に気付いてしまった。

黄忠もまた、桔梗が出した新しい関係がどういう関係の事か、理解に至った。

 

「お陰で追い抜かれた後、奴を弟子ではなく男として見てしまいそうでの」

 

今の師弟関係が心地良い桔梗は、関係が変化することを躊躇していた。

すると、決意の籠もった目つきになった黄忠が立ち上がる。

 

「桔梗! 決めたわ。私、こっちに移るわ!」

「はっ!?」

「あの人には悪いけど、彼の傍にいて彼を落としてみせるわ!」

 

実は黄忠には、既に決まっている婚約者がいる。

その相手というのが大層な年上で、双方の実家のごり押しで決まった。

嫌なら身一つで家から出て行けと、半ば脅しをかけられて。

仕方がないと諦めていたが、相手が理解ある人で、嫌なら断ってくれていいと密かに言ってくれた。

彼も、まだ若い黄忠を自分のような老人の妻に迎えるのは、どうにも気が引けるらしい。

おまけに、どうやら彼にも密かに想い合っている女性がいるとのこと。

なので、決心を固めた黄忠に後ろめたい事は一つも無い。

 

「すぐにでも正式に断りを入れて、絶縁覚悟でこっちに移るわ!」

「そんな上手くいくか!」

「大丈夫よ。あの人と上手く口裏を合わせるから!」

 

婚約相手は城内でそれなりに発言力もある人だそうで、断られた事を理由に巴郡に飛ばすくらい訳も無いそうだ。

 

「そうと決まれば膳は急げね! すぐに行ってくるわ!」

 

普段のお淑やかさの欠片も見せず、恋に生きる一人の女性として駆け出す黄忠。

長い付き合いの友人の新たな一面を見た桔梗は、閉められた扉をポカンと眺めていた。

同時に、躊躇一つせずに行動できる彼女を羨ましく思った。

 

この数日後、実家に帰った黄忠は、婚約者とその親戚に正式に婚約の断りを入れた。

両家は憤怒し、彼女を軟禁してでも婚姻を結ばせようと言い出した。

そこへ婚約者が口を挟む。

予め口裏を合わせた通りに、断って恥をかかせた事を理由に、相応の報いを与えると。

その場で降格処分を言いつけ、顔も見たくないから余所へ飛ばすよう太守に進言すると伝えた。

それを受け入れた黄忠はともかく、憤怒していた両家が今度は慌てだす。

余所へ飛ばしたら、それこそ婚姻どころではないからだ。

思いとどまるように婚約者に告げるが聞き入れず、太守である劉璋の下へと行ってしまった。

がっくりと落ち込む両家を気にせず、黄忠は荷物整理のために部屋を出て行った。

 

後日、何かと理由を作っての処分と異動が決定。

せめてもの情けという形で婚約者が手を回してくれたので、移動先は友人の桔梗がいる巴郡になった。

巴郡の太守である彼女の下で、武官として働くようにと通達が届いた。

 

「……お互い、後悔しない道を行けそうですな」

「えぇ。どうかお元気で」

「黄忠殿も」

 

城で擦れ違いざま、周りに誰もいないのを確認して、密かに交わした言葉。

お互いのために騒動を起こしたが、後悔しない道を歩める事に自然と笑みがこぼれる。

数日後、両親に二度と黄家の敷居を跨ぐなと言われながらも、予定通りに巴郡へと移ることに成功した。

 

「よく来たな。本当に移るとは思わんかったぞ……」

 

迎え入れた桔梗は、表情を引きつらせながら一応は歓迎する。

 

「色々あって、ちょっと大変だったけどね」

 

こっちに来るまでの間、正式に通達があるまで実家から相手に謝るよう何度も言われた。

それでもお互いの為、無視して聞き流しながら荷物整理と仕事の引き継ぎを行った。

 

「で、元婚約者の爺さんはどうなった?」

「引退するいい切っ掛けになったって、喜んでいたわ。今頃は件の女性と、各地の温泉を求めて旅をしている頃かしら」

 

ニコニコ笑いながら、想い人と旅に出た元婚約者に感謝する。

ちなみにその元婚約者も実家に帰るつもりは無く、想い人の女性と共に温泉地を巡りながら、残り少ない余生を送ると言っていたらしい。

 

「それで、桔梗の方は腹を括ったの?」

 

黄忠の問いかけに、桔梗は難しい表情を浮かべる。

 

「……む」

「まだなのね。じゃあ、今のうちに呂迅君を落とさせてもらうわ」

 

友人からの挑発に、桔梗の心は揺れる。

一刀と黄忠はホンの数回しか会った事が無い。

だが、その数回で彼は黄忠の心を引き寄せた。

持って生まれた天然女タラシぶりを発揮し、彼女の心を掴んでみせた。

前々回に来た時の去り際など、彼が婚約者だったらなと言っていた。

そして前回、自分が後押しをした形になってしまったが、彼女は本気で一刀を狙うようになって行動に移した。

 

「待て」

 

一方自分はどうか。

気持ちには気付いたものの、正直に従っているのは武人としての気持ちのみ。

愛しい想いは表に出せず、何もできないでいた。

今の心地よい関係が壊れるのが怖くて。

そんな自分自身が、どうしても桔梗は許せなかった。

 

「未だ一刀は修行中の身に加え、元服前じゃ」

 

何かと相談したり会話をしたりする大切な友人。

だが元々は、友人である以前に好敵手だった。

同じような遠距離を武器を得意とし、何度も的当て勝負をして競った。

勝ったことも負けた事もあったが、引き分けは圧倒的に多かった。

だからこそ、引くわけにはいかなかった。

武人としてではなく、好敵手でも、友人としてでもない。

恋をした一人の女として。

 

「だから、せめて一刀が元服するまで待て。二年後から勝負開始じゃ。その時はわしも負けん! 今度は武人としてではなく、女として紫苑と勝負じゃな」

 

それを聞いた黄忠は、やっと素直になったかと微笑む。

本当の桔梗の姿を見られた事が嬉しい反面、強力な好敵手として蘇ったので複雑な気持ちだった。

 

「それでこそ桔梗よ。その勝負、受けて立つわ。でもその前に、仕事はしっかりやりましょうね」

 

なので、軽く仕返しをするつもりで指摘する。

 

「うぐ……」

 

山積みになっている仕事を前に、桔梗の筆は完全に止まっている。

というより、筆を放り出して仕事を放棄している。

これをそのまま放棄してしまったら、いつの間にか酒を没収した一刀の手により、知らぬ間に何かしらの形で酒を処分されてしまう。

 

「さっ、私も手伝うから頑張りましょう」

 

空いている椅子に座り、手伝えるものを手伝おうとする黄忠。

渋々と仕事を再開しようと、放っておいた筆を手に取る。

するとそこへ。

 

「失礼します、お館様」

 

いつになく、真剣な表情をした焔耶が入室してきた。

室内にいた黄忠に会釈をし、桔梗の傍へ歩み寄る。

何かあったのかと、表情を引き締め、慌てないように心の準備をする桔梗。

ところが焔耶の口から飛び出したのは、予想外の言葉だった。

 

「私がまだ至らぬ未熟者なのは充分承知の上で申し上げます! どうか一刀と恋仲になることをお許しください!」

 

そう宣言して頭を下げる姿に、桔梗も黄忠もポカンと口を開けたまま固まる。

 

「兄弟子への憧れなのかと思っていましたが、違いました! 私は一刀の事を心より想っています!」

 

焔耶の大胆発言に二人は呆然とし、喋る内容を全て聞き流している。

 

「なので、どうかこの想いを一刀に告げることをお許し……あっ、あの……? どうしました?」

 

反応が無いので喋るのを止め、固まっている二人に声をかける。

まさかの参戦者に硬直した二人は、ゆっくりと顔を向き合わせ頷く。

とりあえず告白前だったのは助かったと、互いに心の中でほっとする。

そして焔耶に歩み寄って桔梗が左側、黄忠が右側の頬を摘む。

二人の行動の意図が読めず、両頬を摘まれた焔耶はオロオロする。

そんな焔耶の頬を二人は。

 

「「二年早いわ!」」

 

声を合わせ、同時に思いっきり引っ張った。

次の瞬間、自室で報告書を纏めている一刀の耳に、どこからか焔耶の悲鳴が聞こえた。

 

「? なんだ?」

 

何の悲鳴だろうと一刀が気にしている頃、焔耶は引っ張られた両頬に手を添えて二人に詰め寄っていた。

 

「何をするんですか! 理不尽です!」

「うるさい! ちょっと耳を貸せ!」

 

耳を引っ張られた焔耶に、先ほど黄忠と決めた内容を話す。

それを聞くと拳を握り締め。

 

「わ、私だって負けません! お館様とその御友人が相手でも、一刀は譲りません!」

 

怯む事無く参戦を表明する少女に、年上女性達は揃って不敵な笑みを浮かべる。

やれるものならやってみろと言わんばかりに。

 

「よかろう! 二年後より、ここにいる三人で全身全霊をかけて勝負じゃ!」

「誰が呂迅君を射止めても恨みっこなしね」

「望む所です!」

 

かくして、一刀の知らぬ間に三人の女性達が動き出した。

全ては一刀の隣に立つために。

 

「じゃが、負けても側室は可にしておくか?」

「賛成よ」

「大賛成です!」

 

念のため保険もかけながら。

 

「へっくし! 風邪かなぁ? 恋も風邪ひいてなければいいけど」

 

そうとは知らない一刀の頭の中には、長年会えないでいる従妹しか浮かんでいなかった。

 

 




次回は拠点フェイズの予定です。

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