真・転生無双 至高の武人伝   作:時語り

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以前の転生無双を読んでくださっていた皆さん、ありがとうございます。
今回、ちょっと設定を動かしました。
どう動かしたかは、お読みになってみて確かめてください。


修行開始

 

外史と正史の歪みを直す為、転生の道を選んだ北郷一刀。

彼は呂迅という名で、再び生を歩み始めた。

しかし、一部を除き前世から引き継いだ意識と記憶はあったが、ある重要な事に気付いた。

 

(そうだ。生まれ変わるって事は、赤ん坊からやり直しじゃねぇか)

 

しっかり成長した意識があるのに、体は赤ん坊なので思うように動けない。

喋る事も歩く事もままならず、あーとかうーとか言いながら両親に手を伸ばす。

少しでも鍛えられればと動き回っているので、好奇心旺盛な子だと周囲から温かい目で見守られる。

 

(うぐぅ……。思ったより辛いな)

 

今になって転生というシステムのデメリットに気付く一刀。

ただ、それ以上に気になっているのは。

 

(俺、どんな外見してんだよぉ!)

 

手足の色を見る限り、母親譲りの褐色肌なのは分かる。

だが、髪が何色なのか、どんな顔つきをしているのか。

各家庭に鏡がある訳でもないこの時代では、知る事は困難だった。

一刀がその疑問を解消したのは、数ヵ月後。

両親に連れられて付近の川に行った時だった。

天気も良かったので上手い具合に水に顔が映った。

 

(うぉ、今の俺はこんな顔なのか)

 

初めて見た自分の顔に若干の感動を覚える。

特に気になったのは、目と髪の毛の色。

どちらも父親似の濃い赤色をしていて、例えるならば真紅。

おまけに触覚状に二本の髪が立っている。

さらに脇腹や肩の辺りに刺青のような模様の痣。

言葉を発せないので、そこを擦ってこれは何かと両親にアピールする。

父親が言うには、うちは代々そういう痣がある家系なんだと、形状が違う自分の痣を見せてくれた。

 

(なるほどな。これは遺伝か)

 

悪い病気じゃないかと心配したが、特に問題無いと分かりホッとする。

それから更に月日が経つにつれ、一刀は自身の事を考えるようになっていた。

 

(俺、誰の下で働こうかな。それとも自分が旗揚げするか……)

 

貂蝉の説明によると、一刀は三国志の主要人物の傍にいるか、自分で旗揚げをしている。

となると当然、自分もそうなる可能性が高いと考えた。

 

(劉備か曹操か孫堅か、はたまた別の所か……)

 

どこに所属しようが、旗揚げをしようが、絶対的に必要になるのは武か智。

転生なので知識はあるが、それはあくまで未来の知識。

この時代で役立つかは分からない。

武官か文官か、どちらか一方に絞れず五年が過ぎた。

一刀は暇があれば木の枝を剣代わりに振るうか、本を読んでいるかをするようになった。

両方を極めるという考えも浮かんだが、世の中はそう甘くないと自分を律する。

その一方で周囲は、五歳で本を読んでいる事や、剣術の真似事をしているのを見て、将来は文官か武官かと暢気に騒いでいる。

 

「そろそろ、どっちかにしないとなぁ」

 

悩んでいる一刀に決断をさせたのは、翌月のことだった。

同じ邑に済む叔父夫妻の間に、一刀にとっては従妹にあたる娘が生まれた。

両親と共に叔父の家を訪れ出会ったのは、自分と同じ真紅の髪と瞳の女の子。

褐色肌に痣がありので、親類というのが一目で分かる。

 

「ほら、呂迅も抱いてごらん」

 

スヤスヤ眠る従妹を母親から受け取り、一刀は思ったより重いなと驚く。

だが、驚いたのはこの女の子の名前だった。

 

「それで、あの子の名前は?」

「呂布だ。真名は恋にしたよ」

「!?」

 

思わず声を上げそうになったのを堪え、腕に抱いている女の子を見る。

 

(こ、この子があの呂布!?)

 

勿論、一刀の知る呂布にも子供時代があったのだから、想像しにくいのは仕方が無い。

しかし、今一刀の目の前にいる呂布こと恋は。

 

「あー、うぅー」

 

眠りから覚め、自分を抱いている一刀に手を伸ばし、顔にペタペタ触れながら満面の笑みを浮かべている。

 

(こんな、こんな可愛い従妹を戦場に立たせるかぁ! いや、立たせてしまったとしても、俺が守ってやる!)

 

これが一刀が武の道を歩み始める切っ掛けだった。

後に至高の武人という名を残す男の武人の道は、ここから始まる。

理由がシスコン魂とは綴られずに。

 

 

武の道を進むと決めた一刀は、早速父親に相談した。

誰か武を教えてくれる人はいないかと。

すると父親は、昔とった杵柄で自分が鍛えてやろうと言い出した。

 

「……本気で言ってるの?」

「当たり前だ!」

 

普段は邑で鍛冶屋をやる傍ら、時には破損した人家や家畜小屋も修理している父親。

その父親は若い頃、とある太守に仕えていた武人だったらしい。

賊の討伐の際に脚を大怪我し、それが元で武の道を捨て、鍛冶屋で修行して故郷に帰って来たそうだ。

 

「言っておくが、俺は厳しいぞ」

「上等!」

 

この一言で修行が決定した。

だが、この時の一刀の年齢は僅か五歳。

どんなに才能があろうとも、碌な事はできない。

なので。

 

「さぁ、頑張って走れよ」

「ぬあぁぁぁぁっ!」

 

父親が課したのは徹底した基礎体力作りと体作りだった。

武器の指導は一切せず、仕事で使う槌を振らせたり、山の中を走らせたり。

付近の街へダッシュで買い出しに行かせたり、ご近所の農作業を手伝わせたり。

とにかく普段の生活の中で体を動かさせ続けた。

特に仕事が無ければ、迷わない範囲で山の中を走らせ続ける。

 

「ほらほら、動いてないと死ぬくらいのつもりで動け」

「どぉりゃあぁぁぁぁっ!」

 

徹底した基礎トレーニングの繰り返しは、体力的にも精神的にもキツイ。

理由は成果が目に見えにくいからだ。

自分で手ごたえを感じなければ、同じことの繰り返しに嫌気が刺す。

それが挫折のきっかえにもなるのだが、一刀はこれに耐えていた。

 

(恋のために強くなるんだ。せめて呂布と同じくらいにならなくちゃ)

 

目標は従妹である恋を守ること。

三国志で最強クラスの呂布を守るという、途方もない目標が一刀を支えていた。

どんなに鍛えても足りないと自分に言い聞かせ、基礎トレーニングを続ける。

体力的にも精神的にも、大きく成長しているとも気づかずに。

勿論、疲れきって倒れる事もあった。

そんな時には大抵、付近で遊んでいた恋が歩み寄って来て。

 

「にぃ、お疲れ様」

 

と、まるで天使のような微笑を見せる。

するとさっきまでの疲れが吹き飛び、また走り出すことができた。

 

「やってやらあぁぁぁぁぁっ!」

 

こうして、徹底した基礎トレーニングを日々積んでいく一刀。

気づけば五年が経過し、一刀は十歳になった。

長きに渡る基礎トレーニングのお陰で、体つきは十歳にしては鍛えられていた。

がっちりと引き締まっている体に無駄は無く、時間をかけて適確に鍛えてきたのがわかる。

これほど鍛えたのなら、そろそろ本格的な修行が始まるだろう。

そう思っていた一刀だったが。

 

「すまん、これ以上は俺には無理だ」

 

本格的な修行を切り出した一刀に返ってきた父親の言葉は、謝罪の言葉だった。

 

「はっ? 何で?」

「お前の才が俺の想像を遥かに越えているからだ」

 

父親曰く、一刀の武の才が凄まじすぎて、引き出せる自信がなのだという。

 

「正直言って、これほどとは思わなかった」

 

自分の奥にある真の強さを得るには、相応の土台作りが必要。

作り上げた土台は、その人が持つ強さを受け止めるもの。

なので、作り上げた土台の大きさこそがその人の持つ強さの大きさ。

そういった考えを持って一刀を鍛えてきたが、一刀の土台の大きさは想像以上だった。

 

「お前の持つ土台は大きすぎる。言い換えれば、それだけの武の才を秘めている。しかし、情けない話だが俺にはとてもそれを引き出せる自信が無い。おまけにまだ土台が大きくなる可能性がある」

 

要するに一刀の才能を引き出すには、父親では役者不足だという事だ。

 

「じゃあどうするのさ」

 

ここまで来て武人への道を諦めるつもりは毛頭ない。

当然、父親もそのことは察しており、既に次の手を考えていた。

 

「そこでだ。お前、ここに行ってこい」

 

差し出されたのは木管による紹介状と、木札に書かれた行き先。

 

「ここの太守様は、以前俺が仕えていた方で武にも深く精通している方だ」

「つまり、この人に紹介状を渡して鍛えてもらえって事?」

「そういう事だ」

 

腕を組んで頷く父親と、手元の紹介状と木札を何度か視線が往復する。

これを受け取れば、何年かは帰ることができない。

両親ともそうだが、恋に会えなくなる。

かと言って、まだ五歳の恋を連れて行くわけにはいかない。

会えない間に呂布として目覚めるかもしれない。

だが、それは武の道を行くと決めた時から覚悟していた事。

決断した一刀は、紹介状と木札を手に取った。

 

「いってきます」

「うむ。気をつけてな」

 

翌日、旅立つ一刀を見送る為に邑の人達が集まった。

その中には当然、恋の姿もあるのだが。

 

「恋、いい加減にしなさい」

 

叔父に説得されながら、恋は何度も首を横に振る。

 

「やだ。にぃ、行かないで」

 

涙目で服の裾を掴む恋。

あまりに可愛らしいその姿に、旅立つ決心が揺らぎかける一刀。

それでもどうにか堪え、頭を撫でてやりながら恋を諭す。

 

「大丈夫だよ、恋。きっとまた会えるから」

「……本当?」

 

涙目で尋ねる恋の涙を拭ってやり、頭を優しく撫でながら返事をする。

 

「本当だ。約束するよ」

「……ん」

 

約束を交わして笑顔を見せると、ようやく恋の手が離れる。

解放された一刀は邑の人々に見送られ、手を振られながら旅立つ。

最後まで手を振っていた恋は、涙ながらに一刀を呼んでいた。

 

「にぃー!」

 

その声に最後まで振り向かなかったが、右腕を高く掲げて返事をした。

 

目的の街へ向けての旅は決して楽ではない。

飲み水が無くなりかけたり、森で獣に追いかけられたり。

商人の荷車に乗せてもらったら、盗賊に襲われそうにもなった。

そんな数々の苦難を乗り越え、遂に一刀は目的地である益州は巴郡に辿り着いた。

 

「やっと着いた……」

 

辿り着いた街の門の前で、一刀は無事に到着してホッとする。

ゆっくりと深呼吸して、表情を引き締め街へと入る。

街の中を歩きつつ、一番目立つ建物である城へ向かう。

割と活気のある街を見ると、良い人が治めているのだと分かる。

そんな人の下で修行かと思うと、一刀は胸の高鳴りを押さえられなかった。

 

「すみません」

 

城門前に到着し、番をしている兵士に声を掛ける。

 

「何用だ」

「こちらを太守様に渡していただけませんか?」

 

父から受け取った紹介状を兵士に手渡す。

兵士は検閲の旨を一刀に伝え、承諾を得て木管を開く。

それを読んでいくうちに兵士の表情が驚きに代わり、すぐさま一緒に番をしていた兵と相談を始めた。

 

「じゃあ、頼むぞ」

「はっ!」

 

紹介状を手にしていた兵士は城内へ走っていき、もう一人の兵士が一刀に話しかける。

 

「しばらくこちらでお待ちください」

「分かりました」

 

指示に従い、荷物を降ろしてその場で待つ。

兵士と世間話をしながら待っていると、先ほどの兵士が女性と数人の兵士を連れて来た。

先頭の女性を見た目の印象だけで例えるなら、胸と生脚の素晴らしい威勢の良さそうな姐さん。

 

「この紹介状を持ってきたのは儒子、お主か?」

 

女性が差し出したのは、先ほど兵士に渡した紹介状。

間違いなく一刀が渡したものなので、肯定の返事をする。

 

「はい、確かに俺が持ってきたものです」

「分かった。こっちへ来い」

 

紹介状の持ち主を確認した女性は、兵士を見張りに戻して一刀を連れて行く。

やがて到着したのは、軍議にでも使うのか複数の椅子と長机のある部屋。

促されるまま椅子の一つに座らされた一刀に対し、女性は上座に腰掛けた。

 

「よくぞ巴郡まで来られた、呂迅よ。この紹介状、しかと受け取った」

 

よほどの位置にいると思われる女性は、紹介状を掲げて一刀に見せる。

 

「じゃが、ちと困ったのぉ」

「どうかされたんですか?」

 

紹介状の内容に何か問題があったのかと、故郷にいる父に不安を感じる。

ところが、問題は一刀の側ではなく相手側にあった。

 

「実はお主の父が紹介状を宛てた先代太守、我が父は既に亡くなっておるのじゃ」

「えっ……」

 

頼りにしていた人物の死去という言葉に、一刀は目の前が真っ暗になった。

 

「太守の職そのものは、娘の私が継ぐ事になったのじゃが。さて……どうするか」

「はぁ……」

 

落ち込む一刀の様子に、悪いと思いつつも死んでいるのでは仕方ないと割り切る。

とりあえずこのまま帰すのも悪いと思い、軽く武の触りでも教えてやるかと一刀を眺める。

 

「……む?」

 

しばしじっと眺めていると、女性の目にあるものが映る。

それは一刀の奥に秘められた武人としての気。

紹介状には、武に関して大きな才を秘めているとあった。

親が故に誇張して書いたのかと気にしていなかったが、じっくり見て考えが変わった。

 

(なんじゃ、こやつは……)

 

これまでに見てきた父親の部下、仕事仲間、そして上司。

そういった人物を見てきた女性の目は、通常よりも人の目利きができる。

その目で見た一刀に秘められた力は、あまりに大きすぎて眩暈がするほどだった。

 

「くっ……」

「どうされましたか?」

「いや、なんでもない」

 

ゆっくりと呼吸をして眩暈を抑える。

改めて一刀から発せられる気を見ると、大きすぎると同時に小さく見えた。

一見すれば、まるで無害な小動物のような見た目。

しかしその奥には。

 

(これはなんとも凶悪な狼……いや、熊か。いや、それ以上の!?)

 

まだ器だけの状態だけに、力量を計りかねる。

もしも鍛え上げたらどれほどのものになるのか。

太守としてではなく、一人の武人としての血が騒ぐ。

戦ってみたい。

この巨大な器だけの少年を自分の手で鍛え上げ、戦ってみたい。

多分勝てないだろうと思いつつも、武を身につけている者としての血が抑えられない。

 

(面白い! その毛皮を引き裂いて、隠れているものを引きずり出してくれる!)

 

己が本能に従う事に決めた女性――厳顔は沸き立つ武人の血を抑えて一刀に告げた。

 

「お主さえ良ければ、我が父に代わってわしが鍛えてやるぞ?」

「本当ですか!?」

 

一刀からすれば地獄に仏。

故郷にとんぼ返りかと思っていただけに、拒否する理由は無かった。

 

「本当じゃ。言っておくが、辛いぞ?」

「百も承知です! よろしくお願いします!」

「良かろう、我が名は厳顔! お主の名は?」

「呂迅! 姓は呂、名は迅です! よろしくお願いします!」

 

厳顔の声に負けず劣らず、大きな声で名を告げる一刀。

それすらも気に入った厳顔により、一刀は武官として弟子入りすることとなった。

早速、鍛えた基礎力がどんなものかを調べるための試験が始まる。

仕えている兵士達と比べるため、調練を兼ねての基礎訓練。

最初は一刀が子供なので舐めていた兵士だが、訓練が始まると後悔した。

楽勝だなんて思っていた自分達が馬鹿だったと。

 

城壁外周十周走では、スタートから飛ばすのですぐにバテると思った。

ところがバテるどころかスピードが上がり、半分の五周目で周回遅れが出た。

その後もどんどん周回遅れの兵士が続出。

一刀が十周終わる頃には、全員が周回遅れになっていた。

しかも当の本人はまだ余裕綽々といった雰囲気で、待っている間は腕立て伏せをして暇つぶしをしていた。

 

「なんと……」

 

続いては鎧や槍などを全て装備しての短距離全力疾走三十本。

大体の兵士は五本もやれば息が切れてくる。

ところが一刀は息が切れるどころか、スピードが全く落ちない。

流しているという憶測も飛び交ったが、一緒に全力疾走している兵士達は常に全力疾走。

それよりも速く駆け抜けているので、疑いはすぐに消え去った。

 

「これほどとは……」

 

その後の基礎調練でも、兵士達をぶっちぎる成績を残した一刀。

結果、誰にも文句を言われることのない成績で、一刀は兵士達に迎えられた。

 

「親父殿……。親父殿の元部下はとんでもない息子を送り込んできたかもしれんぞ」

 

今は亡き父親から、最高の置き土産を貰った気分で呟く。

絶対にこの弟子を一人前に育て上げると、心に誓いながら。

 

 




お読みになっていただいたように、恋を妹から従妹にしました。
よし、これで恋と合法的にくっ付けられる(笑)。

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