「……さっむ」
朝起きると肌を刺すような寒さが部屋を漂っていた。暦の上では春が過ぎてもうすぐ夏になってもおかしくない時期だ。だが、窓から外を見れば真っ白な結晶が空から絶えず降ってきていた。誰がどう見ても異変だ。そして俺だけに分かることでいえば妖々夢が始まったようだ。
「……咲夜」
「お呼びでしょうか、パチュリー様」
咲夜を呼んでみたが、咲夜も流石に応えたのか防寒具を着けていた。メイドでも寒さには勝てなかったようだ。
「……レミリアから何か言われてる?」
「お嬢様からは『寒くて身動きが取れないからこの異変を解決してこい』と」
どうやら咲夜も動くようだ。ならそろそろ霊夢と魔理沙も動き出す頃だろう。
「……これを持っていって。困ったら開けること」
「はぁ……」
咲夜に渡したのは紙切れとお守り。お守りは一応西行妖に対しての護符の様なものだ。そう何度も死を防ぐことは無理だが一回くらいは護ってくれるはずだ。当たらないに越したことはないけど。紙切れは言わずもがな、ヒントと言う名の答えである。咲夜を見送った後、私は水晶に咲夜に渡したお守りを通して景色を映し出す。しばらくは観察に徹するとしよう。
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「もう、元凶は何処にいんのよ!」
「霊夢、焦っても見つからないわよ」
「そうだぜ、一旦落ち着くんだぜ」
咲夜は途中であった霊夢と魔理沙と一緒に行くことを決め、異変の元凶を探していたが一向に見つからなかった。一同が頭を抱えて困っていると
「……そういえば、パチュリー様から困った時に見ろと言われていたものがあったわ」
「なんでそれを初めに出さなかったのよ」
「初めは霊夢が先導してたからまさか当てがないなんて思わなかったのよ」
「自業自得だぜ、霊夢」
「なんでもいいから早く開けなさいよ」
咲夜の持っていた紙切れには簡素に文が書かれていた。
「『空を目指せ、蝶に触れるな、桜を咲かせるな』……なにこれ?」
「空はともかく、桜も蝶も今はいないわよね」
「とにかく、空を目指してみようぜ。パチュリーの事だからなんかのヒントぐらいにはなるだろ?」
「まあ、考えなしに動くよりかはこのメモに従ったほうがよさそうね」
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「……これなら平気そうね」
「平気もなにもあのメモ、ほとんど答えの様なものだろう。何故知っているんだ」
「………………」
「まあいい、いずれ聞くとしよう」
「……私は忙しいから帰ってくれると有難いんだけれど」
「残念だが紫様の命でお前を見張る事になっている。帰るわけにはいかない」
「……そう、何か飲む?」
自分の前には紅茶の入ったマグカップがあるが、藍はここに来てから何も飲んでないしそもそも寒くないのか?
「いや、気にしないでくれ。あくまで命で来ているだけだ」
「……目の前でそんなに震えられたら無理」
自分のマグカップを藍の方に押す。
「……咲夜がいないから、これでごめん」
「…………いいいいいや、流石にそれは不味いというか!」
「……何焦ってるの?」
いつも以上に藍がどこかおかしかった。