新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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世界情勢がメテオ・ブレイクス・ヘルを賛否する中で、少なくともガーベイ・エンタープライズは彼らの行動を支持していた。

ヒイロ達は威風堂々と任務を遂行し、同時に志を似通わせるマリーダも任務を遂行していく。

そんな中、ガーベイ・エンタープライズの本社があるカタールにてテロが発生。

令嬢のロニや社長のマハディがテロに捲き込まれた。

そこへ任務を放棄した(正確には譲渡)カトルとトロワが武力介入し、テロリストを壊滅させた。

だが、健闘虚しく、社長のマハディが死亡し、追い討ちをかけるかのようにガーベイ・エンタープライズのジオン支持が公になり、地球連邦とOZが介入。

結果、会社そのものが壊滅し、ロニや社員全員が指名手配されてしまう。

カトルは哀しみに沈むロニをオルタンシアへ匿うのであった……。




エピソード8 「龍と麒麟の闘い」

ルクセンブルク・OZ本部

 

 

トレーズの総帥室に、彼の側近が直にある報告に来ていた。

 

側近の名は、ディセット・オンズ。

 

薄紫のヘアーの髪型は、かつてのジオンの勇士・アナベル・ガトーに酷似しており、髪を束ねたヘアースタイルをしている。

 

顔はトレーズと肩を並べる程美形だ。

 

ある報告とは、連邦が、ガーベイエンタープライズを取り抑え、その後の処置をOZが行った件である。

 

「ガーベイエンタープライズの件では以下のように処置致しました」

 

「うむ……ディセット特佐、ご苦労だった」

 

報告書を手にして目を通すトレーズ。

 

その間にディセットは今回の事に関して自ら述べた。

 

「この段階から反乱の芽は徹底して排除すべきと判断し、少々手荒ではありますが、今回のように処置致しました」

 

「……ふむ………彼らのテロを利用したまでは良いが、確かにその後が少々手荒だな。君は一般社員も反乱の分子と捉えたのかな?」

 

「はい。徹底して反乱の可能性を排除する為です」

 

トレーズはディセットのやり方が少し思惑からずれているように感じていた。

 

民間を過剰に巻き込むやり方が遺憾に思えた為だ。

 

「一般社員も家族を抱えているものが多いに違いない。このやり方は未来を担う者達に暗い妨げになる。役職者に絞るべきだったな」

 

「も、申し訳ありません………!!」

 

過剰すぎるディセットの事後処理のやり方にトレーズは指摘せざるを得なかった。

 

だが、事は走り出してしまっていた。

 

「ディセット……今後はもっとエレガントに事を運んでくれ………我々はOZだ。母体である連邦とはまた違うのだ。民間の巻き込みは最小限にしなければならない」

 

「エレガント………ですか………」

 

「そうだ。だが、今回の件は歴史の河に流れてしまった。彼らの苦難は変わる時代の礎の一つなってもらおう…」

 

トレーズは、歴史の流れを日々意識していた。

 

あたかも歴史が見えるかのように。

 

トレーズは手元にあったダージリンを手に取り、一すすりすると、反乱分子に対する対応策を言及した。

 

「いつの時代も反乱は付き物だ。反乱分子の今後の対応策はいかにする?」

 

「それにつきましては、世界各地において近日中に強化体制に移ります。ジオン残党、その他の反乱分子の勢力域にOZのMS部隊を増強して向かわせます。反乱ガンダムにつきましても、ゼクス特佐の部隊をまわし……」

 

「ガンダムに対してはまだ待て。今は耐えるのだ」

 

「しかし……このままでは…」

 

他の反乱分子よりも遥かに増して問題であるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを野放しにしようとするトレーズに意見をしようとするディセット。

 

だが、トレーズは裏付け的な意見を通した。

 

「彼らは確かに脅威だ。だが、今は大規模合同軍事演習………オペレーション・イカロスまで耐えるのだ。今戦力を欠くわけにはいかない」

 

「!!!!っ…は!!」

 

オペレーション・イカロス。

 

大規模軍事演習に連動させて行われる極秘作戦を指していた。

 

ディセットは「はっ」となり、納得して敬礼する。

 

「ところで、我々の技術力の息がかかった連邦の新型機の話はどうなっている?」

 

「はっ!現在、オーストラリアのトリントン基地おいて試験配備され、日々データ取りがされています。機体はバイアランがベースですが、あのトールギスのデータを反映させてあります。駆動系、主機関もOZで開発したものとなっています」

 

「うむ………期待している…」

 

そのトリントン基地において、空中を舞う戦士の姿があった。

 

バイアランカスタムである。

 

かつてティターンズのMSが連邦軍の正規MSとして、更にはOZのバックアップを受けて復活していた。

 

スラスターから噴出する青白い炎がその機体を華麗に舞わせる。

 

そのスピードはかなりのものとなり、パイロットに負荷をかけていく。

 

「ふふ…こいつはかなりのGだ!!!」

 

パイロットはニヤつきながら素早いコントロールで機体を一旦減速させた。

 

バイアランは減速後、機体を回転させながら姿勢を立て直して降下する。

 

そしてオーストラリアの大地の低空を滑空しながら更なる加速を測る。

 

「トータルデータだけでもバイアランの数段上を行ってやがる………こいつならイレギュラーのガンダムと渡り合えるな!!!」

 

パイロットの高揚感に呼応するかのように更なる加速をかけてバイアランは駆け抜けていった。

 

基地へと帰還したバイアランカスタムが、基地格納庫へとドックインする。

 

その際の決め細やかな姿勢制御の操作もなかなかのものだった。

 

バイアランカスタムのコックピットから先程のパイロットが出てくる。

 

彼の名はディエス・ロビン。

 

かつてティターンズに所属していた。エリートパイロットの一人であった。

 

そこへ専属の整備兵がかけより、バイアランカスタムの機体の整備加減を尋ねた。

 

「ディエス少佐、どうです!?バイアランカスタムの感じは!?」

 

「ああ、昔乗った先代のバイアランよりも優れたパワーがある!!武装はまだ試してはないが、トータルで見ても文句の付けようがない。可動もクイックになっているし、機動性も先代とは別物だ。それに整備も良くされている」

 

ディエスはバイアランカスタムの出来に大いに満足感を得ていた。

 

それに整備兵も喜ぶように機体について語り出す。

 

整備兵の性(さが)とでもいうべきか。

 

「そうですか!!ありがとうございます!!何せこの機体、あのOZの技術者と協同開発したものなんです。動力機関、駆動系がそれでして、従来のMSとはひと味違う性能になっているんです!!」

 

かつての自分の機体とパワーアップして再会ような高揚感にも満たされ、ディエスは益々バイアランカスタムが気に入るようになる。

 

「なるほどな………あのOZの息がかかったバイアランか!!益々気に入った!!こいつならばあの反乱分子と渡り合うこともできるだろうな!!」

 

「はい!!もしもの時はお願いしますね!!」

 

「ふん………任せろ。バイアランと俺ならやれるさ。余談だが……俺はこいつがアジア神話の麒麟にも思えてならない」

 

「麒麟………ですか」

 

「あぁ。聖なる感じがするんだ………にしてもだ…」

 

ディエスはバイアランカスタムが新兵器であり、OZの息がかかった機体であることから、腕組みしながら危惧の概念を過らせた。

 

「はい?」

 

「OZと新兵器の要素がある以上、例の奴等が本当にこの基地に攻め入る可能性も否めん。油断するな……覚悟しておけ」

 

「え!?あ、はい!!」

 

ディエスは休憩中、基地内のデータベースで現在までの被害を確認していた。

 

データベースの画像には、世界各地の被害ポイントが映し出されていた。

 

(……距離的に離れてはいるが、かなりの基地が破壊されているな。あのラー・カイラムまで破壊されたと聞いた日には、度肝を抜かされたな……)

 

データベースと睨んでいるディエスの元へ、黒髪でショートボブヘアースタイルの女性士官が声をかけた。

 

「ディエス少佐!なーにやってるんですか?データベースとにらめっこなんて珍しいじゃないですか!」

 

「あ!?あぁ………フィーアか。気になることがあってな…っておい!」

 

すると女性士官・フィーアは、ずいっとデータベースを覗きこんだ。

 

「なになに!?えーと……反乱分子、メテオ・ブレイクス・ヘル製ガンダムの被害状況……?」

 

「あぁ。俺のバイアランカスタムがこの基地の火種になりそうだったんでな………参考なまでに見てたのさ」

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムについてフィーアは、つい今さっきの明るい表情に陰を見せた。

 

恐怖と哀しみからであった。

 

連邦の士官といえど、全てがティターンズの延長線上のような兵士ではない。

 

ディエスやフィーアもその内の人間であった。

 

「……恐い…ですよね………反乱分子のガンダム……襲われた基地の人達は一握りしか生き残れなかったって聞いてます…」

 

「連邦の体制の代償さ………素直に宇宙の連中の自治権を認めて、仲良くすればこうはならんはずだ。今に宇宙世紀も100年てのにな……」

 

「ディエス少佐、もしもの時は守ってくださいね?」

 

「勿論だ………」

 

そう言いながらディエスとフィーアはキスを交わす。

 

二人は恋仲であったのだ。

 

その頃、トリントン基地から3km地点の岩場で五飛がシェンロンガンダムのコックピットから、トリントン基地を監視していた。

 

シェンロンガンダムは光学迷彩システムによって周囲と一体となっており、視認が困難な状態にさせていた。

 

GND合金のステルス性に加え完璧なまでのカモフラージュである。

 

「ナタク……今夜打って出るぞ………恐らくは手練れだ!!」

 

シェンロンガンダムに語りかけた五飛は、ニヤリと不敵に笑った。

 

 

 

アルジェリア・地球連邦軍アルジェ基地

 

 

ザクⅢとヤクト・ドーガが、2機掛かりでホバー走行しながら基地に攻め入る。

 

アフリカ北部の地球連邦軍基地の中でも、比較的に規模が大きい基地だ。

 

だが、アフリカ大陸の一部の基地にはジムⅡやネモ、ガンキャノンD(ディテクター)といった旧型機が多数配備されていた。

 

コストダウンを図ったあこぎな上層部の思惑の表れであった。

 

ザクⅢは口とからメガ粒子砲を撃ち飛ばしながらビームライフルを放ち、ヤクト・ドーガはファンネルを展開攻撃させながらビームマシンガンを発砲し続けた。

 

断続かつ連続で撃ち放たれるビーム群が、ジムⅡやネモの機体群を次々と穿ち、装甲を焼灼して確実に破壊する。

 

ごり押し戦法で攻め入るザクⅢとヤクト・ドーガの攻めに、旧世代機達は虚しく破壊されていく。

 

専用マシンガンであるジムライフルを装備したネモ部隊が一斉に攻撃をかけるも効果はなく、ネオジオンサイドのMSの装甲に小爆発を発生させるに止まる。

 

そしてビームライフルとビームマシンガン、ファンネルの反撃のビームで返り討ちに見舞われた。

 

その場にいたネモとジムⅡ部隊は、爆発を撒き散らして瞬く間に壊滅した。

 

その付近の格納庫からは、ジェガンとジムⅢの部隊が出撃していく。

 

だが、出撃した瞬間を狙うかのように、シュツルムガルスが姿を表し、ナックルシールドで殴りかかる。

 

シールドのニードルがジムⅢの装甲を穿ち、陥没させた。

 

間髪入れずに連続で殴りかかり、ジムⅢ2機、ジェガン2機の装甲を陥没させた。

 

ジェガンとジムⅢが至近距離からビームライフルを放とうとするも、その次の瞬間にはビームライフルを殴り飛ばし、ナックルシールドの突きを食らわせる。

 

突きを食らったジムⅢとジェガンが接触し、転倒。

 

その瞬間を逃さなかったシュツルムガルスが、勢いをかけてナックルシールドをコックピット部に叩き込んだ。

 

ジェガンの装甲がひしゃげ、小規模の爆発を起こしながら胸部が爆発する。

 

ジェガンを撃破したシュツルムガルスは、体勢を直立させながらモノアイを光らせた。

 

ザクⅢとヤクト・ドーガの2機はMS格納庫に狙いを定めて破壊行動に移る。

 

放たれるメガ粒子砲やビームマシンガン、ファンネルのビーム火線に穿ちくだかれ、格納庫がメガ粒子とビーム弾丸により破砕。

 

内部に格納していたMSが確実に破壊された。

瓦礫が拡がり、燃え盛る炎の上にネオジオンのMS達が駆け抜け、基地の奥へと攻め入る。

 

対してジムⅢ部隊がビームライフルで一斉に射撃を開始し、 配置に着いていたガンキャノンD部隊がキャノン砲を放って対抗する。

 

ザクⅢ、ヤクト・ドーガ、シュツルムガルスの3機はこれを躱しながら突き進み、その背後ではキャノン砲の外し弾が地表を爆発させる。

 

突き進みながらザクⅢがビームライフルとメガ粒子砲を撃ち飛ばし、ヤクト・ドーガがビームマシンガンを連射しながらファンネルを断続的に撃ち放つ。

 

迫り来るビームの猛攻に圧されたMS達は呆気なく破壊されていった。

 

その激戦の上空を駆け抜ける2機のネオジオンの戦士達がいた。

 

シナンジュとギラズールカスタムだ。

 

シナンジュのコックピット内部では、フロンタルが不敵な薄ら笑いを浮かべて眼下の敵機達に照準を絞る。

 

「ここはダカール周辺の国々の連邦軍基地の一つ。ここで確実に打撃を与える。アンジェロ、存分に破壊しろ」

 

「はい!!大佐!!存分にやらさせていただきます!!」

 

アンジェロは歓喜が籠った返答をし、ランケブルーノランチャーをスタンバイさせる操作をした。

 

「では、降下する!!」

 

モニタースクリーン上でロック・オンされたターゲットに向かい、フロンタルはシナンジュを降下させる。

 

高速で降下するシナンジュが、ビームライフルを構え撃つ。

 

 

ビギュィィイイイイイッッッ!!!

 

ズッッ――――――ヴァグガァアアアアアン!!!

 

 

 

一直線に突き進む一矢のごときビームが1機のネモを仕止めた。

 

直撃部が瞬時に装甲を融解させて、爆発を発生させた。

 

シナンジュは滑空しながら連続でビームライフルを放つ。

 

高速の動きで狙いを定め、一瞬、一瞬の間に狂い無くターゲットのネモ、ジムⅢ部隊を破砕させていく。

 

更に加速したシナンジュは、低空を駆け抜けながらMS部隊の間をすり抜けた。

 

すり抜けきった直後にシナンジュは振り向きながら反転。

 

駆け抜けた敵機達に、ビームを間髪入れずに射撃して撃ち込む。

 

背後を撃たれたジムⅡやネモ達は瞬く間に射抜かれ、連続爆発を巻き起こしていった。

 

シナンジュは更にそこから上昇し、ビームライフルを斜め下へ向けて構えた。

 

狙いはガンキャノンD。

 

シナンジュの素早い射撃が、4機のガンキャノンDを撃ち抜いて爆砕させた。

 

「存分に………!!!」

 

それに続くようにアンジェロが不敵な笑いを浮かべて、ギラズールカスタムのランケブルーノランチャーを撃ち放つ。

 

 

 

ヴィギュリュイィィィ………ヴァズダァアアアアア!!!

 

 

 

凄まじいビームが、地表を抉り飛ばしながら複数のMS部隊を一気に吹き飛ばした。

 

ネモやジムⅡでは最早何の役目も果たせなかった。

 

更に基地の施設へとアンジェロは狙いを定めた。

 

「貴様らの脆弱さを思い知るがいい!!!」

 

発射された唸る粒子渦流ビームが、MS格納庫を吹き飛ばす。

 

無論、出撃前のMS部隊は巻き添えになり、激しく破壊されて爆砕する。

 

ギラズールカスタムは、発射を持続させながら横一線にビームを敷いた。

 

拡大する破壊領域。

 

無惨に巻き添えになったガンタンクⅡやガンキャノンD、ネモⅢの部隊が成す統べなく破砕された。

 

過剰すぎる援護射撃を受けたシナンジュは加速しながら基地を突き進み、その威圧的な存在感を奔らせる。

 

「どう抗うことも出来んよ………我々の前では」

 

シナンジュは再びビームライフルをかざし、ターゲットに止まったジムⅢを射抜いた。

 

そのジムⅢの爆発を尻目に、シナンジュは管制塔施設へと到達。

 

ビームライフルを向け、流星弾雨の嵐を施設全体へ慣行した。

 

 

 

ビギュィィッッ、ビギュィッッ、ビギュィ、ビギュィッッ、ビギュィ、ビギュィ、ビギュィ、ビギュィィイイイイイ!!!

 

ズッッドドドドゴゴゴガァアアアア……

 

 

 

基地施設の中枢が、瞬く間に爆発を巻き起こして崩壊。

 

至る所にて炎と黒煙が立ち上った。

 

フロンタルは眼下に拡がるその光景を、薄ら笑いを浮かべながら見下ろした。

 

「実によい光景だ。貴君らにはお似合いの状況だな……」

 

 

 

オルタンシア・バルコニー室。

 

 

 

心身共に疲弊したロニに、カトルが付き添う。

 

余りにもの多くのモノを失った彼女の哀しみを別ち合えるようにとそばに居続けていた。

 

カトルに寄り添ったまま俯くロニがポツリと呟く。

 

「何故………何故こうなるの?あのテロがなければこんな……それに………ジオンを支援する事を、お父様の信念が正しい行いと信じてここまで来ていたのに……ここまで強いたげられるなんて………!!」

 

社員を送り出して脱出すると毅然に振る舞っていたロニの姿はもうなかった。

 

「そうだね………ここまで強いたげられる事なんてないはずだ」

 

「お父様………うっ…うぅっ………」

 

哀しみが寄り添うロニの体温を通してカトルに伝わる。

 

「僕にも伝わるのがわかるよ。ロニの哀しみが。心までもがいたくなる…」

 

カトルは少しでもロニの事を別ち合えるように努めるように振る舞うが、いつまでも哀しみに浸り尽くすわけにはいかない。

 

カトルは、プルが置いていったパフェに視線を送るとロニに差し出す。

 

「ロニ……そう言えばさっき此処にいるニュータイプのコがパフェを差し入れに置いていったんだ。少しでも哀しみが癒せればってね。食べる?」

 

「え?う、うん」

 

カトルはスプーンでパフェをロニの口に運ぶ。

 

このシチュエーションは二人に恥ずかしげな感覚を与え、少しばかり顔を赤くさせた。

 

幼馴染みの年上にあーんさせる恥ずかしさと、幼馴染みの年下からあーんしてもらう恥ずかしさが交錯する。

 

パフェを口にしたロニは、口に広がるパフェの美味しさを感じた。

 

それは哀しみの囚われを拭った瞬間だった。

 

「美味しい………!!」

 

「本当?!よかった!!はい!」

 

カトルはパフェを掬ったスプーンを再びロニの口に運ぶ。

 

「はいって………じゃ、もう一回だけ。後は自分で食べるから」

 

「う、うん」

 

そう言うとロニは恥ずかしそうにあーんしてパフェを食べ、パフェのグラスを手に取った。

 

「……これ作ったコ……ニュータイプって言ってたわね。やっぱり不思議な力が働くのかしら?」

 

「かもね………」

 

「何か………本当に不思議な感じ。哀しみが癒される気持ちになれる…」

 

その時だった。バルコニーの部屋のドアが開いた。

 

「入るね~!!あたしのアラカルト持ってきたよー……あ!!」

 

「あ、プル!!大丈夫だよ!!」

 

プルは二人の間の邪魔をしたと思い、あわててドアを閉めた。

 

だが、カトルは差し入れに来たとわかり、プルを引き留めて部屋に招いた。

 

「彼女がパフェを作ってくれたエルピー・プル。仲間がオーガスタ研究所から救出してきたニュータイプのコさ」

 

「よろしくね!!え…と…」

 

まだプルはロニの名をしらなかった為に言葉が止まる。

 

するとロニは自ら名を口にした。

 

「ロニ。ロニ・ガーベイ。カトルの幼馴染みよ。あなたが作ったパフェ、とても美味しいわ。なんか……癒される感じがした……不思議な美味しさよ」

 

「本当!!?よかった~!!じゃ、アラカルトのハンバーグも食べて見て~」

 

プルは喜びながらアラカルトのハンバーグを進めた。

 

普通であればパフェが後なはずだが、カトルとロニは細かいことは気にしていなかった。

 

ロニはスッとパフェを置いてハンバーグに手をつけた。

 

「うん……じゃ、頂くわ………………」

 

カトルとロニはハンバーグを味わいながら食べる。

 

じっとプルは二人を見つめた。

 

一口を堪能しきったロニは、プルを見つめながら言う。

 

「これも美味い!本当に料理が上手ね!!きっと調理師に向いてるわ」

 

「えへへ………実は研究所にいるときに、優しくしてもらってた人から料理教わってたの!」

 

「そうなんだ…オーガスタ研究所って言っても中には良い人もいたのね」

 

「そーなの!その人は趣味で料理が好きでね!色々知ってて~」

 

「へぇ~」

 

カトルはプルと打ち解け始めたロニの会話を聞きながら微笑ましく感じた。

 

ロニからは哀しみの囚われが無くなっていた。

 

一時的には違いないが、少なくともプルと関わってから哀しみの囚われは晴れていた。

 

カトルはプルに感謝の気持ちを抱いた。

 

(プル………ありがとう。やっぱりニュータイプは不思議な感じを覚えさせてくれる。少なくともこの瞬間はロニに安らぎがあるよ…)

 

知らず知らずの内に女子同士の会話がなされ、プチ女子会のような雰囲気になってきていた。

 

安心して部屋を出たカトルは、トロワとアディンの所へと赴く。

 

そこには呑み終えたオデルもいた。

 

Gマイスターの男四人が、仰向けになってドックインしている自分達のガンダムを見ながら語る。

 

右からガンダムジェミナス01、ガンダムジェミナス02、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロックの順に並んでいる。

 

「――――ジェミナスもこれで俺の反応にリンクしてくれたぜ!」

 

「一人でよくやったなアディン!少しは成長したな!」

 

「なんだよ、兄さん!?誉めるなんて珍しい!?」

 

「なんだよ?俺だってお前を頭ごなしに普段から言ってる訳じゃないんだぞ!?素直にとれ……とまぁ………普段から自分とメカの反応に違和感を感じていたんだな?」

 

「まーね。感覚じゃ薄々気づいてたけど、やれるタイミングがなかったからズルズルってね!ここらでやっとこうと思ったのさ!」

 

「初期のお前の反応シュミレーションのOS設定にズレがあったんだろうな……それだけ今、お前の反応速度が初期より速くなっている証拠だ」

 

「へぇー……よっしゃあ………!!」

 

メカの話は男心を高ぶらせる事が多い。

 

メカの精通があるトロワも静かに熱くなる。

 

「俺はヘビーアームズとサンドロックをセットアップし終えた。そのついでにグリスアップもな。クイックに動く可動部にはメンテは必須だからな……特に動く腕や腰のロータリージョイントにはメンテは重点的にやるべきだ」

 

「そうだな。特に格闘戦の設定に片寄るサンドロックやアディンのジェミナス01には必須だな。戦闘中にイカれたらガンダムと言えど、メカがアウトだ」

 

頷きながら答えるオデル。

 

しばらくメカの話が続いたために、比較的メカの話が弱いカトルを気遣い、トロワが話をカトル振った。

 

「―――ところで、彼女の方はどうなんだ?カトル?」

 

「うん。一時的なんだろうけど今はプルのお陰もあって落ち着いたよ。やっぱりこういうときは女の子同士の会話が一番なのかな?」

 

「プル、人懐っこいからな~……それにしても流石だぜ!!傷心の女子と短時間で打ち解けれるんだもんな~」

 

「……彼氏は流石に知っているな」

 

あろうことか、トロワまでもがアディンをプルの彼氏と位置付けた物言いをした。

 

アディンはムキになって否定する。

 

「トロワまで~っ……だから違うっつーの!!」

 

「まぁまぁ………でも、アディンには少なくとも守るべき大切な存在なんでしょ?」

 

カトルはいい線の突き方でアディンに問いかけた。

 

アディンもこれには否定できない。

 

「あ、ま、まぁ……そうだな!!そーなんだよ、それ!!守るべき存在!!だから彼女とかそんなんじゃなくてな~……」

 

「あくまで彼女は否定か………プルが泣くぞ」

 

「だーかーらー!!」

 

「いーぞ、トロワ。うちの弟にもっと言ってやれっ」

 

「黙れ!!くそにーさん!!」

 

「なんだと、アディン!?」

 

他愛ない会話を笑いながら聞いたカトルは、自分達の任務を託したヒイロとデュオに意識を向けた。

 

(そう……守るべき存在は闘う為に必要な存在だ。だから今はこうしてロニの近くにいる選択をした。ヒイロ、デュオ……ごめん!!任務は頼んだよ)

 

 

地球連邦軍・セバストポリ宇宙港基地では、メテオ・ブレイクス・ヘルの一件で自らの身に危険が及ぶ事を恐れた地球連邦政府の一部の要人が、宇宙へ逃げる行動に出ていた。

 

「我々が地球に居ればいつ奴等に狙われるか判らん。今の内に宇宙へと逃れさせてもらうよ」

 

「同感ですな。後は下の者達に任せよう。精々頑張ってくれたまえ………」

 

身勝手な要人達を乗せたシャトルは、打ち上げ段階に入った。

 

警備にあたるジェガンのパイロット達は彼らの身勝手極まりない行動に愚痴をモニター越しに交わす。

 

「ったく………自分達だけ宇宙へ逃げるってか!?」

 

「要人連中が考えそうなことだな。ま、良い死に方しねーさ………」

 

「お前らこそやられちまえってな!!」

 

「ははは!違いない!!」

 

兵士達が冗談混じりの愚痴を放ったその直後だった。

 

基地施設一帯にサイレンが響き渡った。

 

「な、なんだ!?!」

 

「本当に敵襲かよ?!!」

 

一人のジェガンパイロットがモニタースクリーンを注視する。

 

すると、その情景に高速で突っ込む2機の所属不明機を肉眼で確認した。

 

ジェガンパイロットは、更にモニタースクリーンの一部を拡大させてその機影を確認する。

 

「本当だ………来やがった………!!!」

 

迫るガンダムの姿に戦慄を覚えたジェガンパイロット達は直ぐに戦闘体制に移り、ビームライフルをスタンバイさせた。

 

ウィングガンダムのコックピットモニターでは、高速で眼下を滑っていく滑走路上にシャトルとジェガン部隊を捉えていた。

 

「ターゲットのシャトル、スペースポートを確認。これより破壊する」

 

ヒイロは機体をそのままの速度を維持したまま基地に機体を突入させていく。

 

その時、サイドモニターにデュオからの通信が入り、

ヒイロはすっと横目でサイドモニターを見た。

 

「よーやく到着したな!!さっさと掃除してずらかろうぜ!!ソマリアのメインディッシュが控えてるんだからな~!!」

 

「………お前に言われなくてもそのつもりだ」

 

「へっ!!そんじゃ、お先に行くぜ!!!」

 

「ふんっ………勝手にしろ…」

 

余裕の会話を少しばかり交わすと、デュオがスピーディーにガンダムデスサイズを降下させ、ジェガンの武装をしたジムⅢ部隊へ突入させた。

 

超低空を滑るようにしてビームサイズを振りかぶった。

 

「死神が通るぜぇぇぇっっ!!!」

 

迎撃のビーム射撃をモノともせずにかわして、減速をかけながら一瞬の斬撃をあびせる。

 

 

 

ギュウィッ―――――ザァギィギャアアアアアッッ!!!

 

グゴォバァガアアアッッッ!!!

 

 

 

装甲を瞬間的に焼灼しながら3機をまとめて斬り飛ばし、高速で旋回しながらもう一小隊分(3機)のジムⅢ部隊に回り込み、その背後を捉える。

 

両眼をギンと光らせた死神が内2機を斬り払うと、バスターシールドを展開させ、後の1機のジムⅢに殴りかかるようにビームの刃を刺突させた。

 

機体を激しく爆破させながら破裂するようにジムⅢが砕け散る。

 

そこへ、ジェガンがビームサーベルを振りかぶってガンダムデスサイズの背後を捉える。

 

だが、ビームサーベルが降り下ろされた瞬間にバスターシールドを後ろへ回し、ジェガンの脇腹へビーム刃を突き刺した。

 

 

 

ズジュドォオオオオオッッッ………!!!

 

ジジュゴォオオォ……ゴォバァオオオオオオンッッ!!!

 

 

 

胸部を灼かれながらスパークを起こしてジェガンは爆砕した。

 

そこへビームライフルの射撃が連続でガンダムデスサイズに撃ち注がれた。

 

「っ………はいはい、今すぐ狩ってやんぜぇっっ!!!」

 

ガンダムデスサイズは、攻撃を仕掛けるジェガン部隊を睨み、再びビームサイズを振り構えて加速する。

 

 

ゴッッ―――――ザァギギャアアアアアッッ!!!

 

ヴァズグゴゴゴォオオオオォォォ!!!

 

 

 

唸るビームサイズの斬撃が、ジェガン3機を破断させ葬った。

 

爆発を巻き起こしたジェガン達の炎越しに、死神の眼光が光った。

 

敵機の撃破を開始したガンダムデスサイズに対し、ウィングガンダムは更に機体を突き進ませる。

 

ジェガン、リゼル部隊が迎撃射撃をかけながら応戦するが、ウィングガンダムは直撃を受けても全く効果を見せなかった。

 

そしてヒイロは迫るターゲットと機影を見据えながら上部レバーをスライド操作し、機体をMSへと変形させた。

 

機体各部を変形させたウィングガンダムは長いバスターライフルの銃身を持ち上げ、直線上の敵機群にその銃口を向けた。

 

「……ターゲット捕捉、破壊する」

 

ヒイロは鋭い眼差しでモニタースクリーンを見ながらトリガーを操作した。

 

バスターライフルの銃口にエネルギーが充填され、スパークするエネルギー球を発生させる。

 

そして一気に爆発するエネルギーが開放された。

 

 

 

ヴィギュリュイィィィィ………ヴァドォヴァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ヴヴォドォヴァアアアアアアアアアアアアア……

 

 

 

撃ち出されたビーム渦流が一気に直進し、ジェガン3機、リゼル3機、ジムⅢ3機が直撃を受け吹き飛ばされる。

 

更にビーム渦流付近にいた機体群が巻き起こる高エネルギーに耐えきれずに、次々と誘爆を引き起こして爆発していく。

 

 

 

ドォヴァドドドドゴゴゴガァアアアアン!!!

 

 

 

そのビーム渦流が、先程のジェガンパイロット達にも直進する。

 

最早成す術はない。

 

「高エネルギー熱源、急接近っ………ぅああああ!!!」

 

「冗談じゃねー………本当にMSかよ………!!?」

 

「ははは………ははは……おわた………」

 

ジェガン3機が一瞬でビーム渦流に呑まれた次の瞬間には、要人シャトルとスペースポートへと直進していた。

 

「―――ぅぉがはっ―――!!!!」

 

ビーム渦流がシャトル諸とも要人達を灼き尽くし、最後にはスペースポートを吹き飛ばして破砕させた。

 

凄まじい攻撃が過ぎ去った痕は灼き抉られた地表があるだけだった。

 

「ターゲット破砕………任務完了………後は残存勢力を破壊しながら撤収する」

 

ヒイロは上空のターゲットへと選択し、リゼル部隊にオートロックをかけた。

 

ウィングガンダムは、ホバリングしながらバスターライフルを捕捉した上空のリゼル部隊に向ける。

 

リゼル部隊は加速をかけながらビームライフルによる射撃を仕掛ける。

 

向かい来るビームが、ウィングガンダムのボディーを掠めては直撃し、掠めては直撃する。

 

連邦のパイロット達は既に背水の陣の覚悟で行動をしていた。

 

多重にロックしたリゼル達を見つめながらヒイロはバスターライフルを放つ操作をした。

 

ウィングガンダムがバスターライフルのビーム渦流を撃ち放つ。

 

凄まじいビームが空を突き進んだ。

 

 

 

ヴヴォヴバァアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

突き進んだビーム渦流がかき消すようにリゼルの機体群を崩壊させて破砕させていく。

 

 

 

ギュヴィゴォアアアアアアアアアアァァ………!!!

 

ドドドドゴシュァァアアアアアッッ―――ドドドドゴゴゴガァアアアアン!!!

 

 

 

幾つもの破砕されたリゼル達の爆発が拡がった。

 

その光景をなんの違和感無くヒイロは見つめていた。

 

戦士として当然の感覚なのであろう。

 

ヒイロは再び地上の敵機に銃口を向けると、ジムⅢとロトの部隊へと見据えながらバスターライフルを放つ。

 

ウィングガンダムの眼光が光り、バスターライフルの銃口が唸った。

 

 

 

ヴァグヴァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

地表を抉り飛ばす破壊の渦が、次々とMS群を破壊し尽くして突き進む。

 

その滑るビーム渦流が、地表を高エネルギーで爆破させる。

 

高く巻き起こる爆発が被害を更に甚大にさせた。

 

その光景を見ながらヒイロは次の任務の事を思考に入れていた。

 

それが呟きとなって現れる。

 

「ソマリア………か…」

 

ソマリアの連邦・OZの合同基地施設では、日夜MSの出撃と帰還が絶えない。

 

世界に点在するエリアの中で最もテロリストが跋扈するエリア故に、戦闘は絶えない。

 

治安の悪さも国全体へ行き渡っており、旧世紀より何ら情勢は変わっていない。

 

無論ながら、現地周辺にもジオン残存勢力はいたが、

実は彼らの討伐よりも、テロリスト討伐が優先される状況にあった。

 

今日という日もエアリーズやリーオー、ジェガン、アンクシャの混合部隊を乗せた輸送機が離発着する。

 

マリーダが滞在中のエリアにもそこからの使者達が進行する。

 

マリーダはこれらを随時迎撃するようにしていた。

 

既に戦闘が展開され、飛び交うファンネルがエアリーズ部隊を狙い撃ち、個々に撃墜していく。

 

 

 

ビギュィィイイイイイ!!! ビビビギュウィッ、ビビビギュッ、ビビビギュウィビギュィィイイイイイッ!!!

 

ズドォアッッ、ゴバガァッッ、ドドドドゴォオオオオオオンッッ………

 

その狙いに寸分の狂いもない。

 

各個爆発を起こして四散するエアリーズの中にクシャトリヤが四枚のウィングバインダーを展開させてホバリングする。

 

「ここから先へは行かせはしない!!!お前達の侵攻は私とクシャトリヤが阻止する!!!」

 

目を見開いたマリーダは、続けて迫るアンクシャにファンネルを向かわせた。

 

アンクシャ部隊は先制にビームライフルを放つ。

 

だが、ビームはクシャトリヤのIフィールドに阻まれ無力化してしまう。

 

「!!?」

 

パイロットが動揺する間もなく、1機のアンクシャにファンネルが取り囲む。

 

四方八方からのビームがアンクシャを連続射撃して破壊する。

 

ファンネルはマリーダの意思で素早く動き、瞬く間にアンクシャを撃墜していく。

 

狙い撃ちされた1機のアンクシャは炎の玉と化し、隕石のごとく墜落した。

 

残りのアンクシャがMSへと変形し、クシャトリヤにビームサーベルで斬りかかる。

 

「小賢しい!!!」

 

素早い動きでクシャトリヤはビームサーベルを取りだし、ビームの刃を振るう。

 

ビームの刃同士が激突し、スパークを起こす。

 

マリーダは巧みにコントロールレバーを動かし、アンクシャのビームサーベルを捌く。

 

その一瞬の隙を逃さず、クシャトリヤはアンクシャのボディーを横一線に斬り刻んだ。

 

 

ギャヴィッッッ―――ザァガァギャアアアアア!!!

 

ヴァズオオオォォ!!!

 

その光景の下では、墜落したアンクシャが燃え上がる横を、ドムトローペン達が駆け抜ける。

 

走るドムトローペン達は、ラケーテンバズーカを撃ち放って地上展開するリーオーとスタークジェガンの部隊へと攻撃する。

 

だが、ラケーテンバズーカの弾丸は、各ガンダリウム性のシールドに阻まれた。

 

シールドが若干陥没したに過ぎなかった。

 

「っっ!!馬鹿な!!今の連邦はこうも………!!!」

 

ジオン残存兵はドムトローペンを減速させる操作をするが、前方から迫るビームとバズーカの弾雨により虚しく破壊された。

 

力による圧制を体現する連邦とOZのMS達。

 

だが、その背後にクシャトリヤが降り立つ。

 

光るクシャトリヤのモノアイ。

 

各機が一斉に振り向くが、間髪入れずにファンネルの一斉攻撃の洗礼の直撃を受ける。

 

ビームの弾雨が文字通り雨のごとく撃ち注がれた。

 

ビームは全てMSの急所たる部位を撃ち抜く。

 

 

 

ビビギュィッ、ビビビギュッ、ビビビビビビィギィィイイインッッッ!!!

 

ズドォアッッ、ガァガァガァガァゴゴゴォアアアン!!!

 

 

 

一瞬で連邦とOZのMS達は瓦礫となって、ソマリアの地に墜ちた。

 

マリーダは、敵機壊滅を確認し、システムを通常に移行する操作をした。

 

その時モニタースクリーンに拡がる光景を見ながらマリーダは呟いた。

 

「力に成す術なく蹂躙されるとはこう言うことだ。身をもって味わえ………」

 

ヘルメットを取り、一息つくマリーダ。

 

「ふぅ…ん!?」

 

突如入る通信。

 

それはフロンタルからのものだった。

 

「こちらはフロンタル。マリーダ中尉、そちらの状況はどうかな?」

 

「はい、只今敵機群を壊滅させたところです。大佐の方はいかがです?」

 

「我々もアルジェ基地を壊滅させた。今後は転々と残存軍の駐屯所に滞在する形でダカールを目指す事になる。だが、足取りを連邦に把握されないよう敢えて戦闘は押さえてもらう。戦闘はダカールに到達した時、存分に振る舞えばいい」

 

「了解しました。ですが、もし連邦からの攻撃に見舞われた場合は……」

 

「勿論、その時は1機残らず駆逐すればいい。通信は以上だ」

 

「はっ!」

 

マリーダは通信の終了と共に敬礼を解いた。

 

戦闘を控え、同胞の勢力域に潜伏する生活が始まる。

 

一見楽なようであるが、ダカール到達するまで連邦に行動を絶対に読まれてはならない。

 

それは気が許されない苛酷な状況が続く事を意味していた。

 

「気が抜けないな……連邦に把握される事は許されない………ダカール陥落の目的を果たすまでは。ふふっ、挑むところだ!私には待っている人、志を同じくする人達がいるのだから………」

 

瞳を閉じながら、マリーダはプルやヒイロ、ジンネマンを想う。

 

更にはふとカレッタ少年の存在も心中を過った。

 

彼らの存在が今のマリーダの心を支えている。

 

終らない連邦とジオンの因縁に、色々な角度から立ち向かう想いは共通していた。

 

陥落したセバストポリ宇宙港基地で佇むウィングガンダムとガンダムデスサイズ。

 

この時、コックピット内のヒイロは、マリーダの想いに以心伝心したかのごとくソマリア方面へと顔を向けた。

 

「……マリーダ…」

 

何故かマリーダの名を呟くヒイロ。

 

ヒイロもまた深層心理上でマリーダを想っていた。

 

出会って間もない二人であるが、互いに過ごした短い時間の中で交わした会話が、想いの芯を作ったと言ってもいいだろう。

 

兵士として闘う事に存在意義を見出だす二人は、お互いのいる距離が離れていても関係はなかった。

 

二人が背中合わせでいるかのように……。

 

 

 

オーストラリア・トリントン基地

 

 

 

夜が更けて間もなくした頃、基地施設に爆発が起こり、MS格納庫が爆発炎上する。

 

サイレンが鳴り響き、難を逃れた格納庫からジムⅢが出撃していく。

 

「敵襲!!敵襲ぅ!!!」

 

連邦の兵士達はあわてふためき、炎上する基地を駆け巡る。

 

そこへ追い討ちをかけるように、唸るジェット噴射のごとき炎。

 

あらゆる物を溶かし飛ばし、更なる爆発を巻き起こして被害を拡大させた。

 

それを成したのは龍が放つ炎。

 

龍が鎌首をもたげたそこには、雄々しく立つシェンロンガンダムがいた。

 

炎上するトリントン基地に龍が降臨したのだ。

 

シェンロンガンダムはドラゴンハングをかざし、火炎放射しながら上体を180度旋回させる。

 

爆発が更に連続で巻き起こった。

 

この惨状を断ち切らんと、シェンロンガンダムの背後より、ジムⅢがビームサーベルで斬りかかる。

 

だが……。

 

 

 

ガァギャガァアアアアアッッッッ!!!

 

 

 

それを見透かしたかのようにシェンロンガンダムは、ドラゴンハングで砕き飛ばした。

 

「ふん……!!雑魚に用はない!!!」

 

振り返ったシェンロンガンダムは、ドラゴンハングを伸ばし、もう1機のジムⅢを掴み砕く。

 

否、噛み砕くというべきか。

 

ドラゴンハングがジムⅢを咥えたまま地面と叩きつけた。

 

叩きつけられたジムⅢは激しく破砕し、爆発した。

 

上体を起こしたシェンロンガンダムは、ドラゴンハングを縮め、左のマニピュレーターに握っていた僚牙を振るってその場から加速する。

 

五飛の目的は無論、バイアランカスタムである。

 

ヒイロ達であれば真っ先に起動する前に破壊しているはずだが、五飛は違った。

 

敢えて直接破壊せずに基地を破壊して、敵機を炙り出そうとしていた。

 

何故なら五飛は直感でバイアランカスタムが望んでいた強者と見据えていたからだ。

 

強者の決闘こそ、彼本来の闘いのスタンスなのだ。

 

加速するシェンロンガンダムの前に、3機のジェガンが立ちはだかる。

 

ビームライフルのビーム弾がシェンロンガンダムに撃ち注がれる。

 

「邪魔だ、退け!!!」

 

 

 

ヒュッ………ザァガァギャアアアアア!!!

 

 

 

シェンロンガンダムはモノともせずに僚牙で3機まとめて斬り飛ばした。

 

更に左側面からのビームや実弾の弾雨が撃ち注がれる。

 

シェンロンガンダムは、ジェガンとジムⅢ、ガンキャノンDの部隊へ睨みつけながら、背面のビームグレイブを手に取り加速した。

 

シェンロンガンダムの装甲面でビームや実弾が虚しく弾かれていく。

 

GND合金の前に、一般兵器は意味を成さない。

 

ジムⅢ3機は僚牙の一振りで豪快に破断され、ジェガン1機がビームグレイブで串刺しにされた。

 

 

 

ザァガァギャアアッッ、ズジュドォオオオオ!!!

 

ドドドドゴォガアアアアン!!!

 

 

 

爆発を突き抜け、更にビームグレイブの一振りでジェガン2機を斬り飛ばし、ジムⅢ2機を僚牙破断させる。

 

 

 

ギャジュィイイイイ、ガズガガギャアアアッッ!!!

 

 

 

そして間髪入れずに、ジムⅢとガンキャノンD部隊へ踏み込み、豪快にビームグレイブと僚牙を暴れるように振るい、完膚なきまでに破壊した。

 

ザァガァッッ、ズジュドォオッッ、ギャガオンッッ、ザァガァッッ、ギャガイイイッッ、ディガギン、ズジュガァッッ――――

 

ザァガガギャン、ギャズズズガァ!!!!

 

ゴゴゴォバァアアアアアア!!!

 

無双斬撃を展開させ、ビームグレイブと僚牙を振り下ろしたシェンロンガンダムの背後に激しい爆発の炎が巻き起こった。

 

 

 

ゴォオオン!!!

 

 

 

「っ…!!」

 

シェンロンガンダムの側面からバズーカの砲弾が直撃した。

 

それはスタークジェガンであった。

 

バズーカを突き出し、シェンロンガンダムの胸部へ突っ込む。

 

質量的な衝撃を受けてシェンロンガンダムはスタークジェガンに吹っ飛ばされた。

 

轟音を響かせて基地施設へ突っ込む2機。

 

スタークジェガンはこれでもかとバズーカを零距離から撃ち放ち、何発も幾度なく弾丸が尽きるまで撃ち込んだ。

 

通常のMSであれば、当に破壊されている。

 

だが、銃口を密着させた部位は、白煙を上げながら少しばかり焦げているだけに止まっていた。

 

「――――何!??」

 

ほぼ無傷の装甲を見て、驚愕するスタークジェガンのパイロット。

 

そして、シェンロンガンダムは両眼を光らせ、至近距離から火炎放射を浴びせた。

 

 

 

ギュゴォアアアアアアアッッ ―――!!!

 

 

 

超高熱の青白い炎が、スタークジェガンの装甲を瞬く間に融解させていく。

 

「がぁああぁっっ―――!!!」

 

その高熱の炎はダクトや装甲の隙間、熔解面から機体内に入り、スタークジェガンは誘爆発を起こして爆砕した。

 

 

 

グヴァゴォオオオオオオオオオッッッッ!!!

 

 

 

駆動音を鳴らして、シェンロンガンダムが起き上がる。

 

五飛も機体共々無事であり、更に不敵な言葉を吐き飛ばした。

 

「なかなかの攻め方だったな………さぁ………貴様達の正義、見せてみろ!!!俺は逃げも隠れもしない!!!」

 

爆発音が鳴り響く中、ディエスはバイアランカスタムにフィーアを連れて乗り込み、機体を起動させていた。

 

「本当にガンダムが来ちゃうなんて………あたし、あたし………!!!」

 

「フィーア、泣くなよ………連邦士官だろ!?大丈夫だ!!!俺とバイアランカスタムのコンビなんだからな!!!」

 

「ディエス少佐………」

 

モニタースクリーンが起動し、各標示事項が標示されていく。

 

だが、起こった火災は激しさを増していく。

 

基地の至る特定箇所でバックドラフト現象が巻き起こり基地施設の破壊が促進していく。

 

「フィーア………トリントン基地はダメだろう………主要施設もMSも殆どが破壊されている。死ぬも生きるも一緒だ!!だからお前を乗せたんだ!!」

 

「ディエス少佐、ううん………ディエス、好き」

 

「……知ってるよ」

 

再び二人はキスを交わす。

 

守るべき者を見据えた戦士は、レバーをスライドさせ、バイアランカスタムを舞い上がらせた。

 

夜空へ高く舞い上がったバイアランカスタムは、シェンロンガンダムの遥か上の上空を獲った。

 

これを見た五飛は不敵に笑った。

 

「ふん―――やっと現れたか!!!目標捕捉、いくぞナタク!!!」

 

この瞬間、バイアランカスタムのコックピット内のフィーアはスクリーンに拡がる満天の星空に釘付けとなった。

 

とても綺麗なものだった。

 

これがデートだったらどれほどよかったのだろうか。

 

対し、ディエスは眼下にいるシェンロンガンダムを見下ろしていた。

 

(……バイアランカスタム………俺達は今空にいる。下の奴に一矢報いるか!??ん!??)

 

ディエスは驚愕した。

 

シェンロンガンダムが単機でバイアランカスタムへ向かい急上昇してきていたのだ。

 

GNDドライヴが成せる業である。

 

「フィーア………歯を食い縛って捕まっていろ!!!男としての闘いだ!!!!」

 

「え!?きゃあああ!??」

 

ディエスはバイアランカスタムを急降下させた。

 

バイアランカスタムは急降下しながらビームサーベルを発動させ、迫るシェンロンガンダムに斬りかかる。

 

今、龍と麒麟が激突する。

 

「一矢報いらせてもらう!!!反乱ガンダム!!!」

 

対し、シェンロンガンダムもビームグレイブを握りしめて迫った。

 

「貴様の正義を見せてみろ!!!」

 

そして2機の刃が空中で激しくスパークを起こして激突した。

 

 

 

ギュゴォアッッ――――ギャギガァアアアアアアア!!!

 

 

2機は垂直に交差した後に、軌道転換して再び斬りかかる。

 

ビームグレイブとビームサーベルが、すれ違いながら打ち合う。

 

 

 

ギャギガァアッッ!!!

 

 

 

そして三度目の方向転換で2機は平行に迫り合った。

 

空気をかき切る音を唸らせて加速するシェンロンガンダムとバイアランカスタム。

 

ビームグレイブとビームサーベルが唸り振られて、刃が衝突した。

 

 

 

ギィディガァアアアアアッッ……!!!

 

ビームグレイブとビームサーベルの打ち合い。

 

シェンロンガンダムとバイアランカスタムのパワーとパワーが拮抗する。

 

この瞬間、五飛はバイアランカスタムへ向けて通信回線を開いた。

 

「俺の名は張 五飛!!!貴様の正義、見せてもらうぞ!!!勝負だ!!!!」

 

「何!??自ら回線を………!!?ならば…」

 

自ら回線を開いた五飛の行為に、ディエスも武人としての性を見せる。

 

既にフィーアを乗せている事にお構い無しであった。

 

「こちらバイアランカスタムのパイロット、ディエス・ロビンだ!!!五飛と言ったな………その言葉に答えてやるっっ!!!俺の正義、受け取るがいい!!!」

 

「やはり見込み通りの漢(おとこ)が乗っていたな………ナタク………ならば、いざ尋常に………!!!」

 

「勝負!!!」

 

 

 

ギャギィィィッッ!!!

 

 

 

シェンロンガンダムとバイアランカスタムの互いの捌き合いを狼煙に、勝負が開始された。

 

弾き合ったビームグレイブとビームサーベルを再び激突させ、数秒拮抗する。

 

再び弾き合うと、バイアランカスタムのビームサーベルの唸る斬撃がシェンロンガンダムを獲る。

 

これを直ぐに躱し、ビームグレイブをバイアランカスタムの側面へ斬り込む。

 

それをレフトアームのビームサーベルで受け止めて弾き返した。

 

一瞬2機は引き下がり、直ぐに加速。

 

激突した2機は得物を打ち合わせては打ち合う。

 

互いに一歩も引かない激しい戦闘は、更に激しさを増す。

 

高速の斬り合いに移行していく。

 

唸る斬撃を受け止めて、斬撃を繰り出すバイアランカスタム。

 

その斬撃を躱し、シェンロンガンダムはビームグレイブの連続突きを繰り出した。

 

「はぁあああああっ!!!」

 

「ちぃいいいいい………!!!!」

 

ディエスは迫り来るビームグレイブの連続突きを巧みにビームサーベルで受け止めて防御する。

 

そしてバイアランカスタムを一気に舞い上がらせて高速攻撃を大胆に躱してみせた。

 

「バイアランカスタム!!!翔んでこそ俺達だ!!!おおおおおおおお!!!」

 

バイアランカスタムは逆に急降下し、ガンダムサンドロックのごとく斬りかかる。

 

対し、シェンロンガンダムはビームグレイブを斬り上げた。

 

「面白い!!!はぁあああああっ!!!」

 

 

ギャギュゴォオオオオオオッッ――――!!!

 

 

2機の重い刃が激突。

 

互いに強烈な衝撃を与えながら凄まじいスパークを巻き起こした。

 

「ガンダム!!!」

 

「ふん!!!」

 

終わりなき攻め合いが更なる拮抗を産み、上下に小刻みに動くシェンロンガンダムとバイアランカスタム。

 

その時だった。

 

「っっー……ディエス、もうやめてー!!!しがみ付いているだけであたし精一杯ー……」

 

「フィーア!!」

 

「何!??ちぃいいいいい!!!」

 

フィーアの声を聞いた五飛は、一気にバイアランカスタムの刃を打ち上げるように捌いた。

 

「くっっ!!!これで終りにする!!!はぁあああああっ!!!」

 

決め手と決めたビームサーベルの一振りが唸りながらシェンロンガンダムに迫る。

 

だが、シェンロンガンダムは躱そうとも、攻めようともしなかった。

 

唸る斬撃がシェンロンガンダムに激突するその瞬間、シェンロンガンダムはレフトアームのシールドで刃を受け止めた。

 

「何!??」

 

先程までの激しい攻めから一転し、防御へと移したシェンロンガンダムの行動に、ディエスは違和感を示した。

 

更にそれ以前に伝わる手応えにも違和感を感じていた。

 

ビームサーベルは確かにシールドを斬ろうとしている。

 

だが、斬っている感覚ではなかった。

 

ディエスはここで初めてシェンロンガンダムの装甲が異質な装甲であることに気が付いた。

 

鉄の棒を鉄に押し当てているかのような感覚に似ていた。

 

「なんて装甲だ?!!」

 

「ディエスったら~!!!」

 

シートにしがみ付きながらフィーアは怒ってディエスの頭を叩いた。

 

「いてっ………!!」

 

その時だった。

 

五飛からの通信がバイアランカスタムのコックピットに響いた。

 

「貴様………女を乗せていたのか!!?」

 

「あ!?あぁ、そうだ、脱出する為にな!!!」

 

五飛は軽い口惜しさを感じながらバイアランカスタムのビームサーベルを弾き飛ばして叫んだ。

 

「俺は弱い者と女は殺さない………ディエスと言ったな………この勝負預けたぞ!!!次に闘う時は一人でかかってこい!!!」

 

五飛はそう吐き捨てると、シェンロンガンダムを上昇させ、トリントン基地から離脱した。

 

「な!??なんだと!??おい…………ったく、なにがなんだか…」

 

突然の戦闘解除に戸惑うディエスであったが、直ぐに我に帰り、フィーアを抱き寄せた。

 

「すまなかった!!フィーア!!だが、もう大丈夫だ!!!助かったんだ!!!フィーアのお陰でな!!」

 

「ディエス…ぁああ!!もう、怖かったんだから~!!!あたし、あたしー……」

 

「あぁ、悪かった!!もう、こんなことはしない!!でもこれだけは忘れるな!!お前のお陰なんだ!!お前のお陰でな!!」

 

トリントン基地を飛び去っていく五飛とシェンロンガンダム。

 

白熱した闘いに水がさし、五飛はやや不満げであったが、それ以上に渡り合ってくれる強者と出会えたことに高揚感を感じてならなかった。

 

「とんだ水をさされたな……だが、強い者と出会えた。奴は間違いなく本物だ………次に闘える時が愉しみだな、ナタク」

 

 

 

ソマリア・ジオン残存軍駐屯地

 

 

戦闘の疲れを癒すようにマリーダ達がテント内で食事をしていた。

 

現地から調達した料理が並び、団らんのひとときが流れる。

 

マリーダは、ここの残存軍にもガランシェール隊に似た家族的なモノを感じていた。

 

会話の中でも笑いが溢れるときも見受けられた。

 

その中で民間の現地少年・カレッタも混ざり、憧れのマリーダとのひとときを楽しんでいた。

 

実はこの日はマリーダの滞在最終日の夜であった。

 

明日の朝にも次に潜伏するポイントへ移動する予定でいた。

 

このことを知ったカレッタ少年は、食事を終えた後、がっかりした感を出しながらマリーダに訪ねた。

 

「マリーダ姐ちゃん………明日からもう、会えないの!?」

 

想いを寄せているために、切なくて仕方がないカレッタ少年。

 

彼の気持ちは、マリーダの思考にもひしひしと伝わる。

 

「ああ。明日の明日にも次に闘う所へ行く。当分は会えん」

 

「そっか………やっぱり、行っちゃうんだね?」

 

「ああ。任務だからな。カレッタ…お前は男だろ?もっとしゃきっとしたほうがいいぞ…」

 

憧れの女性にそう言われたカレッタは、ぐっとある意味追い詰められた感に見舞われた。

 

するとカレッタはばっと立ち上がり、マリーダに向いた。

 

もう既にこの時点でマリーダはカレッタの思考が解ってはいたが、敢えて何も言わなかった。

 

「ま、マリーダ姐ちゃん!!わかった!!しゃきっとするね!!俺は…俺はっ………ま、マリーダ姐ちゃんの事、好きです!!一目惚れでした!!だから、また来てほしいんだ!!付き合ってくださいっっ!!」

 

面と向かってマリーダに告白の言葉を送ったカレッタ少年。

 

マリーダもカレッタ少年の気持ちを解っていながらも、本人からの言葉を直接貰うと、また違った感覚を覚える。

 

「……っあ、そ、そうか…そうなのか……」

 

実際、マリーダ自身は人生において初めて異性からの告白を受けた。

 

だが、意中の存在はヒイロだ。

 

マリーダ自身、返す言葉が解らなくなる。

 

かと言って嘘を言っても仕方がない。

 

マリーダも自身の気持ちをカレッタ少年にぶつけた。

 

「カレッタ………気持ちは嬉しい。だが、すまない。私には意中の人が……好きな人がいる。付き合うとかは………できない」

 

確かな気持ちだった。

 

だが、哀しみの表情を浮かべ、泣き始めたカレッタ少年にマリーダの母性がゆらぐ。

 

「っ………うっ………ううっ!!うう………」

 

「カレッタ………」

 

泣き沈んでいくカレッタ少年にマリーダはうずうずし始めた。

 

そこでマリーダは条件付きの提案をした。

 

「……泣くな。男だろ!?それにお前は私に告白してくれた男子の記念すべき一人目だ。今晩だけお前の彼女になってやってもいい。但し、いつまでも私と付き合えないと言って泣いていれば、今すぐ此処を立つ!!」

 

敢えて大胆な行動に踏み切ったマリーダ。

 

気持ちは複雑ではあるが、好意を持ってくれた事に感謝しての事であった。

 

カレッタ少年は涙をふき、きっと表情を改めた。

 

「……ぐすっ………わかったよ、ありがとう、マリーダ姐ちゃん!!」

 

「わかればよし!さ、夜は短い。早くデートに行くぞ!!クシャトリヤへ特別に乗せてやる」

 

「本当!!?やった!!」

 

クシャトリヤに乗り込み、クシャトリヤを起動させるマリーダ。

 

同乗するカレッタは、憧れの女性とのドキドキ感情と、男心を刺激するメカニカルのワクワク感情を混ぜ合わせていた。

 

クシャトリヤを舞い上がらせていくマリーダ。

 

今夜限りの二人の時間が始まる。

 

マリーダの言うデートとは、クシャトリヤによる空中散歩であった。

 

更には全周囲モニターによってリアルなプラネタリウムが映し出される。

 

宇宙で生まれ育ったマリーダには見慣れた光景ではあるが、意識して見上げればまた違った感覚を覚える。

 

カレッタ少年も夜空へ吸い込まれていく感覚を覚えた。

 

駆け抜ける夜空の空中デート。

 

マリーダは星々を見ながら口許に軽い笑みを浮かべ、カレッタは嬉しさ全開の笑みを見せていた。

 

マリーダはこの星空を見つめ、オルタンシアでヒイロと見た星空を思い出していた。

 

だが、今はカレッタ少年の願いを叶えてあげること。

 

マリーダは補助シートのカレッタ少年に向き、笑みを贈る。

 

カレッタ少年は顔を赤くして笑った。

 

そんなカレッタ少年に母性をくすぐられたマリーダは、ヒイロにすまないと思いながらもカレッタを抱き寄せ、頭を撫でた。

 

更にはカレッタ少年の頬に軽い口づけをしてみせる。

 

カレッタは赤くなったまま、歓喜のあまりに気絶してしまう。

 

刺激が強すぎたようだ。

 

カレッタ少年は、マリーダに膝枕してもらいながら気絶したまま過ごす。

 

こうしてマリーダとカレッタの時間は瞬く間に流れていった。

 

マリーダは空中デートから帰還し、カレッタ少年をキャンプ地へ寝かしつけた後、最終チェックしながら荷仕度をすませた。

 

「……これでよし。ふぅ………こことも今日で最後か………ガランシェールやオルタンシアに継いでアットホームな場所だったな」

 

そう言いながらマリーダは仮設シャワールームへと向かった。

 

シャワーの水とお湯が開き、マリーダの裸体全身を潤すように流れる。

 

マリーダは瞳を閉じながらシャワーを浴び続ける。

 

「ふぅ………シャワーは気持ちいいな……体が洗われる………それにしても色々あった………そう言えばマスター、私が地球へ降りる事が決まった時、初めは反対していたな……だが、地球へ降りたコトは正解だった。それまでに無いものを手に入れる事が出来た。姉さんとも再会できたしな………」

 

シャワーを浴びながらマリーダはこれまでの事を振り返る。

 

そして、自分の身体に残された忌まわしいキズにも目を通す。

 

シャワーの際、どうしてもそれは避けられない。

 

もしこの先ヒイロに見せるときが来た時、彼が受け入れてくれるのか………今のマリーダは、そんな不安も過らせてしまう。

 

「ふふふ………何を不安がっている?マリーダ。全ては感情のままにいけばいい………」

 

マリーダは自分に言い聞かせながらヒイロから貰った「感情のままに行動する」というワードを更に言い聞かせた。

 

マリーダがシャワーを浴びている頃、周囲に危険の波を背負った者達が遠方より監視していた。

 

それは連邦でもない所属不明の武装集団であった。

 

彼らが所有する連邦製MS・ジムスナイパーのカメラアイが不気味に闇夜に光った。

 

「くくくっ………こいつはいいな………滅多に無い、いや、願っても見な一級品だぁ………狙った獲物は逃さんぜぇ…」

 

 

危険の波はマリーダの感知領域外にあった。

 

 

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