新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード48 「ムーン・ムーン・ジェノサイド」

 

 

 

 ♪BGM 「RYTHEM EMOTION」

 

 

「リディ・マーセナス、お前を殺す……!!!!」

 

 

 ヒイロの鋭利な眼光がバスターファンネルを睨みながらロック・オンし、ウィングガンダム・ゼロの構えたツインバスターライフルの銃口からビーム渦流が撃ち放たれる。

 

 

 

 ヴィリリリリィィ……ヴァドォヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 ズドォヴァガアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 その一撃でマリーダを狙ったバスターファンネルを破壊し、そのままガンダムデルタカイへと持続するビーム渦流のエネルギー射撃を向けた。

 

「ぐうううう?!!ちいいいいいっっ……!!!!」

 

 グワッと迫り来るビーム渦流を防御するガンダムデルタカイだが、そのシールドバスターソードの防御を圧倒するように、ツインバスターライフルのビーム渦流がガンダムデルタカイを押し出して強制離脱させる。

 

 ガンダムデルタカイはその荒れ狂うビーム渦流を強引に弾きのがれつつも、吹っ飛んだ体勢を立て直しながらメガバスターを撃ち放つ。

 

 そのビーム渦流の射撃軌道はこの期に及んでマリーダに向けられていた。

 

 対するウィングガンダム・ゼロはこれをガードして防ぐのではなく、再度ツインバスターライフルを直接ビーム渦流に撃ち放つという真の防御で応戦した。

 

「リディ・マーセナスっ……性懲りもなくマリーダを狙うか!!!」

 

 

 

 ヴウウッッ、ヴァズダアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 ドォバオアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

 双方のビーム渦流がぶつかり合い、閃光たる激しいエネルギー爆発を巻き起こす。

 

「ぐあああああっっ!!!」

 

「っ……!!!」

 

 その反発し合ったエネルギーの爆発が両者に拡がり、ガンダムデルタカイは吹き飛び、ヒイロはその衝撃波からマリーダを再度守った。

 

「ヒイロ……!!!」

 

「マリーダは絶対に守る……!!!」

 

 吹き荒れる衝撃波の中、リディが怒り混じりに吠える。

 

「おのれ、ガンダムゥウウウッッ!!!!邪魔なんだぁああああ!!!」

 

「その言葉そっくり返すっっ!!!貴様が邪魔だ!!!貴様は、以前に俺達の仲間の命を奪っただけでなく、救われるべき被験者達や、彼らの救助にあたっていたネェル・アーガマクルー達を殺した挙げ句、性懲りもなくマリーダを狙う……リディ・マーセナス、つくづく救えない奴だ……!!!!」

 

「……ぐぅっっ!!!うるさい!!!!そんなマヤカシや幻想を体現したようなそんな邪魔臭い人形は、壊しちまえばいいんだよぉおおおっっ!!!!!」

 

「何だと…!!?貴様っっ……!!!!」

 

 リディにマリーダを人形呼ばわりされたヒイロは静かに、かつ激しく激昂する。

 

 瞬発的にゴッと加速したウィングガンダム・ゼロは、再び突っ込んで来るガンダムデルタカイの懐めがけ一気に飛び込み、付き出したシールドの先端を思いっきり激突させた。

 

 

 

 ドガォオオオオンッッッッ!!!!

 

 

「がぁああああああぁっっ!!!?」

 

 更にもう一方側では、ガンダムサンドロック改が一瞬の間にもう1基のバスターファンネルをバスターショーテルで一刀両断し、閃光たる動きで吹き飛んだガンダムデルタカイに迫っていた。

 

 

 

 

 ディガギャアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

「があああああああ?!!」

 

 PXシステムに乗せたクロスクラッシャーの超高速の一撃がガンダムデルタカイをふっ飛ばしてみせた。

 

「一矢報いらなきゃ僕の気が済まないッッ!!!!はああああああああああ!!!!」

 

 青白い残像を描くガンダムサンドロック改の縦横無尽たる超高速軌道の斬撃が、ガンダムデルタカイを連続でふっ飛ばしていく。

 

「ぐうううう?!!なぜだああああ?!!なぜ敗北のビジョンが連続する?!!」

 

 ガンダムデルタカイのゼロシステムもまた敗北のビジョンをリディの脳裏に流して翻弄する。

 

 次の一撃の際にクロスクラッシャーとシールドバスターソードが激突し合う。

 

「ぐううううッッ、ガンダムッッ、ガンダムぅううううう!!!!」

 

「彼女はッ、ロニはッ……僕達は嫌という程酷い状況を駆け抜けてきた!!!これ以上彼女に不幸になってほしくない!!!!だから、ロニに殺意を持ったお前が許せないッッッ!!!!」

 

 リディが唸り叫びながらそれを捌き弾き、カトルがクロスクラッシャーを激突と共に斬り上げから袈裟斬り軌道の斬撃を打ち込む。

 

 その両者の激しい白兵戦の激突が空中にこだまする。

 

「がらぁあああヴぁあああ!!!」

 

 吠えるような叫びを上げながら、リディはシールドバスターソードをクロスクラッシャーにぶつける。

 

 だが、ガンダムサンドロック改は、それをも捌き弾いてクロスクラッシャーの唐竹の斬撃打をガンダムデルタカイに打ち込んだ。

 

 

 

 ガオオオォォオオンッッ!!!

 

 

 

「がくあああっ?!!!」

 

 ガンダムデルタカイを叩き伏せた一撃を皮切りに、縦横無尽な軌道の斬撃をガンダムサンドロック改が食らわし続ける。

 

 お仰向けに倒れたサイコガンダムMk-Ⅲのコックピットからロニがそのカトルの雄姿を見つめ続けていた。

 

「カトル……こんな、こんなになってしまった私なんかの為にッッ……!!!」

 

 極限にまで自己否定せざるを得ない程に追い込まれたロニを救おうとするカトルの姿勢を目の当たりにし、彼女の涙は止めどなく溢れる。

 

 その最中にヒイロはクシャトリヤ・リペアードをガンダムデルタカイの戦闘領域から守るようにウィングガンダム・ゼロを前に出し、マリーダにロニの救出を促す。

 

「マリーダ、今のうちにロニをサイコガンダムMk-Ⅲから助け出せ。奴の相手は俺達で引き受ける!!!無茶はしなくていい!!!」

 

「ああ……わかった!!ありがとう……ヒイロ!!!」

 

 マリーダは早速行動に移り、全周モニター画面に映る倒れたサイコガンダムMk-Ⅲ目掛け、クシャトリヤ・リペアードを向かわせる。

 

 倒れたサイコガンダムMk-Ⅲの側に自機を降り立たせると、マリーダはレフトアーム側のみとなったマニピュレーターをサイコガンダムMk-Ⅲの頭部コックピット付近にかざす操作をした。

 

「ロニ、聞こえているか!!?」

 

「マリーダ……!!!あなたにも、私は狂気を向けてしまった……ごめんなさい!!!ごめんなさいっっ……ごめんなさい……!!!」

 

「いいんだ、ロニ。私は解っている。私もあれから外道研究者達に洗脳されるまま妹達を殺めさせられた事があった……理不尽に罪を行わさせられたのはロニだけじゃない。みんなは解っている……今、私達はロニを助ける為にこの極東の地に乗り込んだんだ。それ以上もう自分を攻めなくていい。だから帰ろう」

 

「うぅっ……うっ……マリーダ……!!!うん!!!私っ……還りたい!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅱのコックピットが解放され、ロニが出てきた。

 

 彼女がマニピュレーターに掴まるのを確認しながら、マリーダはコックピットに近づける操作をし、ハッチを解放した。

 

 ハッチを開いた先には涙と感情が溢れる寸前のロニがそこにいた。

 

 マニピュレーターから手を離しコックピットの中に入ると、その身をマリーダに委ねるように飛び込ませる。

 

「マリーダ!!!うぅっ……うっうっ……」

 

「お帰り、ロニ……」

 

「うっ……うああああああああああっっ……!!!うぁああああっああん!!!」

 

 感情を解き放つように泣き叫び始めたロニを、マリーダは優しく抱き締めながら彼女の頭を撫でた。

 

「辛かった……うん……辛かったな……だが、それも終わりだ……」

 

 クシャトリヤ・リペアードのコックピット内に満ちた空気は、これまでのロニの悲痛、苦痛、屈辱、そして哀しみを全て洗い流すかのような空気感に包まれた。

 

 その間にもガンダムサンドロック改の猛撃は続き、優しいカトルが普段見せる事がない激しい感情をガンダムデルタカイに、リディにぶつける。

 

「はぁあああっ!!!」

 

「がぐがっああっ……ぎぃっ!!!」

 

 連続する滅多斬りの斬撃打を、ガンダムデルタカイはゴリ押しで受けながらシールドバスターソードをガンダムサンドロック改に突く。

 

 一瞬吹っ飛ぶが、その一瞬でガンダムデルタカイに迫り、シールドバスターソードをクロスクラッシャーで掴み止めた。

 

 ギリギリと互いのパワーが拮抗する最中、リディの脳裏に敗北と死のビジョンがゼロシステムによってうつしだされ、現実と混同させる状況が引き起こる。

 

 頭痛と吐き気が去来し、更に遠心力系の目眩も襲いかかる。

 

 リディは頭を押さえながら悶絶を始めた。

 

「ぎぎぎっ……ががががはっ……ぎっ!!!?」

 

 

 ガンダムサンドロック改は機体のパワーがダウンするガンダムデルタカイのその隙を逃すはずもなく、クロスクラッシャーで一気に胸部を挟み込んだ。

 

 

 

 ガギャガァアアアアアアッッ!!!!

 

 ギギギギギギギギギィッッ!!!

 

 

 

 そしてガンダムサンドロック改はPXの超高速機動力を持ってガンダムデルタカイを掴み取ったまま、残像を描きながら一気に地上へと激突させた。

 

 

 

 キュキゴッッッ―――ダディギャガァラアアアアアア!!!!

 

 

 

「ぐかっ……!!!!!!」

 

 常軌を逸した凄まじい衝撃がリディの意識を失わせた。

 

 ガンダムサンドロック改もまた、ガンダムデルタカイを地表に食い込ませた状態でPXシステムが自動解除され、怒涛の攻勢を終える。

 

 ヒイロはその側にウィングガンダム・ゼロを着地させ、クロスクラッシャーに掴まれながら地に埋められたガンダムデルタカイを睨んだ。

 

「リディ・マーセナス……貴様は敢えて殺すのは預ける……代わりに相応の報いを受けてもらう。殺すだけじゃ、報いが薄い……覚悟しておくんだな……!!!」

 

 全身全霊の攻勢を持ってカトルはリディを沈めさせた。

 

 ガンダムサンドロック改のコックピットには息を切らしたカトルの呼吸が響いていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ……!!!僕はっ、やったのか?!!この、ガンダムを?!!」

 

 カトルは半ば状況がのめれないまでに、戦闘に魂を注いでいた。

 

 その時、サイドモニター画面にヒイロが通信を入れた。

 

「カトル、サンドロックはPXを使いきった。後は俺に任せ、マリーダとネェル・アーガマに帰還しろ」

 

「はぁっ……はぁ……はぁっ、でも、このガンダムは……!!!」

 

「そいつはMDを始末してから俺が連行する。今のお前とサンドロックが奴の鹵獲移動中に再起動されたら負ける……それに、一番成すべきだったお前の任務はもう遂げている」

 

 ヒイロはゼロシステムが示さずとも、万が一の危険を考えカトル達を離脱させる判断を考えていた。

 

「……わかったよ……ありがとう、ヒイロ!!!」

 

 改めて帰還の流れが訪れ、マリーダは笑みを含みながら泣きながら寄り添っているロニに言葉をかける。

 

「さぁ、帰ろう。ロニ……ネェル・アーガマへ」

 

「ううっ、うっ……うっ……ネェル……アーガマ??」

 

「あぁ。それが今の私達の帰る場所だ」

 

 状況を読み馴染んだカトルは自機を立たせ、クシャトリヤ・リペアードと共にネェル・アーガマがいる方面へと機体を向かわせていった。

 

 それを確認したヒイロは、ウィングガンダム・ゼロをMDの部隊が密集するポイントへと向かわせた。

 

 

 

 

 友軍機のガンダムデルタカイからの想定外の攻撃により、敵味方判断の部分にエラーを一時的に起こしていたMD部隊が、動きを止めていた状態から戦闘を再開させる。

 

 再びカメラアイに光が灯り、瞬時のターゲット選定と共に攻撃を開始し、藤枝市と焼津市に再びビームが飛び交う戦場が拡がる。

 

「やれやれ、一時期はどうなるかと思ったが、あっちはめでたしめでたしだな!!さぁて……こっちはもう一働きするか!!!」

 

「あとはMDを叩くだけだ。なんとかなるな」

 

「ああ、もう一息だ!!殲滅戦の再開だ。この戦闘はOZプライズに打撃の一部となったはずだ」

 

「俺達のこの行動は、確かな粛清の一つになる」

 

 デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーもこの状況に対し、再び攻勢に打って出た。

 

 唸り薙ぐアームド・ツインビームサイズ。

 

 銃口を唸り散らすダブルビームガトリング、アームバスターカノン、バスターガトリングキャノン。

 

 ハチの巣弾幕を飛ばす二挺のダブルガトリング。

 

 高速連発射撃するビームバスターと縦横無尽にそれと連携攻撃するファンネルミサイル。

 

 そして追って介入したウィングガンダム・ゼロが下方に向かい解き放つ、ツインバスターライフル。

 

 メテオ・オブレイクス・ヘルのガンダム達やサーペントカスタムの驚異的な戦闘力がMD達を圧倒し、その力を証明する。

 

 これに加え、半数以上が壊滅したOZ招集部隊もまた、士気を改めてガンダム達の攻勢に続いた。

 

 世界各地のオペレーション・ノヴァ実行ポイントでは抵抗者達は最終的に応戦不能となり、必ず抵抗勢力の全滅という状況を固持していた。

 

 だが、今回の一件でそのオペレーション・ノヴァが覆されたのだ。

 

 当然ながらこの事態は上層部であるロームフェラ財団本部に状況報告され、それを会議中に受けたデルマイユは憤りを露わにして机に拳を叩き付ける。

 

「何たることだ!!!輸送船部隊も含め、MD部隊が全滅したと言うのか?!!その一か所だけだったとはいえ、オペレーション・ノヴァが失敗になるだと?!!奴らはそれほどまでの力を有していると言うのか?!!」

 

「デルマイユ公、あのバルジをも破壊した連中です!!!通常のMD部隊数ではとても……!!!」

 

「その通常の部隊に増援をさせた指示をしていたのだ!!!それでもこのありさまだっ……!!!」

 

 そこへ更なる厄介な報が入室してきたOZプライズの兵士によってもたらされる。

 

「失礼致します!!たった今入った情報をお伝えしに来ました!!!中国を統制させていた我がOZプライズの者達がL5エリアと連動して謀反を起こした模様です!!!」

 

「何ィ?!!」

 

「中国エリアを管轄担当していた殆どのOZプライズの中国人種兵達が決起したとのことで、これもOZの反抗に連動したものと思われます!!!『我々こそが地球圏の覇権を拡げる』と主張しているようです!!!」

 

「旧世紀でいうところのレッドチームと称された国の連中か!!!元より信頼に置けんとは思っていたが……やはりこうなったか!!!」

 

 この時既に中国エリア及びL5コロニー群各地のOZプライズの中国人種兵士による決起が行われ、またもやオペレーション・プレアデスのブーメランというべき事態が発生していた。

 

 それ以前からも実質上、醜季煉特佐による独裁体制が裏で広がっており、今回のOZの反乱に乗じて正式に中華覇権派OZプライズ決起した形となったのだ。

 

 だがそれはカモフラージュも踏まえており、醜季煉特佐が支配するL5コロニー群では既に支配体制が裏で完了していた。

 

 中華種族の兵士達以外の兵士達は巨額の賄賂(わいろ)で懐柔させられており、L5全域のOZプライズ宇宙軍が中華覇権派・OZプライズとなっていた。

 

 更に彼らはL5管轄のコロニーを徹底的に支配し、手始めの時点から大量の大衆達をMSやMDによる虐殺を行いその力を示していた。

 

 L5コロニー群に至っては支配したコロニーの一部を強制収容施設としても扱い、住んでいた市民の多くが大量虐殺……ジェノサイドの犠牲となっていた。

 

 デルマイユが屈辱と憤りに震えながら歯を食いしばる中、財団兼ブルーメンツ幹部の一人が狂気の提案を提示すする。

 

「ならばバルジⅡを地上に放ち、更なる畏怖を知らしめることができるのでは?メテオ・ブレイクス・ヘルの過剰な武力介入や分裂したOZ・OZプライズ達の決起が我々をそうさせた……それだけのこと……いかがなものかな?」

 

「バルジ砲を地上に撃つ……か!!!なるほどな!!!」

 

 すると他の居合わせていた財団幹部もその意見を促進させた。

 

「元より我々の力の誇示を証明する象徴のバルジです。オペレーション・ノヴァに加え、使うべきです。これ以上の奴らの過剰武力介入や反乱決起を阻止する為にも!!!」

 

 それからしばらくの間急遽バルジ砲の使用、配置等についての緊急会議が行われ、その結果はコロニー落としに匹敵する愚行の決断が下されることとなった。

 

「今後、バルジⅡを地球の衛星軌道上付近に配置し、宇宙には引き続きバルジⅢを配置し続けるという結論となった。早速バルジⅡのポイント移設指令を発令する!!!中華覇権派OZプライズに対しては、地上にはオペレーション・ノヴァの強化を行う!!!」

 

 皮肉にもヒイロ達の行動がロームフェラ財団をより狂気的な行動へと移させてしまう。

 

 ヒイロがゼロシステムで見た光景がまた一つ現実味を帯び始めてきていた。

 

 帰還する最中のコックピットの中で、ゼロシステムはその事を警告するかのように映像をヒイロに見させていた。

 

 ヒイロはその映像と向き合いながらゼロシステムに語り掛ける。

 

「またバルジ砲の映像か……ゼロ、それがどこなのか示せないのか?今の俺達に影響がないのか?」

 

 その問いに対し、何時しか聞いた「あの声」が返答する。

 

 

 

『それはいずれ地球に撃たれる狂気の光……あなた達に直接は注がれない……けれど行き過ぎた武力介入がこれを招いた』

 

 

 

「な?!!あの声……!!?行き過ぎた武力介入だと?!!」

 

 

 

『これ以上の過剰な戦いは、悲劇を拡大させる……』

 

 

 

 更にゼロシステムは今後の行く末を示すかのように更なる映像を巡らせた。

 

 新な形状のグリーンが主体カラーのウィングガンダムとヒイロ……もとい、ライトの姿、サンクキングダムの映像が脳裏に送り込まれる。

 

 そしてそれを言葉に形容しがたい感覚で、ヒイロは理解する。

 

「新なウィングガンダム……?!!与えるに相応しい奴がサンクキングダムにいる……だと?!!そして、そいつは……俺?!!いや、恐ろしい程似ている奴なのか……?!!」

 

 

 

『この国は守らなければならない……』

 

 

 

 その言葉の直後、サンクキングダムに押し寄せるMDの大部隊の映像が示された。

 

 業火に晒されるサンクキングダムと闘い続けるヒイロ達の姿、そしてその国のプリンセス・リリーナ・ピースクラフトと兄であるゼクス、もといミリアルド・ピースクラストの姿が過る。

 

「サンクキングダムのプリンセスにゼクス?!!なるほど……奴はプリンセスの兄だったのか……!!!そして奴と共闘か……あの時は想像もできなかったな……」

 

 ヒイロは最後にゼクスと戦闘をしたあの瞬間を思い起こす。

 

 最後にマリーダの名を叫んでバスターライフルを放った時である。

 

「……あれから奴はOZを抜けていたのか……つくづく時代というものは早くも遅くも変わるな」

 

 当事者達は日々激化する周辺諸国のOZ・旧連邦残存軍・旧ジオン残存軍対OZプライズの図式の中、平和の象徴の国として再建したその国を守り続けようと奮闘していた。

 

 ゼクスは愛機トールギスを駆りながらミスズ達と共に警戒任務にあたり、ヒイロの酷似者のライトもカスタムリゼルに搭乗してそれに続く。

 

 そしてリリーナは国事や周辺諸国からの亡命者達及び戦闘逃亡入国者達の人道的対応に身を呈していた。

 

 一連のゼロシステムの流れを見せられたヒイロは肝心な質問をゼロシステムの声に問いただす。

 

「単刀直入に言う。ゼロで聞こえるこの声はなんだ?そして何故か心なしかマリーダの声質にも似ている。何者だ?」

 

 だが、それ以上の答えは返ってくる事無く、その状況を流されながらヒイロは再び投影された現状況に目をやる。

 

 ネオ・バードモードに変形した状態でライト・レフト双方のアームを利用して抱えているガンダムデルタカイを見る。

 

「……俺達の仲間の、オデルの仇であるガンダム……角度を変えてみれば利用価値があるかもな……だが、貴様は決して許しはしない……リディ・マーセナス!!!」

 

 ヒイロは機体よりもそれを操るパイロットに怒りの矛先を集中させ、ゼロシステムを介して知ったその名を重く吐いた。

 

 その後、救出にあたったネェル・アーガマ乗組員達や救出しようとした被験者の多大な犠牲の痛感をかみしめさせられた状況で、ネェル・アーガマは領域の離脱態勢に入った。

 

 CICブリッジでは、ムラサメ研究所の廃墟となり果てた場所を通過する間際、ケネスを筆頭に全員が哀悼の意を表した敬礼を送る。

 

 マグアナックチームのアブドゥルは、短い間ながらも背負った事情を聞かされ彼に感情移入したヴィンセントの死と、彼がようやく再会できたクロエの死に対し、悔しさの余りに敬礼を辞めて壁を殴る。

 

 リディとベントナは別々の独房室に監禁され、尋問を待たされる身となった。

 

 拘束されたリディはうなだれたまま微動だにせず、唯一研究所関係者で生き残ったベントナは手当ても放置されたまま銃弾の傷に呻き続けていた。

 

 だが、同時に悲願であり待ち望んでいた喜ばしい状況もまたあった。

 

 カトルとロニは遂に再会を果たす。

 

 どれ程の辛酸の時間が積み重なっただろうか。

 

 どれ程苦痛と悲しみを味わっただろうか。

 

 カトルとロニはMSデッキ上で互いに強く抱きしめ合いながら、これまで会えなかった分の時間のように、いつまでも抱擁を続けていた。

 

 マリーダも距離を置きながらその状況を温かな眼差しで見守る。

 

 止まったかのような空間の中、カトルはロニの耳元で溢れさせてきた想いをこぼした。

 

「ロニ……やっと……やっと……やっと会えた!!!こんなにも嬉しい事なんて、なかった!!!何度も折れそうになった時もあった。でも必ず会えると信じて来た。そして……いまこうしている。君を抱きしめている……!!!」

 

 ロニもまたカトルの耳元に想いを吐露する。

 

「カトルっ、カトルっっ……!!!私っ、私っっ……!!!あなたを酷く傷つけさせてしまった!!!あなたのフィアンセとしても取り返しのつかない行為もしてきてしまった……ぐすっ、本当にごめんなさい!!!」

 

「謝らないでって……自分を思い詰めないで。ロニは何も悪くないんだ。何も……!!!僕はロニが傍にいてくれる事が一番嬉しいんだ!!!僕は、君が好きなんだから……!!!」

 

「カトルっっ……!!!」

 

 二人はより強く抱きしめ合った。

 

 そんな二人を見守っていたマリーダは髪をなびかせながら振り向いてその場を後にする。

 

 (あとは二人の時間だ。最早私は部外者だ。ロニ……本当に良かった……落ち着いたら女子会とやらをしてみたいものだ……)

 

 マリーダはある程度歩みを進めた後にふと宇宙(そら)にいるプル達ガランシェール一行を思い出し、立ち止まって天井を見上げた。

 

 (姉さん達は、今頃どうだろうか?ラプラスの箱の行方は……)

 

 

 

 L2コロニー群・L5コロニー群中間エリア

 

 

 

 ガランシェール一行は次の座標のムーンムーンを目指すにあたり、ピースミリオンと連絡を取り合って一時的な補給と改修を行っていた。

 

 それは勿論物資面のこともあるが、いずれ地上に降りた時の為の改修も踏まえていた。

 

 合流当初は予定はしていなかったが、ハワードの案で急遽改修工事が行われることとなったのだ。

 

 接待室ではハワードとジンネマンがコーヒーを飲み交わしていた。

 

「改修から補給まで……何から何まですいませんね、ミスター・ハワード」

 

「なぁに、ヒイロ達のよしみでもあるし、このくらいは当然だよ。ガランシェールには地上に着地する為の装備が無かったからな。遅かれ早かれ、いずれは地球に行くんだろ?」

 

「はい。予定ではサンクキングダムでヒイロ達のネェル・アーガマと合流することに。この分ではいつになるかはまだわからないとしか言えませんが……」

 

 ジンネマンはコーヒーを何度か飲んだ後に、ため息交じりに窓から確認できる月の方面を見た。

 

 それに察したハワードはジンネマンに問う。

 

「どうしたね?ため息なんぞして」

 

「え?!あ、まぁ……いくらガンダムとキュベレイを持っているとはいえ……今しがた申し上げたように、この旅はいつまで続くのかと憂いましてね。散々飛び回った挙句、実は大したものでもなかった、最悪何もなかったなんて言う可能性も捨てきれないなと感じましてしまう時がふとあるんですよ」

 

「ほぉ……旅ね。確かラプラスの箱と言ったかね?」

 

「はい。解き放てば連邦を転覆……すなわち今の情勢で言えばOZ及びOZプライズを転覆させるものとされているそうですが……」

 

 ハワードも何度かコーヒーを口にすると、それについて語りだす。

 

「俺は元々連邦のMS開発に携わっていた身でな……厳密にいう最初のMS・トールギスというMSの開発に携わっていた頃があった。その頃にも噂は耳にしたことはあった。ま、都市伝説みたいにしか思っとらんかったが……」

 

「そうだったんですか?!ん?最初のMSはザクⅠではなかったんでは?」

 

「世間一般、もとい公式にはそう言われとるが、それ以前に極秘に開発建造されたMSがトールギスだった。ただし、パイロットの安全性を完全に無視した設計と性能でな。最初にして最強のMS……ま、ヒイロ達のガンダムのプロトタイプと言った方がピンと来るかな??」

 

 ジンネマンは知り得る限りのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達の記憶を過らせる。

 

 その怪物的強さのガンダムの原点と言われれば、いかような性能か想像に難くない。

 

「……そんなMSがあったとは……」

 

 その当事者はサンクキングダム近隣のエリアの哨戒に日々活躍する。

 

 唯一のその機体を使いこなせる領域にいけた男・ゼクス・マーキス……本名ミリアルド・ピースクラフトがそのグリップを握り続けていた。

 

 (……OZプライズの降下作戦が、各地で激化している。だがまだ自衛部隊は力不足だ。ここにあのガンダムが加わってくれればどれ程心強いものか……ヒイロ……生きているのならば今は共闘を望む。この国の為にな……)

 

 ミリアルドはそう心の中で呟きながらリゼル部隊を先導しながら哨戒飛行を続けた。

 

 ハワードは部屋の棚に腰を上げると、話を本題に戻しながら幾つかのウイスキーに手にとりながらジンネマンにラプラスの箱を求める理由を問う。

 

「まぁ、携わっていた身としては自慢の機体だよ。話を戻すが、そんなにも疑念を抱えても尚、ラプラスの箱を探し続けるのは何故かな?」

 

「それは、養女ではありますが、私の娘であるプルのニュータイプ的観点が前向きなモノと感じ捉えていたからです。今の時代に必要なものと……そしてそれはサンクキングダムに届ける必要があるモノ……だからです」

 

 それを聞かされたハワードはグラスを手に取りながらジンネマンに言う。

 

「なるほどな。ニュータイプから見て……いや、感じての感想があってか……間違いはないと思うぞ。ヒトの革新と言われる人種がそう感じれていれるならば、そうなのだ。俺はニュータイプを否定なんかせんぞ。いずれは地球圏の社会が認めるべきと思っとる」

 

「ミスター・ハワード……」

 

 ハワードはコーヒーを飲み終わると、ウイスキーとグラスを持ちながら再び腰かけながら持論をジンネマンに諭すように伝えていく。

 

「ラプラスの箱の旅か……可愛い子には旅をさせろとよくいうもんだが、子ってもんは親の知らんところで成長してくれるもんだ……長かれ短かれ、意味のある旅になってくれるはずだ。そう考えれば憂うこともあるまいて……」

 

「なるほど……息子さんや娘さん、いらっしゃるんですか?」

 

「いや、直接はいない。だが、このピースミリオンで働いてくれているやつら皆、息子・娘みたいなもんさ……ま、お前さんと同じようなもんさ……ところで、ハイボールは好きかい?」

 

「ハイボールですか!いいですなぁ!!」

 

「まぁ、羽伸ばしということでお前さんがコーヒーのみ終えたら呑み交わそうや。少々でかいが月見酒ができるぞ?」

 

 するとその時、部屋にあるコールが鳴り響いた。

 

「ん?なんじゃい……これから晩酌ってのに……」

 

 ハワードは文句をこぼしながらコールに出ると、しばらく内容を呑みこんだ後でジンネマンに話を振った。

 

「……そうか。ちょっと待ってろ。ミスター・ジンネマン、おたくの子らがうちの高速戦闘艦を借りてL5のコロニー、X-8641……ムーン・ムーンに行きたがっているそうだ。どうするね?」

 

「何ですって?!!ううむっっ……あいつら勝手なことを……」

 

「一応、許可を求めての話なんだがな……まぁ、憂う気持ちもわかる。俺は別に構わんし、何なら信頼できる優秀なうちの娘二人に同行してもらうって方法もある。最終決定権は勿論お前さんだがな」

 

「ううううん……」

 

 結果的にピースミリオンから高速宇宙戦闘艦が飛び出し、ムーンムーンことX-8641コロニーに向けて発進していった。

 

 先ほどのハワードとの話や、以前にもプルとマリーダに告げた「感情のままに……」の話を思い返したジンネマンは「旅」をさせるに至ったのだ。

 

 窓から見える宇宙空間を突っ切る高速宇宙戦闘艦の光を見届けながらハワードはハイボールを呑みながらジンネマンになだめるように言う。

 

「なぁに……心配いらんさ。ウィングガンダム・ゼロと同等のガンダムとユニコーンガンダム、キュベレイ、そしてうちのスペシャルカスタムリゼルと優秀な娘二人がいるんだ……」

 

「何から何まで……本当にお世話になります……」

 

「ままっ、今は呑もうや……乾杯!」

 

「はい……!乾杯!」

 

 

 

 高速宇宙戦闘艦は艦名は持たなくともその名のごとく宇宙間を通常の艦艇をはるかに上回る速度での航行が可能であり、ムーンムーンを目指すにあたり、色々な意味で短縮できる要素であることに間違いはなかった。

 

 その高速宇宙戦闘艦を操縦するのはハワードのお墨付きともいえるピースミリオンからの二名の女性スタッフだ。

 

 どちらも美人であり、カッコよさげなショートヘアーとシュっと毛先がシャギーのロングヘアーが印象的な二人だった。

 

 他にもシェルドやディック、トムラ、ピースミリオンのメカニック数名が同行し、各機体のチェックを行っていた。

 

 航行操縦中の中、女性スタッフに簡易ドリンクを手にしたアディンが尋ねる。

 

「この船ってかなりの速度で航行できるんだろ?むーんむーん??までどのくらいでつけるの?」

 

「この位置からならば約半日で着ける。時間的には問題はない。だが、君達は何故あんな辺境のコロニーに?」

 

 そう答えた彼女にアディンは理由を説明する。

 

「あれ?ラプラスの座標の話してなかったっけ?」

 

「ラプラス?私達はムーン・ムーンに連れて行ってやってくれと言われたに留まっている。レディは何か聞かされていたか?」

 

 もう一方のレディという名の女性スタッフに話を振ると、彼女はラプラスという単語を察したように話す。

 

「いや、ドタバタして目的ポイントしか聞かされてはなかったが、ラプラスという単語は記憶にある。OZ時代に連邦を転覆させる力……それがラプラスの箱だという噂を聞いたことがあった。無論、都市伝説レベルの話だと思っていたが……まさか実際にあるとは……」

 

 アディンは元OZの人間という事にドリンクをむせながら反応した。

 

「ええ?!が?!!ゲホゲホッ……ゲーホゲホッ、ゲホゲホ!!お、お姉さん達って元OZなの?!!」

 

「そこまで驚くことはないだろう?ピースミリオンやネェル・アーガマには様々な勢力からの同志達が集まっているんだ。不思議な事ではない。そういえば申し遅れていたな。私はレディ・アン」

 

 レディの自己紹介に続き、もう一方の女性スタッフが振り返りながら握手の手をかざす。

 

「ルクレツィア・ノインだ。よろしく」

 

「お、俺は、アディン・バーネット!!よ、よろしく(いや~、二人とも改めてこう間近で接すると美人さんなのが半端なく実感できるぜ~、えへへ……あ?!!!)」

 

 心境的に鼻の下を伸ばしそうになったアディンはハッとして思考を止めるが、次の瞬間には耳に激痛がはしっていた。

 

「いづづづづづ!!!」

 

「ア・ディ・ン……わざわざ操縦席まで来てデレデレしないッ……アディンがご迷惑かけました!!あたしはエルピー・プル!!ユニコーンガンダムのパイロットです。で、こっちが妹のプルツーです!!よろしくお願いしまーす」

 

「この度はよろしく……あたしはキュベレイに乗っている」

 

「いつの間に君たちは……くすッ、まぁいいか。こちらこそよろしく」

 

 プルツーがレディとノインに挨拶を交わす真隣ではアディンがギューギュー耳をプルにつねられている。

 

「いででッ、俺はただッ、いつ着くか知りたかっただけだって!!!」

 

「あたしがニュータイプなの知ってるでしょ!!!心の中はまるわかりなんだからッ!!!」

 

「んなこと言ったてよ、一男子として当然の反応だよ!!!二人とも美人なんだからさ!!!」

 

「開き直らないで!!!あたし、アディンが嫌いになっちゃうよ?!!」

 

「そ、それは困る……ってッ……ちがうッ、おれはそのだなッ……!!!」

 

「そっかー、あたしが嫌いになると困るんだー、へー(棒)」

 

 目の前で始まった夫婦漫才的な状況にどう反応すればよいのか困り果てたレディとノインだったが、この一言を言うほかなかった。

 

「……二人は仲がいいんだな」

 

 レディがそう言うと、プルツーは騒ぎ始める二人に変わって軽く謝罪する。

 

「まぁ、見ての通りだ……本来はあたし達が感じた事を警鐘する為に来たんだが、こんなに騒ぐつもりではなかった。申し訳ない……」

 

「いや、気にしないでいい。逆に場が和むよ(妹さんはしっかりしてるな)」

 

「そうだ。気にするな、私達は軍隊じゃない。それで警鐘とは一体なんなのだ?」

 

 ノインがそう質問すると、プルツーは警鐘の事を告げる。

 

「さっき言ったように、あたしとプルはニュータイプ気質だ。感覚で色々な事を感じれる体質……とでも言おうか。それでムーン・ムーン……いや、L5宙域そのものが嫌な感じを放っている。禍々しい程にね」

 

「L5全域が危険宙域だというのか?勿論、私達も多少の戦闘は覚悟はしているが……」

 

「戦闘もあり得るけど……今感じている人の死は……コロニー規模のそれが拡大している感じなんだ……言葉では表現できない……戦闘とは違う」

 

 プルツーの深刻な表情から先ほどとは一転した空気に変わる。

 

「戦闘とは違う??この先に一体何があると感じているのだ?プルツー?」

 

「……大勢の人々の苦しみのようなモノの感覚が強い……おそらくは……ジェノサイド……!!!」

 

「ジェノサイド……!!!」

 

 

 

 プルツーが放ったジェノサイドという言葉は的中していた。

 

 今や中華覇権派OZプライズの制圧下となったL5コロニー群にはそれを統括する元凶・醜季煉(シュウ・キレン)特佐の存在があり、彼は古いコロニーを筆頭に「古き存在は新しき時代の糧にする」と人道外れたジェノサイドを開始していた。

 

 その他のコロニーにも無情無慈悲な攻撃をし、反発したコロニー市民に対しても全く容赦なくMSやMDによる攻撃を加え、恐怖を徹底的に植え付け支配していた。

 

 更に裏では中華人種のOZプライズ兵士以外にも賄賂を回して懐柔させており、俗に言う親中派と呼ばれる幹部や兵士達はL5コロニー群全域規模で中華覇権派に取り込まれていた。

 

 そしてムーンムーンも対象の例外ではなく、強制収容隔離コロニーとされ日々虐殺が繰り返される。

 

 ある意味その方法はかつての毒ガスよりも醜悪な虐殺であった。

 

 ムーンムーンの住民である光族と呼ばれる民達は、強制収容施設において生きたまま内臓を抉り出されるというジェノサイドを強いられていた。

 

 絶望の苦悶の悲鳴が強制収容施設から絶えることのない非日常の日常が彼らを蝕む。

 

 それは臓器ビジネスというある種の死の商売を活性化させ、巨額の利益をもたらしていた。

 

 だがそれだけに止まらず、光族そのものの民族を消去させる目的もあり、女性や子供にも容赦のない虐殺が集中していたのだ。

 

 収容施設では押し込められた中で、光族の教祖としてあがめられているサラサ・ムーンに僅かな希望をすがる。

 

 彼女はニュータイプと思われる力を有しており、彼女の存在そのものが絶望的状況の中の希望となっていた。

 

「サラサ様ッ……我々が一体何をしたというのでしょう?!!何ゆえにこんな……!!!」

 

「サラサ様ッ、昨日は私の唯一の娘が連れていかれました……泣き叫ぶ我が子を、奴らは……!!!うううッううう!!!」

 

「俺は妻が連れていかれた……サラサ様あッ!!!」

 

 多くの光族からの悲痛な声を幾つも聞き入れながら頷くサラサは、希望を説く他なかった。

 

「連れていかれた先にあるのは非常な結末であることは……私も存じています。ですが、それでも光を、我が光族が光を見失ってはいけません。明日は、明後日は自分の番かもしれない……それでも光の心を忘れてはいけません。同族達の死は決して無駄な死ではない。例え明日はあなたが、あなたが、あなたが、あなたが……あなた達の誰かが連れていかれようとも、それは生かされていく光族の希望の礎となる。いずれこの状況は変わります。悪しきが栄えた歴史はあっても必ず終わりが来ています。悪しき存在は必ず滅ぶ時が来る……今は未来の光族の為に耐えるのです……」

 

 サラサの言葉は例え殺されてしまう時が来ようとも、その悲劇は未来の光族に伝わる尊い犠牲となり、やがてその愚行をする者達は必ず滅ぶ時が来るというものだった。

 

 誰もがサラサに希望を寄せ、涙ながらに希望を見出す。

 

 その最中、扉が開かれ中華覇権派OZプライズ兵士達に複数人の光族の民が連れ出されてしまう。

 

「あああああ!!!サラサさまぁ!!!」

 

「いやだッ、いやだあああ!!!」

 

「おかーさあああん!!!」

 

「イメラぁああああ!!!え、いやッ、いやあああ!!!」

 

 母子共に連れていかれる光族の親子。

 

 それ以降も次々と無差別、無情、非人道に連行されていく光族の悲鳴に、サラサは声を上げて最後まで希望を説く。

 

「必ず、必ず、光は来ます!!!死しても光は来ます!!!最後まで光の心を!!!最後まで持ち続けて……!!!」

 

 サラサは鉄格子にしがみ付きながら声を上げていたが、実際の彼女の心中は限界に達している状態だった。

 

 (いつまでッ……いつまでこのような状況にいるというのッ……!!!もう、正直これ以上は耐えられない……!!!でも、みんなの為に希望にならなくては……!!!)

 

 残された光族の希望の為に彼女は震える手に鉄格子を握り閉めながら自らの心を踏ん張り止まらせる。

 

「それでも、それでも……絶望してはなりませんッッ……光族に真の光の加護が訪れる日まで……!!!」

 

 光族の民達はサラサの言葉が道しるべ故、その声にすがるように彼女をあがめ続ける。

 

 生ける神とでも言わんばかりに……。

 

 一方、彼らが連れていかれた強制収容施設では、先ほどの幼児が目の前で虐殺されているようで、何度も母を呼ぶ悲痛すぎる声が響く。

 

 子の名を何度も叫んで聞こえていた声は苦悶の絶叫から断末魔へと変わっていく。

 

 その中に紛れて泣き叫ぶこの声はやがて更なる甲高い鳴き声になり、やがて聞こえなくなる。

 

 また健康的な男達は肉体的強制労働を強いられ、歯向かうものには即銃殺を与えるといった狂気の所業はあのオーブジェノサイドをも持て余す程の残酷さを醸し出していた。

 

 この醜悪な現実を振りまくのが醜季煉であった。

 

「強制収容施設のデータはどうかね?」

 

 季煉は名の通りの醜悪な面構えをしており、無表情に僅かな笑みを浮かべたような表情で部下に尋ねる。

 

「はっ!!すこぶる快調にございます。臓器ビジネスの利益も短期間でこのように……他のラグランジュに提供を促せば更に利益は伸びるものと……」

 

「ふむ。よきよき……それで彼と例のガンダムはどうか?」

 

「はっ!!そちらも計画通りに……」

 

 季煉が指摘したガンダム……それは差し出されたタップボードモニターの映像には真紅のユニコーンガンダムであった。

 

「我が中華覇権派の象徴ともいえるガンダム、ガンダムC-フェネクス。鳳凰のガンダム!!!実に素晴らしい!!!」

 

「パイロットの醒紅烏(セイ・ホンウー)は完璧に調整されております!!!我が力の象徴として間違いないかと!!!ガンダムも以前に地球で墜落して消息不明になっていたガンダムバンシィを回収してカスタマイズを加えたものとなっております。それ故に!!!最強と言ってよいでしょう……!!!」

 

 季煉の側近が言った中華覇権派OZプライズの兵士・紅烏は季煉とは真逆に整った顔立ちの好青年の男であった。

 

 だが、俗に言う強化人間故に狂気染みた性質の持ち主であり、キルヴァ同様の同情の余地のない冷酷な性格の持ち主である。

 

 ガンダムC-フェネクスは機体を強制的に半永久的にデストロイモードにしたまま起動が可能だった。

 

 紅烏自身には長期のNT-Dに耐えうる強力な肉体強化が施されており、終始自在にガンダムC-フェネクスを操縦して見せていた。

 

 彼が携わるのはL5コロニー群から逃れようとする市民達の駆逐や反抗するMSの排除が主な任務であった。

 

 この日においてもライトアームのアームド・バスター、レフトアームのアームド・ファングを駆使して弱者たちの駆逐にはしる。

 

 必死に逃げる逃亡者達の輸送機を追い回しながらアームド・バスターを執拗に撃ち放ち、次々と輸送機を撃墜していく。

 

 ビーム渦流を撃ち放つと思えば、時に不規則かつ、いびつな射撃軌道を描いていとも簡単に斬り裂くかのように輸送艦の装甲破壊する。

 

「ふふふ。愚かな……逃しはしないっっ!!!」

 

 次々に放たれるアームド・バスターが撃墜を重ねる中、1機のシャトルに目を付けた紅烏は驚異的な機動性で回り込み、アームド・ファングで機首部から砕き潰して見せる。

 

 ようやく脱出できたと思っていた人々は無残に葬り去られ、宇宙の藻屑に消えていった。

 

「力だ……この力……力が成す圧倒が、好きなんだぁ、虫けら愚民め……!!!次はぁ……どこだぁ?!!」

 

 弱者に対する狂気の強者の力が容赦なく振るわれるこの現実がL5コロニー群に浸透していき、ここ以外にも紅と金色のツートンカラーリングを施されたプライズリーオーやジェスタが脱走者を追撃し、容赦なく撃墜する光景が拡がる。

 

 既にL5コロニー群の全域を掌握していた中華覇権派OZプライズは、逃亡者に対し即撃墜対応、更には侵入者にも即撃墜対応をしていたが故にL5コロニー群そのものが宇宙の孤島と化していた。

 

 

 

 アディン達一行は、休憩を挟みながらほぼ予定通り、半日と数時間でムーン・ムーン付近に到達した。

 

 苛烈な状況と化した領域に踏み入れていくアディン一行ではあるが、進めば進むほどプルとプルツーは感覚を重くしていく様子を見せ始めた。

 

「……何?!!この感覚っ……何だか進めば進むほど重苦しくなる……大勢の苦しみを感じて来た……!!!感じたことないよ、こんなの……」

 

「おいおい、無理すんな!!とりあえず休憩室行こうぜ」

 

「うん……ありがと、アディン……」

 

 プルは体調を崩すかのように疲労をみせはじめ、アディンは彼女を連れて操縦席室を離れた。

 

 妹のプルツーも同様な様子を見せるかと思いきや、毅然としたままいた為にノインが尋ねる。

 

「あれがニュータイプ故に感じれる感覚なのか……妹の君は大丈夫なのか?」

 

「あたしは色々と場数踏んでるからね。第一次ネオジオン抗争や時々遭遇する宙賊との戦闘、戦闘とは違うが木星圏のなんとも言えない重圧とか……似た感覚なんて山ほど味わってるからな。でもまぁ、こんな感覚……反吐が出るよ。十中八九ジェノサイドが行われている。きっと元凶が必ずいるはずだ」

 

 プルツーのその言動からレディとノインは「え?!」というリアクションを見せ、レディもまた彼女に尋ねた。

 

「第一次ネオジオン抗争?!十年以上も前の事だが君は一体……?!!」

 

「ああ、こう見えても22歳……一定の年齢あたりから体はそのままなんだ。多分、そう遺伝子を操作されていたんだろうなって思ってる……」

 

「そうか……ニュータイプ部隊と呼ばれた兵士がいると聞いたことがあるが、その一人が君か」

 

「そういうことだ。プル姉もそれなりに戦場を経験しているみたいだが、あの感じじゃ本格的な戦場の経験はまだな感じだ……」

 

「あの子はプルツーとは違う境遇なのか……?」

 

「ああ、プル姉はまた全然別の境遇だよ。オーガスタ研究所で断続的なコールドスリープをさせられていたそうだ。あたしもプル姉と初めて会えたのはつい最近だからさ。色々とあって……」

 

「そうか……戦争を背景にすれば……こんな情勢下を背景にすれば色々な境遇があるものだからな……」

 

「ん?!!前方から来る!!!警戒しな!!!」

 

「何?!!了解した!!!オートコントロール、解除する!!!」

 

 突然のプルツーの警戒に、ノインも操縦グリップを握り閉める。

 

 その数秒後、案の定MSの反応アラートとビーム攻撃が前方より迫って来た。

 

「警告も無しにいきなり攻撃か?!!」

 

 レディが憤りを覚える突然の攻撃の主は、鮮やかな朱色ともいえるレッドカラーのプライズリーオーやリゼル・トーラスの攻撃によるものだった。

 

「精鋭にMDとはな!!!実にえげつないものだ……!!!」

 

 飛びはしるビーム弾雨の中を、ノインの卓越した操縦技術で高速宇宙戦闘艦は掠めては回避し、掠めては回避する。

 

 撃ち漏らしたとなれば早速リゼル・トーラスが無情にも追撃にかかる。

 

「この高速艦のスピードでも流石にリゼル・トーラスは振り切れん!!!」

 

「あたし出るよ!!!」

 

 加速操作をするノインがそう言葉を漏らすと、プルツーは颯爽と操縦室を出て行った。

 

 MS格納庫へ向かう最中、プルツーはアディンに付き添われて通路を歩くプルを追い抜く形となる所で、一度立ち止まってアディンに伝える。

 

「あたし、先に出るよ!!」

 

「ああ!!俺もすぐに出るぜ!!!」

 

 そしてプルツーは、多方からのジェノサイドの叫びに感応してしまっているプルの肩に手を添えて、気遣いの言葉をかける。

 

「プル姉はあまり無理しないで!!!まだこの宙域のコロニーから感じるえげつない感覚に不慣れなんだから!!!じたばたしたってどうにもならないんだ。感じたり、聞こえてくる叫びは聞き流すようにすればいい。全部受け止めるなんて無理なんだからさ」

 

「あ、ありがとう、プルツー……」

 

 プルにそう伝えたプルツーはさっと手を挙げながら合図してMS格納庫へ目指していった。

 

「……本当、しっかりした妹だよなぁ、プルツー!!」

 

「あはは、そだね……アディン、あたしは大丈夫だからさ、急いで行って皆を守って……アディンのガンダムで……」

 

「プル……ああ!!わかった!!!キメてくる!!!」

 

 キュベレイMk-Ⅱのコックピットに乗り込んだプルツーは、機体を起動させてシステムを立ち上げながらシェルドに問いかける。

 

「機体のチェック済んでいるな?」

 

「うん!!ファンネルもガランシェールで点検済ませてある!!」

 

「そうか……ありがとう、シェルド。あんた連れ出してきたのは間違いなかったよ」

 

「え?!!」

 

「せ、戦場へ出る直前ぐらいは素直になるさ……万が一の時後悔なんかしたくないからさ……二度も言わないけどな!!!プルツー、出るよ!!!」

 

 思いがけなかったプルツーの一言に顔を赤くしながらシェルドは表情を明るくさせた。

 

 出撃するや否や、キュベレイMk-Ⅱはファンネルを展開させ、追撃してくる中華リゼル・トーラスに飛び込ませる。

 

「人形なんて揶揄されたこともあったが……あれこそ本当の人形だな!!!ファンネル、砕き散らせろ!!!」

 

 プルツーの感応波で自在に飛び交うファンネルが高速でビームを乱発しながら胸部めがけての集中直撃を浴びせ、1機、また1機と撃破する。

 

 更に中華リゼル・トーラスの軌道を瞬時で読み、そこへファンネルのビームをはしらせて中華リゼル・トーラスの機体を次々とバラバラに破壊して見せた。

 

 飛び交うファンネルに照準をあてるが、中華リゼル・トーラスの攻撃はことごとく躱される。

 

 そして反撃のビーム乱発を浴びてまた1機、2機、3機が破壊された。

 

 中華プライズジェスタがその最中にビームサーベルを抜刀しながらキュベレイMk-Ⅱに接近する。

 

 だが、その機体は斬りかかる前にファンネルとハンドランチャーでハチの巣にされ爆砕した。

 

「ジェミナス・グリープがキメるぜえええええっっ!!!!」

 

 そして閃光のごとく飛び出したガンダムジェミナス・グリープは、ジグザグ軌道を描きながら一気にビームランスの斬撃で圧倒し、瞬く間に追撃してきた中華リゼル・トーラスの攻撃部隊を壊滅させながら幾多の爆発の華を咲かせる。

 

 残るは有人機である中華プライズジェスタと中華プライズリーオーだ。

 

 ライトバスターライフルを撃ち放って単発のビーム過流で3機の中華プライズリーオーと同じく3機の中華プライズジェスタを連続で爆砕させた。

 

 ビームライフルの射撃はGNDソニック・ドライヴァーの超高出力の機動性を前に中る術がない。

 

 攻撃を躱し続け、ギンと両眼を光らせたガンダムジェミナス・グリープの超高速斬撃が二機種の機体群めがけ襲い掛かり、斬り裂き、突き砕き、破断させ宇宙の爆発の華を咲かせる。

 

「な、なんなんだ?!!この機体はあっっ?!!まさか、『また』現れたというのか?!!メテオ・ブレ……えうが?!!」

 

 コックピット目掛けて突き刺さるビームランスの直撃に、中華OZプライズ兵士は蒸発し爆発に消える。

 

 爆発を突き抜けたガンダムジェミナス・グリープは一気に薙ぎ斬り、すれ違い際に中華プライズジェスタ3機と中華プライズリーオー2機を撃破して見せた。

 

 通常であれば絶望的状況を瞬く間に覆したガンダムジェミナス・グリープの力に、レディとノインも驚愕を隠せない。

 

「こ、これが彼らのガンダムの力……!!!なんて破壊力だ!!!」

 

「……愚かな元同胞たちはこの力に圧倒されていったのか……敵に回ればさぞ恐ろしいだろうな」

 

「だが、逆を言えば頼もしいことこの上ない……!!!」

 

 得体の知れない状況下だからこそ、ガンダムジェミナス・グリープの存在感は一際心強さを与えてくれていた。

 

 中華覇権派OZプライズにその威厳を見せつけると、ガンダムジェミナス・グリープは彼らの母艦と思わしきMS輸送艦に電光石火のごとく加速し、針を貫通させるがごとく突入。

 

 MS輸送艦を突き抜け切ったガンダムジェミナス・グリープの両眼が灯り、その背後ではMS輸送艦が豪快に爆沈して宇宙の藻屑と化していった。

 

「大した事ねーな……それじゃ、ここからは護衛しながら行きますか!!!」

 

 垣間見たガンダムジェミナス・グリープとアディンの実力は、プルツーにもその凄まじさが伝わっていた。

 

「凄すぎる……ていうか次元が違う!!!ふふふふっ、こんなガンダム、頼もしい以外の何物でもないね!!!」

 

 ガンダムジェミナス・グリープとキュベレイMk-Ⅱの2機は再び通常航行を開始した高速宇宙戦闘艦の護衛に就いてムーン・ムーンを目指し始めた。

 

 だが同時にそれは近づくに比例して、光族ジェノサイドの命の叫びがより色濃くなることを意味していた。

 

 プルツーはじわりじわりと感応が強くなる感覚を覚える。

 

「それにしても……ムーン・ムーンに近づくにつれ、より痛みや叫びが強くなる……プル姉、大丈夫か?!」

 

 状況を憂いだプルツーはプルにテレパシー的な力で呼びかける。

 

「プルツー?なんとか……でもどんどん強くなってる……」

 

 プルも感応してプルツーのメッセージを感じ取り答える。

 

 コロニー規模で強いられるジェノサイド故に、L5宙域の通過するコロニーの殆どでジェノサイドや良くて弾圧支配が行われているのだ。

 

 プルの心をきつく締めあげるような痛み・苦しみ・叫び……彼女の心身を疲弊させていく。

 

「今までに感じたことのない痛みや苦しみ……マリーダの痛みも苦しかったのに……でも、同じ人間なのにどうしてこんな酷いことができるの?!!」

 

 かつてない中華覇権派OZプライズの残虐性に、苦しみの疑問符をプルツーに訴える。

 

 戦争経験値があるプルツーも頭を押さえながら説明する。

 

「奴らは人面獣心……倫理のかけらもない……人の命を何とも思っていない連中だからさ……さっき……このL5エリアから人々の苦しみに混じって人面獣心の嫌な感覚も感じているだろう?」

 

「うん……!!!嫌な感じもこれまでにない奴……でもL5コロニーのみんなの苦しみの方が多いんだよね……」

 

「あぁ。嫌な奴らの感じをかき消す程苦しめられているんだ……」

 

 彼女達が目指すムーンムーンとは別の地点のエリアにおいても、ジェノサイドの包囲網は絶え間ないものだった。

 

 その一つである、古来よりの戦闘部族の血統を持つ中華民族が住まうA-0206コロニーでは、周囲をリゼル・トーラスに包囲させ、コロニー内を完全に支配しての臓器ビジネスジェノサイドを行っていた。

 

 このコロニーでも悲痛苦痛は耐えることなく行われ、「古き中華民族浄化」と掲げられて日々その人数を減少させていた。

 

 老若男女問わず連行され、生きたまま臓器を摘出される拷問が待ち受ける。

 

 悪趣味な事に、それは親子・兄弟・恋人同士の者がいれば双方の目の前で片方の臓器ジェノサイドを執り行い、表現しようのない悲劇を実行しているのだ。

 

 そしてそれを見ながら中華覇権派OZプライズの兵士達は、笑みを漏らす程の狂人ぶりを見せていた。

 

 宇宙空間では無情のリゼル・トーラスが脱出成功者の宇宙艇を撃墜する。

 

 コロニーの外でも中でも居続ければ死を迎えることになる。

 

 そんな最悪な状況下に一矢を投じる者達が現れる。

 

 「龍飛」と書かれたバウとバイアランカスタムを筆頭にリーオー、ジェガン、ジムⅢ等のMS達が

このコロニーをはびこっていたリゼル・トーラスの部隊に襲撃をかける。

 

 突如としてコロニー周辺は戦場と化した。

 

 リゼル・トーラスの射撃精度は高く、獅子奮迅のバウやバイアランカスタム以外のMS達は次々に撃墜されていく。

 

「ディエスと言ったな……麒麟の力、見せつけてくれ!!!」

 

 そうバウを駆る少女が言う。

 

 彼女は以前、トレーズに敗北した五飛を後押しした反抗ゲリラ「斗争」のリーダーだった李鈴(リーリン)であり、バイアランカスタムのパイロットは五飛と二度に渡り刃を交えたディエスであった。

 

「無論さ……祖国とは無縁のエリアだが、弱い者いじめが嫌いなんでな……!!!存分にやらせてもらうぞ!!!」

 

 バイアランカスタムのビームマシンガンとビームサーベルの捌きがリゼル・トーラスを個々に討ち仕留めていく。

 

 かつてシェンロンガンダムと決闘をした腕前は今も健在のようだ。

 

 李鈴もまたビームライフルとシールドメガ粒子砲を使い分けて何とか対応して見せる。

 

 彼女もまた個々に至るまで腕を上げた様子だった。

 

「龍に籠めた想いは伊達ではない!!!人形もどきめ!!!これ以上の悪はさせない!!!」

 

 その戦端の様相を遠方からMSのコックピットで確認する者がいた。

 

「ふん……L5エリアに帰るや否や、やたらと馬鹿な連中に出くわしたが……帰ってみればこんな有様か……よからぬ状況が手に取るように感じる……久しぶりに武力介入行動をさせてもらう……!!!」

 

 それは故郷に帰還しようとしていた五飛であり、かつてない質の悪が跋扈する故郷のコロニーの光景に燃え滾る眼光を突き刺すと、それに連動するようにアルトロンガンダムの眼光が光った。

 

「馬鹿な連中に俺達の正義を激突させる……!!!いくぞっっ!!!ナタク!!!」

 

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 

 中華覇権覇権派OZプライズに侵略された故郷のコロニーに、五飛は自身の正義を乱舞させる。

 

 悪しき覇権主義の力に、正義を賭したアルトロンガンダムが更なる力を振りかざす。

 

 そして、その戦場ではかつて共闘した李鈴や刃を交えたディエスとの再会が待ち受けていた。

 

 一時の休息の中、五飛はかつて亡くなった自身の妻・妹蘭の墓に李鈴を案内する。

 

 一方、アディン達もまたムーンムーンのコロニーを支配する中華覇権派OZプライズと戦闘を開始していた。

 

 その最中、サイコガンダムMk-Ⅳと交戦するプルツーが窮地に立たされる。

 

 彼女の危機的状況を前に、突如介入したOZプライズのエース・ロッシェが形的にアディンを阻み、両者は激しくハイレベルな剣を交える。

 

 負の空間の感覚を克服したプルもまた、ユニコーンガンダムで出撃し、姉として、ラプラスの箱を託されたユニコーンガンダムのパイロットとしてプルツーの前に姿を表すのだった。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード49「解放への闘い」

 

 

 

 

 


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