新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード46「悲痛なる再会」

 

 

 OZ静浜基地に結集していたイヅミ・ターノフ上級特尉を中心とするOZの決起部隊は、共通回線放送を通じて民衆にOZプライズの危険性を呼びかける。

 

 それは避難シェルターにいる者達や、実際に居合わせて聞く者達、ネットワーク上で視聴する者達などにも行き届き、リアルタイム配信故に情報工作が付け入る隙もない。

 

 更にネットワーク上では保守派支持者……旧世紀の言い方でネトウヨに該当する者達もOZプライズを非難する声を上げていた。

 

 だが、OZプライズは力を持ってして全てを潰そうとオペレーション・ノヴァを決行し続け、世界各地で同じく決起したOZの部隊へMD部隊を送り込んでいく。

 

 OZルクセンブルク基地を中心に、OZメルボルン基地やOZローマ基地、OZブリュッセル基地、OZシアトル基地といった各所にMD部隊が宇宙から飛来し、オートでの殺戮を開始する。

 

 旧連邦が鹵獲したドーベンウルフをベースに造ったシルヴァ・バレトをOZが接収し、更に新規にそれを再設計した上で建造されたMD、シルヴァ・ビルゴ。

 

 黒色かつ重厚な無情のマリオネット達がビームランチャーを発射し続け、リーオーやエアリーズ達を圧倒していく。

 

 更に同MD・サジタリウスα、βの部隊も降下し、ビームカノンやパーシスター・ビームライフルでゴリ押しの圧倒的な一斉射撃を展開していった。

 

 OZサイドのリーオーも負けじと、ドーバーバスターやビームバズーカ、ドーバーガンといった重火力武装を駆使して抵抗し、エアリーズも上位互換機であったオーバーエアリーズ仕様に強化されて運用していた。

 

 ビームライフルがはしり、メタルミサイルが一斉にMD部隊へと向かう。

 

 だが、メタルミサイルはビームランチャーやビームカノンのビーム渦流に呑まれ、パーシスター・ビームライフルに次々と精密狙撃されてしまう。

 

「くっそっっ!!!MDめ!!!だが、こちらも火力はそれなりにあ……があああああ!!!」

 

 エアリーズ部隊が次々とビーム渦流や高出力ビーム焼灼によって撃ち墜とされる中、リーオー部隊がドーバーバスターやビームバスーカで僅かに善戦の傾向を示す。

 

「戦いは……戦い続けてこそ意義があるものなのだ!!!トレーズ閣下が仰っていたっっ!!!」

 

 しかし、OZ側の攻勢の優位もまたつかの間であり、サジタリウスβの展開するプラネイトディフェンサーに阻まれてしまう。

 

 その上で絶え間なく上空と地上から高出力のビーム渦流群や高出力ビームが押し寄せる。

 

 戦場は理不尽の戦場以外になく、実質攻略不可能に近かった。

 

 このような状況がOZ静浜基地にも迫ろうとしていた。

 

 イヅミ・ターノフはその状況下においても民衆への訴えをやめていなかった。

 

「……このままでは、OZプライズの圧制的な支配を許してしまう!!!民衆の一人一人が危機感を認識し合い、立ち上がるべきなのだ!!!あなた方は戦士ではない!!!武器を持たない方法で闘うのだ!!!正直に言えば、我々もかつては支配を促進する側であった……だが、OZプライズのやり方ではなかった……!!!」

 

 焼津市と藤枝市、はたまた隣接する静岡市や島田市も戦場になる可能性は濃厚である。

 

 まだ避難をしていなかった民衆たちが避難を始めていく。

 

 だが中にはまだ尚平和ボケのまま自宅に居続けるものもいた。

 

 緊迫する状況の中で、このエリアに関しては更なる脅威が迫っていた。

 

 サイコガンダムMk-Ⅲ……ロニが搭乗させられた機体が北西方面より接近していたのだ。

 

 それを操縦するロニは、息遣いを荒くし、興奮状態に入っている様子を見せる。

 

「はぁぁっっ、はぁああっ、はああっ……潰すっ……OZを潰す……邪魔する奴はみんな……私の戦いだ、これは!!!」

 

 ロニはこれまでに渡り廻った戦場を脳裏でフィードバックさせる。

 

 ジオンや連邦軍を問わず、様々な機種が入り乱れるゲリラ勢力のMS達を悉くサイコガンダムMk-Ⅲの圧倒的な火力が吹き飛ばしていく。

 

 胸部三連メガ粒子バスターや連動発射される腹部メガ粒子バスター、左右のショルダー集束拡散メガ粒子バスター、荷粒子フィンガーキャノン、脚部三連メガ粒子バスター、肩甲上部と側胸部の三連荷粒子砲……これらを駆使しての一方的な蹂躙殺戮。

 

 それらの記憶が今の彼女に流れ続けていた。

 

 ベントナからの執拗な施しに、ロニは完全な戦闘マシーンになり果ててしまっていた。

 

 その脅威は歴代のサイコガンダムの中でも最強クラスに入るであろう。

 

 ロニは震えながらため息を吐くと、荒かった呼吸が安定するのを感じた。

 

「はぁぁ……ぁぁ……ぁっ……ふぅ……私は、お父様とお母様の仇をとらなきゃならない……だから……」

 

 確かにロニの父・マハディは実際にはテロリストに殺され、母親はロニが幼い頃に病死している。

 

 彼女に両親がいない身の上であることは事実であった。

 

 ベントナはそれをいいことに記憶操作を執拗に施していたのだ。

 

 両親は旧ジオンの人間であり、OZによって虐殺されたという偽りの記憶情報だ。

 

 その偽りの憎悪が彼女の動力源であった。

 

 そのような中、遂に青空が一面に広がる焼津市上空の彼方よりOZプライズのMD輸送艦艇が姿を見せた。

 

 下部ハッチが開き、次々とシルヴァ・ビルゴ各機が投下されていく。

 

 その状況がイヅミ・ターノフ特尉へと伝えられた。

 

「イヅミ・ターノフ特尉!!!上空よりOZプライズのMDが!!!」

 

「……ついに来たか……全機、対空一斉射撃準備……!!!」

 

 OZ静浜基地やその周辺一帯に配置されたリーオーやエアリーズが、一斉に対空角度へと持てる武装を構えた。

 

「降下中の先制攻撃だっ!!!全機、撃ち方はじめっっ!!!」

 

 

 

 ♪BGM POSSIBILITY(ガンダム00より)

 

 

 

 降下中のMD部隊や輸送艦艇に向かい、先制の対空砲火の一斉射撃が刊行される。

 

 何十、何百発のドーバーバスターやドーバーガン、メタルミサイル群が空に吸い込まれていく壮絶な光景となった。

 

 言い換えれば旧世紀の大戦以降では、その地で初めて開かれる戦端であった。

 

 輸送艦艇は着弾距離よりも程遠い位置を航行していたが、降下中の戦闘態勢移行直前のシルヴァ・ビルゴやサジタリウスα、βの装甲に直撃を果たしていく。

 

 だが、低純度とはいえガンダニュウム合金を採用しているが為、装甲の半壊で止まっていた。

 

 その間にもMD部隊のシステムが戦闘モードに移行し、攻撃を躱しながら、またはプラネイトディフェンサーを展開しながら次々と攻め入る。

 

 だがこれにメタルミサイル群が中り、体勢を崩させるファクターとしての働きを見せた。

 

「撃ち続けろ!!!火力の限り撃ち続けるんだ!!!降下される前に撃ち落とせ!!!」

 

 イヅミ・ターノフ率いるOZの部隊はエアリーズ部隊が先行した他のエリアとは異なり、全ての機体が重火力で対空砲火を行っていた。

 

 それが戦局に影響を与え、遂には撃墜されるMDも現れ始めて来ていた。

 

「MDが地上に降り立てば……間違いなく一帯は焦土と化す……無論その危険性を被ったのは我々だ……だが、ここまでしなければ奴らのしたたかな情報操作は打破できなかった!!!ここまでしなければ、民衆にも強く訴えることができなかった!!!何としても……着地させるな!!!」

 

 イヅミ・ターノフの判断は、攻めは最強の防御という言葉を証明させていた。

 

 だがこの程度で引き下がるOZプライズではない。

 

 現時点では一次降下部隊の一部を撃破していく状況にあり、既に成層圏からは二次、三次降下部隊が大気圏突入を開始していた。

 

「第一次降下部隊からの連絡で、他のエリアとは一線を画す想定以上の抵抗に阻まれているとのことです!!!」

 

「たかが地方都市の基地に集まった奴らだぞ?!!なめられたものだ……我々の力を思い知らす……!!!第四次までの予定の降下部隊を第八次までに拡大すると伝えろ!!!」

 

「はっ!!」

 

 連続するドーバーバスターの直撃で先行するシルヴァ・ビルゴが立て続けに爆散する中、OZサイドにも上空からの高出力ビーム群が降り注ぐようになり、破壊されるMS達も出始めた。

 

 その攻撃は、公共施設や住宅街を巻き込んで破壊していく。

 

 破壊されていく割合と増援のバランスがじわりじわりと狂い始めようとしていた。

 

「イヅミ特尉!!!遂に被弾被害が!!!」

 

「怯むな!!!闘う姿勢を世界に示し、伝えなければならない!!!攻め続けろ!!!」

 

「はっ!!!」

 

 イヅミ機のリーオーが放ったドーバーバスターのビーム渦流はサジタリウスαの胸部を直撃する。

 

 更にプラネイトディフェンサーが展開される前にサジタリウスβのビームカノンと胸部を破壊してみせた。

 

 絶え間無い対空砲火は、深部に降下すればする程破壊率を上げていた。

 

 この状況下の一方でヒイロ達は出撃準備の為にMSデッキへと向かっていた。

 

 更にヒイロの隣にはノーマルスーツのマリーダの姿があった。

 

 その最中の会話でヒイロは重要事項を先にカトルに伝える。

 

「カトル……お前は向かってきているサイコガンダムMk-Ⅲに向かえ」

 

「え?!!」

 

「ミーティングでお前の機体に戦闘指揮効率を上げるためにゼロシステムのコピーデータを組み込んだと伝えたが、それも使わなくていい。ロニ・ガーベイを助けてこい。表向きにはオペレーション・ノヴァの妨害だが、今回の戦いはお前とロニの為でもある」

 

「ヒイロ……ありがとう!!!」

 

「それに、マリーダも協力してくれる……」

 

「マリーダさんも?!!」

 

 するとマリーダもまたその会話に便乗するように加わる。

 

「あぁ。昨夜ヒイロからロニの名を聞かされてな……私とロニは、地球でのダカール攻略戦の時に知り合って意気投合した間柄……私の数少ない友人だ。そのこともあり今回から私も戦闘に復帰することにした。彼女の救出に協力する」

 

「マリーダさん……!!!そうだったんですね!!!ありがとうございます!!!でも、体調の方は大丈夫なんですか?」

 

「気遣いありがとう。だが、多少の無理なら大丈夫だ。そんなに私はキャシャじゃない」

 

「ははは……すみません。それじゃあ、僕に付いてきてください。色々な意味で援護よろしくお願いします!!!」

 

「ああ。こちらこそよろしく頼む。共にロニを助けるぞ」

 

「はい!!」

 

 そこへトロワがカトルの肩に手をかけた。

 

「以前にも言ったように、こっちは任せておけ。変に責任感を持たなくていい。存分にロニを助けに行ってこい」

 

「うん!!ありがとう、トロワ!!」

 

 普段見慣れない会話にデュオが唐突に会話を突っ込み、トロワもまた珍しく意見を賛同する。

 

「しっかし、意外とこのメンバーって揃いそうで揃わなかったよなぁ~。なんか今更こう……新鮮だぜ!!!」

 

「ふっ……確かにな」

 

 デュオいわく、ヒイロ達Gマイスターとマリーダとが共に出撃していくというシチュエーションは今までになかった。

 

 共通するのは互いに戦う為に戦士になっているということ。

 

 マリーダも改めて共通仲間意識を共有できていると思えていた。

 

「確かに、ヒイロの仲間たちとこうして共に出撃するのは今までなかったな。みんな、改めてよろしく頼む」

 

「あぁ!!こっちこそ改めてよろしくなぁ、マリーダ!!逃げも隠れもするが嘘は言わない、デュオ・マックスウェルだ!!」

 

「トロワ・バートンだ」

 

「俺は正規にGマイスターではないが、マフティー・ナビーユ・エリンだ……お互いにニュータイプかな?」

 

「いや……私は造られた強化人間だ。いわば人工ニュータイプ……」

 

「俺はそうは思わない。ニュータイプであっても、強化人間であっても人は革新するものと思っている……可能性を決めつけるのはよくない」

 

 マフティーにそう言われたマリーダは以前に似たことをヒイロに言われたのを思い出した。

 

「なるほど……確かに一理あるか……そういうマフティーも自分はGマイスターではないと決めつけていないか?」

 

「え?!」

 

「そーだぜ!!今やマフティーだって立派なGマイスターだ!!!乗ってるガンダムは昔は色々と苦しめられたガンダムだけどな!!!」

 

「Ξガンダムが??君達を??」

 

「Ξガンダムが連邦やOZ側に就いていていた頃、幾度か戦闘になり苦戦させられた。良くも悪くも因縁があるガンダムだ……だが、今はマフティーのガンダムだ。問題はない。今の俺達の敵はOZプライズだ……」

 

 トロワのその言葉にマフティーは改めて自分の居場所を認識した。

 

「そうか……ありがとう」

 

 少しの間だけ瞳を閉じながらマフティーは笑みを見せた。

 

「他にもマフティーは知らない二人が宇宙にいる。いずれ会うことになるだろう……」

 

「それもまた楽しみだな」

 

 そして出撃間際の中、ヒイロが機体を起動させると共にゼロシステムが急遽起動した。

 

「?!!っゼロ……??!」

 

 ヒイロにフィードバックされた情報にはそれまでになかった予測情報が飛び込む。

 

 走馬燈の感覚で流れていくビジョンに、ムラサメ研究所の情報が流れている。

 

 その中で一人の少女が解体されていくビジョンが過った。

 

「助けて……誰かっっ……死にたくないっ!!!」

 

「ひーひひひひひ!!!」

 

「クロエ・クローチェ……かつてペイルライダーの被検体に選ばれ、冷凍冬眠保存されていた少女……非人道なサイコミュシステム、DOMEシステム……そして人体実験の元締めの男……ベントナ……っっ?!!」

 

 この時初めてベントナの所業の情報をヒイロは得ることになった。

 

「そうか……この男がマリーダを……万死に値する……!!!っっ!!?」

 

 間髪入れずに次なる情報が流れ込む中、襲い来るガンダムデルタカイの姿が現れ、そしてリディ・マーセナスの存在が過る。

 

「この機体……この男……!!!」

 

 ゼロシステムは更なる予測情報を流し込ませる。

 

「これはっ……!!!」

 

 それはガンダムデルタカイがオデル・バーネットのガンダムジェミナス・バーニアン02を破壊している場面であった。

 

 ここに至るまでの間にアディンやカトル達から聞かされた情報が実体験をするかのように伝わる。

 

「……このようにして……オデルを……リディ・マーセナス……っ、何っ?!!」

 

 次に見せてきたイメージに両腕を広げるように構えたクシャトリヤが映った。

 

 その中心部にビーム渦流が注がれ、悟るような笑みで消えていくマリーダの姿がヒイロのビジョンに飛び込む。

 

 以前にもゼロシステムに見せられている未来の可能性の一つの映像だったが、この時の瞬間は妙な生々しさを感じてしまうものであった。

 

 以前のイメージからは感じなかった現実とゼロシステムの映像の判別がつかないほどまでのリアルな感覚がヒイロに及んだ。 

 

 以前よりも増してマリーダとの互いの想いを深め合った今のヒイロにとって、最もあってはならない状況だった。

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 その描写までは映し出されなかったが、そのビーム過流を放った者が誰かは直観的に解っていた。

 

 ゼロシステムの適任者であるにもかかわらず、ヒイロはフィードバック情報に呑まれ、現実と混同しながらMSデッキのハンガーを捥ぎ取ってまでツインバスターライフルを構えさせてしまった。

 

 突然の予期せぬ出来事にMSデッキがざわつく。

 

「おいおいおいおい!!!いきなり何やってんだよヒイロ!!?らしくねーぞ!!!」

 

 隣のMSハンガーブースからコックピットを飛び出してきたデュオが駆けつける。

 

 デュオの目に飛び込んだのはいつになく狼狽え気味になっていたヒイロだった。

 

 その状況からデュオは直ぐにゼロシステムによるものと見抜いた。

 

「っっ……!!!違うっっ!!!俺はっっ……そのような運命は破壊する!!!」

 

「おい、ヒイロ!!!適任者のお前がゼロシステムにやられたってのか?!!マジでらしくねえぞ!!!」

 

 ヒイロは荒くなった呼吸を整えながらデュオの肩に手をバンと乗せた。

 

「いってーな、おい!!」

 

「デュオ……ケネスに具申してくれ……俺達が出撃した後、ネェル・アーガマはムラサメ研究所に急行し、マグアナック隊やカトリーヌ達に制圧させろとな……そこで最悪な人体実験が成されようとしている。時間がない……俺は、お前達と共に戦いながら……介入してくる元凶を迎え撃つ……奴は……俺が叩く……奴が……マリーダに手をかける前に……!!!」

 

 そこでデュオは納得した。

 

「そうかい……愛しのマリーダがそんな目になっちまう情報をウィングゼロに見せられたのか……どーりでお前がらしくなくなるわけだ。今の俺にもその気持ちわかるからよ……オーブで実際に体験した。マリーダのナイトはお前しかいない!!その敵さんを迎え撃ってやんな!!」

 

「ああ、無論だ……それに、その敵はオデルを葬った奴だ。俺達の仲間だった……オデルをな!!!」

 

「何だって?!!そーかい……タコ殴りで地獄に送ってやるべきかねぇ??そのヤローは!!!!」

 

「いずれにせよ、俺達に牙を向けてくる奴だ……奴を貶めるには色々あるだろう。その時次第だ」

 

 すると遅れてヒイロの感情の異変を感じていたマリーダもそこへ駆けつけてきた。

 

「ヒイロ?!!一体、何があった?!!いつにない激しい感情を感じた!!!」

 

「マリーダっっ!!!」

 

「のあああああ?!!」

 

 ヒイロはデュオを押しのけながらマリーダに抱き着いた。

 

「ヒイロ?!!い、いくらなんでもここでは恥ずかしいぞ!!!」

 

「いつつつつ……どこまであいつゼロシステムにあてられちまったんだよ??!あ……あららら……はぁ~……今回大丈夫かよ……」

 

 デュオの目に飛び込んだのはウィングガンダム・ゼロの前でマリーダを抱きしめているヒイロの姿だった。

 

 異常とまでの光景にデュオは今回の出撃にものすごい憂いを感じざるを得なくなる。

 

 ヒイロはいつになくマリーダを強く抱きしめ、繰り返し呟いていた。

 

「俺は絶対にマリーダを死なせない……死なせはしない……死なせは……しないっっ!!!」

 

「ヒイロ……わかってる。お前が私を守ってくれることくらい……わかってる……らしくないぞ??いつもみたいに生意気なまでに不敵にいけばいい。いつもみたいにな」

 

 そう言いながらマリーダはヒイロに抱擁しその頭を撫で答えた。

 

 改めてコックピットに戻ったデュオは、髪をかき上げながら羨みの本音を吐露する。

 

「かー!!!ヒイロも出撃前から見せつけてくれるぜ、全くー!!!俺もいつかゲリラ抱擁方法でジュリとの距離でも詰めて抱き締めてやるかぁ?!!」

 

 因みに通信回線が各MS共通で繋がっていた為にデュオのその発言もまた、ヒイロとマリーダ以上に通通であった。

 

 M1アストレイで待機していたジュリは悶絶しながら顔を真っ赤にして激しい動きでじたばたとはしゃいでいた。

 

 一言入れようとモニター通信を入れたカトリーヌがその姿を見てしまう。

 

「よかったね、ジュリちゃん!!思った以上に進展できてて………って、ジュリちゃん……??」

 

「はっ……うひゃあああっ!!?カトリーヌちゃん?!!」

 

「……喜びの気持ちはすごーくわかったよ……またボク達の出番があるみたいだね。またがんばろ!!」

 

「う、うん!!がんばろ!!あははははは……」

 

 

 

 短時間で様々な展開がみられた後、改めてヒイロの意見具申がケネスに通り、オペレーション・ノヴァのMD降下部隊へ武力介入するチームやサイコガンダムMk-Ⅲを迎撃するチーム、ムラサメ研究所を制圧するチームに別れ、前者の二つのチームがネェル・アーガマから降下発進していった。

 

「ガンダム各機、及びクシャトリヤ・リペアード発進完了。それぞれのポイントへ移動を開始しました」

 

 エイーダがそう伝えると、ケネスは頷きながら指示を出した。

 

「うむ……では、本艦は静岡市北部のムラサメ研究所を目指す!!機関を最大!!マグアナックチーム、M1アストレイは降下準備に備え!!」

 

 OZ静浜基地及びその周辺一帯のエリアで繰り広げられる対空対地攻防戦に第二次降下部隊が増援として降下を開始していた。

 

 一方的に降下した第一次MD部隊も半数余りの機体が残存しており、徐々に侵攻を進めていく。

 

 その間に第二次降下部隊は上空を旋回しながらMD部隊を降下させていった。

 

 プラネイトディフェンサーを展開できるサジタリウスβを先行して降下させ、対空射撃に対抗する。

 

 第一次降下部隊も大半がサジタリウスβとそれと対に編成されているサジタリウスαが残っていた。

 

 サジタリウスβで防御と攻撃の両方を慣行しながら攻め入り、その後にシルヴァ・ビルゴを降下させて制圧していく方向に切り替えていく。

 

 更に大気圏突入を終えた第三次、第四次降下部隊も加わり、更なるMD部隊が投入された。

 

 リーオーやエアリーズの攻撃はサジタリウスβのプラネイトディフェンサーに阻まれ、次第に劣勢の色が迫りを見せてくる。

 

「攻撃が……遮断されている?!!くそおお!!!」

 

「イヅミ特尉!!!包囲するような形で奴らが降下をはじめています!!!」

 

「MDも地上に着地し始めている機体も……ぐああああ!!!」

 

 サジタリウスβのビームカノンと同αのパーシスター・ビームライフルの攻勢がいよいよ上空と地上双方から攻め入るようになり、それらを突破口にしてシルヴァ・ビルゴがビームランチャーの射撃一辺倒で攻め入る。

 

「更に増援が……!!!上空より飛来……MDの数は……ぐおああああ!!!」

 

「くっっ……初手は持ちこたえれると思ったが……やはり数で勝るか……!!!おのれ……OZプライズ!!!貴様らはOZであってOZではないっ!!!」

 

 イヅミ特尉は、降下を開始する多数のMDの攻撃を恨めしき眼差しで見上げた。

 

 上空より放たれるビームカノンやパーシスター・ビームライフル、地上より攻め入るビームランチャーの攻撃。

 

 案の定それは民間施設に容赦なく及ぶ。

 

 災害ではなく人の手により、民衆の営みの地が破壊されていく。

 

 降下部隊は第三次部隊までが降下を終了させ、次々と上空よりMDの力の波が押し寄せていた。

 

「……っっやはりっ、無意味なのか?!!いやっ……戦い続けてこそ、戦い続けてこそ意義があるのだ!!!」

 

 イヅミ特尉がそう叫んだその上空にはびこるMDの群れの側方より、一線の極太なビーム渦流がはしる。

 

 それは多数機のMDをビーム渦流に呑見込み、一瞬で爆砕の嵐をまきおこした。

 

「な?!!あのビームは……まさかっ……?!!」

 

 その放たれたビーム渦流の方角からは、4機のガンダムとサーペントカスタムの姿があった。

 

「今のは挨拶代わりだ。次の一撃で本当の武力介入をする!!!」

 

 ギンと両眼を発光させたウィングガンダム・ゼロが、突き出し構えたツインバスターライフルをチャージさせて再度高出力ビーム渦流を叩き込む。

 

 凄まじきエネルギーのプラズマ奔流を撒き散らしながら直進するビーム渦流は、降下中のサジタリウスα、βとシルヴァ・ビルゴの三機種をランダムに呑み込み、悉く吹き飛ばしていく。

 

 プラズマ奔流の影響も受けた機体達もまた、次々に爆散させていった。

 

 この攻撃を皮切りに、MD部隊は一斉に自動でターゲットを切り替え、ガンダムに攻撃対象を移した。

 

 サジタリウスβの機体群がプラネイトディフェンサーを展開しながらビームカノンを放ち、サジタリウスαがその後方からパーシスター・ビームライフルを撃ち注ぐ。

 

 シルヴァ・ビルゴの機群も一斉にガンダムへの攻勢に切り替えた。

 

 ヒイロは放たれた攻撃を全てゼロシステムで読み切り、ビーム群を躱しながらツインバスターライフルをロック・オンすると、ウィングガンダム・ゼロはα、β両機種のサジタリウス目掛けてチャージショットを撃ち飛ばす。

 

 また放たれる高出力ビーム渦流はプラネイトディフェンサーをも破壊し、サジタリウス達に加えてシルヴァ・ビルゴの機種も呑み込んだ。

 

 空を突き抜けるビーム渦流は再度爆砕の限りを尽くした。

 

「な、なんだ??!下で何が起きた!!?」

 

「大規模なビームにMD部隊が呑まれた!!!更に次々と撃墜されている!!!」

 

「ばかな……!!!まさか、奴らか?!!!奴らなのか!!?」

 

 MD輸送機が飛ぶ高高度から更に下方の空を見るMD輸送機搭乗員は確信した。

 

 ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを分離させ、二軸線上にチャージショットを解き放つ。

 

 二分したビーム渦流は更なる破壊を促進させ、瞬く間にMD達の戦闘態勢を崩壊させた。

 

 バラバラに行動し始めたMD達は状況処理に追いつけない様子を見せていた。

 

 その渦中へとガンダムヘビーアームズ改とサーペントが重火器射撃を放ち、Ξガンダムがビームバスターとショルダービームバスターを組み合わせた射撃をしながら突き進む。

 

「大々的な突破口の後に分散する敵戦力に重火力射撃を叩き込む……!!!」

 

「久々の派手な戦場だ!!!」

 

「これもまた、生き残ったマフティーとしての粛清の一つだ!!!」

 

 ガンダムヘビーアームズ改は、ダブルビームガトリングにアームバスターカノン、バスターガトリングキャノンを主とした射撃で猛進する。

 

 シルヴァ・ビルゴやサジタリウスα、プラネイトディフェンサー展開前のサジタリウスβを爆砕・粉砕させ次々と立て続けに撃破していく。

 

 サーペントカスタムも両手に構えたダブルガトリングのゴリ押し射撃で次々とMDを撃墜させていた。

 

 Ξガンダムもまたビームバスターと、組み合わせるショルダービームバスターの高出力ビームを放ち続け、MD達を次々と卓越した銃捌きで撃ち仕留めてみせる。

 

 ウィングガンダム・ゼロも攻撃方を低中出力に切り替えたツインバスターライフルの射撃で敵機を撃破しはじめる。

 

 そしてガンダムヘビーアームズ改もまた、アームバスターカノンの低出力の連発射撃に射撃方を切り替え、それを合図にするように各部のミサイルハッチをオープンさせた。

 

「ファンネルミサイルも同時に合わせてくれ、マフティー」

 

「了解した。ファンネルミサイルっっ!!!」

 

 ファンネルミサイルが解き放たれるいっぽうで、加速したガンダムヘビーアームズ改が敵機群の最中でフルオープンを放った。

 

 近距離に迫っていたシルヴァ・ビルゴやサジタリウスαがブレストガトリングに粉砕され、両肩のホーミングミサイルと両脚部のマイクロミサイル、左舷バックパックに追加装備されたのマイクロミサイルが、一気に撃ち飛ばされる。

 

 同時にファンネルミサイルが超高速で突き進み、次々とオールレンジ方向からMDに襲い掛かって個々に穿ち貫いていく。

 

 荒れ狂うミサイル群の爆発の中、ガンダムヘビーアームズ改とサーペントカスタム、Ξガンダムの射撃が更なる撃墜を重ねていく。

 

 だが、いよいよプラネイトディフェンサーを展開し始めたサジタリウスβにはこれが通用しなくなっていく。

 

 その中へとガンダムデスサイズ・ヘルが飛び込みにかかる。

 

「さぁ、さぁ、さぁ!!!盛大な突破口が開いたところで斬り刻んでいこうぜぇええぇぇ!!!」

 

 敵の放つビーム群を躱し、時折アクティブクロークで防御しながらガンダムデスサイズ・ヘルが斬り刻みにかかる。

 

 アームド・ツインビームサイズで袈裟斬りと薙ぎを連続で叩き込んでサジタリウスβとαを斬り刻み、更に回り込むように次のサジタリウスα、βを一撃で同時に斬り飛ばす。

 

 その爆発を尻目に次のサジタリウスαに飛びかかり、胸部に目掛けてバスターシールド・アローを殴るように突き刺した。

 

 更に隣接するようにいたサジタリウスβに突き刺したサジタリウスαをぶち当て、アームド・ツインビームサイズの回し斬りで2機を同時に撃破。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルは、その勢いをのせたままシルヴァ・ビルゴに接近し、3機同時にアームド・ツインビームサイズの薙ぎ斬撃で斬り飛ばし、多重爆破を巻き起こした。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルの斬撃乱舞が次々とMDを圧倒して破壊を連続的に連ならさせていく。

 

 Ξガンダムとガンダムヘビーアームズ改、サーペントカスタムは、プラネイトディフェンサーには死角から回り込んでの斬撃と射撃で対処し、ウィングガンダム・ゼロに関しては問答無用のツインバスターライフルの高出力射撃でかき消すように破砕させてみせる。

 

 この武力介入は第四次降下部隊と第三次降下部隊の一部に多大なる損害を与えていた。

 

 戦闘状況をゼロシステムで先読みしたヒイロは、第五次以降の存在も知り、デュオ達へと伝える。

 

「まだまだ奴らはここへ押し寄せる気だ……俺は空中で迎撃する。デュオ、トロワ、ラルフ、マフティーはまだ展開している降下済みのMDを叩いてくれ!!!」

 

「あいよぉ!!!」

 

「了解した」

 

「オーライ!!」

 

「わかった」

 

 地上へと降下していく仲間達の機体を見送ったヒイロは全周の敵機群をロック・オンし、その操作に伴ってウィングガンダム・ゼロは二挺のツインバスターライフルを左右に広げさせた。

 

「これで第四次降下部隊は全滅する!!!」

 

 チャージされながら放たれたツインバスターライフルのビーム渦流が両端のMD部隊三機種を一気に呑みこんで吹き飛ばす。

 

 そして機体を自転回転させながらの、ローリング・ツインバスターライフルの攻撃方法で次々と破砕・爆砕・撃破の限りを尽くしていく。

 

 回転するビーム渦流が巻き起こす破壊旋風は、周囲一帯一面を爆発の華で溢れかえらせた。

 

 一方のサイコガンダムMk-Ⅲ迎撃に向かうカトルとマリーダにも、その存在に反応した一部のMD部隊が攻撃を掛けに襲撃していた。

 

「はあああああっっ!!!」

 

 カトルのいつに無い気迫を乗せるように、ガンダムサンドロック改はクロスクラッシャーの薙ぎの一線でシルヴァ・ビルゴの胸部を裂断させ、もう1機をバスターショーテルで叩き斬り伏せる。

 

 そして力強く殴るようにクロスクラッシャーの一撃を次のシルヴァビルゴに食らわす。

 

 それと同時にヒートショーテルの両刃で挟み込み、斬り潰しながら零距離のビームマシンガンを叩き込んだ。

 

 その爆発を突き抜け、サジタリウスαの射撃を躱しながらビームマシンガンで反撃かつ撃墜し、サジタリウスβをバスターショーテルで叩き斬ってみせた。

 

「流石、ヒイロ達のガンダムだけある。見事な一騎当千だ。さぁ、生まれ変わったクシャトリヤもいくぞ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードのメインカメラがマリーダの意志のごとく光り、両肩の後部ジョイントに新たに装備されたGNDコンデンサーブースターで機体を加速させた。

 

 ビームトマホークを発動させ、それを押し当てるようにしてシルヴァ・ビルゴへと斬り込む。

 

 食い込んだ部位が焼灼され、その流れに乗るように振り払うように斬撃した。

 

 斬り潰されたシルヴァ・ビルゴが地上へと落下し爆発する。

 

 上方からくるパーシスター・ビームライフルやビームカノンを躱し、ライトレッグがフレキシブルに可動し、レッグフレームに内蔵されたビームガトリングがサジタリウス部隊を自動ロックオン追尾し、ビームの高速射撃を撃ち放つ。

 

 何機かを撃破した後も、自動追尾しながらビームの弾幕を撃ち続ける。

 

 その間に対角二門のメガ粒子ブラスターがチャージされ、一気に高出力ビーム渦流が撃ち飛ばされる。

 

 一挙にその二軸のビーム渦流は、4機のサジタリウスα、βを破砕させた。

 

 次に来るビームを感じ取ったマリーダは機体を上昇させて躱してみせる。

 

「すごい瞬発的な加速……!!!前よりも機動性が上がっているな……!!!」

 

 マリーダは襲い来るビームを躱しながらその機動性を短時間で感覚を掴んでいく。

 

「……本当に人形だな、MDというのは。何も感じれない……斬り込むまでだ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードはビームトマホークを薙ぎ払い、残存するシルヴァ・ビルゴを破砕させた。

 

「ふぅっ……お見事です!!流石ですね、マリーダさん!!」

 

 カトルの方も残存機のシルヴァ・ビルゴをクロスクラッシャーで破壊し終えると、マリーダの戦いぶりを称賛する。

 

「カトルの方こそ流石だ。やはり、お前達の技術はすごい。テクニックも、MSも……この重力下でクシャトリヤにこれ程に機動性を与えてくれる機体に仕上げるなんてな」

 

「そうですか!!クシャトリヤの仕上がり、喜んでいただけたようでよかったです!!とは言っても、僕が直接仕上げたわけではないのですが……」

 

「ふふっ……いずれにせよ感謝している……」

 

 マリーダは、瞳を閉じながら笑みを浮かばせて礼を述べると、カトルにサイコガンダムMk-Ⅲとの接触に関する意見を強めた。

 

「ところでカトル。ロニのコトに関してだが、ウィングゼロからの情報を基準にするより、リアルタイムで私が彼女を感じながら向かった方が効率がいいはずだ。ヒイロは敢えて私の力抜きで事を運ぼうとしていたが、やはり私の力でここは行くべきと考える」

 

「なるほど……それもそうですね!!確かに、マリーダさんは力をお持ちです!!でも、なんでヒイロはそうしたんだろう?」

 

「くすっ……それは勿論決まっている。私の負担を考えてくれたからだ。ほんの少し考えればわかることだ……では行こうか」

 

「はいっ!!お願いします!!!(相変わらず、ヒイロは優しいな。二人の間柄を見ていると羨ましくさえ感じてしまう。でも!!僕もロニが戻ったら……きっと!!!)」

 

 マリーダは素直にロニと思われる感覚を感じる方角へとクシャトリヤ・リペアードを向かわせた。

 

 機体の操縦と共に、マリーダは自身のニュータイプ能力を可能な限り研ぎ澄ませる。

 

「……ロニ……確かにこの方角で間違いない。彼女を感じる……けど、この感じは……決していい感覚じゃない……!!!」

 

 マリーダが遠方のロニから感じた感覚……それはついこの前までに味わされた苦痛の感覚、否、それ以上の苦痛だ。

 

「え?!!それって一体……どういう事なんですかっ?!!!」

 

「感覚を研ぎ澄ませると、かなりの負の苦痛を感じる。きっとサイコガンダムの悪影響や色々な人体実験をされている可能性が極めて高い!!!」

 

「そんな……!!!」

 

「だが、カトル。どんなに非情な現実が彼女を取り巻いていようが、それも可能性として受け入れろ。君がコロニーのガンダムパイロットなら……できるはずだ」

 

「マリーダさん……ありがとうございます!!」

 

 機体をサイコガンダムMk-Ⅲに向けて加速させる中、マリーダはもう一つの方角からも負の感覚を感じ取っていた。

 

 (もう一方の方向からも嫌な負の感覚を感じる……ヒイロが具申したのはムラサメ研究所と言っていた……私のような目に遭ってしまっている同胞たちがいる……しかもこの感覚は……やつか……思い出したくもないッッ!!!!)

 

 マリーダが感じた感覚……それはベントナの感覚であった。

 

 マリーダに対し強化人間の人体実験はおろか、私的欲望を満たす対象としても汚させられてきた。

 

 忌まわしいまでの汚らわしい記憶がマリーダの脳裏に過る。

 

 (ヒイロは敢えて私ではなく、マグアナックチームを向かわせた。ふッ……どこまで私に配慮してくれるんだろうか……きっと私が行っていたら憎悪のあまり同胞たちをも巻き込んでしまっていただろうな……)

 

 マリーダがヒイロの綿密なまでの彼女に対する配慮を痛感している一方、ムラサメ研究所ではDOMEシステムの被検体に選ばれてしまったクロエ・クローチェの冷凍冬眠解除の作業がなされていた。

 

 ベントナが卑屈な笑みを浮かばせながらその操作をし終えると、カプセルユニットが開き、全裸のクロエが姿を見せた。

 

「ほお……美しい……ククククク!!!」

 

 ベントナはいやらしい手つきで彼女の体に触れながら、ぼやけながら意識を取り戻した彼女に語り掛ける。

 

「う……う……」

 

「ヒヒヒヒヒッ……お目覚めだなア……喜べェ……お前は素晴らしい実験に抜擢されたんだァ……」

 

 生理的に不快なベントナの表情と行動に、クロエの意識は直ぐにハッキリしてそれを拒絶する。

 

「ひっ?!!いやあああッ!!!」

 

 直ぐにカプセルから逃げ出すクロエであったが、冷凍冬眠より間もない体が彼女の行動を縺れさせてしまう。

 

「あうッ!!!あっ……?!!やあああああ!!!」

 

 倒れた彼女に多勢に無勢で研究員たちが抑え込むと、ベントナはそこに歩み寄り、更なる最低な言動と行動に出た。

 

「これからお前はオーガスタに運ばれ、遺伝子レベルに解体される!!!その前にこの素晴らしい身体を私の好き勝手にさせてもらう……!!!」

 

「いやっっ、来るなっっ!!!離せ!!!離せぇえええええっっ!!!」

 

 汚らわしいその手がクロエに伸ばされたその同時タイミングで、ネェル・アーガマからラシード筆頭にムラサメ研究所に向かってマグアナックチームが降下・着地する。

 

 響き渡る地響きが、研究所をぐらつかせた。

 

「な、なんだ?!!」

 

 突如としての異常に狼狽えるベントナに、血相を変えた研究員が飛び込む。

 

「ドクターベントナ!!!外に、所属不明のMSが!!!」

 

「MSだと?!!」

 

 ムラサメ研究所上空にはネェル・アーガマが飛行しており、そこからマグアナックチームとネェル・アーガマ内にあったセッターに搭乗したネェル・アーガマクルー達が降り立っていたのだ。

 

 着地と共にラシードが指揮を執り、被験者達の救出行動を担当する者達に指示した。

 

「ゼロシステムの情報によれば、被検体にされている人々がいるとの事だ!!彼らの救出と研究員の捕縛を目的とする!!アブドゥル、アウダ、アフマド!!ネェル・アーガマクルー達と突入を頼む!!場合によっては抵抗の戦闘もあり得る!!そうなった場合、捕縛対象には足を狙って銃撃しろ!!!やむを得ないならば銃殺しても構わん!!!」

 

「了解!!!」

 

 アブドゥル達マグアナックチームがMSを降りて銃撃戦に備えた装備で走り出すと同時に、セッターに乗り込んでいた元特殊部隊や対人戦闘経験のあるネェル・アーガマクルー達も一斉に戦闘態勢で駆け出し、マグアナックチームと共に突入を開始する。

 

「突入!!!」

 

 その状況をモニターで見届けると、ラシードは左右にいるマグアナック・カトリーヌ機とM1アストレイに目を配りながら説明する。

 

「今回、カトリーヌ様とジュリ嬢は私と共にここで待機されていてください。MSによる抑止的圧力をこの施設にかける為です」

 

「うん、わかった!!」

 

「了解です……ラシードさん、被験者って……俗に言う強化人間っていう人達なんですよね?」

 

「はい……かつて引き起った幾つもの戦争の最中に生みだされた戦争の悪行の被害者及び犠牲者達です。非人道な者達の所業……我々の手が届けることができた今の機会が彼らを助け出すチャンスなのだと感じております……」

 

 その一方でムラサメ研究所内は騒然とした状況の中、ネェル・アーガマサイドの奇襲的な攻勢が展開されていく。

 

 マシンガンやアサルトライフルが放たれ、次々に研究員達の脚を狙い撃って行動不能に至らしめていく。

 

 マグアナックチームが先行して突入するその中でも、一際気合いを感じる男がいた。

 

「望みは薄い。だが、可能性はある……!!!」

 

 出くわす研究員達の足をアサルトライフルで狙い撃ち続け、行動の自由を次々に奪う。

 

 更に反撃を始めた研究員達には眉間や胸部に撃ち込んで仕留めて見せる。

 

「気合い入れてるな!!!あんた、名は?!」

 

 突入班の中でも異様なまでの気合いと銃捌きの彼に目を見張ったアウダが名を問いかけた。

 

「ヴィンセント。ヴィンセント・グライスナー!!元・ジオン、ネオジオンの兵士さ。俺には連邦側に捕虜にされてしまった想い人がいた……巡り回って来た当時の情報では強化人間施設に移送されたという情報を得た……」

 

 そう言いながらヴィンセントという男は次の戦闘態勢に入り、壁に隠れては銃撃してみせる。

 

 アブドゥルやアウダ、アフマドもそれに続いて銃撃をしていく。

 

「……どこまでが正しい情報かはわからなかったが……俺は抗った。だが、どうすることもできなかった……」

 

 そしてまたマグアナックチームと共に走り出し、銃撃をこなす。

 

「色々巡り巡ってネェル・アーガマにいるが、今回は場所が場所なだけに、もしかしたらと思えてね……!!!」

 

「なるほど……なっ!!!」

 

 アブドゥルは抵抗が激しくなる前に手榴弾を投げ、爆発を巻き起こさせる。

 

 彼らは再び駆け出して銃撃戦闘を押し進めた。

 

 その報はベントナにも伝えられた。

 

「当研究所内にも多数の侵入者が!!!歩兵戦を受けております!!!」

 

「くぅっ……!!!肝心な時に何故……!!!ぐあ?!!!」

 

 更に響く振動と破壊音。

 

 それはマグアナック2機とM1アストレイが放った牽制ビーム攻撃であった。

 

 幾度かの攻撃を与えながらラシードは外部音声に切り替えて、投降を呼び掛けた。

 

「ムラサメ研究所の者達に告ぐ!!!我々は、メテオ・ブレイクス・ヘル!!!貴様らが行っている非人道的ニュータイプ研究の阻止、及び被験者たちの救助、貴様たちの身柄拘束の為に来た!!!我々は既に貴様たちに対し包囲と歩兵戦を仕掛けている!!!抵抗は無意味だ!!!直ちに投降しろ!!!繰り返す!!直ちに投降しろ!!!」

 

 その最中にも、マグアナックチームやヴィンセント達歩兵班が鮮やかに施設内を制圧していく。

 

 その報がベントナがいる冷凍冬眠保存室へ更に通達される。

 

「だめです!!!奴らは次々となだれ込んできています!!!MSが無い今のこの施設には絶望的です!!!」

 

 思い通りにならない状況に苛立ち追い詰められたベントナは、狂った嗤いを上げながらクロエに対して愚行を凶行させた。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒぃぃ!!!ヒヒヒヒ!!!ヒッヒヒヒッヒッヒイヒヒヒ!!!ただで終わるか!!!この小娘をむさぼり堪能し尽す!!!お前らも廻しまくれ!!!」

 

「やあああああああああああっっっ!!!いやいやいやっっっ、いやあああああああああ!!!」

 

 その身に振りかかるベントナ達の欲望に、悲痛なクロエの悲鳴が冷凍冬眠室に響き渡った。

 

 一方で、着陸したMD部隊がひしめくOZ静浜基地周辺及びその上空では、大気圏からの部隊を迎撃するヒイロと降り立ったデュオ達に別れての攻勢の嵐を圧し進める。

 

 空中で降下するMD部隊に対し、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルの二軸線のビーム渦流を浴びせ、大気圏内の降下部隊を壊滅に追いやっていく。

 

「大気圏内に侵入したMD部隊を壊滅させる……!!!」

 

 チャージを維持したまま、MD部隊が攻めてくる両極端方向にツインバスターライフルの銃口向けると、そのチャージから解放されたビーム渦流が一挙にMDの機体群を破砕・爆破・消滅させた。

 

 滑空するように市街地を飛行しながら、ガンダムデスサイズ・ヘルがバスターシールド・アローのショットをMD部隊に食らわせていき、次々にビームの刃が突き刺さり機能停止や爆破へと導く。

 

 そこから機体を減速させながらアクティブクロークを展開させ、アームド・ツインビームサイズをMD部隊に対して斬り込みまくる。

 

「ここからが本番だぁ!!!斬って、斬って、斬って、斬りっっまくるっっ!!!」

 

 死神の強力な二連刃が成す斬撃が、次々とMD部隊を裂断させて爆破させていった。

 

 その一方でガンダムヘビーアームズ改とサーペントカスタムは着地と同時にホバー走行に切り替えて、市街地を走る。

 

 走行を維持しながらガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングキャノン、ブレストガトリングの射撃を、サーペントカスタムはGNDコンデンサーに切り替えたビーム弾でのダブルガトリングの二挺射撃を慣行させていく。

 

 振り向く前に、背後から立て続けに撃ち砕かれていくMD部隊。

 

 展開しているMS達に反撃の間を与えずに弾幕が一掃させていく。

 

 更にトロワとラルフは、OZ側のMSを巻き込まないように射撃していた。

 

「このまま地上に展開したMDを一掃する。ここまでくれば大した掃除じゃない」

 

「ああ。その分OZの連中に中てないように気遣う面倒があるがな。はっ、まさかあのOZを助ける時が来るなんてな……時代ってやつはどう転ぶかわからんな!!」

 

「ふっ……確かにな。今はOZではなくOZプライスとロームフェラ財団、そしてそれらを含めた全ての戦役の元凶の秘密結社・ブルーメンツが確実な敵だ」

 

 Ξガンダムもまた、滑空しながらのビームバスターの連続射撃の下にMD機達を次々に射抜いて爆砕させていく。

 

 その勢いを乗せた中、蹴りを1機のシルヴァ・ビルゴに食らわしながら機体を減速させ、周囲にファンネルミサイルを射出させながら意のままに周囲のMD部隊を削り砕けさせた。

 

 そして、正面上のMD部隊目掛けてショルダービームバスターをビームバスターと同時に射撃展開し、高速の高出力ビームの乱発が突破口をこじ開けてみせる。

 

「無人機での殺戮……どこまでも卑劣な手段をやりやがる……!!!」

 

 想像だにしなかったメテオ・ブレイクス・ヘルの介入に、OZ静浜基地召集していたOZ兵士達の誰もが驚愕していた。

 

「イヅミ特尉!!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムが介入!!!しかも、MDのみを攻撃しております!!!」

 

「何だと!!?確かか?!!」

 

「はい!!!我々への攻撃は一切見受けられません!!!」

 

 イヅミ特尉が改めてモニターを確認すると、ガンダムデスサイズ・ヘルの斬撃と刺突の乱舞や、ガンダムヘビーアームズ改とサーペントの重火力射撃、Ξガンダムのトリッキーな射撃が次々にシルヴァ・ビルゴやα、β両サジタリウスの機種群を駆逐していく映像が確認できた。

 

 更に彼らの機体は、OZサイドの領域内に突入すると、反転しながらの斬撃や射撃に転じたのだ。

 

 イヅミ特尉は確信せざるを得なかった。

 

「ここに集うOZ同志達よ、聞け!!!敵であるはずのメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムまでもが味方になってくれた!!!故に我々の行動は正しかったのだ!!!MDを駆逐せよ!!!」

 

「おおおおっ!!!」

 

 イヅミ特尉のその呼び掛けに集うOZ兵士の誰もが士気を上げ、攻勢に拍車がかかる。

 

 それまでに押され始めていた状況に変化が起こり、プラネイトディフェンサーを展開しているサジタリウスβ以外の撃破率が高まり始めた。

 

 それらのサジタリウスβの機体群には、3機のガンダムやサーペントが背後に回り込み、数機まとめての広範囲の薙ぎの斬撃や至近距離からの重火力・高速高出力射撃が中てられ、破砕へと導く。

 

「そらよぉっ!!!がら空きだぜっっ!!!」

 

「回り込めばその防御方法は無意味だ」

 

「チェックメイトのラッシュだ!!!」

 

「無人機ごときが生意気な防御をする!!!」

 

 更にその遥か上空では、ウィングガンダム・ゼロのローリング・ツインバスターライフルの大出力射撃が空中展開した第六次降下部隊のMDの過半数を一掃し、大量の破砕爆破の華を巻き起こしていた。

 

「第五MD降下部隊全滅。第六MD次降下部隊の七割を破壊。このまま壊滅させる」

 

 前方に再びチャージを開始させた二挺のツインバスターライフルの銃口をかざし、大出力の二軸のビーム渦流を撃ち飛ばした。

 

 

 

 一方、カトルとマリーダは、オクシズ方面より南下していたサイコガンダムMk-Ⅲと遂に相見えようとしていた。

 

「見えた!!!サイコガンダム……なんて巨大なガンダムなんだ……あれにロニが……!!!」

 

「負のオーラや感情にアテられている……!!!」

 

 ロニもまたガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードの姿をモニターに捉えていたが、視認してもそれがカトルとマリーダと認識できないほどにまで記憶を操作させられていた。

 

「なんだ?!!あの機体は?!!邪魔をするなァアアア!!!」

 

 対面するや否やロニは殺意をむき出しにしながら2機に攻撃を仕掛け、胸部の三連メガ粒子バスターを撃ち放った。

 

「うわ?!!ロニぃぃっっ……!!!」

 

「やはり、記憶が操作されているか?!!本来の記憶があるのなら、私達の機体に見覚えがあるはず。それに躊躇なく攻撃を仕掛けた……!!!」

 

 ガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードはその攻撃を躱すが、そのビーム渦流は山間部を抉り砕いて直進し、山間部をまたいでいた高速道路を通行していた自動車諸共吹き飛ばす。

 

 更に間髪入れずにフィンガーメガ粒子バスターを撃ち放ち、ガンダムサンドロック改とクシャトリヤ・リペアードをそれぞれ二手に狙い撃つ。

 

「ロニ!!!僕だ!!!カトルだよ!!!このガンダムを見てわからないのかい!!?」

 

 その攻撃を躱しながらカトルはサイコガンダムMk-Ⅲの通信回線に呼びかけを始めた。

 

 マリーダもまた強化の特性的に厳しさを感じながらも呼びかけをしながら躱す。

 

「私もだ!!!ダカールで出会い、その後に捕虜にされた牢獄で共に励まし合ったマリーダだ!!!思い出してくれ、ロニ!!!」

 

「貴様たちは何なんだぁあああああ!!??気安く呼ぶなっっ!!!何故か見ているだけで頭が痛くなるんだぁああああああああ!!!!」

 

 サイコガンダムMk-Ⅲは、三連ショルダービーキャノンも加えてメガ粒子を放ち始め、全火力を山間部目掛けて放ちまくる。

 

 その攻撃は更なる被害を拡大させ、先ほどの被害を免れていたはずの高速道路や古民家が立ち並んだ集落諸共、次々に周囲の山々を爆破・焼灼させてしまう。

 

「このままでは、無意味に被害を拡大させてしまうっっ!!!ロニ!!!やめてくれ!!!やっぱり、ダメなのか?!!そんなコトは……!!!!」

 

「闇雲に説得してしまっていてはかえって被害を拡大させてしまう……何か他に打つ手は……?!!」

 

 カトルとマリーダはある意味成す術がない状況に考えを巡らせる中で、ロニは攻撃と共に叫び出す。

 

「この先にいるんだ!!!!幼い頃に父と母を奪ったOZがあああああ!!!」

 

 それを聞いたカトルは、強い記憶操作を確信せざるを得なかった。

 

 ロニの実の母は幼少期になくなっており、父のマハディ・ガーベイはあの日、ロニの目の前でテロリストのギャプランに殺されたのだ。

 

 確かに裏での工作も当時のOZにより行われており、間接的にOZがマハディの命を奪った形にはなるのだが、今のロニの記憶には目の前でOZが両親を殺したという偽りの記憶を植え付けられていた。

 

「目の前で、奴らはMSで父と母を殺したんだぁあああああ!!!!」

 

 あからさまに聞かされる操作された記憶に対し、カトルは真実を伝えたい気持ちに耐え切れずに叫んで呼びかける。

 

「違うっっ!!!!違うんだ!!!!その記憶は偽りの記憶だ!!!君の母は僕達が幼い頃に病で亡くなられた!!!そして父であるマハディさんは、僕達がいる目の前でテロリストのギャプランに殺されてしまったじゃないかあっっ!!!」

 

 ガンダムサンドロック改を追うようにライトアームのフィンガーメガ粒子バスターが放たれ、周囲の山や道路、家屋が爆破焼灼されていく中、ガンダムサンドロック改は旋回軌道から瞬発的に加速してサイコガンダムMk-Ⅲの胸部に取りついた。

 

「カトル!!!うかつ過ぎる!!!胸部にはメガ粒子砲があるんだぞ!!!ロニ!!!私達の声を聴き続けてくれ!!!」

 

 マリーダが注意を引くことも兼ねてロニに呼びかけた直後、迫って来たサイコガンダムMk-Ⅲのレフトアームのパンチがクシャトリヤ・リペアードに直撃してしまう。

 

「聞き続けたら余計に頭が痛いんだァアアア!!!!」

 

 

 

 ガオオオオオオンッッッ!!!

 

 

 

「くううううっっ……!!?あうっっ!!!」

 

 クシャトリヤ・リペアードはフロントのウィングバインダーで防御しながらもふっ飛ばされ、激しい振動と共に山間部に激突してしまう。

 

「マリーダさん!!!くっっ……ロニ!!!君はそんな人じゃない!!!もっと穏やかで、でも人のために戦える強く優しい女性だったじゃないかぁああああ!!!」

 

「離れろおおおおおおお!!!!目障りなガンダムぅうううううっっっっ!!!!」

 

 そして遂に胸部の三連メガ粒子バスターがチャージされてしまう。

 

「ロニっっ!!!お願いだぁああっっ!!!記憶を、元の記憶を取り戻してぇえええええ!!!!」

 

「うるさああああああい!!!!それ以上喋るなあぁああっ、頭が割れるぅうううっっっ!!!!ぁがぁっっ、ああああああああああああっっっ!!!!」

 

 当の本人とは思えない口調と叫び、狂気を感じ続けるカトルの心は、悲痛という表現ではとても収まらない程に締め付けられていた。

 

 そしてロニのその発狂の叫びと共に胸部の三連メガ粒子バスターが解き放たれる。

 

 

 

 ヴィギュリリリリリ……ヴヴォヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

 一方、成層圏上では対OZ静浜基地におけるオペレーション・ノヴァの第七降下部隊が降下態勢に入る中、それに追従するように第八MD降下部隊が成層圏エリアを航行していた。

 

 先頭を航行する旗艦相当の輸送艦の中では戦力不足が危惧される意見が流れていた。

 

「下ではガンダムが介入したとのことだ。既にあれで第七降下部隊までもが降下する羽目になった……」

 

「相手が奴らのガンダムならば、もっと増援を要請した方がよろしいのでは?!!」

 

「無論わかっている!!!だが、オペレーション・ノヴァはここだけではない!!!こちらに回してくれるのも限界がある!!!」

 

 その時、宇宙空間より急速に迫る熱源体を感知したアラートが鳴った。

 

「何だ?!!」

 

「急速に迫る熱源体ありッ……MSのようですが?!!」

 

 次の瞬間、最後尾を航行していたMD輸送船が謎のビーム渦流によって撃ち砕かれ破砕する。

 

 MSクラスの機体から放たれたその芸当はまさしくガンダムによるものであった。

 

 そして旋回しながら艦隊の面前に回り込み、その機体は姿を現した。

 

「最後尾の輸送機が爆破!!!反応消えました!!!」

 

「何だと?!!ええい、MDを出せ!!!成層圏上で敵を迎撃……あ、あの機体は?!!」

 

 第八MD降下部隊の指揮官が指揮する最中、攻撃を仕掛けたMSが姿を現す。

 

「もしや……消息不明になっていた、ガンダムデルタカイ?!!まさか、そんな……くっッ、同胞を討つ気か?!!」

 

 ガンダムデルタカイはギンと両眼を光らせながら、射出させたバスターファンネルをメガバスターの銃口と共に第八MD降下部隊に向け、攻撃への態勢に入った。

 

「群れれば強大な力……ここのMDも破壊する……!!!!」

 

 狂気染みた表情のリディは、本来ならば友軍であるはずの第八MD降下部隊を敵認定し、ビーム渦流を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 To Be NextEpisode

 

 

 

 次回予告

 

 

 これ程の酷い再会はあっていいのか?

 

 ベントナの悪しき施しに完全に呑まれてしまったロニは、決死の説得に応じるカトルとマリーダに対し、容赦ない猛撃を強いる。

 

 ヒイロもまた、突如介入したガンダムデルタカイの存在を追撃する。

 

 拮抗していたOZ静浜基地の攻防戦にも、トラント達が介入し、イヅミ・ターノフ特尉達に襲いかかる。

 

 それは同時に介入していたデュオ達との激突を意味した。

 

 そしてOZ静浜基地に到達したロニはサイコガンダムMk-

Ⅲで更なる破壊を巻き起こす。

 

 一方、ウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの追撃戦はあってはならない運命に舵をとりはじめる。

 

 やがてそれはマリーダとロニ達も例外なく呑み込もうとしていた。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード47「ロニの泪(なみだ)」

 

 

 

 

 

 

 


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