新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード39「ハサウェイの慟哭」

 オセアニアエリア 某所

 

 

 広大な砂漠の中に木々や草原が入り組むオーストラリアの砂漠地帯の景色に、僅かにゆがむ空間がある。

 

 それは装甲面に光学迷彩を展開させたネェル・アーガマだった。

 

 周囲に溶け込み、レーダーにも感知されないそれは、ヘリオポリスにて近代改修された本来はない兵装だ。

 

 ネェル・アーガマの中では格納庫やカタパルト周りがやや慌ただしい様子を見せており、1機のベースジャバーに一部のメカニック達が集中する。

 

「ケネスキャプテン自らがマフティーと会談するんだとよ!!すばやく点検しろー!!」

 

「うぃっす!!」

 

「ガタやクラック、緩み等、見逃すなよ!!」

 

 メカニック達は急遽マフティーとの会談の為に引っ張り出すことになったベースジャバーの始動前点検に追われていた。

 

 その光景をMSデッキから見守りながら立っていたカトルに、それを共に見ていたデュオが尋ねる。

 

「なぁ、カトル。ピースミリオンからも応援のメカニック達が入ったんだってな?」

 

「はい。ベテランのメカニックの方々とその部下の見習いメカニックが来たとか……あの人達かな?」

 

カトルが指差す方向にはピースミリオン用のツナギを着たメカニック達が働いていた。

 

その中でもガタイがいい大柄なメカニックが目立つ。

 

ちょうど部下を叱責しているような場面が二人の目に入っていた。

 

「(あーあぁ……あのひょろっと背の低いやつ、怒られてんなぁ)要はハワードのおっさんのお墨付きメカニックってか」

 

「そうみたいだね」

 

「へぇー……あ、マフティーの会談の護衛の件の話になるが、そっちは本当に俺達だけでいいのかぁ?」

 

「うん。ネェル・アーガマの守りを薄くする訳にはいかないからね。だから行くのもケネスさんやラルフさん、そして僕らだけだよ」

 

「ま、確かに大所帯でいってもしゃーねーからなー。てか、ウィング・ゼロがある時点でネェル・アーガマの防衛なんざとっくに間に合ってるしな!」

 

「あはははっ!確かにね!けど、一方的にヒイロに頼りっ切りでいるのもどうかなって。それぞれが役目を担って動いてなきゃ……Gマイスターはチームなんだからさ」

 

「ごもっともな意見で!!俺の意識不足でしたっ。所でそのヒイロは?シドニー湾の一件から帰還してから早々に医務室にスッ飛んで行っちまったけどよ……」

 

するとカトルは、くすっと笑いながらどこか羨まし気な表情を見せた。

 

「まだマリーダさんの所にいるんじゃないかな。普段まず急ぐ素振りを見せないヒイロが珍しく彼女の許へ急いでたからね」

 

ヒイロはサリィの下で療養するマリーダに付き添い、出来る限り彼女に尽くしていた。

 

その傍らでサリィは書類業務に従事する合間に二人を見ながら和やかに口許に笑みを浮かべる。

 

(こうしていると、何処でもいそうな彼氏彼女のやり取りね。戦争がなければ、あのコ達も普通の青春を送れていたのでしょうけど……)

 

 水を欲したマリーダにヒイロがペットボトルを渡し、それを受け取りながらマリーダが水を飲む。

 

 サリィは視界に映ったそれだけのやり取りにも、平和の貴重さや戦いの哀しさを同時に考えさせられるものを覚えた。

 

 一方のデュオはあれこれやり取りを想像し、やれやれと言わんばかりに口溢す。

 

「熱いねー……あのヒイロがあそこまでなっちまうなんてな。羨ましい限りで!!ま、あいにく俺にはそんな華はないけどナ……華がありゃ、モチベーションもまた違うカタチになるんだろーなぁ……って、あ!!悪ぃ……」

 

デュオはその手の話しの口を滑らせた事をカトルに詫びる。

 

カトルにとっての華であるロニが、未だに敵の手中にある事を思い出して気遣ったのだ。

 

「ううん、気にしないでデュオ。今、ロニのおおよその居場所はユーラシアとわかってる。ヒイロがゼロシステムでそれを導き出してくれたから……それだけでも心境は違うよ。それに、サンクキングダムへの航路の途中でもあるし、必ず何か手掛かりがあるはずさ。今は会談とオーブ首長国連邦の解放に集中するよ」

 

「そ、そっか……お!!ケネスとラルフが来たな!そんじゃ、そろそろ行きますか!」

 

「うん、行こう!!」

 

デュオは持ち場に就く為、ガンダムサンドロック改に向かうカトルと共に、ガンダムデスサイズ・ヘルのMSハンガーデッキを目指した。

 

 すると一人の少女がガンダムデスサイズ・ヘルを見上げているのが目に留まった。

 

「あぁん?!誰だぁ??ん……あれは確か??」

 

 デュオが近づくなり、はっとそれに気づいた少女はオーブ首長国連邦のジュリだった。

 

「あ!!ご、ごめんなさい!!」

 

「俺の相棒……デスサイズ・ヘルが気になるのかい?」

 

「えっ?!!と……その、は、はい!!カッコイイなって……」

 

「ヒュー♪そいつはどーも!!喜ぶぜ、こいつ!!ま、俺もだけどな♪えっと、確かお嬢さん、オーブの……」

 

「あ、はい、あたし、ジュリ・ウーニェンって言います!!M1アストレイのパイロットです(ど、どーしよう……えっと、Gまいすたー……だっけ??実際に間近で話すと緊張しちゃう!!慣れたカトル君とは大違いだよぉ~!!!)!!」

 

 これまでにもカトル以外のGマイスターであるトロワとも殆ど言葉を交わしたことがなかった。

 

 その点、年下ながら友人であるカトリーヌの兄のカトルとはある程度接していた為、そちらは平気に近かった。

 

 基本的にジュリにとってGマイスターは、芸能人と庶民に例えるような感覚にとらえている為、次元の違う存在のようにまで思っているのだ。

 

 増してや凄まじいまでに獅子奮迅の無双を展開するガンダム達を幾度か見てきたとなれば、なおさらだった。

 

 彼女のドギマギさがあからさまな為か、見かねたデュオが包み隠すことなくストレートに答える。

 

「ジュリさんよ、そこまで緊張するこたないぜぇ?俺なんかビンボークジをよく引く、しがないガンダムのパイロットに過ぎないんだからさぁ」

 

「え?!!でもっ……あたしからしてみたら、みんな凄すぎて……だから、憧れちゃうなぁっていうか、それでアストレイの顔もガンダムにって発案したら採用されて……Gマイスターさんてすごいな……って、ごめんなさい。何話してるかわからなくなっちゃった!!」

 

 デュオはふっと笑うとアストロスーツのヘルメットを担ぎながらジュリに洞察した答えを投げかけた。

 

「大方、オーブが心配で、それをなんとかできる力が欲しい……違うかい?」

 

 ジュリは図星を食らった想いに駆られたと同時に、急激にオーブの仲間達を想い涙目になり始めた。

 

「っ?!!そ、その通りです……あなた達みたいな力があればあいつらなんて……嫌なガンダムのやつらなんて、やっつけられるのにっ……うっ、うぅっ、友達のアサギやマユラ達を助け出せるのにって……うぅっっ……!!!」

 

「い?!!」

 

 突如とした彼女の涙に困惑するデュオにカトルが二人のその状況を見たのか歩み寄ってくる。

 

 無論、傍から見ればデュオが泣かした構図のようになっている。

 

「どうしたんだい?デュオ?珍しくジュリさんと……って……!!!」

 

 カトルはものの見事に「何をしたの?!」と言わんばかりの表情でデュオを見た。

 

「おいおい、そんな目で見るなよ!!誤解だぜぇ、カトル!!」

 

「あ……カトル君。彼の言う通りだよ。あたしが一方的に感極まっちゃって……うっ……早くオーブを何とかしたくて、それにアサギやマユラ達を想うと……色々込み上げちゃったの」

 

「そっか。てっきりデュオが泣かしたのかと思ったよ」

 

「おい、ヒデーなカトル!!」

 

「くすっ、冗談だよ!オーブの件はこれからの会談で、もしかしたらオーブに向けてのマフティーの支援を受けれるかもしれないしね」

 

「本当!?少しでも進展できたらうれしい……!!」

 

「ま、とにかく辛抱しててくれよお嬢さん!!今の俺達が立ち上がりゃー直ぐにでも獲り返せるさ」

 

「あ、はい!!!ありがとうございます!!!」

 

 ジュリはデュオに話し相手が変わると再び緊張した口調と態度になってしまう。

 

 そんな彼女にカトルが気遣い、柔らかになだめる。

 

「ジュリさん、何もそこまで緊張しなくてもいいよ。デュオだって僕と同じ立場なんだから」

 

「そーだぜ。逆にそこまで緊張されると俺も色々困っちゃうもんでよ……っ、お?!」

 

会話の最中、ベースジャバーが起動し、暖気運転の為のジェネレータ音が唸り始めた。

 

デュオはその唸り始めたベースジャバーのジェネレータ音に切り上げタイミングを促す。

 

「そろそろか!!そんじゃ、行きますか!!!」

 

「そうだね!それじゃ、また後で!!発進するからジュリさんは放れてて!!」

 

「あっ、うん!ごめんね!」

 

カトルは安全をジュリに促すとガンダムサンドロック改に向かう。

 

そしてデュオもまたぶら下げていたアストロスーツのメットを肩に担ぎながらジュリに改めての軽い自己紹介を投げ掛けた。

 

「そんじゃ改めて……俺は逃げも隠れもするが嘘は言わないデュオ・マックスウェルだ。またよろしくっ、ジュリさん!!」

 

「あ、はいっ……あ、ううん!あたしの方こそよろしくね!後、オーブの事も!!」

 

 ジュリは緊張気味な返事を振りほどくようにタメ口調に改めた返事をした。

 

「そーそ!!そんな感じで頼むぜ!!さっきよかずっと自然だよ!!」

 

デュオはそんなジュリにさっと手を上げながらガンダムデスサイズ・ヘルのコックピットに向かい、颯爽とその身をシートに飛び込ませて機体を起動させる。

 

 ジュリは安全なエリアに身をよけながら、両眼を光らせて起動し始めるガンダムデスサイズ・ヘルを見上げて呟いた。

 

「ガンダムデスサイズ・ヘルにデュオ……カッコいいな……」

 

 

 

旧シドニーOZ収監施設・ガンダム襲撃現場

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーの急襲を受けたOZの収監施設基地は、立ち入り禁止区域にされ、OZプライズの部隊や一部の上層部が出入りする物々しい状況の場となっていた。

 

収監施設は武装と外壁面が部分的に破壊され、双頭空母も既に撃沈されており、対岸にあった警備基地は跡形もなくクレーターのみを残して消滅している。

 

その他にもMSの残骸のほとんどは海中に沈んでいた。

 

彼らにとっての問題は基地施設の損害よりも部隊の損害である。

 

本来はOZプライズがOZの制圧を目的にしての中隊規模の部隊展開だったのだ。

 

その部隊がまるごと壊滅した損害は大きく、現場の検証視察に訪れたOZプライズの佐官が戦慄を覚えていた。

 

「これが……今回のガンダムの攻撃の跡……!!!何という状況だ!!!OZプライズの精鋭のMSは近代改修強化をされているのだぞ!!!その上、中隊規模の部隊だったのだ!!!見るにそのままだが、状況を報告!!」

 

「はっ!!主に旧シドニー湾上空での戦闘だったようで、海中を捜査中の部隊からも数多くの残骸が報告されてきています!!撃沈されたと思われるOZ双頭空母も見つかっています!!」

 

「足取りは掴めていないのか?!!」

 

「はっ!!現在も足取りは掴めていません!!!」

 

「……OZ宇宙軍やバルジの連中は飛んだ失態をしてくれたものだな。だが、そのバルジもガンダムの攻撃で破壊され、一部の情報ではあのネェル・アーガマの同型艦がガンダムの襲撃を受け消息を絶っている……そして今回のこの状況と地表のクレーター。最早、MSの成す業ではない……!!!」

 

OZプライズの佐官は以前のガンダム以上の脅威を爪痕から未知なる破壊力を痛感していた。

 

「まさかこれが……模擬戦闘中に行方不明になった鹵獲機のガンダムなのか?!!」

 

 

 

この出来事はデルマイユにも通達されており、デルマイユはロームフェラ財団本部周辺の街並みを一望しながらこの脅威を構想していた。

 

(ロームフェラ財団本部近辺における醜い反乱も気になるが、オセアニアエリアに向けた我がOZプライズの中隊が壊滅したことも気がかりだ……それ以外にもラプラスの箱なるモノを調査させるために用意したグラーフ・ドレンデも消息を絶ち、宇宙要塞バルジも破壊された……間違いなく反乱分子のガンダムの仕業!!!奴らのガンダム駆逐するには新型MDが現在最も有効だ!!!急いでくれたまえっ、ツバロフ!!!)

 

 

資源衛星MO-3

 

 

 

衛星軌道上に最も近い資源衛星、MO-3……現在、OZプライズの管轄下にあり、ある計画の要と言える拠点になっていた。

 

そのある計画とはロームフェラ財団の代表デルマイユ公爵が促進するオペレーション・ノヴァという計画である。

オペレーション・ノヴァの全容は資源衛星MO-3とOZプライズ月面MDプラントにてMD機種であるシルヴァ・ビルゴやサジタリウスα・βを大量生産し、これらを地球とコロニー各地のネオジオンやジオン残存勢力をはじめとする反抗勢力の勢力圏やテロ組織、紛争地域に投入して徹底的な制圧を図る計画である。

 

その計画主導はツバロフ技師長とメテオ・ブレイクス・ヘルを裏切ったドクター・ペルゲに一任されていた。

 

MO-3に設けられたMD生産施設を二人が視察する。

 

「ここで我々の技術の要たるMDが産み出され……地球やコロニーに蔓延る様々な反乱分子や武装勢力を一掃する……この上なく最高とは思いませんか?ドクター・ペルゲ?」

 

各ライン毎に流れ作業形式に生産されていくシルヴァ・ビルゴとサジタリウスα・βを見ながら卑屈に嗤うツバロフが同様の笑みを見せるペルゲに問う。

 

ペルゲはかけた眼鏡を中指で調整しながらツバロフに答えた。

 

「くくくっ、無論ですな技師長。いい加減、古い時代の燻りは完全に排除せねばならない時代が到来したのだ。感情同士がぶつかる故に争いは生まれるが、感情無き無人機による制圧ならばひれ伏せざるを得なくなる……」

 

無人機による大規模な制圧は宇宙世紀史上初のものであり、実に大胆不敵な計画である。

 

ペルゲはタッチパネル操作で、これからの投入エリア候補地を確認していく。

 

「……ルクセンブルクでは既にトレーズ上級特佐の幽閉とOZをプライズに取り込む事に反発する反逆者達が騒いでいる」

 

「うむ。紛れもない敵対的行動と見なすべきです。他にも中東や東南アジアエリア、アフリカエリア、更にはオセアニアエリアのマフティーとかいう連中……色々と候補のエリアがありますな」

 

絶え間ないジオン残存勢力の抗争から始まった、終わり無き宇宙世紀の地球圏の争いの歴史は新たな局面を目前にしていた。

 

指一つの操作でそれらに対する行動が可能な時代の戸口といえる状況だ。

 

「じゃが、それ以上に関心が向く情報が入ってきている……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムがシドニー湾付近で活動再開させたと……おそらくは消息不明のウィングゼロ!!!」

 

「えぇ。私も既に耳にしています。既にバルジの件も有りますからね……そうなれば自ずとオセアニアが候補……」

 

「うむ。技師長、まずは実証を得るため、オセアニアエリアに実験的に投入する。奴らとマフティーとかいう地元反乱分子もセットで我々の輝かしき一石に協力してもらおうかな……!!!」

 

「同感ですな、技師長。くくく……!!!」

 

 

 

北欧圏 サンクキングダム周辺

 

 

 

サンクキングダム周辺の上空を1機のOZ輸送機とエアリーズの部隊が飛行している。

 

どの機体も随所に破壊箇所があった。

 

「くっ……プライズめっ!!!反発したとはいえ、同じOZに対して全く容赦がなかった!!!」

 

悔し紛れにエアリーズのパイロットのOZ兵士が吐き飛ばす。

 

彼らは宛の無い敗走の道を突き進んでいた。

 

そんな中、輸送機内の隊長と思われる兵士がエアリーズ部隊に通達する。

 

「諸君、ここはサンクキングダム周辺に位置する。突然であり恐縮だが、匿わせてもらおう。このままでは危険だ」

 

「隊長?!!」

 

「無論、コンタクトは取った上……」

 

「隊長!!ダメです!!!後方より、プライズの追撃部隊が接近中!!!追い付かれますっ!!!」

 

「くっ!!!ダメ元だ!!!コンタクトをっ!!!」

 

トレーズ幽閉とOZプライズ主導のOZ吸収を異に唱えるOZの分裂は日に日に世界に拡大していた。

 

特にロームフェラの本部やOZ本部があるルクセンブルクを中心に各地で戦火が強まる傾向は避けられない状況にあり、サンクキングダム周辺も例外ではない。

 

そしてこの分裂の発端は、厳密に言えばデルマイユの政策を良しとしない一部のロームフェラの人間が、正規発表に先がけて情報をOZにリークした事にあった。

 

過剰に発達した情報社会故に一気にその地球圏を駆け巡ったのだ。

 

サンクキングダムでは平和とは程遠い周辺の状況に対し、以前のトレーズの意向もあり、防衛施設を地下に構えていた。

 

その防衛施設にはトールギスやミスズ機のリゼル・トーラスをはじめとする、サンクキングダム近衛師団の空戦仕様のMSが配備されており、管制設備も充実していた。

 

その管制設備で先程のOZの部隊の救援要請を受け、管制オペレーターがミスズに報告を通達する。

 

「ミスズ副師団長!!サンクキングダム国境付近よりOZの部隊からのSOS信号を受信しました!!」

 

「国境付近からのSOS信号?!繋げ!!」

 

「はっ!!」

 

「サンクキングダム!!我々はOZプラハ基地所属第12、第20小隊!!無理は承知だ!!我々を匿って頂きたい!!!現在、プライズに追われている!!」

 

「(やはり、OZプライズはOZを……無闇に匿うと国にも悪影響が……だが、人道を外れた真似はできない!!)こちらサンクキングダム国家近衛師団副師団長、ミスズ・アキハ。諸君らの匿いを許可する!!こちらからも応援を出す!!」

 

「ミスズ副師団長……大丈夫でしょうか?!!」

「人道たる他が為の行動だ。リリーナ王女もそれを望む!!」

 

サンクキングダムの地下にある近衛師団のMSの格納庫にざわめきが立ち込める中、ゼクスことミリアルドは一人トールギスのコックピットで小説を読みふける。

 

無言で小説に集中していたミリアルドへ、ミスズからの通信が入った。

 

「ゼクス……いや、ミリアルド!!緊急発進だ!!!OZの一部隊がプライズに終われながらが助けを求めて来た……小説に読みふけっている場合ではない!!!」

 

「ふっ……ハッキリ言うな、ミスズ。相変わらず……いよいよこの国にも来たか」

 

「あぁ。つい先程な。今後も頻繁になるはず。最悪OZプライズが攻めて来ても不思議じゃない」

 

「トレーズの影響力はある意味、目に余るな。彼が命令してはいない、いや、できない状況でもOZという組織そのものが自動的に動いている……無論、それ程OZの兵士達自体がトレーズを敬っていたからに他ならないだろうがな……では、行くか!!!」

 

ミリアルドは小説をパタンと閉じてコックピットの片隅に置き、トールギスを起動させた。

 

その最中、コックピットのサイドモニターに新たにライトに与えられた緑のリゼルが映る。

 

「ライト……ヒイロ・ユイと瓜二つの少年もまた、MSに乗るか……数奇なものだな!!」

 

サンクキングダムの上空をトールギスとミスズ機のリゼル・トーラスを筆頭に白いエアリーズとライトのリゼルが続いていく。

 

その光景を吹き付けた風に髪をかき上げたリリーナが見つめていた。

 

「お兄様、また戦いに……ライトまでもMSに乗り始めた……そして今、ルクセンブルクを中心に戦火が拡大している。何故平和である事の方が良い筈なのに人々の道は戦いに向かってしまうの?でも現実がそれ……だからと言って折れてはいけない。この時代だからこそ、サンクキングダムは必要な国。大衆の希望になるべき国なのだから……!!!」

 

リリーナは目を瞑り、強く自らに言い聞かせた。

 

完全平和を掲げながらも自国の自衛の為に兵器を有さねばならない……矛盾を抱えてしまってはいるが、根底にある本来のものは揺らいではいない。

 

一年戦争から始まった宇宙世紀の終わり無き争乱の歴史は更に加速し、過去最悪とも言える泥沼に入ろうとしている。

 

そのただ中に立つ完全平和主義国家を失われていく自由・平等・平和への希望として、サンクキングダムは毅然と立っていねばならない必要がある。

 

「トレーズ・クシュリナーダ……あなたがOZを動かし、連邦に蝕まれたこの国を支援して下さった……今幽閉されていると聞きました。どうかご無事で……」

 

リリーナは今サンクキングダムがあるのはトレーズの支援があっての事だと知らされていた。

 

今はトレーズの無事を祈る事が彼女のできる事であった。

 

そのトレーズは幽閉の身でありながら、ロームフェラ財団管轄下の城の中に限られてはいるが、基本的に自由の身であった。

 

これもまたこれまでのOZに対する功績が成せる配慮だろう。

 

城の一室から見える湖を見ながらトレーズは戦う者達を想う。

 

(私が幽閉されたことにより、私を支持してくれている者達が異をとなえ立ち上がり始めた。そして今それは事実上OZを二分させていく事態となった。私が敗者を望んだ結果だ。財団側であるOZプライズはより一層私が望まない行動をするだろう……OZの兵士達の意志を反逆と見なし、力を持って在り方を示そうとするMS部隊。そして近日中には地球に降下されるであろう、MDという恥じるべき兵器の導入を……それに身を投げうっていく私を支持してくれる兵士達……確かに悲しい事だ)

 

トレーズは戦火を拡げていく世界に抗う兵士達を想いながら湖から空へと視線をずらす。

 

(そしてそれは敗者を選んだ私自身の罪でもある。だが、時代は更なる痛みと犠牲を望んでくる……ブルーメンツが成すシナリオ通りに……最も深い痛みが歴史に刻み込まれていく……そのただ中にあるサンクキングダムは敢えて攻撃対象から外されている。しかし、それもブルーメンツの意図だ。ミリアルド。今後君の国は更なる向かい風に晒されていくだろう。必要ならばその時は……)

 

トレーズは振り返りながらその場の部屋を後にし、城の地下に向かった。

 

そして、その地下にはトレーズが設計し、製造を指示したガンダムエピオンが眠る。

 

トレーズは毅然かつ静かに佇むガンダムエピオンを見上げながら今ここにいないミリアルドに語りかけた。

 

「君にこのガンダムを託したい……ミリアルド」

 

 

 

トレーズが遠方の彼方にいるミリアルドに語りかけた頃、既にミリアルドは戦闘に直面していた。

 

ドーバーガンでの射撃牽制をかけながらOZ部隊を後方へと避難させる。

 

「私が敵を引き付ける!!エアリーズ部隊の内の4機はOZ部隊をサンクキングダムへ護衛しながら誘導、ミスズとライト、残りのエアリーズ部隊は射撃態勢を維持しながら後方支援に備え!!!サンクキングダムから攻撃をしては元も子もない。先ずは私が奴らとコンタクトを取る!!!」

 

「了解!!」

 

各機がミリアルドの指示に従い、速やかな行動に移った。

 

誘導を任されたエアリーズ部隊は疲弊したOZの部隊に付き、本国へと先導し、ミスズやライト達は一斉に発射態勢を維持した。

 

「各機いいか?!指示の通り、支援射撃態勢のまま維持だ!!専守防衛に務めろ!!本来、サンクキングダムは完全平和主義国家と言うことを忘れるな!!」

 

「はっ!!」

 

「了解……(MS戦か……銃器は幅広く扱い慣れてるが、MSは初だ。だが、シミュレーションはこなせた。感覚の誤差を埋めながらいける筈だ)」

 

ライトはミスズの念を押した指示の中、リゼルの操縦に集中させた。

 

彼は姿こそヒイロと瓜二つだが、何気にMSは初であった。

 

その間に、ミリアルドはOZプライズの部隊へと接触を試み、トールギスを接近させた。

 

「こちら、サンクキングダム近衛師団長、ミリアルド・ピースクラフト。ここから先はサンクキングダムの領空だ。貴君らの進行は遠慮願いたい!!」

 

「トールギス?!!くくくっ……!!サンクキングダム!!OZを匿うとはな!!我々もれっきとしたOZだ!!!OZは良くてプライズがダメとは差別ではないかな?!!サンクキングダムの近衛師団長さん?!!」

 

ミリアルドの呼び掛けに対し、OZプライズ部隊の部隊長はある意味最もな点を突いて返答をした。

 

しかし、それはいかようにも反発できるものだ。

 

「我が国はOZから支援という形で援助受けてきており、Oに関しては特殊な入国許可ができている。だが、OZプライズは例外であり、全く許可する道理はない!!況してや、貴君らがOZの部隊を執拗に攻撃をした結果、我々にこのような行動をさせたのだ!!!」

 

ミリアルドの返答に対し、顔をひきつらせたOZプライズの部隊長はしびれを切らしたかのように強行的な発言を飛ばした。

 

「ふっ……そのOZは今や反逆者!!!それを匿わんとする貴様らも同罪だっ!!!そうだろう?!!ゼクス・マーキス!!!各機、攻撃開始っ!!!」

 

機体から既にミリアルドの事を見抜いていたOZプライズ部隊の隊長指示の直後、プライズリーオー、プライズジェスタが一斉にビームライフルを撃ち放つ。

 

「くっ……!!!やはりそうなるかっ!!!」

 

トールギスに集中していくオレンジのビーム火線群。

 

無論、難なく躱してみせるミリアルドだが、一度戦端を展開させてしまえば後々厄介な相手故に、苦々しい気持ちにかられた。

 

1機のプライズジェスタがビームサーベルで斬りかかると、トールギスはドーバーガンを近距離から連続で撃ち中て、そのプライズリーオーの両腕を破壊して見せた。

 

その次に来た射撃も躱し、ドーバーガンでの連続射撃を2機機のプライズジェスタとプライズリーオーに見舞い、同じように武装諸ともアームパーツを破壊した。

 

完全平和主義国家の防衛の姿勢とし、ミリアルドは殺さない戦闘の姿勢を貫く。

 

「旧型の分際でぇ!!!」

 

ミリアルドは背後からビームサーベルを振りかぶるプライズジェスタに向け、ライトアーム側に装備したバスターランスを相手のライトショルダーに突き当てた。

 

バスターランスの刺突はプライズジェスタのライトショルダーを根刮ぎ破砕させ、更に蹴りの一撃を叩き込む。

 

「がぁ?!!」

 

その最中、ミスズも攻撃を確認し、一斉射撃の命令を下す。

 

「やはりOZプライズが相手ではダメかっ!!各機撃ち方はじめっ!!!ミリアルドを援護だ!!!」

 

ミスズ機のリゼル・トーラスを筆頭に援護射撃を開始するサンクキングダムサイド。

 

ビームやレーザーが束になり空を走るが、それは一斉に散り散りに躱されていった。

 

同時にそれはミスズ達が危険に曝される事を意味していた。

 

メインカメラを光らせながら幾つかのプライズリーオーとプライズジェスタの機体がミスズ達に接近する。

 

「来るぞ!!!1機に対し集中させて攻撃を叩き込め!!!ただし、あくまでも無力化だ!!!コックピットは狙うな!!!」

 

「了解!!」

 

ミスズは模範的な狙いでメガビームランチャーを撃ち込み、それに続いてライトのリゼルや他のリゼルやエアリーズが狙いを集中させた。

 

そのプライズジェスタは攻撃を躱し続けたが、三発目で武装を破壊され、それをきっかけに射撃が四肢パーツに集中する。

 

ミスズ達の連携洗練度は相手の想像を越える様相を見せていた。

 

「よし!!今のような感じだ!!!続けていくぞ!!!」

 

ミスズも周囲の僚機達に目を配りながら次の機体にメガビームランチャーを撃ち込む。

 

しかし、そのプライズジェスタは攻撃を躱し、一気にエアリーズに向かった。

 

「いかん!!回避行動をとれ!!!」

 

ミスズは危険回避を促す声を上げるが、それも空しく1機のエアリーズが斬り裂かれ爆発してしまう。

 

その直後も2機のエアリーズが連続して墜とされた。

 

「なんてことっ……!!!おのれっ!!!」

 

幾度も同胞や部下が戦死する経験を経ても決して慣れることはない。

 

部下を三人殺された怒りに駆られ、ミスズはつい先程自らが出した命令を背き、メガビームランチャーをプライズジェスタの胸部に突き当てる。

「ミスズ……!!!えぇい!!!」

 

ミリアルドはその瞬間を見逃さず、一気に機体を飛ばして、バスターランスをプライズジェスタの頭部に突き当てた。

 

更にその吹っ飛ぶプライズジェスタのビームライフルに向けドーバーガンを放ち、武器破壊に止める。

 

「ミリアルド?!!」

 

「ミスズ!!!気持ちはわかる!!!だが、我々が殺傷しては国の姿勢はおろか、OZプライズの更なる圧制のいい口実に利用されてしまう!!!今は耐えてくれ!!!私とてっ……辛いのだっ!!!」

 

「ミリアルド……!!!くっ!!!」

 

ミスズはミリアルドの言葉を受け、辛さを振り払うように顔を振り伏せた。

 

しかしその直後、敵機急接近のアラートが二人のコックピットに響き渡る。

 

隊長機のプライズリーオーとプライズジェスタがビームサーベルを振りかぶりながら二人の機体に迫っていた。

 

「まとめて斬り裂くっ!!!」

 

「ちぃっ!!!」

 

ミリアルドは自らをミスズの盾にするようにトールギスを敵機面前へ飛び込ませ、ビームサーベルとバスターランスでこれを受け止める。

 

だが、接触部が激しいスパークをはしらせる中、ほぼ互角と言えるパワーがそこに拮抗していた。

 

「リーオーとジェスタにこれ程のパワーが……!!?やはりプライズ仕様は癖が強いなっ!!!」

 

ググっと双方との拮抗するパワーが互いのライトアームを軋ませる。

 

しかし、トールギスにはプロトGNDドライヴとも呼べるメインジェネレーターに加え、2基のハイパーバーニアがある。

 

ミリアルドはこちらのパワーを付加させ、徐々にプライズリーオーとプライズジェスタを押し切る動きに持っていく。

 

「な?!!」

 

理論的にはウィングガンダムをはじめとする7機のGNDドライヴの出力と同等の出力である擬似GNDドライヴだが、トールギスには強力な二基のバーニアがあった。

 

これを唸り吹かせながら、プライズリーオーとプライズジェスタの2機を押し戻していくトールギス。

 

次の瞬間には両者のビームサーベルを弾き捌いて、トールギスは単機で弾丸のごとくかっ飛んだ。

 

ミリアルドは暴れ狂うような軌道を描かせるも、トールギスをしっかりコントロール下に置き、巧みにバーニアを操る。

 

トールギスは二転三転と軌道を変えながら再びプライズリーオーとプライズジェスタに舞い戻り、高速でビームサーベルとバスターランスの切っ先を2機へ穿った。

 

「おぉおおおおおおぉぉっっ!!!」

 

 

 

ガガズゥシャアアアアアアアアアアッッ!!!

 

 

 

トールギスは鷹が獲物をかっ拐うが如く2機の頭部を破砕する。

 

攻撃を食らった2機はそのまま機体を仰け反らせて吹っ飛び、森林地帯へと墜落していった。

 

トールギスは再びバーニアコントロールで機体を制御しながら制動かけ、敵輸送機に機体を接近させてドーバーガンを突き付けた。

 

「時間の有余を与える!!我々が無力化させた機体を収用せよ!!!完了するまで我々は貴君らを監視する。だが、援軍を呼んだ場合は、相応の措置を覚悟してもらう!!!我々も通信を傍受できる体制はある!!!承知したのなら早急に収用、撤退せよ!!!」

 

「ミリアルド……!!!いくらなんでも、それでは……!!!」

 

「ミスズ……危惧することも無理はない。直接殺めた方が本来は得策だ。だがそれは更に侵攻の圧力を強いられる。先程も言ったはずだ……私が牽制する間、彼らの回収を手伝ってくれ」

 

通常の戦時ならば、この時点で排除するのが得策だ。

 

だが、ミリアルドはあくまでも国の姿勢を貫き、OZプライズを生かす方向でいた。

 

感情の爆発が新たな火種となる……ミスズは自らの感情をたたみ込んで指示を通達した。

 

「……了解した。各機、敵機回収に協力せよ」

 

OZプライズの援軍の危険性が嫌な程高まる中、OZプライズサイドの輸送機はホバリングモードに移行し、森林地帯に降下する。

 

その影響で木々の間に突風のような風がすり抜けていく。

 

そしてトールギスが威嚇的に輸送機にドーバーガンを突きつける傍ら、ミスズ達は不本意ながら無力化された機体回収に赴いた。

 

「本当なら今すぐにでもコックピットを破壊したいくらいだ……!!!この国の在り方とリリーナ嬢、そしてミリアルドに感謝するんだな……!!!」

 

ミスズは今にも破壊してしまいそうな衝動を圧し殺しながら、自機のマニピュレーターを操作した。

 

操作する手に憤りの感情が籠り力が入り、その表情にもそれが表れる。

 

そんなミスズにせめてものフォローの為か、ミリアルドが通信をミスズ機のリゼル・トーラスに入れた。

 

「ミスズ。奴らが去り切った状況になり次第、直ぐに亡くなった彼らの機体を回収する。そしてサンクキングダムの地に哀悼の意を表し弔おう。言い重ねるが、私もミスズと気持ちは同じなのだ……」

 

「ミリアルド……くっ!!!」

 

顔を振り伏せるミスズにミリアルドもまた、この状況のやるせなさに僅かに歯軋りをし、ミスズに謝罪をした。

「すまない……ミスズ」

 

 

 

エアーズロック マフティー地下アジト

 

 

 

オセアニア大陸が誇るエアーズロックの地下にマフティーのアジトの一つが存在していた。

 

オーストラリアを活動拠点にしている彼らは幾つかの隠しアジトを有しており、このアジトもその一つだ。

 

内部には帰還したΞガンダムや主力MS・メッサーが立ち並び、メカニックが作業する格納庫区画やメンバーが寝泊まりする居住区画、ミーティングルーム等が備えられているのが伺わられる。

 

格納庫区画では会談の為に搬入したガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック、ベースジャバーがあり、メカニックやパイロット達が普段あり得ない状況に喜びを隠せないでいた。

 

「おぉ~!!これがメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムか!!!」

 

「反乱、反抗の象徴!!!カッコいいぜぇ~!!」

 

「なんたって、全ての旧地球連邦とOZにケンカを売ったガンダムだからな!!」

 

 デュオとカトルのガンダムに群がり、MS格納庫は一際にぎわう様相を見せる。

その一方、ミーティングルームではマフティーがメテオ・ブレイクス・ヘルの代表一行を招き入れた会談の流れが始まろうとしていた。

 

現在の状況上、ネェル・アーガマで指揮しているケネスが代表的な立場としてマフティーと硬く握手を交わす。

 

「改めまして。反政府組織マフティー代表、マフティー・ナビーユ・エリンです。こうして会談の機会が得られて光栄に感じています」

 

「こちらこそ改めて。新生メテオ・ブレイクス・ヘル旗艦・ネェル・アーガマ艦長、ケネス・スレッグです。我々も嬉しい限りです」

 

握手を解きながらマフティーは一つの質問を投げかける。

 

「初めて通信でお会いした時はあなたを、ケネスキャプテンを連邦の者と見受けてしまった。何故今も連邦の軍服を着ているのです?」

 

 最もな質問であったが、ケネスは誤解をされないようすぐに返答をした。

 

「これは集まったメンバーの過去の印のようなもので、今の我々は様々な勢力から今の世界の現状に疑問と反感を抱く者達が集まった事を象徴してる為です。元連邦軍人もいれば、ネオジオン残存軍にいながら参加している者、民間から参加している者もいる。少し違う例えすが、いわば旧世紀の多国籍軍のようなものです」

 

「そうでしたか。例え連邦やジオン、ネオジオンとて同じ人間。民間からも志を同じくする者達もいると……マフティーにもそういった者達がいますからね」

 

 マフティーはそう言いながらミヘッシャに視線をずらす。

 

 彼女もまた民間上がりなのだ。

 

 ミヘッシャがその視線を一瞬意識すると、マフティーは彼女の自己紹介に繋げる。

 

「彼女もその一人でしてね。今回の件で救出して頂けたメンバーの一人でもあります」

 

マフティーがコクッと頷く合図を見たミヘッシャは改めて自己紹介をケネス達にする。

 

「ミヘッシャ・ヘンスです。マフティー諜報員兼オペレーターをしています。この度は私も含め、捕らわれたマフティーメンバーを救出して頂き、誠にありがとうございました」

 

「いや、我々と志を同じくするものとしても、人道的にも当然の事をしたまでです。こちらとしても無事に救出できてなによりです」

 

マフティーはミヘッシャの一礼と共に受けたケネスのその言葉に対し、今回の一件に関しての礼を重ね述べた。

 

「あなた方のおかげで、彼女をはじめとする囚われたマフティーメンバー達やそれ以外の反OZゲリラ達の救出に成功できた。そしてこうして会談に応じてくれたこと、重ね改めて感謝する」

 

「これまでのお互いの情報の根回しがあったからこそです。我々は我々でできることをやったまでですから。それでもお役に立てれたのなら幸いの限りです」

 

 互いに硬い握手を交わし、その流れでラルフやカトル、デュオも続いて握手を交わした。

 

「……我々マフティーはオセアニアを拠点とし、元より反地球連邦政府活動していて、現在はそれと刷り変わったOZ政権の打倒の為に活動している。故にあなた方と敵は同じだ。今回の救出作戦を成功に導けれたのもあなた方と共闘できたからこそ……今後とも互いに協力し合っていきたいと考えている。そちらにも何かあれば協力させてほしい」

 

 するとカトルは今発言するべきと判断し、すぐにマフティーの協力の話へ切り出した。

 

「それなら、一つお願いをしたいことがあります。今、僕達は今後の地球圏の為に守っていくべき北欧の小国、サンクキングダムを目指しながらOZプライズの手に堕ちたオーブという島国の解放する為に動いています。それについて協力を得たいのですがよろしいでしょうか……?!」

 

 

 

その頃、ネェル・アーガマの医務室ではまだヒイロがマリーダに付き添っていた。

 

サリィもくすっと笑いながら気を使い、用事を装い書類を手に退室する。

 

「それじゃ、ヒイロ君。私は別件でしばらく席をはずすわ。何かあったら艦内の内線回してちょうだい。マリーダさんも指定した医療食摂ってね」

 

「了解した」

 

ヒイロの返答とマリーダの頷きを確認すると、サリィは含み笑いをしながら自動スライドドアのコントロールパネルを操作し、然り気無いかたちで医務室を後にした。

 

(ふぅっ……少しは気を使ってあげなくちゃね)

 

退室したサリィを見届けたヒイロは再びマリーダに振り向く。

 

すると彼女をまた口許に笑みを浮かべている事に気づいた。

 

「どうした、マリーダ?」

 

「ん?いや、なんでもない。ただ、こうしていられるだけで嬉しく思えてしまう……」

 

マリーダはニュータイプ的な感覚でサリィが気遣いをしている事に気づいていたものの、敢えてはぐらかす。

 

「そうか。いや、当然だ。これまでの事を思えばな」

 

「これまでのコト……あぁ……本当にそうだ」

 

マリーダの中で去来するこれまでの耐えがたき屈辱的な日々。

 

未だに身体を蝕むような淀みを感じていた。

 

ヒイロもまたゼロシステムで見た彼女の屈辱を思い返していた。

 

「っ……!!」

 

するとヒイロは一瞬舌打ちしながら椅子から立ち上がり、ベッドに背もたれるマリーダの隣に座る。

 

「っ、ヒイロ?!あっ……!!」

 

ヒイロはマリーダの肩に手を回しながら自身の肩に抱き寄せた。

 

「ヒイロ……!!」

 

「俺は……ゼロのシステムにマリーダのこれまでを見せられた!!!もうマリーダには二度と……あんな目に合わさせない。マリーダは俺が守る。だから安心しろ……!!!」

 

マリーダからしてみれば年下で身長も低いヒイロだが、鍛えられた屈強な体格や筋肉が、そして裏付けある心強い言葉が彼女に安心感を与える。

マリーダも自然にヒイロの肩に自らその身を寄せ付けていた。

 

「相変わらず、生意気だな……ヒイロ。でも、しばらくこのまま……」

 

「あぁ……」

 

ヒイロもまたマリーダの頭に自身の頭を寄せ当てた。

 

マリーダはヒイロが与えてくれる安心感に、ヒイロはマリーダが与える守るべき存在の認識をその身でひしひしと感じ合っていた。

 

 

 

オーブ首長国連邦

 

 

 

現在もOZプライズの占領が続き、今においてもメテオ・ブレイクス・ヘルによる国家占領という隠蔽情報がそのまま流れ続ける。

 

だが、実態は更に悪化しており、ユセルファーの独占場の私物と化していた。

 

更にはバーナムジェガンを増強し、周辺の島々にプライズジェスタやプライズリーオーが配備され、一層物々しい状況を際立たせる。

 

ユセルファーは乗っ取ったオーブの内閣府官邸に一部の官僚達を幽閉していたが、もう一つ幽閉する存在があった。

 

薄暗いその一室で情事を済ませた格好でユセルファーは息をきらせてベッドに座る。

 

「はぁ……は、はぁはぁ……くっくく!!いい具合であったぞ。古の戦争ではなぁ……女は戦利品の扱いだったのさ……私も肖りたくてなぁ……!!!」

 

「……ん~!!!」

 

ツーセンタが頬を掴んだ女性は捕虜として捕らえられたジュリの友人であるマユラだった。

 

薄汚い手に抵抗するも、猿轡や手首と足首を拘束した手錠により、意味をなさない。

 

「あぁ……私好みで良かった……さて、ついでにもう一人なぁ!!」

 

狂気的な眼光を向けた先にはもう一人のジュリの友人であるアサギがベッドの上で同じ状況に晒されていた。

 

「……~っ!!!」

 

「そんなに睨んでも無駄だ……ここは独裁の地……OZプライズ、否!!!私の地だ……!!!そうだ。私だけではないぞ?おい!!お前らも入れ!!!」

 

「待ちくたびれたなっ!!!これが例の報酬ってやつか、おっちゃん!!!クヒヒャァっ、いいなあっ!!!」

 

「早くはじめようーか。ヒヒヒヒヒ……たのしみぃっ!!!」

 

「俺のテンションが滅殺しちまうぜっ!!!ぎひゃああああ!!!」

 

 ユセルファーがスライドドアに向かい叫ぶと、ボクサーパンツ一丁のオルガとシャニ、クロトが入室し、彼らはあらかじめその手の気が満ちていたようでテンションもより異常性を放っていた。

 

「―――!!!」

 

 目に涙をにじませて絶望するしかなかないマユラとアサギに対し、ユセルファーはにたりとしながら言い聞かせた。

 

「そう……こういうことなんだよ、戦利品……なぁに、こーいうのはね、私も加盟しているある組織の『一部の』裏では伝統のシキタリなのだよ??!まだ殺されない分、マシと思え!!!くくくくっ、無論、気に入らない真似をすれば、わかるな?!!」

 

オーブを支配する闇の実態は外部には晒されないものの、情報隠蔽工作と実質的な占領・侵略は火を見るよりも明らかであった。

 

現時点でカトル達が知りうる限りのオーブの情報……即ちメテオ・ブレイクス・ヘルによる占拠が事実無根と聞かされたマフティーの一行は、改めてOZプライズへの遺憾を示す。

 

「……我々としても、いずれは着手しなければと思っていました。無論、占拠している輩があなた方ではないことも読めていたが、確信を突ける要素がなかった。ですが、今回こうして直接会談ができたおかげで確信が突けた。このままブリーフィングでよろしいですか?」

 

思いの外積極的なマフティー姿勢にカトルやデュオに歓喜の表情が拡がり、ケネスとラルフもまた顔を見合わせて頷くとラルフが返答を返す。

 

「あなた方がよければ!!本当にいいんですか?!!」

 

「勿論だ。総力を上げてバックアップさせてもらうよ」

 

その時、ミヘッシャが失礼しながら会話の間に差し入れを提供した。

 

「お話中失礼します。お差し入れのコーヒーになります」

 

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 ミヘッシャがケネスやマフティーに差し入れのコーヒーを配ったその時、突如として地震のような振動が響きわたった。

 

「?!!」

 

 コーヒーが床に落ちてカップが割れ、ミヘッシャもまた体勢を崩して倒れ込む。

 

「きゃあ?!!」

 

「ミヘッシャ!!」

 

 間一髪でマフティーは彼女の体を受け止めた。

 

「なんだ?!!これが地震か?!!」

 

「いや、オーストラリアではまず地震は起こらないはずだが……?!!」

 

 コロニーには決して存在しない地震が起こったと思ったラルフにケネスが半ば否定する。

 

 ケネスいわく、オーストラリアにおいて地震はごくまれにしか起きない。

 

 だが同様の響き渡りは連続で打つように響いてきた。

 

 その振動はの仕方は明らかに人工的な振動であった。

 

「この振動の仕方……まさか?!!」

 

 カトルが察したのはただ一つ……敵の、すなわちOZプライズの攻撃と踏んだ。

 

 外の状況は見事に的中し、既に新型MD・サジタリウスαとサジタリウスβが降り立ち、2機一組の編成部隊で10機が降り立っていた。

 

 この時点で既にメッサ―では壊滅を余儀なくされる可能性は明白だ。

 

しかし、反撃せんとする者達が次々とメッサーに乗り込んで出撃していく。

 

 赤いサジタリウスαが放つパーシスター・ビームライフルは、かつてのジムスナイパーのロングレンジビームライフルを発展させたような高出力かつ持続性ビームを放つ。

 

 銃器こそは通常サイズのビームライフルであるが、ビームの出力と持続性は特筆すべき脅威を誇る。

 

 対する青いサジタリウスβは、ヴァイエイトのビームカノンのジェネレーター機構をオミットした兵装ではあるものの、放たれるビーム自体は量産機では破格の威力を有しているのだ。

 

出撃したメッサー達の装甲にパーシスター・ビームライフルの射撃がおよび、一瞬にして装甲を円状に融解破砕して貫く。

 

そしてその円状に融解された部位と貫かれた部位が赤熱化し、一気にメッサーを爆発させた。

 

その後も幾度なくメッサー達にビームが穿かれ、破砕爆破を立て続けに巻きおこす。

 

エアーズロックに集中砲火が奔る最中、更に追い打ちをかけるがごとく、シルヴァ・ビルゴが10機投下される。

 

その上空ではOZプライズの降下輸送機が展開しており、それはオペレーション・ノヴァに先駆けた先行降下部隊だった。

 

「MD部隊降下完了。後はモニター監視しつつ、ミッション終了後に機体を回収する」

輸送機部隊は航行態勢に入り、そのポジションは文字さながらの高嶺の見物同然であった。

 

その最中、ビーム火線がマフティーアジトのゲートハッチにも直撃し、その直撃部が一瞬で赤熱化して円状に融解破砕した。

 

ビームはアジト奥面に炸裂・爆発し、突き抜けるその爆炎は残っていたメッサーを次々に転倒させ、様々な機器を倒壊させて、その被害を拡大させる。

 

「なんてことをっ……!!!僕達はガンダムで出ます!!!」

 

「あぁ!!!行こうぜ、カトル!!!」

 

ガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック改がアジトから飛び出し、2機はそれぞれ加速をかけながらアームド・ツインビームサイズとクロスクラッシャー、バスターショーテルを構えて突っ込む。

 

「だぁらぁああああ!!!」

 

「はぁああああああっ!!!」

 

グンと振り放たれたガンダムデスサイズ・ヘルのアームド・ツインビームサイズの斬撃が、サジタリウスαとβの胸部を横一線に破断させる。

 

ガンダムデスサイズ・ヘルはその2機の爆発を背に駆け抜けながらシルヴァ・ビルゴに斬りかかり、重厚な装甲を容易く斬り飛ばし、更に2機目にバスターシールド・アローを胸部に刺突させた。

 

ガンダムサンドロック改もまた、サジタリウスβにビームマシンガンを浴びせながら突っ込み、その射撃で機体の装甲を破砕させる。

 

更に僚機のサジタリウスαをクロスクラッシャーで殴るように挟み込む。

 

ガンダムサンドロック改はサジタリウスαを掴んだままギリギリとクロスクラッシャーを斬り込ませ、同時にビームマシンガンの零距離射撃を与え激しく爆砕させる。

 

そして、その勢いを止めることなく振りかぶったバスターショーテルをシルヴァ・ビルゴに叩き込み、豪快に斬撃を浴びせた。

 

だが、突如とした襲撃を認識したサジタリウスαが高精度の狙いを定め、一斉にパーシスタービームライフルを浴びせにかかった。

 

 狂いないビームは2機に直撃する。

 

 ガンダムデスサイズ・ヘルに対しては直撃間際に閉じたアクティブクロークの特性上、弾いて終熄するに至る。

 

 だが、一方のガンダムサンドロック改の方では、そのビームがガンダニュウム合金製の装甲強度と反発して着弾と共に表面に激しい爆発を引き起こした。

 

「っっとぉ……!!!」

 

「うわぁあああっ!!!」

 

 それがいくつも連なる中、サジタリウスβのビームカノンとシルヴァ・ビルゴのビームランチャーが追い打ちをかけて高出力ビーム押し穿つ。

 

「こんチキショー!!!」

 

 異常なまでに正確な狙いにカトルは依然聞かせれたGマイスターのデータを反映させたMDの可能性を過らせた。

 

「これは?!!狙いが正確過ぎる!!!もしかしてデュオ達のデータを反映させたMD?!!」

 

「だとしたら狙いがいいのもうなずけるな!!!やってくれるぜ!!!」

 

 デュオはそう言いながらアクティブクロークを閉じ続けて、襲い来るビーム攻撃に対応を継続させる。

 

 カトルもまた防御態勢に操作し、機体を身構えさせた。

 

 しかし、防戦一方の状況になってしまうのは明白だった。

 

 それを期にMD部隊はここぞとばかりに集中砲火を浴びせにかかる。

 

「ちっきしょー!!!俺達が防戦一方だってのかよ?!!」

 

「間違いなくこれまでの戦闘で経験したMDよりも狙いは確実ですっ……!!!」

 

「俺達でこれじゃ……メッサ―じゃ一溜りもねーよ……さーて、どのタイミングで攻め転じる?!!」

 

 その時、急接近する機体のアラートが響き、後方よりもう1機のガンダムが敵陣営に突っ込んだ。

 

「これ以上俺達の居場所ををやらせるものかっ!!!」

 

 それはマフティー駆るΞガンダムだった。

 

 瞬時にビームバスターを三発サジタリウスαとβの胸部に叩き込み、シルヴァ・ビルゴ2機にショルダービームバスターの高出力ビーム過流を撃ち放った。

 

 その攻撃で撃破されたMD達が爆発していく最中で更にマフティーはビームバスターとショルダービームバスターを放ち攻める。

 

「攻めこそが最大の防御!!!それを一番君たちが心得ているはずだ!!!そしてそんな防戦で終わるはずはない!!!そうだろう?!!」

 

「マフティーさん!!!そうですね!!!僕達らしくない、攻めます!!!」

 

「どうやら俺の分身、不意には弱いようだなっ!!!いっくぜぇっっ!!!」

 

 マフティーに奮起を促されたデュオとカトルは再び攻めに転じ、虎の子のPXシステムを発動させ、残りのMDへと突っ込んだ。

 

 ビーム砲火の爆破を押し弾くように青白く輝くガンダムサンドロック改は、パワー特性とPXの超高機動力を活かしたクロスクラッシャーの激しい一撃をサジタリウスαに食らわし、サジタリウスβをビームカノンごとバスターショーテルで叩き斬って見せる。

 

 その攻勢を維持しながらシルヴァ・ビルゴに一瞬で回り込み、クロスクラッシャーで一線に破断させてもう1機にバスターショーテルを叩き込んだ。

 

 一方、ガンダムデスサイズ・ヘルはアクティブクロークで防御しつつ攻め入り、バスターシールドアローを超高速度撃ち放ち、サジタリウスα、βの頭部にビームの刃を穿つ。

 

 その止めに再度アクティブクロークを展開させ、残存するシルヴァ・ビルゴ達にアームド・ツインビームサイズの超高速の斬り払いを連続で斬り食らわし、連鎖爆破の下に撃破した。

 

 そしてΞガンダムは上空の輸送機に目掛けビームバスターを被弾させる。

 

 まさかの反撃にOZプライズ兵も焦りを隠せないでいた。

 

「何故ガンダムが?!!しかもあれは強奪されたΞガンダム!!?」

 

「振り切れ!!!振り切れぇぇ!!!」

 

「貴様たちがMDを投下したのか?!!この状況と言いそうなのだろうな!!!その報い、受け取れ!!!」

 

 マフティーの怒りも賭したファンネルミサイルが放たれ、機首や動力部といった輸送機のウィークポイント目掛けて多数のミサイルが飛び込む。

 

 それと同時に、Ξガンダムはビームバスターを連続で叩き込んだ。

 

「がああああああ?!!!」

 

 ファンネルミサイルは各所をズタズタに抉り貫いて貫通し、ビームバスターの連続直撃と重ねながら輸送機を爆砕四散に導いた。

 

 

 

 戦闘は終結したものの、各マフティーアジトの凄惨な傷跡は事実上マフティーの組織の壊滅に等しい状況になっていた。

 

 この状況を大々的にOZプライズは報道を促し、同時にオペレーション・ノヴァも公表し、マフティーはエアーズロック以外の全てのマフティーアジトと通信が取れない状況に絶望する。

 

「駄目です……他の全てのマフティー基地との交信が出来ません。おそらく……今のような攻撃にっ……!!!」

 

「そうか……ありがとう、ミヘッシャ」

 

感情を堪えながらのミヘッシャの報告に礼を述べたマフティーは通信を終えるとハッチを解放し、改めてエアーズロックの現状況が肉眼に刻まれる。

 

するとマフティーに言い様がない感情が込み上げた。

 

「ううっっ……くっぅ、うおぉぉっっ……うおぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 3機のガンダムが佇むエアーズロックの麓に黄昏が広がる中、マフティーの慟哭が響く。

 

「ちくしょう……完全に今回はやられちまったな……よりによって会談中を狙いやがって……」

 

「マフティーのアジトは全て音信不通だそうです……おそらくあのような感じでMDが……!!!」

 

「OZよりも輪をかけてやべーぞ、OZプライズはよぉ……マフティーの事を想うと、思い出しちまうな。ラボコロニーを」

 

「うん……僕達もオデルさんやバックアップしてくれていた僕の姉さん達、エージェントの人達……多くの仲間を失った。今の彼の気持ち、痛い程わかります……」

 

 デュオとカトルは、マフティーことハサウェイの今置かれた状況にやるせなさを表情に隠せないでいる中、彼方より向かってきていたネェル・アーガマへと視線を向けた。

 

 ネェル・アーガマのブリッジにも差し込む黄昏の日差しがクルー達一同を照らし、トロワやマグアナックチームが腕組みの姿勢でエアーズロックを見つめている。

 

 ヒイロもまたマリーダの側を離れ、MSドック内のウィングガンダム・ゼロの前に立っていた。

 

「ゼロ……何故今回の一件の予測を見せなかった?敢えて見せなかったのか?必然性があったのか?」

 

 何も答えないウィングガンダム・ゼロに敢えて懐いた疑問符を問いかける。

 

 見上げるウィングガンダム・ゼロへの視線を一瞬細めると、ヒイロはコックピットに身を投じていった。

 

 

 

 

 

 

To Be Next Episode

 

 

 

 次回予告

 

 ロームフェラ財団に押し進められるMD降下作戦、オペレーション・ノヴァの標的となってしまった組織としてのマフティーは壊滅してしまう。

 

 MDの猛威は地球圏の至る所に拡大していく中、せめてもの報復としてトリントン基地を壊滅させるヒイロ達であったが、それでマフティーのわだかまりは拭い去れるものではなかった。

 

 一方、表向きにメテオ・ブレイクス・ヘルに占拠されたとされているオーブでは、OZプライズ中級特佐・ユセルファーによる醜悪かつ非人道極まりないオーブジェノサイドが行われ、多くのオーブ国民が無差別に三狂ガンダムのターゲットにされ、ジュリの友人であるマユラとアサギをはじめとした女性達もユセルファーにその尊厳を汚されながら絶望の屈辱の中にあった。

 

 そんな事実上地獄の独裁場と化したオーブの地に、夜空より五つの流星が舞い降りる。

 

 それは、劣悪な状況を張り巡らすOZプライズのMS群に新たな武力介入をするのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 

 エピソード40 「月下の燃え尽きない流星」

 

 

 

 




 
捕捉

今頃ですが、本二次小説のケネス・スレッグは「Gジェネ版」のケネスです。マダオ、ガイアメモリ、碇ゲンドウボイスの方です。

 マフティーも同じくGジェネ版です。

追記捕捉

 ベースジャバーは原作では宇宙用ですが、今回登場したベースジャバーは、重力下でも運用可能な仕様になってます。(メテオ・ブレイクス・ヘル仕様)


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