マリーダとプルの救出はヒイロ達に確たる成功と勝利を収めた。
無論、そこに利益的な報酬はない。
しかし、利益には替えることのできない掛け替えのない報酬がそこにあった。
ウィングガンダム・ゼロのコックピットからヒイロがマリーダを抱えて出てくると、デッキ通路にジンネマンがいた。
ヒイロはジンネマンの傍に歩み寄り、抱えていたマリーダをジンネマンの腕にゆだねる。
するとジンネマンは彼女を抱えながらその場に座り、その目に涙を浮かべた。
「おぉっ……マリーダっ……!!!すまない、ヒイロ。どれだけ恩にきればいいのかっ……!!!」
「いや。マリーダ達を助けたい……その感情で突き動いた結果だ。気が済んだら早く医務室にいけ。マリーダはかなり衰弱している」
「そうかっ……わかった!!!」
「マ、マスター……」
「っ、マリーダ!!ま、マスターはよせと……言っとるだろ……う……うぅっ、マリーダっ!!!よかったっ……よかったぁ……!!!」
雄々しきガンダム達が並ぶネェル・アーガマのMSドックに、ジンネマンの男泣きを交えた声が響く。
ジンネマンは涙ぐんで娘の帰還と無事を喜び、憔悴したマリーダを抱き起すように抱きしめていた。
ヒイロもいつにない優し気な表情を浮かべながらその場に立ち会う。
「パパ!!」
更にそこにもう一人の娘であるプルの声がジンネマンを呼び、ユニコーンガンダムのハッチからジンネマンのもとへと駆け出す。
「おぉ!!プルも……!!!おぉっ、ととぉ!?はははっ、プルもよく戻った!!」
ジンネマンが振り向きながらマリーダを抱きかかえる中、プルが首元に抱きついた為にジンネマンの体勢が崩れかかる。
だがそこは強固な父心で踏ん張って見せ、ジンネマンは左腕でプルも抱きしめた。
「パパっ……ずっとあたし辛かった!!嫌な思いしてきたっ!!!でも、こうしてまたパパに会えた!!!マリーダにも会えた!!!マリーダもあんな苦しみ受けて……でも、もう大丈夫だよ!!!」
「姉さん……」
養父と姉妹の再会……その光景を見守っていたアディンはプルのその言葉を聞き、救出の間際に彼女から聞かされた理不尽への怒りが一瞬再燃する。
オーガスタでのファーストミッションから出会って以降、ここに至るまで慕い続けてきてくれる彼女に降りかかった汚らわしき理不尽。
妹を想う兄のような心境と異性を想う心境の挟間のような想いをアディンはプルに抱いていた。
それ故の怒り……だが、アディンは歯と拳を握り閉めながら自らの引き金でその忌まわしい時間を与えたグラーフ・ドレンデを撃沈させた事を再認識し、深いため息に変えた。
「……そうだ。俺はジェミナス・グリープで憎い艦を撃ち墜としてやったんだ……今は目の前でキャプテンと再会できてるじゃねーか……後の怒りは奴……リディとデルタカイだけさ」
アディンは独り言任せに自らに言い聞かせて納得させると、もう一度再会した親子達に目を向けた。
「プルっ!!!マリーダ!!!すまないっ!!!お前達に辛い思いをさせてしまったのは俺の責任だ……!!!」
「ううん、パパは少しも悪くない!!悪くないよ!!!」
「マスター、私も姉さんと同感です……マスターは悪くない……」
「ううぅっ……おっッううっ、おおおおおおおぉっ!!!」
二人の娘達の想いに、ジンネマンは嗚咽混じり感極まる歓喜の慟哭を上げた。
今は親子水入らずの空気と感じたヒイロは瞳を閉じながら振り返り、アディンやデュオ達のもとへ歩き出す。
そのヒイロに向かってデュオが第一声の言葉を投げかけた。
「大活躍だったじゃねーか!!星のナイト……いや、星のナイト達!!それぞれのお姫様を救出されてまー、カッコイイのなんの!!流石だなー!!」
言い改めながらアディンの肩にぽんと手を置いたデュオは、ニヤつきながら盛大に褒めて見せる。
「な、何言ってんだデュオ!!俺は未来あるニュータイプの為にだなー……!!」
「誤魔化し否定すんなー。顔に出てんだよ、アディンは!!それに比べヒイロは顔に出やしねーんだから……な!!ヒイロ!!」
「そういうお前はデリカシーを持て。少なからず気を使え。声も大きい。あっちに当の本人達がいるんだ」
サムズアップ式に指を指すヒイロの先にいるマリーダ達を見たデュオは納得しながら頭に手を当てて非を認める。
「……おーっと、そいつは失敬だった!!以後気を付けるぜ……」
するとトロワが立ち去ろうとするヒイロへ一声かける。
「いいのか?」
「あぁ。ジンネマンは二人の父親のような存在だ。バルジでも相当憂いに気をかけていたはずだ。今は許される時間の限り、親子水入らずの時間が望ましい……」
「そうか」
トロワは最小限なやり取り口調だが、ヒイロはそれだけで納得し理解できている。
カトルもまた、ヒイロの判断に同感しながら改めたミーティングの知らせを促す。
「確かに彼女達にとっても今はそれが必要な時でしょう。この後改めてミーティングしますが、ガランシェールの方々もジンネマンさんへの計らいで、キャプテン代理の人が来るそうです」
「了解した。それとカトル……」
「なんだい?ヒイロ」
ヒイロは返答と同時にある言伝てをした。
「ロニ・ガーベイは今、新型のサイコガンダムに乗せられ、主にユーラシアエリアの地上を転戦させられている。地球へ行けばいずれ会うだろう」
本来ならばフィアンセに等しいカトルの想うロニの情報だった。
これまでカトルと行動共にしていたトロワもヒイロと同様、高度なハッキングスキルがあるが、万が一潜伏下のへリオポリスやネェル・アーガマの位置が割れてしまうリスクを避け、ハッキングの手段はできないでいた。
だが、ヒイロはネェル・アーガマに戻るわずかな間にウィングガンダム・ゼロのゼロシステムを使い、彼女の救出の為の導きを算出していたのだ。
「ヒイロ……!!!わかった!!!ありがとう……ありがとう!!!」
「カトル。マリーダの救出に加担してくれた借りは返す。次はお前だ……」
ヒイロはそうカトルに言い残し、CICブリッジへと向かう。
「次はお前だ……か!!相変わらずしっかりしてんなぁ~、ヒイロ!!素直だか素直じゃねーんだかも相変わらずだが……」
ヒイロの行動にデュオは頭をかきながら言うと、カトルは含み笑いをしながら答える。
「くすっ、でもそれがヒイロらしいんだよ。凄くて、無愛想なようで優しい……」
「ははっ、違いねっ!!ま、俺達も全力でサポートさせてもらうぜ!!」
「あぁ。だが、その前にマフティーの一味達のミッションやオーブ攻略がある。ロニの所在がユーラシアならばその先に答えが待つ。カトル。今一度の辛抱だ」
「うん。わかってるよ、トロワ。ロニとコロニー……そして仲間達。今の僕には守りたい存在がハッキリ見えている。大丈夫さ!!」
カトルのその表情にはかつてのような不安定さは存在しなかった。
トロワが頷き、デュオがニカっと笑うと三人もヒイロの後に続いてCICブリッジを目指していった。
彼らが去った後もジンネマンはマリーダとプルを抱きながら泣きに泣いていた。
そんなジンネマンの肩に腕を回すプルがウィングガンダム・ゼロを見上げる。
「ねぇ、このガンダム……不思議な感じがする……」
「不思議な感じ……??」
プルの文字通りの不思議な発言に吊られてジンネマンも見上げ、抱えられていたマリーダはジンネマンからウィングガンダム・ゼロへと視線を移す。
「うん。懐かしいような、安心するような??初めて見るガンダムなのに……」
「……そう言えば……姉さんの言う通り、このガンダムの中で何か不思議な感覚が芽生えていた……何か暖かく安心できるような……姉さんが感じてるモノと同じ感覚のはず……」
マリーダもまたプルと同じ発言をする。
彼女達の発言にジンネマンもウィングガンダム・ゼロを見上げた。
「お前達……このガンダムには一体何が……?」
「……ママ??」
「―――?!!」
思いもよらないプルの発言に、ジンネマンは絶句した。
だが、直後にプルは笑って誤魔化すように言った。
「……なーんて!!流石にガンダムのママなんて有りっこないよ!!ただ、ママがいたら感じる感じなのかな~ってね!!」
「ママか……」
ジンネマンはプルの言葉から亡き妻・フィーを思い起こさせた。
「ふぅ……あいつが……フィーがいてくれたら……マリィと一緒にお前達を可愛がってくれたんだろうな……」
ジンネマンの中で、あったであろう本来の家族とマリーダとプルを加えた家族の図が過る。
すると、プルがジンネマンに頬を寄せ、マリーダがジンネマンの胴に腕を回した。
「今はあたし達がいる!!寂しがらないで、パパ!!」
「そうです。あなたは一人じゃない……マスター」
ジンネマンの思考を感じた姉妹がジンネマンに励みと癒しを改めて与える。
更に目頭を熱くさせたジンネマンはくしゃっと表情を滲ませ涙しながら言った。
「だからっ……マスターはよせとっ……言っているだろうにっ……!!!」
その言葉を告げても、マリーダはジンネマンをマスターと良い続ける。
ジンネマンも内心はかつてのグレミーに刷り込み操作された後遺症と割り切っていたが、やはり合点にはいかないままでいた。
だがその時、マリーダは今までにない事を言い始めた。
「じゃあ……お父さん……って呼ばせてもらって……いいですか?」
「マリーダ……!!!やっと……やっとお前っ……!!!」
「以前はかつてのマインドコントロールの後遺症もあって、あくまでマスターはマスターとして割り切っていた。けど今、何故かそれがない。そして同時に私はこうしていられる事の掛け替えのなさを感じてる……だから……!!!」
「あぁっ!!!あぁっ、いいとも!!!何度でも呼びなさい……!!!」
「はいっ……お父さん」
ようやく父と呼ばれ、もうこの上無くジンネマンは落涙し続けた。
プルも微笑む中、ウィングガンダム・ゼロから伝わる不思議な感覚が増したのを感じ、彼女はウィングガンダム・ゼロを見る。
その時、三人に同調するかのようにゼロシステムが自然に発動していた。
一方の重複するような辛酸を舐めさせられたヴァルダーとマーサは宇宙空間をひたすら航行し続ける。
ヴァルダーはジオングのシルエットを彷彿させる新型のMSに、マーサはそのジオング似のMSのマニピュレーターに握られた小型シャトルに乗っていた。
わずかに逃げ延びた私兵達がいる中で、マーサは怒りに震えながらオーガスタのベントナとの通信を取っていた。
「状況は変わったわ!!!今すぐパトゥーリアをよこしなさい!!!」
「し、しかしっ、ミズ・マーサ、あれを完全に起動させるには一人の肉体が必要で……!!!」
「だったら、あなたの管轄のもう一人の小娘をよこしなさい!!!」
もう一人の小娘……それはロニを指していたが、ベントナは見せる表情からもこれを頑なに拒否する意向を示した。
「な?!!それだけはできません!!!今彼女はサイコガンダムMk-Ⅲの最適合者!!!とても解体などできません!!!今後も重要な戦力の被検体です!!!」
ベントナいわく、ロニはサイコガンダムMk-Ⅲの適正パイロットとして各地の紛争地域を転戦させられていた。
この時も、とある紛争地域において悪鬼のごとき猛威を奮い、ボディの各所に設けられたメガ粒子バスターの砲門からビーム過流を撃ち放っていた。
ジムやザク、グフ、ドムといった旧連邦や旧ジオン軍系のMS達が入り乱れる混合勢力の対立の地にそれは撃ちそそがれ、次々に爆砕と破砕を与えていく。
その後も何度もメガ粒子バスターのビーム過流を注ぎ、紛争地域もろとも業火の廃墟に変貌させていった。
焼き尽くした業火を虚ろな目で見つめるロニは完全にMDのような人形と化してしまっているようだった。
「ちっ……!!なら、つべこべ言わずにDOMEシステムをよこしなさい!!!完全でなくても起動はできるのでしょう?!!だったらそれごと組み込んだ方が手っ取り早いじゃない!!!」
「ミズ・マーサ!!!あのシステムは容易く持ち運びできるようなシステムではありません!!!つきましてはオーガスタ研究所で今現在唯一コールドスリープ保管ができている、DOMEシステムで利用しようとしていたリタ・ベルナルを月に……!!!」
「くっ……もっと早く言いなさいよ!!!なら、その小娘を月に回す手配しなさい!!!」
目くじらを立ててヒステリックに声を荒げるマーサの様子に、私兵達も汗を流して緊迫を隠せない。
その状況をコックピットで聞いていたヴァルダーは鼻で笑い、自分の艦を破壊されたにもかかわらず、不気味なまでに至って冷静でいた。
「ふん……醜いな実に。我々ブルーメンツが予算を割く月の女帝……飛んだヒステリーだな。まぁ、我々の利益に繋がる破壊を生んでくれればそれでいい。ラプラスの箱なるものは依然として不明だが……我々としては如何なるモノなのかを把握することだ。利用価値があれば利用し、危険であれば破壊するまで。些末なことだ」
そうヴァルダーは呟くと再びメインモニターに目をやり、モニターの一点を拡大させる操作をした。
そこには巨大な宇宙戦艦の姿があった。
「あちらから迎えてくれたか……本当の私の艦、グランシャリオ……!!!」
オーストラリア・旧シドニーOZ収監施設
かつてのブリティッシュ作戦のコロニー落としで消滅したシドニー跡。
その巨大なクレーターの海の洋上と岸に造られたOZの収監施設にはマフティーの一味やその他反OZ、旧連邦、ジオン残存兵士といった反乱分子の者達が収監されていた。
周囲の岸部エリアには警備のリーオーやジェスタ、上空にはエアリーズが常に交代で警備にあたっている。
収監施設自体にも対空・対地防衛システムの装備が備わっており、収監施設よりも基地や要塞であった。
長期的に収監されている者達や処刑待ちの状況の者達など幅広い反抗の意志を持った者達が捕らえられている中、マフティーのメンバー達もここに収監されていた。
換気用の窓が一つだけある収監室に粗末なベットのみでそれぞれがナンバリングされた指定収監服を着せられ、早かれ遅かれ来る処罰の時を待つ。
そんな施設の一室でベットの上に膝を抱える優等生風なメガネの女性がいた。
「はぁ……あたしはいつまでこんな場所に……処刑されるのだけは……絶対に、嫌」
彼女がため息まじりに窓を見上げると、日がそこだけから差し込んでいる。
繰り返される日々に変わりがない部屋がまた更に彼女のため息を多くさせる。
「はぁ……メンバーのみんなもずっとこんな状態なのかな……ん?」
その時、外のOZ兵士達が慌ただしくしている声や音が聞こえてきた。
「外がなんか騒がしい……何かあった……?!」
彼女が収監室のドアに耳を当てると、OZの兵士達の声が聞こえてきた。
「OZプライズがここに?!一体どういう事だ?!!」
「財団のやつらがトレーズ様を幽閉しやがったのは知ってるな?!」
「あぁ!!」
「欧米圏では同志達が反抗の意を表しているが、財団は早くも他のエリアに向けた対抗策に出たようだ!!」
「まさか、収監施設諸ともやる気か……?!!」
「やりかねんな、プライズなら!!!表向き上は視察らしいがっ、信用できん!!!」
会話から得られた事はじわりと危機的な状況が迫っていた事だった。
「そんな……!!!今の兵士の会話が本当なら、じゃあ、あたし達は殺されるって事なの?!!マフティー……ううん、ハサウェイ、早く来て下さい……!!!」
マフティーとは先の争乱で亡くなったブライト・ノアの息子・ハサウェイであった。
そのマフティーとネェル・アーガマクルー達はミッションのミーティングをモニターを用いて続けていた。
「……以上のように地球ではOZとOZプライズの間にそのような動きが起こっている。そちらと合流する前に手遅れになる可能性も……極力合流日を早めてもらいたい」
「無論だよ。我々としても一刻でも早く合流したい。しかし、この距離では最低約二日以上はかかってしまう。物理的にもそれが現状なのは理解して欲しい」
マフティーとケネスのやり取りの会話の後、デュオが提案を持ちかける。
「ヒイロのウィングゼロに先行してもらうってのはどーだ??それなら速いしマフティーも助かるんじゃねーか?それに、ウィングゼロならば向かうところ敵無しで一網打尽にできるはずだからな」
「確かにゼロならば容易く単機でやれる。だが、それは完全に拠点を破壊制圧する場合だ。今回はあくまで救出のサポートであり、重要な事は如何に多くの敵を分散させながら気を引かせて時間を稼ぐかにある……」
「あぁ。ヒイロと同意見だ。多数機で分散して動いていた方が効率よく敵の目を分散させて引き付けられるからな」
「……あちゃ~、そうなるかっ。いい案だと思ったんだがなっ……」
ヒイロとトロワはデュオの意見を人蹴りし、デュオは自分の意見に落ち度を感じ表情を崩す。
「確かにヒイロの言う通りです。この作戦が制圧ならデュオが言ってくれたゼロ単機の方法でもいい。普通に考えれば危険なんだけど、ゼロとヒイロの組み合わせですからより安心です」
「ヒイロを買ってんだな~。ま、俺もだが……じゃあ、どうやって時間の問題を解決するんだ??」
「このネェル・アーガマには、本来存在しない機構が増設されています。僕達のガンダムをネェル・アーガマと直結させてPXシステムを艦そのものにフィードバックさせる機構です」
「はぁ~?!!マジかよ?!!初耳だぜ!!!」
「断続的に各ガンダムのPXをローテーションでやっていき、それに連動してネェル・アーガマにもPXが発動して通常時を遥かに上回る速度で航行が可能になるんだ。ケネスさん、いかがですか?」
「ふむ。時間の問題は解決できるな。よし、その航法でいこう。時間も限られている。それが今できる最もな合理的手段だ」
「初めての試みだけどやってみましょう!!」
時を同じくする頃、ジンネマンはネェル・アーガマの医務室のベットに横になるマリーダとプルに付き添いながら、ネェル・アーガマ専属の元軍医の女性から彼女達の容態を聞かされていた。
苛烈な環境下から解放されたマリーダとプルは疲弊し切った体をベットに預け、姉妹揃って就寝している様子だ。
「……ふぅ……正直、危ない状況だったわ。彼女、極度な栄養不足な上、色々な手法の実験を試されてきたようね。心身共に強化人間関連の実験による悪影響を併発してる。薬物が使われなかったのが不幸中の幸いね」
「なんてことをっ……マリーダぁ……!!!」
「ジンネマンさん、とりあえず出来る限りの処置は済ませたわ……今は絶対に安静にさせてあげて。悲しい気持ち、やるせない気持ち、解るわ。私個人としても、軍医としても許せないもの……彼女をここまで痛めつけた人間を……」
カルテを見直しながら元軍医の女性は続けた。
「念の為、もう一人の彼女……プルちゃんも観させてもらったわ。精神的なカウンセリングも含めてね。彼女もまたひどい目に……」
「プルも実験をさせられていたんですか?!!」
「はぁ……幸い、直接の強化人間処置の痕跡はなかった。けど……」
含みある言動の後、元軍医の女性は重い空気を出しながら黙ってしまい、沈黙の時が流れる。
しかしジンネマンはその沈黙を掻い潜りながらプルに及んだ事実を要求した。
「……?!なぜ黙るんだ?!頼む、正直に言ってくれ!!!」
「……思春期の幼気な少女の体をなんと思えばこんな諸行が……!!!はぁっ、彼女があの黒いネェル・アーガマでされてきた事を想像するだけでもやりきれないっ……!!!」
元軍医の女性は憤りを見せながら歯を食い縛った後にジンネマンへ答えた。
「正直と言ったけど、オブラートに包ませてもらうわ。彼女はこの年齢で女性としての……おそらく初めての痛い思いを強いられたのよ……私も同じ女性としてこれもまたとても許せないコトよ……最悪に至っていなかったのが不幸中の幸いだったわ」
ジンネマンはプルがグラーフ・ドレンデで何をされたかを悟り、余る怒りと悲しみを覚え奮えた。
「……おのれっ、おのれぇええええっ!!!」
「…………怒りは当然の感情よ。でも怒り、恨みだけに囚われないで。今は彼女達をしっかり支えてあげて」
「っ……くっ!!!すまないっ……!!!」
「それに、恨みは彼らが代わりに晴らしてくれたはずよ。ガンダムのパイロットの子達が。彼らが沈めてくれたそうじゃない」
元軍医の女性の言葉に、ジンネマンはガランシェールから見たウィングガンダム・ゼロとガンダムジェミナス・グリープの勇姿を脳裏に過らせた。
ツインバスターライフルとメガ・パーティカルバスターキャノンの同時撃ちに爆砕轟沈するグラーフ・ドレンデ……マリーダとプルを卑劣な目に合わせた者達がどれ程の因果応報を被ったかは想像に難くない。
一呼吸を置いたジンネマンは元軍医の女性の名を聞いていなかったことに気づき、彼女の名を尋ねた。
「……そういえば名を聞くのを忘れていた。あんた、名は?」
「ごめんなさい。こっちも一方的にジンネマンさん達を知っていて、名乗り忘れていたわ。私はサリィ・ポォ。元連邦軍の軍医よ」
「サリィさん。娘達をよろしく頼む」
「こちらこそ。この後はパラオに戻るのでしょう?通信で私の方からも彼女達をサポートさせてもらうわ、ジンネマンさん」
互い改めた挨拶を交わしたその時、マリーダが目を覚ましてジンネマンを呼んだ。
「お、お父さん……」
「マリーダ……!!!目が覚めたのか!!お前は大変な目に遭ってきたんだ。もう戦わなくてもいい、ゆっくり休んでくれてていいんだぞ。お前達さえ、お前達さえ無事にいてくれればそれでいいっ!!それでいいんだ!!この後はみんなでパラオへ帰ろう!!!」
ジンネマンは優しく強くマリーダの手を握る。
その間にサリィは二人の親子の会話と空気を読んで一時的に退出していった。
口元に微笑みを浮かべつつも、自身の意志を吐露し始めた。
「ありがとう。でも……それでも私……」
その口調はジンネマンを上官やマスターとしてきた口調ではなく、それはジンネマンを素直に父と捉えている上、かつての上下関係やマスター必然の刷り込みが彼女から無くなったことを示唆していた。
「それでも……私はここに残る。パラオには帰らない」
「何を言ってるんだ!?父ちゃんと帰ろう!!!もう、俺はこれ以上戦いの中にお前達を入れたくは……!!!」
「あたしも帰らないよ、パパ」
マリーダの隣で寝ていたプルもまた目覚め、マリーダと同じ意見をジンネマンに吐露した。
「プル!!?お前まで……!!!なんでなんだ!!?何故わざわざ危険な目に……!!!?」
「あたし、ラプラスの箱を見つけたい。だって……これに関わって亡くなっていったカーディアスさんやアレナさん、ビスト邸の人達の命や、遠巻きに巻き込まれて危険に晒されたパラオのみんなの命……こんな中途半端なところで諦められない!!!」
「プル?!!」
ジンネマンはプルから放たれた言葉達にブレのない芯がある想いを感じさせられた。
彼女いわく、ラプラスの箱に関わった為に失われた命が確かにあった。
プルの想いは更に続く言葉となる。
「それに、パパだってこの見えない宝探しに賛成して動いてくれてたじゃん!!!こんな間違った世界をよくする可能性に……あたしを心配してくれるのは勿論嬉しいよ。実の娘じゃないのにここまで想ってくれるんだもん。でもね、あたしは自分の意志でみんなの為の力になりたいの!!!」
「ぷ、プルっ……うくっう……!!!」
流石のジンネマンも、かつてないまでに意志を伝えてくるプルに出す言葉も息詰まってしまう。
ニュータイプの気質か否か、ジンネマンは十代前半の少女の言う言葉とは思えなかった。
否、それ以前に生きてきた環境が特殊だった為か……いずれにせよ彼女はラプラスの箱の探索を全うする事を主張していた。
それは今の状況上、正論な事であり、同時にプルがユニコーンガンダムに乗り続け、時に戦うことを指す。
うつむきながら自分が言うべき言葉を模索し始めるジンネマンに、続けてマリーダが再び意志を投げかけた。
「私も……お父さんの気持ちもわかってる。感じることができるから。それでも、私はヒイロ達の闘いを見届けたい。狂った今の時代に反抗できる力をヒイロ達は持っている。あの日……大気圏でヒイロと出会い、そこから関わり始めた私もまた、彼らの状況の一部になっている……狂った時代を終わらせる可能性の行き着く先を確かめたい。ヒイロ達と一緒に……それに私、ヒイロの事が……好きだから……」
二人の娘達が自らの意志を主張する。
それに答える時、どちらかの娘と離れ離れになることを意味する。
加えてマリーダに関してはヒイロへの好意を告白した。
ジンネマンは葛藤する。
衰弱している中、ようやくマスターではなく父と呼ぶようになったマリーダの傍か、ラプラスの箱を探すにあたり、ユニコーンガンダムで戦闘に晒されかねない年端もいかないプルの傍か。
しかしマリーダを選択した場合、彼女の恋路に邪魔になりかねない。
だが、ヒイロに関しては様々な意味でジンネマンは固く認めていた。
ジレンマと淋しさがジンネマンの中で去来する。
もうこの時点で二人ともパラオへ連れて帰るというジンネマン自らの想いを主張する気持ちはなかった。
その時、マリーダは隣のプルに顔を向けながら、言葉を交わすことなく意思を通わせて頷き合った。
そして再びジンネマンに向きなおし、彼の手を握り返す。
「?!」
それにはっとなったジンネマンはゆっくりとマリーダに顔を上げた。
するとマリーダは口元に変わらない笑みを見せながら言った。
「……確かに私と姉さんが行きたい道にはどちらも戦闘の危険はある。けど、まだ姉さんの方がお父さんが必要だと思うから……お父さんは姉さんの方に行って。それに私はもう大人だから……大丈夫」
「マリーダ……!!!」
娘を送り出す淋しさと自立の嬉しさが入り乱れ、ジンネマンはまた目頭を熱くさせた。
「お父さん……私達のわがまま……許してくれる?」
マリーダのこの言葉を前に、ジンネマンは常に肌身離さずに持っている亡き実の娘との写真を取り出す。
ジンネマンは、まるで三人の娘から問いかけられているような感じを覚える。
もう何と表現していいかわからない感情が溢れたジンネマンは、再び顔を伏せながら震え、床に大粒の涙を流し続けた。
「おおおっ……うっ、おおおっ……!!!うっっ……もうマリーダが俺を父と言う以上、俺はもうマスターではないぞっ……うぅっ、だからこれは、俺がマスターとして言う最終命令だっ……お前達のわがままを、赦すっっ!!!感情に従えっ……!!!」
ジンネマンの上官としての最後の命令を下す。
感情に従え……それは奇しくも、かつてヒイロの父とも言える男・アディン・ロウがヒイロに教えた「感情のままに行動することが正しい人間の生き方」に通じる言葉だった。
「了解……お父さん」
「あたしも……了解っ」
マリーダとプル……二人の娘が素直な笑顔で答えると、ジンネマンは再び目頭を押さえて顔を伏せた。
すると、くすっとプルは笑いながらごく自然なふるまいでわがままを重ねた。
「じゃあ、パパはまたあたしと一緒にラプラスの箱探してね」
「ああ!!探すとも!!」
「じゃあさ、じゃあさ!!アディンも認めてあげて!!あたしだってアディン好きなんだよ!!」
「……あぁっ……認めてやる!!!あいつ、何だかんだでお前たちの救出に結果を出したんだからなっっ!!!」
「やった☆認めてくれたっ!!ありがと、パパ!!!」
「……ただしっ、あいつが変に手を出したら生身のまま宇宙に投げ出してやる!!!」
「えぇ?!パパのケチ!!!ちゅーもダメなの?!!」
「はぁ?!!ちゅーもだとォ?!!しかも、『も』?!!いや、そもそもケチとかの問題じゃない!!!もうそのわがままは赦せる範囲外だっ!!!ここからは父親としての指導する立場でだなっっ……!!!」
「好きなんだからいいじゃーん!!!」
「ぬおおおお!!!父ちゃんはっ、悲しく怒るぞおおおお!!!」
「意味わかんないし!!」
プルのわがままは少しマセタわがままを切り出しながら、たちまち親子の言い合いの雰囲気に変えてしまった。
そのやり取りに挟まれる形になってしまったマリーダはきょとんとしながらも、紛れもない平和的な父娘の場面として捉え、その表情にまた笑顔を含ませた。
ネェル・アーガマ CICブリッジ
ミーティングは一応のまとまりを見せ、ケネスが進行する今回のマフティーメンバー救出サポートの作戦ミーティングに、マフティーが感謝の言葉を述べた。
「我々へのこれほどまでの厚い協力、感謝する。こちらも、計画通りΞガンダムの強奪に成功した。だが、それでも正直、我々だけでは仲間の救出など不可能に近い。できたとしても引き換えにより仲間を失う結果になっていただろう。それ程この収監施設は厄介なんだ。今後も我々マフティーはメテオ・ブレイクス・ヘルに対し、支援協力させてもらう。今は作戦の成功にお互い尽力し合おう……では地上で会える事を楽しみにしている」
マフティーことハサウェイは、組織上のマフティーとしての言葉を残して通信を終えた。
(今の体制に不満を抱くのは当然だ。我々がいた連邦がOZに刷り代わり、より一層狂った方向に時代が向かっている……若い世代が、反抗を抱いて命をかけていく。これもメテオ・ブレイクス・ヘルが示した影響なのだろうな……)
ケネスはこのミーティングの中、マフティーを含むヒイロ達若い世代が時代に抗う姿勢に改めて考えさせられるモノを感じていた。
一呼吸置いたケネスは続けてこれからの行動の議題に入り、ジンネマンの代理としてミーティングに参加していたフラストに話を振る。
「では次にこれからの行動であるが、ガランシェールは我々と別行動ということを伺っている。しかしながら救出したマリーダ中尉の容体は決していいものではないと聞く。彼女の治療には本艦の設備が現状最も最適な環境を提供できるのだが、いかがしますか?そちらがL2方面を目指すにあたり……」
「いかがもなにも……そこはマリーダがどうしたいかになりますよ。こっちの意見を言うならマリーダの身が最優先すからね。それはキャプテンの意見と同義に繋がることになると思いうんで。ま、キャプテンが残るっていうなら、こっちもまた考えて向かいますよ。問題は誰がこっちの護衛に……」
フラストの意見の後、ヒイロは隣にいたアディンに目を向けながら意見を放つ。
「俺は地球を目指す。どの道ゼロで地球に向かう行動に必然性がある。ゼロの予測でも戦闘率が濃くなるのはネェル・アーガマの航路側だ。ガランシェールの護衛はアディン、お前だ。ガンダムジェミナス・グリープはウィングゼロに匹敵するガンダムでもある」
「あぁ!!俺もそのつもりだ。任せな!!それにジェミナス・グリープはもう本領発揮できるしな!!」
張り切るアディンであるが、彼の様子を見ていたラルフが警告めいた意見を述べた。
「だが、油断はするなよ、アディン。もしかしたらあの黒いネェル・アーガマの親玉はまだ生きているかもしれない。黒いネェル・アーガマを撃破する直前に妙なMSが飛び出していった。すなわち今後も付け狙われる危険性があるってことだ」
「マジかよ?!!完全に葬ったかと思ったのに……!!!」
「あぁ。俺とマグアナックチームが見た。無論、仕留められるんだったら仕留めてる。スピードからしてあれはガンダムクラスだろうな……なんだ?まさかビビってんのか?油断するなとは言ったがビビって自信無くせとは言ってねーぞ」
「はぁっ……んなわけねーっての。仕留め損ねていたのが後味悪いってやつだよ。何が来ようとキメる!!!俺達は……Gマイスターなんだからな!!」
「なら、よし。いつもどーりのアディンだな。気張れよ」
「へっ!」
アディンとラルフのやり取りの切りを見たケネスは行動プランのまとめに入ろうとした。
「……では、ガンダムジェミナス・グリープとユニコーンガンダムは、速やかに搬入準備に入ってもらおう。そのガランシェールへの搬入準備からガランシェール離脱まで本艦は補給事項とする……実はある人物達に既に機密的に動いてもらっていて、この間まで並行進行してもらっていた……エイーダ君、回線を……」
ケネスがある人物達に回線を開く指示をしたその時、ミーティングの最中に医務室より内線通信が入り、エイーダが通信を促した。
「あの、ケネス艦長。先に医務室からの内線が」
「内線?ジンネマンキャプテンか。繋いでくれ」
「了解」
CICブリッジのモニター画面にジンネマンが映り、ケネスに先程決めた方針を伝えた。
「世話になる。ガランシェールのキャプテン、スベロア・ジンネマンだ。ガランシェールのこれからの行動の事について伝えたい」
「それでしたらちょうどよかったです。こちらもその件についての一旦のまとめに入ろうとしていました。それで伝えたいこととは?」
「医療設備やこちらの事情も踏まえた上でマリーダだけこの艦に残ることになった。そこであの子のMSであるクシャトリヤをそちらに預けたい。お願いできますか?」
「えぇ。あなた方がよければ一向に構いませんが……」
「キャプテン!!マリーダを戦わせる気なんすか?!!」
ジンネマンの決めた方針に早合点したフラストが声を大きめにして言った。
「馬鹿、誰が早々戦わせるというんだ。今は絶対の安静だ。あくまでマリーダが回復して自分の意志で戦う時が来た時の為の準備だ。ここに残るのもマリーダ自身で決め、プルもラプラスの箱の探索の完遂に自分の意志を示したんだ。ガランシェール隊は搬入作業後、次のラプラス座標、旧コア3を目指す。後、護衛はアディン、お前だ。頼んだぞ」
「そう言うことですかい……了解しやした!!!」
「キャプテン……OK!!!キメてやるぜ!!!」
「では……決まりかな。エイーダ君、先ほどの例の回線を」
「了解。こちらネェル・アーガマ。ピースミリオン、応答お願いします」
「ガランシェールの皆さんにも搬入と並行して我々の方から気持ちですが、物資を提供させていただこうと思ってね。ジンネマンキャプテン、いかがですか?」
「いいんですか?!恐縮な限りで……」
ピースミリオン……一部のGマイスターやガランシェールクルーに聞きなれない単語が放たれ、少し表情を変化させる中、カトルとトロワは平常的な表情をしていた。
話を聞いてないと言わんばかりの表情のデュオやアディンは、カトルとトロワ、ラルフが承知しているような表情に気づき、二人に尋ねる。
「聞き慣れない単語だな。こちとら初耳だぜ!カトルは何か知ってんのか?」
「俺も初耳だぜ。ピースミリオンってなんだ?」
「ゴメン、皆さんに言いそびれてしまってました!もう一つサポートしてくれる陣営があるんです。それがピースミリオン!」
「確かに俺も言いそびれていた。だが問題はない。お前達もよく知っている。何せ地上で活動している時に世話になっているからな」
「俺も情報のやり取りで世話になったかな?」
「世話?え?!まさか?!」
「地上??世話??」
トロワの言葉からデュオは勘づき、アディンはまだわからない様子を示している時、ヒイロがその人物の名を口にした。
「ハワードか」
その直後、モニターに相変わらずのアロハシャツを着たハワードの姿が表示された。
地上で活動していた頃、超大型サルベージ船・オルタンシアを引っ提げてヒイロ達Gマイスターをサポートしていた人物だ。
「こちらピースミリオン……おうおう、懐かしい顔が揃っとるね!!久しぶりだな、お前達!!」
翌日 旧シドニーOZ収監施設
地球各地ではトレーズ幽閉に異を唱えるOZに対し、OZプライズが動く傾向が強まっていた。
欧米諸国周辺エリアで徹底的な対立が起こっている中、オセアニアエリアも例外では無く、フライトユニットを取り付けたプライズリーオーとプライズジェスタの部隊が収監施設を目指していた。
その最中、旧シドニー収監施設のOZは「やられる前にやる」という概念を捻じ曲げた方向に振る行動を起こす。
「収監施設の囚人全員を処刑?!!」
「そうだ。目には目を、歯には歯を……やられる前にやるっ!!!トレーズ閣下の教えを背くのは承知!!!しかし生き残るならばOZプライズのやり方をなして示し、ここだけでも懐柔を図るのだ。既に奴らとの連絡も取っている。姿勢……つまり我々はプライズ側のやり方に賛同し、反抗はせんという意思を示すのだ」
「しかしっ、それではっ……!!!」
口答えをしようとした部下に対し、施設最高責任者のOZ兵士は銃を突きつけた。
「生き残るにはな……それしかないんだ……!!!俺だってトレーズ閣下を裏切りたくはない!!!だがっ、こうするしかないんだっ……!!!」
状況は最悪な方向に事が運び、囚人達が一斉に連れ出され次々に指定された場所へと連行されていく。
最早どの反抗勢力の者達なのかは関係なく無差別に連れ出され、専用の船舶に押し込められたその先には巨大なOZ双頭カタパルト空母が待機していた。
この思い切ったOZ収監施設の行動の波は当然ながらマフティーメンバーを容赦なく呑みこんでいき、マフティーのメガネの彼女にもその荒波が押し寄せた。
どよめきや怒号、悲鳴が周囲に響く異様な状況の中、彼女は理解ができぬままにOZ兵士に連れ出されていく。
「出ろ!!!」
「え?!!いやっ、痛い!!!離して!!!」
「時が来たんだよ!!!来い!!!」
「……いや……いやぁっ!!!まだ死にたくないっ!!!離してっ!!!いやぁああっ、ハサウェイ!!!ハサウェイ、助けてぇぇえっっ!!!」
彼女がハサウェイの叫ぶ声は次第に囚人とOZ兵士達の群衆に消えていった。
その頃そのハサウェイであるマフティーはΞガンダムとメッサ―4機でOZ収監施設を目指していた。
彼女の叫びに呼応するように嫌な予感を過らせる。
「っ……ミヘッシャ!!!なんだ?!今の感じはっ?!!みんなっ……待っていろ。必ず助ける……!!!」
その時、全周モニターのサブモニター枠が表示され、先行する救出隊のメンバーからの通信が入る。
「こちら先行救出隊!!リーダー!!!状況がおかしい!!!やつら、囚人達を一斉に海上の巨大空母の甲板に集め始めやがった!!!」
「何?!!」
「しかも周囲にはMSが多数……周回警備している機体もいれば、甲板でライフル構えてる機体もいやがる。なんとも物々しい状況だぜ」
「おそらく……想像したくはないが一斉に処刑する気だ!!!だが、妙に大胆過ぎる。何か意図があるはず……いや、どんな意図があろうとも俺達にとっては最悪な結果に違いはない……!!!」
とにかく今は迫りつつある収監施設へ一刻も早く到達し、気を引かせることだ。
「各機、速度を上げるぞ!!!少しでも早くポイントへ到達し、時間を稼ぐんだ!!!」
「了解!!!」
Ξガンダムとメッサ―を飛ばすマフティーと仲間であるが、その最中に更なる悪い情報がマフティーに飛び込む。
「リーダー……最悪な状況になりましたっ!!!対岸の方面よりOZプライズのMS部隊がッ……!!!」
「何だと?!!プライズが?!!」
マフティーの中で善からぬ一つのつながりが生まれる。
「大規模な公開処刑とでもいうのか……?!!」
プライズリーオーとプライズジェスタ。
ワインレッドのカラーリングが目立つ二機種の部隊が迫る中、その部隊の隊長機のプライズリーオーにOZ収監施設の最高責任者よりプライズ部隊に向けた通信が入る。
「こちらOZ旧シドニー収監施設最高責任者のシスセット・ヌフ特佐であります。お待ちしておりましたプライズの皆さん。なにやら欧米では意志を違えた同志達が物騒な反乱をしているとのことですが、我々はそのようなことはないという意思を表明したい」
「OZプライズのユイット・ディス特佐だ。話は聞いている。して、貴公はどのような意思表明を?」
「我々の施設で収監している反逆者全員を我々で保有する双頭空母上に集めました。本来のOZはここまでは致しませんが、本日は公開処刑をご覧いただければと。反逆者はOZプライズにとっても絶対に罰する存在ですから」
「なるほど。いいだろう。我々は監視させてもらうが、私と一部の部下を交えさせてもらってもよいかな?反逆者をなぶり殺しにするのが好きでな」
シスセットはユイット達OZプライズをギャラリーという立場で迎え、ユイット達を交えながら自分達の手による処刑をもって反逆の意志はない事を示そうとしていた。
明らかに人道を外れた行為であり、トレーズが認めるはずもない所業なのは明らかだった。
「うっううっ!!!」
「さぁ、処刑までひたすら待ってな!!!」
メガネの上からの目隠しと猿ぐつわ、手錠をかけられたミヘッシャが大勢の囚人達と共に甲板に立たされた。
何も見えない中、多くのざわめきとMSの動力音が鳴り響き、その間にも確実に彼女の死が迫っていた。
(嫌っっ、死にたくないっ……!!!)
ミヘッシャは目隠し越しに涙をにじませる。
その間にも容赦なくリーオーとエアリーズが銃を構え、ユイット達のプライズリーオーとプライズジェスタもまた銃を構える。
ミヘッシャは聞こえてくるMSのジョイントの駆動音に戦慄を覚えた。
(ああっ……もう一度、ハサウェイに……会わせてっ……!!!)
時機にくる死を前に、ミヘッシャの高鳴る心拍の鼓動が加速していく。
シスセットとユイットは互いに通信回線を開いた状態で合図を取り合う。
「ではユイット特佐。盛大なる処刑を……反逆に罰を……!!!」
「くくくっ、では執行しようではないか!!!」
(―――っ?!!何か来る?!!)
MS達の銃口が一斉に空母甲板へと向けられたその時、ミヘッシャは近づく聞き慣れない音を感じとり、それと同時タイミングで岸側の基地より緊急通信が入った。
「両特佐、お待ちください!!!衛星軌道上の監視衛星から緊急通信が入りました!!!本エリア上空の大気圏を突破する、四つの未確認機影と戦艦クラスの機影を確認したとのことです!!!更に対岸方面からもMSと思われる機影が急速接近中です!!!」
「何ィ?!!」
「上空だと……!!?」
ユイットが見上げるその上空の彼方の衛星軌道上に、地上へ向けて四つの閃光が軌道を描いてはしる。
その閃光はヒイロ達4機のガンダムだった。
「リ・オペレーション・メテオってか!!」
「やはり、こうあるべきだな。俺達の任務は」
「状況が予測していたよりも僅かに違っているようですが、こちらはゼロシステムで予測を共有できています!!!」
「あぁ。中規模のOZプライズの部隊が集結している。一部の汚いOZ兵士達が、保身の為にプライズに対しアピールしようとした腐りきった所業だ。どの道殲滅する!!!」
ヒイロはそう言い残し、ウィングガンダム・ゼロを降下加速させ、デュオ、トロワ、カトルもそれに続いて降下加速を開始する。
「殲滅って……ま、プライズの連中そのものが地球の災厄みたいなもんだ。誰かが鉄槌かまさなきゃな!!」
「本来は陽動だが、攻めるに越したことはない」
「僕達もヒイロに続くよ!!少しでも、マフティーのメンバーをはじめとする囚人の方達の救出を有利にさせよう!!!」
再び舞い降りる四つの流星……それとほぼ同時にマフティー達もまたOZ双頭カタパルト空母に接近していた。
「ミヘッシャ、みんなっ、間に合えぇええええっ!!!」
マフティーはΞガンダムを感情任せに急加速させ、海面スレスレをかっ飛ばす。
「だぁあああぁっ!!!」
凄まじい水しぶきを巻き上げながらΞガンダムはビームバスターを構え、高速で連発射撃を開始した。
バズダァッ、バズダァ、バズダァ、バズダァアアアア!!!
ドォズゥガッ、ドォディギャッ、ドォズゥン、ドォズゥガアアアアン!!!
花火が連発するような速さで、ホバリングしていたリーオーとエアリーズが2機づつ爆砕した。
そしてΞガンダムはOZ双頭カタパルト空母の上空を駆け抜けながら右肩のビームサーベルを抜き取ってビームを発動させる。
「ビームと爆発音??!誰かが来てくれた?!!もしかして……ハサウェイ達??!」
ミヘッシャの頭上を駆け抜けるΞガンダムはレフトアームを唸らせながらプライズリーオーに向けてビームサーベルを振るった。
「はぁああああああっ!!!」
「何ぃ?!!」
ズバシャアァアアアアンッッ!!!
ドッゴバォオオオオオオッ!!!
マフティーの怒りを乗せたΞガンダムは、迫るプライズリーオーに斬撃を高速で叩き付け、一気に機体を寸断爆砕させてみせた。
爆砕するプライズリーオーを尻目にΞガンダムはもう1機のプライズリーオーを斬り飛ばすと、ビームバスターを高速連発してプライズジェスタ数機に射撃を叩き込んだ。
連続する爆発に機体を突っ込ませたΞガンダムは、振り返りながら両肩のアーマーを展開させた。
そしてその三角型アーマーの先端口径部にエネルギーがチャージされ、二本の中規模ビーム渦流を二回に分けて放った。
キルヴァが使ってこなかった武装・ショルダー・ビームバスターだ。
ギュリリリィィ……ドォズバァアアアァァッ、ドォズバァアアアアアッ!!!
4機のプライズジェスタをショルダー・ビームバスターで爆砕させると、再びOZサイド目掛けて襲い掛かる。
その最中、更に後続していたメッサー4機がビームライフルの射撃をかけ、エアリーズやリーオーを撃墜させていった。
「あれは、強奪されたΞガンダム!!!マフティーなのか?!!くっ!!!ならば、仲間の死を見よっ!!!」
シスセットが搭乗するリーオーがドーバーガンを甲板に向ける。
だが、それがマフティーの怒りをより強いものにさせた。
「っ……!!!させるかぁああああ!!!」
ドーバーガンを放つよりも先にΞガンダムが迫り、レフトアームのシールドをリーオーのコックピット目掛けて刺突させた。
「がぐごぁっ……!!!!」
シスセットはシールドで体をコックピットごと突き潰されるが、中途半端に命が繋がったが為に生き地獄を味わう。
そしてΞガンダムはぶっ飛ぶシスセット機のリーオーに三発のビームバスターを叩き込ませ爆砕させると、反転しながらショルダー・ビームバスターとビームバスターを併用した射撃をOZサイドのMS群へと放った。
悉くリーオーやエアリーズが破壊されていく光景が収監施設上空に拡がる。
「くっ……元はといえば施設ごとOZを掃討するつもりだったが、とんでもないことになったな……!!!」
「ユイット特佐!!上空より未確認機、来ます!!!」
「各機散開!!!マフティーと未確認機に別れて迎撃しろ!!!」
「はっ―――あぁあっ!!?」
OZプライズ兵士が返答と同時に見たのは上空からツインバスターライフルを構えるウィングガンダム・ゼロの姿だった。
「が、ガンダム?!!」
「目標ポイントに到達。OZプライズの部隊も確認した。破壊する……!!!」
ヒイロは間髪入れずに攻撃を開始し、ツインバスターライフルの銃口から凄まじいビーム渦流が撃ち放たれた。
ヴヴァドォオオオオオオオオオオオオ!!!!
ドォバァシュァアアアアァァ……ドォドォドォゴゴバババガァアアアアアアッッ!!!!
突如上空から襲い来るビーム渦流の直撃を受けた4機のプライズジェスタと2機のプライズリーオーが一瞬で爆砕する。
更にその高熱かつ高出力のビーム渦流が海面に着水し、爆発的な水蒸気爆発の水しぶきを巻き上げた。
「ひゅー!!こっちもド派手にいきますかぁ?!!なぁ、相棒!!!」
愛機に語りかけながらデュオは飄々と敵機群に自機を飛び込ませた。
ガンダムデスサイズ・ヘルはアームド・ツインビームサイズとバスターシールド・アローのビームを形成発動させ、前者を構えながら後者をかざすように突っ込んでいく。
ディシュゥゥッ、ディシュゥゥッ、ディシュゥゥッ!!!
ドォズゥガッ、ズシュドォッ、ディギィシュッ……ドォゴゴゴバアアアアアアン!!!
挨拶代わりに放つ三発のバスターシールド・アローの射撃がプライズジェスタ2機とプライズリーオーの胸部に命中し、連鎖的に爆発させていく。
連発でビームライフルとドーバーバスターを放つプライズリーオーの射撃もアクティブクロークに阻まれ、全くダメージの意味を成さない。
そして接近すると同時にガンダムデスサイズ・ヘルはアクティブクロークを展開した。
「な?!!悪魔っ!!?」
「定番な反応っ、死神だっての!!!」
デュオは聞こえてきた敵機音声に答え、ガンダムデスサイズ・ヘルをぶつけにかかった。
ガンダムデスサイズ・ヘルはメインカメラを光らせ、構えていたアームド・ツインビームサイズでプライズリーオーを斬り飛ばし、連続した斬撃乱舞で僚機のプライズリーオー3機を破断破砕させてみせる。
ザァシュガァァアアアッッ!!!! ザバシュンッ、ズゥガザァッ、ザギィシャアアアアン!!!!
ドォズゥガァッ、ドドドゴバァアアアアンッ!!!
「そらぁああっ!!!!」
更に機体を飛び込ませたガンダムデスサイズ・ヘルはライトアームを引き締めながらプライズジェスタの小隊目掛け、大振りのアームド・ツインビームサイズの斬撃を繰り出した。
グンッ―――ザァシュガッッ、ディッギャインッッ、ズゥガシャアァァッッ……!!!!
ドォドォドォゴゴバアアアアアアン!!!!
ガンダムデスサイズ・ヘルに続くようにガンダムヘビーアームズ改とガンダムサンドロック改が、ダブルビームガトリングとバスターガトリングキャノン、ビームマシンガンで連射撃を攻め入る。
「俺達が攻め入れば、嫌でも無視はできなくなる」
「うん!!僕達に引き付けさせよう!!!」
ヴァドドドドォルルルルルルルゥゥ!!! ヴォドゥルルルルルルルルルルルルゥゥゥゥ!!!
ドドドドォヴィイッ、ドォヴィッ、ドォヴィッ、ドォドォドォドドォヴィイイイイッッ!!!!
OZプライズ、OZ両陣営にビーム連射弾雨が降り注ぎ、プライズリーオーやプライズジェスタ、リーオー、エアリーズの四機種達が次々に装甲を破砕され、爆発していく。
その爆発する機体群の最中を駆け抜け、ガンダムヘビーアームズ改はダブルビームガトリングをメインに切り替えた射撃を乱舞する。
ダブルビームガトリングの連射撃は、エアリーズやリーオーを次々に砕き散らせながらプライズリーオーとプライズジェスタも連続で破砕し撃墜に撃墜を重ねた。
ガンダムサンドロック改もまた、ビームマシンガンの連射撃を見舞いながら攻め入り、構え直したクロスクラッシャーを突っ込ませて、プライズジェスタを豪快に破断する。
ヴィディリリルルルルルゥゥ!!!
ザッッダガァアアアアアッッッッ!!!!
そこから連続でレフトアームに握りしめたバスターショーテルの斬撃を2機のプライズリーオーと3機のプライズジェスタに食らわせて叩き斬り、クロスクラッシャーの斬撃も追加した攻撃を叩き込んだ。
ザッディガァ、ザッディガァア、ザッディガァアアアアア!!!
ズゥディガシャラアアアアア!!!!
「メテオ・ブレイクス・ヘル!!!来てくれたかっ!!!救出部隊は、OZの空母へ!!俺は少しでも引き付ける!!!」
マフティーはヒイロ達の介入を確認し、幾つかのリーオーとプライズジェスタをビームバスターとショルダー・ビームバスターの同時撃ちで撃破しながら、救出部隊に通達する。
「おぉおおおっ……?!!くぅっ!!!散開急げぇっ!!!」
ユイット機のプライズリーオーを筆頭に、OZプライズの部隊は散り散りに散開を開始して反撃の射撃を敢行する。
「スクランブル発進!!!スクランブル発進!!!本施設が襲撃を受けている!!!敵はあのガンダムと地元のマフティーだっ!!!」
収監施設の警備基地からは先行していたリーオー部隊と同じく、フライトユニットを装備したリーオーが
次々に飛び立ち、エアリーズ部隊もそれに続いて飛び立っていく。
かつてのブリティッシュの惨劇の地の空が瞬く間に戦場と化す。
ビームライフルとドーバーバスターが放たれる中、ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを分離させ、低中出力での射撃に切り替えた。
おびただしいビーム群を躱しながら射撃し、左右交互に放つその強烈な一発、一発が機体装甲を容易く吹き飛ばしながら破砕させる。
時折持続性のあるビーム渦流を放ち、射軸線上の敵機群を一掃して見せ、圧倒の限りを尽くしていく。
一方、収監施設のビーム砲も稼働を開始し、高出力ビームの一斉射撃が空に走る。
だが、それらの砲門はガンダムヘビーアームズ改が放つダブルビームガトリングとバスターガトリングキャノン、アームバスターカノンの一斉射撃により、次々に破砕されていく。
「今は囚人達の安全が確保し切れていない。施設を無力化させる」
トロワはそう言いながら次々に収監施設のビーム砲を無力化させ、そこから反転しながらOZのリーオーとエアリーズに向けてダブルビームガトリングとアームバスターカノン、バスターガトリングを浴びせ、連続撃破していく。
ガンダムデスサイズ・ヘルとガンダムサンドロック改はアームド・ツインビームサイズとバスターショーテルの斬撃で収監施設上空を駆け抜けていく。
ガンダムに引き付けられるようにOZ、OZプライズの両陣営のMS達に斬撃の無双が駆け抜ける。
「やっぱり、死神復活は大々的にっ……やるに、限る!!!」
「これだけっ……派手に暴れれば……嫌でも引き付けられる!!!」
2機は得意分野たる連続の斬撃と大振りの斬り飛ばしで敵機群を次々かつ大々的に撃破を重ねていく。
アームド・ツインビームサイズとクロスクラッシャー、バスターショーテルはまさに脅威を与える近接武装だ。
その最中、ユイット特佐駆るプライズリーオーがビームサーベルを振りかざしてガンダムサンドロック改に突っ込んだ。
「貴様らぁあああああ!!!」
「?!!」
バスターショーテルで斬撃を受け止めるガンダムサンドロック改。
通常のMSであれば圧倒するパワーがプライズリーオーにはある。
だが、オリジナルGNDドライヴかつパワー特化の改良型のガンダムサンドロック改には部が悪過ぎた。
瞬時にビームサーベルは捌き外され、ユイット機はクロスクラッシャーのヒートショーテルの両刃に挟み込まれた。
「がぁあっ?!!」
「ごめん……なんて言いたくないね!!!」
ユイット機のプライズリーオーは、GNDエネルギーで赤熱化したバスターショーテルの刀身で挟まれ、一瞬で斜め縦に破断され爆発していった。
その爆発から飛び出したガンダムサンドロック改は、クロスクラッシャーの刺突もとい破突をその先にいたプライズジェスタに食らわせる。
ガンダムデスサイズ・ヘルもまた、攻め来るプライズサイドに時折バスターシールド・アローの射撃を挟みながら強力な連斬撃を食らわせていく。
強化GNDドライヴから供給されるビーム二連刃による破壊力は、ガンダリウムβ装甲を容易く破壊する威力を有する。
「あんたら……処刑が好きみたいだが……今日は、あんたらが死神に処刑される羽目になったなぁ!!!」
深くアームド・ツインビームサイズに斬り込まれた1機のプライズジェスタの胸部が破断され、その切断面の向こうに目を光らせたガンダムデスサイズ・ヘルが顔を覗かせた。
その斬撃は更に降り拡がり、周囲のリーオーやエアリーズ、プライズリーオーを斬り飛ばし続ける。
一方、ウィングガンダム・ゼロは両陣営の敵機達を引き付けながらツインバスターライフルの低中出力射撃で次々にOZ、OZプライズ両陣営のMSを吹き飛ばし、撃破を重ねる。
反転際に左右交互に発射し、更に二挺のツインバスターライフルをかざしながら高出力のビーム渦流を撃ち放った。
二本の唸るビーム渦流が走り、瞬く間に複数機のMSが吹き飛ばされ、夥しい数の爆発光と化していく。
その最中にヒイロは警備基地施設を確認しながら左右両端にツインバスターライフルを突き出し、再度高出力のビーム渦流を撃ち放ち、周囲の敵機群を一掃させた。
そして再び連結させたツインバスターライフルをかざす。
「情報にあった収監施設の基地か……確かにそうかもしれん。あながち、デュオが言っていたことは一理あったな。破壊する」
ヒイロはゼロシステムが見せた戦略を脳裏で味わい、それがミーティング時にデュオが言った「単機攻め」にも通ずると認識しながらゼロシステムに言葉で答えた。
「引き付ける以前にその引き付ける対象そのものを排除する……」
ツインバスターライフルにエネルギーがチャージされ、最大出力の圧縮率にまでGNDエネルギーが充填されていく。
ヒイロの視界に投影される詳細なロック・オン標準モニターが確実に基地施設を捉えた。
その最中、基地を守らんとするリーオーとエアリーズ達がウィングガンダム・ゼロへ射撃を仕掛ける。
放たれる全てのビームとレーザー射撃を敢えて身に受けるウィングガンダム・ゼロ。
無論、最強の装甲材であるネオ・ガンダニュウム合金からしてみれば些末なダメージに他ならない。
「ターゲット、OZ収監施設警備基地。破壊する」
ヴィヴィリリリリリィィ……ヴォヴヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
放たれたツインバスターライフルの最大出力の大規模なビーム渦流は、阻むリーオーとエアリーズ部隊を一瞬にして熔解破砕しながら突き進む。
注がれるビーム渦流は、基地施設に激突しながら一気に管制塔や格納庫、起動前のMS達を破砕エネルギーで吹き飛ばした。
注がれるビーム渦流の中心軸から強烈なエネルギーの爆発が発生し、巨体な爆発光と爆炎を上空へ巻き上げさせた。
この光景を見たOZの兵士達は誰もがその戦意を失った。
ウィングガンダム・ゼロのその力を垣間見たマフティーは、双頭空母の甲板へΞガンダムを着地させながら呟いた。
「あれが……反抗の象徴、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム……!!!」
To Be Next Episode
次回予告
メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーの合同強襲を兼ねた囚人救出作戦の爪痕は、OZプライズに大いなる衝撃を与える。
再び動き始めたガンダム達の力も視野に、ロームフェラ財団は地球各地の反抗活動及び紛争地域制圧するMD降下作戦・オペレーション・ノヴァの実行段階に入っていく。
北欧の平和象徴小国・サンクキングダムの周辺においても、OZプライズの追撃から逃れようとするOZ部隊の入国を受け入れ、ミリアルド達が自国防衛を兼ねての自衛戦闘を強いられていた。
一方、エアーズロックの地下基地において、デュオとカトルを護衛にケネス達が新生メテオ・ブレイクス・ヘルの代表としてマフティーと直接会談を行う。
だがその最中、オペレーション・ノヴァの脅威がエアーズロックに舞い降りる。
突然のMDの猛攻に対し、デュオとカトル、そしてマフティーが迎え撃つ。
次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY
エピソード 39「ハサウェイの慟哭」