新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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 マリーダとプルに降りかかってきた苦痛・屈辱……書いてる自分自身「きー!!!」となったり、結構辛かったです。

 もしかしたら、読者の方で悲痛な目にあうマリーダやプルに耐えかねて「読むのやーめた!!!耐えられん!!!」と感じてしまった方もいたかもしれません……

 ですが……今回、ひんしゅく、ブーイング、マイナス評価、「自分で言ってんじゃねーよ、バカ作者!!!!」を恐れずに言うと……


 

 神回デスッ


エピソード37「救出への総攻撃」

OZ・OZプライズ宇宙要塞バルジ。

 

彼らの力の象徴の一つだったバルジはヒイロが乗るウィングガンダム・ゼロが放ったツインバスターライフルによって破砕・轟沈された。

 

 この非常事態は間もなくしてバルジを発ったディセットに報告が伝達されていた。

 

「……そうか……バルジは堕ちたか……!!!あのガンダムがいた以上、覚悟はしていたが……!!!」

 

 覚悟はしていたディセットであるが、やはり現実として叩きつけられた辛酸は極めて苦いものであった。

 

 ディセットが苦悶の表情を見せ頭を抱える中、報告を伝達した部下のOZ兵士が質問を投げかける。 

 

「何とか離脱できた残存部隊からの報告です。あの、ディセット特佐。我々はとてつもないパンドラの箱を回収してしまっていたのでしょうか?!!」

 

「パンドラの箱か……かもしれん。だが、ウィング・ゼロクラスのガンダムが敵の手中に実在した以上、どの道同じ事になっていた。だが、それと同時にトレーズ閣下が財団に幽閉された事が事実なら非常にそれも脅威なのだ」

 

「っ?!それはまたどういう意味で?!」

 

「OZがOZプライズに吸収されるということだ。既にこうしている間にも瞬く間に進行しているだろう。無論、私や君も含め、OZの兵士達は誰一人として納得はしていないのは言うまでもないだろう。皆、共通してトレーズ閣下を慕い、敬う精神を持っているからだ」

 

「はい!!その通りです、特佐!!我々はトレーズ閣下を敬愛しております!!!」

 

 事実、ディセットが言うように、誰一人として「OZ」にトレーズに疑心や不満を持つ者はいなかった。

 

 これは組織における人間関係の情勢上、驚異的な事であった。

 

 故に自ずとそれはOZをかつての旧連邦とティターンズのように組織を分裂させることも意味しているのだ。

 

「だが、『プライズ』は元より財団側から選ばれたエリートであり超法規的組織。手段を選んだりはしない。無論それはトレーズ閣下のエレガントに背く。それどころか、下に見ている者もいるだろう。いずれにせよOZとOZプライズはこの先二分し、内乱に発展する……それが脅威なのだ。ふっ、まるで旧連邦のブーメランのようだな。我々OZがオペレーション・プレアデスを被るとは……」

 

「ディセット特佐……!!!」

 

 ディセットはまだ半信半疑でいたが、OZの二分は事実上秒読み段階に入りつつあった。

 

 ディセットが地球を目指す最中にも軍事情報上のメディアは地球圏に広がりを見せ、トレーズが幽閉された事実とOZプライズの台頭は瞬く間にOZに衝撃を与えていた。

 

 既に早くもヨーロッパエリアの各基地において納得がいかないOZ兵士達によるクーデターが始まっていた。

 

 基地内でリーオーやエアリーズ、ジェスタがOZプライズ区画に攻撃を仕掛け、プライズリーオーやプライズジェスタの機種部隊がこれに対応し応戦する。

 

 またある基地では一斉にトレーズが幽閉されたルクセンブルクを目指し始める部隊もあり、その進行を阻止しようとするOZプライズ勢力との空中戦が展開され、その悪影響は近隣にある都市部にも及んでいた。

 

罪のない一般市民達が不条理に残骸や流れたビーム弾やミサイルの被害に遭っていく……。

 

この光景がやがて世界各地や宇宙に拡がっていくのも時間の問題なのは火を見るよりも明らかだった。

 

 宇宙世紀0100を目前に、時代は更なる混迷に突き進もうとしていた。

 

 

 

 L1コロニー群エリア

 

 

 破壊したバルジを後にしたヒイロ達は、合流したネェル・アーガマとガランシェールと共に地球を目指す航路で進行していた。

 

 ネェル・アーガマのMSデッキでは久々にカトルやトロワがデュオと会い、それぞれが再開を喜び合う。

 

「いやぁ~やっと娑婆に出られたぜぇ……カトルやトロワも久しぶりだなぁ!!」

 

「えぇ!!デュオも相変わらず元気そうで何よりです!!」

 

「バルジは快適だったか?」

 

「あー、あー!!とーっても快適でゴザンシタヨ!!おかげでこれからのここでの生活に違和感すら感じるぜー。もうあいつらの所は金輪際ゴメン被るよー。ま、その反面、相棒が蘇るにはちょーどイイ時間をもらったんだけどな……」

 

デュオはそう言って満足気な表情でガンダムデスサイズ・ヘルに振り返えると、はっと何かを思い出してすぐにカトルとトロワに顔を戻す。

 

「あー、そーそー!!五飛も相変わらずなもんで、故郷に帰るとか言ってバルジから離脱する時点でとっとと行っちまったぜ」

 

 デュオいわく、五飛はアルトロンガンダムと共にL5コロニー群を目指しており、既にここにはいなかった。

 

 アルトロンガンダムのコックピットには、航路を自動設定した状態で腕組みをして目を瞑っている五飛の姿があった。

 

「元々脱出が成功した後に俺は故郷に戻るつもりでいた。那托。お互いバルジの薄汚い所でなど、ろくな骨休めにもならんかったな……故郷で本当の骨休めをするぞ。宇宙の悪を叩くのはそれからだ……」

 

 あくまでアルトロンガンダムとのワンマンアーミー的な姿勢を貫くスタイルは以前同様であった。

 

 無論、カトル達も五飛のその感性を理解しているが故に理解を示す。

 

「そうですか……くすっ、確かに五飛らしいですね!かまいませんよ。彼は彼の姿勢で戦ってくれているんですから」

 

「確かに一人でも機動力よく動けるワンマンアーミーの別動隊がいればそれはそれで理に叶うこともある。特に俺達のような一騎当千を得意とするガンダムならばな」

 

「確かにそれもあるよね、トロワ……あれ?!そういえばラルフさんはどうしたの??」

 

共に入って来たはずのラルフがいない事に気づいたカトルは、互いに僚機担当であるトロワに尋ねた。

 

「あいつはあいつで、会いたい人がこの艦にいるらしい……スパイ活動の通信の要で世話になったらしいが……それ以外の事情もあるようだ」

 

トロワが目を瞑りながら言う一方で、ラルフは仕切りに世話になっていたネェル・アーガマの現オペレーターのエイーダと会っていた。

 

二人は実際に会うのは今回が初めてであった。

 

「君がエイーダ?バルジのスパイ活動で世話になっていたラルフ・カートだ。はじめまして」

 

「はい。私の方こそ実際に会うのは、はじめましてだわ。エイーダ・シーマリオンです」

 

「お互いデータメールや音声だけのやりとりだったけど、いざ会うと緊張してしまうなぁ……ははは!!」

 

「そ、そうですね。でもよくバレずにこの日まで……正直、送受信していた私は気が気じゃありませんでした」

 

「ま、それは……運が良かったって事。終わりよければ全て良し……かな?それに、途中からヒイロ達が同じバルジ内に来たとはいえ、実際は通信相手だったあなただけが心の励みだった。成功できたのはエイーダさんのおかげですよ」

 

「そんな……私は自分にできる事をしてきただけでそれ以上は……」

 

「謙遜する事はないさ……そのできる事が、バルジ破壊の一手に繋げられたのも事実なんだ。改めてありがとう、エイーダさん」

 

「あ、その……こちらこそ……あ、エイーダで大丈夫ですから、呼び方」

 

「なら、俺もラルフで……今の一件が済んだら何か奢りますよ」

 

「え?!なんか色々すいません……ではせっかくなんで、その時はお言葉に甘えさせて頂こう……かな?」

 

 エイーダが何気に髪をすく仕草をした瞬間、ラルフはエイーダに今亡き女性の面影がダブって見えた。

 

髪型やタイプは違えど、当時の彼女に相応させる何かを感じた瞬間だった。

 

(クリス……!!?っ……なんでダブった?!当時のクリス相応の存在っ……てことか?!!)

 

 

「……そうですか。お二人、もしかして良い仲に発展するかもしれませんね……あっ!!ヒイロとアディンの方は??」

 

 はっとヒイロやアディンがいウィングガンダムないことに質問するカトルに対し、デュオはドックインした・ゼロにサムズアップの形で親指を指して答える

 

「あー……ヒイロは今、ウィングゼロの中!!ダダこねてる約一名を説得中だ」

 

「約一名??説得中……って??」

 

「……アディンか」

 

 遠回りジョーク的なデュオの表現に顔を見合わせてくるカトルに、トロワが名指しで「約一名」を言い当てた。

 

「あぁ。気持ちはわからなくはねーが……その時と現在とでは状況が違うっていうか、なんつーか……」

 

「そうか!!ネェル・アーガマですね?!確かにネェル・アーガマは彼の故郷、MO-5を沈めた艦……複雑な気持ちになってしまうよね。僕も同じ境遇を味わいましたから痛い程わかります……」

 

 カトルはかつて以前のメテオ・ブレイクス・ヘル最終決戦となったウィナー家のラボコロニーの一件である、ウィナー家姉妹達の惨劇や父・ザイードの死の瞬間を思い出す。

 

 その気持ちと置き換えるとカトルも共感できてしまうことを覚える。

 

「……家族や仲間を目の前で失われる苦しみ……確かに思い返しても苦しい……お二人には家族を失う感覚は想像しにくいと思うけど……」

 

確かにカトルいわく、物心付いた頃に家族を失っていたデュオやトロワには想像しがたい感覚ではあった。

 

だが、それに代わる仲間が在るがゆえに、実際は感覚的に理解できていた。

 

「いや、俺達にだって家族に代わる仲間がいたからな……わかるぜ」

 

「あぁ。実際、一度仲間達を失った経緯を経て今に至るからな。いずれにせよアディンにとってこの艦はいわば敵(かたき)だ」

 

「ま……違いねーぜ。しかし、その敵とやらは移動拠点としては有難いが、またどう言う経緯でこうなったんだ?」

 

「僕達はラボコロニーの一件の後、姉さん達の遺言で組織崩壊後のバックアップを予め想定してくれていたオーブ首長国連邦管轄のコロニーに身を寄せていた。その間にOZの追撃から逃れたこの艦が来て、オーブのコロニーが匿ったんだ。それが切っ掛けで艦長のケネスさん達と色々話し合う機会ができて……互いの立場を理解できたんだ」

 

「いわば寄せ集めの旧連邦やネオジオン関係者達が逃げる手段としての艦。方舟のようなものだ。クルーの誰もが追撃から逃れる事に必死だったはずだ」

 

「なるほどな……あちらさんも事情抱えてるって訳だ……にしても、長いな説得」

 

ネェル・アーガマの事情を知ったデュオは頭をかきながら納得したが、一方のアディンの聞き分けが気になって再びウィングガンダム・ゼロを見る。

 

コックピットではまだヒイロがネェル・アーガマを受け入れられないアディンに通信を介して説得させようとしていた。

 

「……今は今だ。アディン。確かにMO-5を破壊した艦はネェル・アーガマだった。だが、今乗っているクルーはその時の者達じゃない」

 

「何度言われてもな……受け入れられないぜっ……!!!艦体を見た瞬間に憎悪が蘇った!!!間違いなくコイツが引っ提げてるハイパーメガ粒子砲が……父さんや母さん、ロガのおっちゃん、そしてトリシアさんに……ルシエを……他にもいた大勢の命を奪いやがったっ……!!!今すぐ沈めてやりたいぜ!!!」

 

「だから今いる罪のないクルー達を殺すのか?!」

 

「だから一人で行動してんだろ?!!その衝動をかまさない為によ!!!」

 

「闇雲に突き進んでも意味がない。最悪宇宙で遭難するだけだ」

 

「うるせー!!!年下のクセに説教すんな!!!」

 

「年齢など当に関係ない。俺達はGマイスターの同志だ。仮に年齢を言うならばこちらからも年齢相応の受け入れを要求するっ……!!!」

 

「ヒイロ、てめー!!!今舞い戻れば、ネェル・アーガマごと潰してやる事になるぜ!!!」

 

「ならばそれを俺がゼロで止める……!!!」

 

「いいのかよ?!!今の俺ならジェミナス・グリープで……!!!」

 

絶え間ない二人の押し問答が続いたが、ヒイロはこれ以上は無駄と判断し、ため息交じりに通信を一時的に切った。

 

アディンがあそこまで取り乱していては、間を置かなければ話しにならない。

 

だが、この時ヒイロは意図的にガンダムジェミナス・グリープとの通信回線を再び入れた状態にしており、ネェル・アーガマとガランシェール間の通信回線を入れながら、ミーティングを視聴し始めた。

 

ネェル・アーガマとガランシェールの両艦船間の通信では、双方のキャプテン同士が代表してここから先の行動プランのミーティングを続けていた。

 

「……では、ここから先はガランシェールは我々とは別行動をすると?」

 

「ええ。今の我々にとって娘達の救出が何よりも優先です。長引けば最悪黒いネェル・アーガマの連中に殺されかねません。それに、先ほど申したラプラスの箱なるものを探し続ける事も踏まえている為、どういう航路になるかもわからない……娘はそれを示すガンダムに選ばれ、その時今後の宇宙に必要なものと感じていると言ってたのです」

 

「ラプラスの箱。連邦時代に聞いたことがあります。連邦を転覆させる力を持つ何かと……私自身は都市伝説めいたものと捉えていましたが、話を聞いた以上地球圏の何処かにあるようですね。ビスト財団の党首自らが行動を仰いだとなると……ですが、肝心の所在は掴んでいるのであれば、進路によっては力添えできるはず……」

 

ジンネマンがケネスに回答する直前にコーヒーを一口すすった時、視聴を始めたヒイロからの意見が出た。

 

「確かに俺達の今の戦力で畳みかければ楽に攻略できる。進路と所在位置は問題ない。ゼロの演算予測では幾つかの細かい軌道修正をしながら航行すれば、例の黒いネェル・アーガマの航路とぶつかる。どの道地球を行く形にはなる」

 

 ヒイロはそう言うと、ゼロシステムが算出したデータを双方の艦に送信され、モニター画面半分に進路予測データが表示された。

 

 参考資料が追加され、改めてジンネマンは思考する。

 

「むぅ……だが本当にこの予測は確かなのか??たかが機械の予測で事を進めるなど……」

 

「ゼロシステムは通常のスーパーコンピューターとは根本的に違う。それに現状況、通常では奴らの位置などとても把握できない。今ある最もな正攻法だ」

 

 ジンネマンは慎重なこと運びを基本とするがあまり、ゼロシステムの演算を疑った。

 

 無論、誰もが得体のしれない機械の演算処理データに疑いを持つであろう。

 

 だが直後にヒイロの言葉に受けた不思議なまでの説得性と一刻を争う状況、本来の目的先である地球を目指す上での支障を考慮した上で、ジンネマンはケネスに改めて確認を伺った。

 

「ケネス艦長、地球を目指す上での支障は?合流するゲリラ達もいると聞きます。彼らも一刻も早い合流を望んでいるのでは?」

 

「確かにキャプテンの仰る通りです。ですが、こうして再起した我々と巡り合わせたのも縁です。ネェル・アーガマとガランシェールで共闘戦線の方向を取りますよ。状況の引っ掛かりを残して地球に行くのも私としてあまり好ましくないと考えますから……」

 

「……そうかっ、感謝する!!!お前ら、マリーダとプルの救出はネェル・アーガマとの共闘で決まりだ!!!これ以上の味方はない!!引き締めていけぇ!!!」

 

「おぉおおおっ!!!」

 

 方向性が決まる中、心強い状況になったことをジンネマンはクルー達に伝え、その決定事項がケネスによってネェル・アーガマ全区画へ伝達される。

 

「地球を目指すにあたり、本艦は途中までガランシェールと共闘戦線を組んだ。目的は黒いネェル・アーガマから二人のニュータイプの力を持った女性と少女の救出だ。目標とされる敵艦の算出航路と地球への航路が一致したこともあり決定した。これより救出作戦考案を進めていく。特にGマイスター達の活躍がキーだ。協力を乞う」

 

 この放送をMSデッキで聞いたカトルやデュオ達も快く賛同する意を表した。

 

「聞いたかい?早速僕達もミーティングにいこう!!」

 

「あぁ!!とりあえずアディンはヒイロに任せ……いや、でもマリーダとプルの救出なんだろ?!この場合ヒイロが主役だよな?!やっぱ連れてかねーと!!」

 

「お前がいうその主役がもう一人の主役を説得中だからな。俺達だけでもミーティングに参加し、後で内容を伝える形でも問題はない。いくぞ、デュオ」

 

 負と苦痛・屈辱のスパイラルに堕ちていた彼女達の運命の歯車が動き出した。

 

 それも彼女達の戻る場所、ガランシェールクルーやネェル・アーガマクルー達が一丸となって動き始めたのだ。

 

 ヒイロはこの事実を伝える事を踏まえ、ガンダムジェミナス・グリープとの通信を繋げた状態にしていた。

 

 必ずこの状況がアディンにも通達されている状況と確信し、ヒイロは再び説得を開始した。

 

「アディン。聞こえていたはずだ。今お前が沈めたい怨恨を飛ばしているネェル・アーガマと、さっきまでお前が守っていたガランシェールが結託してマリーダとプルの救出に動き出した」

 

「……」

 

「お前の怨恨はネェル・アーガマそのものなのか?ネェル・アーガマを使ってMO-5を沈めた者なのか?後者を言うならば彼女達を監禁しているターゲットの黒いネェル・アーガマとその艦長がそれだ」

 

「ヴァルダー……!!!グラーフ・ドレンデ……!!!」

 

「俺達がOZに捕縛された時、アディンの恨みの念は既に奴にいっていた。本当の斃す者、沈める艦は見えていたはずだ。そしてこうしている間にも刻一刻とマリーダとプルの身が危険にさらされ続けている。無論、救出には俺達がキーになる。的外れの怨恨に囚われている場合ではないんだ、アディン!!!」

 

「プル……!!!」

 

「お前が的外れの怨恨に囚われるほどそのプルが危険に晒され続けてしまう……もう一度本心の感情に問いただせ……戻らなければ俺達でリカバリーするだけだ。これ以上は言わん……」

 

 その通信を最後にヒイロの通信は終わった。

 

 アディンの中で目まぐるしく感情が入り乱れるが、その奥には既に答えが見え隠れしつつあった。

 

 

 

 ・・・

 

 

 

地球とL1コロニーエリア間を航行するグラーフ・ドレンデはゼロシステムが予測した航路とほとんど狂いがない位置におり、それに加え遭遇したと思われるネオジオンの部隊と戦闘状況にあった。

 

 ガランシェールと同型船が後方で3隻が控える形で、ランケブルーノ砲を装備した重装型ギラズールや重装型ギラドーガが展開し、弾幕対弾幕の砲撃戦を繰り広げいた。

 

だが、グラーフ・ドレンデのCICブリッジでは戦闘状況にも関わらず、ヴァルダーが拳で頬杖をしながら鋭利な眼光視線をブリッジのモニターと外の戦闘状況へひたすら突き刺している。

 

 最早傍観者そのものであり、展開しているリゼル・トーラスへのプログラムも敢えてキルモードではなく、防衛プログラムを指示していた。

 

 リゼル・トーラスは回避と手を抜いたような甘い狙いの射撃を繰り返し、残りはプライズリーオーとジェスタ、カスタムジェガンで弾幕を張り、接近を困難にする状況を維持させていた。

 

 無論この戦闘状況に疑問を持つ兵士達は少なくはなかった。

 

「あの……ミスター・ヴァルダー。意見の具申になるようで失礼致しますが、相手はネオジオンの小部隊です。一気にキルモードで畳みかければ直ぐに戦闘は……」

 

 するとヴァルダーはニヤリとしながら不敵な含み笑いをして答えた。

 

「ふふふふ……確かに貴公の言うとおりだ。間違いはない。ただ私は……拮抗している状況から相手が一気に絶望的な戦況に変わる瞬間を見たいのだ。それまで如何に長く必死にあがく様を傍観するか……それが楽しみなのだよ。コア3跡までの航路の余興と思えばいい」

 

「御意!!」

 

 一方のネオジオン勢力側はヴァルダーの思惑通り、皆が切磋琢磨して戦闘に臨んでいた。

 

 それもそのはずであり、このネオ・ジオンの部隊はジンネマン達を連れ去ったグラーフ・ドレンデを追撃していたパラオ所属のネオジオンだった。

 

 追撃とはいえ、当初は行動すればパラオが危うくなる状況だった為、グラーフ・ドレンデをロストしてからの時間差でパラオを発っていた。

 

 その為広い砂漠でダイヤモンドを探すかのような状況で嗅ぎまわっていたのだ。

 

「きっとジンネマンの旦那達が収容されているはずだ!!!やっとの思いで見つけたんだからな!!!何としても助けるぞ!!!」

 

「おうさ!!!MDがなんだってんだっ!!!このまま押し切ってやる!!!」

 

「逃したら最後だ!!!関与している範囲の仲間に限られるが、位置情報をネオ・ジオンの情報に拡散させておけ!!!」

 

 ギラズールやギラドーガ達は各々砲撃を放ちながら徐々にグラーフ・ドレンデに進撃していった。

 

 一方のマーサは監禁しているマリーダに再度サイコ洗脳機を持って歩み迫るが、この時のマーサはいつになく腹黒いまでに甘い口調であった。

 

「少々外が騒がしいけど気にしないで。いいのよ……手荒な真似はしないわ。今までごめんなさい……」

 

「あ……やめろ、く、来るなぁっ!!!来るなぁああっ!!!」

 

 当然のごとくマリーダは警戒するものの、積み重なる過酷な状況に加え、マーサに対し精神的な恐怖心を植え付けられてしまっていた。

 

 手で払いのける仕草をしながら、背後の壁に背を付けて追い込まれてしまう。

 

「い、いやっ、いやぁあああああっ……!!!」

 

 奇声めいた悲鳴を上げながらマリーダは頭を抱え込んでしまうが、いやらしく腹黒さを漂わせたマーサの手がマリーダの頬に触れられた。

 

 最早植え付けられた洗脳的恐怖に支配されたマリーダの口からは、意味をなさない息詰まった声しか出てこなかった。

 

「あっ……かふっ……くぅっ……!!!」

 

「うふふふふ、これから先、あなたには特別なMAに乗ってもらうのよ。その為に必要なのがコレよ……」

 

 マーサがマリーダの頭に装着したサイコ洗脳機は、今まで散々実験台にされ続けたものと同じようなタイプであり、いわばマリーダにとって拷問危惧に等しいものだった。

 

「ああ……あ、ああ……!!!」

 

 次に来るモノが何なのかは躰と精神が知り尽くしており、恐怖にすくむその様子に最早以前のマリーダはいなかった。

 

 そしてマーサはニタリと笑いながら操作スイッチを押した。

 

「っっ―――!!!いやぁあああああああああああっっ!!!」

 

 耳をつんさぐどころか脳さえも破らんばかりのサイコ波がマリーダを襲う。

 

 阿鼻叫喚しながらマリーダは発狂しながら床でもがき苦しむ。

 

「これは下準備。ラプラスの箱の所在が解った時、直ぐに行動に出れるようにする為の……うふふ。それに引き換え、あなたのお姉さんは籠城なんていうくだらない抵抗をしてるのよ……わるあがきも程があるわ。所詮ニュータイプなんて宇宙世紀のモルモットに過ぎないのよ……!!!」

 

 この時、プルはマリーダの苦痛を感じながら一人、ユニコーンガンダムのコックピットで苦しんでいた。

 

 悲痛な苦しみの中、呼吸を乱し頭を抱えるプルであるが、内側からロックをかけ外部操作では絶対に開かない状況を作っていたのだ。

 

 コックピットの外部ではマーサの私兵やOZプライズ兵があの手この手でロックを開けようとしていた。

 

 ユニコーンガンダムに籠城することが、今のプルにできる唯一の抵抗手段だった。

 

「苦しいっ……またっ……っ、マリーダがいじめられてるっ……!!!お願いっ……やめてあげてよぉっ……!!!」

 

 プルは涙を流しながら呼吸を荒くさせ、コックピットにしがみつき続ける。

 

 その閉鎖空間に充満するのはプルを襲うマリーダが味わう苦痛とそれに対する悲痛な悲しみ、そして絶望だ。

 

 マリーダも苦しみながらマーサの洗脳を吹き込まれ続ける。

 

「あなたは女の戦士。ガンダムは敵……そしてあなたを闇に墜とした男達を屈服させなさい……いつも屈辱を味わってるでしょ……もっと男を恨みなさいっ……さぁっ!!!」

 

「あぐぐぐっ……ぅううっ……あああああっっ……はぁ、はぁ、はぁ……もう……コワレル……」

 

「うふふふ……この際壊れてしまいなさい。マリーダなどと言う名は一度壊して、本当のプルトゥエルブとして……パトゥーリアの心臓になりなさい……!!!」

 

「あああっ、アアぁアアぁぁアアっ……!!!!」

 

マーサは更に強いレベルの洗脳波に切り替え、更にマリーダは恐怖と苦しみを混ぜた声をあげ続ける。

 

マリーダの精神の限界は最早臨界に達していた。

 

それに感応するプルも比例するように嘆き叫ぶ

 

「いやぁあああああっっ!!!!あくぅっ―――?!!」

 

だが、その最中に苦しみと絶望の先から煌めきのような感覚が迫るのを感じた。

 

「……!!!え?!!こ、この感じっ……来てるっ……の……?!!」

 

プルがその感覚を感じた時、同艦内のCICブリッジにて新たな指示がヴァルダーから放たれていた。

 

「……MDにキルプログラムを。奴らにとっての絶望的排除の始まりだ」

 

「は!!戦闘プログラムをキルモードへ変換します!!」

 

リゼル・トーラスの戦闘プログラムが切り替わった瞬間、レモンイエローの光を灯っていたカメラアイがレッドに変換した。

 

「ネオジオンの輸送船団……運がない連中だ。我々と会った時点で排除は免れんのだよ」

 

 ヴァルダーが薄ら嗤う視線の先で、キルモードになったリゼルトーラスが一気にギラズールやギラドーガに襲い掛かる光景が展開する。

 

 レフトアームのビームキャノン高速連続射撃に各部を破砕され爆発していくギラズールや、縦横無尽にビームサーベルで斬り刻まれていくギラドーガ、一斉のメガビームランチャーの直撃で爆砕するギラズールとギラドーガ……見えない何かが破裂したように荒れ狂うマリオネット達の姿だ。

 

 突如爆発的な劣勢に追い込まれ、文字通りの絶望が彼らの部隊を襲う。

 

「ぐああああああ!!!」

 

「くそったれっ!!!こいつら急に動きと攻撃が凄まじくなりやがった!!!どうなってやがる?!!」

 

「あ、くそっっ!!!突破された……がぁあああああ!!!」

 

 仲間の機体が執拗な斬撃で爆発していく中、後方のガランシェールと同型の船達にもリゼル・トーラス攻撃が及ぶ。

 

 早くもこの時点で1隻が複数のメガビームランチャーの砲撃を浴び、船体を激しく爆砕されながら轟沈する。

 

 必死で抵抗するがネオジオンの最早弾幕は意味をなさない。

 

「畜生っ……ここまできてっ……無理なのか?!!ジンネマンの旦那やマリーダに……申し訳が立たないっっ!!!」

 

 ジンネマン達の救出を目指してここまできた彼らが無残にも壊滅の一途しか用意されていない……そんな現実に遂に母艦からの撤退指示が出てしまう。

 

「悔しいがこのままでは全滅だ!!!撤退するぞ!!!」

 

「撤退だと……?!!くっっ!!!」

 

 そのネオジオン兵はレバーに拳を叩きつけ、モニター億面に映るグラーフ・ドレンデを見て更なる悔しさを混みあがらせた。

 

「そこに……そこにあるのにっっ……!!!助けることができないっっ!!!くそおおおおおおお!!!」

 

 その悔しさの最中、次々に仲間の機体達がリゼル・トーラスの攻撃を受け、次々に破砕されていく。

 

 百歩譲ってよしんばリゼル・トーラスを突破してもプライズリーオーとジェスタに阻まれ、更にそこから先の人為的な救出は更に困難になる。

 

 現実的に無理なのだ。

 

 その間、グラーフ・ドレンデ内部ではマリーダがようやくマーサからの生き地獄から一時的に解放されていた。

 

 壁にもたれて憔悴しきったマリーダを尻目に、場を後にしたマーサは満足げに堂々と私兵を従えながら通路を歩く。

 

 (うっふふふ……見てなさい……計画は必ず成就させるわ……!!!あの小娘を完全に手中に収めることとパトゥーリアの起動は同義……そしてラプラスの箱の破壊に繋げ、恨みたる男の怨恨世界を破壊する……!!!)

 

 苦しみの間隔の継続が終わり、プルも呼吸を乱しながらマリーダの苦痛が終わった事を感じ取る。

 

「うっっ……はぁっ、はぁはっ……はぁっ、マリーダ……あたし達よく頑張れたよ……でも……きっとそれも今日で終わりだよ……」

 

 プルはうずめていた体を動かし、コックピットのシートに座り直して背もたれに身を預けなおし、うつむきながら一言を漏らした。

 

「だってね……」

 

 プルがその場にいないマリーダに語り掛ける一方で、マリーダは滅茶苦茶になった思考の中、僅かに繋がった自我を手繰り寄せることに身を焦がしていた。

 

 いつ記憶が消滅してもおかしくない程の危ういアンバランスさが彼女の中で入り乱れる。

 

「あぐぅっっ……私はっプルトゥエルブっ……じゃないっ……プルはっ、姉さんっ……」

 

 床に倒れ込み這いつくばりながらマリーダは手を伸ばす。

 

 彼女が伸ばす先にある絶望の薄暗い闇の先からはジンネマンやガラシェール隊の面々、そしてプルとヒイロのイメージが彼女に飛び込んできた。

 

 それはクモの糸程であった自我を手繰り寄せる手綱を強くさせた。

 

「マスターっ……みんなっ……姉さんっ……ヒイロっ……!!!わ、私はっ、そうっ……私はっ、マリーダ!!!」

 

 そしてユニコーンガンダムの中のプルは顔をあげ、それまでの表情を一新させた微笑みでマリーダに言葉を贈った。

 

「……みんなが来てくれるんだから!!!」

 

 その刹那、宇宙に突如として閃光がはしり、その閃光はグラーフ・ドレンデの真正面を目掛けて突き進んでいた。

 

 

 

BGM ♪思春期を殺した少年の翼

 

 

 

「PXオーバードライヴッッ!!!!キメるぜぇえええええええええ!!!!」

 

 

 

 それは閃光を放ちながらビームランスを突き立てて迫るガンダムジェミナス・グリープだった。

 

操縦するアディンの表情には先刻の苛烈な蟠りは無くなっていた。

 

怨恨の囚われを超え、守るべきモノを見据える覚悟が据わった事を意味していた。

 

 そして、ガンダムジェミナス・グリープのGNDソニックドライヴァーのジェネレーター出力を最大限に活かした上のPXシステムは、MSの常識を逸脱した高速を実現させる。

 

 グラーフ・ドレンデサイドもこれを感知するが、その驚異的な速度に報告状況とのかみ合いの崩壊が発生していた。

 

「な―――?!!急速接近する機影!!!とてつもない速度で本艦に真っ直ぐ突っ込んできます!!!ダメです、状況報告間に合いませんっっ!!!か、回避不能ぉおおおおおお!!!」

 

「何ッ―――?!!」

 

 前触れが全くない突然の未確認機の攻撃に、流石のヴァルダーも動揺を隠せずに狼狽える。

 

その刹那、一瞬の閃光と共に凄まじい衝撃がグラーフ・ドレンデを襲った。

 

 

 

 ズディガオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!

 

 

 

 電光石火のごとくガンダムジェミナス・グリープはグラーフ・ドレンデのハイパーメガ粒子砲の砲身を目掛けて突っ込み、凄まじい衝撃をグラーフ・ドレンデに与えた。

 

「あああぁっくっ―――?!!」

 

CICブリッジに向けて歩いていたマーサと付き人の私兵達は前触れなき凄まじい衝撃に転倒し、ヴァルダーもまた普段見せる事のないうろたえを見せる。

 

「ぐおおおおおっッ……!!?くっ……何が起こったというのだ……?!!状況は?!!」

 

「……はっ!!状況は……な?!!ハイパーメガ粒子砲、大破!!!完全に破壊されています!!!しかも、ビームでも防弾でもなく、突っ込んだのはMSです!!!艦内への損害も甚大!!!MS格納庫にまで及んでます!!!」

 

「MSだと?!!」

 

「はっ!!間違いありません!!!」

 

「こんなミサイルのような真似が出来るMS……まさか?!!」

 

 ハイパーメガ粒子砲を一瞬にして貫通破壊したガンダムジェミナス・グリープは、グラーフ・ドレンデの機内格納庫の外壁に埋めるようにしてアグレッシブに突っ込んでいた。

 

「な……?!!何だ?!!敵襲か?!!」

 

「お、おい!!!あれっ……ガンダムじゃ……!!?」

 

「メテオ……ブレイクス……ヘル!!!た、待避だぁあああっっ!!!」

 

 外壁から出てきたガンダムジェミナス・グリープに、驚愕を食らい続けるメカニックや兵士達は一斉にその場判断で待避を開始。

 

居合わせたOZプライズ兵士やマーサの私兵もまたそれに便乗するかのように待避をしていく。

 

ガンダムジェミナス・グリープは眼光を放ちながら、スパークが随時はしるグシャグシャになったMS格納庫外壁やデッキハンガーを、より一層かつ執拗にビームランスで幾度も刺しては斬り口を抉ってみせた。

 

「へっへへへ、一矢報いてやったぜ……!!!理性、持ってくれよな、俺っ!!!今コイツ完全に潰したら元も子もないからよっっ……!!!」

 

ガンダムジェミナス・グリープの強力な滅多斬りに続く斬り払いが艦内に爆発を発生させたその直後―――。

 

 

 

『アディン!!!』

 

 

 

怒りを通り越した感情をなんとか繋ぎ止めるアディンに突如としてプルの声が響いた。

 

「えっ?!!プル?!!」

 

アディンが周囲を確認すると、MS格納庫の奥面にハンガーに固定されたユニコーンガンダムの存在が視覚に入り込んだ。

 

一方、体勢を崩したマーサは動揺を隠せないでおり、ややヒステリック気味に声を荒げながら彼女を起こそうとする私兵に問いただす。

 

「マーサ様!!お怪我は?!!」

 

「い、一体何なの?!!何が起きたの!!?」

 

「わ、解りません!!!」

 

『敵襲!!!総員戦闘配置!!!!繰り返す!!!総員戦闘配置!!!格納庫にMSが突っ込んだ……っ突っ込んだMSは、ガンダムと断定!!!』

 

マーサの問いに答えるように艦内放送が響く中、マーサは息を呑みながら直感する。

 

「ガンダム?!!まさか……?!!」

 

「こんな奇天烈かつ荒唐無稽な真似ができるのは……奴らしかいない……メテオ・ブレイクス・ヘルしかな!!!」

 

ヴァルダーのその言葉の直後、ネェル・アーガマCICブリッジにてケネスが叫んだ。

 

「光学迷彩解除!!!ガンダム、サーペント、マグアナック、各機発進シークエンスに移行!!!」

 

光学迷彩を解いたネェル・アーガマがグラーフドレンデ左舷方向に現れた。

 

そして、MS格納庫からはガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ウィングガンダム・ゼロ、サーペント、ガンダムサンドロック改、マグアナック4機の流れで発進シークエンスが進行していく。

 

「さぁて、地球行きの前哨戦、おっぱじめるとしますかぁ!!!」

 

「相手の搭載機数からして、俺達の割り当ては4機づつ破壊すればちょうどいい。バルジの事を思えば些末な戦力だ」

 

「確かにな。それに、電撃的に奴らを無力化させちまえば問題ない。袋叩きだな、この作戦は」

 

「問題はありますよ、ラルフさん。如何にして電撃的かつ低リスクに彼女達を助けるかが重要です。最終的にはヒイロのウィングゼロのゼロシステムがカギになりますが、僕達が目立つことも重要な役目です。ラシード達もご協力お願いします!!!」

 

「お任せください、カトル様!!手筈通り暴れてやりましょう!!!」

 

各々に高揚する雰囲気が高鳴る一方、ヒイロは何も語らず精神を集中させながら、二通りの選択肢に葛藤していた。

 

(……ここからの作戦上、救出ルート選択肢は主に二つ。カタパルトから侵入し、内部を破壊しながら混乱に乗じてマリーダ達の救出を図る。もう一つは中と外から仕掛け、中での攻撃で気を引き付ける。その隙に外部から穴を開けて救出する……見極めるにはその状況に直面した時のゼロシステムとマリーダ達の収監場所がカギになる……!!!)

 

それぞれの発進シークエンスが進行する中、ケネスはネオジオンに向けて旧連邦と誤解されない為に通信回線を開いてた。

 

「……ネオジオンの諸君に通達する!!我々は連邦軍ではない。いわば……新生メテオ・ブレイクス・ヘルといってもいいだろう。ここから先の戦いは我々に任させて頂きたい!!」

 

「なんだと?!!メテオ・ブレイクス・ヘル……?!!」

 

「確かにっ、識別信号を確認!!!連邦ではないぞ!!!」

 

 無論、突如の想像を超える展開に対し、ネオジオンの兵士達は困惑や妙な高揚感を隠せずにいた。

 

 その直後、その困惑をフォローする通信回線が入った。

 

「お前達、識別信号は確認させてもらったぞ!!これ以上は犠牲は出させん!!!後退しろ!!!」

 

 それはジンネマンからの直接の通達であり、彼らの後方からはガランシェールが接近していた。

 

「その声は……ジンネマンの旦那!!?え?!!ということは皆無事なのですか?!!」

 

「よかったッ……俺達はあの日以降、ずっと探し回っていたんすよ!!!」

 

「いや……それがまだ大事な娘達がその黒い木馬もどきに囚われたままだ。お前達、俺達の為に色々と済まなかった……だがもういい!!!無理はするな!!!後は任せろ!!!今俺達はそのメテオ・ブレイクス・ヘルの本隊と救出作戦を展開する!!!」

 

 この通信の流れを耳にしたケネスも、納得のいく含み笑いを見せながらうなずいていた。 

 

 一方のグラーフ・ドレンデからしてみれば、この電撃的流れは、異次元から突然現れたも同然の様だ。

 

「な?!!さ、左舷方向に突如新たな機影!!!ネェル・アーガマです!!!」

 

「馬鹿な?!!何故捕捉できなかった?!!」

 

「いえっ、全くもって解りません!!!感知直後まで何も感知はできず……!!!」

 

「……本当に奴らのようだなっ……しばらく離れる。戦闘指揮は諸君らに一任する……」

 

ヴァルダーは席を立ち、何処かに向かうようにCICブリッジを後にした。

 

 そしてネェル・アーガマMSデッキでは、順次にガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改が三連のカタパルトに就き、各々が発進体制に移行していた。

 

 オペレーターのエイーダが各Gマイスター達にナビゲートを通達する。

 

「各カタパルト、リニアボルテージ上昇。射出タイミングを各Gマイスターに譲渡します。作戦上、サポート僚機のMSはガンダムが全機発進完了した後に出撃をよろしくお願いします」

 

「そんじゃ……デュオ・マックスウェル!!ガンダムデスサイズ・ヘル、行くぜ!!!」

 

「トロワ・バートン、ガンダムヘビーアームズ改、出る」

 

「カトル・ラバーバ・ウィナー、ガンダムサンドロック改、行きます!!!」

 

 ネェル・アーガマの三連カタパルトより、レールガンのごとくスパークを帯びながらガンダム達が飛び出していく。

 

 そして、センターカタパルトにウィングガンダム・ゼロがスタンバイされた。

 

 

 

BGM ♪ RYTHEM EMOTION

 

 

 

コックピットのセンタースクリーンが起動し、ウィングガンダム・ゼロのメインシステムが立ち上がる。

 

連続する稼働音の中、ヒイロはシステムに視覚投影表示されたモニターに視線を見据えていた。

 

今その先に見据えるはマリーダの救出の他はない。

 

ヒイロにとって彼女の存在は必要不可欠な存在であり、彼女の身柄奪還はこの先の闘いに突き進むには避けては通れない、否、避けて通るつもりなどなかった。

 

「マリーダ……これ以上の苦しみは必要ない……!!!」

 

ウィングガンダム・ゼロの両眼に光りが灯り、駆動音と共にその顔を上げた。

 

「カタパルト射出ユニット、強制解除。マリーダ達を帰るべき場所へ連れ戻す。いくぞっ、ゼロ!!!」

 

ヒイロはカタパルト射出ユニットを強制解除させると、スロットルレバーを押し込んだ。

 

持ち上がった四枚のウィングバインダーから一気にGNDエネルギーを爆発させるように、ウィングガンダム・ゼロがカタパルトから飛び出す。

 

ネェル・アーガマから飛び立ったウィングガンダム・ゼロは、加速を伴いながらメインカメラを光らせ、更なる加速をかけて突き進んでいった。

 

それは流星さながらであり、正にリ・オペレーション・メテオの前哨戦と言える瞬間だった。

 

ウィングガンダム・ゼロは先に出撃したデュオ達を追い抜き、真っ先にターゲット選定したリゼル・トーラスに向けてツインバスターライフルを放った。

 

 

ヴィゥッ―――ダァズヴァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

ドォズゥシャアアアアアアッッ、ゴッバババゴォゴゴォオオオオオンッッ!!!!

 

 

 

一発の高出力ビーム渦流が一度に3機のリゼル・トーラスを爆砕させる。

 

その直後、ウィングガンダム・ゼロの後方からビームサーベルを突き出した1機のリゼル・トーラスが迫るが、これを振り向く事なく躱し、攻勢の肩透かしを食らいながら突き進むそのリゼル・トーラスに向けてツインバスターライフルを放つ。

 

 

 

ヴァズダァァアアアアアアアアッ!!!!

 

ドォズゥァアアアアアァァァ……ドドドガァゴバァガァオオオオン!!!!

 

 

 

突き進むツインバスターライフルのビーム渦流は、その奥面にいたプライズジェスタ2機もリゼル・トーラスと同時に仕留めて破砕する。

 

更にウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルをレフトアームに持ち替え、レフトショルダーからビームサーベルを抜刀すると、鬼神のごとき速度と太刀捌きで攻め入った。

 

 

 

ヒュゥギュウァアアアアッ―――ジュシュガァッッ、ザギィシャアッ、ズシュドォオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

 

 

 

連続でリゼル・トーラス3機に強烈な斬撃を叩込んで駆け抜けたウィングガンダム・ゼロはそのままグラーフドレンデを目掛けていく。

 

わずかな瞬間に9機の機体が撃墜された現実を垣間見たネオ・ジオンの兵士達は言葉無く圧巻させられるしかなかった。

 

「ヒュー……さすが気合い入ってんなー、ヒイロのヤツ!!」

 

デュオも口笛混じりに関心を示し、カトルはロニの事と状況をダブらせて感じていた。

 

そんなヒイロの攻勢を見て、カトルは通じるモノを感じていた。

 

「えぇ!!何せマリーダさんがかかってますからね……僕も今、同じ状況ですからヒイロの気持ち解ります!!」

 

「そ、そうか。カトルも囚われのお姫様がいるんだよな……」

 

「うん……けど、今はマリーダさんとプルの救出です!!!このまま戦力を削って、敵艦内に突入しましょう!!!」

 

「既にヒイロが大半を掃除してくれた。残り10機、一気に片付けるぞ」

 

ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改は散開し、一気に攻勢に出る。

 

その最中、ガンダムデスサイズ・ヘルに2機のプライズリーオーのドーバーバスターとリゼル・トーラスのメガビームランチャーの攻撃が集中する。

 

だが、アクティブクロークによりほとんどダメージの効果はない。

 

「効いちゃいねーよ!!!いっくぜぇええぇっ!!!!」

両眼を光らせながらアクティブクロークを展開するガンダムデスサイズ・ヘル。

 

発動したアームド・ツインビームサイズのビーム二連刃とバスターシールド・アローのビーム刃をかざし、立て続けにリゼル・トーラス2機へ裂断と刺突を食らわせる。

 

 

ザシュガァアッッ、ズガドォオオオオッッ!!!!

ゴゴバァアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 

そして一気に接近したプライズリーオーに、アームドツインビームサイズの薙ぎ軌道の斬撃を浴びせた。

 

 

 

ザシュガァアアアアンッッ!!!!

 

ドッゴバァアアアアアアアアンッ!!!

 

 

一方のガンダムヘビーアームズ改はプライズリーオーとプライズジェスタ、2機のカスタムジェガンに攻め入り、ビームを躱しながらダブルビームガトリングとブレストガトリング、バスターガトリングキャノンの射撃を浴びせ続ける。

 

 

 

ヴォガドゥルルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!!!

 

ディギャララララドドドドガァアアアアンッ!!!

 

 

ビームライフルの射撃を捩じ伏せるようにカスタムジェガンを立て続けに撃墜した直後、プライズリーオーとプライズジェスタにも立て続けにガトリング斉射撃を浴びせた。

 

 

 

ヴァガドドドドルルルルルルルルゥゥゥ!!!!

 

ドドドヴォバガァララララアアアアアン!!!

 

 

 

咄嗟にガードするも、シールド諸ともプライズリーオーはズタボロに破砕爆破し、プライズジェスタも同様に爆砕する。

 

この攻撃を目の当たりにしたもう1機のプライズジェスタが、ビームサーベルに切り替え、ガンダムヘビーアームズ改に突撃を慣行する。

 

「その攻め方は間違いではない。だが、うかつ過ぎたな」

 

 

 

ジャキッ、ヴゥィッ―――ヴァズドォオオオオオオオオオオオオッ!!!!

 

ドズシャアアアアアァァッ……ゴバァドガァアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

トロワはアームバスターカノンを浴びせ、えげつなくプライズジェスタを吹き飛ばしながら爆砕させた。

 

「悪いけど、墜とさせてもらうよ!!!」

 

そしてカトルのガンダムサンドロック改はビームマシンガンで射撃を浴びせながらカスタムジェガンを撃墜し、その勢いを乗せながらプライズリーオーを目掛け加速する。

 

 

 

ヴィドゥルルルルルルゥッ!!! ヴィドゥルルルルルルゥゥッッ!!!

 

ディディディディガガガガァンッ、ドドドドドガァアアアアアン!!!

 

 

 

「はぁあああああっ!!!」

 

 

 

ディッッガイィイイイイイイイインッ!!!!

 

ゴッバガァアアアアンッ!!!!

 

 

 

振りかぶったレフトアームのバスターショーテルで豪快にプライズリーオーを叩き斬ると、クロスクラッシャーの刺突を兼ねた斬撃でプライズジェスタに突撃し、機体を豪快に切断・破砕させた。

 

 

 

ゴッ―――ズゥガァオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

 

メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達の介入により、瞬く間にグラーフ・ドレンデの戦闘部隊は壊滅した。

 

突き進んだウィングガンダム・ゼロは、グラーフ・ドレンデの対空砲火を引かせる軌道で旋回飛行を開始し、デュオ達は三つのカタパルトハッチに突撃する。

 

容易くグラーフ・ドレンデのハッチは斬撃と砲射撃、突撃の三拍子で破壊され、ガンダムデスサイズ・ヘル、ガンダムヘビーアームズ改、ガンダムサンドロック改の3機がグラーフ・ドレンデに侵入し、手当たり次第に内部区画を破壊していく。

 

 後続したラルフのサーペントとラシード達のマグアナックチームもそれに続くようにグラーフ・ドレンデへの射撃を開始する。

「手筈通りに囮射撃開始!!マグアナックチームもよろしく!!」

 

「任せな!!ラルフの兄ちゃん!!マグアナックチーム、散開!!!主に邪魔くさい対空機銃やメガ粒子砲に中ててけ!!!」

 

「おおぉ!!!」

 

サーペントと4機のマグアナックチームは散開し、各々にダブルガトリングやビームライフル、ビームマシンガン、アームビームキャノンで射撃を開始した。

 

サーペントとラシード機、アブドゥル機、アフマド機は左舷と右舷に別れての射撃を、カタパルトから対空機銃、VLSミサイル装置、ブースターエンジン部へと順次に与え、アウダ機はアームクローで主砲の砲身に突き刺しながらの零距離射撃で破壊していく。

 

CICブリッジでは誰もが驚異と脅威に、そして戦慄に支配された空気に縛られていた。

 

「MD、MS部隊……全滅っっ!!!馬鹿なっ?!!」

 

「こ、これが、メテオなんたらのガンダムの力!!!」

 

その間にヒイロはグラーフ・ドレンデを周回旋回しながら発動したゼロシステムで、マリーダの収監場所を導き出そうとする。

 

「ゼロ、マリーダへ俺を導けっっ!!!!」

 

コックピットの全周がゼロシステムの発動発光に包まれ、システムを介したヒイロの視覚モニターにグラーフ・ドレンデをバックに振り返るプルのイメージが投影された。

 

 更にそこから先の未来を演算した情報がヒイロに投影されていく。

 

「……やはりプルがカギを握るか……」

 

 ゼロシステムの見せる情報の先に、膝を抱えたマリーダの姿が投影されたその時―――。

 

「みんな、聞こえるか?!!プルの安全は確保したっ!!!ユニコーンガンダムの中に居てくれてた……!!!ッつ……とっとと終わらせようぜ!!!これ以上プルとマリーダをいさせていい艦じゃねー……!!!!」

 

アディンのその声は良い意味で予期せぬ展開を知らせ、救出にあたる誰もに驚愕と半分の安堵を与える。

 

 しかし同時にどこか怒りに思い詰めた感じを感じさせた声のようでもあった。

 

そしてウィングガンダム・ゼロにプルからの通信が入り込み、彼女の顔がサブモニターとして表示される。

 

「ヒイロ!!」

 

「プルか!!単刀直入……いや、はっきり言う!!プルの力でマリーダの収監位置を教えてくれ!!」

 

「わかってる!!任せて……!!!ユニコーンもお願いね。手伝って……」

 

 プルはそうユニコーンガンダムへ語り掛けると、バイオメトリクス・センサーに手をかざして機体を起動させた。

 

 ユニコーンガンダムのサイコフレームとプルのニュータイプの力の共鳴で更なる感度上昇を図る為だ。

 

 機体の起動と共に、エメラルドの光を放出してデストロイモードへと変身していくユニコーンガンダム。

 

 その時、内部破壊に侵入したデュオ達もこの区画の格納庫で合流し、奇しくも5機のガンダムがいる状況を作っていた。

 

 プルはこの間にも瞳を閉じながら意識と感度を集中させてマリーダの収監位置を感じ取り、それに伴うようにユニコーンガンダムが放つアクシズショックの光は増大していく。

 

「ヒイロ……マリーダは……」

 

 プルの感応が次第にマリーダの収監位置の特定に近づけていくと同時に、ゼロシステムがヒイロに見せる映像もまた詳細な場所を示していく。

 

 それはグラーフ・ドレンデの左舷居住ブロック区画であり、ゼロシステムが見せていた膝を抱えた姿のマリーダが顔を上げる。

 

 その表情は助けを求めるように寂しげな表情をしていた。

 

「マリーダっ……!!!」 

 

 同時にプルもまたマリーダの感応位置を特定し、目を見開いてヒイロに告げる。

 

「マリーダは左舷居住ブロック!!!真横から見た翼の付け根の左側のブロックにいる!!!」

 

 プルの声と共にゼロシステムもまたより詳細な導きを示した映像をヒイロに見せた。

 

「了解した……!!!」

 

 ヒイロは旋回中のウィングガンダム・ゼロに加速をかけ、その特定したグラーフ・ドレンデ左舷側の居住ブロック目掛けてウィングガンダム・ゼロを激突させる勢いで迫った。

 

 そして更なる所在の演算情報を見たヒイロは、その一瞬の判断で一気に減速をかけながらシールドを突き出したウィングガンダム・ゼロを居住ブロックにぶつける。

 

 凄まじい衝撃と共に突き破られた居住ブロックへ再度シールドを突き刺して機体を固定し、コックピットハッチを押し当てた状態にしてヒイロが突入する。

 

 すると艦の内部にアクシズショックの光が廻っているのがいるのが確認できた。

 

 プルとユニコーンガンダムの成す共鳴は想像の上を行っていることを物語る。

 

 だが、この時後部カタパルトより謎の未確認MSが飛び立つのをラルフ達が確認していた。

 

「なんだ……?!!MSなのか?!!だが速いにも程がある!!サーペントの足じゃ無理だ!!!」

 

 口惜しい思いを抑えて拡大するとかつてのジオングに似たシルエットのMSであることだけが確認できた。

 

「ジオング?!!いや、違う……」

 

 内部通路を隔てマリーダのいるルームを目指す中、ヒイロは偶然居合わせたマーサの私兵達に反撃の間も与えずにサイレンサーハンドガンで射殺し、隣接するルームの扉を携帯小型爆弾で爆破させた。

 

 ヒイロが中に突入すると、その薄暗いルームの中に横たわるマリーダを確認する。

 

 直ぐに駆け寄ったヒイロは、彼女を抱き起こしながら安否の確認を投げかけた。

 

「マリーダ!!!大丈夫なのか!??マリーダ!!!」

 

「う……ん……うっ、ひ……ヒイロ?」

 

 意識もあり、ヒイロを認識できるようであったが、マリーダはかなり憔悴憔悴しきっている様子だった。

 

「マリーダ……!!!マリーダ……少し無理するかもしれないが、いくぞ。俺に掴まれ!!!これ以上忌まわしい思いはさせない!!!」

 

 マリーダがうなずきながらヒイロの肩に両手をまわすと、ヒイロは彼女を抱きかかえながらすぐさまこの場を後にする。

 

 マリーダをコックピットのサイドスペースに座らせると、ヒイロは作戦のコンプリートを通達する。

 

「マリーダの救出完了。任務は成功した……!!!」

 

 この通達を合図に、戦闘に参加していた皆が一斉に安堵を示した。

 

「よくやった!!!領域からの離脱フェーズに入る!!MSチームは戻ってくれ」

 

 ケネスの指示によりパイロット達はグラーフ・ドレンデから離脱を開始し、グラーフ・ドレンデのカタパルトからもデュオ、トロワ、カトル、そしてアディン達のガンダムが一斉に飛び出していった。

 

 ユニコーンガンダムも共に脱出し、プルは振り返りながらマリーダを乗せたウィングガンダム・ゼロが離れていく事を確認する。

 

「マリーダ……よかった……ほんとによかった……!!!みんな……ありがとう……!!!」

 

 プルは自分とマリーダが劣悪な環境から解放された安堵と嬉しさ、動いてくれたヒイロ達への感謝に涙を流す。

 

 だが、ヒイロとアディンはただ離脱するだけには止まらなかった。

 

 駆け抜けてきた戦場の中で出会った大切に想える存在を貶し汚され、傷つけられてきた艦だ。

 

「アディンが沈めるべき艦だが、マリーダをここまでされた以上一矢報いらせてもらう……!!!!ツインバスターライフル、ロック・オン!!!」

 

 射程ポジション調整の為にわずかに離脱したウィングガンダム・ゼロは、ツインバスターライフルを居住ブロックに狙いを定めてジャキンと銃身をかざす。

 

 それと同時のタイミングでガンダムジェミナス・グリープも背部のメガ・パーティカルバスターを前方に展開させ、ブースターモードからキャノンモードに変換させていた。

 

「プルを傷つけやがって……!!!どこまで忌まわしくなるつもりだよこの艦の連中はよぉっっ!!!!ぶっ潰してやんぜ!!!!メガ・パーティカルバスターキャノン、スタンバイ!!!!」

 

 展開するメガ・パーティカルバスターキャノンの砲塔銃身角度は、CICブリッジの方向を指していた。

 

 そして両者のコックピットに詳細かつ精密なロック・オン照準が表示される中、GNDエネルギー圧縮率が臨界パーセンテージに達した。

 

 ヒイロとアディンは同時にエネルギーを開放する。

 

「忌まわしき場所を破壊する……!!!」

 

「メガ・パーティカルバスターキャノン、いっちまぇえええええええええっっ!!!!」

 

 

 

 ヴウゥッ―――ヴォズドォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 ヴォオルゥヴァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!

 

 

 

 唸り荒れ狂うビーム渦流のエネルギーが、マーサ私兵を含むグラーフ・ドレンデクルー達を次々に蒸発させていく。

 

「がぁあアアアア?!!」

 

「ごぁはぁがっ―――?!!」

 

「超高エネルギー反のぅがぁがへるぱっ?!!」

 

「ごぅばぁがあっ―――?!!」

 

「ひぐぁばぁあ―――?!!」

 

 ツインバスターライフルが放ったビーム過流は、左舷ウィングユニットを破壊しながら、居住ブロックからカタパルトブロック、カタパルトレールにかけて吹き飛ばすように貫通し、破壊エネルギーに満たされた射撃対象の艦体部を一気に爆砕させる。

 

 もう一方のメガ・パーティカルバスターキャノンの放ったビーム過流は、グラーフ・ドレンデの艦体から噴き出るように放たれ、CICブリッジを吹き飛ばし、VLS甲板ブロック、後部メガ粒子砲ブロック、後部カタパルトブロック、にかけて射撃角度を下げながら爆砕させていった。

 

押し寄せるビーム渦流の熱エネルギーが、OZプライズ兵やマーサ私兵達を灼き尽くしながらかき消していく。

 

マリーダやプルに苦痛屈辱の限りを尽くした一部のマーサ私兵達もまた因果応報よろしく、業火のごとき熱エネルギーに吹き飛ばされていった。

 

 破壊開口部からガンダムジェミナス・グリープが飛び出し、ウィングガンダム・ゼロと共に爆炎を上げるグラーフ・ドレンデの前方に就き、ヒイロとアディンは止めの一撃を撃ち放ちに出る。

 

 この時、コックピットフレームを握っていたマリーダの手がヒイロの右手に添えられ、共に忌まわしき場所を断とうとする想いがツインバスターライフルに籠められた。

 

一方のアディンもプルに聞かされたグラーフ・ドレンデの出来事に抱く怒りを籠める。

 

そしてウィングガンダム・ゼロとガンダムジェミナス・グリープはそれぞれの想いを籠めた一撃を撃ち放った。

 

 

 

 ヴァドゥルゥヴォァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッッ!!!!

 

 

 

 ツインバスターライフルとメガ・パーティカルバスターキャノンの二つのビーム過流が、グラーフ・ドレンデの両舷を一気に吹き飛ばしながら艦体中央へとビーム過流の射撃範囲角度を集束していく。

 

 その両者のビーム過流がぶつかり合い、より一層の破壊力を爆発させながらグラーフ・ドレンデを文字通りに消滅に相当する形で轟沈させていった。

 

 

 

 不可能と思われたマリーダとプルの救出は見事に成功を成し遂げた。

 

 事を成し遂げた事に安心感を示したジンネマンはため息と共に背もたれに身を預ける。

 

 だが、肝心のヴァルダーはラルフ達が目撃した謎のMSに乗り込んでおり、マーサのシャトル共々脱出してしまっていた。

 

 しかし今の状況にしてみればそれは些末であり、任務の成功自体が彼らに大打撃を与えたに等しい。

 

 マリーダとプルという戦争の悪意に翻弄され続けてしまった彼女達の帰還こそがかけがえのない報酬だ。

 

 ヒイロは右手に触れ続けるマリーダの手にそっと自分の左手を置いて握った。

 

「ヒイロ……」

 

「マリーダが確かにここにいる……温もりを感じる。もう、マリーダを二度と奴らの好きにはさせない。ここから先は……俺がマリーダを守る……」

 

「そうか……ありがとう……こうしてヒイロと触れていられることも……また嬉しい……」

 

「俺もだ。マリーダ」

 

 ヒイロがそう言うと、マリーダはそのままヒイロの肩に自分の頭を寄せた。

 

 マリーダの髪の感触と体温がヒイロに伝わり、一層の任務の成功を感じてならなかった。

 

「任務……完了」

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 

 

 マリーダとプルはヒイロ達に救出され、いるべき場所に還る。

 

 二人の娘と再会したジンネマンは、涙を流して迎え入れ、掛け替え無き価値ある報酬をかみしめる。

 

 親子の再会を見届けたヒイロ達もまた次なる段階の流れに入り、オセアニアエリアで反抗活動をするマフティーとの共闘作戦に入っていく。

 

 その最中で、マリーダはジンネマンを遂に父と呼び、その後の彼女の行動の意思も赦した。

 

 メテオ・ブレイクス・ヘルとマフティーが結託し通信談義するその一方、旧シドニーのOZ収監施設の洋上では、捉えたマフティーメンバーをはじめとする、反抗勢力の囚人達の処刑が執り行われようとしている。

 

 しかしその処刑は、トレーズ幽閉に異を唱えるOZの反抗を発端にしたOZプライズの力による粛清を恐れたOZの一部の者達による画策であった。

 

 マフティーメンバーのミヘッシャが処刑執行目前に晒される中、二つの組織のガンダム達が介入する。

 

 

 次回、新機動闘争記ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード38 「マフティー合流」

 

 

 

 

 

 

 


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