新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード35 「再起する流星達」

宇宙要塞・コンペイ島消滅。

 

この事態はOZ及びOZプライズに衝撃と恐怖を与えた。

 

同時に暴走機であるウィングガンダム・ゼロの討伐失敗を悟らせもした。

 

討伐を指揮していたバルジにおいては尚更であった。

 

指令室ではオペレーターがこの一連の状況をディセットに伝える。

 

その声は驚愕に囚われ震える。

 

「こ、コンペイ島っ、消滅!!!討伐隊、コンペイ島所属部隊、共に通信が取れません!!!」

 

「……ウィングゼロというガンダムは……健在か?!!」

 

「機体自身がレーダー反応に捉えれませんが、放たれた熱源ポイントにおそらく……!!!」

 

「ロスト……という事か……ガンダムのパイロットを持ってしてもダメか……!!!」

 

ディセットは同格相当のMS2機に加え、それに搭乗させた高度なACE級のGマイスター二人を持ってしても対応しきれなかった事態に行き詰まる。

 

それは即ち当初発案したトラント達三人を投入したところでも結果に差違はない事を物語っていた。

 

「もう1機のデルタカイはまだ見つからないのだな?」

 

「はっ!!依然として消息不明です……!!!」

 

唯一自軍において同格のガンダムデルタカイも共に行方を眩ませてしまっていた。

 

相手が軍やテロリスト組織ならばまだまともな事の運びができていたであろう。

 

2機は単機である上、暴走している機体故に対処が困難を極めるのだ。

 

更に言えば地球圏に現存する全てのMSを総合して最強クラスの機体なのである。

 

 

 

その頃、L1のとあるポイントにてジオンやネオジオンの残存から派生した宙賊のMSがシャトルに襲撃を仕掛ける事案が発生していた。

 

彼らは強盗をした後に口封じに乗客諸ともシャトルを破壊するのだ。

 

シュツルム・ディアス、ハイザック、マラサイ、ガルスJ、リゲルグ、ゲルググM、ドライセン、ドラッツェの8機が犯行に及んでおり、今正に金を巻き上げ、シャトルを破壊する瞬間だった。

 

無慈悲に老若男女がのるシャトルがハイザックのビームライフルの一撃で破壊された。

 

「しゃあ!!かなりの収穫だ!!!」

 

「あぁ!!当分は豪遊できる!!!早速女遊びだな!!!」

 

「ははっ、相変わらず好きだな、お前!!!」

 

「ともあれ宴だ、宴……?!!なんだあの機体?!!」

 

リゲルグの男がモニターに接近する機影を目視確認した。

 

 それは見た目上空間戦闘機のようなタイプであった。

 

 すなわち次なる獲物……宙賊達は一斉に高揚した。

 

「ひゃはっ!!今日は大量!!」

 

「しかもアレ、ガンダムタイプじゃねーかぁ?!!全機でかかりゃ目じゃねーぜ!!!どだい、ゼータプラスかなんかだろ?!!」

 

「売れば更なる儲けだ!!!獲るぜ、おめーら!!!」

 

 欲におぼれた宙賊達は相手がガンダムタイプと判断しながらも、機体数でモノを言わせようと挑む。

 

 だが次の瞬間、動きを止めた戦闘機が機体を突如として各部変形させ始めた。

 

 シールドと思われるものが外れ、腕、脚と瞬く間に各部を変形させていく……その各部を変形させて見せたその容姿は紛れもない行方不明になっていたガンダムデルタカイであった。

 

 地球圏最強クラスの機体とは認知できていなかった彼らは一斉にビーム兵器による射撃をガンダムデルタカイに向けた。

 

「やはりガンダム!!!コックピットに集中砲火!!!何、ガンダムなら腕や脚でも破格の値が付くぜ!!!」

 

 ビームの放火が開始され、どの射撃も外れることなくガンダムデルタカイに集中した。

 

 だが、装甲表面でビームが弾くような状況から何ら一遍する様子は見受けられない。

 

 幾度となくMSや民間機を襲ってきた彼らにとって明らかに異常な違和感であった。

 

「……な、何ぃ?!!ビームが……効いてない?!!」

 

「……こ、これは?!!」

 

 ガンダムデルタカイは平然として空間に身を置き続けているが、一向に破壊が起こる様子は起こらない。

 

 豪を煮やした一人の宙賊がゲルググMを突っ込ませた。

 

「ならっ……コックピットに殴り込むまでだぁああああ!!!」

 

 ナックルシールドを振りかぶりながらゲルググMがガンダムデルタカイへ迫る最中、ガンダムデルタカイがそのゲルググMにレフトアームのシールド兼用のバスターソードをかざす。

 

「なにぃいっ――――?!!」

 

 ゲルググMは対処しきれずその巨大な切っ先に突っ込み、思いっきり胴体部を串刺しにさせてしまった。

 

 ガンダムデルタカイはそれだけに止まらせず、バスターソードに装備されたハイメガキャノンを発射し、突き刺さっているゲルググMを容易く爆砕させた。

 

「な……?!!こ、この野郎ぉおおお!!!」

 

 メンバーの撃破に怒りを覚えた宙賊達は更なるビーム射撃を加える。

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムデルタカイは、バスターソードをシールド兼用し、悉くビームを防御して見せた。

 

 そして遂にガンダムデルタカイは反撃の行動に移り、宙賊の機体群に機体を飛び込ませながら再度レフトアームのバスターソードを突き出す。

 

 その一撃がシュツルムディアスのボディーを突き砕いて機体を破砕させた。

 

 次の瞬間からはライトアームのメガバスターで射撃を開始し、三発のビーム過流を見舞わせた。

 

 その攻撃に悉くドラッツェとマラサイ、ハイザックが吹き飛ばされて爆砕し、宇宙の爆発光と化す。

 

「一瞬で5機が……!!!畜生ぉおおがぁああああ!!!」

 

 ビームガンを放ちながらナックルアームを振りかぶるガルスJだが、これもメガバスターのビーム過流に敢え無く吹き飛ばされ爆砕に果てていった。

 

 次々とメンバーが撃墜される中、リゲルグとドライセンが持てる白兵戦装備を振りかざしてガンダムデルタカイの後方から迫る。

 

 だがガンダムデルタカイは容易くこれを躱し、背部左右のバスターファンネルを即時展開させた。

 

 展開したバスターファンネルは一瞬のエネルギーをチャージすると、2基同時にビーム過流を解き放つ。

 

「があああああああ?!!」

 

 撃ち出されたバスターファンネルのビーム過流の直撃を食らったドライセンとリゲルグは、吹き飛ぶように機体を爆砕され宇宙のデブリと化した。

 

 遭遇した宙賊の機体残骸が漂う中、コックピットのリディはただただ呼吸を荒く出し続けるしかなかった。

 

「はぁハア、はぁはぁハアはぁハアっ……はぁはぁはぁ……!!!」

 

 その最中にゼロシステムがリディに次なる行動を提示する。

 

 彼の脳裏に投影されたのは地球であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ……くぅっ、次のっ敵ッ……!!!」

 

 

 

「ガンダムデルタカイ……ウィングゼロ……なんて機体がこの時代に現れたのだ……くっっ!!!」

 

破格級の同格機体が2機存在する時点で、既に宇宙世紀のMSの常識は崩壊していた。

 

それ以前にも増して、MS単機でコロニーや資源衛星、宇宙要塞型小惑星を破壊するなど、従来のMSの常識どころか地球圏のパワーバランスを崩壊する事態に至っている。

 

(……トレーズ閣下……私は如何なる指揮を執ればよろしいのですか?!!トレーズ閣下っ?!!)

 

ディセットは心中において苦渋の想いをトレーズにといかけ、歯軋りをした。

 

そのトレーズは今、正にOZプライズの新体制を公表する場に居合わせていた。

 

その場はOZ及OZプライズの組織ではルステンブルク会議と呼ばれ、連邦の時代からも行われており、長きに渡り重要な組織の伝統となっていた。

 

彼の視線先にはOZ、OZプライズの後ろ楯であるロームフェラ財団の長・デルマイユ公が新体制について語る。

 

「……であるからして、これからのOZ、OZプライズはより一層の確たる秩序を持って地球圏を統治するのである!!!それを可能とする一つが、無人機動兵器・モビルドール(以降改めMD)であるっ!!!そのMDは試験的にリゼル・トーラスに搭載配備され、捕らえた反抗テロリストのガンダムパイロットの戦闘データを反復させたデータ収集により、正規として!!シルヴァ・ビルゴ及びサジタリウスの配備が決定した!!!今後はプライズ選りすぐりの精鋭と死なない兵士達の時代に移行していく事だろう!!!」

 

デルマイユのその言葉にトレーズは眉を潜めた。

 

デルマイユの言葉は更に続く。

 

「よってこの場で、我々が新たな時代の為に行う事を公表する!!!OZをOZプライズに取り込み、今あるロームフェラの力を世界の統治の為に一つとするのだ!!!」

 

聞こえは良いが、デルマイユが放った言葉は言い換えればOZの存在を消すに等しい事でもあり、いわばOZの兵士達のリストラに等しくもあった。

 

トレーズは人・兵士を愛する考えであり、それがどれ程残された兵士たちに悪影響を及ぼすか懸念せざるを得なかった。

 

 だが、トレーズの懸念をよそに、周囲はどよめくどころか拍手喝采を巻き起こしている。

 

(デルマイユ公……そして今ここにいるロームフェラ財団の面々……彼らはOZの兵士達の意思を無視して切り捨てようとしている。実際はOZの兵士の大規模なリストラ政策なのだ。彼らはロームフェラであると同時に地球圏の歴史を裏で操作する組織・『ブルーメンツ』の一員だ。無論、この私も。しかし、兵士達を切り捨て、財団に選ばれた兵士のみと無人兵器の方針ばかりは……私自身の意志が賛同できない……!!!)

 

トレーズはロームフェラ財団のメンバーでただ一人、静かに反抗の意思を灯していた。

 

そしてトレーズの心中で語られた組織・ブルーメンツ。

 

彼らこそが、遥か古より人類の歴史の動きを操作してきた秘密結社であり、今に至る歴史の流れや動きを全て「ビルドワールド会議」という会議により取り決め、全て彼らの為の世界秩序と利益のバランスの為に操作しているのだ。

 

フロンタル派ネオジオンへの戦力・資金提供や私利私欲の暴走をするマーサ一味のバックアップ、連邦からOZの時代への強制切り替え、バルジ配備、そしてMD体制など多岐に渡る動きは彼らによる歴史操作の決定によるものであった。

 

 戦争こそが最大の利益を生産する。

 

その中でまことしやかに建造させていたバルジⅡ、バルジⅢを稼働体制にする動きや、月の地下において超巨大MA(以降モビルアーマー)の建造を進める流れも彼らが根回しをしてきていたのだ。

 

バルジⅡとバルジⅢは今後のOZプライズによる支配体制をより一層強力なのものとさせるコトを目的に建造され、全ては無論ながらブルーメンツによるものだった。

 

 デルマイユは更にこのことについても時折拳を握りながら述べる。 

 

「今、我々は宇宙要塞・バルジを保有しているが、これに続きバルジⅡ、バルジⅢの建造も行ってきた。無論新体制の新たるもう一つの秩序の為に他ならん!!宇宙世紀におけるこれまでの歴史が生んできたイレギュラー要素は我々の力をもって清算するべきなのだ!!よって本日、秩序たる力をここにいる皆様方お見せしようと存じる!!」

 

 デルマイユが立つ背後に巨大なモニタースクリーンが現れた。

 

 そこには既に発射行程に移行してるバルジⅡとバルジⅢの姿がに分割の画面で表示され、いつバルジ砲を発射してもよい状況にあった。

 

「この試射は正に我々の秩序を具現化したものとなるのは間違いありません……バルジの射軸線上にはテロリスト組織が内在するとの情報が確定しているコロニーがある。それら不穏分子に対し、我々は動くのだということを……では……ご覧いただきたい!!!」

 

 会場に座すロームフェラ財団の面々達が注目する中、映像に映し出された二機のバルジの主砲にエネルギーが真紅に近い光を収束させていく。

 

だが、この二機の射軸線上遠方にはコロニーがあった。

 

そのコロニーでは日常的な生活が展開しており、仕事中の会社員や車が行き交う情景、路地を行き交う人々、ショッピングを楽しむ人々、下校途中の学生達等の姿が見られる。

 

しかし、そのコロニー群の奥には密かに出入りするネオジオンの残存軍の姿が見受けられていた。

 

確かにネオジオンは既にテロリストの定義内に見なされる存在だ。

 

だが、バルジ砲を使うには余りにも仰々しいものだった。

 

それどころか管制モニターに表示される射軸線上には確実に他のコロニーも射程内に巻き込んでいる。

 

バルジ砲の砲門にはエネルギーチャージが進行し、スパークが発生し始めていた。

 

「ねー、ねー!!ここのカフェ、いいでしょー?」

 

「うん♪ホント、お店の装飾もかわいいし、このパフェも美味しい♪」

 

そのコロニー群の中のコロニーの一角でカフェタイムを楽しむ女子高生の二人。

 

支配や殺伐とした現実が拡大するコロニー情勢だが、中には日常的かつ平凡な状況のコロニーもあった。

 

スプーンでパフェを掬い、ココアを飲み、携帯データベースのアプリで遊ぶ……日常的たる日常的な光景だった。

 

だが、この時、デルマイユのニヤリとした笑みと共に、バルジⅡ、バルジⅢのバルジ砲が発射された。

 

会議場のロームフェラ財団の面々が「おぉ!!」と声を上げる中、射軸線上のアングルへと画面が切り変わった。

 

発射された真紅の大規模なビーム渦流の光は、宇宙空間を突き進みながら各コロニーを悉く呑み込んでいく。

 

ビーム渦流を浴びたコロニーは次々にかつ、一瞬にして破砕・爆破・消滅していき、先程の女子高生達がカフェを楽しんでいたコロニーには、バルジⅢのビーム渦流が迫っていた。

 

ココアを飲み切り、一息ついた女子高生はもう一人に退店を促す。

 

「ふー……ね!!次はさ、タピオカのお店にいこーよ!!タピオカ!!」

 

「あはは!!太るよー?!ここ二件目だよー?」

 

「いーじゃーん!!旧世紀の女子高生にも人気だったんだってータピオカ!!だからさ……」

 

他愛ない会話の最中、急に足元に暖かさを感じ「え?」となる二人。

 

だが、直後、地震のような振動と共に超高熱が彼女達を襲った。

 

「きゃあああっ―――?!!」

 

下から押し寄せるエネルギーが爆破のように押し上げて彼女達の体を吹き飛ばして蒸発させた。

 

次々にコロニーはバルジ砲の巨光に呑まれ、宇宙の爆破光と化していく。

 

この狂気の映像を見せながら、デルマイユは喝采に近いどよめきの中で続けた。

 

「……これが、我々がもたらす秩序だ!!既にあるバルジと共に頑ななこの力を持って、MD体制と共に……!!!」

 

「異義ありっ!!!」

 

その時、会議場に一つの声が響き渡った。

 

声の声質はトレーズ以外の誰でもなかった。

 

急激に静まる中、誰もがトレーズに視線を集中させ、デルマイユもまたトレーズに対し眉間にしわを寄せた。

 

「……トレーズ……!!!」

 

「異義あり……デルマイユ公。大衆を巻き込む……これはこれまでの連邦や旧世紀にあった戦争の悲劇であり、過ちに他なりません。新たな体制のロームフェラはその過ちを進んで提唱するのですか?更に述べさせていただくならば、これまで戦ってきているOZ兵士達を切り捨てようなど、私は賛同できません……!!!」

 

会議場の誰もが負のどよめきをし始める。

 

OZ、ロームフェラの重要人物であるトレーズが自らロームフェラの長であるデルマイユに反抗の意思を示したのだ。

 

少しばかりそのどよめきに目を配りながらトレーズは続けた。

 

「……人類は確かに戦いを止めない。その戦いに身を投じる事を私は肯定し、その姿勢を愛します。戦ってこそ人は美しい。しかしそれは戦う資格を持つ兵士や反抗の意思を持つテロリスト達に限られる。戦う資格がない大衆を巻き込む体制は言語道断と言って良い。大衆は本来ならば、力ある我々が守り、導いていくべき存在なのだ」

 

「貴様っっ……!!!」

 

「今のように圧倒的な力を持って大衆諸ともねじ伏せる姿勢や、OZの兵士を切り捨てプライズの兵士達と無人兵器による体制もまた後の世にも恥ずべき行為である……そう感じてならない。何故ならプライズの兵士の姿勢は大衆を巻き込むと聞く。かつての地球連邦やティターンズを思えてなりません。デルマイユ公……これも、ブルーメンツの歴史シナリオなのですか?」

 

「な?!!トレーズっっ!!!貴様の発言の重さはわかっているのだろうなっ……?!!」

 

トレーズが口にしたことはタブーの中のタブーであり、どよめきを広めていた会議場が氷ついた。

 

トレーズの発言にはそれほどの覚悟が籠められていた。

 

「無論です……ブルーメンツが造りだすシナリオは更にロームフェラに歪みを生む。それは必ず彼らや他の反抗の意思を再び歴史に召還する。そう……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム達を……!!!」

 

ブルーメンツが創造する歴史のシナリオに破壊を投じる存在が確かにこの世界にあった。

 

それがメテオ・ブレイクス・ヘルが産み出した「ガンダム」である。

 

トレーズの洞察にシンクロするように事は動き始めていた。

 

四枚のウィングバインダーを展開させたウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルを構えたまま静止し続け、ガンダムデスサイズ・ヘルとアルトロンガンダム、ガンダムジェミナス・グリープは静かに反抗の時を待つ。

 

この時、特別メンテナンスの為に解放されていたディックにより、ガンダムジェミナス・グリープは本来の性能を引き出す仕様とセッティングが成されていた。

 

無論、OZプライズのMDシステムによる運用の建前だが、実際はアディンが乗った時の為のセッティングだ。

バルジを目指して宇宙を航行するネェル・アーガマの中においても、反抗再開を目前とするガンダムヘビーアームズ改とガンダムサンドロック改が、サーペントと4機のマグアナックと共にして控える。

 

そして、そのパイロット、即ちGマイスター達やマグアナック隊達の面々もまた、各々に反抗の再開の時が多重のベールをめくるがごとく構えていた。

 

ブリッジとCICを兼ねたネェル・アーガマの機首部で、カトルとトロワがラシード、アブドル、アウダ、アフマドと共に向かう先を見据える。

 

キャプテンであるケネスも彼らと共に反抗に幇助する想いを改めるように見据えていた。

 

バルジの牢獄では五飛がアルトロンガンダムのデータを投影させながら新たな機体を閲覧し、アディンはジンネマン達と共に反抗プログラムを反復して確認をする。

 

一方のデュオは半壊のヴァイエイト・シュイヴァンをひたすらバルジへ向けて飛ばす。

 

そして破壊したコンペイ島を見据え続けていたヒイロがゼロシステムのレドームモニターの光に照らされ、次なる行動のポイントを選定する。

 

その鋭い眼光は反抗の意思を強く放つモノだった。

 

確かに反抗の狼煙は放たれようとしていた。

 

トレーズは閉じていた瞳を見開き、再び述べ続ける。

 

「……彼らは連邦の時代より続く時代に、かつてない反抗の意志を掲げて我々に攻撃を仕掛けてきた。それは驚異かつ脅威である事は言うまでもなかった。だが、同時にその強烈な純粋さに衝撃を受けた。確かに今、彼らは歴史上敗者の位置付けにあり、今は我々の手中にあると言っていい。だが彼らは今尚抗い続けている。捕らえた者達は死のうとせず辛酸を舐めながらも生き続けている。私には反抗を諦めていない意志の強さを感じてならない……そんな彼らには敬意すら感じてしまう……正に戦う美しき戦士達なのだ……!!!」

 

「トレーズ……相変わらず意図が滅裂だな……して、貴様は何が言いたい?!!」

 

会議場がトレーズに注目し続ける中、一旦瞳を閉じ、静寂を漂わせたトレーズが間もなくして瞳を見開いた。

 

「私は……敗者になりたい……!!!」

 

「ほう……では貴様からOZを取り上げて良いと言うのだな?!!」

 

「はい……」

 

 緊迫する空気の中で、デルマイユは貴族気のある銃を手にしてそれをトレーズへと向けた。

 

「……」

 

「……」

 

 トレーズとデルマイユの無言の間が続く中、銃を出したデルマイユは自らが出した銃を下ろし、今後のトレーズとOZの処遇を述べた。

 

「……トレーズ。貴様のこれまでの功績もある。血生ぐさいことはできん!!今この時より、トレーズを無期限の幽閉とし、OZはOZプライズへ吸収する運びとする!!!」

 

この瞬間にまた歴史が動いた。

 

トレーズはそれを把握したかのように無言で振り返えり歩き出す。

 

今充たされた空気はデルマイユいわくOZがOZプライズに吸収された空気であり、それはOZが事実上切り捨てられたに等しかった。

 

それでもトレーズは満足な笑みを浮かべて威風堂々と退場していく。

 

その様は歴史の表舞台から去るかのようにも見える。

 

(デルマイユ公があの着飾った銃で私の胸板を射抜いたとて、私に感動を与えない。また歴史が動く……時代に抗いし者達は自由なのだ。心が……)

 

トレーズは会議場を後にする瞬間、ふと振り返ったトレーズはデルマイユの後方より差し込む光に視線を送り、地球と宇宙、地球圏各地で現情勢に抗う各地の者たちに贈る想いで意思を述べた。

 

 (宇宙世紀0097……この時代に抗う者達よ……心こそ豊かに……)

 

 

 

 ブーゲンビル島上空

 

 

 

 1機の超大型輸送機ガルダがブーゲンビル島近海海上の上空を飛ぶ。

 

 その機内にはつい先日までに狂気を宿した主を持っていたΞガンダムが格納されていた。

 

 知らずして主を失ったΞガンダムは、ただ黙りながらその身を収め続けるのみである。

 

 格納庫ではそのΞガンダムを見上げる数名のOZの兵士達がいた。

 

「Ξガンダム……相変わらずの図体のでかさダナ。けどこの図体にもかかわらず単機で飛行可能かつ高機動ときている」

 

「加えて旧連邦の強化人間か俗にいうニュータイプでなければ動かせないときた……現状運んでるだけの超絶な代物だよ」

 

「その肝心の強化人間の主が、今じゃ宇宙でメテオ何たらから接収したガンダムのテスト中にコトをやらかして行方不明だそうだ」

 

「ははっ、迷子ってか。主の交代時か?今の目的地はあのオーガスタ研究所なのだろ?なら俺が強化人間に志願するかぁ?!」

 

「バカか。やめとけ……」

 

 他愛ない会話の中で突如として衝撃と爆発音が走った。

 

「がぁあああ?!!なんだ?!!」

 

 警報音が鳴り響く中、機種操縦席ではサポートユニットに搭乗した数機の赤いギラドーガのようなMSが旋回するのが確認されていた。

 

 そのMSはモノアイをガルダに合わせビームライフルの銃口を突き向け、旋回する他の同機種もそれにあわせるようにビームライフルを一斉に向けた。

 

「な?!!なんだこいつらは?!!」

 

「ギラドーガのカスタム機のようですが……識別コードを送信しても該当機種がありません!!!機体自体も大型です!!」

 

「えぇいっっ!!!搭載しているエアリーズとジェスタで応戦させろ!!!」

 

 一気に緊迫の中に叩き込まれた格納庫では機長の命令の下、エアリーズとジェスタでの出撃準備が成されていくが、その最中にビームライフルを突き付ける機体群とは別に3機の同カスタムMSがビームライフルを発砲しながらガルダのハッチを破壊した。

 

 爆発と爆煙が突風のように格納庫に押し寄せ、カスタムMS達が突貫侵入する。

 

 モノアイを光らせながらカスタムMS達は起動準備中のエアリーズとジェスタに完膚なきまでに攻撃を開始し、次々にビームライフルの照準に当てた機体を撃破していく。

 

「なんだ?!!あのMS共は……がぁああああああ?!!」

 

 先ほどΞガンダムを見上げていた兵士達もあっけなく近くで破砕爆破したジェスタの爆発に巻き込まれ爆死に至った。

 

 格納庫に爆発が炎上し続ける中、カスタムMSの1機がマニピュレーターを自機のコックピットにかざし、その中より姿を見せた青年をその機械の手に乗せる。

 

 するとその青年を乗せたマニピュレーターはΞガンダムのコックピットへと向かい、熱風と高高度の風が混じる中で青年を導いた。

 

 青年はカスタムMSにサムズアップサインを送ると、しばらく操作パネルを操作し続けた後にハッチを開放させた。

 

 暫しコックピットに視線を見据えた青年は、キュッと顔を険しくさせてその中へと飛び込んだ。

 

「これがΞガンダム……今後は我がマフティーの力の象徴とさせてもらう!!!」

 

「マフティー」という単語を口にした青年はΞガンダムの機体を起動させ、同時に味方機に通信を繋いで呼びかける。

 

「Ξガンダムの起動に成功した!!!ここまでのみんなの協力に感謝する!!ガルダ周辺のメッサ―隊は俺達が脱出したことを確認したら一斉射撃でガルダを沈めにかかれ!!!無論、俺も加勢する……マフティー・ナビーユ・エリン、Ξガンダム、出すぞっ!!!」

 

 メインカメラを光らせ、新たな主を得たΞガンダムが動き出す。

 

「これが俺達の反抗の意志だ……」

 

 マフティーはそう呟きながら格納庫に残されたエアリーズやジェスタにビームバスターの照準をロックオンし、立て続けに高出力ビームを叩き込んだ。

 

 ビームの直撃と共に各機体が破裂するように爆砕し、それが連続でガルダの格納庫を覆いつくしていった。

 

 立ち昇る炎と火の粉の中にギンと両眼を光らせたΞガンダムは、仲間のMS・メッサ―と共に燃え行くガルダの格納庫を脱出し、振り返りながら更に追い打ちのビームバスターを何度も見舞う。

 

 Ξガンダムとメッサ―の脱出を確認した他のメッサ―達はビームライフルを構え、一斉に各方向からのビーム射撃を開始した。

 

 各部を爆発させていくも、ガルダの巨躯は即撃墜を許さない。

 

 だが少しづつながら確実に巨鳥の体は削がれていく。

 

 そしてΞガンダムは一気に機首部へと旋回し、機首の面前にビームバスターを突き付けた。

 

「な?!!く、Ξガンダム?!!」

 

「一体どういう……まさかっ、強奪されたか?!!」

 

 突如突き付けられた状況に戦慄するガルダの乗組員のOZ兵士達は、ヴィンと光るΞガンダムの両眼に更なる戦慄を上乗せされる。

 

「終わりだ……これからこの機体はマフティーと共にこの狂った時代を粛正する……!!!」

 

そう言い放ったマフティーは、広大な全天周囲型モニター越しに移るガルダに睨みを効かせると、ビームバスターのトリガーを解き放った。

 

至近距離で放った高出力ビームはガルダの機首を真っ直ぐに直撃粉砕させ、その皮切りによる連鎖爆発を巻き起こさせた。

 

ガルダが内外部で爆発を繰り返しながらその巨大を徐々に海面に向けて墜落させていく中、マフティーはコックピットシート右側面に配置された操作パネルを操作する。

 

「Ξガンダムの強奪には成功した……ここからは宇宙の同志へ一旦バトンをパスする……収容所に捕らわれた仲間達を救出するには彼らの協力が必要不可欠……頼むぜ……メテオ・ブレイクス・ヘル……!!!」

 

 マフティーが打ち込むメッセージの送信先……それはバルジを目指すネェル・アーガマであり、その受信を明るいブロンドヘアーのスタイルの良い女性オペレーター、エイーダ・シーマリオンがケネスへと報告する。

 

「っ!!これは……!!ケネス艦長!!地球のマフティーからのメッセージを受信しました!!『抗いの力は鳥を食い破った』です!!」

 

 それを聞いたケネスはにっと含み笑いを一瞬する。

 

「……そうか。下の同志は一つの段落をクリアできたか。ここからが我々か。いよいよだな……バルジのラルフにメッセージを送信。『流星はここから成る』と」

 

「了解!!」

 

 エイーダが打ち込むメッセージはバルジに長きに渡り潜伏するラルフもケネス同様、含み笑いを浮かべたがそれはすぐに曇りを見せる。

 

 (さぁ……やっとコトが動くぜ……だが一つ不安かつ不確定の問題要素がある……ヒイロとデュオが戻らないってことだ。現状消息不明。マジでゼロに葬られちまったのか?!!もしそうならどうするか……よくよく考えりゃ参った事態だな……)

 

 ラルフが事の運びの引っ掛かりを覚えている一方で、その憂いは杞憂になっていた。

 

 ネオバードモードへと可変したウィングガンダム・ゼロが、そのマニピュレーターにガッシリと掴み取りついたヴァイエイト・シュイヴァンを引っ提げながらバルジを目指していたのだ。

 

 その間にデュオの軽いノリを含めた通信が一方的にウィングガンダム・ゼロのコックピットに響きく。

 

「……しっかし、お前もお前でよくできたもんだぜ!!あんな絶望的な状況でゼロを奪い返すなんてよ!!!お前がかっ飛んでくるまで、デュオ君は絶望の中進むしかなかったんだからな~……もし立場逆だったら俺は本物の死神とご対面してたかもな!!あの強化人間ヤローはマジで半端ない奴だった……奪える確信はあったのか?!仮にもゼロだぜ、ゼロ!!!」

 

「……正直に言ってギリギリだった。再び死を覚悟したからな……」

 

「っ?!……意外な返答だな。俺はてっきり『当たり前だ』とか『余裕だ』、『お前にはできなくて俺にできる』なーんて言葉が来るかと思ったぜ!!」

 

「完璧な人間などいない……それだけだ」

 

「ま、そりゃそーだ……完璧な人間なんていないわな!!」

 

「……計画もまた同義。完璧にいくとは限らない……」

 

 ヒイロはそう言いながら獄中で脳内に暗記していたラルフの携帯データベースのアクセスコードを操作パネルで入力し、コードを打ち込んでエンターキーを押すと、確信めいた言葉を交えながら最小限の伝達メッセージを打ち込みはじめる。

 

「……だが、完璧は近づける、あるいは補正することができる。そして今とこれからの状況もな……」

 

ラルフがバルジ内部の裏通路にて、イレギュラー要素からなってしまったヒイロとデュオの不在状況からの状況調整に頭を掲げる中、その答えが彼の携帯データベースに受信される。

 

 掌のデータベースに受信したまさかのヒイロからのメッセージに、ラルフはニヤリとせずにはいられなかった。

 

「っ……そうか……!!ははははっ、ヒイロ……やってくれたぜ……了解っ!!!」

 

 ヒイロのパネル操作の行動と言動に、意味深さをモニター越しに感じ取っていたデュオもニンマリとして見せる。

 

「へー……で、どんな感じに補正できるんだぁ??」

 

「時機にラルフからバルジの見取り図のデータがお前の所へ来る。それに基づき、ガンダムデスサイズ・ヘルが格納されている格納庫へ突っ込め」

 

「はぁ?!!この機体で特攻しろってかぁ?!!」

 

「現在の俺達やラルフの置かれた状況から最も有効だ。タイミングが合えば先にカトル達が突破口を作りやすくしてくれているはずだ」

 

「あ??俺達が先にバルジに到達ってことにもなる?!!」

 

「場合によればな。どの道最終的にはジンネマン達をガランシェールごと脱出できる状況に持っていくことだ。そこから先はネェル・アーガマと合流して地球を目指すチームとラプラスの箱を追うチームに別れることになっていくだろう。最も俺は最初から次のポイントは決まっている……」

 

 ヒイロは常にマリーダの救出を見据えており、この間にゼロが見せた未来にはマリーダの死が二つのパターンで予測を示していたのだ。 

 

 一つはマーサの手に落ちて虐殺に等しい死を迎えるモノ。

 

 事実、現状のままではマーサはベントナが開発した「DOMEシステム」の核として組み込むため、マリーダの体を解体する事を目論んでいた。

 

 そして二つ目は何者かが放ったビーム過流にマリーダが蒸発させられる未来だ。

 

 時としてゼロシステムは未来予測から幾つかの可能性を示し、警鐘をゼロシステムの適合者に促す。

 

 ヒイロはゼロシステムから与えられた可能性の危惧も見据えながら静かなる闘争心を燃やし続けていた。

 

「……マリーダか??相変わらずゾッコンだーね……捕らわれのお嬢さんに星のナイトのおでましってかぁ……?!」

 

 デュオも察しが付き、からかい半分でヒイロに言って見せるが、予想外の反応がデュオに跳ね返る。

 

「守りたいものがあれば……自ずとそうなる。確かに俺達が護るべき存在はコロニーだ。だが、己にも守りたい存在があればまた違う視点が見えてくる。そのような存在がいないデュオにはわからんだろうがな」

 

「いいいっ?!!う、うるせーなっ、余計な世話だぜっ!!!たくよー……」

 

「マニピュレーター出力を再確認しろデュオ。加速する」

 

 デュオの反応を遮るようになるが、ヒイロはヴァイエイト・シュイヴァン側のマニピュレーター出力の再確認をデュオへ促す。

 

 無論、振り落とさないためだ。

 

「へいへい……っと……出力はMAXだ。飛ばしてくれていいぜ」

 

「了解した」 

 

 ヒイロは機体や周囲の状況を再確認すると、更に踏み込んだ位置にレバーを押し、ウィングガンダム・ゼロの機体をバルジの座標を目指して更なる加速をさせていった。

 

 時を同じくする頃、マリーダとプルを拘束し続けるネェル・アーガマ二番艦・グラーフ・ドレンデは衛星軌道上付近を離れ、L2方面を目指して宇宙を航行していた。 

 

 ヴァルダーやマーサが見つめる進路座標にはユニコーンガンダムが示した次なる座標が表示されていた。

 

L2コロニー群・コア3だった。

 

 そこはかつてのハマーン率いるネオジオンの拠点だったコロニーであり、第一次ネオジオン抗争の最終局面において、ハマーン派とグレミー派によるネオジオンの内乱の舞台となった場所だ。

 

 現在は宇宙を漂う廃棄コロニーの一つとなっており、宇宙世紀の爪痕の一つとされ、OZの管理下にあった。

 

その他にも、L5-30コロニー(旧30バンチ)やフロンタル派ネオジオンから再び取り戻したアクシズα・β等もまた現在はOZの管理下にあり、全ては戦争の爪痕を後の時代に包み隠さず残すというトレーズの意向であった。

 

 ヴァルダーはOZプライズのトレーズと言ってよい程の最高幹部クラスの人物でもある為、OZ管理下のコア3に立ち寄る事は実に些末なことだった。

 

 この間にもマリーダとプルに容赦のない屈辱が強いられていた。

 

 マーサ私兵やOZプライズの兵士達の鬱憤晴らしの格好の対象にされ続ける。

 

 欲望や人体実験紛いの仕打ちが姉妹を疲弊させていく。

 

 無論、ヴァルダーやマーサの暗黙の了解内であり、部下である彼らのモチベーション維持や発散にはもってこいとばかりに彼女たちを利用していた。

 

 その上、マリーダに関しては非情極まりないマーサとベントナの魔の計画が待ち構えているのだ。

 

 その計画上、マリーダは遺伝子レベルにまで解体される……残酷という言葉では収まりきらない運命だった。

 

 無論、プルも例外ではなく、この先ラプラスの箱に纏わる利用価値が無くなった時点でその禁忌のニュータイプシステム計画・DOMEシステムに組み込まれる未来予想図は火を見るよりも明らかだ。

 

 この日も男達の仕打ちを受け終えた姉妹達は、絶望と屈辱に雁字搦めに圧迫され続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、うううっく……マスター……姉さん、ヒイロっ……私っ、死にたくない……会いたいっ……!!!」

 

「もう……やだっ!!!やっぱり耐えられないっ……!!!いやだっ、いやだ、いやだ、イヤダぁああああああ!!!」

 

 心身が疲弊されて横たわるマリーダは心許せる者達を想いながら普段流すことのない悲痛な涙を流し、プルは純心がズタズタにされてしまった心境と屈辱に耐え切れずに泣き叫ぶ。

 

 これが現実だった。

 

 彼女達に救いの手は最早通常では考えられない……だが、状況は陽のバタフライ効果によって変わる可能性を広めるのだ。

 

 

 

OZ宇宙要塞・バルジ

 

 

 

 バルジ内部のあらゆる各ポイントで爆発が巻き起こる。

 

 ラルフが長い時間をかけて準備した爆破工作が成す爆発だった。

 

一人の男の人差し指が事を動かした。

 

無論、この連続爆発はアディンや五飛達が収用されている牢獄の区画からの脱出経路を計算しての爆発だ。

 

「……っしゃ!!!長らく世話になったバルジとようやくおさらばだ……さて……お迎えのポイントまでいきますか」

 

牢獄のスライドドアーからオフセットした位置で爆発が発生し、事前に把握してきたアディンや五飛達は見事に脱出を開始して走り始める。

 

「遂に来やがったゼ、この時が!!!」

 

「ようやく出れたな。待っていろ、那托!!!」

 

ジンネマン達もまた彼らに続き、ガランシェールを目指して走り出す。

 

「小僧達に続けっっ!!!あいつらの計画通り、ガランシェールを取り戻す!!!」

 

 至る個所からの爆発に巻き込まれたOZやOZプライズの兵士達が斃れており、一行は彼らの携帯武装を奪いながらバルジの格納庫を目指した。

 

 その一方、バルジに収容されていたはずのドクターJらは別の艦へ護送されていた。

 

 輸送艦の窓より時折外部爆発を見せるバルジが映るのを見てドクターJが喋りだす。

 

「バルジから火が時折出ておる……どうやら奴らは行動を開始できたようじゃ。当のわしらは更なる利用価値を見出され、どこぞのOZプライズの艦に行かされるそうだが……」

 

「まぁ後は好きにさせればいい……最高傑作品は完成させてきた。うまくいけばこれまでの鬱憤を爆発できような……今日であのバルジは陥落するな。また時代が変わる……」

 

 プロフェッサーGが傍観するバルジでは、かつてない非常事態の状況に陥っており、兵士達のへのダメージは確かなものになっていた。

 

「非常事態発生!!!非常事態発生!!!総員、第一種戦闘配備!!!総員第一種戦闘配備!!!」

 

 非常事態を促す音声警報が響く中次々と状況を被せるように爆発が連発し続ける。

 

「一体何が起こっている?!!破壊工作テロか!!?隔壁閉鎖急げ!!!」

 

 ディセットはこの状況をテロと判断し、直ちに防災を兼ね隔壁閉鎖を指示した。

 

「ダメです!!!バルジ内の中枢統括CPUが爆破され、コントロールできません!!!」

 

「何ぃ?!!」

 

「防衛の砲撃をはじめ、虎の子のバルジ砲も発射不能です!!!」

 

「何という屈辱だっ……!!!ええい!!!とにかく内部警戒を怠るなっっ!!!」

 

「しかし、爆破はまだ尚起こり続けています!!!っ……これは?!!バルジ警戒エリア内に機影……っ識別、ネェル・アーガマです!!!」

 

「ネェル・アーガマ……だと?!!たった一隻で何をしに……?!!」

 

 隔壁閉鎖は勿論、バルジのあらゆる管理・制御が困難な状況に陥っている事を痛感させられたディセットにネェル・アーガマという更なるイレギュラーが介入した。

 

「既にMSらしき機影の反応も確認されてます!!!」

 

 内部のテロに加えネェル・アーガマとMSによる強襲……ディセットからしてみれば正に八方塞がりな状況下だ。

 

「くっ……!!!バルジ内のMS、MD、出せる機体は全て出せ!!!この期に及んで我々にこんな真似ができる……奴らなら、メテオ・ブレイクス・ヘルならやり兼ねない……!!!」

 

 ディセットは悔し紛れに拳をダンと叩きつけた。 

 

そしてそのネェル・アーガマの周囲には、ラシードやアブドゥル、アフマド、アウダ各機のマグアナックが護衛に付いており、遂にカトル達のガンダムやマグアナックが出撃しようとしていた。

 

オペレーターのエイーダがナビゲートする中、背中合わせでフレーム連結されたガンダムヘビーアームズ改とラルフ専用MSサーペントの専用クルーザーがカタパルトデッキにセットされる。

 

「専用クルーザー、第三カタパルトにスタンバイ。リニアボルテージ上昇……射出タイミングはヘビーアームズ改へ譲渡します……あの……私情はあまり挟むのはいけませんが、サーペント……何としても届けて下さい。ラルフさんが帰ってこれる限られた手段ですから……」

 

 私情を小声にして通信に加味させた物言いをするエイーダから、トロワは事を察して最小限の返答をして出撃へと赴く。

 

 尚、ラルフとエイーダは暗号通信を取り合う一方で、私的な通信をするいわば旧世紀のメル友的な間柄にもなっていたのだ。

 

「了解した。あいつとは古い付き合いだ。トロワ・バートン、ガンダムヘビーアームズ改、サーペント出る」

 

 2機を連結させたMSクルーザーが火花を散らして左舷側カタパルトから射出されていった。

 

 トロワは飛び出したMSクルーザーの軌道をコックピット側からコントロールしてバルジを目指す。

 

 これに続くようにセンターカタパルトに、ガンダムサンドロック改が配置された。

 

 ここまでに至る様々な出来事がカトルの脳裏に去来する中、新たなる武装改修を経た愛機のコントロールレバーを握る。

 

「ヘビーアームズ改に引き続き、ガンダムサンドロック改、発進シークエンスに移行。リニアボルテージ上昇……射出タイミングを譲渡します」

 

「了解……さぁ、サンドロック……ここからが僕達の反撃だ!!!」

 

「兄さん!!」

 

 ぐっとカトルがコントロールグリップを握ったその時、妹のカトリーヌがサブモニターから呼びかけてきた。

 

「カトリーヌ!!」

 

「……遂に戦うんだね……死なないでよね。兄さん。ボク達はウィナー家最後の二人なんだからね!!」

 

「ありがとう、カトリーヌ。でも、それを言うなら僕の方から言わせてもらうよ。カトリーヌが無茶をしようとしてることを知らないとでも?」

 

 少しばかり意地悪く兄の威厳を交えて言うカトルだが、それもそのはずだった。

 

 カトリーヌはジュリと共にネェル・アーガマの護衛に踏み切る行動に出ていたからだ。

 

 カトリーヌの通信発信先も彼女仕様にカスタマイズされたマグアナックからであり、同時にM1アストレイと共に空いたカタパルトに付こうとしている最中だった。

 

「うっっ……ボクも、トロワの力に、みんなの力に少しでもなりたいって思ったから……それにジュリちゃん一人女の子が戦いに行くのも心細いと思って……」

 

 想う人と親しくなれた友人の為の行動と知ると、カトルはくすっと笑いマグアナック隊に通信を切り替えた。

 

「マグアナック隊の皆さん、戦闘に関してですが、僕の護衛はラシードだけで十分です。後の三人はカトリーヌを頼みます」

 

「カトル様……!!了解いたしました。アウダ、アブドゥル、アフマド!!聞いたな?!カトリーヌ様の護衛、しっかりやれよ!!!」

 

「了解!!!」

 

 この運びに満足した表情を見せ、カトルはモニター越しにカトリーヌへ微笑みを見せた。

 

「じゃ、無茶だけはしないように。行ってくるよ、カトリーヌ」

 

「うん……いってらっしゃい、兄さん!!」

 

「カトル・ラバーバ・ウィナー、ガンダムサンドロック改、行きますっ!!!」

 

 カトリーヌの声援で送り出されたカトルは、カタパルトデッキから加速したガンダムサンドロック改を電光石火のごとく宇宙へと飛び込ませた

 

 その後にラシードのマグアナックが続く。

 

 ガンダムサンドロック改は新たな装備であるクロスクラッシャーとビームマシンガンをライトアームに装備させており、更に背部のバックパックに引っ提げたバスターショーテルを手に取ってレフトアームに装備させた。

 

 ギンと両眼を光らせたガンダムサンドロック改はラシード機のマグアナックと共に、より一層の加速をかけてバルジに飛び込んでいった。

 

 先行するトロワのMSクルーザーは既にMS、MDの防衛網を突き進んでおり、至る方向からリーオーやプライズリーオー、リゼル・トーラスのビーム弾幕にさらされていた。

 

 だが、トロワは向かい来る全てのビームをギリギリで躱してバルジを目指すという神業を見せていた。

 

 モニター上では反抗プランにある突入ポイントをロックマーカーに捉えており、トロワはこれを目掛けて機体を突き進ませ続ける。

 

「……っ……クルーザーの瞬発的な加速が収まる前に突っ込めばいいっ……くっ!!!」

 

 次の瞬間、遂にクルーザーにビームが掠め、その一瞬の軌道の乱れがクルーザーユニットへの連続の被弾を許してしまう。

 

 トロワは電撃的な判断でガンダムヘビーアームズ改をクルーザーユニットから離脱させ、サーペントをミサイルのごとくポイントへ突き進ませるだけにさせた。

 

ガンダムヘビーアームズ改は、攻撃を自転回避しながら右側背部のバックパックに実装されたバスターガトリングキャノンの砲身を前方倒し、ライトアームのアームバスターランチャーとレフトアームのダブルビームガトリングを構える。

 

「これでバルジの方はラルフ達に委ねた。後は少々派手な演出で気を引かせる……」

 

ギンと両眼のメインカメラを光らせ、瞬時に両脚のマイクロスタンダードミサイルと新たにバックパックの左側に増設されたホーミングミサイルランチャーを連続展開させて撃ち飛ばした。

 

撃ち放ったミサイル群は、暴れまわるように次々に周囲のリーオーやプライズリーオーを撃墜、破砕させていく。

 

リゼル・トーラスも持ち前のMDシステムのにより回避していくが、その躱したホーミングミサイルは軌道修正しながら再度狙いを定めてリゼル・トーラスを砕き散らしていく。

 

しかしその中にはミサイルをビームキャノンで撃墜する機体もいた。

 

バルジで戦闘が開始される一方、ラルフの指定したポイントのゲートを目掛けてサーペントのクルーザーユニットが突っ込み、兵士達を巻き込みながらゲート施設に派手な破壊と衝撃をもたらした。

 

「ヒュー……外はかなりのMSが展開してるはずだが、よく正確にやれたな……流石、トロワだ……」

 

 二っと笑ったラルフはOZの帽子を投げ捨て、斃れたOZやOZプライズの兵士達を尻目にしてゲートの億面に突っ込んだままのサーペントへと駆け出した。

 

 五飛もまたアルトロンガンダムの起動に成功していた。

 

 ギンと両眼を輝かしたアルトロンガンダムは固定ハンガーを自力で捥ぎ取りながら行動を開始し、手始めに両椀となったドラゴンハングを展開させながら施設機器を破壊する。

 

「那托は蘇った……今までの屈辱と鬱憤は存分に晴らさせてもらう!!!」

 

 アルトロンガンダムは両椀を振り上げながら構え、勢いよく左右のドラゴンハングからの火炎放射をバルジ内のドック施設へ見舞った。 

 

「……貴様の主もここに来るだろう……もう暫し待つといい……」

 

 その炎で誘爆発が巻き起こる中、五飛はサイドモニターに映る残されたガンダムデスサイズ・ヘルに語り掛けるように呟くと、モニターでバルジ内の見取り図のデータを立ち上げ、自機のアルトロンガンダムを見定めた区画へと向かわせた。

 

 そしてアディンもまたガンダムジェミナス・グリープに乗り込み、ガランシェールに合流した専属メカニックのディックと機体のレクチャーを兼ねての通信を取り合う。

 

「……ジェミナス・グリープの真骨頂、『MSCS』をセッティングできた!!まずは手元にあるヘッドフォンタイプの装置を頭にセットしてくれ」

 

 ディックにそう言われるがままヘッドフォンタイプのユニットをアディンはセットするが、アディンはコトが呑みこめない。

 

「……??で?なに、これ??」

 

「精神同調形システムさ。アディンの思考とGNDソニック・ドライヴァーを掛け合わせて文字通り、思い通りに制御できるシステムだ。もちろん問題だったGNDソニック・ドライヴァーのセッティングもできている!!後、本来の性能を実現させるためにメガ・パーティカルバスターはGNDソニック・ドライヴァーのブースター……メガ・パーティカルブースターにも兼用できるようにした」

 

「おいおい!!じゃあ、射撃はどうするんだ?!!」

 

「話を聞けよ、アディン……兼用だ、兼用!!攻防一体のシールドとしても、MA変形時のメガ・パーティカルバスターとしても機能する。存分にいけるぜ」

 

「そ、そういうことか……そんじゃ、キメに行かせてもらうぜ!!!」

 

 唸るGNDソニック・ドライヴァーの動力音の中、アディンが機体を起動させると、MSCSがコネクトされ機体システムの同調が開始される。

 

 アディンは意識を集中させ、意思と意志を目線に籠めた。

 

 (さぁ……ここからが俺達の反撃だ……成しえれてない狂った世界の破壊……その先に生むべき平和……死んでいった兄さん達……そして捕らわれたプルの為……俺は……キメるぜっっ!!!)

 

アディンは面前のゲートの向こうに、今は亡きMO-5の面々やオデルの姿、そして寂し気な笑顔で振り向くプルの姿を見た。

 

 芯から滾る想いを籠めてレバーを押し込ませると、背部のメガ・パーティカルブースターユニットが持ち上がり、ブースターから解放されたGNDエネルギーが、レールガンのごとき加速をガンダムジェミナス・グリープに与えた。

 

 ドンッとガンダムジェミナス・グリープがゲート内を駆け抜け、一瞬にしてバルジの外へと飛び出していった。

 

ジンネマン達もかっ飛ぶアディンの機体に気付く。

 

「小僧も脱出できたようだな……」

 

「えぇ!!しっかし、こうもうまくいくとは逆になんかありそうっすね!!」

 

「フラスト、うまくいったのはラルフって奴の事前の働きがあったからだ。血の滲む入念な根回しがな。機会があれば礼をしたい……がぁああ?!!」

 

突如襲った衝撃にギルボアが叫ぶ。

 

「後尾に被弾!!!まだまだ油断はできません!!!進路上にもMSやMDがうじゃうじゃいやがりまさぁ!!!」

 

「くぅっ……やっと脱出できたってのにっ……!!!」

 

「キャプテンっ、後方からMDが多数来ます!!!」

 

フラストの叫びが更に事はまた負の方向に傾いていた事を知らせる。

 

遂に新型MD・シルヴァ・ビルゴがバルジの格納庫で起動を開始してたのだ。

 

格納庫内部ではジェガンタイプのメインカメラが次々に不気味に光っていく。

 

そしてその機体群は順繰りにバルジからの出撃を開始した。

 

「くそっっ!!!東洋の前門のなんたら、後門のなんたらってのか!!!すまないっ……マリーダ!!!プル!!!下手をすれば、助けれん……!!!」

 

「っくそ!!!完全に狙われました!!!」

 

MDに囲まれたジンネマン達は最早覚悟する他なかった。

 

しかし次の瞬間、前方では不規則に動く光速然とした連続斬撃が、後方には唸り走る二軸線のビーム渦流が多数のシルヴァ・ビルゴを破砕させた。

 

「やらせないぜっ……!!!」

 

「間に合ったな……」

 

ガンダムジェミナス・グリープのMSCSを活かした高機動かつ高速斬撃、そしてバルジに到達したウィングガンダム・ゼロが放ったツインバスターライフルの一撃だった。

 

「あぁ!!!そんじゃ、俺は相棒の所へ……いっくぜぇっ!!!」

 

ヴァイエイト・シュイヴァンはウィングガンダム・ゼロのマニピュレーターから自機を切り離し、惰性とブースターコントロールでゲートへと突貫した。

 

ウィングガンダム・ゼロはバルジ砲から上方面にかけての壁面を滑るように高速で駆け、宙返りの軌道で再び戦闘エリアを目指す。

 

その最中で、減速も兼ねながら機体各部を可変させ、四枚のウィングバインダーを展開させた雄々しい姿をバルジエリアに見せた。

 

ウィングガンダム・ゼロはツインバスターライフルをジャキンと構えて多数のシルヴァ・ビルゴへ狙い定める。

 

ゼロシステムが発動する中、ヒイロは時代へ反撃の時を噛みしめ、その意志をバルジに向けた。

 

「賽はここから投げられる……ゼロ、始めるぞ。俺達の再度のオペレーション・メテオを……!!!」

 

 

 

 

 To Be Next Episode

 

 

 次回予告

 

 ヒイロ達は遂に反撃の火蓋を切った。

 

 それはあの屈辱のラボコロニーの敗北以降、初の総力的反撃であった。

 

 トロワ、ラルフ、カトル、デュオ、五飛がそれぞれにバルジに乱戦の嵐を巻き起こす中、ディセットはGマイスター達を肯定するトレーズの精神に苦悩する。

 

 降臨したウィングガンダム・ゼロのツインバスターライフルの一撃がヒイロの合流を知らせ、更に一騎当千の戦士たちの猛撃がバルジの戦場を駆け抜ける。

 

 アディンもまた本領発揮したジェミナス・グリープを駆り、バルジを脱出したガランシェールの水先案内人のごとく獅子奮迅に駆け抜け、戦場に猛威を巻き起こす。

 

 その渦中で更にディセットはトレーズ幽閉の報を聞かされ、バルジにおける自身の行動の選択肢を迫られる。

 

 そして遂にヒイロがツインバスターライフルをバルジに向ける時、マリーダの情報と謎の声がゼロシステムによってもたらされるのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード36「バルジ破壊」

 

 

 

 

 


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