新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード32「逆行する不の運命」

ガンダムジェミナス・グリープ出撃前

 

 

 

MD部隊の襲撃がネオジオン部隊に見舞われている頃、アディンはパラオ内のとある格納庫内に出向いていた。

 

裏通路を全力で駆け抜け来たアディンは、MA形態のガンダムジェミナス・グリープをメンテナンスしていたディックの名を叫び、彼の下に息を切らせて訪れる。

 

「ディックさん!!!」

 

「アディン?!」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っく、ディックさん!!新しいジェミナス、出せる?!!」

 

「おいおい!!急に言われたってまだロールアウト前で機体の調整中だ!!それにグリープの要のシステムだって搭載前だし、何よりも更に要の……」

 

「ディックさん!!四の五の言ってる場合じゃないから来たんだ!!!プルのニュータイプ的な感覚の話になるけど、俺達のガンダムでなきゃ対処できないヤバイ奴等が迫ってんだ!!!」

 

アディン達はプルの力を認めており、ディックもその一人だった。

 

ディックは工具を額に押し当てて、しばらく考える。

 

「……うーん……今の状態でも戦闘できない訳じゃない。だが、グリープの要であるGNDソニック・ドライヴァーの本セッティングができていない。制御が難しくなるし、リミッターが働いていない状態で下手にPXで出力を上げれば最悪自爆……なんてこともあり得る!!!とにかく、使うなら機体の完成度は七割って事を踏まえてくれよ!!!」

 

「OK!!」

 

アディンはサムズアップすると、MA形態のガンダムジェミナス・グリープのコックピットに身を投じ、メインシステムを起動させた。

 

前左右と上部の四面モニターが起動と共に映し出され、各部チェック項目や機体状態等の様々なデータが表示されていく。

 

アディンは機体のセットアップ操作を進めていく中で武装のデータをチェックする。

 

「ビームランスにメガ・パーティカルバスター……武装はたった二種類だけど……!!!」

 

アディンが続けて機体エネルギーゲインを移行表示させると、驚異的な表示数値がアディンの目に飛び込んだ。

 

「すっげ……なんつーエネルギーゲインだよ……!!!」

 

アディンのその反応にディックは半ば笑いながら解説する。

 

「はっははは!!ビビるだろ?!!今はそれがシステムで思うように制御できない状態なんだ……アディン自身で加減させながらコントロールしなきゃいけねーぞ。不完全さが解るだろ?」

 

軽くプレッシャーを与えてみるディックだが、アディンは腹をくくった反応を返した。

 

「へっへへへ……俺だってGマイスターだぜ!!!ガンダムのシビアなコントロールくらいしてやんよ!!!それに、今やらなきゃパラオ自体がヤられるかもしれねーんだぜ!!?やって……イヤッ、キメてやんぜっ!!!」

 

「相変わらずの勢いで安心したぜ……しっかり守るもんが見えてるな!!キメて来い!!!」

 

「言われなくたってキメて来るぜっ!!!ディックさん、ゲート頼む!!!」

 

「おうよ!!!」

 

パラオの秘密格納庫のゲートが開き、アディンからのコックピットビジョンには開口した先で交戦中のドライセンとレオンが映る。

 

アディンは拡大してモニター視認するが、交戦というよりもレオンの一方的な蹂躙なのは明らかであり、アディンにより煮えたぎるモノを感じさせた。

 

「あの向こうにいる機体、OZだな?!!一方的にやってやがるっ……!!!それ以上やらせっかよ!!!」

 

ゲートが開き切ると同時に、ディックがハンガーロックのレバーを解除側に作動させる。

 

これにより、ガンダムジェミナス・グリープの射出タイミングはアディンに譲渡された。

 

「ロックパージOK!!行ってこい!!!アディン!!!」

 

「ガンダムジェミナス・グリープ!!アディン・バーネット、出すぜっっ!!!」

 

コントロールグリップを押し込んだアディンは、ガンダムジェミナス・グリープを一気にパラオから打ち出す。

 

機体が火花を散らしてかっ飛ぶ中、凄まじい加速Gがアディンに襲いかかる。

 

「ぐぅっ!!!こっ……のぉっ……!!!」

 

更にその加速Gと激しい振動がせめぎ合う中、アディンはドライセンを蹂躙するレオンをロック・オンし、更に出力を上げ、極限の加速Gの中にアディン叫んだ。

 

「俺がキメるぜぇええええっ!!!!」

 

そして次の瞬間、メガ・パーティカルバスターのシールド先端部がレオンに吸い込まれるかのようなアングルで激突した……。

 

 

 

 

そして今現在。

 

ネオジオンサイドに蹂躙の猛威を奮っていたレオールとレオンをはじめとするOZプライズの部隊を一瞬の間に駆逐したガンダムジェミナス・グリープがパラオの宙域に佇む。

 

突如として現れた救世主の勇姿にパラオのネオジオンの戦士達の誰もが釘付けとなっていた。

 

その最中、事なきを得たヒイロもまたバウを旋回させながらガンダムジェミナス・グリープを視認していた。

 

「……アディンのガンダム……ガンダムグリープのデータをジェミナスに移植したのか?」

 

ヒイロは以前よりガンダムグリープのデータを知っており、直ぐにガンダムジェミナスにグリープの要素を移植したものとわかった。

 

「ウィングゼロと対になるガンダム……ウィングゼロが敵の手にある今、切り札になりうる機体だな。最も、機体が万全ならばだが……」

 

ヒイロは時折、機体胸部周りから発するスパークを視認しながらガンダムジェミナス・グリープの機体の状況を洞察する。

 

ガンダムジェミナス・グリープのコックピット内では、ヒイロの洞察する通りの状況に晒されており、各部にエラーが発生したアラートが鳴り響いていた。

 

アディンは機体の勇姿とは対象的にあわてふためいていた。

 

「やっべー!!!調子に乗ってPX使っちまったよ!!!ちっくしょ、エラーがやかましい……!!!」

 

その時、サブモニターにディックが映り、アディンに叱責を飛ばす。

 

パラオの方からもディックが機体をモニターしていたのだ。

 

「アディン、ばっかやろーっ!!!あれだけPX使うなって言ってたろうがっ!!!こっちでモニターしてたがっ……!!!」

 

その最中、直ぐに新たな敵機影接近のアラートがエラーアラートを掻い潜る。

 

アディンはやむを得ず、新たな戦闘に備えるしかなかった。

 

「!!!っ、悪ぃ、ディックさん!!説教は後で!!新たな敵機影だ!!!最小限の戦闘でやりきる!!!」

 

「おい、アディン!!!」

 

アディンが機体をMS形態のまま敵機影接近ポイントに向かわせる一方で、ガランシェール内にいたプルも感覚で新たな敵の接近をより強く感じていた。

 

プルは我慢ができずに、待機していた部屋を飛び出し、ガランシェール内の通路を駆け走る。

 

「やっぱり……あたしがガンダムでやらなきゃならないような感じがする……でも、でも……あぁっ、なんなんだろ?!!どう動いても嫌な感じしかしないっ!!!」

 

プルの中では感覚的にこの先に待つ負の何かを止まずに感じ続けており、その感覚を振り切るようにプルはMSデッキを目指して走った。

 

その時、急接近する感覚と重く突き進む感覚の二つの圧力感がプルに過る。

 

「うっ?!!凄い嫌な力が来るっっ……!!!」

 

プルが感じた強い感覚と共に、パラオの宙域に走る紅い閃光……トールギス・フリューゲルが機影を現す。

 

目指すはガンダムジェミナス・グリープであり、パイロットのロッシェは牽制でレフトアームのバスターシューターを放つ。

 

「視認した!!あれが……メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!まずは挨拶だっ!!!」

 

三発の中小規模のビーム渦流を撃ち飛ばすトールギス・フリューゲル。

 

だが、高出力ビーム急接近を察知したアディンはリフレクト・ウィングを防御操作し、直撃するビーム渦流を相殺させて見せた。

 

「っ……とぉおお……いきなりだなっ……て、トールギス?!!」

 

見事に防御仕切った性能に浸る間もなく、敵機影がトールギスと認識したアディンはゼクスと思い驚愕する。

 

「おいおい……!!!遂にゼクスが参戦かっ?!!けど、残念ながらヒイロじゃないぜ、俺!!」

 

だが、通信回線が開き、アディンの思い込みを裏切る全く違う人物が言葉を放った。

 

「初めましてだな、メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム!!!私はOZプライズのロッシェ・ナトゥーノ!!!長らく貴君らのガンダムとの決闘を所望していた!!!さぁ、刃を用意しろ!!!」

 

アディンはこの瞬間、何か懐かしさを感じて高揚感を覚えた。

 

「ゼクスじゃない?!!けど、騎士道こてこてってか(なんか、ユニコーンガンダムと決闘した時を思い出したぜ……今じゃリディは騎士道踏み外した憎いだけの敵に成り下がったけどな!!!)!!いいぜ!!!受けて立ってやんぜっ!!!」

 

ガンダムジェミナス・グリープはビームランスを振り払うと、向かい来るトールギス・フリューゲルに向かう。

 

「俺はアディン・バーネット!!!キメるぜぇっ!!!」

 

「では、アディンとやら……この刃を特と受けるがいい!!!ロッシェ・ナトゥーノ、参る!!!」

 

トールギス・フリューゲルもまたビームサーベルを振り払い、ガンダムジェミナス・グリープへとその機体を突き進ませた。

 

両者の振るうビームの刃がすれ違い、一瞬のスパークとビームエネルギーの衝突が起こる。

 

そして、遠ざかる間もなく両者は機体を高機動力を持って反転させ、再びビームランスとビームサーベルを振りかざし、真っ向から激突した。

 

 

 

ギャディギィイイイイイッッッ!!!

 

 

 

スパークをはしらせながら両者の刃が拮抗する。

 

奇しくもトールギス・フリューゲルにも新型のGNDドライヴが搭載されていた。

 

「これぞ決闘……至福の刻!!!」

 

「新型トールギス……ジェミナス・グリープのパワーといい勝負してやがるっ!!?」

 

「トールギス・フリューゲルだっ!!!それに……私の力も加えられている……それをしかと……認識していただく!!!」

 

ロッシェの感情を乗せたトールギス・フリューゲルは拮抗していたビームランスを弾き捌き、連続した斬撃を繰り出す。

 

ガンダムジェミナス・グリープもこの連続斬撃にビームランスを対応させ、ビームの刃で防御し続ける。

 

「うおっ……とぉっ……!!!やりやがるじゃっ……ねーか!!!」

 

一瞬の防御から振り弾き、アディンもまた攻めに転じる。

 

刃を激突させ、弾き、叩き下ろし、時折拮抗する。

 

更に続く連続斬撃の叩き込みの直後、一瞬の斬撃の衝突の後に2機は弾き離れ、旋回を開始する。

 

そして再び加速し合い、振るうビームの刃を強烈なまでに激突させた。

 

2機は拮抗し合いながら遠心力で振り回すように回転し合う。

 

「流石、特殊なガンダムに選ばれた戦士だけあるなっ!!!絵描いたが如く不足はないっ!!!」

 

「へっ……俺も久しぶりに騎士道かぶれの強敵に高揚するぜっ!!!さっきの2機とは格違いだ!!!」

 

「さっきの2機?もしや先行していたレオールとレオンの事か?」

 

「いや、機体名言われてもわからねーよっ!!!女装したカスタムリーオーとデブなカスタムリーオーだったぜっ!!!世話になってる人達を理不尽に殺してくれてたからな……倍返ししてやったぜ!!!」

 

そのアディンの言葉からロッシェはクラーツとブルムと悟る。

 

だが憎悪なものは抱かず、淡々と受け入れた。

 

「そうか……哀れな奴等だったな……正直あいつらの騎士道を踏み外した非道には呆れていた。当然の報いだ」

 

「はぁ?!仲間じゃねーのか?!!」

 

「同胞ではあったさ……だが、私とて騎士であり人だ!!奴等は因果応報と捉える。こちらとて、人間関係は複雑なのだよ……さぁ、ご託は終わりだっ!!!」

 

再び拮抗を弾き、トールギス・フリューゲルはビームサーベルを突き攻め立てる。

「うおっっ……おらぁああああっっ!!!」

 

アディンは一瞬連続斬撃に押されるも、直後に負けじとビームランスで反撃する。

 

唸るビームランスの薙ぎにビームサーベルの刃が当てられ再び拮抗した。

 

プルはこの戦闘をガランシェール内の通路窓から見ていた。

 

しかしプルはロッシェからは重苦しい感覚を感じてはおらず、先程からの重圧感は別の方角からやって来ているのを確信する。

 

「違う……嫌な感覚はあの紅い羽つきからじゃない。確かに敵なんだけど違う……嫌なのは別の方角から来てるっ!!!やっぱり、あたしが出なきゃダメ!!!アディンだけじゃいけないよ!!!」

 

プルは再び通路を駆け出し、格納庫に収用されたユニコーンガンダムを目指した。

 

 

 

一方、マリーダを拘束・拉致した一味は、パラオ内の裏ルートに予め用意していたワンボックス型コロニー内対応自動車で場所を移し、予め用意していた輸送艦艇にマリーダの身柄を押し込もうとしていた。

 

「下手な真似をしなければ事は済むんだ!!!」

 

「っ……ハサン先生!!ドクターマガニー!!あうっく……!!!」

 

男達に失わされた意識をマリーダは短時間で取り戻していた。

 

だが、その一方でマリーダと共に拉致すると思われたハサンとマガニーは執拗な暴行を与えられ、気を失わされていた。

 

特にご老体のマガニーは重症を負っており、生命すら危うい状況だった。

 

これらは全てマーサの気まぐれな指示により成されていた。

 

抵抗しようにも拘束させられた挙げ句に、銃を突き付けられては無駄あがきに終わるのは明らかで、致し方なく従うしかない状況だった。

 

その最中にマリーダはある疑問符を過らせていた。

 

(これ程の嫌な感じの奴等が近くにいて何故気づけなかった?!私の力が低下しているのか?!だが、依然として外からは嫌な感じが迫っている……!!!)

マリーダやプル達をはじめ、ニュータイプ気質の感覚が備わった者は感覚の良し悪しを強く持った人間を感じる事ができる。

 

ニュータイプ気質が高ければかなりの広範囲に置いて感じる事ができるのだ。

 

マリーダやプル、特に純粋なニュータイプのプルはその感覚が長けていた。

 

だが、マリーダを拘束した男達は決して弱くはない悪しき感覚を放つ存在だ。

 

更に近くに潜伏していたにもかかわらず悪しき感覚を感じれていなかったのだ。

 

マリーダは気丈な振る舞いをやめる事なく男に問う。

 

「お前達は何が目的だっ?!」

 

「今更隠す事もない。目的……それは君達姉妹と反乱分子ガンダムのパイロットの確保……そして、ユニコーンガンダム。長きに渡り潜伏した甲斐があった……」

 

男はそう言いながら胸ポケットからカードデバイス状の何かを取り出した。

 

「オーガスタ研究所で開発中のサイコ・フィーリング・ジャマー。君達が感じるモノをシャットアウトするアイテムさ……これが機能していれば君達は我々を感じる事ができない」

 

その機能装置よりも、オーガスタと聞いた瞬間に、マリーダの脳裏にマーサとベントナの姿が過る。

 

「オーガスタ?!!貴様らまさか……あのマーサとか言う女とベントナの手の者か!!?」

 

「くくくっ!!如何にも!!ミズ・マーサの私兵工作員だ。無論、我々だけではない!!別動隊も同時に展開している。今頃ガランシェールとやらをジャックしている頃だな……!!!」

 

「何?!!くっ……!!!貴様らっ!!!うっ……!!!」

 

感情的に動こうとするマリーダを押さえ込む男達。

 

更にそれに便乗した一人が、マリーダの胸を鷲掴みにする行為に及ぶ。

 

「?!!離せっ!!!やめろっ……うんっ、くっ!!!」

 

もがいて抵抗するマリーダを更に強く押さえつけ、銃をぐりぐりと押し当てる。

 

「身をわきまえろ……!!!くっくく……後でじっくり味わいさせてもらおうか……なぁ……さぁ、フェイズ2に移行を」

 

「了解」

 

それから間もなくし、連絡を受けた別動隊はガランシェール制圧を実行に移し、瞬く間に船内制圧を成す。

 

ジンネマン達をはじめとするガランシェールのクルー達は全員が銃を突き付けられ、完全に拘束下に晒されていた。

 

ジンネマンもこの状況には辛酸をなめざるを得ない。

 

「くっ……不覚過ぎたっ……こうも瞬く間にジャックされるとは……!!!」

 

「キャプテンっ……!!!」

 

ジンネマンはフラストやギルボア、アレクに視線を合わせながらキャプテンとしての言葉を放った。

 

「……皆、決して下手な真似をするなっ!!!いいなっ!!!皆の屈辱は重く理解している!!!この状況は……俺の責任だ!!!」

 

皆が複雑な心境を表情に表す中、ジンネマンが危惧するはプルの安否であった。

 

「プルっ、せめてお前だけは無事に済んでくれ……!!!」

 

ジンネマンの憂いの念がはしる頃、プルはユニコーンガンダムのコックピットに座りながらハンド・バイオメトリクスセンサーに右手をかざしていた。

 

プルと認識したコックピットシステムがユニコーンガンダムを起動へ立ち上げる。

 

「今あたしにできる事やらなきゃ!!ユニコーンガンダム、出すよ!!」

 

起動したユニコーンガンダムは、起動と共にプルのニュータイプの力によってNTDシステムを発動させ、瞬く間に機体をガンダムへと可変させた。

 

全身のサイコフレームからエメラルドの光を放つユニコーンガンダムは直ぐに出撃体勢に入った。

 

だが、一向にハッチが自動解放しない事に違和感を感じたプルは、モニターの傍らに視線を流す。

 

「……あれ?!ハッチ開かない?!トムラさん……??」

 

するとそこにはハッチ操作をしようとしていたトムラが黒ずくめの何者か達に拘束されていた。

 

トムラを拘束していたのはマーサの私兵達であった。

 

「そんな……?!!アイツらは一体?!!一目からして嫌な奴らなのに何も感じれない?!!」

 

サイコ・フィーリングジャマーを付けた彼らは、モニター上からもトムラを人質と言わんばかりに銃を突き付けていた。

 

「トムラさんが人質に……でも嫌な大きい力を外に感じる……あたし、どうしたらいいの?!!」

 

「プル、俺に構うな!!!行けぇええ!!!ここで行かなきゃ、もっと犠牲が増えるかもしれないんだ!!!プルが乗る直前に言っていた、『すごく嫌な悪い力』が来ているんだろ?!!パラオのみんなの為にも、行けぇっ!!!」

 

「黙れ!!」

 

「がっ?!!」

 

トムラのみぞおちにマーサ私兵の一人が拳を叩き込む。

 

己の身をかえりみずに放ったトムラの言葉に、プルはきゅっとコントロールグリップを握って真剣な表情で一言を放つ。

 

「っ、わかった……!!!」

 

プルの意思に呼応するかのようにギンとアイカメラを発光させたユニコーンガンダムは、出力最大でハンガーアームを強引に引き外し、ハッチを二度の蹴りで吹き飛ばしながらガランシェールから飛び出していった。

 

 

 

パラオに迫るもう一つの脅威、ネェル・アーガマ型二番艦、グラーフ・ドレンデ。

 

艦は違えど、かつてアディン達が暮らしていたMO-5をネェル・アーガマで沈めた張本人、ヴァルダー・ファーキルがキャプテンの座に座る艦であった。

 

彼はOZプライズの上級特佐であり、マーサと結託する側面を持っていた。

 

「ミスター・ヴァルダー!!パラオ内の実行隊から入電!!獅子の女神、方舟を手中に収めん。しかしユニコーンと妖精は取り逃がした。戦士の収めを求む……少し状況が変動しましたが、次のフェイズに移行です!!!」

 

ヴァルダーはニヤと薄ら嗤いをしながら命令を下した。

 

「パラオに打電しろ……同時にハイパーメガ粒子砲スタンバイ!!!まずは民間と軍事区画を破断させてやる……揺さぶりを兼ねな……!!!ユニコーンも恐らくは狙いはここのはず……情報にあるニュータイプの小娘にも恐怖を提供させようか……!!!」

 

「ハイパーメガ粒子砲発射シークエンス移行!!」

 

ハイパーメガ粒子砲のセーフティ・ロックが解除され、発射シークエンスに移行するとハイパーメガ粒子砲の砲身が展開とエネルギーチャージを開始する。

 

「ハイパーメガ粒子砲エネルギー充填開始!!」

 

「ミスター・ヴァルダー!!!ハイパーメガ粒子砲はコロニーレーザーに迫る威力ですが……!!!」

 

「何……挨拶するようなものだ……それに言ったであろう?ガンダムのパイロットを揺さぶるとな!!!もし威力が予想を超えてしまったらそれはそれだ。何せ、一番艦よりも威力が高い。くくく……!!!」

 

半ばパラオを沈めても構わない言動を放つヴァルダーは、狂気を滲み出すかのような卑劣な笑みを浮かべていた。

 

その最中、ガランシェールがパラオを離れ、ギルボアの操舵の下、マーサの私兵工作員達の指示で航行する。

 

マリーダは拘束されたままの状況下で、迫り来る強烈な悪しき感覚を覚え、かつてないプレッシャーに晒されていた。

 

「……っ、感じたことのない力が来るっ!!!」

 

 迫るヴァルダーへの迎撃にユニコーンガンダムの機体を飛ばすプルもまたその感覚をひしひしと捉える。

 

「これがさっきから感じていた嫌な感覚っ……こんな力……恐すぎるよ……!!!」

 

その一方ではガンダムジェミナス・グリープとトールギス・フリューゲルが連続で刃を当て合っては拮抗し、激戦を継続させていた。

 

だが、既に不完全なコンディションのガンダムジェミナス・グリープにはかなりの負荷がかかり始めていた。

 

「くぅーっ……!!!かなりヤバくなってきやがった……エラーがどんどん増加していくっ……!!!」

 

「どうした?!!先程から槍捌きが鈍くなっているぞ!!?まさか手を抜いているのか、貴様!!?」

 

「へっへへへへ……嫌でも手を抜かざるを得なくなってきてんだよ……うっ、いよいよ出力まで下がってきやがった……!!!」

 

実際に音声通信にある程度の支障が出る程の多くのエラーアラートが鳴り響いていた。

 

実際にまだダメージを受けていないにもかかわらず、ガンダムジェミナス・グリープの機体にはスパークが断続的に発生していた。

 

ロッシェもこれにはハッタリではないと判断できた。

 

「貴様……機体が万全でないにも関わらず私に挑んだのか?!!」

 

「身勝手なコト言ってんじゃねーよ!!!仕掛けたのはそっちだろが!!!」

 

アディンの正当な意見を突かれ、ロッシェは失笑する。

 

「……最もだ……ならば、まだ貴様には斬る価値はないのだな……」

 

「何だってぇ?!!」

 

「勝負は預けるというコトだ!!!どんなカタチであれ、万全かつ正々堂々とした闘いでなければ意味はない!!!」

 

トールギス・フリューゲルは、ギャインとビームランスの刃を弾くと、ビームサーベルの切っ先をガンダムジェミナス・グリープのコックピットに向けた。

 

「いいか?!!アディンとやら!!!私との決着が着くまで決して殺られるなよ?!!」

 

「どーかな~……へっへへへへ……」

 

「何だと?!!」

 

「俺にはどうしても人生賭けて決着着けなきゃならないヤツが二ついやがるのさ……一つは兄さんの敵、ガンダムデルタカイのリディ・マーセナスってヤツ。もう一つはかつて住んでた資源衛星を破壊したネェル・アーガ……」

 

その時、超高熱源の接近を知らせるアラートが、双方のコックピットに鳴り響いた。

 

「な、熱源?!!」

 

「?!!」

 

そしてプルはこの瞬間、見開いた瞳の瞳孔を変化させながら嫌な重圧感が具現化したことを悟った。

 

「っっ!!!!嫌な力っ、嫌な感覚、来るっっ……!!!!」

 

 

 

……ギュォァァァァァァァアアアアアアアアズゥオガァアアアアアアァァァッッッ!!!

 

 

 

凄まじい超高エネルギーを帯びたビーム渦流が、唸り狂うようにパラオを貫いた。

 

「な……!!?」

 

「嘘……だろ……?!!」

 

その光景を目にしたアディンの脳裏に、MO-5の悪夢がフラッシュバックで過る。

 

だが、パラオを貫いたかに見えた超高出力のビーム渦流は、パラオの民間区画と軍事区画とを繋ぐ連結区画を直撃していた。

 

その射撃軸線上のMSやネオジオンの艦艇は一瞬に焼灼・蒸発破砕させられ、その爆発が加えられた更なる破壊がより被害範囲を拡大させる。

 

「うぉおおっ?!!なっ、なんだ?!!まさか……やつら、戦略兵器まで持ち出しやがったのか?!!まさか、アレの二の舞ってんじゃぁ……??!」

 

一度MO-5での事件を体験していたディックは、全方位から襲い来る衝撃の様子から直ぐに戦略兵器レベルのビームがパラオ襲っているとわかった。

 

「わぁあああああ!!?」

 

衝撃はパラオ内の避難シェルターや中枢都市部、MS格納庫といったあらゆる区画におよび、パラオの市民達を恐怖に陥れる。

 

「わぁあああう!!!こわいよ、こわいよ~!!!」

 

「わぁああん、わぁあああん!!おかーちゃん、おにーちゃーん!!!」

 

「うっ……俺だってこわいよぉ~……!!!」

 

「うっ、くぅうっ!!ティクバ!!男ならぐっと勇気を出して耐えなさい!!父ちゃんからも言われてるだろ!!?」

 

地震のような未知の激しい衝撃の中、泣きわめく次男と長女を抱き締めながらも怯えるティクバをサント婦人は叱る。

 

ティクバもまた、父・ギルボアとの「家族を頼むぞ」という約束を思いだし、深く頷き弟と妹をしっかりと抱き締めた。

 

 

 

射撃軸線中心エリアでは膨大なエネルギー量が更なる破壊範囲を押し拡げ、灼かれた岩壁部を爆砕させていく。

 

「嫌っ……!!!これはっ、あっちゃいけない力っ……!!!」

 

感じる敵を目指していたプルも戦慄を覚える程の破壊を見せつけられる。

 

防ごうとしていた力の解放を目の当たりにしてしまったのだ。

 

その最中、パラオエリアの全ての回線を使ったヴァルダーからの警告通達が入る。

 

「パラオ総督、並びに、ガランシェールをはじめとするパラオのネオジオン、そしてメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムパイロットに告ぐ。我々はOZプライズ所属艦・グラーフ・ドレンデ!!!並びにキャプテンのヴァルダー・ファーキルである!!!今行った射撃は警告に過ぎん。我々の要求は潜伏していた二名のガンダムパイロット及びニュータイプの引き渡し。ガランシェールとそのクルーの身柄の引き渡し。そしてパラオ内に潜伏していたガンダムの引き渡しにある!!!受け入れられない、もしくは今から三分以内に決断されなかった場合、ハイパーメガ粒子砲により民間区画を完全に破砕させる用意がある!!!些細な抵抗や妙な行動も認めん……!!!」

 

その内容からして、以前よりスパイがパラオに潜伏していた事をヒイロとアディンはそれぞれの機体のコックピット内で知る。

 

「っ……俺達の情報は奴らに筒抜けていたのか!!?だが敵機が見えない上に……明らかに不利な状況だ……」

 

ヒイロは全天モニターに視線を幾つも配らせ、状況を見据える。

 

「……今は満足に戦闘ができない。ここは状況に委ねるしかないようだな……!!!」

一方のアディンは再び不利に立たされた状況に苛立つ中、先程のビーム渦流に忘れもしない違和感を覚えた。

 

「おいおい……勘弁してくれよな!!!やっと一矢報えたと思ったのによ……!!!それに、やっぱりさっきの……ハイパーメガ粒子砲かよ?!!まさか?!!」

 

アディンはこの先に忌まわしき敵たる存在がいることを直感した。

 

今すぐにでも確かめたかったが、ガンダムジェミナス・グリープの機体状況と彼らの完璧過ぎる潜伏と情報、根回しに、この場は従う以外に無いと判断せざるを得なかった。

 

「くっそ……こんな悔しい想いはねぇっ……!!!ヴァルダー・ファーキル……あいつが、あの時のMO-5を……間違いないっ!!!」

 

「同じくだ……我々側でありながらかなりの無粋な真似をしてくる……非常に不愉快だ!!!」

 

騎士道を重んじるロッシェもまた自軍側でありながら憤りを覚えていた。

 

パラオ総督もまた卑劣な脅迫に机を叩き、憤りの感情を見せるも、受け入れざるを得なかった。

 

「くっ……卑劣な輩めっ!!!彼らは我々の希望であった!!フロンタル派と離別し、自衛手段が薄くなった昨今、スペースノイドの希望と定め、彼らを我々は匿い協力してきた!!!ガランシェールの皆も、このパラオの功労者だ!!!だがっ……だがっ、民衆の為、従わざるをえんか……!!!」

 

そしてパラオ総督からの通信を受諾したヴァルダーは薄ら笑いを浮かべ、グラーフ・ドレンデを前進させた。

 

「ふっ……パラオの総督は理解が早い……手間が省ける。まだ我々がやるべき仕事は山積みだからな……」

 

「!!?高速接近していた機影、足を止めました!!!」

 

「恐らく取り逃がしたユニコーンガンダムだろう。絶大な力に戦意喪失したのだ。ふははっ、本艦をパラオへ!!!」

 

ヒイロやアディン、パラオのネオジオンサイドは成す術がない状況下にグラーフ・ドレンデの進撃を無抵抗で許していく……否、許さざるを得なかった。

 

誰もが悔しさや憂いの表情を浮かべて行く中、ヴァルダーは、グラーフ・ドレンデの艦橋から望むパラオ宙域を見ながら嘲笑をし続けた。

 

その最中、ユニコーンガンダムもこの状況に制止を余儀無くされた。

 

プルはこれ以上の抵抗の先に感じる最悪な展開を直感していたのだ。

 

「……ダメ……これ以上の抵抗は……できないよ……」

 

その後間も無くしてより、ヒイロやガランシェールクルー達はヴァルダー達の手により捕縛されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒイロやマリーダ達が捕縛されてより数日後、ヒイロとアディン、ジンネマンをはじめとするガランシェールクルー達は、半壊したウィングガンダムとガンダムジェミナス・グリープ、ガランシェールと共にOZ宇宙要塞バルジに連行され、一方のマリーダとプルはグラーフ・ドレンデにユニコーンガンダムと共に収用され、されるがままにされていた。

 

バルジに到着したヒイロやアディン、ジンネマン達は厳重な状況下の中に連行されていく。

 

その最中にアディンは震えていた。

 

恐怖ではない、極限の怒りと歓喜の入り雑じる感情に駆られていた。

 

MO-5を葬り、アディンの両親、幼なじみをはじめとする親睦が深い人々の命を奪い、更にパラオを半壊させた挙げ句、プル達をも拉致した禍々しい敵。

 

不甲斐なさや憎しみ、そしてここに来て長年に渡る怨恨籠る敵(かたき)を目前にできた想いがアディンを震わせ、奮わせていた。

 

アディンの脳裏で、遭遇するグラーフ・ドレンデと開かれた通信回線から、MO-5を沈めた事を鼻で嗤うかのように軽く語り暴露するヴァルダーの声が反復して過り続ける。

 

「……っそ!!!くっそぉぉおお……!!!」

 

「アディン……!!!今の状況をわきまえろ。無駄だ!!!」

 

ヒイロは今にも取り乱しあがこうと身構えたアディンに警告する。

 

怒りに駆られていたアディンはヒイロに振り向き、怒りを露にする。

 

「んだとっ?!!ヒイロに今の俺の気持ちが解るかよっっ?!!」

 

「状況を見据えろと言っている!!!怒り乱すのはあからさまに状況を悪化させる!!!」

 

「うるせぇええっっ!!!」

 

怒りに駆られたアディンはヒイロに手錠にかけられていた両拳でヒイロを振り殴る。

 

ヒイロの頬を直撃するも、ヒイロは顔色一つ変えずに膝蹴りをアディンに浴びせた。

 

「ぐふぅっ……?!!」

 

アディンのみぞおちにドスッと膝蹴りが入り、アディンは間もなく気絶して倒れ込んだ。

 

「き、貴様ら!!!何を取り乱してやがる!!!!大人しく従え!!!ったく、面倒ゴトを増やしやがって……おい、倒れたガンダム小僧を運べ!!!」

 

「はっ!!」

 

気を失わされたアディンは、指示で動いたOZプライズの兵士達二人にそのまま手と足を持ち上げられながら運ばれていった。

 

その指示を下したOZプライズの兵士が見送るヒイロに罵倒する。

 

「貴様も早く歩けっ!!!」

 

無言で歩を早め始めたヒイロに、すぐ後ろにいたジンネマンが一言礼を述べる。

 

ヒイロは既にジンネマンから一目置かれており、その礼はアディン一人の暴走からなる連帯の悪影響を阻止した事への礼であった。

 

「すまんな……礼を言う。よくぞ小僧の暴走を止めてくれた」

 

「気にするな。今あがけば状況が余計に悪化するだけだ……それを制止したに過ぎない」

 

その会話のみを済ませ、歩を歩ませながらヒイロは運ばれていくアディンを見ながら届く事がない言葉を呟いた。

 

「……悪く思うな……一回は一回だ……」

 

一見非常に冷静に状況を見据えているかのようなヒイロ達だが、常に捕らわれたマリーダやプルを想う憂いが激しく精神を締め付けている状況だった。

 

これまでに膨大な修羅場を経験してきたが故に、現状に耐えれていた。

 

一般の者であれば大切な恋人や娘が得たいの知れない組織に拉致された挙げ句に人体実験をされ、半ば生き別れの状況に晒されていれば、発狂している状況であっても不思議ではない。

 

況してや死の危険もはらむのだ。

 

ヒイロは初めて異性として惹かれた女性の死が、ジンネマンには二度に渡る娘の死の経験の恐れが見え隠れする。

 

更にその上に、ジンネマンにとってもう一人の娘の身も様々な意味合いで危機に晒されているのだ。

 

正に精神が生殺しに晒されている程の屈辱といっても過言ではなかった。

 

その感情と想いが締め上げられる彼方先では、改めて拘束されたマリーダがマーサやベントナと再び相対させていた。

 

マーサは拘束されたマリーダの顎をなぞるように触り、見下した嘲笑を浮かべていた。

 

「うっふふふふ……再び貴方が私達の手に戻るなんて……奇跡ね。いえ、運命かしら?ふっふふふふふふっ!!」

 

「……マーサ・ビスト……っ!!!貴様には二度と従わない……それに無理強いした薬物洗脳は私そのものを絶命させ兼ねない!!!私はマーサ・ビストからすれば貴重なサンプルなのだろう?ならば……」

 

次の瞬間、顔色を変貌させたマーサの平手打ちがマリーダの頬に入り、高い打ち音を響かせた。

 

「うっ!!!」

 

「生意気な口を聞かないことね……生意気な小娘風情が……!!!貴方の大切な妹……いえ、お姉さんの身をいじり回す事になるわよ!!!もとい元にいた場所に戻るに過ぎないけど……!!!更に下手な真似をすればハイパーメガ粒子砲を本当にパラオに直撃させる事にもなる!!!さぁ、従うか、仲間を犠牲にするか選びなさい!!!」

 

そう言いながらマーサは何度も平手打ちを繰り返した上にマリーダの束ね下ろしていた髪を掴み上げて引っ張りあげた。

 

「うぅっ……!!!」

 

「それに貴方は……オーガスタに着任したら遺伝子レベルまで解体される運命よ!!!」

 

「な?!!」

 

「オーガスタで開発中のニュータイプのシステム、『DOME』。これに組み込まさせてもらうわ……アハハ!!!薬よりも画期的じゃない?!!それに喜びなさい。廃棄処分を有効にする為あなたの妹達が既に組み込まれている……!!!姉妹そろって仲良く永遠にいられるわ!!!」

 

「な……狂っている!!!お前達はっ!!!お前達はぁああああああっ!!!ああぁああああああぁああああああ!!!!」

 

 怒りや悔しさ、不安、恐怖を交え発狂するマリーダをマーサはニタニタと見下した視線で笑みを見せ続けた。

 

更に追い討ちをかけるかのようにシナップス・シンドロームの発作がマリーダの身を駆け巡る。

 

「っ……あっ……ががはっ、あぁああああああ!!!」

 

「っ?!!」

 

苦しむマリーダは自らの縛られた身を暴れさせるように苦しみ、更には床に身を投げて狂い悶え続け、それを傍らで目撃しているマーサは余りにもの凄まじい絶叫に唖然を食らわざるを得なかった。

 

「な……これが例のシナップス・シンドローム……うるさいことこの上ないわっっ!!!」

 

マーサは今一度感情を高ぶらせてマリーダの頬を叩き、彼女を放置しながら部屋を後にする。

 

そしてルームのスライドドアを外部からロックし、半ばマリーダを隔離するかのような措置をとった。

 

マーサはその部屋に振り返りながら鼻で笑い、ヒールをカツカツ響かせながらオーガスタ研究所との通信を始めた。

 

「私よ……例のシステムを準備してなさい……着任次第、プルトゥエルブを解体するわ!!!」

 

一方のプルも、強制的な状況下でMS戦闘のシミュレーションをさせられている最中に感覚がマリーダとリンクし、彼女の絶望的な苦痛が襲いかかっていた。

 

「きゃあああああああああああっ、いやぁあああああああああ!!!苦しいっ、マリーダっっ、マリーダぁあああっ!!!」

 

「?!!く、シミュレーションにならん!!!中止だっ!!!くっ、暴れるなっ小娘!!!」

 

実験担当者達がプルの身体を押さえつける。

 

それでも駆け巡る激痛に耐えれずに、プルは激しく身体を捩らせ続けた。

 

その最中、一人の実験担当者がプルを押さえながらあらぬ思考を過らせ、他の実験担当者達に意思を疏通させはじめた。

 

「なぁ?ここはっ……法なんて通ってないよな?」

 

「何?何を言い始める?!実験に集中しろ!!」

 

「できる状況か?できねーから言ってる。てか、俺達は常にミズ・マーサの私兵として缶詰めだ……溜まるストレスはとことん溜まるだろ?!!」

 

「……まさか?!!はははっ、なるほど……!!!」

 

「確かに法はない……それ以前にいくらでも隠蔽できる!!!」

 

「コックピット・ハッチ……ロックしろ!!くくくっ!!!」

いやらしい笑みを浮かべながら、男達がハッチを内部からロックさせるとともにモニターに赤く「LOCK」の文字が点滅した。

 

 

時を同じくする頃、ヒイロとアディンは重要反逆者としてジンネマン達とは別の牢獄部屋に移され、そこでデュオと五飛に再会する状況になっていた。

 

寝転がるデュオは敢えて投げやり気味に言ってみせる。

 

「あーあっ!!揃いに揃ってGマイスターが豚箱入りなんてよー……それにせっかく揃ってもガンダム無いんじゃ意味ねーっての!!ったく、世も末だぜぇ……」

 

「確かに俺達はガンダムが取り上げられてしまった状況下にある。不利以外の何物でもない……今は足掻くだけ無駄だ」

 

「切り札になるウィングゼロも敵の手にある。もうすぐガンダムデルタカイとかいうゼロと同格の奴らのガンダムと模擬戦闘実験が開始されるらしい。場所はL3だそうだ」

 

五飛がヒイロの言葉の後にウィングガンダム・ゼロの模擬戦闘実験の場所を吐露した。

「L3……この宙域の正反対の位置か……阻止は実質無理かっ……そのガンダムデルタカイとかいう同格機体の武装も同格なのか?」

 

「らしいな……」

 

ヒイロもウィングガンダム・ゼロの性能を把握しているが故に新たな同格機体の存在を危惧せずにはいられなかった。

 

現状におけるウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの激突が意味するのは、激突した周辺宙域のコロニーやその他資源衛星、艦船等の様々な大規模破壊だ。

 

ヒイロの脳裏にL3コロニー群のコロニーが2機の暴走により破壊されていく様子が容易に想像できてしまう。

 

更にマリーダ達の拉致に彼女の命の危機が見え隠れするという、板挟みの悪状況だ。

 

そんな中、デュオがラルフから受け取ったアイテムのストラップを人差し指でぐるぐる回しながら口を挟んだ。

 

「L3のコロニーもダメ……このまま虫殺しに……俺達はくたばるしかないかも……なーんてなっ!!ほらよ、ヒイロ!!」

 

「?!!」

 

デュオは手にしていたアイテムをヒイロに投げ渡し、ヒイロは意表を突かれながらもそれを片手でキャッチしてみせる。

 

「これはなんだ?」

 

「テキトーに壁に向かってスイッチ押せば自ずと道が開けるぜ。まだ仮の道だけどな!!」

 

「……そうか」

 

ヒイロは直ぐに投影型動画メモリーと理解し、目の前の壁に投影させた。

 

『囚われのGマイスター諸君。俺が長期に渡る根回しの成果と今後の計画を記す。敢えて多くは語らん。再起実行にあたるデータプランを作った。暇潰しに使ってくれ。追伸……トロワに背枷れた。故に日は近いぜ』

 

ラルフの音声のデータの後に、今後の再起プランの詳細が表示され、ボタンスイッチを押す毎に次へ次へと表示が進む。

 

ざっくり言えば、現状からの脱出と今後の反抗かつ反撃にあたるプランであった。

 

「バルジからの脱出……カトル、トロワのガンダムとマグアナック隊の連携強襲……ウィングゼロの奪回……結託したオーストラリアのゲリラ組織・マフティーと連携し、メンバーの救出を兼ねたリ・オペレーション・メテオの決行……オーブ強襲・解放……以後転戦による主な拠点の破壊をしつつ、サンクキングダムへ向かい、同国への亡命と防衛……これは……!!!」

 

「ボリュームたっぷりだろ?ラルフの奴、囚われた博士や外部のカトル達との根回しを駆使して色々と動いてくれてんのさ!トロワの奴も珍しいおせっかいを出したみたいだし、今にチャンス来るかもな!!」

 

「そうか……」

 

ヒイロは一言だけ返事をし、ひたすらラルフのプランを閲覧し続けた。

 

 

 

OZプライズ宇宙要塞・バルジを出発したウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイの模擬戦テスト部隊が模擬戦エリアに選定したポイントに到達する。

 

「目標宙域に到達。これより模擬戦闘実験の準備に移行する」

「了解。試験機体の2機は輸送艦艇から発艦した後に指定座標の配置に付け」

 

リディはハッチ解放後、指示されたポイントを虚ろな視線でメインモニターで把握しながら機体を出撃させる。一方のキルヴァは暗い半球ドーム型のインターフェースの中に座していた。

 

客観的に見れば、赤とグリーンのマーカーが漆黒のインターフェース画面に表示されているに過ぎない。

 

だが、機体が起動すると共にキルヴァは前を見据え、ニヤリと笑いながらコントロールレバーを押し込んだ。

 

出撃したウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイは遠巻きに並行しながら宙域を飛ぶ。

 

だが、その最中、早くもキルヴァに異変が起き始めていた。

 

キルヴァは宇宙空間の景色が拡がる視界感覚に満たされており、視覚だけではなく自身が空間そのものと一つになっているかのような感覚に襲われる。

 

「うはぁっ?!!モニターかと思ったら違う!!!宇宙に俺が溶け込んでやがる?!!スゲーコックピットシステムだぜ!!!こりゃ全方位型とはまた違う!!今いる空間そのものが手にとれ……なんだこの感覚……っっ……何かが……?!!」

 

キルヴァは突如として脳内に声なき何かが侵入する感覚を覚えた。

 

口では説明し難い感覚に見舞われながらも、並行するガンダムデルタカイに視線を向けるキルヴァ。

 

その次の瞬間、ガンダムデルタカイがメガバスターの銃口を向けた。

 

ビーム渦流のビーム光がキルヴァの視界に拡がり、キルヴァはビームの直撃を受ける感覚を覚える。

 

「な?!!ヤロウ!!!フライングしやがったなぁ?!!」

 

だが、実際はウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイは並行進撃を維持しており、キルヴァのウィングガンダム・ゼロのコックピット内で展開しているに過ぎなかった。

 

キルヴァの視界、思考には明らかに攻撃を仕掛けるガンダムデルタカイがいた。

 

メガバスターを何発も放ち、キルヴァに中小規模のビーム渦流が襲うビジョンが突き付けられる。

「っっ……がぁあああああっ!!!ざけんじゃねぇえぞ、おらぁあああっっ!!!!」

 

怒りに駆られたキルヴァが叫び散らすと共に、半球ドーム型のスクリーンが一気に発光し、その光はキルヴァの身をコックピットディスプレイごと包み込む。

 

それと同時にウィングガンダム・ゼロのカメラアイとその胸部のゼロ・サーチアイがライトグリーンの光を強く放ち始めた。

 

ウィングガンダム・ゼロはギュインと射撃態勢への状態に可動し、ガンダムデルタカイを目掛けツインバスターライフルの銃口を向けた。

 

ガンダムデルタカイもまた、カメラアイを発光させながら同時にメガバスターの銃口をウィングガンダム・ゼロに向け、バスターファンネルも展開させる。

 

同じ事がガンダムデルタカイにも起こっていたのだ。

 

ガンダムデルタカイのコックピットシステムであるナイトロとゼロの両システムも既に発動しており、敵意を剥き出しにした険しい表情のリディが叫ぶ。

 

「忌まわしい敵っっ、ガンダムッッ!!!!」

 

2機の高出力重火器同士が近距離で向かい合い、監視していたOZプライズ兵士達に戦慄がはしった。

 

「な?!!両ガンダム試験パイロット!!!まだテストポイントではないぞ!!!直ちに攻撃態勢を解除せよ!!!」

 

「くっ……これだから強化人間風情は手を焼く!!!連邦上がりの奴も何をやってやがる!!?攻撃態勢を直ちに解除しろ!!!」

 

当然のことながらキルヴァとリディにその指示が通用する筈がなく、両者は近距離で超高出力のビームを解き放とうとしていた。

 

「っ、構わん!!!MDリゼル・トーラスをキルモードのプログラムで攻撃させろ!!!寸分も迷いの時間はない!!!」

 

「は、は!!!!」

 

この不測の事態に居合わせる事となったOZプライズ兵士達は、2機のガンダムと同時に搬送していたリゼル・トーラスをキルモードに設定にし直し、一斉に攻撃目標を2機のガンダムにしたプログラムを送信した。

 

リゼル・トーラス部隊はカメラアイの発光を高速点滅させた後に、次々に宇宙空間へと飛び出してレフトアームのビームキャノンを構えていく。

 

撃ち放たれるビーム射撃は、今にもツインバスターライフル発射寸前のウィングガンダム・ゼロとメガバスターを構えたガンダムデルタカイに次々に着弾していく。

 

装甲の表面で、幾多の小爆発が巻き起こり2機を包んでいく。

 

更にメガビームランチャーを構えた幾つかの機体がビーム渦流を叩き込むと、ビームキャノンを放っていた機体達もそれに続くようにして射撃をメガビームランチャーへ切り替えた。

 

注ぎ込まれるかのような射撃がより一層の火力を増しながらウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイを直撃していった。

 

オーバーキルとも言えるような過剰攻撃を受けた2機は一気に弾けるかのような大爆発を巻き起こす。

 

宇宙空間に拡がるその光景はどう見ても破壊による爆発であった。

 

肉眼でこの状況を目視したOZプライズ兵士達もまた2機の破壊を確信していた。

 

リゼル・トーラスのメガビームランチャーは、実際にメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを破壊に追い詰めた実績がある兵器なのだ。

 

従来のガンダリウムならば完全に破壊させている程の火力の砲火であった。

 

「爆発、視認!!」

 

「あれ程の火力を浴びさせたのだ!!いくらガンダムと言えど……っっぅ!!?」

 

だが破壊を確信した次の瞬間、爆炎光を突き破りながらウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイが飛び出す。

 

両ガンダムは両眼を見開くかのように光らせ、ウィングガンダム・ゼロは胸部のサーチアイを発光させていた。

 

「が、ガンダム2機健在!!!双方共にほとんど外傷ありません!!!」

 

「ば、馬鹿な?!!有り得ん!!!どれ程の火力を浴びせたと……!!?」

 

「ガンダム、攻撃態勢に移行!!!銃口をこちらに!!!」

 

「えぇいっ、MD、オーバーキルプログラム指示!!!再度全火力叩き込ませろっ!!!!」

OZプライズの兵士達の面々が戦慄する中、ツインバスターライフルとメガバスター、バスターファンネルの銃身が実験部隊とリゼル・トーラス部隊に向けられた。

 

リゼル・トーラス部隊もまた、2機のガンダムを撃破できなかった事を認識した上にオーバーキルプログラム信号を受け、カメラアイ発光を高速点滅させる。

 

再びリゼル・トーラス部隊によるメガビームランチャーとビームキャノンの一斉砲火がウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイへと放たれた。

 

リゼル・トーラス部隊は再度2機のガンダムへ直撃を浴びせ、更に連続の高出力砲火を持続させる。

一斉砲火は確実に2機の装甲に連続着弾しており、一発も外してはいなかった。

 

更に爆発を重ねる中、必要以上に砲火が続く。

 

「いける!!!次こそは……!!!」

 

「MDシステムのオーバーキルプログラム、間違いなく最良の攻撃プログラムです!!!」

 

「ふふふっ、この攻撃が敵であったらと思うと恐ろしいことこの上ないな……!!!」

 

どの兵士達も確実な破壊を確信していく最中、そのおびただしい爆発と砲火の中から2機のガンダムが飛び出す。

 

誰もがその事実に理解が出来なかった。

 

スローモーションに映るウィングガンダム・ゼロとガンダムデルタカイがギンと両眼を発光させる。

 

そして両ガンダムはツインバスターライフルとメガバスター、バスターファンネルの銃身をリゼル・トーラス部隊に向けた。

 

戦慄の瞬間を掻い潜り、凄まじい現実がOZプライズの兵士達に襲いかかった。

 

 

 

ヴヴィリリリリリィィィ……ヴヴヴァダァアアアアアアアアアアアアアッッ―――!!!!

 

ズゥゴォヴァアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアァァァアアアアァァァ……

 

 

 

超高出力かつ大規模のビーム渦流群が撃ち出され、瞬時にしてリゼル・トーラス部隊と輸送艦隊を呑み込み破砕し尽くしていく。

 

ツインバスターライフルが放つそのビーム渦流は、ウィングガンダムのバスターライフルをも上回る規模であった。

 

ウィングガンダム・ゼロはゆっくりと銃身を旋回させ、更なる攻勢で潰し尽くし爆発群を拡大させていった。

 

 

 

ドッゴバッドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォドォゴバババババガァアアアアアアアア!!!!

 

 

 

遂に禁忌のガンダムの力が解き放たれ、狂気の破壊技術たるMDを更なる狂気の破壊技術が呑み込む。

 

宇宙世紀のこれまでの戦闘常識が完全に崩壊した瞬間が駆け抜けた後、やがてビーム渦流は終息し、大規模な爆発群を産んだ。

 

その爆発の中、2機のガンダムは対峙するように向かい合いながらビームサーベルの武装を手にし、グワッと一気に加速した。

 

 

 

To Be NextEpisode

 

 

次回予告

 

 

 キルヴァとリディがウィングゼロとデルタカイで激突し合う。

 

 二人はその熾烈な激突の中でゼロシステムに呑まれながら消息を絶った。

 

 2機の消息不明から一週間が経つ中、艦隊規模の部隊や武装コロニー、資源衛星が相次いで消息を絶つという異常事態が起こる。

 

 その状況下を利用し、ヴァルダー達は手当たり次第に資源衛星を破壊しながら、ラプラスの座標ポイントを目指す。

 

 マリーダとプルは卑劣な利用手段にされ続け、マーサとヴァルダー達に翻弄されていく。

 

 バルジに収監されたヒイロ達もまた、彼女達への憂いが張り詰め、アディンは耐えれずに取り乱してしまう。

 

 そんな中、消息を絶っていたキルヴァ駆るウィングゼロが姿を表し、コロニーや資源衛星を破壊し始める。

 

 そのウィングゼロこそが艦隊やコロニーの消失の元凶であり、それは過去に例を見ないMS単機でのテロ行為だった。

 

 これに対し、トレーズの意向でヒイロとデュオが暴走した2機の討伐隊に抜擢され、メリクリウスとヴァイエイトのカスタム機を与えられるのであった。

 

 

 次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

 

 エピソード 33「ゼロという破壊神」

 

 

 

 

 

 


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