新機動闘争記ガンダムW LIBERTY   作:さじたりうす

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エピソード23 「バルジの巨光」

ヒイロ達は、長きに渡る捜索と理不尽な運命をくぐり抜けた末に、マリーダを救出した。

 

ガランシェールにガンダムジェミナス01、02そしてヒイロとマリーダを手に乗せたキュベレイMk-Ⅱが帰投する。

 

各機体に可動音を唸らせる格納用ロッカーアームが固定される。

 

ドックではジンネマンが今か今かと待ちわびながら手摺を握り締めていた。

 

ヒイロとマリーダを乗せたキュベレイMk-Ⅱの手のひらがドック通路にかざされる。

 

ヒイロは疲弊し衰弱仕掛けているマリーダを抱き抱えながら降りると、礼の意でキュベレイMk-Ⅱに振り返り見つめる。

 

中のプルもそれを察し、キュベレイMk-Ⅱの猫目型カメラアイを発光させた。

 

「マリーダっ!!!」

 

ジンネマンの叫ぶような声にヒイロは振り向く。

 

「マスター……」

 

駆け寄るジンネマンを見たマリーダが呟くとヒイロは短く語りかけた。

 

「あぁ……ジンネマンだ。そして、帰るべきところだ」

「マリーダっ……!!!」

 

駆け寄ったジンネマンは、真っ先にマリーダの手を握った。

 

「マリーダっ……よく帰ってきてくれたっ……!!!よかったっ……よかったっ!!!」

 

ジンネマンは感極まり、涙を流す。

 

その涙は男の涙と言うより父の涙にふさわしかった。

 

「どれ程っっ……どれ程お前を探したかっ……!!!」

 

「ごめんなさい……マスター……」

 

弱々しく謝るマリーダに、ジンネマンに更なる切なさを込み上げる。

 

見るからにどれ程の非人道な目にあったかわかる故に吐く言葉は一つしかなかった。

 

「謝らなくていい!!!っ……謝らなくていい……こうして戻ってきてくれただけでも嬉しいんだ!!!くっこんなに……こんなに弱って……マリーダっ……うぅっ……!!!」

 

ジンネマンは暫く絶句しながら泣き続けた。

 

ジンネマンの感情に触れ涙を流すプルは、その流れる涙を払ってみせ、笑顔でモニターに映るマリーダとジンネマンに微笑む。

 

「よかった……やっとマリーダが戻れて……でも、マリーダは……!!」

 

だが直ぐにプルは何かを感じ取っているかのように深刻な表情を浮かべ、今流した涙とは別の意味の涙を流した。

 

ジンネマンは暫く泣き続けた後、再び顔を上げヒイロに向き合う。

 

「ヒイロ……よくぞマリーダを助けてくれた!!!心から感謝する……!!!」

 

「ジンネマン……まだ感情に浸るのは早い。マリーダは体に想像以上の負担をかけさせられているっ!!この船に主治医はいたか?!」

 

「何だと?!!くっ……今この船にはいない!!!だか、パラオならばいる!!かつてのプルとプルツーを受け持った博士と元エウーゴの軍医がな!!」

 

マリーダの呼吸は少しずつ乱れ始めてきていた。

 

更にマリーダは苦痛を覚えたような声を漏らした。

 

「うくっ!!あっ……うぁあああああっ!!!」

 

「マリーダ!!!」

 

「っ、応急に使える何かはあるか?!!」

 

「万が一の為に常備はしているが……まさか、お前がやるのか!!?」

 

「あぁ!!あらゆるサバイバル知識は持っている!!ジンネマンもある程度はできるな!!?」

 

はぁ、はぁと呼吸を乱し始めるマリーダ。

 

ヒイロの口調に一瞬遺憾を覚えたが、ジンネマンはマリーダを苦しめるこの現実の方に眉をひそめ、ヒイロを緊急の医務室に案内する意を示す。

 

「無論だ!!!ついてこい!!!」

 

マリーダを抱えながら駆け出すヒイロを見て、オデルも駆け出した。

 

「ヒイロ、俺も手伝おう!!」

 

「あぁ、頼む!!」

 

駆け出した二人にアディンもまた続こうと駆け出す。

 

だか、それに対してオデルは制止をかけた。

 

「アディンはプルの側にいてやれ!!彼女の妹が危うい状況の中で置いてきぼりにするな!!きっと心細くなる!!」

 

「いぃっ!!?」

 

オデルは、アディンの突っ込みを見越し、理由まで擲(なげう)って走り去った。

 

そこまで言われたら残らざるをえない。

 

アディンはコックピットから降りたプルの許に行き、彼女を呼び止めた。

 

「プル!!」

 

プルはアディンの声に笑顔を一時的に取り戻して振り向く。

 

その時、アディンはその一瞬に見えたプルの儚げな寂しい笑顔に、心が掴まれた。

 

「……!!」

 

「アディン……!」

 

プルの声にはっとなったアディンは、再び言いかけてた言葉を口にした。

 

「プル……心配すんな。ヒイロは俺達の中でも特に何でもできるスゲーヤツだかんさ……でもま、プル達がいい仕事したから今に至ってるんだ。ポジティブにいこーぜ」

 

アディンはハイタッチの手をかざす。

 

プルは亡きかつてのプルと妹達の思念に触れたことを想い返し、涙を拭いながら答える。

 

「……そうだねっ!せっかくマリーダが帰ってきてくれたのにメソメソしてたらもう一人のあたしや妹達ががっかりしちゃうね!!」

 

「へ!?」

 

「ううん、なんでもない!」

 

プルはハイタッチをアディンに返すと、寂しい笑顔を浮かべながらアディンに話しかける。

 

「ねぇ、アディン。クリパは来年でいい。あたし、我慢する……だってマリーダのコト想うとさ……できないよ」

 

「プル……」

 

プルは本来ならばこの船の中でも最もな遊び盛りだ。

 

だか、彼女は危険な常態のマリーダを気遣いながら少し大人びた想いを決めた。

 

アディンやヒイロ達さえも本来ならばハイスクールへ通い、遊びを満喫している年頃だ。

 

だが、元より過酷な運命を辿ってきた孤児(カトルは除く)であるが故に、捉え方は実年齢よりも大人びていた(アディンは比較的実年齢寄りであるが)。

そういった現実を焦点に捉えたアディンは、急なもの淋しさを感じた。

 

プルは少しばかりダブリンで亡きプル達から感じたコトを語る。

 

「アディン……ダブリンで、死んでいったもう一人のあたしや妹達に会えたんだ。その時にあたしの知らなかった過去とか、色々見えた……」

 

プルはふっとアディンに飛び込んで抱き付く。

 

「っ!!プ、プル……」

 

アディンはプルの大胆な行動に戸惑ったが、この深刻な空気に突っ込む余地はなかった。

 

アディンはプルの頭を撫でながらぎこちなくも語りかけた。

 

「哀しい……よな……戦争や紛争の現実は……ニュータイプじゃねーから完全にはわからないけど、プルはきっと哀しみを感じ過ぎちまったんだ……ましてや姉妹なんだから……でも、きっと今のプルと会えて幸せなはずさ、姉妹達は……」

 

アディンのその言葉を受け、プルは抱き付いたまま言葉なく泣きながらうなずいた。

 

 

 

 

一方、シャトルでガルダから脱出したマーサとベントナ一行は、移動しながら次なる手筈を画策する。

 

マリーダとプルサーティーンの遺伝子サンプルを手にしたベントナが、卑屈に笑いながらマーサに言う。

 

「ミズ・マーサ。短期高速化遺伝子操作をさせながら次なるプルサーティーンは作成できます!!しかし、ユニコーンを破壊する為のガンダムはまだ確保できておりません……これはいかがしますか?!!」

 

するとマーサは、じっとベントナを見ながら再び前を見据え、薄ら笑いを交えて答えた。

 

「次なるプルクローンをパイロットとして使えるのはいつからなの?」

 

「それは実際にやってみなければなんとも……!!!」

 

「言い出しておいてソレはアテにできませんね。別の手を打ちなさい。あなたのもう一人の自慢の強化人間はどうなの?」

 

「現在、オペレーション・プレアデスで地球で活動中でして……」

 

「至急宇宙へ持って来なさい。確かツガイも一緒のはずよね?二つセットで頼むわ」

 

マーサは強化人間をモルモット同様の扱いとしている。

 

性根から腐敗した感性に、同じく強化人間をモルモット扱いとしているベントナは容易く答える。

 

「ははっ!!仰せの通りに……!!!」

 

ベントナは直ぐに通信手段をとり、キルヴァに通信を取る。

 

キルヴァには新たにベントナ回線のマイクロ通信機が埋め込まれており、いついかなる時でも通信を得る事が可能であった。

 

「あぁ!!?なんだ?!!おっさん!!!取り込み中なんだよ!!!」

 

「キルヴァよ、命令だ!!!ロニと宇宙へ来い!!!ユニコーンガンダムの破壊とビスト財団当主の暗殺だ!!!」

 

「わりーな……興味ねー」

 

「何?!!どーいうことだ?!!」

 

ベントナの通信の向こうでは、ペーネロペーのコックピットハッチの上とコックピット内とで、キルヴァと憎しみの眼差しを突き刺すロニが銃を向け合う状況にあった。

 

既にロニは発砲を一度しており、キルヴァの頬に掠めた傷の血が流れていた。

 

キルヴァは睨み付けるロニに薄ら笑いを浮かべる。

 

「ロニに今は興味深々だ。暴走して反逆者になっちまってた……キヒっ!!!」

 

「っ――!!!」

 

増したキルヴァの薄ら笑いと無言のロニの深い睨みが重なった次の瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデス。

 

OZ及びOZと結託した一部の地球連邦軍による地球圏規模のクーデター作戦。

 

歴史上に前例を見ない壮大かつ壮絶な戦闘が展開された。

 

奇しくも発動タイミングはクリスマスシーズンであったため、後に「流血のクリスマス」と呼ばれる。

 

発動させてより二時間余りが経過していたが、グリプス2やルナ2、そしてネオジオン勢力を交えたアクシズαの戦闘は依然として続いていた。

 

宇宙空間にはしる閃光たる閃光。

 

武装強化されたリーオーとMDリゼル・トーラス部隊がジェガン、リゼル、ジムⅢの機体群をその絶大な火力と機動性で次々に破壊していく。

 

グリプス2では激戦の流れを変えるため、遂にコロニーレーザー・グリプス2が動き始めた。

 

管制ブロックにてグリプス2のコントロールが開始された。

 

「グリプス2、コロニーレーザー発射行程に入りました!!」

 

「出力、56.8%。正常にエネルギー上昇中」

 

「各荷電粒子ユニット正常」

 

「ZFジェネレーター作動!!エネルギー充填開始!!」

 

コロニーレーザーの発射行程が進んでいく。

 

グリプス2宙域の担当司令官が戦況モニターを見ながら急かす。

 

「もっとだ!!充填速度を上げろ!!」

 

「これが最大です!!充填率、60%到達!!」

 

「くっうっOZめ!!何がクーデターだ!!!先に照準を奴等の陣営後方にある要塞へ向けろ!!!」

 

グリプス2が僅かに動き、その照準がOZ宇宙要塞・バルジに向けられた。

 

「もう少しで……もう少しで陣形が変わる!!!」

 

だが、その次の瞬間に展開していたMS部隊がビーム渦流で一掃される事態が発生した。

 

更に次々にMS部隊が破壊される箇所まで表示された。

 

「陣形が一気に崩されました!!」

 

「何ぃ!?!この事態は……!?!」

 

「先程から幾つもの箇所に見られた乱れです!!!3機のMSにより攻撃を受けています!!」

 

「さ、3機!?!ええい!!!早く、早くコロニーレーザーを!!!」

 

 

 

ザガシュッ、ザガギャアッ、ダシュダァ、ダシュダァ、ダシュダァ、ダシュダァアアアア!!!

 

ズガドドドドドドドゴバァアアアア!!!

 

 

 

アスクレプオスがパイソンクローで2機のスタークジェガンを突き砕き、かざしたパイソンビームランチャーでジムⅢ4機、リゼル2機、ジェガン2機を一気に破壊する。

 

その傍らで斬撃を浴びせ続けるメリクリウスがいた。

 

 

 

ジュゥガシャアアアッ!!! ズドォギャシャッ、ザバシュ、ザガギャアッ、ドウッ、ドウドウドウドウッッ!!!

 

 

ジェガンやリゼルが次々に斬られ続けた後に、ビームガンの連続射撃をジムⅢの機体群に浴びせ続けた。

 

 

ドッドドドゴバァガァアアアア!!!

 

 

 

メリクリウスの餌食となったMS達は、スパークを起こしながら一斉に爆砕する。

 

更に後方より、ヴァイエイトが放つビームカノンの大出力ビーム渦流が撃ち放たれた。

 

 

 

ヴァズドォアアアアアアアア!!!

 

ドゥズゴバァアアアアア……ゴゴゴドドドドゴォゴゴォォオオオッッ……!!!

 

 

 

MS部隊が一掃されるのを確認すると、トラントはアレックスとミューラに呼び掛けた。

 

「よし、お前ら!!コロニーレーザーの中で一暴れするぞ!!!そーすれば連中は嫌でもコロニーレーザーが撃てなくなる!!!」

 

「ひゃはははー!!!破壊、破壊!!!」

 

「やっちまいましょう!!!」

 

アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウスがコロニーレーザーの発射口を目指し加速。

 

更に阻もうとするリゼルやジェガンの部隊が前面にでるが、アスクレプオスとメリクリウスは容易くかつ鮮やかに裂き砕いて爆砕させ、ヴァイエイトは豪快に撃ち飛ばす。

 

そして3機はコロニーレーザー内に突入し、一斉に持てる火力を奥側に束なってある荷電粒子ユニット目掛け射撃する。

 

一斉に射撃される高出力ビームは、一気に多くの荷電粒子を破壊する。

 

この時点でヴァイエイトがチャージショットをすれば効率的にコロニーレーザー内部を破壊する事も可能だ。

 

だが、破壊というスタンスにこだわる彼らは、個々にとことんまで破壊する。

 

荷電粒子ユニット群に到達した3機は、輪をかけたように破壊に徹し始める。

 

アスクレプオスはパイソンクローの破砕乱舞、メリクリウスはクラッシュシールドによる滅多斬り、ヴァイエイトは撒き散らすようにビームカノンを振るい回す。

 

「か、荷電粒子ユニットが次々に破壊されていきます!!!充填率も低下中!!!このままではコロニーレーザーそのものが撃てなくなります!!!」

 

「なんだとぉ!!?くっ……!!!MS隊に向かわせろ!!!」

 

MS部隊の一部のリゼル、スタークジェガンが三小隊づつ突入したが、機体反応に気づいたヴァイエイトがビームカノンを構える。

 

「くっくくっ!!いくら来たって……無駄なんだよ!!!」

 

撃ち放たれた連続的なビーム渦流が連続でリゼル5機、スタークジェガン5機を破砕させた。

そのタイミングでアスクレプオスとメリクリウスが離脱を開始。

 

同時にヴァイエイトが荷電粒子ユニット群に向けてビームカノンを撃ち放つ。

 

撃ち注がれ続けるビーム渦流は、荷電粒子ユニット群を押し砕くように破砕し続け、更に左右に銃身を振るい続けた。

 

コロニーレーザー内部より爆発が巻き起こり、コロニーレーザー中枢たる荷電粒子ユニット群が完全に破壊され、コロニーレーザーそのものの機能が麻痺した。

 

3機は一斉にPXを発動させ、グリプス2を飛び出す。

 

この状況はバルジに通達され、展開中の部隊にも離脱指示が出される。

 

「グリプス2よりアスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス離脱確認!!まだ展開中の部隊は射線軸上から離脱せよ!!」

 

OZサイドのリーオーとリゼル・トーラス部隊が次々と離脱していく。

 

「MS部隊、離脱確認しました!!」

 

「よし!!バルジ、発射シークエンスに移行せよ!!!」

 

そして、指揮官の指令の下、バルジは発射シークエンスに移行し、バルジ砲の真価を問う時が動き出す。

 

「バルジ、各ブースター作動、発射角度修正中…………………バルジ機体角度修正完了!!」

 

「HKSバランサー圧力正常……TRDバイパスユニット接続完了!!エネルギー圧力、更に上昇!!最大エネルギー圧力による発射工程に移行!!」

 

バルジ砲の巨大な銃口にスパークが発生し始め、真紅に光る超高出力エネルギーも同時に充填されていく。

 

「DFVチェンバー内圧力正常……BBSシステムへの接続完了!!シリンダー内圧力、更に上昇中!!」

 

更に出力を上昇させた真紅の超高出力エネルギーが銃口内に拡大し、それにともないスパークも激しさを増していく。

 

「最終セーフティーロック解除!!エネルギー臨界レベル到達まであと10、9、8、7……」

 

遂に発射までのカウントが始まり、真紅の超高出力エネルギーは今にも解放されんとしていた。

 

トラントは射線軸上外からミューラーとアレックスにバルジ砲の真価を見届けるように促す。

 

「くくくっ、お前らもよく見ておけ!!!バルジがグリプス2を排除する瞬間だ!!!この一撃が歴史的一撃になる!!!」

 

「了解~!!!」

 

「破壊、破壊ぃっっ!!!」

 

そしてその間にもカウントダウンはあと僅かになった。

 

「……3、2、1、バルジ砲発射体制完了!!」

 

「よしっ、バルジ砲、撃ぇっっ!!!」

 

 

 

ギィゥゴォォォオオオ…………ヴグゥゴォアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!

 

 

 

超高出力かつ超大型のビーム渦流が、禍々しいばかりの真紅の光を放って撃ち出された。

 

 

 

ゴォグオオオオオオォォォ……

 

 

 

突き進む悪夢のような紅いビーム渦流は、次々と連邦軍のMS部隊や艦隊を呑み込んでいく。

 

 

 

ゴォオオオオオォォォ……ズズズズァアァァァ……

 

 

 

その凄まじいビーム渦流は有り余る熱量の為に、呑み込む機体群、艦隊を爆破させることなく蒸発させて文字通りにかき消していく。

 

「ち、超高熱源体接近!!!か、回避ふの……ぐぁあああっ―――……!!!!」

 

「お、OZめぇぇっ……がぐぁああっっ―――!!!」

 

そしてそのままグリプス2に直撃し、管制ブロックも破砕、蒸発。

 

その宇宙世紀の戦争の産物たる巨大な砲身を瞬間的に破砕させる。

 

 

 

 

ドドグゴォオオオオ……グヴァガァアアアアァ……

 

 

 

 

一方、アクシズαにおいてガンダムデルタカイの無双乱舞が猛威を奮う。

 

かざしたメガバスターの銃口から高出力ビーム渦流が放たれ、ギラズールやジェガン、リゼルを吹き飛ばす。

 

 

 

ヴグゥヴァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

ドゴバァッ、ドヴァガッ、ドガギャアアアアッッ!!!

 

 

 

カメラアイを光らせ、更に低出力でメガバスターの連発を開始すると、スタークジェガン、ギラドーガ、ガザD、バウ、ジムⅢと連邦、ネオジオン両勢力のMS達を次々に破砕させた。

 

 

 

ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダッ、ディシュダァアアアアッ!!!

 

 

 

無論、威力は低出力でもビームマグナムに匹敵する威力だ。

 

その最中にビームトマホークを振るいながら迫るドライセンに対しバスターソードを突き出し、返り討ちにしてみせた。

 

 

 

ドォディガァアアアアンッッ!!!

 

 

 

そしてバスターソードへ串刺しに刺さったドライセンに至近距離のハイメガカノンを放ち、更にはその直線軸上のジェガンやリゼル、ギラドーガを連続で吹き飛ばす。

 

 

 

ヴゥゥッッ―――ヴァズゥドォオオオオオ!!!

 

ドヴァズゥウウウウッッ―――ドドドドゴバァガァアアアア!!!

 

 

 

「やはり……!!!この機体っ……あのガンダム達に匹敵する火力を持っている!!!」

 

直に操作すると伝わる従来の連邦機との違和感。

 

機体の感覚はリディが今までに感じてきた連邦のどのMSにも似つかない。

 

ユニコーンガンダムに似た感覚が近いが、また違った感覚だった。

 

そして自ずとメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムにガンダムデルタカイが行き着く。

 

更に幾度かのガンダムジェミナスとの戦闘を経験している経験がそれを感じさせた。

 

「だがっ……この力は……」

 

宙域を駆け抜けながらハイメガカノンを放ち、リゲルグとギラドーガ3機、ガザD4を撃墜。

 

向かい来るジェガンやリゼルの機体群に対しメガバスターを放って次々に破砕させ続けた。

 

「!!?」

 

次の瞬間、一気に接近したドライセンがビームバズーカをゼロ距離でガンダムデルタカイを撃った。

 

銃口を焼き付かせてしまう程の爆発がガンダムデルタカイを包んだ。

 

更にドライセンはハンドビームキャノンを撃ち放ち追い討ちをかけた。

 

だが、次の瞬間。

 

 

 

ズガギャアアアアッ!!!

 

 

 

爆発の中からシールドバスターソードが飛び出し、ドライセンの胸部に突き刺さる。

 

そして零距離の射撃で、ハイメガカノンがドライセンを爆砕させた。

 

現れたのはほとんど無傷のガンダムデルタカイであった。

 

リディは計器類に異常がない事と機体が破損していないことを確認した。

 

「バカな……この途方もない強度は……!!!」

 

この時、自爆したウィングガンダムの残骸検証に立ち合った事もフィードバックした。

 

「今となっては開発者が手中にいるためにミステリアスではなくなったが……間違いない、ガンダニュム合金……そしてこの武装の異状な破壊力……うくっ!!!?」

 

その時だった。

 

リディがこれまでに味わったことのない感覚が襲い、同時にコックピットモニターがまばゆく光始めた。

 

「なっ…………っ、なんだ!?!」

 

遠心力に振り回されるような不快感や吹っ切れるような爽快感、嘔吐の気持ちの悪さが入り交じるような感覚だ。

 

その最中、ミヒロを乗せたOZ高速戦闘艦が破砕し、自身も破壊される。

 

「わぁああああああっ?!?うっぐっ!!?」

 

だが、まだ生きていてシートに座っている。

 

ミヒロを乗せたOZ高速戦闘艦も無事だ。

 

訳がわからない現実が狭いコックピット内にリディを包む。

 

リディは脳を直接的に攻撃される感覚に晒された。

 

そして言葉にならない言葉が脳内感覚に指示してきた。

 

 

 

「シュウイノチカラスベテヲハカイセヨ」

 

 

 

「ぐっ……わぁああああああっ!!!」

 

リディの叫びと共にガンダムデルタのサイコ・フレームが発動した。

 

機体各部のフレームに組み込まれたサイコ・フレームからは、ユニコーンガンダムとは異なる青色の光が輝く。

 

そして機体背部の左右にマウントされていたユニットが機体から離脱した。

 

それは大型のファンネルであり、フィンファンネルに形状を酷似させていた。

 

カメラアイを光らせたガンダムデルタカイは、そのファンネルで攻撃を開始する。

 

 

 

ヴグゥッッ……ヴィギュリリリリリィィィ…………

 

 

チャージ音を唸らせはじめたファンネルに、ビームエネルギーがチャージされていく。

 

そして次の瞬間、バスターライフル級のエネルギーが解放した。

 

 

 

ヴグゥヴヴヴァアアアアアアアアアアッッ!!!

 

北欧圏サンクキングダム

 

 

 

OZによる一斉制圧の事後処理が進む中、ゼクスは故郷の地を歩きながらリリーナとヒイロと瓜二つの少年と歩く。

 

「リリーナ……再三聞くが、本当に、本当に彼はヒイロではないのか!?!」

 

「何度も言わせないでください、お兄様。彼はライト・グリューンフルス。私のボディーガードです……それに……その……」

 

ゼクスはライトという少年を見つめながら、言いづらくしているリリーナの仕草を見て心理を察っした。

 

「そうか……仲良くやっているならば、それでよい。少年……ライトと言ったな?」

 

ライトは無言で頷く。

 

「では改めて……私はリリーナの実兄・ミリアルド・ピースクラフトだ。軍……OZでは連邦から身分を隠すためにゼクス・マーキスと名乗って来ている」

 

「ライト・グリューンフルス……」

 

ヒイロに負けず劣らずの無口なライトが、ゼクスの前で初めて言葉を発した。

 

声までも似ている事にゼクスは驚くが、ややキーは高めだ。

 

二人はリリーナを挟んで握手を交わした。

 

リリーナは二人を見ながら今の安堵の心情を吐露する。

 

「ライトとお兄様がこうして握手を交わされる日が来るなんて……夢の思いでした……」

 

「私もまさかリリーナの想い人と握手するとは思えなんだ」

 

「お兄様!私は乙女なんですよ。表向きに発言なさらないでください。というより、せっかくの再会なのに実の妹をからかわないでください」

 

「これはすまないな……ふふ、勝ち気に育ったな!リリーナ。ライト君、これからもリリーナをよろしく」

 

「はい、ミリアルドさん」

 

三人で語らうその光景を事後処理任務中のミスズがみつめる。

 

(ふふ……10年ぶりの再会だ。明らかに任務をサボっているが、妹のリリーナに免じて不問にしてやる)

 

「ミスズ特佐」

 

トレーズがミスズを名指しで呼ぶ声。

 

ミスズは凛とした長い髪を振りなびかせながら振り向き、敬礼をする。

 

「はっ!!なんでしょう?トレーズ閣下」

 

「事後処理任務ご苦労。突然私的質問で失礼するが、ゼクスが気になるのかな?」

 

「え?!そ、それは……任務中に失礼致しました!!」

 

「いいんだ。ミスズ特佐。君も兵士である以前に一人の女性だ……ゼクスへの想う行動に異論はない……いや、今はミリアルドと呼ぶべきか。彼は今、約十年ぶりに妹君と再会している。兄妹の時間を配慮するのがよい」

 

「はい……私も同感です。お気遣いありがとうございます、閣下」

 

「ミスズ特佐も少しは力を抜きたまえ。このオペレーションはほとんど成功を成し遂げ続けている。少なくともサンクキングダムを奪還した事は事実だ」

 

トレーズからの予期せぬ気遣いに唖然としてしまうミスズだったが、吹き始めた風に髪をかきあげ、ゼクスに再び視線をおくる。

 

「ここから世界は革新していくのですね……我々OZによって」

 

「左様だ。ミスズ特佐、これからもよろしく頼む」

 

「はっ!!」

 

トレーズは頷くと空を見上げ、宇宙で闘う同胞達に敬意を表しながら想う。

 

(この闘いは、今後の宇宙世紀の歴史の流れを変える為の闘いだ。今の今までではやがて人類の歴史は衰退してしまう。しかし……宇宙からは不穏な予兆を感じてしまう。何故か?恐らくは……『彼ら』の存在か?)

 

意味深なトレーズの心の語りと共に向けられた空への眼差し。

 

その遥か彼方のアクシズαの戦闘エリアにおける戦闘は、終結をみていた。

 

だが、異様な状況が立ち込めていた。

 

ガンダムデルタカイを中心に連邦やネオジオンのMSの無数の残骸が漂っており、ガンダムデルタカイ1機でほとんどの連邦とネオジオンの戦力を破壊していたのだ。

 

だが、そればかりではなかった。

 

微動だにせず宇宙の中で漂うガンダムデルタカイのコックピットで様子に異変を見せるリディの姿があった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ぐっ……俺はっ……ぐはぁっ……!!」

 

『リディ、リディ特尉!!応答して!!リディ!!』

 

コックピットにはリディを呼び続けるミヒロの声が響いていた。

 

「っ……!!!俺は……一体……否、こいつのシステムはっ、なんなんだ!!?」

 

リディは酷い倦怠感と自身が体験した不気味なシステムに恐怖を覚えていた。

 

ミヒロの声に返答すら忘れてしまうほどの精神的な衝撃がリディを縛り付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデス発動より一日が経過した。

 

電撃展開が効を成し、地球の殆どはOZの支配下となった。

 

だが、広大な宇宙においては、依然として連邦勢力の抵抗が続くエリアも少なくはなかった。

 

あるコロニーには連邦軍が籠城して攻防戦を展開し、またあるコロニーでは各宙域から集まった連邦勢力が基地の反抗奪還戦を展開。

 

更にある資源衛星では連邦軍勢が占拠し、かつてのペズンの反乱を彷彿させる事態に発展していた。

 

ヒイロ達はその混迷深まる情勢下の中、ガランシェールを離れ、当初の目的地であるウィナー家のラボコロニーを目指す事に踏み切る。

 

ジンネマン達のつてで手配されたシャトルには、既にオデルやディック達が乗り込み、計機類や荷物、積み込んだ2機のガンダムジェミナスの格納常態等の様々なチェックを行っていた。

 

オデルはデータベースを片手にため息混じりにガランシェールに振り向いた。

 

そんなオデルに手伝っていたディックが尋ねる。

 

「どうした?オデル?」

 

「いや、ただな……あぁやって想ってくれる相手がいるっていうのは尊いコトだなってな……ふと想ったのさ」

 

「オデル……もしかしてトリシアのことか?」

 

「まぁな……MO-5でルシエやロガのおやっさん達と共に犠牲になった……」

 

オデルはマリーダやプルという想い人がいてくれるヒイロとアディンに亡きフィアンセのトリシアを思い出していた。

 

同時に幼なじみのルシエを失ったアディンの前向きな一面にも感心を抱いていた。

 

「俺達兄弟は……多くの尊い人達をMO-5に攻め混んだ連邦の手により失いった。以降、打倒連邦、OZ、MO-5を沈めたネェル・アーガマに囚われている。だが、アディンは今言った過去に囚われてはいるが同時に過去の囚われていない面もある」

 

「……俺も多くのメカ仲間を失った。確かにアディン、いつまでもルシエばかり引きずらず、今を噛み締めて前に進んでるよな。オデルは……」

 

「解ってるさ……トリシアもきっと前に進んでくれるコトを望んでるってな……今あるこの現実を進み、闘う。それが生きている俺がやるべき闘いだ」

 

 

ガランシェールを離れる前にアディンはプルに呼び止められつつも、しばしの別れにどこか心寂しさを感じていた。

 

だが、それ以上にプルは深刻なまでに寂し気な表情を浮かべていた。

 

「アディン……もう、コロニーに行っちゃうんだよね?」

 

「あぁ……体制立て直して、ECHOESやOZに反撃する為にな。それにこの情勢下、もしかしたらここから先は激戦に激戦が続くかもしれねー」

 

「……できれば、アディン達を今ここで止めたい。なんだか嫌な感じがするの。アディン達に会えなくなっちゃうような……!!!」

 

「おいおい……なんだかニュータイプからの言葉だと重いぜ、ソレ」

 

「ホントなんだよ!!ホントに……アディンに会えなくなっちゃうような感じがするんだ……」

 

いつにない程のプルの深刻な表情と口調、更にこの混迷が流転する情勢下やECHOESの暗躍とこれから真っ向からぶつかる手前故に、真実味を伺ってならなかった。

 

「こんな情勢下だけどよ……俺達は、プル達はもちろん、コロニーや資源衛星で暮らす人達全員を想って、その為に闘ってる。コロニーのみんなからどう思われてもそれでも正しい道と感じて……二度と大切なモノ失いたくないからさ……だから俺達は行く。それに……」

 

アディンは閉まっていたガンダムジェミナスのマスコットを取り出した。

 

以前にプルがアディンにプレゼントした手作りのマスコットだった。

 

「こいつもあるからな……絶対に会えなくなったりしねーよ」

 

「アディン……!!!」

 

「おわ?!!」

 

プルはアディンにしがみつくように抱き付く。

 

これまでのプルの唐突な抱きつきとは違うなにかを抱き付かれた感覚からアディンは察した。

 

プルが心底からアディンと離れるのを拒んでいた。

 

アディンはかつての幼なじみであり彼女であったルシエからも同じように抱き付かれたことを思い出す。

 

MO-5に攻めいるMSを迎え撃つために、Gユニットリーオーで出撃しようとしたとき、今のプルと同じような想いでアディンに抱き付いてきたのだ。

 

プルとルシエが重なる。

 

アディンは自然にプルを抱いた。

 

抱いたプル自身も驚きを混ぜた嬉しさにかられ、瞳を大きくさせる。

 

「サンキューな……プル。今のプルの想いの重さが伝わるぜ……」

 

「アディンっ……アディンっ……!!!」

 

更に抱きしめてくるプルにアディンは頭を撫でながら言って見せる。

 

「ニュータイプの勘ってやつが俺の身の危険を教えてくれてるんだったら、俺はそいつを覆してきてやる。だからプルはパラオに行けばい……いや、帰って待っててくれればいい」

 

「……やだっ―――なーんてっ!じゃあ、あたしは待ってるよ、アディンの帰り!」

 

「へへ……イー子にして待ってろよー、プルちゃん!よしよし!」

 

「もー、子供扱いしないでよー!!」

 

「いや、子供じゃんか」

 

「アディンも少年でしょっ!!」

 

「うっさいなー、プルは大体12、3歳だろ?子供、子供!!」

 

「じゃー、その子供相手にキュンキュン、ドキドキして抱きしめたのはナゼかな?少年!」

 

「あぁ?!ったく、なんか急に空気砕けてきたぜ!!」

 

「アディンがあたしを子供扱いするからだよ!!あたしだって、少なくともココは大人なんだから!!」

 

「へ!!?え、おいっ―――」

 

流れがいつものコミカルな空気になる中、プルはそう言うとアディンの手を掴みながら自らアディンの手を胸に押し当てた。

 

「&☆@$¥;:@#%~っっ!!!!」

 

「へへ!」

 

「……―――~『へへ!』じゃないっっつーの!!!」

 

一方、ヒイロは人体実験の重い反動にたおれたマリーダに、しばしの別れを告げに来ていた。

 

だが、マリーダは未だに余談を許さない状況下にあり、危険であることは変わりはない。

 

それでも今こうしていられるのは、ヒイロ達の懸命な応急処置があったからこそだ。

 

ベッドに横になりながらマリーダは薄い意識の中でヒイロの言葉を聞きとる。

 

「マリーダ。俺達はガランシェールから離れる。そして、カトルの家が保有するコロニーで体制を整え、俺達を崩壊させたECHOESを叩く為に討って出る。せっかく再会できたが、すまない……」

 

「……そうか……ヒイロっ……私こそすまない、っく……せっかく再会したっていうのに、こんなカタチに……!!」

 

「マリーダ、謝る必要はない。そして、無理に喋らなくていい。理不尽な強化でかなり体が酷使されていたはずだ。どんな形であれ、俺はマリーダとこうして話せているだけでも励みになる」

 

ヒイロは苦し気なマリーダの手をとって握る。

 

マリーダはヒイロの想いを感じながら、初めて純粋なキスを交わした瞬間をフィードバックさせた。

 

「ヒイロっ……お前は初めて異性を想える感覚をくれたやつだ……そんなヒイロにそう言われたら……私の励みもそれになる。うっくっ……!!」

 

「何度も言わせるな。無理に喋る必要はない。また再会した時に、全快した時に話せばいい」

 

「……わかった……だが、ヒイロ。もう一度あの時と同じようなキスを交わさないか?」

 

マリーダはヒイロに握られていた手を軽くほどき、ヒイロの頬に移してキスをねだった。

 

「……了解した」

 

ヒイロは触れたマリーダの手を握り、顔を彼女へと近づける。

 

二人はゆっくり瞳を閉じてキスを重ね合い、互いに重ねた唇から通じ合う想いを感じ、それを確かめ合った。

 

ヒイロ自身もこれ程異性を求めたことはなかった。

 

似た境遇の者が廻り合い、惹かれ合う事の不思議さと嬉しさを深く感じ合った。

 

キスを終え、顔を離すと、マリーダは再びヒイロの頬に手を当てて言ってみせた。

 

「ヒイロ……必ず生きろ……そして、ガンダムに乗り続け、世界がどんなに否定しようと信念を貫け……私からの任務だ……」

 

「あぁ、無論だ……俺は闘い続ける」

 

「それと……これは……わ、私のわがままだ。パラオに来たら、私にアイスクリームをおごれ……」

 

「ふっ……素直に言え、マリーダ」

 

「生意気だ……相変わらず……ふふっ、わかった……私はヒイロと一緒にアイスクリームを食べたい……いいか?」

 

「あぁ……それも了解した」

 

「うくっ……かはっ……っう、うぁあああっ……!!!」

 

「マリーダ!!くっ、待ってろ!!!」

 

穏やかな時が終り、マリーダは再び強化反動に苦しみ始めた。

 

ヒイロは即、再び応急処置に動いた。

 

 

 

そして、ヒイロ達はいよいよガランシェールを離れる。

 

シャトルから遠ざかるガランシェールにこれまでの日々の記憶を重ね合わせて振り替えるヒイロ達。

 

それはジンネマン達も同様であった。

 

志しを同じくする者達が互いに敬意を籠めて離れていく。

 

プルはガランシェールの一室から窓に手を当て、切ない表情を重ねながら笑う。

 

そして、再び意識を無くしたマリーダは眠りながらその時に身を委ねる。

 

ヒイロはガランシェールの船体に眼差しを集中させ、心中の中でマリーダに別れを告げた。

 

(マリーダ……俺は必ず再会する。それまでには身体を治せ。そして生き延びてくれ。ここからは俺の闘いだ。さようなら、マリーダ)

 

 

 

 

 

 

オペレーション・プレアデスより四日が経過し、ヒイロ達やマリーダ達も各々の場所に身を置いていた。

 

そして、新な年・宇宙世紀0096が迫るものの、依然として連邦軍勢力の一部が抵抗を続けていた。

 

それは宇宙世紀の歴史自体が歴史の流れに抵抗しているかのようであった。

トロワは、データベースで現状把握の為に地球圏エリアの情報を閲覧する。

 

(現在、資源衛星MO-3とコンペイ島、ルナ2が主な戦場か……いつまで持つのかは時間の問題だな……まるで時代に抗うかのようだな。ECHOESの動きはどうだ?)

 

トロワは更に情報を探り、ハッキングを開始。

 

数分で現在のOZの情報に到達し、ECHOESの情報も探り当てる。

 

(ECHOESはコロニーに点々と拠点が置かれている……完全にOZ宇宙軍の傘下に入っているようだ……ん?幾つかの拠点が破壊されている情報が……恐らくは、あいつか……)

 

トロワが心中でそう言いながら十中八九の推測をしていると、カトルに似た少女がコーヒーを差し出してきた。

 

「はい、トロワ」

 

「すまない、カトリーヌ。頂く……」

 

トロワはカトリーヌに差し出されたコーヒーに手をつけて一息を入れる。

 

カトリーヌはエナにも似た一つ下のカトルの唯一の妹だ。

 

兄に似てトロワとも人間関係の相性が合うようで、自然な振る舞いを見せる。

 

ラボコロニーの周辺にあるコロニーのハイスクールに通う学生だ。

 

宿舎施設もある為、普段はそのコロニーに住みながらハイスクールに通っている。

 

この日はカトル達の帰還を知り、休日を利用してラボコロニーに里帰り感覚で帰って来たのだ。

 

「皮肉なものね……倒そうとしていたOZに連邦を倒されるだなんて……」

 

「デュオも同じ事を言っていた。だか、そのような現実は些末なものだ」

 

「相変わらず落ち着いた冷静意見ね。大人っていうか何て言うか!」

 

「お前は子供だろ?とにかく今は刻一刻と変わる情報に意識を配る事が先決だ……すまない、おかわりを頼む」

 

「はやっ……もっと味わってよね……はぁ……子供って言うけど精神年齢はトロワと変わらないよ?むしろ上かな?」

 

呆れたようにも、嬉しそうにも思える表情で、こぽこぽとコーヒーを継ぎ足すカトリーヌ。

 

「そうか。それは失礼したな」

カトリーヌは、コーヒーを継ぎ足しながら次なる年が来る事に想いを馳せた。

 

「わかればよろしい……はぁ……もう0095が終るね」

 

「闘いはずっと続くがな……ん?何を飲んでいる?別に構わないが……」

 

トロワは、さりげなくトロワのコーヒーを横取りして飲むカトリーヌにも冷めたように受け流すが、それでもカトリーヌはどこか嬉し気である。

 

「ちょっと飲みたくなったの。ボク、ブラック派だから」

 

「微妙に理由になってないが……」

 

「はいはい、情報収集続けなさい」

 

「ふっ……敵わないな。カトリーヌには」

 

「それはどーも」

 

親しげに会話を交わすトロワとエナはラボコロニーの一室で一時の穏やかな時を過ごす。

 

L4コロニー群にあるウィナー財閥が保有するX-21832コロニー。

 

通称ラボコロニーでは極秘裏にメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムのバックアップを担っており、ガンダムのアッセンブリーパーツの生産や管理、開発、ガンダムのメンテナンス等を可能としていた。

 

更には新たなガンダムの設計開発も可能な施設であり、実際に開発されたウィングガンダムのリメイク機も保管されていた。

 

全体的な役目は組織崩壊時のバックアップである。

 

正に今がその状況下であった。

 

余談ではあるが、カトル達の父親であるウィナー家当主は頑なな平和主義者故に、このコロニー自体が身内上においても極秘である。

 

理解あるカトルの姉達が中心に運営しているのだ。

 

一方の着任したヒイロは新たなウィングガンダムのセットアップに勤しんでいた。

 

コックピットに座りながらひたすらデータベースを操作してセットアップに集中する。

 

そこへデュオがハッチの上から顔を覗かせた。

 

なんとも久しぶりのやり取りであることに、デュオはどこか楽し気だった。

 

「ヒイロー!!いつまでセットアップしてんだー!?メシ食おーぜ、メシ!!ここのラボの料理、全部カトルん家の提供品だからマジうめーんだぜ!!」

 

「まだキリが悪い。食いたいなら食いに行ってこい」

 

「つれねー!!ってのは今に始まったわけじゃねーけどなっ!しっかし、自爆から生還するなんてよ!!!スゲーぜ、お前は!!!体がガンダニュウム合金じゃねーのかぁ!!?ヒイロ!!」

 

ヒイロはそれについて何も突っ込まずにデータベースを操作し続けるが、デュオは構わず喋り続ける。

 

「でもま、今こーしていられるんだからな!!ありがたい運命だぜ!!今がよけりゃ全てよしってか!!このやりとりだってスゲー久しぶりだからなー!!ところでよ、ヒイロ!!」

 

「なんだ?」

 

「ウィングゼロ……動かすなら今じゃねーか?!!開発してくれたとは言え、なんでこっちの機体いじってんだよ?!この情勢下を一網打尽にすんなら今がチャンスだろ?」

 

するとヒイロは、データベースを操作する手を止めながらデュオに言った。

 

「あの機体の性能は世界を狂わす。適正能力があるとは言え、暴走の可能性が無い訳じゃない。あくまでも最終兵器だ」

 

「そーかぁ~!!?十分使い時だと思うぜ?!!ヒイロが早く使わねーとまたカトルが先に暴走しちまうぞ!!!」

 

「どういう事だ?」

 

「ロニの件で色々あってよ……話せば長い!!一言で表すなら、やっかいなガンダムにロニが拉致され、そいつに彼女を二つの意味で奪われて……ダメだ、一言で言えねー!!とにかくそのショックと強力無二な力を欲して暴走しちまったんだよ!!ま、今はカトルのお姉さま達と見つかったロニの約束のアクセサリーのおかげで収集はついたんだけどな!!」

 

「そうか。あいつがな……」

 

ヒイロはカトルの環境とつい最近の自分とを重ねる。

 

想いを寄せる人が巨大な組織に拉致され、その上で理不尽な人体実験の被験者に、挙げ句には強化人間の男に奪われ(様々な意味合いで)てしまったのだ。

 

心優しく極めて純粋なカトルには余りにも過酷であった。

 

しかし、イリアやエナを始めとした多くの姉達やまだ姿を見せてはいないが、妹であるカトリーヌの存在、そしてトロワ達の支えからカトルは本来の状態を取り戻していた。

 

更に決め手であったのは、いつかのロニとの約束を籠めたアクセサリーの存在であった。

 

様々な状況に囚われ、忘れてしまっていたモノでもあり、デュオいわく、なくしていたモノであった。

 

ガンダムサンドロックのコックピットの片隅から見つけ出したそれを手に、カトルはコックピットのシートに座り、想いを落ち着かせ続けていた。

 

「ロニ……ごめん……君が作った大切なアクセサリー……なくしてしまっていたよ。きっと、僕は怒られるんだろうね……」

 

握るアクセサリーを更に握るカトル。

 

これまでの想いを巡らせた。

 

哀しく、苦しく、切ない。

 

だが、今は穏やかな境地に至っていた。

 

同時に怒り狂っていた自らを客観視し、改めてゼロの力をあの時の自分が使っていたらどうなっていたかを想像する。

 

「システムに以前に触れた経験から考えてみると、僕は恐らくはゼロの生体端末に成り果てていただろう……そしたら、もっと多くの存在を失っていたのかも知れない!!!」

 

ぐっと自らを見つめていたカトルに声が飛び込んだ。

 

「おい、カトル!!瞑想は終わったかぁ?ヒイロもキリになったからメシいこーぜ!!メシ!!」

 

デュオの声だった。

 

カトルが顔を上げると、ハッチの外に腕組みしたヒイロと来いよと手招きするデュオが立っていた。

 

「デュオ!!うん!!」

 

コックピットから出たカトルにデュオが瞑想の結果を聞きただす。

 

「どーだ?瞑想してなんか得たか?」

 

「め、瞑想って訳じゃないけど……まぁ色々想えたよ。特に、ロニからもらったアクセサリーから!彼女には……本当に感謝しなきゃね」

 

手に下げたアクセサリーを見せるカトル。

 

デュオはカトルがようやく本来のカトルに立ち戻った事を確信した。

 

「そして、デュオやトロワ達のおかげでもあるよ。ありがとう」

 

「……ま、その顔できりゃ安心だっ!なぁ、ヒイロ?」

 

「俺はその時のカトルを見ていない」

 

「あ、そーだったか!!ワリィ、ワリィ」

 

「だが、話はデュオから聞いた。俺から言えるのは、感情で行動することは確かに正しい選択だ。だが時として判断を誤れば暴走になる。お前がやった瞑想は今後の暴走を防ぐ為にもなる。まずはゼロに頼るな。自分と機体を信じろ」

 

「ふふっ、エナ姉さんにも言われたよ。もう大丈夫だよ僕は!サンドロックを信じる!!」

 

ヒイロはそのカトルの言葉と表情に、僅かに口許に笑みを伺わせた。

 

「カトル兄さん!」

 

続いてカトリーヌの声がカトルに届き、彼を呼ぶ。

 

トロワと共にMSデッキを歩いていた所からカトルへ駆け寄る。

 

「カトリーヌ!!ハイスクールから戻ってたのかい?!」

 

「ええ!ついさっきね。でも先にトロワに会いに行っちゃった!ずっと何年も会えてなかったから!」

 

カトリーヌは舌を可愛らしく出してみせる。

 

「もう……しょうがないですね、カトリーヌは。トロワ、よろしく頼むよ」

 

「カトル……かなり話が苦しいが……いつの間にかカトリーヌがコーヒーを入れてくれていただけだ」

 

するとデュオはちゃちを入れるようにからかう。

 

「お兄さん公認かよ!!羨ましいねー……しかし、カトルに妹がいたなんてな!今まで知らなかったぜ。トロワは何で知ってるんだ?」

 

「俺とラルフがウィナー家に行き着いた時から知っているからな。だがそんな話よりも現状の話だ。データベースで調べたが、この混迷の情勢下で幾つかのECHOESの拠点が何者かに攻撃されている事が記録されていた。連絡は来ていないが、おそらくは五飛がやっている」

 

「連絡よこさねーとこがまた五飛らしいぜ。そーいやーアディン達は?」

 

デュオがアディン達の所在を気にかけると、トロワがそれを答えた。

 

「アディン達は兄弟で戦闘シュミレーターに徹していた。食事ならば俺達だけで済ましてきていいようだ」

 

「熱心だなー……ま、やっておいて損はねーけど」

 

デュオの声の後で、ヒイロは2機のガンダムジェミナスがリフトオンしているMSハンガーに視線をやる。

 

カトルもそれを見て、今いる皆にシュミレータートレーニングを推進することを伝えた。

 

「僕達も食事を済ましたらシュミレータートレーニングをしましょう!!この情勢ですからいつ敵に攻められても身構えれるように!!」

 

提案指示を促すカトルを見たトロワは、再び本来のカトルに立ち直った事を改めて確信した。

 

「そうだな。ここでの油断は命取りだ。カトルの意見は最もだ。俺達は戦闘のプロフェッショナル故に油断もできてしまいかねない(それでこそカトルだ。よく立ち直れたな)」

 

トロワが心中でカトルをささやかに賞賛すると、カトリーヌが少年達に割り込みをかけ、小悪魔チックに言って見せる。

 

「じゃーボクはエナ姉さん達と差し入れに来ようかな!もちろん、ボクはトロワに!」

 

「あぁ、頼む」

 

「いやいや……トロワが色気付いてたなんて、って冗談!!そーと決まったらメシ、メシ!!」

 

ごまかしながらトロワの視線を避けるデュオを見た後にヒイロはガンダムジェミナス01を見つめた。

 

(それがお前の感情の行動か……アディン)

 

コックピット内では、鋭い眼差しでシュミレーターに集中するアディンとオデルの姿があった。

 

ガランシェールから持ち帰った何かにアディンとオデルは後押しされていた。

 

資源衛星パラオ

 

 

ガランシェールがパラオ内の宇宙港に到着した。

 

宇宙港関係者達は現在、皆がネオジオン関係者であり、和気あいあいとジンネマン達の帰りを祝福する。

 

「ジンネマンの旦那が帰って来たぜ!!」

 

「長いこと出払ってたからな~!!このご時世の中をよくぞ無事に帰ってこれたな!!よかった!!」

 

「マリーダ探し出すって言って帰って来たなら、マリーダみつかったのか!!?こいつは祝杯だな!!」

宇宙港施設管理室内が盛り上がるが、モニターに映ったジンネマンの言葉と雰囲気で一変する。

 

「盛り上がってくれてる所悪いが、こっちはそれどころじゃない!!!マリーダが危ない!!!大至急ドクターマガニーとハサンに繋いでくれ!!!」

 

「マリーダが!!?重症なのか!!?」

 

「連邦の連中に余計な強化されちまったっ!!!早く繋いでくれ!!!!」

 

パラオへと帰還を果たしたジンネマン達だったが、ある意味無言の帰宅をしたマリーダの処置に追われていた。

 

マリーダはパラオへ向かうに従い、次第に体が強化の反動に耐えかね、マリーダは昏睡したまま更に衰弱してきていた。

 

そのマリーダにパラオ在住の二人のドクターが、容態回復の為に動く。

 

年老いてはいるが、未だに現役のドクターマガニーと元エウーゴの軍医であるハサンとその助手が、特殊なCTスキャンのような装置で意識を失ったマリーダのを調べていた。

 

「ドクターマガニー……これは!!?」

 

「うむっ……!!!かなりの過剰かつ強力な強化を施されてしまっているな!!!未知の薬品も検出されている!!!」

 

「体がその反動に耐えきれずに限界を迎えつつある状況であるのは間違いない!!!メテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムパイロットが応急処置をしてくれていなかったら手遅れになっていたかもしれない……ドクター!!!」

 

「あぁ!!!わかっとる!!!」

緊迫感が溢れる中、二人のドクターの処置が始まった。

 

その最中、プルやジンネマンは待つしかなかった。

 

ジンネマンは固唾をのみながら懸命に待ち、プルは記憶上初めて来る資源衛星内の不思議な空間の感覚に触れ、時折見上げながら待ち続ける。

 

「マリーダ……」

 

「プル……無理をしなくてもいいんだぞ。パラオの中珍しいだろ?ギルボア達と一緒に出かけてきても……」

 

本来ならば、初めての宇宙や資源衛星にはしゃぐ姿が自然なはずのプルにジンネマンは現在の状況を把握した上で言った。

 

だが、プルは少し大人びた言葉をかえした。

 

「パパ……ありがとう。でもあたしはマリーダを待つよ。あたしの妹なんだもん……確かにあたしはマリーダより年下だけど、あたしはお姉ちゃんだから……マリーダが危ないのにはしゃぐなんてできない。マリーダがよくなったらみんなで行こうって思ってるよ」

 

「そうか……わかった」

 

ジンネマンはプルのその意思を汲み、再び手術にも似た緊急処置の時間を待ち続けた。

 

その間に幾度かマリーダの叫びが聞こえ、その度に同調したプルが苦しみだし、ジンネマンはなだめ続けた。

 

そして、二時間が経とうとした頃、ドクターマガニーとハサンが緊急処置を終えて処置室から姿を見せた。

 

ジンネマンとプルは直ぐにドクターマガニーとハサンに駆け寄り、マリーダの安否を問い質した。

 

「ドクター!!マリーダの容態は!!?どうなったんです!!?」

 

「マリーダの体は大丈夫なの!!?まだ苦しい感じがしてくる!!!」

 

「何とか一命はとり止めた。だが……余りにも酷い状態だった。マリーダの身体は全身が未知の強化薬品に蝕まれていた。筋肉も内臓も……そして脳までも……今後も後遺症が引き起こるかもしれん!!!」

 

「な……後遺症!!?」

 

ドクターマガニーの言葉の後に、ハサンが診断データをジンネマンに手渡した。

 

「昏睡さえも破ってしまう程に全身に激痛を伴う後遺症、シナプスシンドローム。かつて強化を超越した被験者に見られた後遺症だよ……マリーダの診断書だ、ミスタージンネマン!!」

 

「こ、これは?!!」

 

そこに記載されていた事はマリーダの余りにも酷い身体状況であった。

 

ジンネマンの心の中で、マリーダを蝕む理不尽に対する怒り哀しみ暴れる。

 

ハサンは診断書を見ながら様々な感情に震えるジンネマンに心を痛ませる。

 

「ミスタージンネマン……我々も治療は継続させていくが、未知の薬品相手の治療だ……かなりの忍耐との闘いになる」

 

「無論だ!!!今後もマリーダを頼む……っ!!!」

 

「あ……あたしからも……お願い。マリーダを助けて」

 

ジンネマンのその言葉に続くように、感応的な苦痛にみまわれていたプルも、マリーダの身を案じながら頼んだ。

 

マガニーとハサンは数度頷きながら、マリーダの治療尽力を固く決めた。

 

特にマガニーは第一次ネオジオン抗争の時に当時のプル達の担当医だったこともあり、より想いを固くする。

 

(皆死んでしまったと思われとった彼女達を、今こそ救わねばならん……!!フロンタル派と離別した今、もう彼女らを兵器に仕立て上げるわけにはいかんのじゃ!!)

 

その直後、プルは再び身体に感応異常を示して苦しみだす。

 

それはマリーダにも同じコトが起きているコトを意味している。

 

「うぁあああっ……苦しいっ……またマリーダがっ……きゃあああああああっ―――!!!」

 

「プル!!!」

 

そして、プルの悲鳴の直後に医務室から悲痛なるマリーダの悲鳴がこだました。

 

マガニーとハサンは再び処置に入り、遂にはプルまでもが、壮絶な感応苦痛に気を失う。

 

抱き抱えたプルをベッドに寝かせたジンネマンは、彼女達を苦しめた元凶たる存在に怒りを露にし、歯ぎしりをしながら握りしめた拳を壁に打ち突けた。

 

 

 

宇宙世紀0096。

 

新たな年が幕を開けた。

 

そして、オペレーション・プレアデスから始まったOZ宇宙軍と連邦艦隊の攻防は最終局面を迎える。

 

旧ソロモンであるコンペイ島を最終拠点にしていた連邦艦隊に対し、ディセット特佐率いるOZ宇宙要塞バルジ及びOZ宇宙軍と、ダグザ大佐率いるECHOESの混成攻撃部隊が投入され、それまでに固くなな籠城をしていた連邦サイドが一網打尽されていく。

 

この戦闘にはガンダムデルタカイ、アスクレプオス、ヴァイエイト、メリクリウス、リゼル・トーラス部隊、ECHOESジェスタ部隊、ECHOESジェガン部隊も投入されており、徹底的に連邦を叩き潰す意思表示が示されていた。

 

既存の連邦のジェガンやリゼル、ジムⅢはその圧倒たる攻撃と性能に次々に撃破され、クラップ級艦隊も同じように撃沈されていく。

 

そして、荒ぶる激戦の最中、バルジの砲門がコンペイ島へと向けられた。

 

「バルジ砲、発射!!!」

 

ディセットの声の指示の流れにバルジ砲に超高出力の大型ビーム渦流が発射され、その真紅の渦が幾多の艦隊やMS部隊を消滅させながらコンペイ島へと直撃した。

この戦闘により、抵抗していた連邦勢力が壊滅し、地球圏は遂にOZが掌握するカタチとなった。

 

用意周到に画策された世界情勢操作とも呼べるオペレーション・プレアデスの真髄が成され、OZを中心とした政権に変わったのである。

 

連邦の時代が断ち切られ、新たにOZの時代が到来し、トレーズから任を任されたディセットによる政権交代宣言が、地球圏に一斉配信された。

 

「宇宙世紀0096。これまで古き流れを固持し、宇宙世紀の時代たる時代を支配してきた地球連邦政府は、我が組織OZが歴史から退かせた。確かに我々は元より地球連邦の一部であった。だが、地球連邦の時代はこの先の宇宙世紀の未来をやがて墜落させかねないと感じた我々は、歴史の流れを変えるべく行動をした。宇宙の民の弾圧、非人道な人体実験という地球連邦が侵し続けた過ちは、宇宙世紀の歴史の大半をその闇に染めた。我々OZは、そのような歴史的な過ちを正すため、人類を正しい歴史の流れに乗せていく為に動いた!!!これからの歴史は、我々OZと共に!!地球圏を一つに邁進する事を願って止まない!!」

 

そのディセットの演説は、偽りの説得力を生む。

 

そして、それはOZによるメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダム攻撃の流れへと変わっていく。

 

以前の情報操作でメテオ・ブレイクス・ヘルのガンダムを敵視したコロニー居住者達が、OZを攻撃の対象としたガンダムを再び敵視する流れに変わったのだ。

 

それはディセットを始めとするOZによる情報戦略であり、ディセット自身もECHOESと連携し、彼らの殲滅に動きを見せていた。

 

バルジ内の作戦室に表示されたL4エリアのデータマップを見ながら、演説を終えたディセットとダグザが本格的なガンダム掃討作戦を実行段階に移そうとしていた。

 

「L4コロニー群X-21832。表向きには一般の大企業コロニーだが、輸送船を装った我がECHOES隊員からはやつらの整備施設兼開発施設のようだと連絡があった」

 

「間違いないか?」

 

「我がECHOES隊員の捜査だ。間違はない!!!このコロニーこそがやつらの拠点だ!!!」

 

「それは失敬だった。ではこのコロニーへ徹底制圧をかける。ガンダムは我がOZのMD部隊と特殊攻撃部隊をぶつけ、内部はECHOESで制圧を図る。ガンダムの鹵獲とメテオ・ブレイクス・ヘルのデータ収集と完全壊滅が目標であり、不可能であるならば破壊するまでだ。今の我々ならば可能な火力と戦力を有している。先に部隊は編成済みだ。我々は今からでも用意がある!!」

 

「我々も同じく……では決まりだな」

ディセットとダグザは別のモニターに視線を送り、その目に殲滅の意を表す。

 

そして、バルジからOZとECHOESの混成攻撃部隊が出撃していく。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……ガンダムを、全てのたてつく存在を破壊する……!!!このデルタカイでっ!!!偽りのガンダムを殲滅する!!!」

 

特別攻撃部隊には、ガンダムデルタカイのシステムで人格が変貌しつつあるリディがいた。

 

並列するように航行するガンダムデルタカイに続き、いよいよ迫るガンダムとの戦闘に高揚するトラント、ミューラ、アレックスが、そして、バルジには再度宇宙に舞い上がったゼクスの姿があった。

「これが最後となるならば……私は一人の兵士として彼らの最後を見届けたい。そして、彼らの犠牲になった幾多の兵士達の鎮魂の為に決着を着ける……!!!」

 

次々と出撃していく攻撃部隊。

 

その先に拡がる宇宙空間には、メテオ・ブレイクス・ヘルの確かな滅びを表す何かが見え隠れしているようであった。

トレーズもルクセンブルクの夜空を見上げながらその予感を感じ、澄み渡る星々に囁きをなげかけた。

 

「あの宇宙の中に溶け込むガンダムの戦士達は……迫る運命にどう抗う?さぁ……闘い続けてくれたまえ……この時代に……」

 

 

 

 

To Be Next Episode




時代は連邦からOZの時代に切り替わった。

連邦からOZに寝帰ったECHOESはえげつないまでに反抗の可能性を叩き潰す。

五飛は反抗の火種を紡ぎ続けるそのECHOESの活動ポイントを転戦し続ける。

だが、シェンロンガンダムは長きに渡る機械的な疲弊を溜めていた。

一方、ラボコロニーでカトルの姉達や妹と共に体制の立て直しの日々を送っていたヒイロ達だが、ラボコロニーの素性を知った反戦思想のウィナー家当主、ザイードにラボコロニーの差し押さえを攻められる。

その最中、ラボコロニーの存在を突き止めたOZとECHOESは遂に本格的なメテオ・ブレイクス・ヘルの撃滅に乗り出す。

迫るOZはカトル達に追い討ちをかける現実を叩きつける。

かつてなき混迷にGマイスター達は抗いの出撃をしていく。

そして先に出撃したヒイロもまたバルジ破壊の為にウィングガンダムリベイクで進撃するのであった。

次回、新機動闘争記 ガンダムW LIBERTY

エピソード24 「ラボコロニー強襲」

任務……了解!!

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