○アバン・オープニング
明日夢N「鍛えて鬼になって人助けをする不思議な男の人、ヒビキさん。そして、イブキさんやトドロキさん。僕、安達明日夢の毎日は、そんな人たちと出会ったことで、変わってきました。今日も鬼の人たちの戦いは続いています。僕も、そろそろ自分の将来を真剣に考えなくっちゃいけないなあと感じてきましたが、なかなか難しいものです」
○オープニング曲『輝』
○サブタイトル
三十八之巻『迷える音撃』
○提供ナレーション 森絵梨佳
○浅間山
ジリジリとシュキを追い詰める裁鬼と轟鬼。
しかし、何故か響鬼はジッと空を見上げている……。
そして、後方で状勢を見つめるザンキ。
閻魔を振りかざし、シュキに斬りかかる裁鬼。
轟鬼もそれに続いて、烈雷を構えながら走る!
裁鬼「タァーーー!!」
轟鬼「ハッ! ハッ!」
裁鬼、轟鬼が二人で斬りかかる。
腕や背中を切られて後ずさりするシュキだが、その体の傷は瞬く間に治癒してしまう。
ザンキ「ダメだ! ヤツの体は既にテングそのものなんだ! 魔化魍には音撃しか通じんぞ!」
裁鬼「なるほど。しかもテングは夏の魔化魍とくる……、響鬼!」
上空を見上げていた響鬼、気持ちを切り替えるように烈火を構える。
響鬼「……よし!」
シュキに飛びかかる響鬼。
烈火の先端を次々とシュキにぶつけていく!
よろめくシュキ。
そして、音撃鼓をベルトからはずして構える響鬼。
しかし、一瞬躊躇して動きを止める。
シュキ、そのスキに響鬼を突き飛ばして上空へと飛び立ち、そのまま逃亡……。
立ち尽くす響鬼。
そこに近付く裁鬼。
裁鬼「おい響鬼、どうした!?」
響鬼「……いえ、すいません」
厳しい目で響鬼を見つめるザンキ。
○別の山岳地帯
ノツゴを前に、身構える威吹鬼。
威吹鬼、両手の甲から鋭い爪を伸ばし、ノツゴの足元に突進する。
しかし、攻撃する間もなく、その大きなハサミで威吹鬼の体はいとも簡単に弾き飛ばされてしまう。
威吹鬼「うわっ!」
地面に打ちつけられる威吹鬼。
威吹鬼「ふぅ……」
そこへ駆け寄ってきた二人の鬼。
闘鬼と勝鬼だ!
闘鬼「やっぱり、こっちだったか」
勝鬼「威吹鬼! 手を貸すぜ!」
威吹鬼「闘鬼さん! 勝鬼さん!」
威吹鬼、勝鬼の差し出す手を取って立ち上がる。
闘鬼「ノツゴとやんのは俺も初めてだが、なるほどこいつぁスゲェプレッシャーだな」
勝鬼「どう攻めますかい?」
闘鬼「うむ。コイツにゃ肉弾戦は通用しねぇからな。勝鬼、威吹鬼、まずは二人でヤツの口を開けさせるんだ!」
威吹鬼「分かりました!」
勝鬼「ガッテンだ!」
分散して走っていく威吹鬼と勝鬼。
右から威吹鬼が烈風で、左から勝鬼が台風で、ノツゴの口元めがけて射撃を開始する。
基本的には跳ね返されてしまう二人の射撃だが、何発か当たる度に口を開くノツゴ。
一方、闘鬼は、チューバ型の音撃管・嵐を肩に掲げ、ゆっくりと狙いを定める。
口を開いて、捕獲用の糸を吐くノツゴ!
素早く避ける勝鬼、そして威吹鬼。
慎重に狙いを定める闘鬼。
再びノツゴから吐かれる糸!
一瞬逃げ遅れた威吹鬼の足にその糸が絡みつく!
捕獲した威吹鬼を口元に引き戻さんとするノツゴ!
威吹鬼「うわっ!」
ノツゴの糸に捕まって、威吹鬼の体が宙に浮く!
闘鬼「ムッ! ……今か!?」
照準を合わせる闘鬼。
引っ張られる威吹鬼!
そこへ勝鬼がジャンプ!
鋭いカギ爪・風爪を手の甲から伸ばした勝鬼、その爪でノツゴの糸を切り裂く!
空中に放り出される威吹鬼!
その瞬間、闘鬼は嵐から大型の鬼石を発射!
鬼石はまっすぐノツゴの口元に伸びていき、ノドの奥深くに撃ち込まれる!
闘鬼「よし!」
音撃鳴・つむじを嵐にセットする闘鬼。
闘鬼「音撃射・風神怒髪!」
嵐を力強く吹く闘鬼。
雄雄しく鳴り響くその重い音色。
その波動が、ノツゴの体全体に伝道していく!
激しく振動するノツゴの全身!
そして……、爆発!!
闘鬼「フゥ……」
闘鬼、嵐から静かに口を離す。
座り込む威吹鬼、ノツゴの糸を足からはらっている。
威吹鬼の元へ駆け寄る闘鬼と勝鬼。
闘鬼「威吹鬼! 大丈夫か!?」
威吹鬼「はい、平気です」
勝鬼「なーに言ってんの、わざと捕まっといて」
威吹鬼「あ、バレてましたか?」
闘鬼「……ハーハッハッハッハッハッ!」
豪快な闘鬼の笑い声。
それを見てちょっと引き気味の威吹鬼と勝鬼。
○城南高校・屋上
金網越しに、外を見ながら話している明日夢とひとみ。
明日夢「……そっかあ。持田も知っちゃったわけか~」
ひとみ「うん」
明日夢「……ゴメンな。今まで黙ってて」
ひとみ「ううん! だって、大事な秘密だったんだもん。こんな大きな荷物、安達君はずっとしょってたんだね」
明日夢「え? いやあ……」
照れる明日夢。
ひとみ「天美さんにも謝んなきゃなあ、ヘンな誤解しちゃってさあ」
明日夢「え? 誤解って?」
ひとみ「え!? あ、いや、何でもないの! ……あ、ホラ、午後の授業、始まっちゃうよ!」
明日夢「ん、ああ……ちょっと!」
明日夢の手を引っ張って、校舎内へつながる階段に向かっていくひとみ。
○浅間山・ベースキャンプの地
手にハンドブックのようなものを持ちながら、立てかけた地図を見つめているあきら。
そこへ、顔だけ変身解除したイブキ、トウキ、ショウキが戻ってくる。
イブキ「ただいま」
あきら「(振り向いて)お帰りなさい! どうでしたか?」
イブキ「ああ、なんとか……」
言いかけたところでショウキが叫ぶ。
ショウキ「あきらちゃ~ん! 久しぶり!」
手を振りながら、あきらに近寄るショウキ。
あきら「あ、どうも……」
その後ろから、トウキもやってきて、
トウキ「やあ、あきらクン。こないだは大変だったね」
あきら「トウキさん、ご無沙汰してます」
会釈するあきら。
烈風をテーブルの上に置くイブキ。
あきら、イブキの動向を見て、テントの方へ歩を進める。
あきら「イブキさん、ひと休みしてください。お茶、入れます」
イブキ「あ、ああ」
ショウキ「え、何々!? あきらちゃんの入れてくれたお茶飲めんの? いやいや、ラッキーだねぇ、今日は!」
いつの間にか、椅子に座っていたショウキ。
あきら、ちょっと苦笑いしながらコップを準備し始める。
トウキ、イブキと目を合わせて微笑み、肩に掲げていた嵐を地面に降ろす。
《CM》
○たちばな・地下作戦室
机を囲む猛士の面々。
PCの前にはあきらと石割。
その後ろでモニターを見る勢地郎。
そして中央の机周りには、サバキ、ザンキ、ヒビキ、イブキ、トドロキが座っている。
勢地郎「今までの調査で分かったことは、まずシュキは、テングと合体した魔化魍となっていること。童子や姫だけでなく、人間もエサにしていること。で、出現場所は、何故か浅間山周辺五十キロの範囲に限られている、と」
サバキ「そして今は、ザンキの匂いを記憶しているというわけですね」
ザンキ「俺が囮ってわけだな」
心配そうに、ザンキの方を見遣るトドロキ。
勢地郎「で、テングの形態ということは、太鼓の音撃が有効、ということになるな」
サバキ「イブキ、トドロキ、バチの練習を怠るなよ!」
イブキ・トドロキ「はい!」
サバキ「……ところでヒビキよ、何故あの時躊躇した? 攻撃できない間ではなかったぞ?」
ヒビキの方を見遣るサバキ。
傍らで、ザンキはジッとヒビキを見つめている。
ヒビキ、真剣な表情で、
ヒビキ「……魔化魍に支配されているからといって、ホントに人間じゃないと思い切っちゃっていいんですかね」
一同、ちょっと驚いた表情。
サバキ「だが、ヤツは俺の呼びかけにも全く反応しなかった。既に、人間の心は失われているんだよ。何者かに体だけを利用されて……」
イブキ「一体、誰が……?」
サバキ「それは分からんが……」
ヒビキ、訴えるような眼差しで、
ヒビキ「俺たち鬼の使命は、人間を守る、ってことですよね。人助けする、ってことですよね」
サバキ「だから何だ」
ヒビキ「人間は……、守らなければならないんじゃ……って」
トドロキ「でもヒビキさん、仮に、ソイツをまだ人間とみなすとしても、鬼の力を悪用して人殺しをやっちまった人間ですよ? 同情の余地なんてないッスよ!」
ヒビキ「同情、とはちょと違うんだが……」
ここまで黙って聞いていたザンキが口を開く。
ザンキ「……ヤツは、復讐心を抱きつつも、その心を自らの意思の力で封じ込めて鬼の修行に没頭した。そして鬼になって武器を与えられた途端、自らの心の奥底から復讐心を呼び起こして犯罪を犯したわけだ。とてつもなく強い精神力だが、それは悪の力だ。……悪の力を断つことも、我々の使命なんじゃないか?」
沈黙する一同。
ヒビキ「……それは分かります。それでも、鬼としての使命を果たすってことがどういうことなのか? なんか、俺としては割り切れないもんがあるんですよね……」
またしても沈黙してしまう一同。
階段の途中では、お茶を持ってこようとしたが入ることができずに佇む日菜佳の姿が……。
○高速道路
石割の運転で走るサバキの専用車両。
助手席では、サバキが腕組みしている。
サバキ「石割、お前、分かるか? ヒビキの悩みを……」
石割「う~ん、そうですねぇ。なんとなく分かるような気がしますね、僕も。なんだかんだ言っても、人権を無視するってのは、裁判なんてやめろって言ってるようなもんですからね」
サバキ「ん~、俺は悪党はどこまでいっても悪党だと思うんだがなあ……」
石割「それも真理だと思いますよ」
ズルッと滑るサバキ。
サバキ「どっちなんだよ!? お前!」
石割「だから、こういう問題は難しいんですよ」
インターを降りて、浅間山の山道に入っていくサバキ車両。
○浅間山
ベースキャンプを張っているザンキとトドロキ。
ディスクアニマルを、一つ一つチェックするトドロキ。
なかなか当たりが出ない様子。
そこへ、ヒビキの不知火とイブキの竜巻が到着。
バイクから降りて、ヒビキとイブキがヘルメットを脱ぎながら歩いてくる。
イブキ「こっちはどうですか?」
トドロキ「……まだ異常なしです」
ヒビキとイブキ、自分のバイクから装備を取り出していく。
ヒビキの表情は、まだ硬いまま……。
一方で、ザンキが厳しい表情で崖っぷちまで歩いていく。
山間の風を感じるザンキ。
ザンキ「……ん? この気配は……」
後ずさりするザンキ。
ザンキ「……来るぞ!」
ザンキの声に振り向き、その場に身構えるヒビキ、イブキ、トドロキ。
と、上空から突如現れた黒い影が、やはりザンキの背後に舞い降りた!
シュキだ!
素早く転がり避けるザンキ。
ヒビキが音角を鳴らして額へ、イブキが音笛を吹いて額へ、そしてトドロキが音錠を鳴らして額へと持っていく。
三人同時に変身!
鬼と化した響鬼、威吹鬼、轟鬼、全員が音撃棒を持って、ジリジリとシュキに近付く。
轟鬼「……よぉ~し!」
シュキに飛びかからんとする轟鬼。
と、それを響鬼が烈火で遮って止める。
轟鬼「……響鬼さん?」
裁鬼「ここはイチバン、響鬼に任せよう」
いつの間にか背後にいた裁鬼が、威吹鬼と轟鬼に声をかける。
裁鬼「俺たちは、ヤツに逃げられんよう響鬼を援護するんだ」
響鬼、無言で裁鬼にOKサインを送り、ゆっくりとシュキに近付く。
響鬼「ハァァァァァァァ!」
烈火に炎を宿す響鬼。
そして、一直線にシュキに向かって走っていく!
響鬼「ハッ! ハッ!」
響鬼の烈火がシュキの体を打ちつける!
何度も何度も打ちつける!
その度に、次第に焼け焦げたように崩れていくシュキのテング体の皮膚。
シュキ、反撃して響鬼に喰らいつこうとするが、それを烈火で払いのける響鬼。
響鬼「ハッ! ハッ!」
なおも打ち続ける響鬼!
シュキの体中のテング体皮膚がどんどん剥がれ落ちていき、その動きも次第に鈍くなっていく。
響鬼「ハァーーッ!」
最後のひと振りをシュキの背中に打ちつけた響鬼。
シュキの体が炎に包まれ、その場にのたうち回る!
そして、やがてバッタリと力尽きたように倒れるシュキ。
炎が消え、テング体だったシュキの体は、火傷だらけの人間の姿のようになっていた。
その姿を固唾を呑んで見守る全員。
生きているのか?
死んでいるのか?
全く動かないシュキの体。
その時、上空に一台のヘリコプターが近付いてきた。
そして、ヘリはヒビキたちの近くにゆっくりと着陸。
中から、防護服に身を包んだ数人の男が出てきたかと思うと、手早い動きでシュキの体を回収し、ヘリに運んでいく。
勢地郎の手配した、吉野の医療スタッフたちだ。
最後に、一人の男がヒビキ達に敬礼をして、再びヘリに乗り込んでいった。
出発するヘリ。
去っていく本部のヘリを見上げながら、顔の変身を解くヒビキたち。
ヒビキ「人が、人を裁いていいもんなんだろうか。それが出来るのは、本当は……」
ザンキ「……『神』だけ、かもしれんな」
そのまま、上空を見上げ続ける全員……。
○三十八之巻 完
○エンディング曲『少年よ』
○次回予告
たちばなを訪れる明日夢とひとみ。
ひとみ「今日から、よろしくお願いしま~す!」
謎の洋館で話す男女。
男「実験は……、終わった」
たちばな地下で話す勢地郎たち。
勢地郎「吉野の予測が当たっているとすれば……、こりゃ結構、大変だなあ」
三十九之巻『始まる謀略』
○提供ナレーション 森絵梨佳